ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Posts Tagged ‘海外派兵

集団的自衛権: 9条のたが外し,先鞭は朝日

安倍首相が,「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告(5月15日)を受け,憲法解釈を閣議決定により変え集団的自衛権の行使を可能とする基本方針を,5月15日の記者会見で表明した。

集団的自衛権とは,要するに攻守軍事同盟のことであり,同盟国の戦争に参戦する権利義務に他ならない。現実には,ほとんどの場合,同盟国アメリカの戦争や軍事紛争に,日本が参戦する義務を負うということ。このような集団的自衛権は,日本国憲法がまったく想定していないものであり,これが解釈で認められるなら,憲法など有名無実,日本は法治国家ではなくなってしまう。

これは戦後日本の憲政を根本から覆す,いわば「政治クーデター」のようなものだから,良識派・朝日新聞が紙面の多くを費やし,解説し批判しているのは,当然といえよう。5月16日付朝刊の1面には立松朗政治部長「最後の歯止め外すのか」,8面には「安倍首相会見要旨」,9~11面には「安保法制懇・報告書全文」,そして16面には社説「集団的自衛権・戦争に必要最小限はない」が掲載されている。要するに,「9条のたがを外すな」(社説)ということ。ところが,それにもかかわらず,朝日の記事や論説は,どことなく腰が引けており,緊迫感がない。なぜか?

いうまでもなく,それは,護憲的“independent”ジャーナリズム陣営の中から「9条のたがを外す」先鞭をつけたのが,他ならぬ朝日新聞だったからである。サンケイ,読売,日経などが,9条改正を唱えるのは,それなりにスジが通っており,賛同はできないが,理解はできる。ところが,朝日は戦後一貫して護憲を売り(商売)にしてきたにもかかわらず,風向きが変わり始めると,社として憲法解釈変更ないし解釈改憲を行い,大々的に宣伝し,自衛隊の海外派兵のラッパを吹き始めた。朝日新聞は,自ら率先して「最後の歯止め」,「9条のたが」を外してしまっていたのだ。

このことについては,幾度も批判したので,繰り返さない。以下参照。
  ・良心的兵役拒否国家から地球貢献国家へ:朝日の変節
  ・丸山眞男の自衛隊合憲論・海外派兵論
  ・海外派兵を煽る朝日社説
  ・朝日の前のめり海外派兵煽動
  ・自衛艦をソマリア沖に派遣せよ,朝日社説
  ・平和構築:日本の危険な得意技になるか?
  ・スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意
  ・軍民協力に前のめり,PWJ
  ・転轍機を右に切り替えた朝日主筆
  ・朝日社説の陸自スーダン派兵論(再掲)
  ・スーダン銃弾供与問題と露払い朝日新聞
  ・南スーダン陸自交戦寸前,朝日記事の危険な含意

朝日の論説や記事に緊迫感がないのは,朝日も同じ穴の狢だから。「最後の歯止め外すのか」,「戦争に必要最小限はない」,「9条のたがを外すな」――これらは,なによりもまず朝日自らが,自らに向かって,投げかけるべき言葉であろう。

140516a ■朝日新聞「地球貢献国家」

【参照】小田嶋隆「行く手に翻るのは赤い旗のみか?」日経ビジネス,2014年5月16日

日経は,啓蒙された利己心の立場に立つだけに,朝日などよりも,はるかに「現象」を鋭く見抜いている。たとえば,小田嶋氏のこの記事。関連する部分の要点は,以下の通り。

安倍首相の解釈改憲への手順は,「もう何カ月も前から各メディアがつとに予想していたことだった」。メディアは,それを詳しく報道することで,解釈改憲の「先触れ」をした。

「これまで、各紙が様々な角度から切り込んできた集団的自衛権に関する記事は、新聞読者に注意を促して、国防や解釈改憲についての議論を喚起することよりも、これからやってくる事態に驚かないように、あらかじめ因果を含めておく狙いで書かれたものであったように見えるということだ。」

その証拠に,自民党元重鎮や保守系論客が,大手メディアではなく「赤旗」で,次々と議論を始めた。その「背景には、安倍政権に対して、真正面から反論する場を提供してくれる媒体が、もはや赤旗ぐらいしか残っていないことを示唆している」。

「いずれにせよ、新聞各紙は、発足以来、安定して高い支持率を誇る安倍政権に対して、正面からコトを構える闘志を失っているように見える。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/05/16 at 11:56

スーダン銃弾供与問題と露払い朝日新聞

1.韓国軍への武器(銃弾)供与
安倍政権の軍国主義化は向かうところ敵なし,特定秘密保護法を電光石火で成立させ,今度は,12月4日発足の国家安全保障会議(NSC)において,12月23日,スーダン派遣陸自銃弾1万発の韓国軍への供与を決定,ただちに閣議決定し,同日,引き渡した。この銃弾引き渡しについて,読売新聞は,こう報道している

—(以下引用)——————
井川1佐などによると、日本時間の22日未明、ジョングレイ州のボルで活動する韓国隊の隊長から、「ボルの活動拠点内には1万5000人の避難民がいる。敵については北から増援も確認。1万発の小銃弾を貸してほしい」と電話で要請があった。日本側が小銃弾を引き渡したところ、23日夜、韓国隊から「ボルの宿営地と避難民を守るために使う。本当にありがとうございました」と連絡があったという。(読売新聞12月25日
—(以上引用)——————

この武器(銃弾)供与は,明白な違憲違法。まさか引き渡し後の追認閣議決定ではあるまいが,歴史に照らして,その疑いですら払拭しきれないほど危険な軍事的冒険である。

そもそも軍隊(自衛隊)が海外派兵(派遣)されれば,このような事態は当然予想されること。状況がさらに切迫すれば,今回と同じ「緊急の必要性・人道性」(官房長官談話12月23日)を理由に,自衛隊が直接戦闘に参加することすら十分あり得る。

2.朝日の海外派兵煽動
ここで批判されるべきは,朝日新聞。先に指摘したように(下記参照),そのような事態が十分にありうることをよく分かった上で,自衛隊スーダン派遣を煽り立てたのだ。(もし想定外と弁解するなら,ジャーナリズム完全失格)

朝日新聞は,変節後の社是「地球貢献国家」により,日本の軍国主義化の露払いをしてきた。朝日の「地球貢献国家」は,本質的に,安倍首相の「積極的平和主義」と同じものである。朝日が特定秘密保護法に反対したのも今回の弾薬供与を批判しているのも形だけ,実際には,押したり引いたりしながら,地球貢献国家=積極的平和主義国家実現のための露払いをしているににすぎない。

朝日は,自社の歴史から何も学んでいないといわざるをえない。

朝日社説の陸自スーダン派兵論(再掲)
良心的兵役拒否国家から地球貢献国家へ:朝日の変節
自衛艦をソマリア沖に派遣せよ,朝日社説
自称「右翼軍国主義者」の「積極的平和主義」:安倍首相の国連演説

谷川昌幸(C)

朝日社説の陸自スーダン派兵論(再掲)

朝日社説の陸自スーダン派兵論(再掲)
  1.陸自スーダン派兵
  2.軍国主義に傾く朝日新聞
  3.自衛隊の世界展開とPKO5原則
  4.「良心的兵役拒否国家」の原点に立ち戻れ

【関連記事】
■スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意
■海外派兵を煽る朝日社説
■良心的兵役拒否国家から地球貢献国家へ:朝日の変節

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/12/25 at 13:20

制憲議会選挙2013(25):NHKのネパール選挙「偏向」報道

グローバル化時代であり,ネパール制憲議会選挙も,日本の政治に利用されることはある。それは自明のことだが,たとえばNHKニュース「ネパール議会 連立協議行われる見通し」(12月4日)のように「大胆・露骨」かつ「巧妙」にやられると,よほど用心していないと,ヤバイことになる。

———–
 ネパールで先月投票が行われた制憲議会選挙は、中道路線の「ネパール会議派」が第1党になりましたが、過半数には届かず、主な政党による連立協議が行われる見通しになりました。
 ネパールの選挙管理委員会によりますと、先月19日に投票が行われた制憲議会選挙は、中道路線の「ネパール会議派」が196議席を獲得して第1党になりましたが、過半数の301議席には届きませんでした。
 第2党は、175議席を獲得した「統一共産党」で、今後この2つの党を軸に連立協議が行われる見通しになりました。
 武装闘争を放棄して前回5年前の選挙で第1党になった「ネパール共産党毛沢東主義派」は、80議席しか獲得できずに第3党に転落し、この5年間、憲法の制定ができずに政治が混乱したことに対する国民の批判が集中した形になりました。
 「毛沢東主義派」は、選挙に不正があったとして結果を認めない姿勢を示していて、連立政権の成立までには混乱も予想されます。
 日本は2007年から4年間、ネパールに自衛隊の隊員を派遣して国連の代表団の要員として停戦の監視に当たるなど内戦からの復興を支援していて、今回の選挙を受けて新たな国づくりが軌道に乗るか注目されています。
 (http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131204/k10013567321000.html 強調引用者)
———–

この記事が「大胆」であることは,ネパール事情を多少とも知っている少数の人々には,すぐ分かる。陸自隊員がネパールに行った最大の目的は,海外派兵の訓練兼広報宣伝のためであり,平和貢献は口実にすぎない。たった数名(事務要員をのぞく)で行き,くるくる交代し,いったい何ができるというのか? この点については,陸自ネパール派遣参照。

しかし,ネパール事情をほとんど知らない人――大多数の日本人――がこの記事を読めば,ネパール派遣陸自隊員が大活躍し,今回の制憲議会選挙の「成功」をもたらしたと誇らしく思い,今後は日本も積極的に海外派兵すべきだと考えるようになるのは,ごく自然な成り行きだ。実に巧妙。世論操作のモデルケース教材として大学で使えそうだ。

131205 ■ネパールの自衛隊

では,皆様のNHKが,なぜこのような「大胆・露骨」にして「巧妙」な世論操作をするのか? それは,いうまでもなく安倍政権に操作されているからである。松田浩氏は,「政権のNHK支配監視を――露骨な人事 情報統制の発想」において,こう警告している。

———-
 公共放送NHKが,安倍政権の“政治的人事”で,危機に立たされている。さきの経営委員人事で,安倍首相が新任の4委員を自らに極めて近い,“安倍一族”で固めたためだ。
 半世紀以上,NHKと政府の関係をウォッチしてきたが,このような露骨きわまる人事は見たことがない。・・・・
 伝統的に権力の意向を“忖度”することにたけたNHKの体質を考えれば,原発,教育,歴史問題,集団的自衛権などを報じる際の現場への萎縮効果は計り知れない。・・・・
 安倍首相は経営委員人事をテコに,NHKの直接支配に乗り出したのである。
 時あたかも特定秘密保護法案が衆院で強行採決された。共通して底流にあるのは,国民に与える情報をコントロールしようという安倍政権の発想である。・・・・
 ただでさえ,日頃から政権よりの報道が目につくNHKである。「みなさまの公共放送」が戦前と同じ「国家の公共放送」に変貌することがないよう,視聴者・国民による厳しい監視の目が必要だろう。(朝日新聞,2013年12月4日)
———-

日本は,ネパール平和構築のため,官民とも非軍事の分野で様々な多くの貢献をしてきた。これに対し,派遣自衛隊の活動など,全くといってよいほど現地ネパールの人々には知られていなかった。それなのに,他分野の大きな貢献をさしおき,NHKは派遣自衛隊の貢献を特記した。

これは,たまたまそう書いたのではない。安倍政権の「直接支配」か,それとも「権力の意向の“忖度”」か,それは分からないが,この記事に一定の政治的意図が隠されていることは否定すべくもあるまい。

追加](12月6日22時半)
特定秘密保護法案が参院強行採決目前,世論は沸き立ち,国会も国会の外も極度に緊迫している。

その最中,皆様のNHKは,看板番組ニュースウオッチ9(21:00-22:00)において,長々と自衛隊の宣伝番組を流した。「“被災地に勇気を”自衛隊歌姫の『祈り』」。違和感を通り越し,番組放送の裏を“忖度”せざるを得なかった。

自衛隊は「特定秘密」の巣窟。番組は,その自衛隊の演奏活動を,被災地支援活動という誰にも異を唱えにくい形で,情緒たっぷりに伝え,視聴者を涙させた。

特定秘密保護法体制は,強面だけで成立し維持されるわけではない。

12月6日午後11時半,自公強行採決により,特定秘密保護法成立!

谷川昌幸(C)

ネパールでのPKO訓練に日本も参加

駐ネ米大使館によれば,「ビレンドラ平和活動訓練センター(BPOTC)」で3月25日~4月7日開催の「Shanti Prayas-2(平和活動-2)」訓練に,日本も参加している。日本側情報を探したが見当たらず,参加自衛隊員のランクや人数は不明。

130330a ■Shanti Prayasシンボルマーク(BPOTC)

訓練は,米太平洋軍が主導,ネパール国軍が協力し,行われているようだ。参加総数871人(内ネパール416人)。インド軍も参加している。訓練には幹部スタッフ訓練と野外演習があり,日本は双方に参加。

BPOTCは,カトマンズの東方,パンチカルの高原(標高942m)にある。1986年設立。PKO派遣要員を年8000人以上訓練している。この付近は何回か通ったことがあるが,広大な美しい訓練基地であった。

130330b ■BPOTC(Google)

しかし,パンチカルはチベット(中国)国境のすぐ近く。敏感地帯にある。そこに米軍主導で,インド軍や日本軍(自衛隊)が,国連平和活動を名目に軍事訓練をする。中国メディアも「客観報道」をしているが,さて本心はどうだろうか?

130330c  ■野外訓練(BPOTC)

今回もそうだが,いまでは自衛隊員の海外派遣は日常茶飯事。ニュースにもならない。日本の軍事化は,着々と進んでいる。このまま行けば,憲法の「改正」,自衛隊の「国防軍」格上げも遠くはあるまい。

野口健氏も,かつて(2007/03/23)こう主張された。「今月末に自衛隊が停戦監視団としてネパール入りするが、武器を持たず大丈夫なのかと心配になる。せめて自身の安全を守る武器保有は認められるべきだと思うが。日本国内でも PKO や停戦監視団で現地に行く自衛官に対して「武装するべきではない」といった意見もあるが、「それならばあなた方が丸腰で行ってみろ」と言いたい。どれだけの恐怖か。」(http://www.noguchi-ken.com/M/2007/03/post-303.html)

【追加2013/04/01】
この訓練のスポンサーは,米国務省。大使館HPで盛んに宣伝している。イラク・アフガンで懲りて,PKOに宗旨替えしたのかな?

130401
 ■U.S. Pacific Command Deputy Commander Lt. Gen. Thomas L. Conant lays a wreath with Nepalese officers at Exercise Shanti Prayas-2 at the Birendra Peace Operations Training Center. (米大使館HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/03/30 at 23:20

カテゴリー: 平和, 憲法

Tagged with , , ,

軍事化の兆し、日ネ関係

1.秋爛漫に水を差す陸自幹部派遣
キルティプール付近は、いま桜が満開、他に菜の花、ブーゲンビリア、ラルパテ、マリーゴールド、カンナ、朝顔(といっても一日中開花)等々、百花繚乱、まるで東北の5月のようだ。

■ラルパテ■八重ブーゲンビリア(?)


 ■稲の刈り入れと満開の桜(右端)

そんな平和で、のどかな「秋爛漫」に水を差すような、物騒なニュースを各紙が伝えている。日本政府は、カワセ・マサトシ陸将補を団長とする3人のネパール軍事訪問団を派遣した。11月8日着、10日発の3日間の訪ネだ。

2.史上最高レベルの日本軍事訪問団
報道によれば、訪ネ軍人としては、カワセ陸将補は史上最高レベルであり、新聞やネットニュースの見出しも、勇ましい。

「日本国軍事団の異例の訪ネ」(ranabhola.blogspot,9 Nov)
「日本国安全保障チームの訪ネ」(Zeenews, 10 Nov)
「軍事協力を協議」(Himalayan Times, 7 Nov)
「日本国自衛隊幹部、首都へ」(nepalnews.com)

カワセ陸将補ら日本国陸自(陸軍)幹部は、プサン・チャンド国軍CGSと会見し、相互軍事協力や自然災害時の人的協力について協議した。また、国軍幹部学校や国軍司令部を訪問し、各部隊の幹部とも会見した。

 ■日ネ軍人協議(Himalayan Times)

3.米軍訪問団の訪ネ
さらに驚くべきことに、上記ヒマラヤンタイムズによれば、日本国軍事訪ネ団の翌日、やはり3日の日程で、アメリカ「近東南アジア」担当チームが訪ネ、チャンド国軍CGSと会見し米ネ軍事協力を協議、また軍幹部学校を訪問しているのだ。

4.日米の対ネ軍事協力作戦か?
軍事関係だから、報道はごく限られており推測せざるをえないのだが、日米軍事同盟の現状からして、日本の対ネ軍事協力・準軍事協力が日本単独で計画されるわけがない。

中国の軍事大国化、チベット問題、尖閣諸島問題などをにらみながら、日米が協力して、ネパールへの何らかの軍事的働きかけを始めたのではないか、と疑わざるをえない。

5.海外派兵への呼び水
日本では、2006年、自衛隊法が改悪され、自衛隊の海外活動が「本来任務」に格上げされた。そのための軍民協力精鋭部隊として「中央即応部隊」も設立された。「平和協力」の名目さえつけば、いまや自衛隊は世界のどこへでも、もちろんネパールへも、部隊を派遣できるのである。むろん日本独自ではなく、アメリカの下働き、あるいは尻ぬぐいとして、

ネパールへの自衛隊派遣は、2007年3月のUNMIN(国連ネパール政治ミッション)への陸自隊員6名の派遣から始まる。停戦監視のための非武装隊員派遣だったので、ネパール関係者の間では、支持こそあれ、反対はなかった。

しかし私は、これは日本の自衛隊海外派遣の本格化の呼び水になると考え、当初から反対してきた。今回の「対ネ日米軍事協力作戦」ともとれる動きは、その傍証の一つといえよう。

6.危険な軍民協力
今回の史上最高レベルでの日ネ軍事協議において、自然災害時の人的協力が話し合われたことも、看過しえない事態だ。

ネパールではマオイスト紛争は終結し、紛争がらみでの自衛隊派遣の理由は今のところはない。ところが、自然災害は頻発し、規模もますます大きくなっている。地震でもあれば、大惨事だ。自然災害時の自衛隊派遣は、そうした事態を想定している。

ネパールの災害時に救援隊を最大限派遣するのは当然だが、自衛隊派遣には反対である。

先のUNMIN派遣で自衛隊はネパール国軍との関係を一気に強化した。もし災害派遣が想定されるなら、平時から自衛隊とネパール国軍は関係を緊密化させ、そこには当然、民間・文民部門も深く関与する。日ネ軍民協力である。

自衛隊が、日ネ軍民協力を手がかりとしてネパールに関与していけば、自衛隊がらみの複雑な既得権益が生じ、もはやそこからは抜け出せなくなる。ネパールには、自然災害の危険は山ほどある。紛争の種もある。チベット問題も深刻だ。暗に中国の脅威をも想定しつつ自衛隊をネパールに出せば、引っ込みがつかなくなる。

ネパール関係者は、日本ODAが大幅削減され、あせり、防衛予算に目を向け始めたのだろうが、これは禁じ手、絶対に手を出してはならない。

某大学、某々大学などは、平和貢献を名目に、自衛隊関係者やその筋の某財団などとの共同研究に前のめりだが、こんな軍民協力、軍学協力こそが、国を誤らせることになるのである。

「太って満足した豚よりも、痩せたソクラテスになりたい」 J.S. ミル

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/11/12 at 02:04

朝日社説の陸自スーダン派兵論

1.陸自スーダン派兵
政府は11月1日,南スーダンへの陸上自衛隊(日本国陸軍Japanese Army)の派兵を決めた。実施計画を11月下旬に決定し,2012年1月から陸自「中央即応連隊」200人を派兵,5月頃には本隊300人規模とする。ネパールへの陸自6名派兵とは比較にならない大部隊の本格派兵だ。

 世界展開に備える即応連隊

2.軍国主義に傾く朝日新聞
朝日新聞は,敗戦後,ハト派・良識派・平和主義者に転向したが,2007年5月3日の「地球貢献国家」(社説21)提唱により,内に秘めてきた軍国主義への信仰を告白し,一躍,海外派兵の旗手に躍り出た。時流に乗り遅れるな,イケイケドンドン,産経も読売も蹴飛ばし,向かうところ敵なしである。

今回のスーダン派兵についても,11月2日付朝日社説は,お国のために戦果を,と全面支持の構えだ。社説はこう戦意高揚を煽っている。

「この派遣を,私たちは基本的に支持する。」
「自衛隊のPKO参加は1992年のカンボジア以来、9件目になる。規律の高さや仕事の手堅さには定評があり、とくに施設部隊などの後方支援は『日本のお家芸』とも評される。アフリカでの厳しい条件のもと、確かな仕事を期待する。」

この朝日社説が,産経や読売のようなまともなタカ派の派兵論よりも危険なのは,現実をみず,リアリティに欠けるからである。朝日社説は,大和魂で鬼畜米英の物量を圧倒し,竹槍で戦車を撃破せよと命令し,忠良なる臣民ばかりか自分自身にもそれを信じ込ませてしまった,あのあまりにも観念的な軍国主義指導者たちと相通じる精神構造をもっている。朝日社説の欺瞞は次の通り。

そもそも社説タイトルの「PKO,慎重に丁寧に」と,上掲の「基本的に支持する」「確かな仕事を期待する」のアジ演説が,ニュアンスにおいて矛盾している。

政情不安なスーダンへ大軍を送る。その危険性は,たとえば「治安が不安定な地域でのこれほどの長距離輸送は経験がない」と 朝日自身も認めている。このような危険なところに軍隊を出せば,当然,自他を守るための武器使用が問題になる。ところが,社説はーー

「武器使用問題は、日本の国際協力のあり方を根本から変えるほど重要なテーマだ。今回の派遣とは切り離して、時間をかけて議論するのが筋だ。」

と逃げてしまう。「時間をかけて議論する」あいだに,陸自隊員は現地で危険に直面する可能性が極めて高い。どうするのか? 結局,朝日は根性論,大和魂作戦なのだ。

これに対し,はるかに合理的・現実的なのが,自衛隊である。2日付朝日の関連記事によれば,自衛隊自身は,「自衛隊内では『出口作戦も大義名分も見えない』との不満もくすぶる」「自衛隊幹部は『ジュバ周辺もいつ治安が悪くなるかわからない』」と,批判的だ。もし自衛隊員が朝日社説を読んだら,きっとかんかんになって怒るにちがいない。――堂々たる日本国正規軍を危険な紛争地に派遣しながら,武器を使わせないとは,一体全体,どういう了見だ,大和魂で立ち向かえとでもいうのか。奇襲や特攻を「日本のお家芸」と自画自賛した大日本帝国と,丸腰平和貢献を「日本のお家芸」と賞賛する大朝日は,その精神において,同じではないか,と。

現代の自衛隊は,大和魂や竹槍,あるいは奇襲作戦・特攻作戦などは,はなから信じていない。朝日が大和魂平和貢献をいうのなら,朝日社員を一時入隊させ,スーダンに派遣してやろうか,といったところだろう。自衛隊の方が,朝日よりもはるかに合理的・現実的である。
  参照:スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意

3.自衛隊の世界展開とPKO5原則
朝日新聞は,自衛隊(Japanese Army)の本格的世界展開を煽っている。そもそも朝日には,「PKO参加5原則」ですら,守らせるつもりはない。

▼PKO参加5原則(外務省)
 1.紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
 2.当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
 3.当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
 4.上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
 5.武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。

朝日社説はこんな表現をしている。「武力衝突の現場と派遣先は離れているものの、ここは派遣直前まで、5原則を守れるかどうかを見極める必要がある。」

イケイケドンドンと煽っておきながら,「5原則を守れるかどうかを見極める必要がある」とごまかし,武器使用は「時間をかけて議論するのが筋だ」という。それはないだろう。参加5原則など,朝日には守らせる意思はないのだ。スーダン派遣を先行させ,自衛隊員に犠牲が出るか,武器使用が現実に行われてしまったら,その事実に合わせ社説を修正する。大日本帝国の世界に冠たる「お家芸」であった,あの既成事実への追従の古き良き伝統を,朝日は正統的に継承するつもりなのだ。近代的な合理主義・現実主義の立場に立つ自衛隊が怒るのは,もっともだ。

4.「良心的兵役拒否国家」の原点に立ち戻れ
いまさらこんなことを言っても朝日は聞く耳を持たないだろうが,それでもあえていいたい。朝日は,「地球貢献国家」(社説21,2007年5月)を撤回し,それ以前の「良心的兵役拒否国家」の原点に立ち戻るべきだ。

朝日が煽動する「地球貢献国家」が危険なのは,軍民協力が前提であり,その結果,必然的に軍と民が融合し,日本社会がじわじわと軍事化されていくこと。しかも,世界展開する米軍の代替補完として,世界から,つまりアメリカから,期待されており,時流にも乗っている。

日本が朝日の提唱する「地球貢献国家」になれば,たとえば日本の巨大な政府開発援助(ODA)が平和維持作戦(PKO)と融合し,見分けがつかなくなる。そうなれば,紛争地や政情不安地帯で活動する多くの非軍事機関やNGOなども,当然,軍事攻撃の対象となる。

そして,危なくなれば,NGOなどは,軍隊に警護を依頼するか,撤退するかのいずれかを選択せざるをえなくなる。 こうして,また開発援助や非軍事的平和貢献活動が軍事化され,それがまた軍事攻撃を招く。悪循環だ。

もしスーダン派遣自衛隊員に犠牲者が出たら,朝日新聞はどのような責任を取るつもりか? 靖国神社に御霊を祭り,その「お国のための名誉の戦死」を永遠に称えるつもりなのだろうか?

■スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意
■海外派兵を煽る朝日社説
■良心的兵役拒否国家から地球貢献国家へ:朝日の変節
■丸山眞男の自衛隊合憲論・海外派兵論

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/02 at 14:11