ネパール評論 Nepal Review

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人民政府の統治,追認か否定か?

マオイスト政府が,人民革命期の人民政府統治を追認するか否定するかで,大混乱に陥っている。

周知のように,人民戦争後半,マオイストは各地に「人民政府」を設立し,相当程度,実効支配していた。人民裁判所もあり,土地取引や結婚のような民事から,犯罪処罰などの刑事事件まで扱っていた。その人民政府の実効支配の効力を,追認するか否かは,マオイストのメンツだけでなく,個々の関係者の利害に直接関わるだけに,深刻な問題なのだ。

最大の争点は,なんといっても土地取引。ルクム・ロルパなど西部9郡だけで約1万件あり,人民政府は土地取引税2%を課し収入としていた。この人民戦争中の土地取引を,1月12日,マオイスト政府が合法として追認する決定をした。

これに対し,NCやUMLは猛反対,撤回を要求し,最高裁も執行停止命令を出した。これを受け,結局,バブラム首相は2月9日,人民戦争中の土地取引の追認・合法化の決定を取り消した。

しかし,これではバイダ派など急進派は収まらない。土地分配を受けた農民も黙ってはいない。マオイスト政府は,代替策として貧困農民の救済策を出さざるをえないが,これも実行するとなると,極めて難しい。バブラム首相の農民救済策は,その場しのぎのリップサービスといってよいだろう。

土地以外の問題は,今のところ大きな争点となってはいないが,実際には,他にも深刻な問題がたくさんある。たとえば,親の認めない結婚をマオイスト人民裁判所が認めた結婚の有効性,あるいは人民裁判所による刑事罰の有効性。もしこれらが無効とされたなら,名誉回復や損害賠償など,たいへんなことになる。

結局,マオイスト人民政府の統治をどう評価するかの歴史問題であり,これは深刻だ。歴史にカネが絡んでいるので,なおさら難しい。さて,どうするか?

* Himalayan Times, Feb10; Republica, Feb10; ekantipur Feb9, Feb1; nepalnews.com Feb9; Jan22.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/12 at 12:37

没収財産を返却せよ,プラチャンダ議長

「7項目合意」に基づく没収財産の返却作業が始まった。これは人民解放軍解体以上の難問。うまくいくか? あるいは,そもそも,こんな反革命的なことをマオイストがやってよいのか?

各紙報道によると,11月20日,プラチャンダ議長は,NCのシタウラ書記長,UMLのゴータム副議長とともに,バルデヤ郡に入った。ここは,没収財産が最多の郡だそうだ。没収農地は1190ビガー(809ha),返却要求している地主は242人(家族)。土地配分を受けた農民数は不明。(地主の代わりに地域マオイストが地代=税金を取っているのかもしれない。)

没収財産のうち,党機関や他の関係集団が占有使用している建物等については,返却は比較的容易であろう。難しいのは,やはり農民に配分され,使用されている農地の返却。「農地解放」を10年後に取り消し,元地主に返却させるようなものだから。

土地を返却した農民には補償金を払うというが,金額も,あるいはその約束が守られるかさえも,はっきりしない。バイダ副議長らマオイスト反主流派は,もちろん断固反対。

しかし,そこはプラチャンダ議長,配分土地の返却は強行しない,と微妙な含みをもたせている。また,補償金など,すぐお隣のルンビニ開発の巨大利権からすれば,雀の涙。偉大なる世界的政治家,プラチャンダ議長からすれば,ほんのささいな些事にすぎないのだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/21 at 11:02

カテゴリー: マオイスト, 社会, 経済

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マオイストの憲法案(16)

4(10) 財産権

マオイスト憲法案第31条(1)~(5)は,財産権を規定している。

マオイスト憲法案第31条 財産権
(1) 財産の取得,所有および処分の権利。
(2) 個人財産への累進課税。
(3) 公益目的以外での個人財産に対する負担付与の禁止。ただし,本項は,非生産的財産または不法取得財産には適用されない。
(4) 国家は,次の場合,補償義務を負うことなく財産を収用することができる。革命的科学的土地改革プログラムにより土地なし農民もしくは無断居住民(squatter)に土地を配分するため,または第3項により公益のために,国家が収用,取得もしくは負担付与する場合。
(5) 土地の生産性向上のため,ならびに農業近代化,環境保護,秩序ある住宅建設および都市開発のために,国家は土地利用を規制できる。

財産権については,1962年憲法でも,「法律による場合を除いては財産を奪われない」との留保がつけられていた。1990年憲法では,公益による財産権の制限が認められたが,その際には国家補償が義務づけられた。2007年暫定憲法ではどうか?

暫定憲法第19条 財産権
(1) 上記(1)と同じ。
(2) 上記(3)とほぼ同じ。「但し書き」による適用除外は不法取得財産のみ。
(3) 上記(4)に対応。財産の国家収用あるいは負担付与の場合には,国家補償を義務づけ。

さすが毛沢東主義者! 財産,特に土地については「革命的」な規定をしている。31条(4)によれば,国家は地主から土地を没収し,「土地なし農民」や「無断居住者」にそれを配分することができる。あるいは,少し拡大解釈すれば,「非生産的財産」についても,国家はそれを没収し,必要な人々に配分することができる。

これは革命的だ。ネパールで土地改革が叫ばれながら,いっこうに前進しなかった最大の理由は,土地収用に対する補償である。地主の土地隠しも確かに問題ではあった。名義を分散し,犬や牛にそれらしい名前をつけ土地所有者としている例もあった。しかし,そうした手口はその気になって調査すれば,すぐに解明できる。ところが,国家補償となると,大金がかかり,実際には,土地収用・再配分は困難であった。マオイストは,そこに真正面から切り込み,地主からの無償土地収用,農民への配分を憲法に明記したのだ。

無茶だと思われるかもしれないが,日本でも敗戦後の「農地解放」により地主の土地は「ただ同然」で強制買い上げされ,小作農民に払い下げられた。事実上,マオイスト流の土地改革を日本も,いやアメリカ(GHQ)ですら,実行したのだ。アメリカがしたのと同じことを,マオイストがやって悪いわけがない。

マオイスト憲法案の財産権規定については,もう一つ注目すべきは,累進課税を明記している点である。ネパールでは,いまだ所得が十分に補足されておらず,ここに根本的な問題があることは事実だが,それはいわば技術的な問題であり,いずれ改善されるであろう。これに対し,累進課税は所得再配分の政策選択であり,これの明記は重大な意味を持つ。

マオイストはいうまでもなく共産主義者であり,まずは社会主義の実現を目標としている。累進課税は,「社会主義的」な所得再配分政策であり,憲法明記は革命的だ。

今のネパールでは,農民や労働者を搾取し財産を蓄積した半封建的有産階級や買弁ブルジョアジーが,贅沢三昧の生活をしている。そんな「反人民的」な財産には懲罰的重税をかけ,税収を増やし,それでもって生活苦の人民の生活向上が図られて当然だ。

マオイスト案の財産権規定は,突飛な危険なものではない。西洋も日本も,歴史のある段階で,みなやってきたことなのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/04/19 at 16:25

カテゴリー: マオイスト, 経済, 憲法

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