ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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オリ首相訪印,成功?

オリ首相が6日間の公式訪印を終え,24日帰国した。首相は,当然ながら,「誤解は氷解した」,「訪印は大成功だった」と自画自賛しているが,本当にそうかどうか,評価は分かれている(*2&3)。

 160226■印外務省HP

1.「共同声明」なし
成功が疑問視される第一の理由は,恒例の「印ネ共同声明」が出されなかったこと。ウペエンドラ・ヤダブMJAF-N議長によれば,「これは二国間に意見の対立がある証拠である」(*1)。

とくに新憲法の評価。モディ首相は20日,ネパール憲法について「重要な前進だが,・・・・その成功は今後のコンセンサスと対話への努力にかかっている」とくぎを刺した(*1)。2月25日付カトマンズポスト記事によれば,それは新憲法への不満の表明であり,それゆえ「共同声明」は,準備されていたにもかかわらず,結局,出されないことになってしまったという(*1)。

他方,オリ首相の側も,「ネパールに関する諸問題については,一握りの人々ではなく,ネパール政府と話し合うべきだ」とインド側に厳しく抗議している(*1)。やはり,印ネ対立は「氷解」とはいかなかったようだ。

2.印ネ7項目合意
オリ首相訪印のもう一つの論点が,印ネ7項目合意の評価。7項目合意の概要は以下の通り。
 (1)震災復興支援,2億5千万ドル。
 (2)タライ道路整備。
 (3)印ネ芸術文化交流の促進
 (4)印経由ネパール・バングラデシュ間輸送の合理化。
 (5)ネパールへの印鉄道輸送利用の確認。
 (6)印ネ送電,80MW。2017年末までに600MW送電へ。(印電力輸入?)
 (7)印ネ有識者会議の立ち上げ。

これらは,たしかにネパールにとってメリットは少なくない。しかし,いずれも既存の事業や約束済みの事業の再確認にすぎない,という冷めた見方もある。

3.訪印は成功?
オリ首相訪印は,印ネ両国首相による外交交渉であり,両政府とも失敗とは言わない。では,客観的に見て,成功したといえるのか? これは,評価が難しい。

一つはっきりしているのは,オリ首相訪印をきっかけに,インドによるとされる「非公式国境封鎖」が解除され,ネパールが経済危機からとりあえず脱出できたこと。

では,この封鎖解除は,中国カードや印内反モディ勢力カードを利用したオリ首相外交の成果なのか? あるいは,マデシ諸勢力に対するオリ首相の働きかけの結果なのか? それとも,インドが,数か月に及ぶ「非公式国境封鎖」により獲得できるだけのものは獲得したので,それを解除したのか? あるいはまた,封鎖実働部隊たるマデシ諸勢力が宿痾の内部抗争により腰砕けになった結果なのか?

いまのところ,いずれともよく分からない。甚大な人的および経済的犠牲を払いながら,なんとなく納まり,なんとなくある方向へと流れていく。いつものことながら,ネパール政治は不可解だ。

【参照】
*1 Kathmandu Post, 25 Feb.
*2 Himalayan, 24 Feb.
*3 Republica, 22 Feb.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/26 at 17:56

マデシ国境封鎖闘争の一時停止とオリ首相の訪印

UDMF(統一民主マデシ戦線)が2月6日,国境封鎖作戦の中心バルサ郡における抗議活動の一時停止を指令した。それと前後して,オリ首相が2月19日訪印し,20日にモディ首相と会談することも発表された。情況が少し変化し始めた。

16日付カトマンズポスト「135日ぶりに60台以上のトラックがビルガンジに入る」によれば,2月5日に友好橋(ビルガンジ・ラクサウル間)付近のピケ・テントや道路バリケードを撤去し焼却したのは,地域の業者や住民らであった。

また,6日付ヒマラヤンタイムズ「座り込みの反政府派,追い払われる」によれば,5日に友好橋付近から反政府派を追い払ったのは「地元民とインド業者」であり,さらに6日午後,再封鎖のためビルガンジ国境付近に集まったUDMF派を追い払ったのも「インド運送業者」であった。このときの両派の投石で,インド人2人,UDMF1人が負傷している。

これら両紙の記事が事実だとすると,国境封鎖解除にあたっているのは,ネパール側業者・住民とインド側業者ということになる。特にインド側が目立ち,6日の衝突でも負傷者2人はインド人だ。警官も大量動員されているが,直接は介入しなかったようだ。

このように,ビルガンジ国境付近の状況はかなり変わってきた,。今後どうなるか,オリ首相の訪印との関係もあり,注目される。

 160207a■ラクサウル・ビルガンジ国境付近

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/07 at 16:36

「友好橋」争奪戦: 封鎖解除へ?

マデシ「国境封鎖」の主戦場たるビルガンジ・ラクサウル間「友好橋(ミテリ橋)」をめぐって,UDMF(統一民主マデシ戦線)と反UDMF派が争奪戦を始めた。

2月5日,反UDMF派商工業者らが友好橋付近のUDMF派テントや交通遮断物を取り壊し,その後,何台かのトラックが国境を通過した。しかし,その後,UDMF側は,再びテントや交通遮断物を設置しなおしたという。

たしかに,国境封鎖(2015年9月24日開始)への反対圧力は,このところ強まっている。庶民の生活苦が長期化する一方,密輸ヤミ商売が繁盛し,健全な経済活動が蝕まれ,しかも肝心の経済封鎖の効果も減殺されているからである。

UDMF自身も,すでに封鎖作戦の見直しを始めており,一部メディアは,2月6日の会議(カトマンズ開催)において正式に封鎖解除を決定するとも伝えている。しかし,UDMF内も分裂しており,封鎖解除が正式に決定されるかどうかも,また決定されても本当に実行されるかどうかも,まだわからない。

結局,しばらく様子見するより仕方ないということであろう。

 151104

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/06 at 14:06

カテゴリー: インド, 経済, 民族

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石油類「灰色」市場

ネパールの石油類価格が今どうなっているのか,日本にいては実情がよくわからないが,報道によると,ガソリン1リットルの価格は,正規104ルピー(125円),灰色市場190~250ルピー(230~301円)くらいのようだ。ブラック市場は闇(ヤミ)だからはっきりしないが,しばらく前までは,300~500ルピー(361~602円)くらいだった。

ここで問題は,正規と闇の中間にある「灰色」市場。ネパール政府は,インドの「非公式経済封鎖」による燃料不足への緊急対策として,昨年10月中旬,民間企業20社以上に燃料輸入を認めた。ところが,この緊急対策が不透明で,「正規」でも「ヤミ」でもない「灰色」市場ができてしまったらしい。

槍玉に挙げられているのが,ビラト石油(Birat Petroleum)。ビラトは,インドのシリグリなどからガソリンやジーゼル燃料を仕入れ,ネパール石油公社(NOC)を通して,あるいは直接,ネパール国内で販売する。
 ▼ガソリン1リットルの価格(ネパールルピー,NOC正規価格は104ルピー)
  インド106 ⇒ビラト石油⇒ NOC199       
  インド106 ⇒ビラト石油⇒ ネパール国内直接販売220~250

上記価格は必ずしも正確ではないかもしれないが,それでも,これを見ただけで,とんでもない多重価格となっていることが分かる。民間会社は,輸入さえすれば,それだけで莫大な利益が得られる。

ビラト石油は,ネパール石油公社(NOC)との間で2億ルピー相当の輸入契約を結んだ。関税もNOC負担。この取引だけで,ビラト石油は4400万ルピーの儲けとなるはずだった。まさに濡れ手に粟。NOCは深刻な燃料不足のためやむなく契約したと弁解したが,激しい非難を浴び,この契約は破棄した。(この経緯も不透明。)

現在のネパールの燃料事情は,日本にいては正直なところ,よくわからない。しかし,不足を背景に価格が何重にもなっており,ヤミに近づけば近づくほどボロ儲けができることは確かだ。民主憲法ができ,民主的政府もできたが,統治は大混乱というのが実情らしい。

 160107■ネパール石油公社(2015年11月23日撮影)

【参照】
*1 “NOC TO ALLOW ITS DISTRIBUTORS TO SELL BIRAT PETROL,” Republica, 05 Jan 2016
*2 “BIRAT PETROLEUM TANKER SEIZED,” Kathmandu Post,Dec 31, 2015
*3 “Birat Petroleum announces end of controversial fuel import deal with Nepal Oil Corporation,” The Himalayan Times, November 08, 2015
*4 “NOC awards fuel supply contract to Birat Petroleum,”The Himalayan Times, November 05, 2015
*5 “BIRAT PETROLEUM IMPORTS PETROL DESPITE TERMINATING SUPPLY CONTRACT,” Republica,25 Dec 2015
*6 “NOC ADMITS FLOUTING LAW IN CONTRACT AWARD TO BIRAT OIL,” Republica,06 Nov 2015

[追加]燃料価格Republica,2016-1-8)
 NOC正規価格:ガソリン104ルピー,ジーゼル燃料82ルピー
 ビラト石油販売価格:ガソリン190ルピー
 ヤミ価格:ガソリン350~400ルピー [最安値200ルピー]

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/07 at 12:53

カテゴリー: インド, 経済

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ネ政府閣議決定を歓迎,印政府

インド外務省は,12月21日付声明において,ネパール政府の閣議決定(20日)を「歓迎する」と公式に宣言した。

印外務省声明によれば,カマル・タパ副首相兼外相が印外相に公式に伝えたのは,次のような内容の閣議決定。
 (1)国家諸機関への比例的包摂参加と人口数に基づく選挙区画定を実現するための憲法改正。
 (2)コンセンサスに基づき州区画を見直すための憲法改正。
 (3)話し合いとコンセンサスに基づく市民権問題の解決。(筆者補足:これにも憲法改正必要。)

印政府は,このようなネ政府閣議決定を「歓迎し」,そして,それらの決定が実行され,ネパールが正常な状態に復帰すれば,「二か国間の障害なき交易のための環境が創り出されるであろう」と宣言している。

たしかに,もしこのネ政府閣議決定が実行されるなら,タライ紛争は収束に向かい,「非公式経済封鎖」も解除されるであろう。しかしながら,閣議決定されたとされる3つの事柄は,いずれも憲法の根幹にかかわる重要問題であり,実行には大きな困難が予想される。UML,UCPN-M,RPP-Nの与党3党でさえ,足並みは必ずしもそろってはいない。マデシ系諸党も一枚岩ではない。

閣議決定の実行期限は,一応,3か月がめどとされている。振出しに戻ったに近いような難しい憲法問題が,本当に,わずか3か月で解決できるのか? それとも,この閣議決定も,またもや苦し紛れの問題解決先送りにすぎないのであろうか?

 151222■憲法案賛成議員署名

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/12/22 at 21:33

カテゴリー: インド, 憲法, 民族

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ヤミとコネの功罪

外人が外から見ると,ネパール社会の基底にはまだ「ヤミ・コネ」経済があるように思われる。といっても,暗い面ばかりでなく,そうであるからこそ,ネパール社会が突如苦境に陥っても,崩壊せず,何とか秩序を維持し存続できているのではないだろうか。たとえば,インド「非公式」経済封鎖による石油・ガス不足。

日本のような人間関係の希薄化した大衆社会だと,生活必需品の不足に人々は慌てふためき,パニックとなり,一気に過激な群衆行動に走りがちである。他方,政府も,大衆に選ばれ大衆に依存しているからこそ,大衆群集心理の恐ろしさを熟知・警戒し,何とかして大衆パニック,大衆暴動を回避しようとして焦り,一気に専制化し,強権的経済統制・社会統制に向かう。

そして,こうしていったん専制的権力を握ると,現代大衆国家は,高度に発達した情報技術を駆使して国民すべてを――たとえばマイナンバーなどで――管理し,その専制体制を永続化させる恐れが強い。そこには,権力が見てコントロールできない「ヤミとコネ」はない。現代型専制は,すべてを見て,すべてを支配する。

ところが,ネパールは,まだそのような現代型大衆社会ではなく,「ヤミとコネ」が至る所に伏在し,必要な時には表の機能を効率よく代替する。石油・ガス不足が長期化し,先が全く見通せなくても,人々が,不平不満はあっても,決してパニックにならないのは,そのためだ。「ヤミ・コネ」経済が十分に機能しているのだ。

ガソリンは「ヤミ」ルートで大量に流れ,「コネ」を通して「ヤミ」価格で取引されている。ガソリンは現在正規価格112ルピー(131円)位だが,「ヤミ」では500ルピー前後で売買されているそうだ。

「ヤミ」ガソリンは,まずインドから相当量入っているのではないかと思われる。インドからポリ容器などに入れ,あるいは車やバイクを燃料満タンにして,ネパールに入国し,それを「ヤミ」に流せば,4~5倍のぼろ儲けとなる。やっていると見るのが自然だ。マデシ反政府派がインドからの入国車両・バイクを攻撃するのにも,それなりの理由がある。

一方,ネパールに正規に入ったガソリンについては,それがどれだけ「ヤミ」に流れているかは不明。だが,役得や「コネ」で入手したガソリンを転売すれば,それだけでぼろ儲け――あるいは恩を売ること――ができるのだから,相当量あっても不思議ではあるまい。

こうした「ヤミ」ガソリンは,ミネラルウォーター用容器で受け渡されることが少なくない。1本1リットル。ネパールのプラスチック容器は薄くて弱い。すぐ破れ漏れる。こんな危険な「ヤミ」ガソリンが出回ると,新聞が報道しているように,ときには引火し惨事となる。たしかに異常な事態だが,一方,それによって相当数の車やバイクが「自転車操業」的に動いていることもまた事実である。

このように,「ヤミ・コネ」経済は,不足している物資を,危険を伴いつつも,それなりに効率的に調達し,供給・分配している。高価な「ヤミ」価格でも,それを買える人々に売るという意味では,必ずしも資本主義に反するものではない。

いまの「非公式」経済封鎖のもとで,ネパール政府が,この「ヤミ・コネ」経済以上に効率的に石油を供給分配できるかどうか? 遺憾ながら,はなはだ疑問である。

151129b ■かまどで調理。干し米の油揚げ(食品名?)

151129a ■のどかではある風景(ラトナ公園前)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/29 at 18:08

カテゴリー: インド, 社会, 経済, 文化

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観光客、きわめて少ない

カトマンズの観光客は、見た限りでは、きわめて少ない。トレッキング客はそこそこ来ているが、旧王宮など一般的な観光地では、外国人観光客はチラホラ見かけるくらい。

11月は観光シーズンのはずだが、地震被害に加え、燃料不足が深刻化-長期化してるため、観光客に敬遠されているのだろう。観光業へのダメージが懸念される。

151124b151124a
 ■旧王宮は地元民ばかり/閑散としたキルティプル

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/25 at 01:20

カテゴリー: 経済, 旅行

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