ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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震災救援の複雑な利害関係(6):自衛隊展開の遅れ

前回,米軍「支援の手作戦」の日本への影響について述べたが,そのような素人の思いつくようなことなど,すでに軍事専門家によって,はるかに鋭くラジカルに指摘されていた。たとえば,文谷氏(軍事ライター)の次の記事:

文谷数重「ネパールへの自衛隊展開は、なぜ遅れたのか 長距離輸送機の調達戦略に問題あり」東洋経済ネット版,2015年05月04日

文谷氏によれば,自衛隊のネパール展開の遅れの原因は,C-17輸送機がなかったこと。

「4月25日に発生したネパール大地震を受けて、各国は即座に災害援助を行った。それを実現したのは米国製のC-17輸送機であった。大搭載量と長大な航続距離を兼ね備えた長距離輸送機であり、小型飛行場でも離着陸可能である。米英、オーストラリア、カナダはC-17の特性を活かし、災害現場のネパールに直接展開できた。しかし、自衛隊の展開は遅れた。これは[自衛隊現有]最大の輸送機であるC-130の性能不足が大きく影響している。」
「自衛隊は、[C-17購入ではなく]C-2の国産を選択した結果、長距離空輸能力で不具合を抱えている。長距離輸送機を持たないため、空輸展開によるタイムリーな災害援助、国際貢献、重量物輸送をできない状態にある。」

150516a■嘉手納のC130(嘉手納米空軍HP4月29日)

自衛隊のこの海外展開能力不足は,文谷氏によれば,軍事的にもむろん大問題である。

「2000年以降に自衛隊の海外派遣は量も質も拡大している。国際貢献としては、インド洋やイラク、ソマリア沖海賊対処が始まっている。これは従来以上に大規模であり、長期間継続するものであった。他国戦闘部隊への兵站支援や、日本自身が海外基地を建設するといった意味で本格的な任務である。」
「さらに将来をみれば、輸送力不足はより深刻となる。自衛隊の海外活動は今以上に大規模、本格化する。より大重量・大容積の物資を、より遠方に運ばなければならないためだ。・・・・C-2では戦車を運べない。」

だから,「より大重量・大容積の物資をより遠距離に運べる機材」であるC-17を購入せよ,こう文谷氏は主張されるのである。

150517b■開発中のC-2(日本政府HPより)

文谷氏は,「自衛隊の展開は遅れた」という事実認識では,全くその通りであり,正しい。しかし,その事実認識から,自衛隊の海外展開能力の強化や,戦車すらも積載可能なC-17の購入といった政策が直ちに引き出されてよいわけではない。

そもそも,海外救援活動は,軍事を主目的とする軍隊には,ふさわしくない。文谷氏は,C-17があれば,自衛隊のネパール展開の遅れはなかったと主張されたいのだろうが,本当にそうか?

インドの「ともだち作戦」に対してですら,あれほどの反対があったのだ。日本が,もし戦車も積載可能なC-17などで自衛隊を運び込もうとすれば,ネパールのナショナリスト,あるいは中国やインドを多かれ少なかれバックに持つネパールの諸勢力が,どう反応するか? 自衛隊は,れっきとした日本の軍隊なのだ。

150517a■横田のC-17(米軍横田基地HP2014-11-17)

「自衛隊の展開の遅れ」は,このままでは,積極的平和主義を唱える人々により,絶好の奇貨とされてしまうであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/17 at 14:56

カテゴリー: ネパール, 軍事, 国際協力

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平和構築:日本の危険な得意技になるか?

谷川昌幸(C)
朝日新聞社説「平和構築―日本の得意技にできる」(4月18日)は,要するに,自衛隊海外派兵のための御用記事である。
 
 (前略)日本は、国連平和維持活動(PKO)予算の13%を分担し、米国に次ぐ拠出国である。5年前には国連平和構築委員会の創設にかかわった。アフガンでは軍閥の武装解除も行った。
 平和構築は日本外交の一つの看板になりうるといってもいい。
 フィリピン南部ミンダナオ島では、イスラム武装勢力と政府軍との紛争の現場を見守る国際監視団に、国際協力機構(JICA)が専門家2人を送り込んでいる。・・・・
 しかし、こうした実践例はまだ少ない。国連PKOへの自衛隊・警察の派遣実績は2月時点で世界で84位。政府の途上国援助(ODA)で平和構築に使われた過去4年の実績は主要先進7カ国中6位にとどまっている。
 平和構築を日本の得意技にするためには、まず現場で活躍できる人材育成が欠かせない。
 広島大学は外務省の委託を受けて、3年前から、平和構築を志す若者に研修を行ってきた。国内での1カ月半の講義の後、紛争地で実地研修を積み上げる。防衛省も今春、人材養成のため国際平和協力センターを発足させた。PKOが自衛隊の本務とされてはや4年。停戦監視や司令部要員など国際的な人材づくりは急務である。
 問題は育てた人材をどう活用するかであり、それは日本の外交の方針と一体として考えられなければならない。
 いま国連PKOで働く日本人の文民は約30人にすぎない。政府はPKOへの派遣にもっと力を入れるとともに、各地での紛争状況を把握し、当事者間の対話や調停にも取り組むべきだ。 ・・・・(朝日社説4月18日)
 
周知のように,平和構築には「軍事的支援」と「非軍事的支援」の二つがあり,日本が参加できるし,参加すべきなのは,いうまでもなく「非軍事的支援」である。
 
これは日本国憲法に明確に規定されている。憲法は,前文で国民の平和貢献義務を宣言する一方,第9条で戦争・戦力・交戦権の放棄を規定した。日本は,非軍事的平和貢献に特化し,最大限の努力をすべきなのである。
 
ところが,朝日社説は,まず「PKOへの自衛隊・警察の派遣」という表現で自衛隊(軍隊)と警察の区別をさらりと無視し,派遣実績が少ないと嘆き,人材育成を要請する。
 
そして,広島大学防衛省を並記し,その平和構築「人材育成」努力を評価する。まさか,広島大学が防衛省と協力して,つまり学軍協力(民軍協力)により,人材育成をやっているわけではあるまいが,そう受け取られかねない記述だ。(学軍協力はたいてい軍部委託研究などから始まる。)
 
そして,最も許し難いのが,「いま国連PKOで働く日本人の文民は約30人にすぎない。政府はPKOへの派遣にもっと力を入れるとともに」の部分だ。議論が巧妙にごまかされ,すり替えられている。「PKOで働く日本人の文民は約30人にすぎない」を受けて,「政府はPKOへの派遣にもっと力を入れる(べきだ)」と主張されている。前段は「文民」なのに,それを受けた後段には「文民」の限定はなく,読みようによっては自衛隊も含まれている。いや,むしろ自衛隊派遣拡大こそが,この社説の隠された真のねらいなのだ。
 
日本にとって,平和構築支援は絶対に必要だ。しかし,それは非軍事的貢献に限定される。朝日社説にたぶらかされ,平和構築を日本の危険な得意技にしてしてしまってはならない。
 
  国際平和協力本部(http://www.pko.go.jp/

Written by Tanigawa

2010/04/20 at 17:20