ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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友愛の原点としてのネパール,鳩山元首相

鳩山由紀夫元首相が訪ネし,カトマンズで3月18日,ネパール商工会議所幹部と会い,水力発電所への投資の可能性などについて協議した。その後,ポカラに行き,21日に現地で記者会見,投資環境の整備,中小企業の育成,観光開発の促進などについて語った。また同日,カトマンズに戻って,プラチャンダ首相とも会っている。

鳩山元首相はAIIB(アジアインフラ投資銀行)委員であり,ネパールへの関心も高い。日本では,MK・ネパール元首相ら,訪日ネパール要人と会談しているし,訪ネの際(2006年1月,2013年9月など)には,大統領,首相ら政財界要人とも繰り返し会談している。ネパールは,鳩山元首相にとって,特別な国のようだ。ヤダブ大統領やレグミ首相と会談した時,彼はこう述べている:

私からは,「日本とネパールの外交関係が樹立されたときの日本の首相は祖父一郎であり, 父威一郎は外相としてネパールを訪れ,私は友愛の原点はネパールにありと思って訪れた。 三代に亘って縁を戴いていることに感謝している」と話したところ,大変に喜んでくださ った。(鳩山「ネパール旅行記」,『友愛』526号,2013年11月10日)

■プラチャンダ首相HPより

*1 “Japan’s ex-PM Yukio Hatoyama in Pokhara,” The Himalayan Times, March 20, 2017
*2 “Japan’s ex-PM stresses on investment-friendly atmosphere,” The Himalayan Times, March 21, 2017
*3 “Former Japanese PM Hatoyama pays courtesy call on PM Dahal,” Annapurna Post, Mar 22, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/22 at 23:56

カテゴリー: 経済, 国際協力

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霧と排ガスの東タライ

東ネパールのビラトナガル,ダマク,バラトプル付近を見てきた。広大な平原(タライ)で,まるで別の国のようだ。

この時期の朝,東タライは濃霧に包まれる。カトマンズにも朝霧が出るが,東タライはけた違い,数メートル先も見えないほど濃い霧が立ち込め,昼ころまで残る。

ヤシやバナナの林が点在する広い田畑は,黄色の菜の花や赤のソバの花で一面におおわれ,まるでおとぎの国。霧の東タライは,ロマンチックで情緒がある。

一方,東タライは広い平原で水も豊かなので,あちこちに大きな工場ができている。停電はほとんどなく,道路もかなり整備されている。貧富格差は大きそうだが,産業開発は相当程度すすんでいるようだ。

そこで興ざめなのが,排ガス。一面を覆う濃霧は排ガスの臭いがする。伝統的な薪を焚く煙の匂いなら,それはそれなりに情緒があり好ましい。が,東タライの濃霧の臭いは,そうではない。工場排ガス,ゴミ野焼き,車の排気ガスなどの混ざった臭いなのだ。特に調査したわけではないので濃度や範囲は正確にはわからないが,東タライは広い平原なので,この排ガス公害は相当程度広がっていると見ざるをえないだろう。

伝統と霧のロマンか,経済発展とその代償としての排ガスか? 東タライは岐路に差し掛かっているようだ。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/04 at 11:46

中国輸出攻勢:ダムから中国語まで

1.西セティ水力発電事業
ネパール政府は8月7日,西セティ水力発電事業(WSHEP)を中国企業のCWI(旧CTGI,三峡公司傘下)に発注する方針を固め,22名の交渉使節団を中国に派遣した。

WSHEPは,発電量75MW,事業費16億ドル。事業配分は中国75%,ネパール25%。

ダムは,セティ川に建設され,広大な自然と多くの住民に大きな影響を与える。しかし,自然や住民の保護など,マオイスト政府は気にもかけない。なぜなら,マオイストは人民の党だから。そして中国も,大帝国だから,チマチマした地域住民や自然のことなど,眼中にはない。

また欧米の自然保護団体や動物愛護団体は,串本くんだりまで来たり動物供犠に反対したりはしても,WSHEPには反対しないだろう。あるいは,欧米のネパール先住民支援団体も,事業被害が予想される住民の支援には来ないだろう。中国は大帝国だから。

かくして,中国マオイストは,ネパール・マオイストと手を組み,インドの川上に巨大ダムを建設し,確固たる橋頭堡を築くことになる。
  (参照)西セティ水力発電事業

 ダム建設予定地(renewbl.com)

2.中国語授業支援
中国は,文化の中心だから,当然,中国語・中国文化の拡大にも熱心だ。中国大使館は,中国文化祭などを盛んに開催しているし,学校での中国語授業についても8年前に文部省から正式許可を得て,クラスの拡大に努力している(Republica, 5 Aug)。

親たちも,中国の興隆を見て,子供に中国語を学ばせようとし,学校に中国語授業の開設を要求している。いまでは,カトマンズ盆地地区で約60校が中国語授業を行っており,なかには12学年までのコースを置く学校もある。この中国語熱は,地方にも拡大している。
3.辺境国・日本の悲哀
中国政府が偉いのは,こうした中国語学習を,大使館を通して全面的に支援していることだ。文化輸出を外交の基礎としてきちんと位置づけている。その辺が,目先の小利しか追えない辺境の小国・日本との決定的な違いだ。中国は,英帝国や米帝国の仲間だ。日本は到底及びもつかない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/08 at 15:29

カテゴリー: インド, 経済, 外交, 中国

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民族対立扇動非難に弁明,DFID

ネット版カンチプール(6月28-29日)によれば,訪ネ中のアラン・ダンカン英国国際開発大臣が,民族対立を扇動していると非難され,弁明に追われている。

イギリスを始め先進諸国や国際機関が,包摂参加民主主義の理念を押しつけ,民族連邦制を支援していることは周知の事実。民族(nation)は劇薬中の劇薬であり,欧米自身,幾度も手を出しては地獄を見てきたはずなのに,無責任にもネパールに持ち込み,案の定,二進も三進もいかない政治危機をもたらしてしまった。

これに対し,旧体制特権諸集団が非難の声を上げ始めた。英国国際開発省(DFID)など援助諸機関は,先住諸民族,下位カーストなどを援助し,民族州を支援することにより,民族対立・コミュナル紛争を扇動している,けしからん,というのだ。

ここで難しいのは,伝統的な支配カースト・支配諸民族には,そのようなことをいう資格はないということ。彼らこそが,旧体制下で長らく下位カースト・少数諸民族を差別・抑圧し搾取してきた張本人だからである。彼らに対し,被抑圧カースト・諸民族が権利を主張し,体制転覆を図るのは当然である。

しかし,この被差別カースト・諸民族の権利要求をどのように実現していくか,その具体的な手順は難しい。手っ取り早いのは,民族意識,コミュナル感情に訴え,集団としての権利を覚醒させ,そのために闘わせること。これは火をつけやすく,爆発的に拡大する。体制破壊にはこれ以上強力なものはない。しかし,それは本質的にアイデンティティ政治であり,既成秩序破壊はできても,コミュナル利害を超えた共通利害の構築には向かない。

欧米先進国は,近代の洗礼を受け,とことん近代をやってみた上で,「近代以後」に向かい,多文化主義的包摂参加民主主義の実験を始めた。「近代以後」は,いわば近代の修正・補完である。

ネパール旧体制派の欧米援助非難にも一理あるのは,先進諸国や国連機関が,そうした歴史的経験の差を無視し,欧米の最新理論をそのままネパールに持ち込み,ネパール社会を実験台として利用していると考えるからだ。あまりにも自分本位,傲慢で,けしからん,というわけ。

こうした背景があるから,DFIDダンカン大臣のインタビューも弁明にしか聞こえない。大臣はこう答えている――

「DFIDは中立・公平の立場に立ち,この国で活動している。」「ネパールが真に包摂的な社会にならなければ,永続的平和は実現しないと確信している。」DFIDは「ネパール政府自身の包摂政策の実現を支援している」。DFIDによる被抑圧諸集団への援助は,ネパール政府自身のこの政策への支援である。たとえば,「先住諸民族同盟(NEFIN)」への援助も,政治活動を活発化させたので,2011年には中止した。DFIDには,民族紛争扇動の意図は全くない。

かなり苦しい弁明だ。なぜなら「包摂参加」や「権力分有」あるいは「民族連邦制」をさんざん焚きつけてきたのは,欧米諸国や国連諸機関だからである。ネパールのような途上国が,民族集団・宗教集団・言語集団等の「包摂参加」による「権力分有」を目指せば,利害の公平な分有よりも対立・分裂抗争の方が先行し,何も決められず,結局はアナーキーになってしまう危険性が高い。そして,じじつネパールはそうなりつつある。

旧体制の理不尽なカースト差別,民族差別,性差別等々は,もはや許されない。それらは撤廃され,人権は平等・公平に保障されなければならない。それはそうだが,そこに外国や国際機関がどう関与するかは,難しい。正直,私にも分からない。しかし,少なくとも当事者の,当事者としての尊厳を最大限尊重する謙虚さと誠実さは,見失われてはならないだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/06/30 at 15:04

村の開発:人からコンクリートへ

日本三大秘境の一つ,丹後のわが村へも近代開発の恩恵がようやく及び始めた。もちろん,民主党が「コンクリートから人へ」のマニフェストを反故にしてくれたおかげ。

わが村は,百戸あまりの小さな山間農村。それでも1960年頃までは,立派な小学校や,生活用品がほぼそろう農協(兼郵便局)があり,商店も5軒ばかりあった。村祭りや,いくつもの小さな神社や祠の祭事があり,農閑期には囲碁将棋や盆栽,芸事,釣りといった遊びや趣味が盛んであった。村には神仏があふれ,時間と多彩な文化があった。

▼小学校跡と古道破壊高速道路

これは,私が通っていた小学校の跡。ほんの数十年前まで,ここには立派な由緒ある木造校舎があり,百数十人の生徒が通っていた。春は前の用水路で魚取り,夏は裏の小川を堰き止めた簡易プールで水泳,秋には村総出の運動会,冬は校庭で雪合戦。子供にも大人にも時間はたっぷりあり,遊び文化があふれていた。

この小学校の横を通る小路は,裏山を越え,天橋立・宮津へとつづく古くからの交易路であった。路傍にはお地蔵さんや水飲み場などがあり,春には桜,秋には紅葉で美しく彩られ,夢見心地で遠足を楽しんだものだ。大内峠,それはわが村の歴史と文化の古道であった。

それらが,ほんの数十年の高度成長経済のおかげで,ほぼすべてなくなってしまった。小学校も,神社・祠の多くも,フナやナマズの小川も。そのかわり,有り難いことに,カネにもならない古道・大内峠はブルによりあっという間に掘り崩され,近代的な高速道路に変わり始めた。わが村にも近代資本主義の光明が射し始めたのだ。

▼自然破壊高速道路

これは,子供の頃,友達と毎日のように出かけ,魚取りや水泳で遊んだ小川。信じられないだろうが,当時は,小学生や中学生,そして高校生にすら,時間は有り余るほどあった。こんな小さな小川でも自然は無限に豊かであり,新しい発見や工夫で,いくらでも遊べた。

▼工業団地予定地付近

ところが,この岸辺にもブルが入り,風景は一変した。ここには高速道路の出入口ができ,予定では工業団地となる。「時は金なり」。有り難いことに,高速道路による時間短縮で,丹後での生産も採算がとれるようになるらしい。

村の自然と時間は,カネにはならない。無用の自然と時間を放棄することにより,なにがしかのカネが村に落ちることになる。「人からコンクリートへ」とは,そのようなことらしい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/06/27 at 20:50

カテゴリー: 経済, 文化

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解放としてのインフラ建設

「コンクリートから人へ」と高らかに宣言したものの、政権を取ると、民主党も早々とコンクリートに回帰した。コンクリート、あるいは一般にインフラ建設は文明の具象化であり、その魅力は自然な「人」にはるかに勝る。

というわけで、日本三大秘境のわが丹後にも高速道路がつけられ、間もなく完成すると、自宅から5分で高速に入り、2時間あまりで京都・大阪・神戸まで行くことができる。高校生の頃、バスと汽車で1日がかりで京都に出かけたのがウソのよう。

村も周辺の町も、どことなく活気づいている。大型商業施設や有名電機量販店などが開業し、都会並みの文明生活ができるようになった。

ネットも自在。光通信もよいが、私はデータ通信端末を使用している。ケイタイとほぼ同じ大きさ。村でもどこでも使用でき、料金は光通信より安いくらいだ。日本の秘境世界の秘境ネパールの新聞を読み、メール交換する。夢のような「素晴らしき新世界」の到来。これもあくなきインフラ建設のおかげだ。

これらインフラ建設は、一言でいえば、「交通」や「交換」の効率化により閉ざされた「秘境」を開くものだ。秘境育ちの私にとって、それらはまさしく光明であり、解放であり、自由であった。コンクリートこそが、文明なのだ。

小学生のころ、遠足は、昔からの交易路の「大内峠」を越え、内海の「阿蘇海」の浜辺で弁当を食べ、日本三景の一つ「天の橋立」まで行くのが恒例。一日がかりの文字通りの「遠足」だった。ところが、高速道路が完成すると、その大内峠の下をぶち抜き、10分もあれば天の橋立まで行けるだろう。自然の制約からの解放。偉大なコンクリート、万歳!

また、先の平成の大合併では、ピカピカの豪華ハコモノがいくつも建設された。使用しようがすまいが、ハコモノは、存在自体が丹後の秘境からの解放の象徴である。ハコモノ、万歳!

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/03 at 09:31

カテゴリー: 社会, 経済, 文化

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西セティ・ダム,さらに紛糾

西セティ・ダム問題がますます紛糾し,わけが分からなくなってきた。西セティダム建設は,2月29日,エネルギー省が競争入札なしで中国三峡公司と事業覚書(MoU)を締結した。これに対し,非難噴出。
  ・このダムはネパールが自力で建設できる。
  ・財務省もネパール投資銀行(NIB)も事前に知らされていなかった。
  ・エネルギー省カルキ事務局長には協定締結権限がない。
  ・競争入札ではなく,中国企業を特別扱いした。
議会調査委員会は,5月28日まで期間延長し,調査するという(ekantipur, Mar25)。

この記事通りだとすると,ネパール政府は,ほとんど当事者能力を失っている。協定署名者の職務権限が怪しいようでは,もはや外国からは相手にされない。

中国や韓国のように果敢にリスクを取る覚悟があれば別だが,そうでなければ,日本などは手を引くのが賢明だろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/03/27 at 14:46

カテゴリー: 経済, 中国

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