Posts Tagged ‘留保’
ネパール地方選における女性の大躍進
ネパール地方選は,第1次(5月14日投票)と第2次(6月28日投票)が実施され,残るは第3次(第2州対象,9月18日投票予定)のみとなった。これまでのところ,選挙は,多少の混乱はあったが予想以上に順調に行われ,全体として野党UMLがやや優勢であるものの,NC=MC連立政権の存続を脅かすほどではない(*3, *4)。
この地方選で最も注目されるのは,政党の勝ち負けよりも,むしろ女性の大躍進である。全体の正確な数字はまだ明らかになっていないが,第1次選挙では当選者の約40%が女性となった模様である。
これは,ネパールがつい最近まで女性差別の最も大きい国の一つとされてきたことを考えると,驚異的な変化である。どのようにして,地方政治への女性の進出は可能となったのであろうか?
直接の最大の要因は,選挙制度の抜本的大改正である。国政選挙では,新憲法制定の結果,すでに女性議員比率約30%となっているが,ここでは地方選挙制度の概要を見ておこう。
ネパールの地方政府(地方自治体)は,IFES「ネパールの選挙:2017年地方選挙」(*1)によれば,次のような構成になっている。(現在制度改変中であり,以下は上記資料データによる。)
■郡――市/村――区
・郡(जिल्ला) 75
・市(नगरपालिका) 264
大都市(महानगरपालिका) 28万人以上
中都市(उप-नगरपालिका) 15万人以上
市(नगरपालिका) 2万人以上
・村(गाउँपालिका) 481
・区(वार्ड) 各市/各村ごとに5~33
■代表の構成
・区:区長1,議員4を選挙選出
・市/村:市長・副市長/村長・副村長を選挙選出
議会は市内/村内の各区の代表(区長・区議員)により構成
・郡:郡議会は各市/各村の市長・副市長/村長・副村長により構成
郡行政委員会(定数9)は郡議会議員から選出
■代表選出方法
各有権者は,次の7ポストにつき,1枚の投票用紙で投票(印を付け投票)
市長/村長 1
副市長/副村長 1
区長 1
女性区議員 1
ダリット区議員 1
一般区議員 2
■女性候補と女性留保ポスト
・区選挙立候補者5人のうち2人は女性で,かつその1人はダリット
・市長/村長と副市長/副村長の両方に候補者を出す場合,いずれか一方は女性
・郡行政委員会の委員長と副委員長の両方に候補者を出す場合,いずれか一方は女性
・女性留保議席:市議会5,村議会4,郡行政委員会(定数9)3
以上がネパール地方選挙制度の概略だが,国政選挙と同様,包摂民主主義に則っているため,要約困難なほど複雑だ(誤りがあれば,ご指摘ください)。日本でも運用困難かもしれない,これほどややこしい方法による選挙が,さして大きな混乱もなく実施できたことは,正直,たいへんな驚きである(*2)。
それはともあれ,こうした女性のためのクォータ制や留保制により,ネパールの地方自治へ女性が大量進出,ポストの40%を占めるに至ったことはまぎれもない事実。女性は副市長/副村長の方に回され,市長や村長はまだ少ないという批判もあるが,それは候補者選択の際の党内民主主義の向上に俟つべきかもしれない。
このようにネパールの政治制度改革は目覚ましい。いくつかの点で,ネパールは今や日本を追い越し,はるか先を行っている。そうした点については,日本は,謙虚に頭を垂れ,教えを乞うべきであろう。
▼バンダリ大統領(左)とマガル国会議長(右)(大統領府HP)
【参照】「議会と政府における女性」英下院図書館,2017年7月12日(*1)
・女性大統領(2017年3月現在):ネパール,スイス,台湾ほか11か国
・女性議長(2017年6月1日現在):ネパール,オーストリア,ベルギー,デンマークほか55か国
・国会女性議員比率(193国,2017年6月1日現在)
1 ルワンダ61%,6 スウェーデン44%,12 ノルウェー40%,47 ネパール30%,161 サモア10%,164 日本9%,167 コンゴ9%,170ブータン9%,178 イラン6%,190 カタール0%
*1 International Foundation for Electoral Systems, “Elections in Nepal: 2017 Local Elections,” May 10, 2017
*2 百党斉放のネパール地方選挙
*3 地方選:2大政党善戦と選挙運動の変化
*4 地方選,3回に分けて実施
谷川昌幸(C)
コメントを投稿するにはログインしてください。