ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Posts Tagged ‘難民

ブータン難民受入れ,米国が85%

「幸福の国」ブータンで迫害され,ネパールに逃れてきたブータン難民を受け入れてきたのは,次の諸国:

第三国定住ブータン難民:108,513人(2017年2月9日以前)
 アメリカ: 92,323* 
 カナダ: 6,773
 オーストラリア: 6,204 
 ニュージーランド: 1,075
 デンマーク: 875
 ノルウェー: 570
 イギリス: 358
 オランダ: 329
  *「入国禁止令」執行停止以降の2017年2月10~14日,96人受け入れ。

米国が,圧倒的多数(全体の85%)のブータン難民を受け入れている。また,デンマーク,ノルウェー,オランダも,小さな国でありながら,相当数を受け入れている。日本で難民問題を議論する場合,こうした基本的事実は十分踏まえておくべきであろう。

ネパールにはブータン難民がまだ1万1千人ほど残っているし,またUNHCRに把握されていないブータン難民も数千人がネパールとインドに居住しているという。

170218
 ■広大なベルダンギ難民キャンプ(Google)

*1 KESHAV P. KOIRALA, “Where in US, elsewhere Bhutanese refugees from Nepal resettled to,” Himalayan Times, 06 Feb, 2017
*2 KESHAV P. KOIRALA, “Scores of Bhutanese refugees fly to US from Nepal,” Himalayan Times, 15 Feb, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/18 at 00:55

カテゴリー: 人権

Tagged with , ,

トランプ「入国禁止令」とネパールのブータン難民

トランプ大統領による難民等入国禁止令(1月27日)は,連邦地裁が執行停止命令を出し(ニューヨーク地裁1月28日,ワシントン地裁2月3日),連邦控訴裁でもその執行停止命令は認められた(2月9日)が,世界各地の難民たちの不安は募るばかりだ。ネパールでも,国内難民キャンプ収容のネパール系ブータン難民たちが,渡米手続きを停止されている。

AFP(Himalayan, 7 Feb)記事によれば,ブータンでは1990年代に入ると,ネパール系住民がネパール語使用を禁止され,ブータン民族衣装着用を強制されるなど,迫害を受け始めた。そのため,彼らはネパールへのがれ,各地の難民キャンプに収容され,定住受入国を探すことになった。

これまで,彼らブータン難民を受け入れてきたのは,米国,ヨーロッパ諸国,オーストラリア,カナダなど。特に米国は最大の受け入れ国であり,2007年以降,9万人以上が渡米した。それでも,ネパールの難民キャンプには,現在もなお,1万人以上のブータン難民が残っているという。

そこに,トランプ大統領の難民受け入れ停止命令に基づく通達が届けられた。「2月3日以降,次の指示があるまで,渡米手続きは中止する。」これにより,あるマガール女性難民は,20年間待ち続け,やっと数日後出発することになっていたのに,突然,中止を告げられた。また,別のタマン女性難民は,在米家族のもとに向け出発する,その前日に,渡米保留の通知を受けた。彼女ら難民の落胆と不安は,想像を絶するものに違いない。

難民問題は難しい。2月11日の朝日新聞によれば,昨年の日本への難民申請1万901人に対し,認定はわずか28人(在留許可97人)。そのうちネパール人は,申請1451人,認定人数は記事では不明。難民受け入れは,日本人自身の問題でもある。

170211■根本かおる著,河出書房新社,2012

*1 “US-bound Bhutanese refugees left in limbo in Nepal,” AFP=Himalayan Times, February 07, 2017
*2 「UNHCRによるブータン難民の第三国定住が10万人超えを記録」国連UNHCR協会
*3 ダルマ・アディカリ「帰国求めるネパール系難民 ブータンの「民族浄化」 桃源郷のもうひとつの顔」『日刊ベリタ』2006年07月09日
*4 「2015年ネパール ブータン難民キャンプ報告」毎日新聞大阪社会事業団

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/11 at 12:22

カテゴリー: 民族, 人権

Tagged with , ,

平静に見えるオーストリア

6月末~7月初旬,ウィーンやザルツブルクなどを見てきたが,少なくとも外から見る限りオーストリアは平静であった。

オーストリアでは,5月に大統領選挙があり,リベラル系無所属(「緑の党」元党首)のアレクサンダー・デア・ベレン候補が,僅差で,極右「自由党」のノベルト・ホーファー候補に勝利した。不在者投票分でのギリギリ逆転勝利,文字通りの辛勝であった。

ところが,この開票結果に自由党が異議を唱え,憲法裁判所に選挙無効を訴えた。憲法裁判所は,この訴えを受理し,審理の結果,7月1日,不在者投票開票方法などが違法だったとして選挙無効の判決を下した。再選挙は,9~10月の予定。

このオーストリア大統領選挙は,全世界,特に欧州で,成り行きが注目されてきた。自由党は極右ナショナリスト政党。難民・移民受け入れに反対し,EU離脱を訴え,とくに男性,ブルーカラー労働者,農村部に支持を拡大してきた。その自由党が勝利すれば大変なことになる。注目され,心配されるのは当然だ。

こうした状況だから,オーストリアはいま騒然としているだろうと思っていたら,実際には,街も村も表面的には何事もないかのように平静。人々はコンサートに出かけ,高原や湖畔では早やバカンスを楽しんでいた。

これは,まったくもって不思議,不可解。バカンス明けの再選挙はいったいどうなるのだろう?

▼議会議場(上院/下院)
160720l 160722a

▼落書き(ハイドンハウス付近)
160722c

[参照]
*「オーストリア大統領選、やり直し 極右の伸び焦点」日経,2016/7/1
*稲木せつ子「オーストリアの大統領選は「史上初」だらけだ 憲法裁判所が選挙のやり直しを命令」東洋経済オンライン,2016年07月06日
*「オーストリア大統領選で違法行為、憲法裁がやり直し命令」朝日新聞,2016年7月1日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/07/22 at 04:54

ネパール人「虚偽」難民申請と日本の制度悪

朝日記事「ネパール人留学生,偽りの難民申請,稼ぐため制度乱用」(朝日デジタル10月26日)が,波紋を呼んでいる。要旨は以下の通り。

————-
ネパール人の留学生や技能実習生らが,次々と難民申請をしている。難民認定申請すると,申請後半年から結果がでる数年後まで身分が保障され,有利な条件で働き,金を貯め,帰国することができるから。

たとえば,ネパール人農業実習生の場合,厳しい長時間労働にもかかわらず,月収は7万円であったが,難民申請後,20万円となった。

このネパール人のような難民申請は,虚偽申請であり制度乱用だが,(1)難民認定に時間がかかりすぎる,(2)外国人労働者雇用制度の不備など,日本の制度にも問題がある。
————-

以上が朝日記事の要旨だが,この問題については,数年前から様々な指摘がなされてきた。

(1)「難民認定申請:名古屋入管,06年19人 → 11年225人に急増」:ネパール人,スリランカ人,パキスタン人など(毎日2013/1/8)
(2)「難民保護費:相次ぐ不正受給」:愛知県警,ネパール人4人を難民保護費不正受給容疑で逮捕。(毎日2013/2/9)
(3)「難民申請,最多の3260人 13年,認定は6人に減」:難民申請トルコ658,ネパール544,ミャンマー380,スリランカ345(共同2014/3/20)

たしかに,ネパール人難民申請は,急増している。入国管理局によれば,以下の通り。

難民認定申請者(法務省入国管理局「平成25年における難民認定者数等について」平成26年3月20日)
141029c
141029a 141029b

2013年度難民認定6人のうちネパール人が何人かは分からないが,ゼロか,いてもごくわずかであることは間違いない。難民認定基準が厳しすぎるにせよ,現行制度を前提とするなら,ネパール人難民申請の多くが,いわゆる「虚偽申請」ないし「制度乱用」に当たるとみざるをえない。

この現状には,いくつか問題がある。第一に,本当に必要な人の難民申請や認定に支障が出るということ。第二に,労働目的の難民申請に非難の矛先が向けられることにより,日本の外国人雇用制度そのものの不当性が隠蔽される恐れがあるということ。

たしかに,現行の制度を前提とするなら,ネパール人難民申請の多くは,いわゆる「虚偽申請」ないし「制度乱用」であろうが,しかし,これは申請するネパール人の側の責任では,断じてない。責任は,あげて日本の外国人労働者制度(特に技能実習制度)や難民認定制度にある。

悪いのは,日本の制度。朝日記事のように,過度にセンセーショナルな見出しをつけると,誤解を招きかねない。かりそめにも,ヘイトスピーチの矛先をネパール人労働者に誘導し,憂さ晴らしをさせるようなことは,してはならない。

*****************************
【参照1】(2015-2-18追加)

曽野綾子の透明な歳月の光  労働力不足と移民 「適度な距離」保ち受け入れを
 最近の「イスラム国」の問題など見ていると、つくづく他民族の心情や文化を理解するのはむずかしい、と思う。一方で若い世代の人口比率が減るばかりの日本では、労働力の補充のためにも、労働移民を認めねばならないという立場に追い込まれている。・・・・
 しかし同時に、移民としての法的身分は厳重に守るように制度を作らねばならない。・・・・
 ここまで書いてきたこと矛盾するようだが、外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業だ。
 もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった。・・・・
 爾来、私は言っている。 「人間は事業も研究も運動も何もかも一緒にやれる。しかし居住だけは別にした方がいい」 

(産経新聞2015年2月11日付コラム要旨抜粋)

―――――――――――――――――――――――――――

産経新聞 曽野綾子さんのコラムへの抗議文

曽野綾子様  産経新聞社常務取締役 飯塚浩彦様

 『産経新聞』2015年2月11日付朝刊7面に掲載された、曽野綾子氏のコラム「労働力不足と移民」は、南アフリカのアパルトヘイト問題や、日本社会における多様なルーツをもつ人々の共生に関心を寄せてきた私たちにとって、看過できない内容を含んでおり、著者の曽野綾子氏およびコラムを掲載した産経新聞社に対して、ここに強く抗議いたします。
 曽野氏はコラムのなかで、高齢者介護を担う労働力不足を緩和するための移民労働者受入れについて述べるなかで、「外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業」であり、「もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」との持論を展開しています。
 「アパルトヘイト」は現地の言葉で「隔離」を意味し、人種ごとに居住区を分けることがすべてのアパルトヘイト政策の根幹にありました。また、アパルトヘイトは、特権をもつ一部の集団が、権利を剥奪された他の集団を、必要なぶんだけ労働力として利用しつつ、居住区は別に指定して自分たちの生活空間から排除するという、労働力管理システムでもありました。移民労働者の導入にからめて「居住区を分ける」ことを提案する曽野氏の主張は、アパルトヘイトの労働力管理システムと同じです。国際社会から「人道に対する罪」と強く非難されてきたアパルトヘイトを擁護し、さらにそれを日本でも導入せよとの曽野氏の主張は言語道断であり、強く抗議いたします。このような考え方は国際社会の一員としても恥ずべきものです。
 おりしも、このコラムが掲載された2015年2月11日は、故ネルソン・マンデラ氏が釈放されて、ちょうど25年目にあたる日でした。その記念すべき日に、南アフリカの人びとが命をかけて勝ち取ったアパルトヘイトの終焉と人種差別のない社会の価値を否定するような文章が社会の公器たる新聞紙上に掲載されたことを、私たちはとても残念に思います。
 曽野綾子氏と産経新聞社には、当該コラムの撤回と、南アフリカの人々への謝罪を求めます。また、このような内容のコラムが掲載されるに至った経緯、および人権や人種差別問題に関する見解を明らかにすることを求めます。以上について、2015年2月28日までに文書でアフリカ日本協議会(AJF)へお知らせくださるようお願いいたします。また、貴社のご対応内容については他の市民団体、在日南アフリカ共和国大使館、国際機関、報道機関などへ公開するつもりであることを申し添えます。

2015年2月13日  (特活)アフリカ日本協議会 代表理事 津山直子

The Letter to Sankei-shinbun and Ms. Sono Ayako in English
13 Febrary 2013

Ms. Ayako Sono, the author  Mr. Hirohiko Iizuka, Managing Direcor, SANKEI SHIMBUN CO.,LTD

Ms. Ayako Sono’s column which appeared on the Sankei Shimbun morning edition on 11 February 2015, has inappropriate contents that cannot be overlooked. We, as an NGO which has had concerns about apartheid in South Africa and aspiration for harmonious coexistence of people with various roots within Japanese society, strongly protest against the author of the column as well as against the Sankei Shimbun for running the article.

In the column Ms. Sono, discussed the need to introduce immigrant workers who would provide nursing care for the elderly in Japan and wrote that she felt it extremely difficult to live with foreigners. She also wrote “Since learning about the situation in South Africa 20 or 30 years ago, I’ve come to think that whites, Asians, and blacks should live separately.” (Translation by Japan Times, “Author Sono Calls for Racial Segregation in Op-Ed Piece,” 12 February 2015)

“Apartheid” means “separation” in the local language of South Africans. Separating residential areas according to race was the foundation of apartheid policy. Apartheid was also a labor force management system, in which the privileged race deprived other races of their rights by using them as convenient labor. At the same time this privileged race did not let these races remain in their own areas. Arguing for a separate residential area for immigrant workers, as Ms. Sono does, is synonymous with calling for an apartheid system in Japan. It is abominable to defend apartheid, which has been strongly condemned by the international community as a “crime against humanity”, and to argue for introducing a similar system in Japan. We strongly object to this opinion. It is a shameful act to express such views as a member of the world community.

Coincidentally, the day the column run, 11 February 2015, was a 25th anniversary of the late Mr. Nelson Mandela’s release from the prison. It was very disappointing that we had to find, on this memorable day, a column which negates the significance that South African people fought, risking their lives, for the end of apartheid and the realization of society without racial discrimination.

We demand Ms. Sono and the Sankei Shimbun retract this column and apologize to the people of South Africa. We also demand an explanation regarding the process in which the column went to press, and your view on human rights and racism. Please send us your written response to Africa Japan Forum (AJF) by 28 February 2015. Please be advised that we intend to inform other NGOs, the South African Embassy, international organizations, and various media companies of any response we receive from you.

Tsuyama Naoko  President  Africa Japan Forum

(http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/archives/sonoayako-sankei20150211.html)

【参照2】(2015-2-25追加)
亀井伸孝「『文化が違うから分ければよい』のか―アパルトヘイトと差異の承認の政治」
 ・曽野綾子氏の産経新聞コラム。「人種主義」と「文化による隔離」の二つの問題点。
 ・文化人類学は、南アフリカのアパルトヘイト成立に加担。
 ・黒人の母語使用を奨励する隔離教育。
 ・「同化」を強要しないスタンスが、「隔離」という別の差別を生む温床。

【参照3】ネパール人夫婦,難民認定(2015年4月24日追加)
愛知県豊川市在住のネパール人夫婦が,2015年3月27日,難民認定された。RPP党員で,マオイストに迫害され,2007年1月観光ビザで来日,2010年難民申請するも2011年不認定。2011年5月,異議を申し立て,これが3月27日認められ,ネパール人初の難民認定となった。
*中日新聞,毎日新聞,朝日デジタル,2015年4月24日。

谷川昌幸(C)

チベット難民に警告,ゴータム内相

ゴータム副首相兼内相は3月22日(土),「全国人権基金(HURFON)」年次大会において,チベット難民に対し,反中国活動をしないよう強く警告した(Nepalnews, 22 Mar)。

この3月10日は「チベット蜂起」55周年記念日であった。ネパール警察は,約900人の制服・私服警官を動員し,ボダナートなど重点地区を中心に警戒してきた。焼身抗議に備え,毛布と消化器を準備しているという。

それでも,3月10日には,小規模ながら,「自由チベット」デモが行われた。拘束されたのは,中国大使館付近5人,スワヤンブー付近4人,ポカラ1人など,10数人。チベット難民の抗議活動は,例年よりも少なかった(Republica & Ekantipur, 10 Mar)。

140324 ■中ネ航空協定改定:カトマンズ2014年2月24日(中国大使館HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/03/24 at 14:11

カテゴリー: 外交, 中国, 人権

Tagged with , ,

カーターセンターと米太平洋軍とネパール(1)

このところ,ネパールにおいてアメリカの動きが活発化する気配が感じられる。一つはカーター元大統領とカーターセンター,もう一つは米太平洋軍。

1.カーターセンター:世界戦略としての人権と民主主義
カーター元大統領は,先述のように,3月29日~4月1日,ネパールを訪問し,制憲議会選挙の早期実施を勧告し,選挙支援と選挙監視団の派遣を申し出た。他国はおそらく熱が冷め,それほど積極的には支援しないだろうから,次の選挙は米国(およびインド)の応援による選挙となる公算が大だ。

130407o 130407p 130407q
 ■カトマンズ投票所のカーター夫妻/高地敏感地帯の選挙監視員/エベレスト山麓の選挙監視員(カーターセンターHP)

それとの絡みで注目されるのが,カーター人権外交。カーターがネパールで人権尊重を唱えれば,当然,チベット問題に触れることになる。

事実,カーターは,カトマンズで4月1日,中国政府がネパール政府に圧力をかけ,チベット難民を弾圧させている,と批判した。ロイターによれば,チベットからの脱出者は,これまでは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に引き渡されていたが,中国の圧力により,国境付近で「嫌がらせを受けている(facing harassment)」という。曖昧な表現になっているが,実際には,脱出に失敗し拘束されたチベット人は「嫌がらせ」くらいでは済まないだろう。 以前からしばしば指摘されているように,中国官憲はネパール側への越境取り締まりですら,行っているのだ。

ネパール国内のチベット系住民の弾圧も,中国政府の要請(圧力)を受け,日常的に行われてきた。マオイスト政府も,もちろん他党以上に熱心にチベット系住民を弾圧した。この2月13日には,ドルプチェン・ツェリング(25歳)がカトマンズで焼身抗議死を決行したが,ネパール政府は遺体の引き渡しを拒否し,密かに,どこかに埋めてしまった。

このように,チベット問題は,中国にとって,おそらく最も触れられたくない問題の一つであろう。カーターは,そのチベット問題に,ネパールで言及した。短い発言だが,たちまち世界中に配信され,大きな反響を呼んでいる。

人権と民主主義は,いわずと知れたアメリカの”Manifest Destiny”であり,外交の武器でもある。いずれも普遍概念であり,これらを振りかざされたら,たいていの国は恐れ入らざるをえない。中国にとっても,これらは軍事力による威嚇以上に対応が難しく,神経をとがらさざるをえないだろう。

カーターは,中国の目と鼻の先のネパールにおいて,そのチベット問題に言及した。これが,米国世界戦略のための熟慮された政治的発言であることはいうまでもあるまい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/04/07 at 20:05

中国首相の訪ネと自由チベット弾圧

さすが中国,外交がうまい。たった5時間足らずの立ち寄り訪ネで,1つの中国確認,自由チベット弾圧,経済権益拡大を一挙に実現してしまう。

1.サプライズ訪ネ
温家宝首相の訪ネは,昨年12月20日に予定されていたが,ネパール側要人らが「オレがオレが」と訪ネ実現の手柄を吹聴し,情報じゃじゃ漏れだったため,怒った中国が突然キャンセルし,ネパール側を震え上がらせた。

これに対し,今日の訪ネは完全なサプライズ。午前11時着(1時間遅延で間もなく到着予定),バブラム首相,ヤダブ大統領,そしてもちろんプラチャンダ議長とも会ってやり,午後5時には,本来の訪問先,湾岸諸国に向かって飛び去る。

イラン危機の最中,湾岸諸国訪問がいかに重要かはいうまでもない。そこに行くついでに,ちょっとカトマンズに立ち寄り,ネパールに中国の偉大を見せつけてやるわけだ。

神にせよ仏にせよ,偉大なものは隠されてある。温家宝首相の訪ネも,今回は完全なマル秘。政府高官も,政党やメディアも,何も知らされていなかった。

政府御用紙ライジングネパールによれば,9日の時点でも,NK.シュレスタ副首相兼外相は,議会委員会で中国首相の訪ネ実現に努力する,と答えている。隠していたのではなく,本当に知らなかったのだろう。

2.自由チベット弾圧
一方,偉大な中国首相の来訪を仰ぐネパールは,最大限の貢ぎ物を差し出す。

第一に,自由チベットの弾圧。1月13日,インドからネパールに戻ったチベット人207人(女性81人)が警察に拘束された。詳細は不明だが,いずれにせよ,これが温首相歓迎のための貢ぎ物であることは明らかである。また,自由チベット弾圧と同時に,ネパール政府が「1つの中国」を繰り返し唱え,中国政府に忠誠を誓っていることはいうまでもない。

暫定憲法に民族自治,包摂参加を高らかに書き込んでいることなど,全く意に介さない。憲法も人権もそっちのけ,自由チベットを弾圧し,「1つの中国」の呪文を唱えなければ,偉大な中国首相にはおいでいただけないのだ。

 拘束されたチベット人(Republica2012-1-14)

3.経済権益の提供
またネパールは,温首相の訪ネを歓迎し,中国の要求する経済権益も,大幅に容認するだろう。
  ・ポカラ空港を国際空港に拡張・・・・1.5億ドル(事業総額,以下同様)
  ・リング道路改良・・・・5千5百万ドル
  ・大規模ダム・水力発電所(3カ所)・・・・37億ドル
  ・パンチカール経済特区設置
  ・ルンビニ開発

どこまで信用できるか分からないが,事業総額80億ドル以上ともいわれている。目もくらむ大金だ。いまや,インフラ整備も教育文化支援も,中国にシフトしつつある。巧みな外交と,有り余る資金の中国。

ネパールは,国際会議においてイザとなれば必ず中国(またはインド)に1票を入れる。決して日本には入れない。これまでもそうだったし,これからはこれまで以上に日本は軽視され無視される。ネパールの友人は中国(またはインド)であって日本ではない。もはや,日本に出番はない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/14 at 16:05

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

Tagged with , , , ,