ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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ゴビンダ医師のハンスト闘争(36)

9.合意成立後の動き
「9項目合意」が成立しKC医師がハンストを終了した後,政府は合意文書を教育省に回す一方,与党共産党議員にも合意について説明した。そして,政府提出の「医学教育法案」は,議会において,「9項目合意」に沿って修正するとした。(*92)

しかし,いくら合意し文書に署名しても,その合意が実行されず反故にされることは,少なくない。合意反故は,ネパール政治文化の宿痾といってもよい。「医学教育法案」の場合も,利害が大きく絡むだけに,合意直後から,その約束を反故にさせようとする動きが出始めた。

たとえば,「医学問題調査委員会(MEPC)報告」(2月4日提出)が勧告した有責職員43人に対する解雇等の厳罰処分については,さっそくトリブバン大学事務局が7月28日,反対声明を出した。それによると,MEPC報告は「適正手続き」で作成されておらず,「偏向」しており無効であって,それによる職員処分はできないという(*93)。これに対し,7月31日付リパブリカは,「トリブバン大学汚職職員を処罰せよ」と題する社説を掲げ,こう批判した。

「KP・オリ首相はトリブバン大学総長なのだから,これら有責とされた人々の処罰回避を許すべきではない。医大認可のための彼らの共謀は,さらに追及されなければならない。オリ首相には,彼自身の政府がKC医師との合意に署名したのだから,彼らに対し措置をとらせる義務がある。」(*94)

こうしたなか,オリ政府は7月31日,「9項目合意」に従い22か所を修正した「医学教育法案修正案」を議会に提出した(*95,96)。その限りで,オリ首相はKC医師との約束を守ったとはいえる。しかしながら,この修正案が実際に可決成立するかどうか,成立させる意思が本当にあるのかどうかは,この時点では,まだいずれともいえない。署名しようが,誰が立ち会おうが,約束の反故はネパール政治の常套手段なのだから・・・・。

▼リパブリカ社説(2018年7月31日,*94)

*92 “Oli govt bows to Dr KC’s demands,” Republica, July 27, 2018
*93 Bishnu Prasad Aryal, “TU dismisses MEPC report, rejects action,” Republica, July 30, 2018
*94 “Editorial: Punish tainted TU officials,” Republica, July 31, 2018
*95 “Bill amendments filed in line with Dr KC’s concerns,” Kathmandu Post, Aug 1, 2018
*96 “Bill amendments filed in line with Dr KC’s concerns,” Kathmandu Post, Aug 1, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/12 at 08:54

民主主義を教えてくれる? 誰が!

日本政治もネパールで見られていることを,前回,Nikkei Asian Reviewの記事を参照しつつ紹介したが,見られているのは他の先進諸国も同じこと。この点につき,興味深いのが次の記事:
 ▼カナク・マニ・ディクシト「民主主義をネパールに誰が教えてくれるのか?」『ネパリタイムズ』9月22-28日号(*1)

 ■ディクシト・ツイッター(10月2日)

カナック・マニ・ディクシト(कनक मणि दीक्षित)は,著名な言論人にして実業家。国連事務局勤務(1982-1990)の経験もある。ネパールの政治腐敗を早くから厳しく批判してきたが,2016年には,それが理由とされる別件逮捕により投獄され,死の瀬戸際まで追いやられた。これに対し,内外世論は彼を強く支持,結局,彼は釈放され,闘いに勝利した。(逮捕したのは職権乱用委員会[CIAA]。 この事件は利害が錯綜しており,はっきりしない部分もあるが,大筋では以上のよう見てよいであろう。参照 *3-6)

KM・ディクシトの記事は,彼自身のこのような民主主義のための闘いを踏まえて書かれている。要旨は以下の通り。

 ・・・・・<以下要旨>・・・・・
私がもし今も国連で働いており,トランプ大統領演説を聞いたなら,「私は椅子から転げ落ちたに違いない」。

トランプは,広島・長崎に原爆を投下した国の大統領でありながら,得々として何百万人も殺すことになる北朝鮮攻撃を振りかざす。米国はとんでもない人物を大統領としたため,気候変動,飢餓,紛争,不寛容の拡大など,世界が直面する諸問題に対処できなくなっている。

この米国の信用失墜は,在外米公館を困らせている。9月22日,テプリッツ駐ネ大使がリパブリカ紙に「政治の浄化」というタイトルのコメントを寄せ,政治腐敗の根絶を訴えた(*2)。が,虚栄と空虚,短気で無謀,論理のかけらもない自国主権至上主義――そんなものに捉われた大統領を戴く国の大使が,どうしてネパールに腐敗撲滅を説くことができるのか?

 
 ■米大使館FB(9月20日)

腐敗撲滅は正論だが,ネパール人は腐敗に無自覚だなどと思われては困る。ロックマン・シン・カルキに対する勝利,ゴビンダ・KC医師の不屈の闘い,ハリ・バハドル・タパの腐敗告発記事,そして各メディアによる多数の調査報道。腐敗絶滅には,高尚な一般論を唱えていてもダメだ。それは,われわれ自身の経済成長,平等,社会正義に必要不可欠な,われわれ自身の取り組むべき課題だ。「同じく,民主主義が必要なのは,他の民主主義国がネパールに勧めるからではなく,ネパール人自身が,自分たちの理解と経験からそれを善いものと知っているからだ。」

「高尚な哲学の原理原則も,世界に対する優越感ではなく謙虚さをもって,折に触れ語られて悪いことはないが,ネパールには歩む道を教えてやる必要があるなどとは,誰も考えるべきではない。」

「この開発主義後(post-development)世界[脱開発世界]においては,設計図や事業をわれわれに不断に提供し,世界に向けわれわれのことを報告し続けるような『外交-援助者(diplo-donor)』はまずいないだろう。いまやネパールは,自分自身の諸価値に基づき,ネパールの在り方を世界に示さなければならない。ネパールで進行している社会的政治的激変に気づかず,ネパールから学ぶべきを学ばない世界は,そのぶん損をしているのだ。」

「これからはのネパールは,民主主義を褒めたたえるような外交使節らの助言を従順に聞き入れるようなことは,すべきではない。」

「憲法を制定し様々な選挙を実施した今,次に取り組むべき大きな課題は,腐敗なき統治の実現だ。ここぞというときは,そしてまた地政学的状況が結局は良い統治を必要とするなら,利権目当ての政治屋や権力ブローカーがいても,外国の大使にそばに立っていてもらう必要はないだろう。」
 ・・・・・<以上要旨>・・・・・
 
さすが,不屈のリベラル愛国者,カナク・マニ・ディクシト! ネパール政治が,いまなお身内コネ,お友だち忖度で歪められ,利権がはびこっていることは百も承知だが,それでも近年の様々な改革努力を見ようともせず,旧態依然,父権主義丸出しでネパールに介入しようとする先進諸国の尊大な態度には我慢がならない。

ネパールは自らの力で国を造っていく,世界はネパールの経験から学ぶべきだ――これぞ本物の愛国者の矜持ではあるまいか。

*1 Kanak Mani Dixit, “Who teaches us democracy?,” Nepali Times, 22-28 September 2017
*2 Alaina B Teplitz, “Cleaning up government, Republica,” September 20, 2017
*3 カナク・ディグジト氏,CIAAが逮捕
*4 カナク・デクシト氏逮捕報道について:CIAA報道官
*5 デクシト氏釈放を首相に要請,世界新聞協会
*6 カナク・デクシト氏逮捕の事実経過:ヒマールメディア

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/04 at 17:58

カルキCIAA委員長,瀬戸際(2)

2.カルキ任命異議申し立て裁判
(1)異議申し立て棄却
ロックマン・シン・カルキのCIAA委員長任命については,2014年5月16日,プラカシ・アルヤル弁護士が違憲の訴えを最高裁判所に提出した。

▼2007年暫定憲法の規定(現行2015年憲法もそのまま継承)
第119条(5) CIAA委員長の資格要件(要旨)
 a 学士号の保有。
 b 任命直近において政党に所属していないこと。
 c 会計,歳入,工学,法律,開発または調査のいずれかの分野において20年以上の経験を有する卓越した人物。
 d 高潔な道徳的資質(उच्च नैतिक चरित्र)を有する人物。

アルヤル弁護士は,憲法規定のこの委員長資格要件をカルキは満たしていない,と訴えた。

▼原告側の主張
1)経験年数と専門知識の不足
カルキは,憲法規定の高度な専門知識を持っていない。また,パンチャヤト期王室雇用の6年間は在職年数に算入するべきではなく,それを差し引くと,20年の経験年数には達しない。
2)「高潔な道徳的資質」の欠如
カルキは,国王親政の書記官長(Chief-Secretary)として2006年人民運動の弾圧に加担した。この事実は,ラヤマジ委員会も認定している。また,トリブバン空港事務所など多くの役所において,管理職高官として様々な汚職に関与した。

このアルヤル弁護士のカルキ任命異議申し立てに対し,最高裁は2014年9月24日,棄却を言い渡した。棄却理由の詳細は不明。

161110

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/11/10 at 09:05

カテゴリー: 行政, 司法, 憲法

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SSBを告発,CIAA(6)

6.インド謀略説
ネパールで紛争や権力闘争が激しくなると,ほぼ例外なく,黒幕インドの謀略や介入が取りざたされる。今回も,カルキCIAA委員長の背後にはインドがいて,彼を通してインドがネパール政治をインド国益に沿うように動かしている,と見る人が少なくない。たとえば,M・パウダャルは次のように述べている(以下,要旨)。

▼マハビル・パウダャル「ネパールの大乱戦」,リパブリカ,2016年10月8日(*1)
CIAAは,カナク・マニ・デグジト,ゴビンダ・KC医師,SSBなどに圧力をかけたり「調査」をしたりしているが,これはカルキ委員長個人というよりは,むしろ彼の背後に控えているインドの意向を受けたものだ。

そもそもロックマン・シン・カルキのCIAA委員長任命(2013年5月)は,インドの提案だった。カルキは,2006年人民運動の弾圧に関与したとしてラヤマジ委員会に告発されていた。そのため,ネパールではカルキのCIAA委員長任命には反対が強く,ヤダブ大統領も反対の立場だったが,それをインド側がムカルジー大統領や在ネ印大使館さらには情報機関をも動員して強引に押し切り,任命させたのだ。

そのインドをバックにするカルキ委員長に歯向かうと,どうなるか? カルキ委員長任命に真っ向から反対し,またインドによる経済封鎖をも厳しく批判したカナク・マニ・デグジトは,CIAAに逮捕・勾留されてしまった。

政党や議員も面と向かって抵抗することはできない。なぜなら,どの政党や議員も,ほぼ例外なく汚職・腐敗まみれであり,関係資料をCIAAに握られているからである。CIAAに歯向かえば,告発され,仕返しされてしまう。

CIAAとの闘いは,結局はインドとの闘いなのだ。「潔癖に行動し,他国にへつらったことのない人々のみが,CIAA委員長を批判することが出来る。」

161012■CIAA FBより

*1 Mahabir Paudyal, “Battle royal in Nepal,” Republica, October 8, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/10/12 at 19:32

カテゴリー: インド, 政党, 政治

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カナク・デクシト氏逮捕報道について:CIAA報道官

カナク・マニ・デクシト氏のCIAA(職権乱用調査委員会)による逮捕が大問題になっている。カナク氏は著名なジャーナリスト,人権活動家であり,しかも自ら「ヒマール」や「ネパリタイムズ」など有力紙誌を編集発行している。その彼が逮捕されたので,ヒマール,ネパリタイムズはいうまでもなく,他のメディアも一斉にこの件を大々的に報道し始めた。

1.カナク・デクシト氏の主張
カナク氏側の言い分は,ある意味,単純明快。この逮捕は,民主化運動を弾圧したという理由でCIAA委員長への選任に強く反対されたカルキ委員長の,カナク氏に対する不当な仕返し,ないし私的復讐だ,というものだ。

たしかに,そういうこともあろうが,あまりにも単純明快すぎて,これだけではにわかには信じがたい。カナク氏逮捕には,他にもっと大きな背景ないし複雑な理由がありそうだが,それが何かは今のところよくわからない。

いずれにせよ,ネパールやインドのメディアが,カナク氏やヒマール・メディア側の情報を繰り返し大量に流していることは,事実である。

2.CIAAの主張
これに対し,CIAA側は4月25日,クリシュナ・ハリ・プシュカル報道官名で「カナク・マニ・デクシト氏の逮捕に関するメディア報道について」という声明を発表した。5ページに及ぶ長い声明だが,論理は極めて明快,カナク氏逮捕の理由と経過が,その限りでは,よく理解できる。

CIAAとカナク氏,いずれの言い分が正当なのか? カナク氏側の情報は,すでに膨大な量に及び,いまそのすべてにあたり要約するのは困難なので,以下では,とりあえずCIAA報道官声明の方から紹介することにする。

▼「カナク・マニ・デクシト氏の逮捕に関するメディア報道について」
CIAAは「ネパール憲法」,「CIAA法1991年」および「腐敗防止法1992年」により,公務員および公職関係者の収入を調査する権限を有する。

カナク・デクシト氏は,国家が95%以上を出資するサジャ・ヤタヤタ交通会長であり,それゆえ公職保有者。CIAAにはカナク氏の収入調査管轄権がある。

CIAAは,カナク氏が合法的収入に見合わない財を成しているとの告発をいくつか受けたので,氏の資産状況を調査することにし,氏に資産報告書の用紙を渡し,提出を求めた。

カナク・デクシト氏は,この資産報告書用紙を受け取り,記入し,CIAAに提出した。これは,この時点までは,彼が自分を公職保有者と認め,CIAA調査に協力したことを意味する。

ところが,カナク氏から提出された資産報告書と実際の保有資産とを照合すると,大きな食い違いがあることが判明した。そこで,CIAAは,所定の手続きに則りカナク氏に出頭し説明するように求めたが,氏はこの要請を無視し,出頭しなかった。その後,CIAAは4か月以上にわたって出頭要請を何回も行ってきたが,氏は無視し続けた。

そこで,CIAAは,最終的な7日間期限付きの出頭要請書を送り,これに対し,カナク氏は最終日の7日目に書状をもって回答してきた。その回答は,この件はCIAAの管轄権の範囲外であるので,調査には協力できない,とするものであった。

その結果,他に方法がなくなったので,やむなくCIAAは警察に指示してカナク氏を逮捕し,勾留して調査することになった。氏は逮捕後,健康診断を受け,1夜勾留され,翌日,健康悪化のため,病院に移送された。

カナク氏は,サジャ・ヤタヤタ以外にも,営利事業,出版,NGO,人権活動,メディアなど多くの活動に関与している。氏は,地位のある知識人であり,一般人以上に法を守る義務がある。もし氏が無実だというのなら,CIAAの調査に協力し,起訴されれば,法廷で無実を証明すべきだ。ところが,氏はCIAA調査を拒否し,そのためCIAAは氏を逮捕せざるを得なくなったのである。

このように,CIAAは法の手続きに則り合法的に調査しているにもかかわらず,ある人々はCIAAが復讐のためカナク氏を調査し逮捕した,と非難している。これは全く根拠のない非難だ。「ジャーナリストや人権活動家は憲法や法の上にあるのだろうか?」第四の権力としてのメディアは,治外法権なのか?

しかも,CIAAは,カナク氏をジャーナリストとしてではなく,公職保有者として,調査しているのだ。最高裁も引き続き氏を勾留し,調査することを認める決定を下した[注:特別法廷は10日間の勾留を認めた]。

巨大メディアは,人民と国家への責任を忘れ,CIAAの調査を愚弄している。また,エリートの中には,自由の戦士をかたり,国家資産をむさぼってきた者もいる。彼らは,納税者としての義務を果たしているのか? それは,歴史が裁くことになろう。

CIAAは,法の支配と市民的規範の確立のために努力している責任あるジャーナリズムを深く尊敬し,またそれらのジャーナリズムからは大きな期待をかけられていると確信してもいる。

[参照]Hon’ble Chief Commissioner Lok Man Singh Karki (CIAA HP)
160426d
Mr. Lok Maan Singh Karki is the Chief Commissioner of the Commission for the Investigation of Abuse of Authority (CIAA), Nepal. According to the provision of the Interim Constitution of Nepal, 2007, he has been appointed by the President in the recommendation of the Constitutional Council. Mr. Karki took office on May 8, 2013 for the tenure of six years. ………
He was the Chief Secretary of Government of Nepal from April 2006 to April 2009. Before it, he served as the Secretary of Government of Nepal from April 2001 to April 2006. As the Secretary he worked at the Ministry of Information and Communications, Office of the Prime Minister and Council of Ministers, Ministry of Health, Ministry of Population and Environment and Ministry of Water Resources as well.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/04/26 at 17:48

権力乱用調査委員会(7):文化と「腐敗」

ネパールにおける権力(職権)乱用撲滅運動は,他の場合と同様,国際社会,つまり欧米先進諸国の強力な働きかけを受け推進されてきた。内政干渉そのもの,欧米モデルにネパールを鋳直そうというわけだ。

たとえば,「ノルウェー開発協力庁(Norwegian Agency for Development Cooperation)」の報告書『ネパールにおける腐敗と反腐敗(Corruption and Anti-Corruption in Nepal)』(Prepared by Sarah Dix, 2011)を見ると,完全な上から目線,厳父が子を叱りつけ,行儀作法をしつけるといった感じだ。

槍玉に挙げられているのは,例のチャカリ(चाकरी)やアフノ・マンチェ(आफ्नो मान्छे),あるいはジャギール(जागिर)やビルタ(बिर्ता)などの慣習や伝統。これらが不正・腐敗の文化的源泉として容赦なく批判されている。(ジャギールやビルタは恩賞地。現在ではジャギールは「官職」やそれがらみの「権益」となっているという。)

私も,以前は,何回かチャカリをやったことがある。高官に面会するため公邸やシンハダーバーの執務室に出向き,何時間も何時間も,お出ましを待っていた。ほかにもたくさんの人が,同じようにして,待っていた。たいへんな時間の無駄だ。不合理。そして,そうして得られる高官からの恩恵は,当然,人間関係に依存するものとなり,非公式であり,不安定,不公平なものとなる。

あるいは,役所でも銀行の窓口などでも,何かをしてもらおうとすれば,有力者に口を利いてもらうか,何らかの贈り物を渡す必要があった。最近はかなり少なくなったが,それでもまだあちこちに見られる。これらも,不合理・不公平であり,著しく透明性に欠ける。

131005 ■伝統文化批判の古典:ビスタ『運命論と開発』

これらのネパールの伝統的慣行は,近代的な「官僚制」や「法の支配」の観点からすれば,不正,腐敗である。しかしながら,それは近代的な「官僚制」や「法の支配」を価値基準とするからであり,もしそれらを前提としなければ,不正・腐敗とは言えない。チャカリにせよアフノ・マンチェにせよ,ネパールの伝統文化であり,その限りでは十分な存在理由があるのである。

この歴史的な存在理由をもつ伝統文化を,欧米先進諸国は,近代的な「官僚制」や「法の支配」を基準として,不正・腐敗として一方的に断罪し,根底から廃棄させようとしてきた。ノルウェー開発協力庁報告書は,こう書いている――

「ネパールでは,非公式な統治諸慣行が蔓延し腐敗を存続させている。政治は実際には不文の『ゲームの規則』により行われている。」

この不文の「ゲームの規則」こそ,チャカリやアフノ・マンチェなどの伝統文化に他ならない。したがって,不正撲滅,腐敗防止は,必然的に伝統文化の否定に向かわざるを得ないわけだ。

ここに,ネパールにおける不正撲滅・腐敗防止政策の難しさがある。欧米先進諸国の支援の問題点は,近代的官僚制=法の支配(法による支配)をグローバル・スタンダードとして絶対視し,一方的にそれを押しつけるところにある。デリカシーに欠け,非文化的。伝統文化から見れば,「腐敗」は腐敗でなく,「不正」は不正ではない。

むろん,伝統や文化を理由に何でも許されるか,という難問は残る。一夫多妻や性器切除など。

ネパールにおける不正撲滅・腐敗防止は,こうした難問を頭に置きつつ,やはり基本は,一方的な押しつけではなく,ネパールの人々から求められたとき,側面から協力するということを原則とすべきであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/05 at 18:45

権力乱用調査委員会(5):CIAA法1991(i)

4.権力乱用調査委員会法1991(CIAA法1991)
(1)現行CIAA法
権力乱用調査委員会は憲法設置機関だが,その詳細は暫定憲法第11編に基づき制定された「権力乱用調査委員会法1991(2048)」により規定されている。
 ●अख्तियार दुरुपयोग अनुसन्धान आयोग ऐन, २०४८
  Commission for the Investigation of Abuse of Authority Act, 1991(2048)

このCIAA法は,1990年憲法に依拠し1991年に制定され,2002年と2006年に改正され,現在にいたっている。2006年改正の現行法は,2006年4月の「人民運動Ⅱ」直後に改正されたものであり,いくつか条文の不備があるが,全体としてはよくできた法律である。

(2)CIAAの構成
CIAA委員長と委員は,暫定憲法の規定により,憲法会議の推薦に基づき,大統領が任命する。それ以外は,CIAAが政府または関係機関と協議し,必要な人員を任命する。

 ■CIAA組織図(CIAA・HPより)
130921

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/21 at 20:14

カテゴリー: 行政, 憲法

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