ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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カトマンズ鉄道建設も韓国

カトマンズ首都鉄道5路線の建設計画が,発表された。環状道路内4路線,環状道路沿1路線。ラトナ公園が中央駅となり,一部地上,一部地下路線となる。

建設計画の中心は,もちろん日本ではなく,韓国。アジアにおける開発援助の中心は,日本から,韓国や中国に移り始めたようだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/03/22 at 09:47

カテゴリー: 経済

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中国首相の訪ネと自由チベット弾圧

さすが中国,外交がうまい。たった5時間足らずの立ち寄り訪ネで,1つの中国確認,自由チベット弾圧,経済権益拡大を一挙に実現してしまう。

1.サプライズ訪ネ
温家宝首相の訪ネは,昨年12月20日に予定されていたが,ネパール側要人らが「オレがオレが」と訪ネ実現の手柄を吹聴し,情報じゃじゃ漏れだったため,怒った中国が突然キャンセルし,ネパール側を震え上がらせた。

これに対し,今日の訪ネは完全なサプライズ。午前11時着(1時間遅延で間もなく到着予定),バブラム首相,ヤダブ大統領,そしてもちろんプラチャンダ議長とも会ってやり,午後5時には,本来の訪問先,湾岸諸国に向かって飛び去る。

イラン危機の最中,湾岸諸国訪問がいかに重要かはいうまでもない。そこに行くついでに,ちょっとカトマンズに立ち寄り,ネパールに中国の偉大を見せつけてやるわけだ。

神にせよ仏にせよ,偉大なものは隠されてある。温家宝首相の訪ネも,今回は完全なマル秘。政府高官も,政党やメディアも,何も知らされていなかった。

政府御用紙ライジングネパールによれば,9日の時点でも,NK.シュレスタ副首相兼外相は,議会委員会で中国首相の訪ネ実現に努力する,と答えている。隠していたのではなく,本当に知らなかったのだろう。

2.自由チベット弾圧
一方,偉大な中国首相の来訪を仰ぐネパールは,最大限の貢ぎ物を差し出す。

第一に,自由チベットの弾圧。1月13日,インドからネパールに戻ったチベット人207人(女性81人)が警察に拘束された。詳細は不明だが,いずれにせよ,これが温首相歓迎のための貢ぎ物であることは明らかである。また,自由チベット弾圧と同時に,ネパール政府が「1つの中国」を繰り返し唱え,中国政府に忠誠を誓っていることはいうまでもない。

暫定憲法に民族自治,包摂参加を高らかに書き込んでいることなど,全く意に介さない。憲法も人権もそっちのけ,自由チベットを弾圧し,「1つの中国」の呪文を唱えなければ,偉大な中国首相にはおいでいただけないのだ。

 拘束されたチベット人(Republica2012-1-14)

3.経済権益の提供
またネパールは,温首相の訪ネを歓迎し,中国の要求する経済権益も,大幅に容認するだろう。
  ・ポカラ空港を国際空港に拡張・・・・1.5億ドル(事業総額,以下同様)
  ・リング道路改良・・・・5千5百万ドル
  ・大規模ダム・水力発電所(3カ所)・・・・37億ドル
  ・パンチカール経済特区設置
  ・ルンビニ開発

どこまで信用できるか分からないが,事業総額80億ドル以上ともいわれている。目もくらむ大金だ。いまや,インフラ整備も教育文化支援も,中国にシフトしつつある。巧みな外交と,有り余る資金の中国。

ネパールは,国際会議においてイザとなれば必ず中国(またはインド)に1票を入れる。決して日本には入れない。これまでもそうだったし,これからはこれまで以上に日本は軽視され無視される。ネパールの友人は中国(またはインド)であって日本ではない。もはや,日本に出番はない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/14 at 16:05

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

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アメリカ平和部隊,再開

アメリカの平和部隊は2004年9月,アメリカンセンターやゴルカ聖ヨセフ校などが爆破されたため,ネパールから撤退していたが,情勢好転を受け,11年ぶりに再開されることになった。
 ▼米ボランティア撤退開始

米平和部隊はケネディ大統領が創設,今年50周年である。これまでに20万人以上を派遣し,現在は約9千人が活動中。2011年度予算は,3億7千4百万ドル。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/12/20 at 21:05

カテゴリー: 団体

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ルンビニ開発も新国際空港も韓国

昨日(8日),プラチャンダ議長はパン・ギムン国連事務総長と会見し,ルンビニ開発への協力を依頼することになっていたが,さてどうなったのだろう? その成否は別として,ルンビニ開発の根回しは,早くから想像以上に着実に行われていたらしい。

1.バン事務総長,親友をルンビニ開発特使に
ネパール政府系ライジングネパール紙によると,次のような流れになる。

5月28日: イスタンブールで,カナル首相がバン事務総長と会談。事務総長は,ルンビニ開発協力を再確認。

数ヶ月後: バン事務総長,親友の韓国建築家Kwak教授をルンビニ開発特使としてネパールに派遣。訪ネしたKwak教授は,カナル首相,プラチャンダ議長,ルンビニ開発担当政府高官らと会談。プラチャンダとは個別に2回会談。

11月2日頃: ネパール政府が,Kwak教授に,ルンビニ広域開発マスタープランの作成を依頼する書簡を送付。

この流れから,早くから根回しがあったことはわかるが,どことなく国連の私物化のような気がしないでもない。

2.第2国際空港,韓国企業提案
このルンビニ開発とおそらく連動して,Landmark Worldwide(LMW)という韓国企業が,バラ郡に第2国際空港を建設するプランをネパール政府に提出した。政府は,LMWに優先権を与えるという。

建設予定地は,チトワンに近く,ルンビニへも遠くはない。もしここに国際空港ができれば,数が限定されるヒマラヤ観光とは桁違いに多い観光客が期待できる。また,広大なタライの産業開発への玄関口ともなる。やはり,韓国は目の付け所がよい。カネにもならないヒマラヤにロマンをかけつづける日本が負けるのは,当然だ。

3.インドの逆襲?
中韓のこの猛攻に対し,インドとネパール親印派は警戒心を募らせ,インドからのルンビニ投資を唱え始めた。

また,中韓が仏教聖地ルンビニを開発するなら,印ネはヒンドゥー教聖地パシュパティにも開発費を出せと要求し始めた。これも,もっともな主張だ。

4.仏教vsヒンドゥー教
仏教を担ぐ中韓派に対し,シバ神を担ぐ印派。そんな対立関係に発展しかねない。国連は,仏様に加担して,大丈夫なのかな?

* Rising Nepal, Nov.8; ekanitpur, Nov8; Republica, Nov.9.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/09 at 13:41

カテゴリー: インド, 経済, 中国

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プラチャンダのルンビニ開発とバブラムのBIPPA,または中印覇権競争

1.ネパールと中印の相関図
ネパール政治は,重要なことであればあるほど,情報不足で確かなことはいいにくいが,現在の大状況を大胆に図式化すると,こうなる。

2.プラチャンダ議長と中国のルンビニ開発
プラチャンダ議長は,前述のように,「ルンビニ開発国家指導委員会」の委員長に選出される一方,中国系NGO「アジア太平洋交流協力基金(APECF)」の共同議長となっている。ネパール政府が公式にAPECFのルンビニ開発計画を承認したのかどうか,そこは例のごとく,よく分からないが,政府がプラチャンダ議長を政府の「ルンビニ開発委員会」委員長に任命し,内外援助獲得の権限を与えたのだから,APECFルンビニ開発にも暗黙のゴーサインを出したとみてよいだろう。(力関係で逆転され,取り消されることもあるが。)

これは,われらが王様の「人民評論」によれば,「中国外交の大勝利」であり,これにより「中国はタライに足場をえた」ことになる。

ルンビニは仏教の聖地。インドは,自国では仏教をほぼ絶滅させておきながら,お釈迦様の生誕地はもともとインド領だと主張し,取り戻そうとあれこれ画策してきた。

その「領土紛争の地」ルンビニは,観光地としても産業立地としても有望な,きわめて豊かな土地である。そのルンビニに,中国がAPECFを介して本格的に入ってくる。しかも,インドの獅子心中の虫,印マオイストの友党の親分プラチャンダ議長の手引きで。

もちろんプラチャンダ議長自身は百戦錬磨の強者であり,そう簡単に中国の傀儡になったりはしない。数日前から,プラチャンダは,泣く子も黙る印情報局RAWのエージェントだというリーク情報がさかんに流されている。プラチャンダ議長が中国をバックにルンビニ開発を進めようとしているのは確からしいが,もしそうだとしたら,この時期になぜRAWエージェント情報が流されるのか? 複雑怪奇,平和ぼけ日本にいては,皆目見当もつかない。

しかし,そうした複雑怪奇な事柄はとりあえず括弧に入れ,表面的な流れだけから見ると,プラチャンダ議長が,中国をバックに,政治的・経済的にインドと対抗しようとしていることは,明らかである。われらが王様――王様は親中国であった――の「人民評論」がいっているのだから,間違いない。

2.バブラム首相とインドのBIPPA
そのプラチャンダ議長に対抗するのが,バブラム首相=インド連合だ。バブラム首相は訪印し,10月21日,インドとの間で「二国間投資促進保護協定(BIPPA)」をはじめとする経済協力協定をいくつか締結した。こちらは,インドのための出血大サービス。

インド大使館の公式説明によると,インド資本はネパール資本と同等の扱いを受け,もし紛争や国有化などで損害が生じたらネパール政府がそれを補償する。

インドが狙っているのは,経済的にはネパールにおけるインド資本の自由と安全,特にダム(水利・発電),道路,鉄道などの建設や,知的財産権の保護であり,政治的にはマオイスト抑圧や中国のタライ進出阻止だ。

これをマオイスト首相が呑んだ。マオイスト首相が,党綱領の大黒柱の1つ,国内産業保護を否定し,マオイスト人民解放闘争の抑圧を受け容れ,しかもあろうことか,マオイスト運動によりインド資本に損害が発生したら,ネパール政府が損害賠償をするという。

3.バイダ派の反撃
バブラム首相のこのBIPPA締結は,当然ながら,マオイスト内急進派の激しい怒りを買った。そりゃそうだ。国内産業保護をやめ,印大国主義資本のネパール侵出を認め,さらにマオイスト急進派の弾圧も約束してきた,と受け取られたからである。

バイダ副議長ら急進派は,BIPPAは「反国家的」で党綱領違反だ,こんな売国的協定は直ちに破棄せよ,さもなければ街頭反対運動に立ち上がる,と激しく政府を攻撃し始めた。

4.プラチャンダのステーツマンシップ
ここに登場するのが,プラチャンダ議長。彼自身,ルンビニ開発の当事者でありながら,バブラム首相とバイダ副議長一派との間に入り,BIPPAについては,要検討としながらも,バブラム首相の解任には反対している。

絶妙の立ち位置だ。RAWエージェントとのリーク情報も,ワサビのように利いている。

5.NC,UMLの日和見
情けないのが,中間派のNCとUML。NCのRS・マハト議員は,BIPPAを評価し,マオイストにインドの水力発電事業攻撃をやめよと要求しつつも,いまいそいでBIPPAを締結する必要はなかったなどと,よく分からないような批判をしている。

UMLも似たり寄ったり。落ち目で日和り,日和ってまた落ちる。

6.欲望渦巻く釈尊の地ルンビニ
釈尊は,悟りを開き,金・色から解脱し,仏陀となった。その仏陀の生誕地が,いまや印中二大国の経済的・政治的覇権争いの最前線となりつつある。バチ当たりなことだ。

プラチャンダは偉大であり,印中対立をさえ巧みに利用して動いているように見えるが,何せRAW,CIA,ISIや,各派テロリストらがうごめくネパールのこと,これから先どうなるか,全く分からない。

タライは豊饒の地。ここが,最下等の人間活動たる金儲け(経済競争)の地となり果てたら,いかなお釈迦様であってもお手上げ,ネパールは混沌に陥り,収拾がつかなくなるだろう。そして,マオイストは割れ,第二次人民戦争が始まるにちがいない。

* ekantipur, Oct26; Nepali Times, Oct25; Himalayan Times, Oct24&25; People’s Review, Oct21; PTI, Oct22; Times of India, Oct22; Embassey of India Quait, HP, Oct21.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/26 at 19:29

カテゴリー: インド, マオイスト, 経済, 外交, 中国

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中国系NGOのルンビニ開発計画

中国が、政治,経済,文化など、あらゆる分野でネパール攻勢を強めている。

1.中国政府系チベット書店
以前,タメルに出来た中国政府系とおぼしき中国書店について書いたことがある。
 ▼中国書店 2010.09.03

妙だと思ったのは私だけではないらしく,ネットにこんな記事が出ていた。
 ▼Warring Tibetan Bookstores: A Glimpse of Nepal Between Great Powers

記事によると,この中国系チベット書店は,「自由チベット運動系チベット書店に対抗するため」,つまりダライ・ラマ=チベット自由運動「支持派を切り崩すため」,宣伝としてつくられた。

この記事の著者は,3回書店に行ってみたが,店はお役所的で,「店内には1人も旅行者はいなかった」。中国筋は本や宗教のことなどどうでもよく,本当の目的は,改革開放後中国の宣伝だというのである。

この記事は,1年前の私の記事と実によく似ている。書店があまりにもユニークなので,誰でも同じような印象を持つことになるのだろう。

2.ルンビニ開発計画
もう一つ,中国援助のルンビニ大開発計画も注目される。
 ▼In the land of the Buddha
 ▼Lumbini as geopolitical ping pong

ルンビニ開発には,丹下健三氏が関わったユネスコ計画がある。1980年完成予定だったそうだが,例のごとく完成はしていないらしい。そこに,香港のAsia Pacific Exchange Cooperation Foundation(APECF)が登場,巨額の投資話が持ち上がった。

そしてまた,ここでもやはり政治家が絡む。それも何と,われらが英雄プラチャンダ議長とそのご令息プラカシ氏だというから,あまりにも出来すぎだ。面白すぎて,今後どうなるか,ハラハラ・ドキドキ。

しかし,穏やかならぬのが,お隣のインド。ルンビニは国境のすぐそば,石を投げれば届きそうな距離だ。そこに中国が,しかもマオイストの親玉父子と組んで,大開発計画を始める。ネ印国境が,中国=マオイスト連合軍で真っ赤に染まってしまう。

中国は,これまでにもタライ方面に孔子学院などを設立し,文化攻勢をかけてきた。その目玉が,このAPECFルンビニ大開発計画になるのではないか?

心配なのは,こうした中国の政治,経済,文化にわたる大攻勢に,インド(とアメリカ)がどう対抗するかだ。ネパール政治は,つねに中印関係と連動している。首相選挙との関連にも要注意だ。
 ▼中国のネパール進出とアメリカ国益
 ▼中国のネパール介入拡大

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/08/19 at 20:07

タライの豊かさと貧しさ

谷川昌幸(C)
 9月11-14日,トヨタ4駆でタライへ出掛け,ナラヤンガート,ブトワール,バイラワ,ルンビニ付近を走り回った。これまでタライは,チトワンへ3日ほどマオイスト宿営地(cantonment)見学に行ったことがあるだけで,実質的な状況調査は今回が初めてだ。
 不可解,不合理! 「なぜこんな豊かなところが,こんなに貧しいのか?」
 
1.タライの豊かさ
 東西ハイウエーを100km/h前後でブッとばす。道路の両側は,鬱蒼たるジャングルか,緑一面の水田。これが延々と続く。なんて広く,美しく,そして豊かなのか! 
 (1)商工業
 その気になれば,産業立地として最適だ。広い平地,豊富な水,安価な労働力,そしてすぐ南には間もなく世界最大人口を持つことになる巨大なインド市場。ここに投資し,うまく経営すれば,莫大な利益が得られるはずだ。
 事実,ハイウェー沿い,あるいは枝分かれした幹線道路沿いには,かなり大規模な工場がいくつか建設され,操業していた。目立つのは,コンクリート工場や,製糖などの食品工場。
 しかし,これだけ立地条件に恵まれているわりには,まだまだ工場は少ない。労働集約型産業であれば,十分成り立つのではないか。
 (2)農業
 農業も,技術向上で生産性は飛躍的に向上するだろう。水田を見ると,いまは稲の出穂直前,なかには収穫を始めたところもあった。大半が伝統的品種らしく,実りはあまり豊かとはいえない。穂が垂直に立っているものが多い。
 改良品種による農業革命は,アメリカ独占資本の陰謀の側面がたしかにある。多収穫米は,肥料と農薬を多用し,種子は毎年種苗会社から買わねばならない。不用意に導入すると,インドと同様,農民は巨大国際農業企業に隷属するようになり,かえって貧しくなる危険性もある。
 そうならない形での農業技術改良は出来ないものだろうか。
 
2.タライの貧しさ
 幹線から外れ,細い村道も走り回った。所々で駐車して見るくらいで,これも印象にすぎないが,農民の住居は貧弱なものが多く,資本主義の基準では貧しいといわざるをえない。
 鬱病,自殺などの文明病と比べどちらがより深刻かと問われると困るが,それでも生活は極端に貧しいと見ざるをえない。
 多くの家の前で,女性たちが頭のシラミ取りをしていた。殺虫剤で害虫も益虫も駆除してしまった日本人の一人としては,この光景はショックだ。生活になれば慣れるという人もあろうが,蚊一匹でも寝られない私にはたぶん無理だろう。
 
3.仏の目に涙
 タライの自然は,お釈迦様の誕生が,さもありなんと納得できるほど,豊かで優しく美しい。神の創造の完全さが,そのまま残されている。
 その一方,人間が自然を破壊して造った道路沿いには低俗下劣な人造物が見るも無惨に散乱し始めている。自然の偉大,人為の卑俗を見るには,ヒマラヤに登るよりタライに降った方がよい。
 さらに,タライでは,金持ちの大邸宅と貧農の竪穴式住居との落差にも驚かされる。どぎつい原色俗悪趣味丸出しの御殿のような大邸宅と,雨露さえしのげそうもない掘っ建て小屋を見比べれば,タライのいびつさに愕然とせざるを得ない。
 自然に対する人間の罪,人間に対する人間の罪。お釈迦様は,救いようのない人間のこの大罪に涙され,悟りを開かれたにちがいない。
narayani
東西ハイウェーからナラヤニ河を望む。遠景はジャングル、手前は水田。あまりの暑さにデジカメの色相が狂い(?)空が赤くなった。
80915factory
ルンビニの近代的工場。豊かな水田地帯に建設されている。

Written by Tanigawa

2008/09/15 at 19:20

カテゴリー: 経済, 文化, 旅行

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(紹介)畠博之『ネパール被抑圧者集団の教育問題』

谷川昌幸(C)
畠博之氏が,ネパールの教育問題に関する詳細な実証研究を出版された。
 
畠博之『ネパールの被抑圧者集団の教育問題:タライ地方のダリットとエスニック・マイノリティ集団の学習阻害/促進要因をめぐって』学文社,2007年12月刊,p.i-viii, 1-561,9000円
 
畠氏は,ネパールでの11年間におよぶ教育実践の後,神戸大学大学院で教育開発を研究された。この本は,博士論文をもとに執筆されたもので,561頁にもおよぶ大著である。
 
  はじめに
  第1章 問題の所在と研究の概要
  第2章 ネパールのカースト制度と被抑圧者集団
  第3章 ネパールの教育開発の現状
  第4章 タライの被抑圧者集団の教育の現状と学習阻害/促進要因の分析
  第5章 被抑圧者集団の教育達成上の課題と今後の教育開発
  おわりに
 
1.カースト/エスニック集団と教育
第1章では,この研究の目的がカースト/エスニック集団と教育の関係を,中途退学,学習到達度,学内差別の問題を中心に分析することにある,と述べられている。「階層と教育」の視点から,「カースト/エスニック集団」要因が,教育到達度にどう関わっているかの解明である。
 
カースト/エスニック集団所属と教育達成度が相関関係にあることは,著者自身がいうように「自明の結論」である。俗にいう,そんなことは調査するまでもなく常識だという批判であり,これは政治学の分野でもかつて盛んに議論されたことだ。政治行動の科学的(科学主義的)実証研究の有意味性への懐疑である。
 
これは方法論的に難しいところだが,この点について著者は「この検証の結果よりはむしろ検証にいたるプロセスのほうが意義深い」(p22)と答えられている。たとえ「自明の結論」であっても,どうしてそうなるかの具体的な過程は必ずしも明らかではなく,そこが解明されなければ,効果的な教育改善策はとれない,ということであろう。また,著者は謙遜されているが,この研究で「自明の結論」つまり「常識」が覆されたところも,少なくない。
 
2.カースト/エスニック集団
第2章では,カースト/エスニック集団について整理されている。その中で特に興味深いのは,旧ムルキアインの「国家カースト制度」の考察である。
 
Andras Hofer, Caste Hierarchy and the State in Nepal: A Study of the Mulki Ain 1854(1979)は,これまでチラチラ見ただけで,よく読んだことはなかった。著者はこの本を手がかりに,旧ムルキアインのカースト制度を綿密に分析し,図表も多用し分かりやすく整理している。
 
また,2001年国勢調査を中心に分析されている現代のダリット/エスニック・マイノリティ集団の説明も分かりやすい。
 
3.教育制度/教育開発
第3章では,ネパールの教育制度と教育開発の歴史と現状が,豊富な資料を駆使し,詳細に分析されている。図表も多く,たいへん分かりやすい。
 
4.タライの教育の現状
第4章では9郡の実地調査に基づき,タライの教育の現状が分析されている。
  調査地:9郡(タライ6郡=ジャパ,シラハ,バラ,カピルバストゥ,バンケ,カイラリ/丘陵部3郡=ダーディン,ドラカ,カトマンドゥ)
  学校数:33校
  名簿データ:50669
  出席データ:13017
  成績データ:37841
  質問紙調査:3367
調査はタライを東から西まで。たいへんな調査であったことがよく分かる。多様性豊かで科学的サンプリングも難しいであろうが,これだけの規模であれば,かなりのことがいえるはずである。
 
この9郡調査のうち,第4章では,直接的にはジャパ郡とシラハ郡の事例が詳細に分析されている。ここでも,分析結果は図表にまとめられており,分かりやすい。ちなみに,出席状況は,いわゆる「常識」とは違う結果となっており,興味深い。
 
5.姓のない生徒
第5章では,調査結果をもとに,被抑圧者集団の教育上の課題が分析されている。
 
ここで特に興味深かったのは,姓を届けず,姓なしで学校生活を送る生徒が多いという指摘だ。バラ郡R中学校では,女子生徒の83.5%,男子生徒の28.3%が姓なし。下位カーストに多い。女子は結婚で夫の姓になるので,未婚時の姓は不要だということ。また,姓はカーストを示すので,差別を少しでも免れるため下位カースト生徒は姓を届けないようだ。
 
これとの関連で,カトマンズ近郊のある学校のことを思い出した。イギリス系の名門校で,この学校では,入学時,全生徒の姓を奪う。つまり,誰にも姓を名乗らせない。著者の報告したタライの学校と同じ理由で,上位カーストの生徒にも姓を名乗らせないのだ。カースト差別が問題なら,姓を全廃してしまえ――イギリスらしい現実主義的合理主義だ。
 
この逆転の発想は,たとえば難民についても主張されている。難民は国家の外に置かれた人々だが,だからこそ,難民こそが国家の枠を越える未来の人々の先駆者たり得る,という議論だ。
 
ダリット,被抑圧者諸集団を識別(identify)し,集団として解放していくのも一つの行き方だが,姓を奪われたことを逆手に,普遍的人間(人為的に与えられるfirst name=given nameだけをもつ平等な人間)により帰属集団差別を克服していくという戦略もあってよいと思う。
 
以上は,本書とは直接関係ないが,姓のない生徒の問題提起に触発された次第。
 
6.教育開発のために
伝統的社会では,必ずしも学校教育は必要ではない。子供だけ刑務所のような教室に隔離し,自然を矯め,強制的に人為的社会に適合するようにしつけ,大人に育てる必要はないからだ。
 
しかし,ネパールのグローバル化は不可避であり,社会は急速に変化している。伝統的社会を維持したくても,もはや不可能であり,人々は近代的教育によりそれへの適応をせざるをえない。そして,ネパールをしてそうさせているのは,ネパール自身というよりはむしろ周縁を求める先進国の側である。
 
こうした観点から,ネパールの教育開発を考える人々にとって,綿密な実証研究の成果をまとめた本書は不可欠の基本文献の一つといえるであろう。

Written by Tanigawa

2008/08/02 at 14:53

カテゴリー: 教育, , 民族

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