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地方選,5月実施?
ネパールの代議院議員任期は5年だが,経過規定(憲法296条)により現議員(立法議会議員)の任期は2074年マーグ月7日(2018年1月21日)まで。はや1年を切っている。したがって,代議院議員選挙の準備を急がなければならないが,それには,なによりもまず州,郡,町村の選挙を行い,正統な地方政府を構成しておくことが必要である。(上院の方は議員の大半が地方と州の長や議員から互選されることになっており,町村や州の正統な政府が成立していなければ,そもそも選出できない。)
これは,政治的にも実務(事務)的・経済的にも,たいへんな大事業である。へたをすると,国家そのものが選挙倒産しかねない。本当に,実施できるのだろうか?
準備は進められている。立法議会(連邦議会)は1月25日,「改正選管法」と「有権者登録法」を可決した。そして,地方(स्तनिय),州,連邦の3レベルの選挙を実施するに必要な他の法令や制度の準備も急いでいる。
しかし,州については,マデシ諸勢力が現行憲法付則の州区分に強硬に反対,議会ではこの部分の改正につき議論が続いている。州区画は,事実上まだ確定していないといっても過言ではない。この状態で,どのようにして州議会選挙を実施するのか?
地方レベルの村(गाउँ)や町(नगर)も,当然,どう区画するかをめぐり,タライを中心に,大混乱している。現在,地方自治体は町が217,村が3117あるという(CBS2002では町58,村3915)。「地方制度再編委員会(LLRC)」は1月6日,これらを719に再編・統合する答申書をプラチャンダ首相に提出した。
このLLRC答申は,地方自治体を「人口と地理」を基準に719に区分している。これに対し,タライ諸勢力は,「人口」を基準に区分すべきだと主張している。タライは人口が多い。タライは,答申では719自治体のうち30%しか配分されていないが,「人口」だけを基準にすれば,少なくとも45%は配分されることになる。これは,州区分争いと同じ構図だ。町村は生活に近いだけに,州区分以上に再編・統合は難しいだろう。(日本では平成大合併の後遺症がなおも継続中。)
▼1町村の区画基準人口(LLRC,2016年10月)
地 域 村(ガウン) 町(ナガル)
山 地 13,000 17,000
丘 陵 22,000 31,000
タライ 40,000 60,000
現状はこのような有様なのに,プラチャンダ首相は,必要な法令を成立させ,5月半ばまでに地方選挙を実施すると繰り返し明言している。自らの手で地方選挙を断行し,これをてこに,州議会選挙と連邦議会選挙を実施しマオイストを勝利に導きたいと考えているのだろう。
しかし,本当にプラチャンダはこれらの選挙を実施できるのであろうか? あるいは,かれ,または他党の誰かがこれらの選挙を実施するとして,それでネパールの財政はもつのであろうか?
ネパールに設計主義的な選挙民主主義(選挙原理主義)を押し付けた国連や西洋諸国は,責任を免れない。必要なカネとヒトの支援を惜しむべきではあるまい。
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙2013(26):乗っ取られた選管
ネパール選挙管理委員会のホームページ(election.gov.np/)が,また乗っ取られ(ハックされ)ている。IT素人には,どの程度危険か分からないが,ご用心ください。
■ネパール選管HP(12月8日午前)/乗っ取られた印AIADMKのHP(The Hindu, Nov.2)
ネパールのネットサイトは,有名どころでも,しょっちゅう乗っ取られる。選管HPも,選挙中にもかかわらず,何回か乗っ取られていた。くわばら桑原。
が,ネット上のホームページの乗っ取りなど,まあ,罪がない。せいぜい,世界中のネパール好きのパソコンを破壊するか,ウィルスをばらまくか,その程度のことだ。
これがもしホームページではなく,選挙そのものの乗っ取りだったら,どうなるか? 巧妙に物心両面に働きかけて選挙をやらせ,選挙実施を管理し,ひそかに誘導し,好都合な結果を出させ,それを民意の太鼓判として賞賛する。誰かが,そんなことをしているのではないか?
それにしても,”Pakistan Haxors“とは,意味深な名前だ。南アジアでは有名なグループなのだろう。ハッカーは功罪両面。教えられることも多い。
■選管ビル(2013-10-30)/選管カンチパト側フェンス(2013-10-30)
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙2013(9):Bullet or Ballot
現在,ネパール政府(国家安全保障会議)は,選挙実施のため,軍隊,武装警察,警察の総動員態勢をとっている。
軍 隊: 6万2千人
武装警察: 2万9千人
警 察: 4万5千人
臨時警官: 4万5千人
計 18万1千人
選挙集会や行進に爆弾が投げられ,反対派に棍棒や投石で攻撃され,立候補者や運動員が拉致されたりするのだから,軍隊や警察による厳重警戒はやむをえないとはいえる。国際社会も,それを強く支持している。
しかし,銃下の投票は,やはり異常である。健康な「平和ぼけ」の日本人は,本物の銃など見たこともないので,小銃を構えた兵士や警官に出くわすと,ギョッとし,心臓が止まりそうになる。このような「平和ぼけ」を正常とすると,ネパールの選挙は,どう見ても異常である。
Ballot or Bullet! 投票か弾丸か!
これは,参政権なき被抑圧人民が唱えるときは,まだしも健全である。しかし,体制側が,危険性に無自覚に,その正義を大上段に唱え始めるときは,警戒を要する。
マオイストは「銃口から革命が生まれる」という毛沢東思想を掲げて人民戦争を戦い,王政旧体制を打倒した。そして,体制側となると,今度は他の体制派諸党と手を組み,西洋選挙民主主義者の積極的支援も得て,体制正統化のため選挙を実施しようとしている。今度は「銃口から投票が生まれる」のだ。
むろん,いかなる体制も何らかの「暴力装置」により最終的には担保されている。日本では,健康な「平和ぼけ」とは全く別の,脳天気な「平和ぼけ」が蔓延していて,自衛隊を「暴力装置」と呼ぼうものなら,「国賊」と罵られ,あげくは銃口さえ向けられかねない。軍隊や警察が国家の「暴力装置」たることは常識なのに,その常識を暴力により封じ込めようとする度し難い自己矛盾,非常識!
西洋諸国も日本も,その選挙は「暴力装置」により安全保障されている。その限りではネパールも全く同じなのだが,それでも,こう露骨だと,肝心の選挙の正統性に疑念が生じざるをえない。「銃口から投票を生み出す」ことの危険性を,とくに西洋の選挙民主主義者は,つねに自覚していなければならない。
さてそこで,反体制33党連合の選挙粉砕バンダだが,第1日目の11月11日は,カトマンズ市内を見た限りでは,8割程度の実施状況であった。バスやタクシー,それにバイクは,かなり少ないものの,どこでも走っていた。店舗は,表通りはほぼ閉じていたが,裏通りで1/3くらい,観光地ではほぼ通常通り営業していた。
いつもなら街角にたむろしてバンダ破りを見張り,攻撃するバンダ実施派の人々も,見て回った限りでは,どこにもいなかった。全体に規制は緩い感じ。政府が公共交通機関のバンダ襲撃被害の補償を宣言しているし,主要政党や経済界,市民社会諸団体もバンダ宣言無視を繰り返し宣言している。この情勢では,バンダ継続は難しいのではないだろうか。(ただし,バンダ中の移動が危険なことは言うまでもない。地域差も大きい。)
選挙との関係については,バンダそのものよりも,むしろ劣勢を伝えられるマオイストが,バイダ派中心の33党連合の反選挙バンダを口実にして選挙延期に回る可能性の方が大きい。マオイストにとって,選挙敗北となれば,失うものが多すぎるからだ。最大限の現状維持こそ,マオイストの党利党略であろう。
投票所入場券配付は投票日直前の17日というドタバタ。バンダ以外にも選挙延期の理由は,いくらでもある。
■小銃武装兵(警官?,郵便局付近)/警察警戒車両(郵便局付近)
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙2013(7):ゼネストか商売か?
バイダ派マオイストを中心とする反選挙33党連合が,11月11日から10日間の選挙粉砕バンダ(ゼネスト)を宣言している。
日本では想像も出来ないことだが,バンダは完全ゼネスト。乗り物は人力車も含め一切禁止。店もすべて閉める。今回は犬一匹歩かせないそうだ。
もしバンダを無視すれば,車はボコボコにされ,店は破壊される。以前,何回か移動のためやむなくバンダ破りを試みたが,いたるところで攻撃され,恐ろしかった。いかにも外人といった風体でも容赦なし。本気のバンダは,戦場のようなもの。そのつもりで行動しないと,危険だ。
が,そんなバンダ(ゼネスト)を10日間もやられては,たまったものではない。そこで選挙で正統性を確保したい大政党はむろんのこと,市民社会諸団体や商工会議所(FNCCI)などもバンダ反対声明を出したし,選挙民主主義と「法の支配」を唱える西洋諸国もバンダに猛反対だ。お隣の中国ですら,選挙をやれ,と圧力をかけている。
反選挙33党連合は,四面楚歌,追い詰められ,バンダ中止の観測気球を上げ始めた。UCPN-M(プラチャンダ議長)かどこかの政党と取引が成立すれば,バンダ中止の公算もある。ただ,メンツのため,1,2日のバンダは避けられないのではないかと噂されている。
選挙は,ネパールでは,いまや官民挙げての一大産業。GDPの2.5%を占めるともいわれている*。たとえば,旗やビラを作成する広告業者。各党の旗や横断幕の見本が,所狭しと展示されている。イデオロギーは何であれ,発注政党は,上得意様なのだ。一目見てそれと分かる,産業としての選挙の典型であろう。
* http://www.myrepublica.com/portal/index.php?action=news_details&news_id=64136
制憲議会選挙2013(6):英雄プラチャンダの不人気
今回の制憲議会選挙の目玉候補,「世俗共和国革命」の英雄プラチャンダ議長(マオイスト)の人気がいまいちだ。さんざん蓄財し,身内多数をごり押ししマオイスト候補として立てているからだそうだ。
プラチャンダが立候補しているのは,前述のように,カトマンズ第10選挙区。一昨日はパンガ,チョバール方面に来てキャンペーンをやったというので,昨日,現地を見に行ってきた。
たしかにマオイストやプラチャンダの巨大ポスターがあちこちに掲示してある。しかし,コングレスやUMLもほぼ拮抗している感じだ。
チョバールの丘で何人かに話を聞くと,プラチャンダの評判はあまりよくない。UMLのマナンダールの方が受けがよい。階級イデオロギーよりもカースト=民族ということだろう。
もしプラチャンダ落選ということになれば,マオイストの後退は免れない。分裂もあるかもしれない。カトマンズ第10選挙区は,目が離せない。
(以上のようなことを書くと,場合によっては,「選挙運動規則」違反で逮捕される可能性もある。選管は外国監視(選挙モニター)を自由・公平選挙にとって「必要不可欠(a must)」と公言している。外圧を利用した選挙規制。そして,規制が強化されればされるほど,規制当局の権力が強化されるのは必然。「選挙民主主義」イデオロギーによる西洋の介入強化と,それを利用した選挙管理委員会の「選管管理選挙」。ネパールの選挙は,複雑怪奇。選挙性善説に安住していると,足をすくわれるおそれがある。)
■コングレスとマオイスト/UML(チョバール丘下バジャンガル付近)
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙2013(4):選挙運動観察
カトマンズの選挙運動は,いまのところ低調。日本よりも静かな選挙管理委員会「管理選挙」の様相だ。管理選挙となれば,各種コネ候補が有利となるのではないか?
というわけで,11月2日(土),某党某候補の選挙運動を突撃経過観察した。
[選挙区]カトマンズ第5選挙区:カトマンズ市内の一部と郊外山麓
[有権者数]55,377人
[立候補者数]28人
[集会と行進]5カ所。参加者:各集会数十人~百人位
[日時]11月2日午前7時~正午
選挙区内の5カ所で集会と行進が行われ,そこに立候補者と応援有力者20数名が車で移動,演説し,行進する。最後をのぞき,候補者一行の参加時間は30~40分。あとは流れ解散となる。
最後の5番目は,山麓の村。ここでの集会と行進は長く,約2時間。起伏の大きな村をスローガンを唱えながら登り降りし練り歩く。かなりきつい。行進終点には有名俳優が顔見世にきていて,行進打ち上げを盛り上げた。
選挙区内5カ所を見て回って気づくのは,やはり選挙ビラが少ないこと。選挙という感じがしない。
次に,集会や行進は運動員らだけで,一般参加者らしき人はあまり見られなかった。行進が来ても,家の外に出て手を振ったり声をかける人は少ないし,ビラを渡しても反応はあまりない。全体としてシラケた感じ。他人事のよう。集会や行進は日本以上によく組織され手慣れた感じなので,落差がそれだけ際だつ。
集会と行進には,警官数名が終始付き添い,警戒していた。また,西洋派遣の選挙監視団が行進を「監視」していた。自国警察の警備はまだしも,外国人による「監視」は,露骨な上から目線であり,観察者としてくっついて歩いていても実にいやな感じ。独立自尊否定の「選挙植民地主義」。
グローバル資本主義の走狗「選挙民主主義」のイデオロギーに屈服し,こんな屈辱に馴れてしまったら,民主主義も何もあったものではない。外国に「監視」されなければ実施できないような選挙であれば,やらないほうがよい。外国監視下の選挙は自治の原理に反する。――と,つい余計なことも言いたくもなる。
今回の選挙運動観察は,たまたま某党某候補者。次は,別の党の別の候補者について観察してみたい。
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙2013(2):意外に低調?
カトマンズ市内を数時間歩いてみた限りでは,制憲議会選挙は予想外に低調な感じだ。今回の選挙規制や地方の状況はまだ調べていない。
むろん各地で選挙がらみの衝突が続発,負傷者も出ているし,選挙反対のCPN-M(バイダ派マオイスト)は11月11~16日の全日バンダ(ゼネスト)を宣言している。断行されれば,1週間ゼネスト! いかにもネパールの選挙らしくはあるが,それでも街は意外と静かというのが,いつわらざる第一印象だ
アメリカンクラブ向かいの選挙管理委員会は,かつてのうらぶれた姿が信じられないくらい,元気。警備兵(武装警官?)が銃を構えて警戒し,アメリカンクラブに負けないくらい物々しい。前庭には大きなテントが張られ,カンチパト道路歩道上方からは選挙啓発ポスターがずらりとつり下げられ,無知な庶民を啓蒙すべく頭上から教訓を垂れている。選管には先進国の英知と援助資金が有り余っているのだろう。
が,その割には,街には政党ビラが意外に少ない。壁面の多くにも何も貼られておらず,まるで平時の日本管理社会のようだ。アサン付近にはそこそこ貼られているが,それでも一部だけ。
ティハール明けから本格化するのだろうか?
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙2013(1):イデオロギーとしての選挙民主主義
制憲議会選挙(संविधानसभा सढस्य निर्बचन २०७०)が近づいてきた。投票日は11月19日だというのに,いまだ実施延期も含め,様々な議論があるが,選管は準備を進め,主要諸政党の比例制候補もほぼ出そろい,よほどのことがない限り,おそらく選挙は実施できるであろう。そこで,あとで検索(右欄検索ツール使用)しやすいように,「制憲議会選挙2013」のタイトルの下に,関連記事をアトランダムに掲載していくことにする。
1.市場社会化と選挙民主主義
選挙民主主義(electoral democracy)については,これまで何回か批判した。冷戦終結(1989-91年)以降,世界は自由競争市場社会化に向け大きく前進した。これは,アメリカを中心とする先進諸国が,選挙民主主義を武器として,戦略的に巧妙に押し進めてきたものだ。途上国は非民主的であり,それゆえ開発が遅れ,紛争が絶えず,悲惨で貧しい。先進国のように豊かになり,よい生活がしたければ,選挙をやり,民主化せよ。これが先進諸国の途上国に対する選挙民主主義のお説教である。
選挙民主主義がいかに欺瞞的かは,途上国の貧困は先進諸国の長年の搾取によるものであることへの反省が選挙民主主義者にはまるでないことを見てもよく分かる。今日の途上国,つまり「後進国」は,先進諸国に侵略され略奪されるまでは,例外なく豊かであった。欧米諸国,そして遅れて日本などが,自分たちは貧しかったので、豊かな「後進国」の富を目当てに軍隊を送り込み,資源や財産,あげくは人間までも強奪し,自分たちの国を豊かにしてきたのだ。
先進諸国は,軍隊で強奪しうるものはほぼ強奪した。次はソフトパワーの出番だ。こうして選挙民主主義が,軍隊により強奪し「後進国」に陥れた地域から先進諸国がさらに搾り取るための次の手段として戦略的に投入されたのである。
むろん選挙民主主義は,先進諸国においては,その欠点や限界が改めて意識され始めている。ところが,途上国においては,決してそうではない。イラク,アフガン,そしてネパールにおいても,先進国押しつけ選挙民主主義は大失敗であった。にもかかわらず,その反省もなく,先進諸国は途上国に選挙民主主義を押しつけようとしている。なぜか? いうまでもなく,選挙民主主義こそは,途上国をグローバル市場に引き込むための最強のイデオロギーであり,先進諸国にとっては――途上国自身にとってではなく――最も有効かつ有益だからである。
選挙は,現代グローバル資本主義のイデオロギーであり,軍隊に代わる現代型搾取の手段として途上国に対して戦略的に用いられている。
2.必要悪としての選挙
しかしながら,難しいのは,選挙民主主義は欠陥と限界を十分意識しておれば,国家社会統合の手段として一定の有効性をもつということ。偉大な貴族保守主義者にして現実主義者のチャーチルが喝破したように,「民主主義は,歴史上存在した他の統治を除けば,最悪の統治である」。悪しき統治だが,われわれには,もはやこれしか選択の余地はない。先進諸国がケシカランのは,自分たちが限界を意識していながら,途上国に対しては,まるで万能特効薬であるかのように純粋選挙民主主義を処方し,押しつけようとする点にある。
下心は,むろん,手っ取り早く途上国を市場社会化すること。先進国企業の市場にしてしまえば,あとは,どうなろうが知ったことではない。これは,かつて軍隊や宣教師を送り込み,地域の伝統文化や言語を奪い,西洋文化や英語・スペイン語などを押しつけ,かくして「文明化」することによって世界を植民地化し搾取したのと,方法においては異なれ,目的は同じである。
3.謙虚な選挙側面協力
われわれは,途上国に対し,そのような不遜な,利己的なことはやってはならない。選挙民主主義は欠陥だらけ。にもかかわらず,選挙以外の選択肢は,今のところ,ない。この冷厳な事実を十分自覚しつつ,途上国の選挙に側面からそっと協力する。純粋選挙民主主義の劇薬を押しつけるなどといった愚行は,いかにその誘惑に駆られようとも自制し,その国,その地域に適した形の選挙に,裏方として,そっとやさしく協力する。自分たちが,数百年かかって不十分ながらやっと手にしたものを,短兵急に,途上国で無菌促成栽培しようなどと高望みしてはならない。
ネパール制憲議会選挙についても,先進諸国は,そのような謙虚な姿勢で臨んでほしいと願っている。
[参照]
穀潰しの選挙民主主義
カーター元大統領:救済者か布教者か?
ガルトゥング提案の観念性と危険性
派兵はNGOの危機,ネパールとアフガン
選挙後体制と擦り寄り知識人
選挙民主主義関係記事一覧
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙,11月実施へ
主要4党と選挙管理委員会,レグミ議長(首相代行)およびヤダブ大統領は,制憲議会選挙の6月21日実施を諦め,11月15-21日実施とすることに,ほぼ合意した。プラチャンダ議長の中国帰国後,正式発表とのこと(ekantipur, Apr15,2013)。
ところが,選管から内閣に送られた「制憲議会議員令2013年(案)」をめぐって,またまたもめ始めた。論点は3つ。
(1)比例制で,得票率1%未満政党を切り捨てる。
(2)受刑者は,刑期満了後6年以上の者のみ,立候補資格あり。
(3)立候補者は,選挙前に所有財産を開示。また,立候補預託金は5000ルピー。
この3点について,マオイストと,他の小政党が反対している。もめると,11月選挙も難しくなる。
それにしても,いったい誰が,選挙をこんなに「精緻」に,複雑に,しようとしているのか? 制度は所詮道具であり,簡明なものに限る。複雑にすればするほど,カネと手間がかかり,内外の選挙産業,セミナー産業,援助産業,そして政党ボスを太らせるだけだ。
先進諸国は,次の選挙では,一切手を引き,ネパールの人々に全部まかせてみてはいかがか。プラスチック投票箱がなくても,コンピューターがなくても,選挙はできる。全部任せてしまえば,ネパールの人々は,自分たちの予算と人員と経験知の範囲内で実行可能なような簡潔な方法を工夫し,選挙を実施するにちがいない。
政治にも,適正技術は,ある。
谷川昌幸(C)
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