ネパール評論 Nepal Review

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英米は口,中国は投票箱:ネパール地方選

15日の英国大使館に続き,米国大使館も,ネパール地方選につき,同様のコメントを発表した。

「合衆国は,・・・・選挙関係者すべての努力を評価する。・・・・前期地方選はほぼ平穏に実施されたと思われる。6月の後期地方選にあったっても,・・・・関係者すべての努力を期待する。後期地方選においては,正規外交官を含む国際社会が選挙を監視し支援できるよう,無制限の国際選挙監視を認めることを,合衆国はネパール政府に強く要請する。」(在ネ米大使館HP, 2017-05-16)

16日付「ネパリタイムズ」によると,選管は,このような外国による選挙監視を拒否していた。「外交官に連絡係をつけ,カトマンズの選挙を見て回らせた。ただし,見るだけで,監視ではない。だから報告は不要だ。」(選管職員) 6月14日の後期地方選でも,選管は外国による選挙監視は認めない方針。

また,この選管職員は,「英米政府は後期地方選のための適切な環境をつくれとネパール政府に要求しているが,これは後期地方選以前に憲法を改正せよということだ」と述べ,英米の選挙介入を厳しく批判している。

これに対し,中国政府については,選管職員は「中国は前期地方選を全面的に歓迎している」と述べ,その援助姿勢を高く評価している(Nepali Times, 2017-05-16)。

先述のように,今回の地方選のため,中国政府は1億4千4百万ルピー相当の援助をした。4月17日,駐ネ中国大使,選管委員長らが出席して贈呈式が行われ,ネパール側が要望したペン,スタンプ台,ゴム印,インキ,計算器,時計,ハサミ,糊などが選管に引き渡された(選管HP, 2017-04-18)。また,中ネ国境のラスワには,中国側から投票箱3万個が到着した。これらの投票箱は贈与ではないらしいが,それを差し引くとしても,投票箱ですら中国から,まさしく中国支援の地方選といった感じだ。

このようにみてくると,口は出すが金は出さない英米vs金は出すが口は出さない中国,といった構図だ。ネパール政府が中国を歓迎するのは当然である。むろん,中国がしたたかな政治的計算に基づきネパール地方選を支援していることは,言うまでもないことだが。

IDPG Statement On Elections (27 April 2017)
「われわれは,平和的,包摂的で,広く支持され,信頼される選挙を実施するため,すべての関係者と協力をする。」
 署名:英,米,独,仏,EU, デンマーク,フィンランド,ノルウェー,オーストラリア,UNネパール,世界銀行

 ■在ネ米大使館FB(2017-04-28)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/18 at 20:06

カテゴリー: ネパール, 選挙, 中国

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口を出す英国かカネを出す中国か:ネパール地方選

20年ぶりのネパール地方選(前期)投票が5月14日,3州34郡で実施された。選挙妨害に絡む混乱で死者1,負傷者20名余が出たし,投票箱奪取などもあったが(5月16日現在),全体としてみるとほぼ平穏に実施できたと国家人権委員会は評価している。ちょっと甘い感じもするが,ネパールの過去の選挙と比較すると,そう無茶な評価ではない。

ところが,この地方選(前期)につき,宗主国気分の抜けきらない英国は5月15日,実にイヤミな大使館コメントを発表した。

「5月14日投票をもって開始されたネパール地方選を歓迎する。・・・・しかし,この段階では論評は差し控える。・・・・6月14日[の後期地方選では],すべての関係者が協力し,[民主的選挙に]必要な諸条件を整えることを要望する。後期地方選では,選挙過程を監視し支援できるよう,正規外交官を含む国際社会に無制限の自由な国際選挙監視活動が認められることを期待する。」(在ネ英大使館FB, 2017-05-15)

いうまでもないことだが,選挙は民主主義の核心的権利であり,その自由と自律は最大限尊重されなければならない。もし部外者が要請もないのに選挙を「監視」したりすれば,当事者の自尊心は根底から損なわれてしまう。

このことを実感したのは,2013年制憲議会選挙のとき(*4,5)。選挙見学のため,ある候補の街頭運動にそっとついて歩いた。すると,あちこちに外国人監視員がいて,明らかに上から目線でネパール人行進者を監視し,手元の監視用紙に何やら書き込んでいる。まったくの部外者ながら,地元民に自ずと感情移入してしまっていた私は,自尊心を大いに傷つけられ,ムカッとし,怒りがこみ上げてきた。

投票日になると,投票所にも,国連や外国政府機関あるいはNGOなどが,たいていピカピカの高級外車で乗りつけ,これまた上から目線で地元民の投票を監視する。またまたムカムカッとして,投票見学を切り上げ,安宿に帰って地ビールを飲んだ。

むろん内乱後など例外状況では,選挙監視もやむをえない。しかし,そうでもないのに選挙監視されるのは,国辱以外の何物でもない。逆に言えば,外国監視団に監視される選挙に馴れてしまえば,独立国家の自律的国民としての自尊心は失われてしまい,もはや取り返しがつかないことになってしまう。

今回の選挙にあたって,ネパール政府は,外国援助は受けない,と宣言していた(*1)。時間がかかったとはいえ,制憲議会選挙を実施し,正式憲法を制定したうえでの地方選挙だから,自力による選挙実施は当然の基本方針といえる。ところが,英国大使館は,そのネパール政府の尊厳を,真っ向から否定した。植民地帝国父権主義の習い性が,まだ抜けきらないようだ。

これに対し,中国ははるかに賢明だ。ネパールの地方選に対し,中国政府は百万ドル(1億3千6百万ルピー)の援助を申し出た(*2)。こうした経費支援も選挙支援には違いないが,監視団派遣とは意味合いが全く異なる。

ネパール政府はいつも,“外国は,金はたいして出さないくせに,口は出す”と,怒っている。中国はどうか? もし約束通り選挙経費支援が行われたのなら,中国は“金をだしても口は出さない”姿勢を貫いたことになる。ネパールの政府と国民の自尊心と自立心はそれほど大きくは傷つけられない。

中国が,今後もこのような形の対ネ政策を継続するなら,ネパールにおける中国のプレゼンスはますます拡大していくことになるであろう。

▼2013年制憲議会選挙・選挙監視団(キルティプル)

*1「地方選,5月14日投票
*2 「ネパール地方選を中国援助
*3 「中国のネパール地方選支援,インドが懸念
*4 「制憲議会選挙2013(4):選挙運動観察
*5 「制憲議会選挙2013(15):監視と選挙,銃と票

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/17 at 16:40

制憲議会選挙2013(15):監視と選挙,銃と票

11月19日午前7時より制憲議会選挙の投票が始まった。キルティプルの丘の上は,治安がよい(と思われる)ので,投票所の見学に行った。

百聞は一見にしかず。これは「監視下の選挙」であり「銃下の投票」だ。何かが決定的に欠如している。

(1)監視下の選挙
キルティプルの丘の上はカトマンズ近郊で治安もよいせいか,監視団天国。いたるところにいる。威厳を誇示しているのは,いうまでもなく国連とカーターセンター。そもそも使用車両が別格。頑丈な高級車で乗り付け,別格を思い知らせ,上から目線で監視し,無知な地元住民に民主主義のイロハをしつける。

選挙のための監視か,監視のための選挙か? いずれかであろうが,いずれにせよ,決定的に大切なものが欠けている。

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 ■(左上から順に)バグバイラブ投票所前/党事務所前で支持者投票確認(マビ・プク)/インドラヤニ小学校投票所に向かう人々/インドラヤニ小学校投票所/同左/同左/UNDPとカーターセンターの車(チトゥ投票所前)/EU選挙監視団(インドラヤニ小学校前)/人権委員会と選挙監視団の車(キルティプル中学校投票所前)/選挙監視団(チトゥ投票所)

(2)銃下の投票
修辞ではなく,即物的に文字通り,銃と票が隣り合わせ。「投票か銃弾か(Ballot or Bullet)」ではなく――

  Ballot and Bullet!   投票と銃弾!

小銃を構えた兵士が,投票用紙記入台と投票箱の間に立ち警戒している光景は,まさしく異様。こんなものは選挙ではない。選挙・投票以前に,決定的に必要な何かが,ここには欠如している。

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 ■選挙監視員・投票箱・小銃武装警備兵・投票用紙記入台(インドラヤニ小学校)

(3)独立自尊の精神
ネパールの選挙に決定的に欠けているのは,福沢諭吉の言葉を借りるなら,「独立自尊」である。外国に監視され,銃で脅され投票する人々に,そんなものはありえない。『学問のすすめ』(1872-76年)において,福沢はこう述べている。

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一身独立して一国独立すること
 第一条 独立の気力なき者は国を思うこと深切ならず。
 独立とは自分にて自分の身を支配し他によりすがる心なきを言う。
 第二条 内に居て独立の地位を得ざる者は、外にありて外国人に接するときもまた独立の権義を伸ぶること能わず。
 独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諛つらうものなり。常に人を恐れ人に諛う者はしだいにこれに慣れ、その面の皮、鉄のごとくなりて、恥ずべきを恥じず、論ずべきを論ぜず、人をさえ見ればただ腰を屈するのみ。いわゆる「習い、性となる」とはこのことにて、慣れたることは容易に改め難きものなり。
 第三条 独立の気力なき者は人に依頼して悪事をなすことあり。
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現実主義の立場に立つならば,先進諸国による啓蒙専制ないし「自由への強制」も一概に否定はできない。慈父のようなパターナリズム(父権的支配)が,民主主義への離陸に必要な場合もあろう。

しかし,その可能性は認めるにしても,ネパールの選挙への違和感は解消しきれない。先進諸国の選挙支援は,本当にネパールのためなのか,それとも先進諸国の利益と必要のためなのか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/20 at 01:05

制憲議会選挙2013(14):選挙監視役カーター元大統領のオフサイド

カーター元大統領(カーターセンター創立者)が11月16日,選挙監視活動視察のため訪ネし,ヤダブ大統領,レグミ内閣議長(暫定首相),ウプレティ選管委員長らと会談した。

17日のヤダブ大統領との会談では,カーター元大統領は,国家統治形態としては「フランス・モデル」が望ましいとアドバイスした(kathmandu Post, Nov.18)。ダハール報道官の説明だが,おそらく事実だろう。

カーター元大統領は,制憲議会選挙監視活動で重要な役割を果たしているカーターセンターの創設者。いわば国際選挙監視活動の象徴的存在。その権威ある監視役が,投票の2日前に,選挙の最大の争点の一つである大統領-首相制について,特定の制度を推薦した。

たしかに,主要政党の間で,大統領と首相が様々な形で権力を分有するフランス式の採用が検討され,一時は内諾もあったらしいが,その後,立ち消え状態。フランス式採用か否かは,新憲法制定の最大の争点の一つだ。そんな重大問題について,有力援助国元大統領にして選挙監視活動の象徴的存在たるカーター氏が,特定諸政党を有利にするような発言をしたというのだ。

これは,ネパール選挙活動規則の違反であり,処罰の対象となる。実際には,米ネの力関係からして,それは不可能だが,公平中立であるべき選挙監視役の選挙介入発言は,政治的にも道義的にも許されざることである。

カーター元大統領は著名人のため,その発言が大問題となり,多くのネパール人の激しい怒りを買っているが,西洋諸国や国際機関の関係者によるこの種の発言は日常茶飯事,いつものことであり,慣れっこになってしまっている。内政干渉を内政干渉と感じなくなっているのだ。

しかし,いうまでもないことだが,「独立自尊」は民主主義以前であり,むろん選挙以前である。そんなことも分からない――ふりしている――のが,西洋諸国である。

▼投票所準備(パンガ,11月18日午後)
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緊急報告】先ほど午後7時10分頃と8時30分頃の2回,キルティプルの近く,おそらくリングロード付近から,大きな爆発音が聞こえた。詳細不明。投票日前夜,かなり緊迫している。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/19 at 01:27

カテゴリー: 選挙

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制憲議会選挙2013(6):英雄プラチャンダの不人気

今回の制憲議会選挙の目玉候補,「世俗共和国革命」の英雄プラチャンダ議長(マオイスト)の人気がいまいちだ。さんざん蓄財し,身内多数をごり押ししマオイスト候補として立てているからだそうだ。

プラチャンダが立候補しているのは,前述のように,カトマンズ第10選挙区。一昨日はパンガ,チョバール方面に来てキャンペーンをやったというので,昨日,現地を見に行ってきた。

たしかにマオイストやプラチャンダの巨大ポスターがあちこちに掲示してある。しかし,コングレスやUMLもほぼ拮抗している感じだ。

チョバールの丘で何人かに話を聞くと,プラチャンダの評判はあまりよくない。UMLのマナンダールの方が受けがよい。階級イデオロギーよりもカースト=民族ということだろう。

もしプラチャンダ落選ということになれば,マオイストの後退は免れない。分裂もあるかもしれない。カトマンズ第10選挙区は,目が離せない。

(以上のようなことを書くと,場合によっては,「選挙運動規則」違反で逮捕される可能性もある。選管は外国監視(選挙モニター)を自由・公平選挙にとって「必要不可欠(a must)」と公言している。外圧を利用した選挙規制。そして,規制が強化されればされるほど,規制当局の権力が強化されるのは必然。「選挙民主主義」イデオロギーによる西洋の介入強化と,それを利用した選挙管理委員会の「選管管理選挙」。ネパールの選挙は,複雑怪奇。選挙性善説に安住していると,足をすくわれるおそれがある。)

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■ビラなし壁(チョバール丘)

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■マオイスト(チョバール丘)

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■コングレス(チョバール丘)

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■コングレスとマオイスト/UML(チョバール丘下バジャンガル付近)

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■マオイスト(パンガ)

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■RPPネパール/NRPネワール国民党(パンガ)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/07 at 13:18

カテゴリー: 選挙

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制憲議会選挙2013(4):選挙運動観察

カトマンズの選挙運動は,いまのところ低調。日本よりも静かな選挙管理委員会「管理選挙」の様相だ。管理選挙となれば,各種コネ候補が有利となるのではないか?

というわけで,11月2日(土),某党某候補の選挙運動を突撃経過観察した。
 [選挙区]カトマンズ第5選挙区:カトマンズ市内の一部と郊外山麓
 [有権者数]55,377人
 [立候補者数]28人
 [集会と行進]5カ所。参加者:各集会数十人~百人位
 [日時]11月2日午前7時~正午

選挙区内の5カ所で集会と行進が行われ,そこに立候補者と応援有力者20数名が車で移動,演説し,行進する。最後をのぞき,候補者一行の参加時間は30~40分。あとは流れ解散となる。

最後の5番目は,山麓の村。ここでの集会と行進は長く,約2時間。起伏の大きな村をスローガンを唱えながら登り降りし練り歩く。かなりきつい。行進終点には有名俳優が顔見世にきていて,行進打ち上げを盛り上げた。

選挙区内5カ所を見て回って気づくのは,やはり選挙ビラが少ないこと。選挙という感じがしない。

次に,集会や行進は運動員らだけで,一般参加者らしき人はあまり見られなかった。行進が来ても,家の外に出て手を振ったり声をかける人は少ないし,ビラを渡しても反応はあまりない。全体としてシラケた感じ。他人事のよう。集会や行進は日本以上によく組織され手慣れた感じなので,落差がそれだけ際だつ。

集会と行進には,警官数名が終始付き添い,警戒していた。また,西洋派遣の選挙監視団が行進を「監視」していた。自国警察の警備はまだしも,外国人による「監視」は,露骨な上から目線であり,観察者としてくっついて歩いていても実にいやな感じ。独立自尊否定の「選挙植民地主義」。

グローバル資本主義の走狗「選挙民主主義」のイデオロギーに屈服し,こんな屈辱に馴れてしまったら,民主主義も何もあったものではない。外国に「監視」されなければ実施できないような選挙であれば,やらないほうがよい。外国監視下の選挙は自治の原理に反する。――と,つい余計なことも言いたくもなる。  

今回の選挙運動観察は,たまたま某党某候補者。次は,別の党の別の候補者について観察してみたい。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/03 at 14:39

カテゴリー: 選挙, 憲法, 政党

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制憲議会選挙,11月実施へ

主要4党と選挙管理委員会,レグミ議長(首相代行)およびヤダブ大統領は,制憲議会選挙の6月21日実施を諦め,11月15-21日実施とすることに,ほぼ合意した。プラチャンダ議長の中国帰国後,正式発表とのこと(ekantipur, Apr15,2013)。

ところが,選管から内閣に送られた「制憲議会議員令2013年(案)」をめぐって,またまたもめ始めた。論点は3つ。

(1)比例制で,得票率1%未満政党を切り捨てる。
(2)受刑者は,刑期満了後6年以上の者のみ,立候補資格あり。
(3)立候補者は,選挙前に所有財産を開示。また,立候補預託金は5000ルピー。

この3点について,マオイストと,他の小政党が反対している。もめると,11月選挙も難しくなる。

それにしても,いったい誰が,選挙をこんなに「精緻」に,複雑に,しようとしているのか? 制度は所詮道具であり,簡明なものに限る。複雑にすればするほど,カネと手間がかかり,内外の選挙産業,セミナー産業,援助産業,そして政党ボスを太らせるだけだ。

先進諸国は,次の選挙では,一切手を引き,ネパールの人々に全部まかせてみてはいかがか。プラスチック投票箱がなくても,コンピューターがなくても,選挙はできる。全部任せてしまえば,ネパールの人々は,自分たちの予算と人員と経験知の範囲内で実行可能なような簡潔な方法を工夫し,選挙を実施するにちがいない。

政治にも,適正技術は,ある。

130416 ■選挙の高度複雑化(選管HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/04/16 at 18:05