ネパール評論 Nepal Review

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習近平『中国の統治』ネパール語版の出版

昨年末のことだが,習近平主席の『中国の統治』ネパール語版が出版され,ネパール大統領公邸で盛大な出版披露会が挙行された。
■ネパール語版披露(在ネ中国大使館HP)

『中国の統治』原本は,2014年10月(9月?)発行。習主席の2012年11月~2014年6月の演説,談話,覚書,書簡など79編を収録しており,5百頁余の大著。中国語(簡体字版・繁体字版),英語,仏語,独語,露語,アラビア語,スペイン語,ポルトガル語,クメール語,タイ語(2017年4月7日),日本語の各言語版があり,5百万部以上発行された。2017年3月25日現在,1千7百万部突破。大国の大著の世界大ベストセラーだ。

ネパール語版は,「中国研究センター」が担当した。在ネ中国大使館,中国情報部,中国外国語出版局など中国側も全面的に協力し,1年かけて慎重に翻訳し,2016年12月出版にこぎつけたのである。

ネパール語版『中国の統治』の出版は,ネパール大統領公邸で,BD・バンダリ大統領と刘奇葆中国共産党政治局委員によりにぎにぎしく披露された。その席で,バンダリ大統領はこう述べた。
バンダリ大統領:「この本は,中国の統治制度や中国指導部のビジョンについて述べており,われわれの世界理解を深めてくれる。」中国は信頼する友であり,ネパールの発展を支援してくれている(*1)。

また,翻訳出版した「中国研究センター」のマダン・レグミ所長も,出版の意義を高く評価している。
マダン・レグミ所長:「この本は,ネパールの人々,とりわけ政策担当者にとって,今日の中国を正しく理解し学ぶための完璧な手引きである。ここには中国の理念,統治と法の支配の方法,そして国の将来設計が明確に述べられており,われわれのような近隣諸国にとっては大いに勇気づけられる本である。」ネパールの指導者らは,中国の発展と改革から学ぶべきである(*1)。

ネパール語版『中国の統治』は,出版されるとすぐ500部が売れたという。すごい! これほど売れるのなら,『美しい国へ』のネパール語訳出版も考えてみてよいのではないか? 日本には著者の意を忖度できる愛国的翻訳者・出版者はいないのだろうか。(参照:安倍首相の怪著「美しい国へ


■カンボジア副首相出版披露(新華社2015年2月22日)/タイ語版出版(新華社2017年4月8日)

*1 “Nepali edition of Xi’s book on governance launched in Nepal,” Xinhua, 19 Dec. 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/04/10 at 17:17

カテゴリー: ネパール, 外交, 中国

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新憲法制定支援,中国の巧みさ

中国が,土壇場に来て,ネパール新憲法の制定を強力に支援している。巧みにして効果的,他国の追随を許さない。さすが外交大国!

 150107a ■習主席(中国外務省HP)

1.切り札としての習主席訪ネ
目玉は,習近平主席。国交60周年も絡め,もし新憲法が制定・公布されるなら,習主席のネパール訪問は可能と,中国筋はあちこちでネパール側にほのめかしている。巧い,美味すぎる!

たとえば,中国現代国際関係研究院(CICIR)南亜東南亜大洋州研究所のHU Shisheng所長は,こう語っている。

「ネパール制憲議会が,新憲法を制定しその任務を全うするなら,中国高官のネパール訪問がより確かとなるだろう。」そして,ネパール政治が安定すれば,習近平主席の訪ネも可能となる。しかし,これはあくまでもネパール側の努力にまたねばならない。「中国には,ネパールの政治に圧力をかけるつもりもなければ,ネパールへの影響力をめぐってインドと競うつもりもない。」(a)

こうした中国の対ネ外交は,ネパール側からも高く評価されている。たとえば,ビレンドラ・ミシュラ元選管委員長は,中国要人の訪ネが日常化していると特筆した上で,こう述べている。

「隣国,特に中国のような強大で発展した国からの訪問は,もちろん望ましいことだ。中国は,ネパールの安定,独立,主権をつねに尊重してくれている。これと対照的に,インドはネパール訪問をあまり重視していないようだ。[バジパイ首相の2002年訪ネの次はモディ首相の2014年訪ネなのに]モディ首相はこの訪ネを政治的に利用したにすぎない。インドは,ネパールのことは,おそらく治安機関に任せているのだろう。」(b)

このように,ネパール側の中国への期待も,きわめて大きい。

150107b ■CICIR(同HP)

2.大国外交の華と粋
ネパールの新憲法制定(新国家構築)については,これまで主に日本を含む西側先進諸国が物心ともに支援してきた。人民戦争停戦,武装解除,暫定憲法体制設立,制憲議会選挙,新憲法起草準備など。それは内政干渉ギリギリ,だからこそ,ネパール側からの反発も,少なくなかった。

ところが,その最後の最後,土壇場の総仕上げの段階になって,中国が奥の手を出し,新憲法制定への最後の一押しをしようとしている。もしめでたく新憲法が制定・公布されるなら,それは中国の決定的な一押しのおかげと言うことになる。

もし,こうして新憲法が制定されるなら,習近平主席が国賓として訪ネし,正統な新体制の出発を威厳をもって厳粛に祝福するであろう。そして,ネパール国民も,こぞって,これを歓迎し,偉大な中国の支援への感謝を惜しまないであろう。あっぱれ,見事な大国外交だ。

▼「亜太日報」(1月1-15日) ネパール発行の本格的中国語高級紙
150107c

[参照]
(a)”Chinese Nepal watchers: Xi’s visit hinges on charter,” Ekantipur,2015-01-06
(b)Birendra Mishra, “Chinese Interest,” Republica,2015-01-06

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/01/07 at 18:33

カテゴリー: インド, 外交, 憲法, 中国

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プラチャンダの「中国夢」絶賛と「3国協力」提唱

新華社ネット版(5月29日)が,プラチャンダUCPN-M議長の単独インタビューを掲載している。びっくり仰天! 手放しの中国礼賛。リップサービスはプラチャンダの特技とはいえ,本当に,こんなことを言ったのだろうか?

130603 ■習主席とプラチャンダ議長(新華社)

1.「中国夢」絶賛
記事によれば,プラチャンダは,「中国夢(チャイニーズドリーム)」を絶賛,ネパールはこれを支持し,分け持ち,もって国民的独立,政治的安定,経済的発展を図りたい,と語った。

「中国夢」は,習近平主席が掲げる政治スローガン。3月17日の全人代閉幕演説で,主席はこう訴えている。

「小康社会を全面的に完成させ、富強、民主、文明、調和の近代的社会主義国家を築く奮闘目標を実現し、中華民族の偉大な復興の中国の夢を実現するには、国家の富強、民族の振興、人民の幸福を実現しなければならない。とうとうたる時代の潮流に対し、人民大衆のより素晴らしい生活を送るという切なる期待に対し、われわれはわずかでも自己満足してはならず、わずかでも怠けてはならず、一層努力し、勇躍まい進し、中国の特色ある社会主義事業を引き続き前進させ、中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現するため奮闘努力しなければならない。」(「第12期全人代第1回会議閉幕・習近平国家主席が演説」2013/03/17,中国大使館HP)

習主席の「中国夢」は,アメリカンドリームに対抗しようとするものらしいが,要するに「中華民族の偉大な復興」と「国家の富強」の情緒的訴えであり,大時代的なナショナリズム,大国主義的国家主義といわざるをえない。

この「中国夢」は,海で隔てられた「大国」日本にとってよりもむしろ地続きの小国ネパールにとって危険なはずだが,豪傑プラチャンダは,賞賛,絶賛の雨あられ,そんなことなど全く意に介さない。

「中国の指導者たちは,人民の期待を極めて科学的な方法で中国夢へと綜合し,人民に訴えかけてきた。」
「私の理解では,この中国夢は全世界人民の21世紀の夢である。」
「私の理解では,中国夢は人民の夢である。アメリカンドリームは,全世界人民の夢ではあり得ない。これに対し,中国夢は,世界の平和と安定を願う人民の夢を示すものである。」

プラチャンダは,この中国夢に習い,政治的安定と経済的発展という「ネパールの夢」の実現を図りたいという。まさに手放しの絶賛。いくら真っ先に招待され習主席とも会見させてもらうという破格の特別待遇を受けたとはいえ,これはいくらなんでも,ゴマのすりすぎではないだろうか?

2.「3国協力」提唱
しかも,新華社インタビューでは,プラチャンダは,対印関係についても,大胆なことを語っている。

プラチャンダによると,訪中後の訪印の直前,インド外相は「ネパール・インド・中国3国協力」への不同意を表明した。従来の印ネ2国協力を損なうという理由からだ。にもかかわらず,プラチャンダは,新華社インタビューで,こう語っている。

「3国協力は,戦略的な提案だ。インド側の考えでは,この提案の実行はまだ尚早だということだ。」
「3国協力になっても,2国協力は後退しない,と私はインドで説明した。」
「2国関係の前進によってのみ,3国協力の条件は整う,と私は説き続けるつもりだ。」
「中国とインドには,ネパールの繁栄と政治的安定のため,協力してネパールを支援していただきたい。」

この「ネパール・インド・中国3国協力」は,ネパールはインド勢力圏内という,これまでの地政学的大枠を根本から変える大胆な提案だ。新華社インタビューが,このプラチャンダ提案を大きく紹介するのは,当然といえよう。

3.ヒマラヤを越えるか?
プラチャンダの一連の発言は,リップサービス,放言の域を超えている。これまで中国をカードとして使いインドと対抗しようとしたネパールの指導者は,限度を超え対中接近しすぎると,ことごとく失脚し,ネパールはインド勢力圏内に引き戻された。中国に,本気でネパールに関与する意思がなかったからである。

今回はどうか? 現在,プラチャンダは,最大とはいえ,一政党の党首にすぎない。しかし,もし彼が“中国援助”による制憲議会選挙で勝利し,新体制の首相あるいは大統領になり,従来の地政学的枠組みを変えようとするなら,そのときどうなるか? 中国はヒマラヤを越えられるのか?

この観点からも,11月予定の制憲議会選挙は注目される。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/06/03 at 15:49

中印覇権競争とプラチャンダ外交(4)

6.プラチャンダの訪中
(1)中国のネパール接近
中国がネパールをこれまで以上に重視していることは,間違いない。アジア太平洋研究所Wang Hong-wei教授は,こう述べている(ekantipur, Apr22)。

「プラチャンダは,中国新指導者習近平と会った南アジア初の指導者となった。これは,北京が何を重視しているか,よく示している。」人民大会堂での会談は,極めて友好的に進められた。「この訪問は,戦略的に重要なものだと思う。」

ネパールが重要になったのは,四川大学Zhang Li教授もいうように,チベット問題と南アジア進出のためである。「北京は,ダハール訪中を重視している。というのも,ネパールは,チベット問題にとっても,また南アジアへの中国進出にとっても,地政学的に重要だからである。」(ibid)。

130510b
 ■プラチャンダ議長と習近平主席:人民大会堂,4月18日(中国外務省HP)

(2)チベット問題
中国がネパールを重視する直接の最大の理由は,チベット問題である。新華社(4月19日)は,こう伝えている。

「[習近平主席は]ネパール側が,長期にわたり一つの中国政策を堅持してきたことを高く評価した。」

「プラチャンダ議長は,ネパール側が,一つの中国政策を堅持し,習近平氏を総書記とする中国共産党中央の指導の下で中華民族が偉大な復興を実現するという中国の夢が必ず実現できると確信している,と表明した。」

プラチャンダは,このような中国側の「一つの中国」要求を十分理解した上で,すかさずそれを経済援助と結びつける。

「ネパールの繁栄こそが,一つの中国政策を効果的に促進し,チベットにおける中国の安全保障に寄与することになるだろう。」(ekantipur,Apr22)

これを受け,中国現代国際問題研究所Hu Shisheng所長も、こう述べている。

「安全保障と経済発展は,相互に関連づけられることにより,促進される。ネパールを含むこの地域全体が発展すれば,安全保障上の脅威はなくなるであろう。」(ibid)

プラチャンダは,チベット問題対処と引き替えに,ダムや道路や空港の建設,観光開発などへの中国援助を要請したのである。

130510a
 ■豊かで幸せな新チベットと貧しく不幸な旧チベット(在ネパール中国大使館HP)

(3)中印ネ3国協定
さらにプラチャンダは,「中印ネ3国協定」も提案している(The Hindu,Apr27)。

「ネパールは,地政学的位置あるいは地理からして,隣の両大国との協力によってのみ発展し,独立を守りうる。地理に規定されたこの歴史的真理と政治発展を考えるなら,3国協定こそが,3国すべての利益となると,私は考える。が,これはネパールよりもむしろインドと中国にとって,利益が大きいであろう。」

中印等距離外交ということだろうが,ネパールは伝統的にインド勢力圏内であったので,中国からすれば,これは願ってもない提案ということになる。

マオイストは,ヘトウダ第7回党大会において,人民戦争・文革路線からの転進を宣言し,中国接近への障害をなくした。プラチャンダ自身,「中国共産党の今の政策から学ぶべきだ」と明言している(The Hindu,Apr27)。今後,中国援助による巨大ダム建設,ポカラ空港建設,ラサ=カトマンズ=ルンビニ鉄道建設,南北縦断4道路建設,ルンビニ大開発等が具体化していけば,プラチャンダ利権はますます拡大・強化されていくだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/05/10 at 10:48