ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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プラチャンダ訪印と憲法改正問題

プラチャンダ首相が9月15-18日,インドを訪問した。初の外国公式訪問。訪印中の両国会談では,経済協力や防衛治安協力も取り上げられたが,注目されたのは,やはり憲法改正問題。

モディ首相:「首相閣下の賢明な指導の下,包摂的対話を通して多様な社会のすべての人々の要望を受け止め,憲法をうまく施行されていくに違いないと,私は確信しています。」(*1)

プラチャンダ首相:「ネパール国民選出の制憲議会による昨年の憲法公布は,歴史的な成果であった。わが政府は,すべての人々の参加をえてネパール憲法を施行していく真摯な努力を続けてきた。/タルー,マデシ,ジャナジャーティのことを真剣に考え彼らの正当な要求に応えなければ,新憲法施行の環境は整わない。/民族,言語,カースト,階級に違いはあっても,ネパールの国家と国民を統一していかなければならない。/もし人々を統一できなければ,政治危機が拡大するだろう。」(*1,4)

これらネ印両国首相の発言を見る限り,ネパール憲法については,評価がほぼ一致しているように見える。しかも,インド側は,慎重に,こう念押しさえしている。

V・スワラップ印外務省報道官「憲法制定はネパールの国内問題だ。われわれは,そこに介入したことは決してない。何が最善かを決めるのは,ネパール国民である。」(*4)

しかし,非公式の場では,マデシの要求する憲法改正をめぐり,かなり突っ込んだ議論があったといわれている。ネパール側が印政府に対しネパール憲法「歓迎」の表明を求めたのに対し,印政府はこれを拒否したとも伝えられている。もしそれが事実なら,憲法改正が依然としてネ印間の懸案として残っているということになる。(*5)

そうした中,ネパールでは憲法記念日(9月20日)が祝われたが,報道を見る限り,あまり盛り上がらなかったようだ。国家構成の基本たる憲法について評価が鋭く分裂している現状は,政治的に健全な状態とは到底いえないであろう。

160924■在印ネ大使館HP

*1 KALLOL BHATTACHARJEE, “Nepal constitution, a historic achievement: Prachanda,” The Hindu, September 17, 2016
*2 Shubhajit Roy, “Involve all in implementing Constitution, India tells Nepal,” The Indian Express, September 17, 2016
*3 NAYANIMA BASU, “Nepal’s Constitution amendments dominate Modi, Prachanda talks,” The Hindu Businessline, Sep 16, 2016
*4 “Never Been Prescriptive In Nepal’s Constitution Making: India,” NDTV, September 16, 2016
*5 Ram Khatry, “Report claims PM Narendra Modi refused to “welcome” Nepal constitution,” southasia.com, 17 September 2016

谷川昌幸(C)

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2016/09/24 at 16:22

英国人画家,デモ参加容疑で逮捕(2)

釈放
政治活動容疑で逮捕された英国人画家マーティン・トラバース氏(41歳)が,16日午後,釈放された。「取り調べの結果,政治活動をしていないことがはっきりしたので,この旅行者を英国大使館に引き渡した」(カトマンズ警察DSPプラジト・KC)。(*1)

15日逮捕時の状況
(1)トラバース氏の説明
リパブリカ紙(*1)によれば,トラバース氏は次のように説明した。15日,ダルバールマルグからパタンに行こうとしていたら音楽が聞こえたので,行ってみた。「そこで演奏をしている写真を撮っていると,ピケ隊の何人かに引き入れられ,座らされ,頭にバンダナ(ハチマキ?)をつけられた。」そのバンダナに何が書いてあるかは,まったく知らなかった。

これまで,この種の活動に参加したことはないし,この日の抗議行動の目的も知らなかった。ネパールには震災救援のために来たのであり,政治活動はしていない。「私だけでなく,旅行者はだれでも,催事に参加するのなら,その意味を理解しておくべきだ。」(*1)

(2)内務省の説明
AP記事(*2)によれば,トラバース氏は,「われらのアイデンティティを認めよ」とシュプレヒコールを上げているデモ隊のメンバーと同じ赤のハチマキをしていた。警察は,その写真を撮り,トラバース氏を逮捕した。またリパブリカ紙は,こう書いている。「治安当局は,写真や他の画像[ビデオなど?]を使い,旅行者の政治活動を監視しており,もし参加がわかれば,厳しい措置をとる,と内務省は述べている。」(*1)

不可解な説明
これらの説明は,トラバース氏の側のものも治安当局の側のものも,実に不可解だ。トラバース氏が,マデシ・ジャナジャーティ同盟の抗議活動のことを何も知らなかったとは全く信じられないし,写真など証拠をもつ警察が逮捕後あっさりと「無実」が証明されたと説明するのも変な話だ。

監視社会ネパール
これまで幾度も指摘してきたように,ネパール,とくにカトマンズは,いまでは世界有数の監視社会となっている(*4,5)。街中いたるところに監視カメラがあり,ちゃんと作動している。デモやピケなど,あらゆる出来事が,一部始終,カメラで監視されているはずだ。

トラバース氏の行動も,治安当局は,はっきり見ていたに違いない。そのうえで逮捕して一日勾留,翌日,呼び出しに応じるという条件を付けたうえで,「政治活動とは知らなかった」ということにして,英国大使館に身柄を引き渡した。

このような逮捕・勾留・釈放に関するメディア報道は極めて不自然だが,それだけに,かえってそこに込められているメッセージははっきりしている。すなわち,ネパール治安当局は外国人の行動を監視しており,いつでも逮捕できるということを,メディアを通して外国人に知らしめるということである。

 160518■外国人らしき人も多数みられる(Madhesi Youth FB, 17 May)

*1 KAMAL PARIYAR, “BRITON NOT ‘POLITICALLY INVOLVED’ IN SIT-IN, RELEASED,” Republica, 17 May 2016
*2 “Detention of Briton sparks concerns over Nepal’s democracy,” AP=Himalayan, May 17, 2016
*3 “Briton detained in Nepal released after anti-government protest arrest,” Belfast Telegraph, 17/05/2016
*4 監視カメラ設置,先進国ネパールから学ぶな
*5 前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会へ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/05/18 at 13:50

憲法修正,103議員が24案提出

昨年9月20日公布施行されたばかりのネパール新憲法に対し,すでに政府与党自身が修正案を出しているが,これに不満のコングレスなど十数党の103議員が1月8日,24の修正案を出した。その中には与党のはずのマオイスト議員も含まれている。主な修正提案は,国家諸機関への社会諸集団の比例参加強化と,包摂参加のための選挙区割改変。条文でいうと,第42条と第84条。

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第42条 社会的公正への権利
(1)女性,ダリット,先住民,少数民族,先住少数民族,マデシ,タルー,少数派諸集団,障害者,周縁諸集団,イスラム教徒,後進諸集団,ジェンダー的性的少数派,青年,労働者,被抑圧諸集団および後進地域市民,ならびに経済的に貧困なカス・アーリアは,包摂原理に則り国家諸機関に雇用される権利を持つ。
[以下,(2)~(5)でさらに詳細に補足追加。]
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目がチカチカ,頭がクラクラ。ものすごい規定だが,修正案はこれでも不十分だ,もっと詳しく網羅的に,もっと具体的に,もっと「公正」に諸集団の権利保障を書き込め,と要求している。

むろん歴史的に見るなら,このような社会諸集団の包摂要求が出される理由はよくわかるし,またそうした「過激」な要求によってはじめて積年の不公平が大きく是正されてきたことも事実であり,その意義を認めるにやぶさかではない。

しかし,それはそうとしても,このような要求を憲法に事細かく書き込み,それを根拠にもろもろの社会集団が「権利のための闘争」を始めたら,どうなるか? 収拾がつかなくなるのではないか?

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第84条 代議院の構成
(1)代議院は,次の275議員から構成される。
 (a)[小選挙区選出165議員。]
 (b)[全国1区比例制選出110議員。]
(2)[立候補者は,政党ごとに,比例原則に則り社会諸集団から選出。]
(3)~(9)[略]
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この第84条は,社会諸集団の議会への包摂比例代表をこまごまと規定するもので,先述の第42条についてと同じ評価,同じ批判ができる。しかも政治的には,選挙区割や各政党の社会集団への候補者割当に直結するので,より生臭く,平和的な解決は絶望的に困難といわざるをえない。

以上のように,現行憲法もすでに十分に「過激」な包摂民主主義だが,1月8日提出の主な修正案は,現行憲法も政府与党提出修正案も不十分,もっと包摂民主主義に忠実たれ,と要求するものである。

いまネパールでは,与野党が入り乱れて,包摂参加の過激化を競い合っている。設計主義的包摂民主主義の原理主義化! もし政治が「可能性の術」だとするなら,本来の意味での「政治(ステーツマンシップ)」が,そこではあまりにも軽視されているといわざるをえないだろう。

160110
 ■UNDPによる設計主義的ネパール再構築扇動(谷川「連邦制とネパールの国家再構築」2010)

谷川昌幸(C)

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2016/01/10 at 10:04

カテゴリー: 選挙, 憲法, 民族, 民主主義

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ネ政府閣議決定を歓迎,印政府

インド外務省は,12月21日付声明において,ネパール政府の閣議決定(20日)を「歓迎する」と公式に宣言した。

印外務省声明によれば,カマル・タパ副首相兼外相が印外相に公式に伝えたのは,次のような内容の閣議決定。
 (1)国家諸機関への比例的包摂参加と人口数に基づく選挙区画定を実現するための憲法改正。
 (2)コンセンサスに基づき州区画を見直すための憲法改正。
 (3)話し合いとコンセンサスに基づく市民権問題の解決。(筆者補足:これにも憲法改正必要。)

印政府は,このようなネ政府閣議決定を「歓迎し」,そして,それらの決定が実行され,ネパールが正常な状態に復帰すれば,「二か国間の障害なき交易のための環境が創り出されるであろう」と宣言している。

たしかに,もしこのネ政府閣議決定が実行されるなら,タライ紛争は収束に向かい,「非公式経済封鎖」も解除されるであろう。しかしながら,閣議決定されたとされる3つの事柄は,いずれも憲法の根幹にかかわる重要問題であり,実行には大きな困難が予想される。UML,UCPN-M,RPP-Nの与党3党でさえ,足並みは必ずしもそろってはいない。マデシ系諸党も一枚岩ではない。

閣議決定の実行期限は,一応,3か月がめどとされている。振出しに戻ったに近いような難しい憲法問題が,本当に,わずか3か月で解決できるのか? それとも,この閣議決定も,またもや苦し紛れの問題解決先送りにすぎないのであろうか?

 151222■憲法案賛成議員署名

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/12/22 at 21:33

カテゴリー: インド, 憲法, 民族

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マデシ州を認めると主権喪失,チトラ・KC副首相

マンデル無任所大臣の印私服兵派遣発言(11月2日)CP・マイナリ副首相の印タライ併合発言(11月7日)が印政府の激怒を買ったばかりだというのに,今度はチトラ・バハドゥル・KC副首相が,11月13日のテレビ・インタビューで,同趣旨の発言をした。インド紙「The Hindu」が大きく報道している。

チトラ・KC副首相は,国民人民戦線から出ている。副首相は6人もいるとはいえ,発言はヒラ大臣よりも格段に重い。マンデル大臣,マイナリ副首相に続く3人目,しかもマデシ問題の本質を突く,あけすけの本音発言だ。これは重大。以下,発言要旨。

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憲法規定の州区画を改め,タライだけの州をつくると,ネパールは主権を失うことになる。「南部のタライ平原・丘陵地・山地の三地域は,相互に依存しており,そこに手を付けるべきではない。」

「マデシ諸党が東部のジャパ,モラン,スンサリ,西部のカイラリとカンチャンプルを彼らの州に組み入れよと要求している理由が,一点の疑問もないほど明白になった。いま,ネパールは,ネ印国境封鎖のため,苦難に直面している。・・・・このことこそ,タライを他の地域から分離することが,この国にとって破滅的となることを,何よりもよく物語っている。」

「ネパール人民は,その希望に沿って憲法を公布したため,経済封鎖をもって処罰されている。」マデシ問題は,ネパールの内政問題であり,外国の助けは不要だ。
  * “Nepal to lose sovereighty if Terai is separated: Deputy PM,” The Hindu, 14 Nov. 2015
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  151116■国民人民戦線

タライのマデシやタルーが,長年にわたり,カトマンズの封建王政ないしパルバテ・ヒンドゥー高位カースト寡頭政により支配・搾取されてきたことは,疑う余地のない歴史的事実。この封建支配体制は,マオイスト人民戦争により打倒され,包摂民主主義を理念とする人民主権の連邦共和国が成立した。マデシやタルーは,これにより伝統的な支配・搾取から解放されると期待した。

ところが,彼らによると,新体制は,王制を否定したものの,カトマンズ中心の諸勢力がタライを支配し抑圧する構造はそのまま温存し,それを新憲法に書き込んだ。すなわち,タライを分断し,タライの自治を否定し,タライをカトマンズ中心の支配諸勢力に隷従させ続けることにした。

タライは,タライだけで1州ないし2州を要求しているのに,カトマンズ諸勢力はタライを縦にいくつかに分断し,北側の丘陵地と組み合わせ,そうすることによってタライを丘陵地諸勢力に隷属させ続けようとしている,というのだ。

このタライ住民の主張には,相当の根拠がある。伝統的上位カーストは,タライ諸民族に自治権を与えることを恐れている。タライ諸民族中心の州ができると,州ごとインドに接近し,カトマンズ中央権力のコントロールが効かなくなる。

チトラ・KC副首相の危惧する通りだ。ネパール国家主権は危うくなる。国家主権,国民主権を重視するなら,タライ州は危険であり,認められない。これに対し,民族自治を重視するなら,タライ州は認められねばならない。

この二律背反は,ネパール憲法そのものに内在する矛盾だ。国民の統一と主権を訴えるカトマンズ政府側も,民族州の自治を求めるマデシやタルーも,同じくらいの正当性をもって憲法に訴えることができる。これは難しい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/16 at 21:30

中国カードをどう使うか,オリ政権

オリ政権が,新憲法に反対するマデシやそのマデシを支援するインドとの交渉に,「中国カード」を使用していることは明白だが,有効性が増せば増すほど,パワーゲームにおけるカードの使用は難しくなり,危険だ。ネパールは,手にした「中国カード」をどう使うべきか?

この観点から興味深いのが,11月7日付「ニューヨークタイムズ」に掲載された「カトマンズポスト」A・ウパダヤ編集長の「ネパール,竜と象の間で」という記事。概要は以下の通り(補足説明適宜追加)。

  151110(同氏ツイッター)

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ネパール,竜と象の間で(NYT,7 Nov)
ネパールの新憲法は,長らく待ち望まれていたものだが,いざ制定公布されると,それに不満をもつタライの人々が印ネ国境付近で道路封鎖など激しい反対運動を始め,しかもそれを自国への波及を恐れるインドが支援し「非公式」経済封鎖を始めてしまった。

インドの経済封鎖は過酷なものであり,石油は底をつき,燃料不足で移動は困難となり,主要工場は休止,観光業は大打撃を受けている。

「このデリーの過酷な禁輸や力の行使は,大多数のネパール人にとって耐えがたいものとなった。」しかしインドにとって,「ネパールの政府は以前から操作の対象であった」。今回,「インドは,インドと密接な関係にあるマデシの人々を,カトマンズの権力に対するデリーの戦略的手段として利用できると考え」,彼らの道路封鎖を支援しているのである。

このマデシの反憲法道路封鎖闘争へのインドの経済封鎖による支援は,「ネパールの主権に対する重大な侵害」である。

「耐えがたい屈辱を受けたネパール政府は,北の隣国との交易は(少なくとも短期的には)南の隣国との交易にとって代えられるほどのものではないと知りつつも,その交易路の中国への拡大を図りつつある。・・・・この2週間ほど前,ネパールは中国との間で石油取引協定に調印した。40年間にわたる国有インド石油会社の独占に終止符を打つものであり,ネパールの戦略的勝利である。11月5日には,中国とネパールは交易路を7か所追加開通させることにも合意した。」

「交易路を中国に伸ばすことにより,ネパールはインドと取引するに必要なカードを持ったことになる。」

他方,中国からしても,ネパールの共産主義・毛沢東主義諸政党とは良好な関係にあるし,ネパール国内のチベット難民社会の監視にも関心があるので,ネパールとの関係強化は望ましい。さらに経済的な観点からも,ネパールは重要となってきた。

「北京は,ネパールの憲法制定を強力に支援してきた。ネパールが安定すれば,中国自身よりも大きな人口をもつ巨大な南アジア市場へとつながるヒマラヤ縦断鉄道を完成させることができるからだ。」

中国もネパールを必要としている。そのことにインドは十分注意すべきだ。「インドの強硬戦術は,カトマンズを北京に接近させるだけだ。今週,ネパールは中国からトラック数台分の石油を受け取った。少量だが,象徴的意味は大きい。」

こうしてネパールは「中国カード」を手に入れたが,インドも中国もネパールとは比較にならないくらい巨大な強国であり,ネパールとしては,その使用には十分注意していなければならない。

「これまでネパールには頼るべきものがほとんどなかったので,強力な隣国の要求にはたいてい屈服せざるをえなかった。しかし,今回,ネパールは,インドのライバルたる中国に接近することにより,インドの干渉に対抗しようとしてきた。これは,ネパールとしてはスマートな[賢い]動きではあるが,強力な二大隣国の間でそうした動きをすることには十分な注意が必要である。」

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以上が,ウパダヤ編集長記事の概要である。たしかに,地政学的に,ネパールが新たな地平に立つことになったのは,事実であろう。では,その新たな状況の下で,ネパールは内政・外交をどう進めていけばよいのであろうか?

著者は,インドに対する「中国カード」の使用はスマートだといいつつも,使用には用心せよ,と警告している。では,どう用心するのか?

著者は,結びにおいて,ネパール政府は「自国の人民の要求,すなわち何世代にもわたり訴えられてきたマデシの人々の要求」に応えるべきだ,と述べている。

しかしながら,「マデシ自治州」を中心とするマデシの諸要求に応えられないからこそ,カトマンズ政府は力による新憲法施行を図り,対抗してマデシは「インド・カード」を持ち出し,そして,その「インド・カード」に今度は政府が対抗して「中国カード」持ち出したのではないのか? この状況で「中国カード」をどう使うのがスマートなのか?

「中国カード」が十分に使えなかった頃は,「インド・カード」が切り札となり,ネパール内紛は決着した。が,ジョーカーが2枚となったいま,「インド・カード」は最後の切り札ではなくなった。この新しい状況で,ネパール内紛はどのようにして決着させられるのか? これは難しい。タライ内乱とならなければよいが。

谷川昌幸(C)

 

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2015/11/10 at 20:31

マイナリ副首相「タライ併合」発言に,インド激怒

1.印大使館プレスリリース
CP・マイナリ副首相兼女性・子供・社会福祉大臣(ネパール共産党マルクス・レーニン派)の発言に,インドが激怒,在ネ印大使館が非難声明を発表した。

インド大使館プレスリリース(2015年11月8日, 印大使館HP)[要旨]
当大使館は,CP・マイナリ副首相が2015年11月7日,カトマンズの記者クラブで行ったインドに関する発言につき,強く非難する。副首相発言は,根拠のない悪意に満ちたものであり,ネパールが直面している真の問題から目を逸らさせるものである。

インドの願いは,ネパールの平和,安定,繁栄のみ。インドは,ネパールの内政問題が政治的対話と和解により解決されることを願っている。そのためのあらゆる努力を,インドは支援する。

2.マイナリ副首相のインド非難発言
インドをこれほど怒らせたのは,カトマンズ記者クラブでのマイナリ副首相の11月7日の発言。「カトマンズポスト」(11月7日)が伝えた。

インドの狙いは封鎖によるタライ併合:マイナリ副首相(Kathmandu Post, 7 Nov)[要旨]
CP・マイナリ副首相は,インドによる非公式封鎖はネパールを解体しインド領に併合するための第一歩だ,と主張した。

マイナリ副首相は,タライ地方分割に関するRK・ヤダブ前研究分析局(RAW)局長の主張について,インドは釈明していない,と語った。インデラ・ガンディー首相のときRAW局長だったヤダブは,その著書において,インドはタライ地方の分離を計画していた,と述べている。インドは,封鎖によりその計画をいま実行しつつある,とマイナリ副首相は主張した。

マイナリ副首相はまた,マデッシュ州要求には,どのような犠牲を払おうが応じられない,と語った。要求されているカイラリ,カンチャンプル,スンサリ,モラン,ジャパの諸郡は,マデシュ州には含めない,と彼は語った。

このカトマンズポスト記事は,マイナリ副首相発言の直接引用ではないが,他紙も報道しており,ほぼこの趣旨の発言があったのだろう。

インド国境沿いのタライ・マデッシュ地方の分割・インド併合は,巷ではしばしば議論されているが,副首相が記者会見で述べたとなると,インドとしては見過ごすわけにはいかなかったに違いない。

 151109c151109b
 ■マイナリ副首相とタライ分割6州案(同氏FB,2013年10月14日)

3.プラチャンダ議長の反印プロパガンダ
オリ政権は,前回も述べたように,反印ナショナリストと見られている。オリ首相は,「もしインドがネパールを支配しようとするなら,われわれは戦う覚悟をすべきだ」などと発言しているし,またオリ政権を生み出し支えているUCPNのプラチャンダ議長も,「非公式封鎖」には立ち上がる用意ができていると述べている。

このうち,特にプラチャンダ議長は,マオイスト人民戦争を勝利に導いた勇敢な英雄であり,あけっぴろげの庶民受けする雄弁家でもあり,影響力が強い。その彼が,「ニルマル・ラマ記念アカデミー」総会(11月8日)において,次のように述べている。

「ネパールの人々は,飢えに苦しめられ,交通手段を奪われ,燃料ガスもない。医薬供給がなく,死ななければならない。すべて,ネパールが自ら憲法を制定公布したからなのか? 隣国は,これに対し,どのような態度をとっているのか? この非人道的な国境封鎖の背後には,どのような理由があるのか?」

 130603■習主席とプラチャンダ議長(新華社)

4.反印プロパガンダの甘えは許されるか?
ネパールには,以前から強い反印感情があり,激しいインド非難もことあるごとに繰り返されてきた。いわば,慣れっこ。

しかし,ネパールの情況は,ネパールの民主化と中国の接近により,以前とは大きく変化してきた。これまでのように,内政に問題があれば,インドを悪者に仕立て不満を外に逸らす,あるいは保護国の悪口を言いつつ保護国に依存する,といった甘えの手法は,もはや通用しなくなりつつあるのではないだろうか? このことについては,次回,検討してみることにする。

 151027■S.H. Shrestha, Nepal in Maps, 2005, p.99

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/09 at 18:22