ネパール評論 Nepal Review

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新憲法起草の争点:財産権

新憲法で財産権をどう規定するかをめぐって,諸政党が対立している。一つは,私有財産に上限を設定するか否か。もう一つは,土地収用を補償なしとするか否か。

1.財産権の規定例
財産権については,当然ながら,資本主義憲法と社会主義憲法とでは,大きく異なる。

日本国憲法第29条:「財産権は,これを侵してはならない。」「私有財産は,正当な補償の下に,公共のために用いることができる。」
米国憲法修正第5条:「正当な補償なく,私有する財産を公共の用のために徴収されない。」
独基本法第14条:「所有権及び相続権は,これを保障する。」「公用収用は,・・・・補償の方法及び程度を規定する法律の根拠に基づいてのみ,これを行うことが許される。」
仏人権宣言第17条:「所有権は不可侵かつ神聖な権利であり,・・・・事前の正当な保障の条件の下でなければ,その権利を奪われてはならない。」
中国憲法第6条:「生産手段の社会主義公有制」/第9条:「自然資源は,すべて国家所有」/第10条:「都市の土地は国家所有に属する。」それ以外の「土地は,集団所有に属する。」/第11条:「法が定める範囲内の個人経済,私的経済等の非公有制経済は,社会主義市場経済の重要な組成部分である。」/第13条:「市民の合法的私有財産は,侵すことはできない。」私有財産の収用または徴用には「補償を与えることができる。」(『世界憲法集』岩波文庫)

2.マオイスト:上限超過土地の無償収用
マオイスト(UCPN-M)は,私有財産,とくに土地所有の上限規制を要求し,上限超過土地は補償なしで没収することを強硬に主張している。また,労農党(NWPP)も「土地を耕作者に」をスローガンに,土地所有の上限規制を要求している。

Agni Sapkota:「土地は自然資源であり,誰にも土地は創り出せないから,土地は国家のものとすべきだ。」(Himalayan, 12 Jun)
Haribol Gajurel:「上限以上の所有土地の没収には,補償は不要だ。」(Ekantipur, 11 Jun) 「土地は自然のものであり,国家のものでも個人のものでもない。土地没収で本来なら誰にも損害は出ないはずだ。なぜ補償が必要なのか。」(Republica, 15 Jun)

マオイストの議論の核心は,土地所有の上限を定め,上限超過土地は無償で収用,つまり没収すべきだという主張にある。これは,結党以来,マオイストの最重要政策であり,人民戦争のスローガンでもあった。

3.NC,UML,RPP:財産権保障と収用補償
コングレス党(NC),統一共産党(UML),国民民主党(RPP-N)は,私有財産保障の程度については意見が分かれているが,少なくともマオイストの上限超過土地の無償収用には絶対反対である。

コングレス
Gopal Man Shrestha:財産所有権は基本権の一つだ。正当に取得された財産に所有上限を設けるべきではない(Ekantipur, 11 Jun)。
Ramesh Lekhak:財産上限規制は,基本的人権の原理に反する。土地収用には補償をすべきだ(Himalayan, 10 Jun)。
Dhanraj Gurung:「財産取得は自由であり奨励されるべきだ。その上で,累進課税を採用し効果的に適用すればよい。」(Republica, 15 Jun)

UML
Bharat Mohan Adhikari:財産取得に上限を設けるべきではない。効果的に課税をすればよい。(Himalayan, 10 Jun)
Kasi Nath Adhikari:土地所有に上限を設け,上限超過土地には加算課税をすればよい(Ekantipur, 12 Jun)。

RPP-N
Kamal Thapa:「新憲法は,財産所有権を国民に保障すべきだ。政府は土地収用には補償をすべきだ。」(Ekantipur, 10 Jun)

140624 ■科学的土地改革高等委員会報告書

4.累進課税と公平な徴税
制憲議会選挙では,NC,UML, RPP-Nが大勝し,マオイストは惨敗したので,上限超過土地の無償収用ないし没収を新憲法に規定することは,困難であろう。

しかし,大土地農地所有と土地なし農民の問題の解決は避けては通れないし,また近年の経済発展による農地以外の財産格差も限度を超えている。

この問題について,マオイストのように,財産所有に上限を定め,超過分は無償没収とするのは,あまりにも強権的であり,実行困難であろう。現実的なのは,やはり保有財産や相続財産に累進課税をかけ,ある程度時間をかけ財産格差を縮小していく方法であろう。

といっても,累進課税による格差縮小も,グローバル新自由主義体制の中に組み込まれてしまった今のネパールには,実際には容易なことではないかもしれない。また,そもそも財産や所得がどこまで正確に把握され,課税徴収されているかも,はなはだ疑問である。前途多難といわざるをえない。

▼富裕国ほど低い法人税(IMFツイッターより)
140625a

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/06/24 at 15:42

マオイストの憲法案(16)

4(10) 財産権

マオイスト憲法案第31条(1)~(5)は,財産権を規定している。

マオイスト憲法案第31条 財産権
(1) 財産の取得,所有および処分の権利。
(2) 個人財産への累進課税。
(3) 公益目的以外での個人財産に対する負担付与の禁止。ただし,本項は,非生産的財産または不法取得財産には適用されない。
(4) 国家は,次の場合,補償義務を負うことなく財産を収用することができる。革命的科学的土地改革プログラムにより土地なし農民もしくは無断居住民(squatter)に土地を配分するため,または第3項により公益のために,国家が収用,取得もしくは負担付与する場合。
(5) 土地の生産性向上のため,ならびに農業近代化,環境保護,秩序ある住宅建設および都市開発のために,国家は土地利用を規制できる。

財産権については,1962年憲法でも,「法律による場合を除いては財産を奪われない」との留保がつけられていた。1990年憲法では,公益による財産権の制限が認められたが,その際には国家補償が義務づけられた。2007年暫定憲法ではどうか?

暫定憲法第19条 財産権
(1) 上記(1)と同じ。
(2) 上記(3)とほぼ同じ。「但し書き」による適用除外は不法取得財産のみ。
(3) 上記(4)に対応。財産の国家収用あるいは負担付与の場合には,国家補償を義務づけ。

さすが毛沢東主義者! 財産,特に土地については「革命的」な規定をしている。31条(4)によれば,国家は地主から土地を没収し,「土地なし農民」や「無断居住者」にそれを配分することができる。あるいは,少し拡大解釈すれば,「非生産的財産」についても,国家はそれを没収し,必要な人々に配分することができる。

これは革命的だ。ネパールで土地改革が叫ばれながら,いっこうに前進しなかった最大の理由は,土地収用に対する補償である。地主の土地隠しも確かに問題ではあった。名義を分散し,犬や牛にそれらしい名前をつけ土地所有者としている例もあった。しかし,そうした手口はその気になって調査すれば,すぐに解明できる。ところが,国家補償となると,大金がかかり,実際には,土地収用・再配分は困難であった。マオイストは,そこに真正面から切り込み,地主からの無償土地収用,農民への配分を憲法に明記したのだ。

無茶だと思われるかもしれないが,日本でも敗戦後の「農地解放」により地主の土地は「ただ同然」で強制買い上げされ,小作農民に払い下げられた。事実上,マオイスト流の土地改革を日本も,いやアメリカ(GHQ)ですら,実行したのだ。アメリカがしたのと同じことを,マオイストがやって悪いわけがない。

マオイスト憲法案の財産権規定については,もう一つ注目すべきは,累進課税を明記している点である。ネパールでは,いまだ所得が十分に補足されておらず,ここに根本的な問題があることは事実だが,それはいわば技術的な問題であり,いずれ改善されるであろう。これに対し,累進課税は所得再配分の政策選択であり,これの明記は重大な意味を持つ。

マオイストはいうまでもなく共産主義者であり,まずは社会主義の実現を目標としている。累進課税は,「社会主義的」な所得再配分政策であり,憲法明記は革命的だ。

今のネパールでは,農民や労働者を搾取し財産を蓄積した半封建的有産階級や買弁ブルジョアジーが,贅沢三昧の生活をしている。そんな「反人民的」な財産には懲罰的重税をかけ,税収を増やし,それでもって生活苦の人民の生活向上が図られて当然だ。

マオイスト案の財産権規定は,突飛な危険なものではない。西洋も日本も,歴史のある段階で,みなやってきたことなのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/04/19 at 16:25

カテゴリー: マオイスト, 経済, 憲法

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