ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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チベット青年,ボダナートで焼身抗議

ボダナートで中国政府への焼身抗議をはかった青年(ツンドゥプ・ドプチェンさん?)が,2月13日夜,搬送先の病院で死亡した。ネパールでの焼身抗議死は初めて。

青年は,ボダナートの入口で灯油を浴び,火をつけ,対中国抗議スローガンを叫びながら50mほど走り,ストゥーパの近くで倒れ込んだ。病院に搬送されたが,助からなかった。警察によれば,青年はインドから来たらしい。

ネットには,誰が撮ったのか,炎に包まれ倒れ込むまでの写真が何枚も掲載されている。目を背けたくなるが,青年は世界に向け,炎に包まれ抗議する自分を見よと訴えている。辛くとも,目を背けてはならないだろう。

ネパールでの自由チベット運動については,中国がネパール政府に圧力をかけ,弾圧させてきた。これは,マオイストが地上に現れ,選挙で大勝し,最大の政治勢力になってからの方が,むしろ激しい。

マオイストは,人民戦争中は中国政府と敵対関係にあったが,停戦和平後は,中国に急接近した。いまや,中国政府に最も近いのはマオイストだといっても言い過ぎではあるまい。

ネパールにおける自由チベット運動弾圧については,以下参照。

ネパールにおける自由チベット運動弾圧
 2012年1月13日:バブラムバタライ首相(マオイスト),自由チベット運動弾圧
 2011年10月31日:亡命チベット人100人以上を逮捕
 2008年7月:自由チベット運動弾圧
 2008年3-4月:チベット系住民への性的虐待
 * その他,多数。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/02/14 at 19:11

カテゴリー: 外交, 民族, 中国

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新憲法枠組み玉虫合意

5月15日、主要4党が新憲法の基本枠組みに合意し、UMLの「挙国」政府参加と期限内新憲法制定が実現する運びとなった。まずはめでたい。

1.4党合意
■UML「挙国政府」参加
 ポカレル書記長が副首相として入閣

■統治機構
 大統領:国民直接選挙
 首相:議会選出
 国権の最高機関:議会 → 首相が大統領よりも大きな権限を持つ。

■議会
 連邦議会:376
      下院:311(小選挙区171、比例区140)
      上院:65(州議会選出5×11=55,内閣推薦により大統領任命10)

■州:多民族州、各民族平等

2.大統領と首相
この4党合意は、いつものように、苦し紛れの玉虫色合意である。第一に、大統領と首相の関係。国権の最高機関は議会であり、議会選出の首相の方が大統領よりも大きな権力を持つことになっているが、間接選挙の首相に対して大統領は直接選挙、うまくいくのだろうか。

大統領制は、いわば「選挙王制」であり、運用は難しいが、国家・国民の統合には便利である。玉虫色とはいえ、結果的には、今のネパールにとっては賢明な選択といえなくもない。

3.連邦制
もっと難しいのが連邦制。玉虫そのもので、「民族州」のような、そうでないような、よくわからない合意である。

「民族」によって州区画を要求しているのは、マデシ諸派やジャナジャーティ。反対がNCとUML。最大与党のマオイストは、バイダ派など急進派が「民族州」要求、プラチャンダ=バブラム主流派が日和見。結局、決着がつかず、どうとでもとれる玉虫色表現となった。

その結果、早くもマデシ諸派が11州案に異を唱え、14州にせよなどと要求し始めた。

4.マオイストが住民集会攻撃
「民族州」紛争の中心は極西部。「民族州」反対派住民がバンダ(ゼネスト)を開始し、19日目となった。交通遮断、官庁・学校・商店など全面閉鎖。これはすごい。電力15%カットなど、彼らにとっては天国での茶飲み話としか思えないだろう。

この極西部で、あろうことかマオイストが「民族州」反対住民集会を襲撃し、多数の負傷者を出した。労働者・農民の党マオイストが、最貧困地域の人民集会・住民集会を攻撃するとは!

理念政党が権力をとると、いかに恐ろしいか。左も右も同じこと。左は立ち枯れ、右がやたら元気なニッポン。ネパール政治から学ぶことは少なくない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/16 at 12:25

マオイストの憲法案(29)

第5編 国家の階層構造と国家権力の配分(2)

第62条 州の設立
(1)カースト,言語および地域を基準として,12の自治州を設立。

(2)州の名称と区画は付則(1)による。

(3)州名称の変更は,州議会が2/3の多数をもって決定し,これを連邦議会が2/3の多数をもって承認する。

(4)もし州名称変更が連邦議会で否決された場合は,当該州で住民投票を実施。

(5)州の合併や州境変更は当該州議会が2/3の多数をもって決定し,これを連邦議会が2/3の多数をもって承認する。

(6)(5)について,連邦議会の承認が得られないときは,当該州で住民投票を実施。

(7)(5)および(6)について住民投票が実施された場合,連邦議会は必要な憲法改正を実施。

(8)(3)(4)(5)および(6)に関する規定は,連邦議会で制定。

(9)州都は付則(1)による。州都変更は当該州の議会が決定。

▼付則(1)の連邦区画図

第63条 連邦の首都
(1)連邦の首都は連邦政府が決定。

(2)首都は連邦議会の2/3の多数をもって変更できる。

第64条 地域自治体および地区の設立
(1)地域レベルの政府は,村評議会(ガウンパリカ)と市。

(2)州内の自治体の数と区画の基準は,連邦政府が決定。住民の均質性,地理的・行政的利便性,人口密度,交通,自然資源,文化および共同体を考慮する。

(3)州内自治体の名称,数,区画は州議会が2/3の多数をもって決定。

(4)州政府設立後,1年以内に州内自治体を設立。

(5)(1)の自治体設立までは,現行自治体が存続。

(6)その他,必要な規則は州法により制定。

第65条 特別機構に関する規定
(1)州内のアディバシもしくは言語集団の集住地区または人口密集地は,自治区とする。

(2)極小集団,文化地区,周縁化されつつある民族集団については,民族性/共同体を保護育成するため,その地域を保護区とする。州内の地区についても同様とする。

(3)その他,(1)(2)に含まれない社会的・経済的低開発地区は,特別区とする。

(4)自治区委員会の設置。

(5)自治区の名称と数の変更は,州議会が2/3の多数をもって決定し,連邦議会が2/3の多数をもって承認する。

(6)州議会は,2/3の多数をもって,(2)(3)に定める保護区および特別区を設立できる。

(7)自治区,特別区および保護区に関する他の規定は,州法により定める。

第66条 連邦,地域自治体および特別機構の間の権限配分
(1)連邦=付則(5)に掲げる権限。および,それらにかかる連邦法。

(2)州=付則(6)に掲げる権限。および,それらにかかる州法。

(3)付則(7)の共通リストについては,連邦議会制定の基準に基づき,州議会が必要な州法を制定。

(4)連邦と州は,(1)または(2)の立法権の他に,憲法の定めるところの行政権と司法権を有する。

(5)地域レベル自治体の権限は,付則(8)による。地域法は州法の範囲内。

(6)地域の選挙制評議会は,立法権の他に行政権と司法権を有する。

(7)特別機構としての自治区の権限は,付則(9)による。自治区法は,州法の範囲内。

(8)自治区は,立法権の他に行政権と司法権を有する。

(9)自治区またはアディバシは,連邦および州の政策決定・施行の場への強制的代表の権利を有する。

(10)特別区および保護区の権限は,州法による。

(11)州政府は,(5)(7)に加え,他の権限をも地区レベルおよび特別機構の自治体に付与することが出来る。

(12)連邦議会は,ここに規定するもの以外にも,他の必要な法律を制定することが出来る。

■コメント
マオイスト憲法案第62~66条は,「連邦―州―市・村/自治区・保護区・特別区」の区画方法と権限配分を規定している。

しかし,あまりにも複雑なため文章化はあきらめ,付則に一覧表記されている。付則(5)連邦,付則(6)州,付則(8)市,村,付則(9)自治区。

たしかに,マオイストの意気込みはよく理解できる。全包摂・権力分有民主主義の理念に従い,民族や共同体ごとに地域割りをし,それぞれに最大限の自治権を与える。多元的・多層的権力分割・分有だ。

しかし,こんな複雑な統治システムが本当に機能するか? たとえば,もっとも基本的な州の区画ですら,利害対立で議論が紛糾,合意はほぼ絶望的である。連邦制については,次の拙稿参照:

谷川昌幸「連邦制とネパールの国家再構築」

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2011/08/08 at 08:41

UNMIN平和構築支援は失敗,バン国連事務総長

バン国連事務総長は,UNMIN撤退式典メッセージにおいて,「残念ながら進展は不十分だった」と述べ,UNMIN平和構築支援の失敗を事実上認めた(UN News service, 14 Jan)。

ランドグレンUNMIN代表自身が安保理で,ネパール平和プロセスは「座礁状態」にあり,UNMIN撤退後はマオイスト武装蜂起か軍クーデターの可能性がある,と説明したのだから,バン事務総長の失敗メッセージも当然といえよう。(Cf. “Nepal’s Restive Revolutionaries–Unease about a new Maoist revolt flares up as U.N.peace monitors leave,” Newsweek, 13 Jan)

もちろん,バン事務総長もUNMINの功績をたたえてはいる。

「UNMINは,歴史的な2008年制憲議会選挙を支援した。これは,武器監視協定・停戦協定の実施をモニターする任務と並ぶUNMINの主要任務の一つであった」(UN News Service, 14 Jan)。

たしかに,UNMINの停戦監視はある意味では「大成功」(ランドグレン代表,UN Daily News, 10 Jan)であったし,制憲議会選挙も成功裡に実施された。

しかし,その反面,肝心のPLA統合は全くの手つかずだし,また「歴史的」と賞賛された制憲議会選挙にしても,選挙民主主義イデオロギーからすればそういえるだけのことであって,実際には,それは平和実現にはほとんど貢献していない。むしろ,選挙はアイデンティティ政治を激化させ,統治を困難にさせる側面の方がはるかに大きかった。これは制憲議会選挙後の政治の不安定化をみれば一目瞭然である。首相ですら,2010年7月以来,16回の選挙をやってもまだ決められないのだ。

さらに新憲法制定にしても,たとえつじつま合わせのため憲法を作文し各条文を新理論でけばけばしく飾り立ててみても,それでどうなるものでもない。画餅にすぎない。その絵空事新憲法作文ですら,まだ出来ていない。

選挙民主主義イデオロギー,包摂民主主義イデオロギー,連邦制イデオロギー,民族自治イデオロギーなど,様々な新薬をネパールにぶちまけ,いくら副作用が出ても,あとは知らんよ,と出て行く。そりゃ,いくらなんでも無責任ではないか?

バン事務総長は「諸政党には信頼構築努力をひとえにお願いしたい」(UN News service, 14 Jan)といっている。民主主義未成熟で相互不信があまりにも強く,そのため国連は平和構築支援に失敗した,と考えているからであろう。

しかし,M.ウェーバーが言うように,政治は結果責任である。ネパールが途上国で,民主主義未成熟はわかりきったこと。そこに,先進諸国でも実現不可能なような最先端の高尚な政治諸理念を持ち込み,押しつけた。責任は,先進国,国連側にある。

マイノリティの権利は,包摂民主主義でも比例選挙でも守られはしない。たとえ代表されたとしても,人口比(2001年)でラウテは49万分の1(0.003%),シェルパですら147分の1(0.7%)にすぎない。多数決では絶対に勝てないし,さりとて拒否権を認めれば,何も決められない。民主主義では人権は守られない。

マイノリティの権利,弱者の人権を本当に守るつもりなら,真の意味の「法の支配」と,多数派を押さえ込み,法を適用することの出来る強力無比の中央権力が不可欠だ。そんな常識ですら無視して無謀に介入するから,こんなことになるのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/15 at 16:01

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