ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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石油類「灰色」市場

ネパールの石油類価格が今どうなっているのか,日本にいては実情がよくわからないが,報道によると,ガソリン1リットルの価格は,正規104ルピー(125円),灰色市場190~250ルピー(230~301円)くらいのようだ。ブラック市場は闇(ヤミ)だからはっきりしないが,しばらく前までは,300~500ルピー(361~602円)くらいだった。

ここで問題は,正規と闇の中間にある「灰色」市場。ネパール政府は,インドの「非公式経済封鎖」による燃料不足への緊急対策として,昨年10月中旬,民間企業20社以上に燃料輸入を認めた。ところが,この緊急対策が不透明で,「正規」でも「ヤミ」でもない「灰色」市場ができてしまったらしい。

槍玉に挙げられているのが,ビラト石油(Birat Petroleum)。ビラトは,インドのシリグリなどからガソリンやジーゼル燃料を仕入れ,ネパール石油公社(NOC)を通して,あるいは直接,ネパール国内で販売する。
 ▼ガソリン1リットルの価格(ネパールルピー,NOC正規価格は104ルピー)
  インド106 ⇒ビラト石油⇒ NOC199       
  インド106 ⇒ビラト石油⇒ ネパール国内直接販売220~250

上記価格は必ずしも正確ではないかもしれないが,それでも,これを見ただけで,とんでもない多重価格となっていることが分かる。民間会社は,輸入さえすれば,それだけで莫大な利益が得られる。

ビラト石油は,ネパール石油公社(NOC)との間で2億ルピー相当の輸入契約を結んだ。関税もNOC負担。この取引だけで,ビラト石油は4400万ルピーの儲けとなるはずだった。まさに濡れ手に粟。NOCは深刻な燃料不足のためやむなく契約したと弁解したが,激しい非難を浴び,この契約は破棄した。(この経緯も不透明。)

現在のネパールの燃料事情は,日本にいては正直なところ,よくわからない。しかし,不足を背景に価格が何重にもなっており,ヤミに近づけば近づくほどボロ儲けができることは確かだ。民主憲法ができ,民主的政府もできたが,統治は大混乱というのが実情らしい。

 160107■ネパール石油公社(2015年11月23日撮影)

【参照】
*1 “NOC TO ALLOW ITS DISTRIBUTORS TO SELL BIRAT PETROL,” Republica, 05 Jan 2016
*2 “BIRAT PETROLEUM TANKER SEIZED,” Kathmandu Post,Dec 31, 2015
*3 “Birat Petroleum announces end of controversial fuel import deal with Nepal Oil Corporation,” The Himalayan Times, November 08, 2015
*4 “NOC awards fuel supply contract to Birat Petroleum,”The Himalayan Times, November 05, 2015
*5 “BIRAT PETROLEUM IMPORTS PETROL DESPITE TERMINATING SUPPLY CONTRACT,” Republica,25 Dec 2015
*6 “NOC ADMITS FLOUTING LAW IN CONTRACT AWARD TO BIRAT OIL,” Republica,06 Nov 2015

[追加]燃料価格Republica,2016-1-8)
 NOC正規価格:ガソリン104ルピー,ジーゼル燃料82ルピー
 ビラト石油販売価格:ガソリン190ルピー
 ヤミ価格:ガソリン350~400ルピー [最安値200ルピー]

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/07 at 12:53

カテゴリー: インド, 経済

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ヤミとコネの功罪

外人が外から見ると,ネパール社会の基底にはまだ「ヤミ・コネ」経済があるように思われる。といっても,暗い面ばかりでなく,そうであるからこそ,ネパール社会が突如苦境に陥っても,崩壊せず,何とか秩序を維持し存続できているのではないだろうか。たとえば,インド「非公式」経済封鎖による石油・ガス不足。

日本のような人間関係の希薄化した大衆社会だと,生活必需品の不足に人々は慌てふためき,パニックとなり,一気に過激な群衆行動に走りがちである。他方,政府も,大衆に選ばれ大衆に依存しているからこそ,大衆群集心理の恐ろしさを熟知・警戒し,何とかして大衆パニック,大衆暴動を回避しようとして焦り,一気に専制化し,強権的経済統制・社会統制に向かう。

そして,こうしていったん専制的権力を握ると,現代大衆国家は,高度に発達した情報技術を駆使して国民すべてを――たとえばマイナンバーなどで――管理し,その専制体制を永続化させる恐れが強い。そこには,権力が見てコントロールできない「ヤミとコネ」はない。現代型専制は,すべてを見て,すべてを支配する。

ところが,ネパールは,まだそのような現代型大衆社会ではなく,「ヤミとコネ」が至る所に伏在し,必要な時には表の機能を効率よく代替する。石油・ガス不足が長期化し,先が全く見通せなくても,人々が,不平不満はあっても,決してパニックにならないのは,そのためだ。「ヤミ・コネ」経済が十分に機能しているのだ。

ガソリンは「ヤミ」ルートで大量に流れ,「コネ」を通して「ヤミ」価格で取引されている。ガソリンは現在正規価格112ルピー(131円)位だが,「ヤミ」では500ルピー前後で売買されているそうだ。

「ヤミ」ガソリンは,まずインドから相当量入っているのではないかと思われる。インドからポリ容器などに入れ,あるいは車やバイクを燃料満タンにして,ネパールに入国し,それを「ヤミ」に流せば,4~5倍のぼろ儲けとなる。やっていると見るのが自然だ。マデシ反政府派がインドからの入国車両・バイクを攻撃するのにも,それなりの理由がある。

一方,ネパールに正規に入ったガソリンについては,それがどれだけ「ヤミ」に流れているかは不明。だが,役得や「コネ」で入手したガソリンを転売すれば,それだけでぼろ儲け――あるいは恩を売ること――ができるのだから,相当量あっても不思議ではあるまい。

こうした「ヤミ」ガソリンは,ミネラルウォーター用容器で受け渡されることが少なくない。1本1リットル。ネパールのプラスチック容器は薄くて弱い。すぐ破れ漏れる。こんな危険な「ヤミ」ガソリンが出回ると,新聞が報道しているように,ときには引火し惨事となる。たしかに異常な事態だが,一方,それによって相当数の車やバイクが「自転車操業」的に動いていることもまた事実である。

このように,「ヤミ・コネ」経済は,不足している物資を,危険を伴いつつも,それなりに効率的に調達し,供給・分配している。高価な「ヤミ」価格でも,それを買える人々に売るという意味では,必ずしも資本主義に反するものではない。

いまの「非公式」経済封鎖のもとで,ネパール政府が,この「ヤミ・コネ」経済以上に効率的に石油を供給分配できるかどうか? 遺憾ながら,はなはだ疑問である。

151129b ■かまどで調理。干し米の油揚げ(食品名?)

151129a ■のどかではある風景(ラトナ公園前)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/29 at 18:08

カテゴリー: インド, 社会, 経済, 文化

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カトマンズの交通量、1/3~1/2

11月19日深夜、カトマンズ着。翌日、さっそく市内を見に行った。ラトナ公園周辺など、市中心部の交通量は、燃料不足のため、見たところ通常の1/3~1/2。車もバイクもスイス走っていた。排ガスが少なく歩くのに最適。

電動小型乗り合い三輪車(ツクツク)は、電動だからか、そこそこ走っていた。15ルピーと、安い。しかも、愛想のよい女性運転手が多い。石油不足は悪いことばかりではない。

その一方、人びとが移動に難儀していることは、屋根の上に乗客を乗せたバスが多数見られたことでも明らか。いつもだと、屋根に乗客を乗せたバスなど、市内ではほとんど見られない。やはり、燃料不足のため、バスの運行が大幅に間引かれているのだろう。

▼屋根上のバス乗客
151120c
 ■シンハダーバー前。上方は最新ソーラー照明。

151121a
 ■バスパーク。近郊・郊外行のほぼすべてのバス屋根上には乗客。

151121b■バグバザール。後方道路に車ほとんどなし。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/21 at 01:58

カテゴリー: その他, 社会, 経済

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中国からの石油輸入、価格は?

中国は、ネパール国内石油需要の1/3を中国から輸出することに合意しているが、問題は価格。

11月16日、GM.プン通商供給大臣がオリ首相書簡を携え訪中、価格交渉をした。中国側は市場価格での石油供給を約束したというが、ここには輸送費や精製費は含まれていないという。

中国側は、どこから、どのような手段で運ぶのだろう? トラック、それとも鉄道? あるいは、精製とは?  これらのことは、専門外でよく分からないが、おそらく安くはないのだろう。

それでも、もしそうした課題が解決され、覚書通り中国から石油が供給されるなら、ネパール国内の石油燃料の1/3は中国経由となる。また、そうなれば、他の物質もいま以上に大量に入り始めるだろう。

これは大きい。経済的にはむろんのこと、政治的にも文化的にも。

111520a
 ■シンハダーバー(政府庁舎)前の給油待ち車両の列;給油所は前方バドラカリ寺院前。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/20 at 05:10

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

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首都で薪販売開始,ネパール政府

ネパール政府が,燃料不足に対処するため,薪の販売を始めるらしい。

森林・土壌保全省が11月10日,「ネパール材木会社(TCN)」に対し,バラ郡,ナワルパラシ郡などの森から燃料用木材を集め,都市部に運び,とりあえずカトマンズとパタンで11月13日から販売を始めるように指示した。トラック215台分だという。

カトマンズやパタンは,今では生活様式は東京や大阪などと大差なく,中心部の人口密度はむしろ日本より高いはずだ。そんな大都市のど真ん中で,市民やレストランが薪で煮炊きする。あるいは,金ぴか高級マンションの窓から,薪ストーブの煙突がのぞき,煙をもくもく吐き出す。超近代的で絵にはなるだろうが,大丈夫かな?

ネパールの家庭燃料は,全国では薪64%,LPG21%(2011年度)だそうだ。地方は,まだまだ薪使用が多い。だから薪調達が不可能というわけではない。

しかし,薪は16ルピー/Kgだそうだ。これは,とんでもない高値ではないか? 森林省は,地域の共有林の枯木や枯枝を集めて都市部へ運び,売れ,と指示しているが,素人が考えても,そんなことで間に合うはずがない。

すぐに始まるであろうのは,地方住民の使うはずの薪を高値で横取りし,都市部住民に売り,儲けること。もう一つは,森林を伐採し,はげ山化,砂漠化に拍車をかけること。

いずれにせよ,石油漬け,ガス依存になってしまった都市生活の危機を代替薪で救うのは,中長期的にはむろんのこと,短期的にも無理である。

また,中国からの石油やガスの輸入も,悪路と冬季に入ることを考えると,あまり期待はできない。やはり,何とか早く,マデシ紛争を解決し,ビルガンジ国境通過を正常化する以外に方法はあるまい。

森林省は「ネパール石油会社」に対し,薪運送トラックへの石油優先供給を要請したそうだ。

[追加] (11月15日)
薪価格: 15ルピー/Kg,1家族110Kgまで(15日報道)。

私自身,高度成長以前の日本の村で,薪を煮炊きや風呂沸かしや暖房に使っていたが,すべて自宅裏の山から採取してきた薪。原料は,造林の際,間引いた木や雑木であり,加工用木材としての価値はほぼゼロ。

ネパールの薪使用は,林業と両立していた日本のそれとは,かなり異なるようだ。報道写真を見ると,カトマンズに運び込まれている薪は,どうみても枯木や枯枝ではない。伐採がいつかはわからないが,薪用に販売されている材木は,建物や家具などに使用可能な立派な大木である。こんな大木を燃やしてしまってよいのか? そんなことをすれば,ネパールの森林がまた減るのではないか? 心が痛む。

そもそもカトマンズの薪価格は高い。煮炊きならまだしも,暖房に使ったら,すぐなくなってしまうだろう。

(参照) Kathmandu Post,6,11,12 & 15 Nov; time.com,11 Nov.

150502b■カカニの森林伐採(谷川,2002)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/14 at 11:13

カテゴリー: 経済

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インド国民射殺,ビルガンジ国境付近

11月2日,ビルガンジの印ネ国境付近で,ネパール警察と道路封鎖反政府派が衝突し,警官の銃撃によりインド青年(24歳大学生?)が死亡した。(他にインド人2名逮捕。) 状況は混乱しており,射殺されたインド青年がマデシ系反政府活動に参加していたのか,それとも衝突に巻き込まれたのかは,まだはっきりしない。

印ネ国境は解放国境(open border)であり,印ネ両国民は自由に往来できる。道路封鎖は国境付近で行われており,インド側住民がネパール側のデモに参加していても何ら不思議ではない。むろん,たんに巻き込まれただけかもしれないが。

いずれにせよ,ネパール警察がインド国民を銃により射殺したことは事実であり,これに対し,インド政府は怒りの声明を発表した。

[インド外務省報道官談話,11月2日]
報告では,今日ビルガンジで発砲事件があった。憂慮している。無実のインド国民が射殺された。ネパールの今の問題は本質的に政治的なものであり,力では解決できない。ネパール政府は,対立の根底にある諸原因に,誠実かつ効果的に取り組むべきだ。

インドの輸送業者らは,国境の先の状況悪化への懸念を今日また表明した。われわれは,輸送業者らに対し,よく注意し危険を避けるよう警告した。われわれは,状況を注視している。(印外務省)

これに対し,ネパール政府の反応は,かなり高飛車だ。報道によれば,オリ首相はこのように反論している。

「死者が出たのは遺憾だが,ネパールにおける抗議活動にインド国民が加わるのは憂慮すべきことだ。」「インド国民がマデシの反政府活動を支援するのは,状況を複雑化させ,両国関係を阻害するだけだ。」(Republica, 3 Nov)

「そのインド国民は,この地域の安全を守っている警察に投石したので,警察により撃たれたのです。」(Kathmandu Post, 3 Nov)

オリ首相や他のネパール政府高官が言うように,インド側住民がマデシ系反政府活動に参加していることは十分に考えられるが,だからといってインド国民をネパール領内で射殺すれば,政治的な大問題になることは,いうまでもない。印ネ関係やマデシ系反政府活動が今後どうなるか,ますます心配になってきた。

 151104■国境近くの「インド石油(IOC)」基地(Google)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/04 at 22:28

カテゴリー: インド, 経済, 民族

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中国経由石油,ヒマラヤを越えられるか?

ネパール政府は,石油・ガス不足に対処するため,中国と覚書を交わし,石油類の輸入に着手した。が,北方にはヒマラヤがそびえている。この難所を越えられるのか?

ネパールの石油・ガス不足は,かなり深刻だ。燃料不足で民間車両が少ないため,10月30日から軍用車両4台が出動,カトマンズ8路線を終日無料で市民を運び始めたが,これは焼け石に水。また,プロパン不足のため,半分充填で販売し始めたが,これもボンベ数は倍になっても,早く無くなるので,自転車操業にすぎない。

こうした状況にあって,中国からの石油供与や,それに続く石油輸入は,まさに寒天の慈油。しかし,緊急措置としてはそうであっても,少し長期的に見ると,どうか? 本当に,うまくいくのだろうか?

一つは,何といってもヒマラヤ越え。カトマンズから吉隆まで200キロ前後。地震被害部分を応急補修したそうだが,各紙写真を見ると,急峻な悪路を谷底に落ちそうになりながらタンクローリーが登っている。10月31日,12台がラスワガディ国境まで着いたそうだが,この様子では,安定的大量輸送は望めそうにない。運転手も怖がり積載量を大幅に少なくしているそうだ。積雪や凍結もある。

国境からカトマンズ付近までパイプラインを引く計画もあるが,これはすぐには間に合わない。ヒマラヤ越えはいまでも難しい。

もう一つは,それと関連するが,中国経由石油には,当然,インドが戦術的な対抗措置をとる。すでに,インドは石油・ガスの対ネパール輸送を少し増やし、様子を見ている。中国からの石油購入は,対印圧力としての政治的意味は多少あるにしても,中国内陸輸送・ヒマラヤ越えの経費を考えると,コスト的にインド経由石油には対抗できそうにない。経済的には,中国からの継続的石油輸入は無理ではないか?

おそらく,そうしたこともあってだろうが,マデシ反政府活動は,治まりそうにない。最重要通過点であるネパールガンジ・ラクサウル間の国境付近も,11月1日朝,ネパール警察がデモ隊を排除し,通行可能としたが,インド側タンクローリーがインド側に戻ると,インド治安部隊がすぐデモ隊の再展開を容認したため,再び閉鎖されてしまった。

インド側は,長期的には、中国経由石油をさして脅威と見ていないのではないか? そもそもネパールの石油・ガス不足は,憲法制定という政治問題に起因している。その解決がなければ,石油・ガス問題の解決も難しいのではないだろうか。

151102

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/02 at 19:45

カテゴリー: インド, 経済, 憲法, 民族, 中国

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