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カーターセンターと米太平洋軍とネパール(2)
2.米太平洋軍の軍事援助
カーターセンターの人権・民主主義援助とセットになっているのが,米太平洋軍の軍事援助。タカとハトの使い分けこそ,米外交の持ち味であり,深さであり,強さだ。
(1)米丸抱えのShanti Prayas Ⅱ
先述のように,パンチカルの「ビレンドラ平和活動訓練センター(BPOTC)」での「Shanti Prayas Ⅱ(SPⅡ,平和活動Ⅱ)」は,3月25日~4月7日,871人(ネパール416人,外国23カ国455人)が参加し,実施された(ekantipur,Apr8,2013)。
■訓練中のフィリピン兵/村民統制訓練(PACON, Mar30/27)
SPⅡは,米政府の資金援助により,米太平洋軍Global Operation Initiative(GPOI)の訓練プログラムの一環として実施された。
SPⅡには,米太平洋軍トマス・L・コナント副司令官が視察に訪れた。また,終了式にはピーター・W・ボッド駐ネパール米大使が出席し,挨拶の中で,ネパール政府のPKO努力を高く評価し,BPOTCに約10億ルピーを援助することを約束した。アメリカ丸抱え軍事訓練といってもよいだろう(USPACOM, Mar27; ekantipur, Apr8, 2013)。
(2)米戦略のアジア太平洋シフト
SPⅡが,米戦略のアジア太平洋シフトの一環であることはいうまでもない。米太平洋軍HPによれば,「この訓練は,軍隊間の関係を構築するという太平洋軍戦略の模範となるものだ。訓練参加国の能力向上を援助することにより,米国は,この地域の安定性を高めていくことになる。」
(3)米戦略の民軍協力シフト
またSPⅡは,米戦略の民軍協力(CIMIC:Civil-Military Cooperation)シフトの一環でもある。SPⅡを実施した国務省GPOIは,2004年設立であり,これまでに7万5千人を訓練してきた。民軍協力重視・アジア太平洋地域重視である。
「GPOIは,設立後6年で,アフリカを中心に7万5千人のPKO要員を訓練した。現在,重点をアジア太平洋地域に移し,人道支援・災害対応を重視している。こう,コナント副司令官は語った。」(American Forces Press Service, Mar26, 2013)
3.日本の民軍協力訓練
SPⅡには,日本も参加し,米軍から高く評価された。カトマンズ実施の上官クラス訓練には,なぜか不参加。日本側からの情報が少ないので,理由不明。入れてもらえなかったのかな?
パンチカルBPOTCでの野外訓練の方には,カネコ・ヤスヒコ陸曹長,オーカワ・ヒトシ陸自隊員(階級不明)らが参加。小隊(platoon)となっているが,全員で何人参加かは不明。日本大使館HPをみても,何も出ていない。広報という点でも,SPⅡの目的と成果を大々的に宣伝し,ご褒美まで出してしまう米国とは,雲泥の差だ。
それはともかく,日本政府が,民軍協力を突破口に,軍事大国化を図っていることは,明白である。たとえば,「日米共催PKO幹部要員訓練(GPOISML)」。外務省,米太平洋軍,民軍関係センター(CCMR)が中心となり,外務省において,2009年と2011年に開催された。ネパールなど十数カ国から,軍人,警察官,文民が参加し,日本からも自衛隊,JICA,国際機関(具体名なし)などが参加したという(外務省HP)。
SPⅡへの日本参加が,こうした民軍協力による軍事大国化の流れに棹さしていることは明白である。
4.タカに食われるハト
アメリカは,政治大国であり,建前と本音,ハトとタカの使い分けがうまい。民軍協力も,アメリカであれば,産軍複合体があるにせよ,イザとなれば,シビリアン・コントロールに復帰する。アメリカはやはりスゴイ国であり,ぎりぎりのところでは信頼に足る本物の民主主義国だ。
これに比べ日本は,政治的に未熟であり,ハトとタカの使い分けはどだい無理である。民軍協力を始めると,ズルズルと軍民協力に逆転していき,結局,ハトはタカに食われてしまうことになる。
国際平和協力は日本国民の義務であり(憲法前文),義務は果たすべきだが,その方法は非軍事的手段に限られる(第9条)。アメリカの巧妙な民軍協力作戦を利用するつもりで利用される愚は避け,非軍事的平和貢献に努力を傾注すべきだ。やるべきことは,無限にある。
谷川昌幸(C)
朝日社説の陸自スーダン派兵論
1.陸自スーダン派兵
政府は11月1日,南スーダンへの陸上自衛隊(日本国陸軍Japanese Army)の派兵を決めた。実施計画を11月下旬に決定し,2012年1月から陸自「中央即応連隊」200人を派兵,5月頃には本隊300人規模とする。ネパールへの陸自6名派兵とは比較にならない大部隊の本格派兵だ。
2.軍国主義に傾く朝日新聞
朝日新聞は,敗戦後,ハト派・良識派・平和主義者に転向したが,2007年5月3日の「地球貢献国家」(社説21)提唱により,内に秘めてきた軍国主義への信仰を告白し,一躍,海外派兵の旗手に躍り出た。時流に乗り遅れるな,イケイケドンドン,産経も読売も蹴飛ばし,向かうところ敵なしである。
今回のスーダン派兵についても,11月2日付朝日社説は,お国のために戦果を,と全面支持の構えだ。社説はこう戦意高揚を煽っている。
「この派遣を,私たちは基本的に支持する。」
「自衛隊のPKO参加は1992年のカンボジア以来、9件目になる。規律の高さや仕事の手堅さには定評があり、とくに施設部隊などの後方支援は『日本のお家芸』とも評される。アフリカでの厳しい条件のもと、確かな仕事を期待する。」
この朝日社説が,産経や読売のようなまともなタカ派の派兵論よりも危険なのは,現実をみず,リアリティに欠けるからである。朝日社説は,大和魂で鬼畜米英の物量を圧倒し,竹槍で戦車を撃破せよと命令し,忠良なる臣民ばかりか自分自身にもそれを信じ込ませてしまった,あのあまりにも観念的な軍国主義指導者たちと相通じる精神構造をもっている。朝日社説の欺瞞は次の通り。
そもそも社説タイトルの「PKO,慎重に丁寧に」と,上掲の「基本的に支持する」「確かな仕事を期待する」のアジ演説が,ニュアンスにおいて矛盾している。
政情不安なスーダンへ大軍を送る。その危険性は,たとえば「治安が不安定な地域でのこれほどの長距離輸送は経験がない」と 朝日自身も認めている。このような危険なところに軍隊を出せば,当然,自他を守るための武器使用が問題になる。ところが,社説はーー
「武器使用問題は、日本の国際協力のあり方を根本から変えるほど重要なテーマだ。今回の派遣とは切り離して、時間をかけて議論するのが筋だ。」
と逃げてしまう。「時間をかけて議論する」あいだに,陸自隊員は現地で危険に直面する可能性が極めて高い。どうするのか? 結局,朝日は根性論,大和魂作戦なのだ。
これに対し,はるかに合理的・現実的なのが,自衛隊である。2日付朝日の関連記事によれば,自衛隊自身は,「自衛隊内では『出口作戦も大義名分も見えない』との不満もくすぶる」「自衛隊幹部は『ジュバ周辺もいつ治安が悪くなるかわからない』」と,批判的だ。もし自衛隊員が朝日社説を読んだら,きっとかんかんになって怒るにちがいない。――堂々たる日本国正規軍を危険な紛争地に派遣しながら,武器を使わせないとは,一体全体,どういう了見だ,大和魂で立ち向かえとでもいうのか。奇襲や特攻を「日本のお家芸」と自画自賛した大日本帝国と,丸腰平和貢献を「日本のお家芸」と賞賛する大朝日は,その精神において,同じではないか,と。
現代の自衛隊は,大和魂や竹槍,あるいは奇襲作戦・特攻作戦などは,はなから信じていない。朝日が大和魂平和貢献をいうのなら,朝日社員を一時入隊させ,スーダンに派遣してやろうか,といったところだろう。自衛隊の方が,朝日よりもはるかに合理的・現実的である。
参照:スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意
3.自衛隊の世界展開とPKO5原則
朝日新聞は,自衛隊(Japanese Army)の本格的世界展開を煽っている。そもそも朝日には,「PKO参加5原則」ですら,守らせるつもりはない。
▼PKO参加5原則(外務省)
1.紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
2.当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
3.当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4.上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
5.武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。
朝日社説はこんな表現をしている。「武力衝突の現場と派遣先は離れているものの、ここは派遣直前まで、5原則を守れるかどうかを見極める必要がある。」
イケイケドンドンと煽っておきながら,「5原則を守れるかどうかを見極める必要がある」とごまかし,武器使用は「時間をかけて議論するのが筋だ」という。それはないだろう。参加5原則など,朝日には守らせる意思はないのだ。スーダン派遣を先行させ,自衛隊員に犠牲が出るか,武器使用が現実に行われてしまったら,その事実に合わせ社説を修正する。大日本帝国の世界に冠たる「お家芸」であった,あの既成事実への追従の古き良き伝統を,朝日は正統的に継承するつもりなのだ。近代的な合理主義・現実主義の立場に立つ自衛隊が怒るのは,もっともだ。
4.「良心的兵役拒否国家」の原点に立ち戻れ
いまさらこんなことを言っても朝日は聞く耳を持たないだろうが,それでもあえていいたい。朝日は,「地球貢献国家」(社説21,2007年5月)を撤回し,それ以前の「良心的兵役拒否国家」の原点に立ち戻るべきだ。
朝日が煽動する「地球貢献国家」が危険なのは,軍民協力が前提であり,その結果,必然的に軍と民が融合し,日本社会がじわじわと軍事化されていくこと。しかも,世界展開する米軍の代替補完として,世界から,つまりアメリカから,期待されており,時流にも乗っている。
日本が朝日の提唱する「地球貢献国家」になれば,たとえば日本の巨大な政府開発援助(ODA)が平和維持作戦(PKO)と融合し,見分けがつかなくなる。そうなれば,紛争地や政情不安地帯で活動する多くの非軍事機関やNGOなども,当然,軍事攻撃の対象となる。
そして,危なくなれば,NGOなどは,軍隊に警護を依頼するか,撤退するかのいずれかを選択せざるをえなくなる。 こうして,また開発援助や非軍事的平和貢献活動が軍事化され,それがまた軍事攻撃を招く。悪循環だ。
もしスーダン派遣自衛隊員に犠牲者が出たら,朝日新聞はどのような責任を取るつもりか? 靖国神社に御霊を祭り,その「お国のための名誉の戦死」を永遠に称えるつもりなのだろうか?
■スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意
■海外派兵を煽る朝日社説
■良心的兵役拒否国家から地球貢献国家へ:朝日の変節
■丸山眞男の自衛隊合憲論・海外派兵論
谷川昌幸(C)
平和構築:日本の危険な得意技になるか?

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