ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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京都の米軍基地(39):二重の危険にさらされる住民

京都の住民は,米軍Xバンドレーダーの危険に加え,福井原発事故被曝の危険にもさらされている。

これを改めて思い知らされたのが,兵庫県発表(4月24日)の「放射性物質拡散シミュレーションの結果について」。福井原発事故による放射性物資の拡散がこれだけ遠くにまで及ぶとすれば,京丹後市(印)はむろんのこと京都市(印)ですら深刻な被曝の危険にさらされていることになる。

そこで不思議なのは,京丹後市や京都市・京都府が原発廃止に回らないばかりか,原発再稼働の場合の危険性を深刻に受け止め,地域住民避難の準備や訓練を十分にやっているようにも見えないこと。まぁ,さもありなん――京丹後市長や京都府知事には,はるか彼方の「国益」の方が大切なのだから。

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 ■兵庫県シミュレーション

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 ■舞鶴市避難計画/京都市対応計画
 
[参考資料]
・兵庫県「放射性物質拡散シミュレーションの結果について」2014年4月
・「京都市原子力発電所事故対応暫定計画」平成24年4月
・「舞鶴市原子力災害住民避難計画」平成25年3月
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/04/25 at 20:37

青森沖セシウム汚染魚の報道姿勢

朝日新聞(8月29日)によれば,青森沖で8月9日に獲れたマダラ(真鱈)から133ベクレル/kgの放射性セシウムが検出された。6月にも116ベクレル汚染魚が獲れていた。このセシウム汚染魚について,朝日は例のごとく,もっぱら「風評被害」の観点から記事を構成し,報道している。

記事見出しが「基準超すセシウム 突然の検出」「広い遊泳 影響か」であり,記者の状況説明記事に続き,某国立大教授が「消費者は冷静に」の見出しで,次のようなコメントを寄せている。

遊泳力のある魚の場合、海の中を泳いでいるのを捕まえてたまたま高い値が出たからといって近海の魚がみんなダメとみなすのは合理的とは言えない。出荷自粛や停止の範囲は限定的にすることを考えないと漁業への影響が大きすぎる。現在の規制は年間で1ミリシーベルト以下に内部被曝を抑えることが目的で、実際の被曝量ははるかに低い調査結果が出ている。消費者には冷静に見てほしい。」(朝日2012.8.29)

この記事構成は変ではないか? 常識で考えれば,はるか離れた青森沖であるにもかかわらず,基準値を超えるセシウム汚染魚が獲れた,確率は低いが皆さん用心しましょう,となるはずだ。ところが,コメントは逆。「たまたま高い値が出たからといって近海の魚がみんなダメと見なすのは合理的とは言えない」という。しかし,某教授にいわれるまでもなく,国民は誰一人として,そんなバカなことは考えてもいない。

国民は、セシウム汚染魚が獲れた以上,確率は低いかもしれないが,いま箸をつけようとしているその魚が汚染されている可能性は否定できない,汚染の有無をどのようにして知ればよいのか,そう考え,心配するのだ。

この心配は極めて合理的であり,それが分かるまでは,三陸沖方面の魚を食べるのは控えよう,というのも極めて合理的な判断だ。この国民の合理的な態度を,朝日と某教授は,「消費者は冷静に」と呼びかけることによって,放棄させ,政府追従の不合理きわまりない態度をとらせようとしているのだ。

いま朝日は,政府=財界=土建業と手を組み,「南海トラフ震災死32万人」とセンセーショナルに危険を煽り立てているが,もし三陸沖セシウム汚染魚への心配が不合理なら,この「南海トラフ震災」への心配は,その何百・何千倍も不合理だ。福島原発事故は現在進行中であり,魚は毎日のように食べる。危険の切迫度,確率は,南海トラフの比ではない。

南海トラフ震災キャンペーンは,政府=財界=学界=マスコミの共同謀議による「福島原発事故かくし」あるいは「福島原発事故そらし」といってよいだろう。

29日付朝日記事は,3.11以後,繰り返された政府発表「直ちに危険はない」「直ちに影響はない」とうり二つだ。

そのときも指摘したが,国民はそんなことは百も承知だ。大多数の国民は,中・低度被曝の中・長期的影響を心配していたし,いまも心配している。当時の政府発表は,国民をバカにし,国民の合理的心配にまったく答えようとしなかった。だから,政府も政府系専門家も完全に信用を失ってしまった。もはや,政府や政府系専門家が何を言おうと,国民はまったく信じてはいない。そして,いまや,信じない方が合理的で賢明なのだ。

29日付朝日記事は,国民をバカにし,国民の合理的かつ賢明な心配にまったく答えようとはしていない。政府=財界はまだよい。わかった上でやっている確信犯だから。問題は朝日新聞。なぜ,こんな無反省,無批判な記事を垂れ流し続けるのだろう。まったくもって不可解だ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/30 at 20:52

カテゴリー: 社会, 情報 IT

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構造的暴力としての原発:堀江邦夫『原発ジプシー』

1.現場ルポ『原発ジプシー』
原子力発電所の保守作業は,想像を絶する過酷労働だ。私には,小中学生のころは農作業,16-18歳のころは工場労働の体験がある。田植えや収穫の農作業は苦しかったし,また工場では粉塵のなかで油と汗にまみれ,切り傷や火傷も絶えず,こちらも辛かった。しかし,堀江邦夫『原発ジプシー』(現代書館2011,初版1979)の描く原発保守作業は,そのような農作業や工場労働とは比較にならない,別次元の過酷さだ。

堀江氏は,孫請け,ひい孫請けの非正規労働者として原発保守作業に従事,そこで自ら体験したことを,本書において逐一詳細に記述している。その叙述は明快であり,自らをも対象化する冷静で客観的な,見事な現場体験ルポとなっている。

2.三原発で下請け労働
堀江氏は,1978-79年,原発下請け企業に雇用され,美浜(1978.9.28-12.2),福島第一(1978.12.19-1979.3.15),敦賀(1979.3.21-4.19)の三原発で,保守作業に従事した。

作業環境は極度に悪く,堀江氏もしばしば体調不良となり,福島第一ではマンホールに落下,肋骨骨折の重傷を負う。それでも,堀江氏はなおも作業員を継続,1979年3月には故障・事故続きの「悪名高き」敦賀原発に移り,劣悪な労働環境を身をもって体験した。

このようにして,堀江氏は体力の限界寸前まで現場労働者として働き,1979年4月中旬,実地調査を終了した。そして,その現場体験をまとめ,1979年9月出版したのが,本書である。

3.構造的暴力としての原発
本書は,30年以上前の出版であるが,2011年の福島原発事故以来,連日報道されるようになった原発の諸問題の多くについて,すでに具体的に詳しく説明し,その危険性を鋭く指摘している。たとえば,保守点検を考慮しない設計上の欠陥,劣悪な作業環境,電力会社-関連大企業-下請け-孫請け-ひい孫請けといった不健全な上下関係,原発への地元依存など。

本書の記述は,すべて著者自身が身を挺して収集した具体的な事例に基づいており,十分な説得力を持つ。しかも,ばらばらの個別事例の羅列ではなく,それらを通して根底にある原発問題の構造を浮き彫りにすることによって,問題の本質そのものを鋭く摘出している。著者自身の言葉ではないが,それは,いわば「構造的暴力としての原発」の告発である。本質を突いているという点で,本書は間違いなくジャーナリズムの古典である。

4.朝日「被爆線量偽装」報道の浅薄さ
これに対し,朝日新聞の被爆線量偽装報道は浅薄である。7月21日,朝日は,福島原発における被曝線量偽装を,1面,2面などで大々的に報道した。下請け企業が,作業員に命令し,線量計に鉛カバーをつけさせ,被曝線量を少なく見せかける偽装工作をしていたというのである。

しかし,堀江氏の『原発ジプシー』を読めば,この種の被爆線量偽装がどの原発でも日常的に行われてきたことは明白だ。

それは,原発関係者の身分差別構造に組み込まれている。被曝線量は,電力本社員が最小で,一次下請け,二次下請けと増加していき,末端はどうやら外国人労働者ということらしい。許容被曝線量は形式的には定められていても,作業現場に近づくほど,つまり「原発階層制」の下位に行くほど,実際にはそれを守ることは不可能であり,したがってそこでは線量偽装が行われる。

本書には,そのような被曝線量偽装の具体例が無数に出てくる。特権階級たる電力本社員がそれを知らないはずはない。制限線量内では作業はできないことを知りながら,作業を命令する。そして,現場作業員が,命令された作業をするためやむなく線量偽装をしても,それを見て見ぬふりをする。つまり,被曝線量偽装は,電力本社が暗黙のうちに命令しているのであり,真の責任は下請け企業や現場作業員ではなく,電力本社にある。

5.ジャーナリズム偽装の朝日
一方,朝日新聞をはじめとする大手ジャーナリズムは,被曝線量偽装が構造的であり,日常的に行われてきたことをよく知っていながら,巨大広告主たる電力会社を恐れ,報道してこなかった。

世間が騒ぎ始めた今頃になって,現場では常識となっていることを,あたかも新発見の特ダネであるかのように見せかけて報道し,小銭を稼ごうとする。なぜもっと早くから報道しなかったのか。報道しないよりはマシではあるが,こんなものは,到底,本物のジャーナリズムとはいえない。

6.プロとしてのジャーナリズム
原発は,日本の構造的暴力の一つである。都市-地方,電力本社-関連大企業-一次下請け-二次下請け-三次下請け・・・・。この上下階層構造において,収入は上方に行くほど大きくなり,被曝線量は下方に行くほど大きくなる。賃金の上前ハネは常識であり,被曝線量偽装も常識である。

その常識をいち早く,事実に基づき客観的に叙述し,原発ビジネスの構造的問題にまで切り込んだのが,堀江氏の本書。常識であるにもかかわらず,多くの人が知らないことにしていること,あるいは見れば見えるのに,見ようとしないこと,そうしたことを知らせ,見せるのが,本物のジャーナリズムだ。

世間の尻馬に乗り,わかりきったことを,大げさに,センセーショナルに,はした金のために報道するのは偽ジャーナリズムである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/07/23 at 00:00

カテゴリー: 社会, 文化,

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ネパール大使館,大阪に退避

ネパール各紙の報道によれば,ネパール政府は3月18日,東京の大使館を閉鎖し,大阪に退避させた。

在日ネパール人に知らせることもなく,電話を止め,館員率先して大阪に避難したそうだ。いかにもネパール的。(ただし,大使はまだ東京残留らしい。)ekantipur(19 Mar)はこう書いている――

「ネパール外務省筋によれば,・・・・他の国々の館員たちも東京から他の都市に避難を始めているし,また,もっと重要なのは,日本政府が,外国使節や公館に対し,放射能被曝の警告を出したことである。」

これは本当だろうか? 前半の,諸外国が自国民に退避を勧告しているというのは,周知の事実である。では,後半は?

日本に大恩のあるネパールの外務省である。まさか,ウソではあるまい。もし事実だとすると,日本政府は,自国民には「安全」を強調しつつ,外国人には危険だから用心せよ,と警告していることになる。

まさか,そんなことはあるまい。ネパールの人々が,聞き違いをしているのだろう。そう信じたいが,日本政府の福島原発情報ががどこまで信用されているかとなると,そこは疑問であり,ネパール政府にそう受け止められても仕方ない状況にあることは,残念ながら事実である。

それはそうとして,ネパール大使館の大阪移転が上策かと問われれば,そうともいえない,と答えざるをえない。

周知のように,福井には14(13)基もの原発が林立している(図1)。しかも,ここは地震の巣で,京阪神は風下。危険は東京の比ではない。確率の問題だから,リスク判断はもちろん個々人,各国政府に任せざるをえないが,基本的条件は十分考慮すべきだろう。

要は,神(自然)の声を聞くか日本国政府や福井県(図2参照)の声を聞くかである。これは信仰の問題であり,個々人が自分で判断せざるをえない。

▼追加1(3月23日)
ネパール・メディアは報道しないが,東京のネパール大使館は再開されたらしい。フォローアップしないのも,ネパール・メディアの特技。事実の確認が難しい。そのくせ,パラス元皇太子は発砲などしていない,という「面白い」記事を各紙が競って報道している。いかにもネパールらしい。

▼追加2(3月24日)
ネパール大使館の大阪(名誉総領事館)への退避はやはり本当らしい。東京でもある程度業務を継続するかもしれないが,事態は混乱しており,よく分からない。一時,大使館と連絡が取れなかったのは,被災ネパール人救援と大阪退避準備で手一杯だったからだろう(cf. Nepal Mountain News)。

朝日(3月21,24日)や読売(3月23日)によると,東京からの退避大使館は次の通り。
  大阪へ: ドイツ,スイス,クロアチア,エクアドル,ネパール
  神戸へ: パナマ
  広島へ: フィンランド

朝日(24日)によると,23日現在,東京の大使館閉鎖は27カ国にのぼる。そのなかでも,やはりネパールは素早かったようだ。朝日も「アジア地域ではネパールのみとなっている」と賞賛している。

匿名で,しかもタイトルが間違っているが,生々しく具体的なので,下記記事を転載した。ご参照ください。

Nepali Embassy in Japan shifted to Tokyo

Posted by nmn, Nepal Mountain News, Friday, March 18th, 2011

Nepali Embassy in Japan has been moved from Tokyo to Osaka amid fear that radioactive materials released after powerful explosion of a nuclear reactor in Phukusima Daiichi Nuclear Power Station could pose health threats.

According to Foreign Secretary Madan Kumar Bhattarai, all embassy staffers are due to reach Oshaka Thursday evening.

“The Nepali embassy will temporarily conduct its operations from Oshaka,” he said. Osaka is some 520 kilometers away from Tokyo.

The decision of the Ministry of Foreign Affairs (MoFA) to move the embassy to a safer place comes after Western countries including Britain started evacuating their nationals from Fukushima Power Station.

Likewise, concerns are high in China and among Japan´s neighboring countries after top United States nuclear official claimed that damage to the Nuclear Power Station was far more serious than Japan had acknowledged.

On Wednesday, Nepali embassy in Japan had rescued some Nepalis living in Phukusima area and brought to Tokyo. Likewise, another 52 Nepalis, affected by earthquake and subsequent Tsunami in Sendai area, have also been brought to Tokyo.

Asked if the government had any plans to evacuate Nepali nationals from Japan, senior MoFA officials said they do not have any such plans as yet.

“Now the rescued Nepalis are free to do what they think is right since there is no problem of mobility as it was in Libya. We presume that they would not have problems purchasing air tickets,” the official further said.

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図1 福井原発地図
>(http://www.geocities.co.jp/Technopolis/6734/img/ritti0049.pdf#search=’福井 原発 地図’より作成)

図2 福井県HP

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/19 at 11:49

カテゴリー: 社会, 外交

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