ネパール評論 Nepal Review

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京都の米軍基地(26):地域社会の分断

経ヶ岬の空自分屯基地付近に行ってみて気づくことの第3は(→第1第2),米軍Xバンドレーダー基地反対の立て看板やポスター類がほとんどなくなっていること(12月9日現在)。これには驚いた。

京丹後において,米軍Xバンドレーダー基地反対の旗色を鮮明にしているのは,政党としては,事実上,共産党だけだが,その共産党の反対看板ですら,ほとんどなくなっていた。

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 ■尾和5月31日/尾和12月9日

しかし,そこは不屈の共産党,わずかだが看板を残し,意地を見せている。特に感動したのが,下半分を破られた基地反対ポスターを,あえてそのまま掲示し続けていること。

誰がこのポスターを破り,誰が残りの半分をそのまま残す決断をしたのか,よそ者には事情はまったく分からない。が,この破られた半分の基地反対ポスターほど,地域社会の苦悩をよく物語るものはない。

そう,文字通り,地域社会の分断なのだ。よそ者の絵解きにすぎず,見る者にはそう見えるというにすぎないが,破る方も全部ではなく下半分しか破れず,上半分は残した。そして,破られた方も,米軍基地への抗議に加え,破った者への抗議をも込めて,あえて撤去せず,そのまま上半分を残したということではないか。

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 ■上野5月31日/上野12月9日

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 ■平5月31日/平12月9日

米軍Xバンドレーダーは,住民の安全を守るどころか,早くも地域社会の平和を,奥深いところから,陰湿に,むしばみ始めているのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/12/18 at 11:16

制憲議会選挙2013(25):NHKのネパール選挙「偏向」報道

グローバル化時代であり,ネパール制憲議会選挙も,日本の政治に利用されることはある。それは自明のことだが,たとえばNHKニュース「ネパール議会 連立協議行われる見通し」(12月4日)のように「大胆・露骨」かつ「巧妙」にやられると,よほど用心していないと,ヤバイことになる。

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 ネパールで先月投票が行われた制憲議会選挙は、中道路線の「ネパール会議派」が第1党になりましたが、過半数には届かず、主な政党による連立協議が行われる見通しになりました。
 ネパールの選挙管理委員会によりますと、先月19日に投票が行われた制憲議会選挙は、中道路線の「ネパール会議派」が196議席を獲得して第1党になりましたが、過半数の301議席には届きませんでした。
 第2党は、175議席を獲得した「統一共産党」で、今後この2つの党を軸に連立協議が行われる見通しになりました。
 武装闘争を放棄して前回5年前の選挙で第1党になった「ネパール共産党毛沢東主義派」は、80議席しか獲得できずに第3党に転落し、この5年間、憲法の制定ができずに政治が混乱したことに対する国民の批判が集中した形になりました。
 「毛沢東主義派」は、選挙に不正があったとして結果を認めない姿勢を示していて、連立政権の成立までには混乱も予想されます。
 日本は2007年から4年間、ネパールに自衛隊の隊員を派遣して国連の代表団の要員として停戦の監視に当たるなど内戦からの復興を支援していて、今回の選挙を受けて新たな国づくりが軌道に乗るか注目されています。
 (http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131204/k10013567321000.html 強調引用者)
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この記事が「大胆」であることは,ネパール事情を多少とも知っている少数の人々には,すぐ分かる。陸自隊員がネパールに行った最大の目的は,海外派兵の訓練兼広報宣伝のためであり,平和貢献は口実にすぎない。たった数名(事務要員をのぞく)で行き,くるくる交代し,いったい何ができるというのか? この点については,陸自ネパール派遣参照。

しかし,ネパール事情をほとんど知らない人――大多数の日本人――がこの記事を読めば,ネパール派遣陸自隊員が大活躍し,今回の制憲議会選挙の「成功」をもたらしたと誇らしく思い,今後は日本も積極的に海外派兵すべきだと考えるようになるのは,ごく自然な成り行きだ。実に巧妙。世論操作のモデルケース教材として大学で使えそうだ。

131205 ■ネパールの自衛隊

では,皆様のNHKが,なぜこのような「大胆・露骨」にして「巧妙」な世論操作をするのか? それは,いうまでもなく安倍政権に操作されているからである。松田浩氏は,「政権のNHK支配監視を――露骨な人事 情報統制の発想」において,こう警告している。

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 公共放送NHKが,安倍政権の“政治的人事”で,危機に立たされている。さきの経営委員人事で,安倍首相が新任の4委員を自らに極めて近い,“安倍一族”で固めたためだ。
 半世紀以上,NHKと政府の関係をウォッチしてきたが,このような露骨きわまる人事は見たことがない。・・・・
 伝統的に権力の意向を“忖度”することにたけたNHKの体質を考えれば,原発,教育,歴史問題,集団的自衛権などを報じる際の現場への萎縮効果は計り知れない。・・・・
 安倍首相は経営委員人事をテコに,NHKの直接支配に乗り出したのである。
 時あたかも特定秘密保護法案が衆院で強行採決された。共通して底流にあるのは,国民に与える情報をコントロールしようという安倍政権の発想である。・・・・
 ただでさえ,日頃から政権よりの報道が目につくNHKである。「みなさまの公共放送」が戦前と同じ「国家の公共放送」に変貌することがないよう,視聴者・国民による厳しい監視の目が必要だろう。(朝日新聞,2013年12月4日)
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日本は,ネパール平和構築のため,官民とも非軍事の分野で様々な多くの貢献をしてきた。これに対し,派遣自衛隊の活動など,全くといってよいほど現地ネパールの人々には知られていなかった。それなのに,他分野の大きな貢献をさしおき,NHKは派遣自衛隊の貢献を特記した。

これは,たまたまそう書いたのではない。安倍政権の「直接支配」か,それとも「権力の意向の“忖度”」か,それは分からないが,この記事に一定の政治的意図が隠されていることは否定すべくもあるまい。

追加](12月6日22時半)
特定秘密保護法案が参院強行採決目前,世論は沸き立ち,国会も国会の外も極度に緊迫している。

その最中,皆様のNHKは,看板番組ニュースウオッチ9(21:00-22:00)において,長々と自衛隊の宣伝番組を流した。「“被災地に勇気を”自衛隊歌姫の『祈り』」。違和感を通り越し,番組放送の裏を“忖度”せざるを得なかった。

自衛隊は「特定秘密」の巣窟。番組は,その自衛隊の演奏活動を,被災地支援活動という誰にも異を唱えにくい形で,情緒たっぷりに伝え,視聴者を涙させた。

特定秘密保護法体制は,強面だけで成立し維持されるわけではない。

12月6日午後11時半,自公強行採決により,特定秘密保護法成立!

谷川昌幸(C)

自称「右翼軍国主義者」の「積極的平和主義」:安倍首相の国連演説

安倍首相が,自称「右翼の軍国主義者」として,H・カーン賞受賞スピーチ(9月25日)と国連総会演説(9月26日)において,「積極的平和主義」を唱えた。

このうち自らを「右翼の軍国主義者(right-wing militarist)」と称したのは客観的な正しい事実認識だが,「積極的平和主義」の方は極めて欺瞞的である。外国と英語を利用した巧妙な詐術。こんな不誠実な元首演説を許してはならない。

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 ■安倍首相の国連総会演説(9月26日)

1.”under control”以上に危険な「積極的平和主義」
安倍首相は自他ともに認める「右翼」だから,夷狄たる諸外国ないし国際社会の常識は端から無視している。リオデジャネイロでは,カタカナ英語で”under control”と放言した。国際社会の常識では,福島原発の現状は”un-controlled”あるいは”out of control”だが,そんなことは全く意に介さない。

このような用語法は,「右翼の軍国主義者」の伝統に則っている。周知のように,帝国陸軍は対中「戦争」を「事変」と呼び換え誤魔化した。また,戦況不利で退却を余儀なくされると,それを「転進」と呼び換え誤魔化した。しかし,国際社会の常識では,中国での戦いは「戦争」であり,部隊の後退は「退却」ないし「敗退」である。

このような言葉による誤魔化しは,国際社会では通用しなかったが,不幸なことに,いや滑稽かつ悲惨なことに,日本社会では効果絶大であった。帝国臣民は素直に「事変」と信じ,暴支膺懲に走った。そして,帝国陸海軍の「転進」は,結局,大日本帝国それ自体を破滅させることになった。「敗退」,「退却」であれば,敗因と責任が解明され,次の作戦に生かされていたはずだが,「転進」,「転進」と叫んでいるうちに,銃後の臣民ばかりか軍自身もそれを信じてしまい,同じような失敗を繰り返し,戦況を見失い,あげくは,あの破滅的敗戦の悲惨を招くことになってしまったのである。

福島原発も,”under control”と言いつのっているうちに,当事者までそれを信じ,ますます事故原因の解明や責任追求がおろそかとなり,結局は帝国陸海軍と同じような破滅への行程を辿ることになってしまう可能性が高い。

安倍首相の「積極的平和主義」もまた,このような呼び換え語法の一変種である。安倍首相は,国際社会では「消極的平和」と呼ばれているものを「積極的平和主義」と呼び換え,国連総会演説やH・カーン賞受賞スピーチで,それを日本政府の平和貢献への基本指針とすると宣言した。これは”under control”に勝るとも劣らない危険な重大発言である。

 131001c ■H・カーン賞受賞スピーチ(9月25日)

2.消極的平和の定義
安倍首相の掲げている平和は,国際社会の常識では,積極的平和ではなく,消極的平和(negative peace)である。これは,「平和」を「戦争のない状態」と定義する。「ない」というnegativeな形での定義なので,「消極的(negative)平和」と呼ばれている。

消極的平和は,近代の基本的な平和概念であり,これは「力のバランス(balance of power)」によって実現されると考えられていた。だから,平和(戦争のない状態)の実現には,「力」(中心は軍事力)が不可欠であり,常に相手をにらみながら軍事力を増強することが求められた。

この消極的平和は現在でも根強く支持されており,日本の歴代政府も基本的にはこの立場をとってきた。安倍内閣もそれを継承したが,従来の慎重に限定された自衛隊の役割には満足できず,その制限を一気に取り払う政策へと大きく方向転換した。軍隊の抑止力による平和(消極的平和)が前面に打ち出され,憲法解釈変更による集団的自衛権行使の承認や憲法9条の改正,あるいは日米安保の強化が強く唱えられるようになったのは,そのためである。国際常識から見ると,このような安倍首相の平和政策は,まちがいなく「消極的平和主義」である。

3.積極的平和の定義
これに対し,積極的平和(positive peace)は,第二次世界大戦終結前後から注目されはじめ,ガルトゥングらの努力により,冷戦終結後,急速に有力になってきた平和の考え方である。積極的平和は,単に戦争のない状態,つまり消極的平和は真の平和ではないと考える。たとえ戦争が無くても,社会に貧困,差別,人権侵害などの構造的暴力があれば,あるいは日本国憲法の文言で言うならば「専制と隷従,圧迫と偏狭」などがあれば,その社会は平和とはいえない。構造的暴力は紛争原因となり,紛争は戦争をも引き起こす。だから真の平和は,構造的暴力が存在せず,人々が基本的人権を享受しうるような積極的(positive)な状態でなければならないのである。

この積極的平和の実現には,軍隊はほとんど役に立たない。構造的暴力は,非軍事的な人間開発*によってはじめて効果的に除去できる。消極的平和が軍事的手段によって「戦争のない状態」の実現を目指すのに対し,積極的平和は平和的・非軍事的手段によって「戦争原因のない積極的平和」の実現を目指すのである。
 *「人が自己の可能性を十分に発展させ、自分の必要とする生産的・創造的な人生を築くことができるような環境を整備すること。そのためには、人々が健康で長生きをし、必要な知識を獲得し、適正な生活水準を保つための所得を確保し、地域社会において活動に参加することが必要であるとする。パキスタンの経済学者マプープル=ハクが提唱した概念(デジタル大辞泉)」。国際社会ではUNDPが中心になって人間開発に取り組んでいる

4.呼び換えとしての「積極的平和主義」
以上が,平和の二概念に関する国際社会の常識である。だから,私も,当然,安倍首相がこの国際常識に従って「積極的平和」を唱えたものと思っていた。ところが,驚いたことに,実際には,そうではなかった。安倍首相は,消極的平和への貢献を積極的平和主義と呼び換え,そのための軍事的貢献を国際社会に約束したのである。

まず注目すべきは,用語法。日本語の方は,国連演説(日本語)でもH・カーン賞受賞スピーチ日本語訳でも「積極的平和主義」となっている。ところが,英語の方は,いずれにおいても,”Proactive Contribution to Peace”ないし”Proactive Contributor to Peace”となっている。(国連演説英訳H・カーン賞受賞スピーチ英語原文

当初,安倍首相が「積極的平和主義」を唱えたと報道されたので,私は,てっきりガルトゥングらのいう”positive peace”,あるいは非軍事的手段による平和貢献を語ったのだと思い,大いに期待した。ところが,そうではなかった。”positive”はなく,その代わりに”proactive”が「貢献」の前に置かれ,日本語版では「積極的平和主義」と表記されていたのだ。巧妙な呼び換え,いや欺瞞,詐術とさえ言ってもよいかもしれない。

それでも英語の方は”proactive”と言っているので,少なくとも外国では大きな誤解は少ないだろう。”proactive”という用語は,”proactive defense”という形でよく使用されるように,事前・先手の対策,その意味での積極的防衛という意味合いが強い。安倍首相は,H・カーン賞受賞スピーチで具体例を挙げ,”proactive”をこう説明している。

現在の日本国憲法解釈では,国連PKO派遣自衛隊は,隣の派遣外国軍が攻撃されても助けられない。また,日本近海の米艦が攻撃されても,自衛隊の艦船は米艦を助けられない。これは”proactive”ではない。だから「日本は,地域の,そして世界の平和と安定に,今までにもましてより積極的に(proactively),貢献していく国になります」。つまり,平たく言えば,憲法は集団的自衛権行使を禁止しているというこれまでの政府解釈を変更し,あるいは機を見て憲法9条を改正し,自衛隊を普通に戦える軍隊に変えることによって,自衛隊を戦う軍隊として国連PKOや多国籍軍,あるいは日米共同軍事作戦に参加させるということである。

これは,いうまでもなく軍事力による平和貢献であり,目指されている平和は,結局,「消極的平和」ということになる。消極的平和への”proactive”な貢献!

ところが,日本国内向けの日本語版になると,安倍首相はもっぱら「積極的平和主義」を唱えたということになり,これだけでは従来一般的に使用されてきた「積極的平和(positive peace)」と見分けがつかない。実に紛らわしい。というよりもむしろ,意図的に紛らわしい用語を用い,積極的平和を支持してきた多くの人々を惑わせ,取り込むことをひそかに狙っているように思われる。

5.日本国憲法と積極的平和への貢献義務
平和的・非軍事的・非暴力的手段による平和貢献と,軍事的手段による平和貢献は,原理的に全く異なる。日本国憲法が規定しているのは,いうまでもなく非軍事的手段による積極的平和への貢献である。

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日本国憲法 前文
われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
We desire to occupy an honored place in an international society striving for the preservation of peace, and the banishment of tyranny and slavery, oppression and intolerance for all time from the earth. We recognize that all peoples of the world have the right to live in peace, free from fear and want.

第二章 戦争の放棄
第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
CHAPTER II RENUNCIATION OF WAR
Article 9. Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order, the Japanese people forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or use of force as means of settling international disputes.
In order to accomplish the aim of the preceding paragraph, land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained. The right of belligerency of the state will not be recognized.
——————————

これは,世界に先駆けた積極的平和の宣言に他ならない。日本国民は,非軍事的・非暴力的手段により世界の構造的暴力(恐怖と欠乏)を除去し,積極的平和(平和のうちに生存する権利)を実現する努力をする,と世界に向け宣言し約束した。憲法は,日本国民が誠実にこの努力を続け,国際社会における「名誉ある地位」を得ることを要請しているのである。これは,軍事的手段による消極的平和への”proactive(積極的)”な貢献のことでは,断じてない。

積極的平和は日本の国是である。そして,それを定めた日本国憲法は「国の最高法規」であり,首相は当然「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(98条)。日本国元首たる首相が,違憲の政策を国連総会で国際公約するようなことは断じて許されない。

 131001 ■『あたらしい憲法のはなし』(文部省,1947)挿絵

6.言霊の国
言葉は,どの文化圏でも,霊魂の宿るところとして畏れられ大切にされてきた。キリスト教では「はじめに言葉があり,言葉は神であった」のであり,日本は「言霊の国」とされてきた。

ところが,その「言霊の国」日本で言葉を最も軽んじ弄んできたのは,日本固有の文化と伝統を守るはずの「右翼の軍国主義者」らであった。

「事変」と「転進」に誤魔化されたように,いままた”under control”や「積極的平和主義」に誤魔化され,体制翼賛に走ると,日本は再び道を大きく誤ることになるであろう。

[参照1] 安倍首相の怪著『美しい国へ』

[参照2]
●『積極的平和主義を目指して』総合研究開発機構(NIRA),2001年
 日本が積極的平和主義を目指して世界のために貢献しようとするのであれば、国連の平和維持活動(PKO)にこれまで以上に積極的に参加していく必要がある。・・・・以前として凍結されたままになっている自衛隊の部隊などによるいわゆる平和維持活動の本態業務の早急な凍結解除が望ましい。・・・・
 本体業務の凍結解除に続いて必要とされるのは、いわゆる日本のPKO五原則の見直しである。冷戦後は、紛争当事者が確定し難い内線型の紛争が頻発するようになったこともあり、停戦合意の存在や日本の参加への関係当事者の同意等の条件に関しては、国連の平和維持活動開始の決定により満たされたものとみなすとの趣旨の法改正が望ましい。また、派遣隊員などによる武器使用についても憲法解釈の問題はあるが、国連の慣行との整合性を図る努力が必要であろう。・・・・ (誤字が多いが原文のまま引用)
(NIRA出版物情報 http://www.nira.or.jp/past/pubj/output/dat/3502.html)

『新・戦争論 積極的平和主義への提言』伊藤憲一著,新潮新書,2007年
(1)書評:小田嶋隆(日経ビジネス2007年11月16日)
 筆者によれば、最も重大な点は、憲法第九条の二項(←「大きな問題があります」と言っている)にある。
 すなわち、第二項が〈過ぎ去った「戦争時代」の発想や思考で雁字搦めになっているからです。このままでは日本は不戦時代に入りつつある世界の流れから取り残されるだけでなく、不戦時代を作りだそうとする世界のコンセンサスに背くことにさえなります。現行の第二項は「終わった戦争」や「終わった時代」に固執して、不戦時代の到来という新しい時代をまったく理解していないからです〉[P153]というのだ。
 で、その「新しい時代」である「不戦時代」の要請に応えるために、日本は、「あれもしない」「これをしない」という偽物の平和主義から脱却し、「あれもする」「これもする」という「積極的平和主義」へと踏み出さねばならないということらしい。
 ちなみに、本書の末尾の一文はこうなっている「見て見ぬふりをする消極的平和主義から、市民としての義務を果たす積極的平和主義へと、日本人はその平和主義を脱皮させる必要があります。世界的な不戦共同体に参加し、その共通の目的に積極的に貢献することこそが、われわれに求められている課題であると言わねばなりません」[P177]
 つまり、目的が「戦争」でないのだから、軍事力の行使もアリだ、と、そういうことなのだろうか?
 著書の言う「積極的平和主義」が、かつて歴史の中で繰り返されてきたように、開戦の口実にならなければよいのだが。
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20071115/140706/)

(2)書評: 堂之脇光朗(日本紛争予防センター理事長)
 加えて、「積極的平和主義」も提言されている。「あれもしない、これもしない」といった「消極的平和主義」は戦争時代の思考法にとらわれた偽物の平和主義であり、国連の平和維持活動などのために「あれもする、これもする」との積極的平和主義こそが不戦共同体の一員としての日本の選択であるべきだとしている。7年ほど前に総合研究開発機構(NIRA)が「戦争の時代から紛争の時代へ」などとして、「積極的平和主義を目指して」と題する研究報告を発表したことがある。その後、国連に平和構築委員会が設置され、わが国の防衛庁も防衛省に改組された。このような最近の時代の流れからみても、積極的平和主義がわが国の進むべき道であることは間違いないであろう。
(http://www.jfir.or.jp/cgi/m-bbs/contribution_history.php?form%5Bno%5D=547)

谷川昌幸(C)

京都の米軍基地(13):「Xバンドレーダー体制」の危険性

1.京都府,Xバンドレーダー容認へ
京都新聞(7月30日)によれば,京都府の山内副知事は29日,米軍Xバンドレーダー設置に「特に問題はない」とする,いわゆる「専門家」の意見をふまえ,「電磁波については心配はいらないのかなと感じている。内容が詰まってきた」と述べた。

京丹後市議会も,先述のように,22議員(議長1名)中の17議員が早期受け入れ要請書を提出しており,副知事の今回の容認発言により,京都府が近々米軍基地受け入れの最終決定をするのは避けられない情勢になってきた。

2.与件前提の科学的判断
問題はいくつもある。諮問委員会等の,いわゆる「専門家」が,権力の意思に沿うよう選任され,期待通りの答申を出すことは,原発等々で,その実例をいやというほど見せつけられてきた通りだ。いまや国民の多くは,いわゆる「専門家」は信用ならない,と考えている。これは,国民が生活を守るための健全な常識的判断だ。

いわゆる「専門家」は,誰かにより「与えられた条件(与件)」の下で安全性を判断する。これは科学であり,途中の処理に誤りさえなければ,その限りでは科学的に正しい。あるいは,蓋然性が極めて高い。しかし,いわゆる「専門家」の科学的判断は,与件の正しさを証明するものではない。

Xバンドレーダーが,その典型。いわゆる「専門家」は,極秘中の極秘,軍事機密の塊のようなXバンドレーダーの核心部分の情報を教えられてはいない。出力はたぶんこの位であり,たぶんこのような方法で設置され運用されるであろう,という根拠なき推測に基づき,「科学的」安全判定をしたにすぎない。

3.科学的判断の政治的利用
ところが,権力側は,いわゆる「専門家」の限定付きの科学的安全判定をえると,限定付きを棚に上げ,たとえばXバンドレーダーの安全性が科学的に証明されたと宣伝し,反対派を非科学的,無知蒙昧といって非難する。

しかし,真に科学的なのは,与件の妥当性をも疑う反対派の方である。私たちの常識は,北朝鮮はおろか中国奥地までも探知しうるXバンドレーダーが,数十メートル,数百メートルの近くの自宅や田畑,路上や船上にいる人々に,短期的あるいは長期的な影響を与えないはずがない,と警告している。この常識は健全である。

4.「Xバンドレーダー体制」による監視
しかし,Xバンドレーダーの危険性は,むしろ精神に対するものだ。権力は,Xバンドレーダーの議論が電磁波の身体への影響に向かうよう世論を巧みに誘導し,いまや,いわゆる「専門家」の安全判定により,少なくとも京丹後市議会や京都府議会の了承をほぼとりつけた。

これも問題だが,もっと議論されるべきは,むしろ「Xバンドレーダー体制」の「精神的Xバンドレーダー」が地元住民を照射し,その頭の中,心の中を映し出し,分析・評価し,記録・保存する危険性だ。

Xバンドレーダーは,単なる電子機器ではない。Xバンドレーダーは,それを運用する制度,人員を含めた一つの社会的・政治的システムとして設置される。この統合的システムとしての,いうならば「Xバンドレーダー体制」が,住民を監視し,調査・分析し,結果を記録・保存するのだ。

5.破壊工作と内通者探知
Xバンドレーダーは,米日同盟軍の最も重要な目の一つだから,北の某国や某々国はつねにその能力を探り,場合によっては,よく訓練された工作船やスパイを経ヶ岬付近に送り込む。彼らはプロだから,作戦実行に当たり,内通者確保など,ありとあらゆる周到な現地工作を行う。

「Xバンドレーダー体制」は,当然,この事態を想定し,あらゆる予防,防衛体制を整える。スパイや内通者はどこにいても不思議ではない。しかも,すぐそれと分かるようなスパイや内通者は役に立たないから,彼らは通常人民の大海の中に密かに潜んでおり,少々のことでは見分けがつかない。

そうした危険なスパイや内通者を見つけ出すには,住民1人1人の頭の中,心の中をくまなく照射できる強力で精緻な「精神的Xバンドレーダー」が必要である。米軍や自衛隊の情報部隊,政府の公安諸機関,そして警察公安などである。

6.一般住民監視のための「Xバンドレーダー体制」
権力の本性は猜疑心であり,つねに反対派を「非国民」,あるいは内通者シンパないし予備軍とみなし監視する,抜きがたい習性をもつ。

いま地元でXバンドレーダー反対闘争を議会において公然とやっている政党勢力は,日本共産党だけだ(共産党議員質問6月19日6月20日)。しかし,共産党の議員や党員は,いわば人民の大海の上に浮かんでおり,「精神的Xバンドレーダー」を使うまでもなく,容易に把握できる。その意味では,共産党員は,権力にとって,さしたる脅威ではない。

そうではなく,「精神的Xバンドレーダー」が必要なのは,健全な常識により「危ないのでは」と考え,共産党の反対運動に同調したり,あるいは独自に反対活動をしたりする一般住民である。

彼らは,人民の大海の中で他の人々と混在しており,容易に見分けがつかない。だから,Xバンドレーダーが経ヶ岬に設置されたら,同時に設置される「精神的Xバンドレーダー」の探知波を住民一切合切に照射し,その超高性能の解像能力により住民1人1人の差異を解析し,各人の危険性を算出し,どの程度監視するかを決めるのだ。

7.産軍官学共同体の思うつぼ
この種の住民監視は,米軍基地や自衛隊基地があるところでは,多かれ少なかれ,どこでも日常的に行われている。秘密を重視する「暴力装置」としての軍隊は,そのようなものなのだ。

京都府議会や京丹後市議会では,Xバンドレーダーと電子レンジはどちらが危険かといった,権力が用意した与件下の議論に終始し,「Xバンドレーダー体制」ないし「精神的Xバンドレーダー」の危険性については,ほとんど議論されていない。

日米の産軍官学共同体の思うつぼだ。してやったりと,ほくそ笑んでいるにちがいない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/30 at 14:57

京都の米軍基地(2):撮り撮られ

京都・経ヶ岬の航空自衛隊経ヶ岬分屯基地を見てきた。といっても,外からの,覗き見にすぎない。梅雨・多湿で遠望には向かなかったが,それでも百聞は一見にしかず,基地の立地がよく分かった。

米軍Xバンドレーダー基地は,この空自基地を大幅拡張し,そこに同居する。というより自衛隊基地の共用,より正確には米軍基地化である。

経ヶ岬に行ったのは平日昼間であり,よそ者は一目瞭然,よく目立つ。こんなところで写真を撮っているのは,不逞の輩に決まっている。撮る以上に撮られ,ファイルに納められているだろう。

薄気味悪いが,米軍が来たら,この付近の撮影は「軍事機密」により制限され,困難なるに決まっている。軍,特に情報部隊は,そのようなものだ。

撮るなら今のうち。美男・美女モデルを雇い,バスを連ね,経ヶ岬撮影会を挙行するのも乙だ。歴史に残る傑作が撮れるかもしれない。

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 ■空自経ヶ岬分屯基地(Google)。撮影場所

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 ■基地のビルとレーダー(Google) / 岳山のレーダー(Google)

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 ■分屯基地入口(2013/5/31)

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 ■レーダーサイト入口(2013/5/31)

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 ■棚田(尾和)・分屯基地・日本海(2013/5/31)

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 ■ウミネコ(中浜)と山上のレーダー(2013/5/31)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/06/01 at 20:40

ネパールでのPKO訓練に日本も参加

駐ネ米大使館によれば,「ビレンドラ平和活動訓練センター(BPOTC)」で3月25日~4月7日開催の「Shanti Prayas-2(平和活動-2)」訓練に,日本も参加している。日本側情報を探したが見当たらず,参加自衛隊員のランクや人数は不明。

130330a ■Shanti Prayasシンボルマーク(BPOTC)

訓練は,米太平洋軍が主導,ネパール国軍が協力し,行われているようだ。参加総数871人(内ネパール416人)。インド軍も参加している。訓練には幹部スタッフ訓練と野外演習があり,日本は双方に参加。

BPOTCは,カトマンズの東方,パンチカルの高原(標高942m)にある。1986年設立。PKO派遣要員を年8000人以上訓練している。この付近は何回か通ったことがあるが,広大な美しい訓練基地であった。

130330b ■BPOTC(Google)

しかし,パンチカルはチベット(中国)国境のすぐ近く。敏感地帯にある。そこに米軍主導で,インド軍や日本軍(自衛隊)が,国連平和活動を名目に軍事訓練をする。中国メディアも「客観報道」をしているが,さて本心はどうだろうか?

130330c  ■野外訓練(BPOTC)

今回もそうだが,いまでは自衛隊員の海外派遣は日常茶飯事。ニュースにもならない。日本の軍事化は,着々と進んでいる。このまま行けば,憲法の「改正」,自衛隊の「国防軍」格上げも遠くはあるまい。

野口健氏も,かつて(2007/03/23)こう主張された。「今月末に自衛隊が停戦監視団としてネパール入りするが、武器を持たず大丈夫なのかと心配になる。せめて自身の安全を守る武器保有は認められるべきだと思うが。日本国内でも PKO や停戦監視団で現地に行く自衛官に対して「武装するべきではない」といった意見もあるが、「それならばあなた方が丸腰で行ってみろ」と言いたい。どれだけの恐怖か。」(http://www.noguchi-ken.com/M/2007/03/post-303.html)

【追加2013/04/01】
この訓練のスポンサーは,米国務省。大使館HPで盛んに宣伝している。イラク・アフガンで懲りて,PKOに宗旨替えしたのかな?

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 ■U.S. Pacific Command Deputy Commander Lt. Gen. Thomas L. Conant lays a wreath with Nepalese officers at Exercise Shanti Prayas-2 at the Birendra Peace Operations Training Center. (米大使館HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/03/30 at 23:20

カテゴリー: 平和, 憲法

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陸自,フェイスブック上陸

「国防軍」への格上げの前祝いとして,陸上自衛隊が,フェイスブック上陸作戦を敢行した。これで,正々堂々,顔(Face)が見える「平和貢献」組織として登録(Book)されたことになる。まずは,おめでたい。

これまで自衛隊は,「暴力装置」などと恐れられ,敬遠されがちだったが,これからの「美しい国・日本」では,古臭くて美しくない「暴力装置」などといった表現は死語となり,自衛隊=国防軍は,「愛する人,愛する日本」のための「平和装置」という適切な表現をもって呼ばれ,国民すべてから敬愛されることになるであろう。

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 ■ 陸上自衛隊公式フェイスブック

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陸上自衛隊 Japan Ground Self-Defense Force

ミッション 「守りたい人がいる」
「人」とは、愛する家族であり、ふれあう地域の人々であり、我が国の美しい自然や文化をも表しています。 わたくしたちは、この「守りたい人がいる」を通じて、愛する人、愛する日本のために「事に臨んでは身の危険を顧みず任務に邁進する」という陸上自衛隊の存在の原点を明らかにし、逞しく頼りがいのある陸上自衛隊を目指します。

説明 陸上自衛隊の公式Facebookページです。
この場を通じて、陸上自衛隊に関する様々な情報を発信していきたいと思います。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/03/15 at 19:09

自衛隊員の「つぶやき」:万人監視社会への警鐘

朝日新聞(1月6日)が連載「ビリオメディア」で、ツイッターやフェイスブックの危険性を指摘している。私のようなネット素人にとっても、この程度のことなら常識だが、その常識ですら度外視して無防備無警戒、丸裸でツイッターやフェイスブックを利用している人が少なくないらしい。

1.海自隊員の「つぶやき」
朝日記事によれば、記者はツイッターとフェイスブックに海上自衛隊員が投稿しているのを見かけた。そこには、実名で、制服姿の自分の写真ケイタイ電話番号が記載されている。第13護衛隊「あさゆき」乗り組み隊員らしい。

その彼が、外洋航海日程をフェイスブックに記載し、またツイッターでは、2012年12月10日13時5分に、北朝鮮「ミサイル」発射警戒作戦に関する自艦の情報をつぶやいた。

われわれ善良なる国民にとっては、24万自衛隊員が、フェイスブックやツイッターで自衛隊の作戦や日々の行動をつぶさに報告してくれれば、これほど有り難いことはない。暴力装置たる自衛隊が丸裸になり、文民統制も可能となるからだ。(もっとも、私自身は、文民統制はあまり信用していない。プロの自衛隊よりも、むしろド素人の文民(国民)の方が好戦的となりやすく、危険な場合が少なくないからである。)

しかし、それはそれとして、海自隊員の幼児なみの情報管理能力には、正直、たまげた。こうしたことは、情報重視の米軍が見過ごすはずはなく、自衛隊はますます信用を失い、米軍から重要情報は得られなくなる。情報ジャジャ漏れ自衛隊は、われら善良なる国民にとっては好ましいが、自衛隊自身にとっては深刻な由々しき事態であろう。

海自隊員のツイッターとフェイスブックへの記載は、朝日記者が防衛省取材を始めるとすぐ、消去されたという。おそらく上官から厳しく叱責され、あわてて削除したのだろう。

2.消去しても消去されないネット情報
しかし、ツイッターやフェイスブックの危険性は、本人は消去したつもりでも、実際には消去されていないことだ。事実、朝日記者は、本人の承諾なく、下図のような「つぶやき」を新聞紙面に転載している。おそらく、ツイッターとフェイスブックの記事をコピーし保存しているのだろう。この程度のことは、ネット素人の私にでも、簡単にできる。

130105 ■自衛官「つぶやき」転載記事(朝日新聞2013-1-6)

そして、これは素人にはよくわからないことだが、おそらくツイッターにせよフェイスブックにせよ、たとえ本人が削除しても、記載情報は何らかの形で運営者側に残されており、利用しようと思えば利用できるのではないか、ということ。もしそうであれば、第三者によるコピー配布に加え、こうした形でも、記載情報は利用される。ネット情報は、投稿の瞬間、自分の手を離れ、コントロール不能となる。そう覚悟すべきであろう。

3.権力と企業による利用
そして、もう一つの危険は、ツイッターやフェイスブックは、内外の権力機関や企業により監視され、分析されているということ。朝日記事は、北九州市の「つぶやき」監視や、経産省資源エネルギー庁の「つぶやき」収集を紹介しているが、これも常識といってよいだろう。

むろん、多くの人は、そんなことは自分には無関係と思っているに違いない。たしかに、もし特殊な情報機関や秘密機関などだけであれば、監視のターゲットとなるのは、テロリストや過激派など「特殊な」少数の人々だけであろうが、もし省庁や市役所、あるいは警察、学校、町内会などが日常的に「ネット監視サービス」を利用し始めると、もはや誰一人として無関係といってはおれなくなる。それは、万人が万人を監視する清潔安全なユートピアの到来である。

4.ネット情報 + 盗撮カメラ + IC免許証
フェイスブックの写真やツイッターの「つぶやき」は、街中にあふれる盗撮(防犯)カメラ映像と組み合わされると、さらに具体的、正確となる。あるいは、それらにIC免許証を組み合わせると、ほぼ完璧といってよいだろう。誰が何を考え、どこで、何をしているかが、丸見えだ。

フェイスブックやツイッターは、いったん投稿したら、もはや取り返しがつかない。写真や記事を誰がどう使おうが、投稿者には、どうすることもできない。朝日記事を見ても、それは明白である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/01/06 at 18:32

人間の安全保障と国際平和貢献

小論「人間の安全保障と国際平和貢献」を発表しました。憲法研究所・上田勝美編『平和憲法と人権・民主主義』(法律文化社,2012年)290-304頁。以下,結論部分のみ紹介します。

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日本国憲法は、先述のように、前文で人間安全保障への積極的貢献を義務づけているが、その手段については、いうまでもなく第九条により武力によることを一切禁じている。日本国民は、非軍事的手段による平和貢献に徹することを自ら選択したのである。

この憲法理念からすると、日本政府の人間安全保障政策は、「国益」優先と自衛隊動員の二点において、誤りである。

そもそも非軍事的平和貢献の中心を占めるべき政府開発援助が、日本の場合きわめて貧弱である。日本のODA(2011年度)は、援助総額では英独仏とほぼ同じだが、国民一人当たり負担額はノルウェーの10分の1以下であり、一般会計予算に占める割合もわずか1.1%でしかない。さらに驚くべきことに、ODA予算は、1997年度を100とすると、2011年度は49であり、半減されている。ほぼ総額維持の防衛関係費と比較して、その落差は極端だ。

これは、人間安全保障への非軍事的貢献を義務づけている憲法に反する政策である。たしかに、従来のODAには事業目的の不明確さや不効率があったことは事実である。しかし、だからといってODAを大幅削減したり、自衛隊海外派遣のための草刈り場とするのは誤りである。また、ODA関係者が、根拠なき批判や予算削減におびえ、右傾化世論に迎合し、一見明快な「国益」貢献に飛びつき、自衛隊との軍民協力に走るのは、ODAの自殺行為に他ならない。

日本国民は、非戦非武装の憲法理念に立ち返り、「国家」ではなく「人間」の安全を保障するための平和的手段による平和貢献を改めて選択し直すべきであろう。(302-303頁)
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Written by Tanigawa

2012/10/18 at 21:16

高島・端島と三菱財閥,軍事都市・長崎

「ネパール投資年2012」に敬意を表し,高島に行き,三菱財閥の今昔を見学してきた。

1.希代の政商,岩崎弥太郎
三菱創始者の岩崎弥太郎は,希代の政商,自然と人民と国家を食い物とし,巨万の富を築いた。長崎は,明治から今日にいたる,その人民搾取の生き証人である。

長崎港からフェリーに乗ると,伊王島経由で高島に着く。約30分。高島は,全周6kmほどの小さな島だが,明治2(1869)年,死の商人グラバーが炭鉱開発,それが後に官営となり,次に明治14年の官営事業払い下げで三菱のものとなる。まさに濡れ手に粟,人民財産の横取りだ。

 ■岩崎弥太郎像(高島港公園)

2.高島からの搾取
この三菱高島炭鉱は,近代技術を導入して掘りまくり,三菱の蓄財と日本の富国強兵に大いに寄与したが,採算悪化や石油への転換のため,昭和61年に閉山した。

御用済みとなった高島からは,労働者・住民が退去,斜面の木造住宅の多くは廃屋となり,またコンクリート・アパートも廃虚となっているものが少なくない。

しかし,高島自体は,自然豊かな美しい小島である。真冬の正月というのに,島では早くも早春の花々が咲き,海はどこまでも碧く,透きとおっている。三菱は,この美しく豊かな南海の小島を,一時的な金儲けのため搾取し破壊したのだ。

 
  ■高島教会の十字架と鐘                      ■高島教会より南風泊漁港を望む

 ■猫一匹通らない豪華構造物 (搾取の罪滅ぼし?)

3.軍艦島(端島)
その高島以上に搾取され破壊されたのが,すぐ近くの端島。面積はわずか6haほど。

三菱は,明治23(1890)年に端島を買収し炭鉱開発,高島と並ぶ出炭量となった。増産につれ,雇用労働者も増え(敗戦前は朝鮮人や中国人も雇用・徴用),島内にはアパートが建設された。出炭最盛期は昭和16年頃で約40万トン,人口最大は昭和35年頃の約5千人。島内には,学校,病院,映画館,寺など,日常生活に必要なものはほとんどそろっていた。

しかし,その端島も,昭和49年に閉山,住民は全員退去し,現在は廃虚の無人島となっている。

三菱は,端島の石炭(自然)を搾取し,軍艦を造った。だとしたら,端島は,それゆえにこそ「軍艦島」と呼ばれるべきだ。(いわれの史実については,ご自身でご確認ください。)

その軍艦島は,高島からもよく見える。廃棄軍艦よりもグロテスクで醜い。わざわざ高い料金を払って「軍艦島クルーズ」に行く必要はない。

 ■霧に霞む軍艦島(高島西海岸より)

4.軍艦建造で儲ける三菱
軍需企業・三菱は,いまも軍艦を造っている。高島・伊王島フェリーに乗ると,長崎湾沿いの三菱工場群を間近で見ることが出来る。そこには,大抵,数隻の軍艦が建造や修理・点検のため,係留されている。この1月3日も,No.109とNo116の2隻と,船番不明の1隻が係留されていた。

ネットによると,109番は護衛艦「あけぼの」(4400トン)。1999年三菱長崎造船所建造。対テロ戦争で海外派兵に使用。116番は護衛艦「てるづき」(5000トン)。2011年三菱長崎造船所建造。これから配備される。

これら2隻は,いずれも最新鋭。以前なら,こんな写真を撮ると,スパイと疑われ,逮捕,拷問は免れなかったにちがいない。

 ■護衛艦ありあけ

  
  ■護衛艦てるづき                            ■建造中(?)の軍艦 

5.軍事都市,長崎
このように,長崎は明治以降,富国強兵都市であり,現在も,軍需産業都市である。平和学習のため長崎を訪れ,官許モデルコースを回るのも悪くはない。しかし,本物の生きた学習は,長崎あるいは佐世保の現役軍需産業や軍事施設の巡視・巡検にこそある。

長崎は,原爆投下前も原爆投下後も,軍港と軍需産業の都市なのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/04 at 18:20

カテゴリー: 経済, 平和

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