ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Posts Tagged ‘管理社会

インドから日本へ指紋認証:高野著『指紋と近代』

1.生体認証の先駆,指紋認証
国連機関の瞳認証や嵐コンサートの顔認証は,人々を一人残らず,一人ひとり識別し管理しようとする近現代社会の本能ないし業から生み出された技術の一つであり,非近現代的原理による本気の介入がなければ,情報技術の革命的進化により近い将来完成するであろうユートピア=デストピアの先触れのようなものである。このことを考えるうえで参考になるのが,この本――
高野麻子『指紋と近代:移動する身体の管理と統治の技法』みすず書房,2016年,3,700円
160511

2.内容紹介(裏表紙)
「指紋によって個人を識別する「指紋法」という技術は、19世紀末のイギリスの植民地インドで実用化され、瞬く間にヨーロッパ諸国とそれらの植民地、そして日本を経由して傀儡国家「満洲国」に伝わった。・・・・ 指紋法は移動する人びとを、国家や植民地統治者が把握・管理可能な状態に置くための統治の技法だった。その後、・・・・移動する人びとだけでなく、領土内の全住民を指紋登録によって完全に管理することが統治者の夢となり、国民国家の形成・再編の局面で繰り返し大規模な指紋登録が議論された。・・・・愛知県民指紋登録はその一例である。」(裏表紙より)

3.指紋登録:インド,満州国,戦後日本
(1)「犯罪部族」指定と指紋法採用
インドにおいて,イギリスは国勢調査,統計によるデータ化,カーストや部族によるカテゴリー化を行い,「住民を統治可能な存在へと変換」しようとした(p10)。「異質な他者」の統治ないし管理。その典型が「犯罪部族法」による「犯罪部族」の指定であり,指紋法の採用である。
(注) 犯罪部族法(criminal tribes law)」1871年制定,1947年廃止。廃止時点で約120部族,1300万人指定。

「羊飼いのノマド,吟遊詩人,薬剤師,商人,ジャングルや丘陵に住まう人たちを,当時のイギリスは,無差別に『犯罪部族』として,『危険』で『犯罪的』な集団と位置づけた。・・・・そして,右のような犯罪部族の管理を担当したエドワード・ヘンリーその人が,指紋法の生みの親となる。・・・・指紋法は実用化されるやいなや,瞬く間に世界中へと伝播していった。一九〇八年,後発の帝国である日本においても,指紋法は『近代化』と『文明化』の道具としてもたらされた。」(p10-11)

それにしても「犯罪部族」指定とは,いかにも冷徹な現実主義英帝国のやりそうなことだが,近現代の管理社会理念には合致している。今後,生体認証がさらに高度化し普及していけば,人間識別(差別)がはるかに厳格化することは間違いない。しかも,それは精神ではなく,生きた人間の身体による識別(差別)。問答無用,犯罪身体!

(2)満州国の指紋登録
「傀儡国家『満州国』では,建国直後から世界初の完璧な国民管理システムとして,全国民への指紋登録が議論されていた。指紋法は,まさに『理想』の新国家を構築するための最新技術として期待され[ていた]。」(p11)

「全世界に於いて戸籍法に指紋法を実施するのは,満州国を以て嚆矢とす。右は真に新国家にふさわしいことである。形式的戸籍法を実体的戸籍法とするのであるから実に正確なる点に於ては世界一となるであらう。」(1932年発行百科事典,本書p73)

しかし,この満州国の指紋登録制度は,敗戦により中途で頓挫した。「ただし,満州国で大規模に展開された指紋法をめぐる物語は,ここで終わらなかった。全国民を指紋登録によって管理するという統治者の『夢』は,さまざまなかたちで戦後日本へと引き継がれていく。」(p153)

(3)国民指紋法構想から県民指紋登録へ
日本では,敗戦後間もなく,「国民指紋法」構想が浮上した。「小学校にはいるときに全児童の指紋をとって学校に保管する,会社,工場でも然り,農業団体,官庁その他あらゆる団体で所属人員の戸籍その他の書類といっしょに指紋をとって保存しておくのだ,・・・・こういう指紋の全国組織ができてはじめて文明的な防犯体制になると思う。」(古畑種基,毎日新聞1948年2月5日記事より引用,本書p165)

この「国民指紋法」は成立しなかったが,1950年から警察主導の「県民指紋登録」が各地で推進された。しかし,これも裏付けとなる法制度が整わず,多くの県で取りやめとなった。

ところが,「愛知県だけは,その後約二〇年間にわたって県民登録を継続した。一九六九年の時点で,愛知県警察本部の鑑識課は二四六万人分の県民指紋を保管しており,単純計算でも県民の半数が指紋を採集されていたことになる。」(p175) 「愛知県では,県内の中学三年生を対象に各学校で,年中行事のように指紋登録が実施されていた。」(p176)

この愛知の県民指紋登録が人権侵害を問題とされ,事実上実施されなくなったのは,1970年である。

こうして日本では,国民指紋登録は,経費や人権侵害がネックとなり,結局は全面的には実施できなかったが,それでも,同調的な日本社会には,国民すべてを登録し管理したい,「異質」な人を見分け排除したい,という根強い願望が伏在していることは否定できない。

その日本において,先述のように,情報技術が革命的に進化し,生体認証の様々な技術が,いつでも,どこでも簡単に,効率的に利用できるようになり始めた。いまでは,私たちは,自らすすんで指紋,静脈,瞳,顔などの自分の身体情報を提供しなければ,出入国はむろんのこと,銀行利用や道路通行やコンサート入場など多くのことが出来なくなりつつある。

私たちは,ユートピアを求めて身体情報を提供しつつあるが,そこはむしろデストピアなのではないだろうか? いまいちど,改めて考え直してみる時ではないだろうか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/05/11 at 16:39

国連瞳認証と世界監視のユートピア=デストピア

朝日新聞(5月9日)が,特集「2030 未来をつくろう」を大々的に掲載している。1面トップの「脱貧困 分かち合うバッグ」や,特集に寄せられた各界識者・著名人の提言は,おおむねもっともだと首肯できるものだったが,国際面の記事「難民支える瞳認証 UNHCR,中東で活用」を読んで,愕然とした。そして,朝日新聞とビル・ゲイツ氏らが,いまなぜこのキャンペーンで手を組んだかも,なんとなく見当がついた。

1.UNHCRの瞳認証
朝日記事「難民支える瞳認証」によれば,瞳(虹彩)認証は,見ただけ(カメラを通すだけ)で個人が識別でき,同一人物の確率は「10の78乗分の1」だというから,システムが整えば,世界中の人々が一人ひとり間違いなく見分けられることになる。

この瞳認証をUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が採用したのは,大量の難民を救援するため。公平で効率的な難民救援には,難民一人一人の正確な認定・識別が不可欠であり,そこで2013年頃から,ヨルダンなどで3歳以上の難民の瞳(虹彩)登録がはじめられた。その結果,今では,ヨルダンの難民は,瞳認証で銀行から生活支援金を引き出したり,キャンプ内スーパーで買い物をしたり出来るようになっているという。

2.瞳認証のユートピア=デストピア
これは便利といえば便利。そして,便利だから,しかも国連さえも使用しているのだから,いずれ日本でも導入され,普及していくであろう。そうなれば,私たちは,印鑑もサインも暗証番号も,個人識別のための面倒な道具や手続きは,一切不要となる。お札や硬貨は廃止。カメラの前を通るだけで,買い物ができ,電車や飛行機に乗れ,劇場やテーマパークにも入れる。

これは,健全な暮らしをする善人にとっては,悪人やテロリストをことごとく発見・排除し,安心して効率的に暮らしていけるユートピアだ。

しかし,その反面,地域・国家・世界のどのレベルにおいても,「健全」とされている生き方に異を唱えようとする人々にとっては,それは完全監視の無影室のような社会,すなわち,どこにも逃げ場のないデストピア(dystopia)となるであろう。

3.2030年のユートピア=デストピア?
国連機関による瞳認証採用は,意図するとせざるとにかかわらず,このユートピア=デストピアに向け世界を先導することになるのではないか? そして,朝日新聞は,瞳認証(生体認証)を次の巨大ビジネスチャンスととらえる先見の明のある実業家らと手を組み,「2030 未来をつくろう」と呼び掛けることにより,そのユートピア=デストピアへの流れに掉さすつもりではないのだろうか?

160509(朝日新聞5月9日)

【参照】嵐アリーナコンサートで顔認証(5月10日追加)
「生体認証」は,日本でも,銀行やスマホの「指紋認証」など,すでに広く使用され始めている。

「顔認証」でいま話題になっているのが,嵐アリーナコンサート(4月23~8月10日)。チケットを持っていても,「顔認証」で本人と確認されなければ,入場できない。究極の「顔パス」だ。

こうした「生体認証」は,リオ・オリンピックでも使用予定という。

160509a■NEC顔認証システム(同社HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/05/09 at 18:00

マイナンバーはゼアナンバー,頻繁変更を

1.米語帝国主義への積極的従属
「マイナンバーのお知らせ」が届いた。売国的にして噴飯もの。表紙を見ると,文章中の主要単語はすべて敵性言語たる米語を日本語読みし,カタカナ表記したものだ。
  ■マイナンバー,カード,メリット,コンビニ,サービス,セキュリティ,システム
日本語は,これらの宗主国言語の隙間を埋める補助言語として,お情けで使用されているに過ぎない。米語帝国主義への日本語の卑屈にして「積極的(proactive)」な従属。(参照:英語帝国主義 日本語が滅びるとき

   151202

2.ゼアナンバーとしてのマイナンバー
周知のように,日本政府は,本音をごまかすとき,好んでカタカナ米語を使用する。政府や政治家のカタカナ米語を見聞きしたときは,まず眉に唾をつけ,なぜ日本語を使用しないのか,その隠された意図を探るべきである。マイナンバーもその典型。

マイナンバーは「私の番号」ではなく,カタカナ米語に正確に翻訳すれば,「ゼアナンバー(彼らの番号)」である。ゼイ(彼ら)が,ゼアのメリット(利益・利便)のため国民にナンバー(番号)を割り振った。だから,その本質は「ゼアナンバー」。

このゼアナンバーは,いずれコンビニエンス(利便)とセキュリティ(安全・治安)のため官民の各種サービス(業務)とリンク(連結)され,このままでは国民はもはやゼアナンバー・カード(彼らの番号札)なくしては一日たりとも生きてはいけなくなるであろう。

しかも,この彼らの言う「マイナンバー」は,12桁もある。とうてい,覚えられない。が,そうかといって,個人番号付きの「マイナンバーカード」をつくり,持ち歩けば,危険きわまりいない。さて,どうすべきか?

3.コロコロ頻繁変更
マイナンバーは本質的にゼアナンバーだから,マイ(私)のものではなく,私には不要。通知カードはすぐ破り捨てるべきだ。ゼイが必要とするときは,ゼイ(市役所など)に問い合わせれば,それで済む。そうすれば,万が一,悪用されても,その責任はすべて私ではなくゼイ,あるいはマイナンバー利用企業等の側にあることになる。

あるいは,それでも不安なら,すぐナンバー変更を申請すればよい。たとえば,
・他人に見聞きされたかもしれないとき。
・勤務先等のナンバー管理に不安を感じたとき。
・金融機関,通販,小売業者など,民間企業に漏れていると感じたとき。
・ネットに漏れているのではと感じたとき。
・監視カメラ映像と関連付けされていると感じたとき。
・その他,不安を感じたとき。

マイナンバーは本質的にゼアナンバーだから,管理責任はあげて政府にある。そして,国民には,少しでも不安を感じたら,いつでもナンバー変更を申請し,変更させる自由=権利がある。コロコロと変えてよいマイナンバー!

そもそも現代のこの情報化社会において,マイナンバーのような便利な「個人識別番号」が漏れ,利用され,流用され,悪用もされるであろうことは,火を見るよりも明らかだ。だとしたら,国民としては,自分の番号をコロコロ変える以外に,取り得るよい自衛手段は他にはないであろう。

なお,以上のことは,内閣府HPや様々な報道から導き出した一つの仮説にすぎず,まだ実証はされていません。真偽のほどは,それぞれ各自で,慎重に検証し,ご確認ください。

【参照】内閣官房「社会保障・税番号制度とは」(赤強調引用者)
Q2-5 マイナンバー(個人番号)は希望すれば自由に変更することができますか?
A2-5 マイナンバーは原則として生涯同じ番号を使い続けていただき、自由に変更することはできません。ただし、マイナンバーが漏えいして不正に用いられるおそれがあると認められる場合に限り、本人の申請又は市町村長の職権により変更することができます。(2014年6月回答)
Q4-1-1 民間事業者もマイナンバー(個人番号)を取り扱うのですか?
A4-1-1 民間事業者でも、従業員やその扶養家族のマイナンバーを取得し、給与所得の源泉徴収票や社会保険の被保険者資格取得届などに記載して、行政機関などに提出する必要があります。また、証券会社や保険会社が作成する支払調書、原稿料の支払調書などにもマイナンバーを記載する必要があります。(2014年6月回答)
Q4-1-3 マイナンバー(個人番号)を使って、従業員や顧客の情報を管理することはできますか?
A4-1-3 ・・・・法律や条例で定められた手続き以外の事務でも、個人番号カードを身分証明書として顧客の本人確認を行うことができますが、その場合は、個人番号カードの裏面に記載されたマイナンバーを書き写したり、コピーを取ったりすることはできません。(2014年6月回答)
Q4-1-4 マイナンバー(個人番号)を取り扱う業務の委託や再委託はできますか?
A4-1-4 マイナンバーを取り扱う業務の全部又は一部を委託することは可能です。また、委託を受けた者は、委託を行った者の許諾を受けた場合に限り、その業務の全部又は一部を再委託することができます。 ・・・・(2014年6月回答)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/12/02 at 15:19

監視カメラ設置,先進国ネパールから学ぶな

伊丹市が,監視カメラ1000台の設置を決めた。24時間稼働で,映像は記録し,警察に提供される(運用基準は同市「ガイドライン」等参照)。1平方キロあたり40台の集中設置とのこと(朝日2月14日)。

これは,恐るべき密度で,住民は市内どこにいても,いや場合によっては,自宅敷地内や窓際にいても,その挙動をカメラ監視される恐れがある。伊丹市民は,こんな監視を苦痛とは感じないのだろうか? もし感じないとすれば,世も末,もはや何も申し上げることはない。

監視カメラについては,ネパールが猛烈な勢いで設置を進めていることを,最近,何回か紹介した。前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会への一足飛びの飛躍である。そのネパールを,伊丹市は,そして政府音頭取りで他の多くの自治体も,いま後追いしようとしているのだ。(参照「前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会へ」)

たしかに,現在のネパールは,最新の理論や制度や機器の実験国であり,そこから学ぶべきものは少なくない。先に紹介したジェンダー平等などがそうだ。

しかし,いくらなんでも,プライバシー無視のカメラ監視社会化まで,学ぶ必要はない。日本は,曲がりなりにも天賦人権の不可侵を原則とする近代市民社会を成熟させてきたのではなかったのか?

▼カトマンズの監視カメラ

150215a150215b
 ■ネパール国旗・監視カメラ・太陽光発電/Study in Nepal?

150215e150215f
 ■信号機死すともカメラ死せず(マイティガル)

150215c150215d
 ■カトマンズ郡裁判所前/官庁街南入口前

150215g ■シンハダルバール(中央官庁)正面入口前

150215h150215i
 ■ラトナ公園東側/バドラプル(ジャパ郡)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/17 at 15:57

前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会へ

通俗憲法論によれば,近代憲法は国家権力を縛るものだそうだが,近代超克国家ネパールでは,そんな通俗近代憲法論など,全く気にもかけていない。制憲議会では憲法制定の目途さえ立たないのに,現実社会ではSF的超近代的万人監視体制づくりが着々と進んでいる。前近代的な共同体監視社会から,ハイテク・カメラによる超近代的万人監視社会への一足飛びの跳躍だ。

カトマンズに来てビックリ仰天したのは,いたるところに監視カメラが設置され,しかも驚くべきことに,多くがちゃんと稼働していること。数日前の新聞によれば,監視カメラは今後さらに増設される予定だ。

これらの監視カメラは,表向きは,交通管制が目的だが,カメラには車だけでなく人間も牛も犬も写る。交通管制が名目でも,その気になれば,いつでも犬や牛や人間の行動の監視に活用できる。犬が人にかみついていないか? 牛が路上に寝そべっていないか? そして,不逞の輩がデモや挙動不審の行動をしていないか? こんなことが,すべて監視カメラで常時監視できる。超近代国家の指導者なら,誰しも,喉から手が出るほど欲しがる統治の必須アイテムだ。その監視カメラが,いまやカトマンズの街中,いたるところに設置されており,しかも今後さらに増設されるというのだ。

たとえば,インドラチョークの近くの人通りの多い狭い十字路。その交差点とは到底呼べないほどの狭い十字路の上にも,監視カメラがあり,レンズの方向を不気味に動かしつつ,四方八方を監視している。

こんなところで,いったい何を監視しているのか! 監視カメラをしつこく激写していた私も,当然,監視カメラで監視され,一挙手一投足を記録され,おそらく不審者リストに掲載されているであろう。無事,出国できるだろうか? ちょっと,心配になってきた。

150207a■上:ソーラー照明,右:信号機,下:監視カメラ

150207b■消灯信号機と稼働監視カメラ

150207c■二種の監視カメラで厳重監視中

150207d■「仏陀の目」より強力な「監視カメラの目」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/07 at 12:23

秘密法のためのパノプチコン社会に向けて

特定秘密保護法(秘密法)が施行(2014年12月10日)されて1か月,指定「特定秘密」ははや382件に達した(2015年1月9日現在,朝日新聞1月9日)。⇒各行政機関における特定秘密の指定状況一覧表(平成26年末現在)

いうまでもないことだが,「秘密」は「監視」の対概念であり,秘密を守ろうとすればするほど,監視は厳しくなる。秘密法を施行するには,万人の常時監視は不可欠だ。監視により怪しい気配をいち早く察知し,秘密漏洩を防止する。それでも万が一,漏洩してしまったら,犯人を可及的速やかに捕らえ,白状させ,漏洩被害を最小限にとどめる。これは必須。国民監視なしの秘密法は張り子の虎,実用にはならない。

おそらく,こうした要請からであろう,このところ政府は,あの手この手を駆使し,日本国中に「防犯カメラ」という名の「監視カメラ」を設置させようと,躍起になっている。

すでに平々凡々たるわが住宅地にも,路上監視の「防犯カメラ」が,はっきりそれと分かるものだけでも,約300mおきに設置されている。私も毎日,無断撮影されているが,その映像がどう利用されているか,皆目,見当もつかない。いまですらそうなのに,元旦の市広報を開くと,なんと,次のような公告が出ている。ギョとし,お目出たさも吹っ飛び,背筋が寒くなった。

—————————
防犯カメラの設置を支援します  受け付け中
安全・安心なまちづくりを進めるため、犯罪の予防を目的とした防犯カメラを設置する地域団体に対し、設置費用の一部を補助します
対象団体=次のすべての要件を満たす自治会やまちづくり協議会などの地域団体。 ▽一定の地域を基盤とし、地域に根ざした活動をしている▽活動を行う地域の多数の世帯住民で構成されている▽活動を行う地域の世帯・住民が自由に加入できる▽規約や代表者を決めている―団体
補助要件= ▽防犯カメラを設置する地域の合意が形成されている▽設置場所の所有者などの承諾・許可を得る▽市の定める「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」に適合する管理運用規程を定める▽設置に対し、他の法令等により国・県などから同種の補助金を受けていない。
対象経費=公道等(不特定多数の人が通行する私道等を含む)に常設する防犯カメラの購入および取り付け工事に要する費用。
補助額=防犯カメラ1台につき上限8万円
申し込み=防犯交通安全課、市民相談課
—————————–
150109b 150109a 150109c 150109d ■住民監視中の「防犯カメラ」

これは,わが市が独自にやっているのではない。日本に地方自治はない。号令をかけ,補助金を付け,各自治体にやらせているのは,むろん中央政府だ。たとえば―

——————————-
▼平成26年度G空間関連政府予算(GIS) 警察庁 予算額39百万円
犯罪情勢の時間的・空間的変化の分析手法及び犯罪抑止対策の評価手法の開発
犯罪情勢や地域環境の変化を的確に把握する時空間分析手法と、街頭防犯カメラの設置など地区単位で実施される犯罪抑止対策の評価手法を開発する。
▼経済産業省 まちづくり補助金
以下のような、地域商店街の積極的な取組に使える補助金です
①安心・安全な街をつくりたい
例)夜間も安全で安心に利用できる商店街を実現するため、街路灯や防犯カメラを設置したい。
——————————

補助金は取らねば損が,自治体の習い性。かくて,全国津々浦々,「防犯カメラ」が普及しつつある。そして,設置された「防犯カメラ」の使用方法も,おそらく国家指導に基づき,各自治体が同じような規則を定めている。たとえば,大阪市―

——————————
▼防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン 大阪市
画像の利用制限
 (1)画像の利用は、犯罪の抑制及び防止目的の範囲で行い、画像から知り得た情報は、外部に漏らさない。
 (2)画像は、次のいずれかに該当する場合を除き、外部に提供しない。
  ア 法令に基づく請求があった場合
  イ 捜査機関から犯罪捜査の目的により要請を受けた場合(ただし、捜査機関が画像の提出を求める場合は文書によるものとする。)
  ウ 個人の生命・身体又は財産の安全を守るため、緊急かつ止むを得ないと認められる場合
  エ 本人の同意がある場合又は本人に提供する場合
——————————

この大阪市のガイドラインは厳格な方だが,それでも,捜査機関による利用は当然の前提とされ,それ以外でも,必要とあらば使用は可能だ。

しかも,巧妙なのは,中央政府が「防犯カメラ」を上から押しつけるのではなく,地域の自治会や他の団体等が自発的に「防犯カメラ」を設置するのを補助金により助成する,という形を取っていること。つまり,住民の自発的相互監視であり,しかし同時に,その映像記録は国家が事実上自由に使える,という形をとっている。実に巧い。

わが地域の「防犯カメラ」は,まだ300mおきだが,補助金の魅力により追加設置は必定。もし100mおきに「防犯カメラ」ともなると,もはや生活はあらかた権力の監視下におかれることになってしまう。蟻の這い出る隙間もない。

これこそ,近現代の理想としてのパノプチコン社会,すなわち万人監視社会の到来である。秘密法は,そのような社会の完成を要請している。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/01/09 at 20:17

京都の米軍基地(62):レーダー稼働と秘密指定とイエスマン首長

米軍が12月26日,Xバンドレーダーの運用を開始した(公表同日午後9時)。警察庁の特定秘密指定発表と同時ないし直後の,絶妙のタイミングだ!

141227d141227f
 ■Xバンドレーダー(京丹後市HP)

1.特定秘密の指定
特定秘密保護法(秘密法)は,すでに2013年12月6日,自公強行採決により成立していたが,施行は2014年12月10日から。

このスケジュールにあわせ,政府は指定されるべき秘密の選定作業を進め,朝日新聞(12月27日)によれば,すでに政府10機関が約370件を特定秘密に指定しているという。いかにも秘密法らしいのは,機関自ら発表したのは今回の警察庁が初めてで,他の諸機関は自ら積極的には発表はしていないこと。秘密は秘密にしておきたいというのが本音であろう。

警察庁発表の主な秘密は,情報収集衛星,テロ,外国政府などとの協力,スパイ活動,部隊の戦術・運用,情報提供者などの人的情報源。これらの秘密は秘密であって具体的なことは皆目見当もつかないが,Xバンドレーダーに関することは何でも,この秘密の網のどこかに引っかかりそうだ。

秘密指定は,警察庁のものだけではない。朝日新聞(12月27日)調べでは,他にも多数ある。
  防衛省 244件
  内閣官房(内閣情報調査室など) 49件
  海上保安庁 15件
  経産省 45件
  総務省 2件
  法務省 1件
  国家安全保障会議 1件

2.Xバンドレーダーの稼働
京丹後のXバンドレーダーは,この秘密法体制(国民監視体制)発足と同時に運用を開始した。単なる偶然の一致ではあるまい。

Xバンドレーダーは最先端の監視装置であり,北朝鮮はむろんのこと,中国をも常時監視する。この監視装置には,それを守る最先端の強力な秘密防衛体制=住民監視体制が不可欠だ。特定秘密保護法は,まさしくその要請に応えるもの。京丹後市は,Xバンドレーダーを受け入れることにより,かつての日本三大秘境の一つから,一躍,日本最先端の秘密法モデル地域に向かって,大きく前進したのである。

Xバンドレーダーは,単なる機械ではない。Xバンドレーダーは,それを支える社会体制の中でのみ機能する。その体制を,「Xバンドレーダー体制」と呼ぶ。

3.仲井真前知事と中山市長と基地利権
「Xバンドレーダー体制」は,中に入ってしまえば,とりわけ有力者にとっては居心地がよい。中山京丹後市長は,運用開始に関するコメント(12月26日)で,こう語っている。

「施設の本格開始に当たり、我が国の平和と安全という尊い国益への貢献を真摯に願うとともに、自治体としては、同時に、様々な面での住民の安全、安心の確保が大前提であるとして、この間、このための準備や対策に国、米軍、京都府、地元住民はじめ関係者の皆さんとともに、万全に取り組んできました。・・・・」(赤字=引用者)

このコメントを目にしてすぐ思い浮かんだのが,安倍首相との会談後の仲井真・前沖縄県知事のことである。前知事はこう語った。

「安倍総理大臣、菅官房長官にはこのような機会を私どもに与えていただきまして、心から感謝申し上げます。また、今、総理大臣自らご自身で、我々がお願いした事に対する回答の内容をご説明いただきまして、ありがとうございました。いろいろ驚くべき、立派な内容をご提示いただきました。沖縄県民を代表して、心から御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。」(首相官邸「仲井眞沖縄県知事との面談」平成25年12月25日,赤字=引用者)

141227a ■安倍・仲井真会談(2013年12月25日,官邸HP)

この二人の基地自治体首長の姿勢は,中央政府の基地利権による懐柔にオドオドしながら追従する,という点でよく似通っている。自治体(地域政府)は,本来,国家に先在し,「地方自治の本旨」(憲法92条)に則り統治されるべきなのに,彼らはその誇りと責務を忘れ,自ら国家の下請け機関に甘んじてしまっている。

だから,「尊い国益への貢献」の前提条件として繰り返し強調される「住民の安全安心」も,住民自身のための「住民の安全安心」と錯覚してはならない。それは,正しくは米軍と日本政府のための「住民の安全安心」であり,より正確には「お上のための住民監視」にほならない。

4.米軍基地と秘密法の威嚇効果
下掲文書は,レーダー運用開始後,京丹後市が公表したもの。この赤字警告を無視して,故意に,あるいは何かの弾みで,誰かに事前にこの内容を漏らしてしまったらどうなるか? あるいは,何気なくしゃべったことが,結果的に,この文書の内容と同じだったとすると,どうなるか? 

秘密法施行以前であっても,職務秘密の漏洩は多かれ少なかれ処罰される場合があるが,秘密法施行後は,はるかに重罰であり,その威嚇効果は絶大となる。

米軍やXバンドレーダーについても,「見ざる,聞かざる,言わざる」となることは避けられず,かくして京丹後はG・オーウェルも真っ青の住民監視管理社会となってしまうであろう。

 ▼防衛省文書(京丹後市HP)
141227b 141227e

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/12/27 at 19:12