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エベレスト・トンネルと「新シルクロード経済圏」盟主,中国
AFP,テレグラフ,デイリーメールなど西洋メディアが,チベット鉄道延伸はエベレスト・トンネル経由だと派手に報道し,ヒマラヤンなどネパールメディアや時事など日本メディアが,これを後追いしている。世界最高峰エベレスト(チョモランマ,サガルマータ)の横っ腹をぶち抜き,トンネルを通す! メディアが飛びつきそうなネタだ。が,本当かなぁ?
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最初の報道と思われるAFPの情報源は,おそらく中国日報のこの記事であろう。Zhao Lei,”Rail line aims for Nepal and beyond,” China Daily,2015-04-09. 読んでみると,たしかに紛らわしく不正確な記事だが,少なくとも次のことは読み取れる。
(1)チベット自治区Losang Jamcan議長が3月,ヤダブ大統領に語ったのは,2020年までにチベット鉄道をシガツェから吉隆(Gyirong,Jilong)にまで延伸する計画があるということ。
(2)エベレスト・トンネルについて語ったのは,中国工程院(Academy of Engineering)の鉄道専門家Wang Mengshu氏。
AFP等は,この二つの話しをはっきり区別せず,つないでしまったため,読者は次の(1)または(2),あるいはその両方と受け取ることになってしまった。
(1)チベット鉄道ネパール延伸は,エベレスト・トンネルのコース。
(2)チベット鉄道は2020年までにカトマンズまで延伸される。
しかし,2020年までに延伸されるのは,シガツェから吉隆までであり,ここから先は,そのままトリスリ川沿いに南下しカトマンズまで線路を敷設する方が楽だ。吉隆は国境からわずか35kmほど。経済合理性を考えるなら,中国政府はおそらくこのコースを採用するであろう。
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ところが,である。中国は,目先のカネ儲けに目がくらむような,ケツの穴の小さな資本主義国ではない。かつては万里の長城を築き,いままた「新シルクロード経済圏」の盟主たらんとしている。すべてのロードは北京に通ず。そして,すべてのカネは,いずれ本家「円」(Yuan[CNY],人民元[RMB])を介し「アジアインフラ投資銀行」等を通して流通するようになる。
その21世紀の超大国・中国にとって,チョモランマ=エベレストをぶち抜き,トンネルを通し,五星紅旗はためく中国列車を走らせることほど,相応しく誇らしいことはない。
イギリスはマロリーやヒラリーに英帝国の威信を担わせローテク人力でエベレストを征服させた。ネパール・マオイストは,プラチャンダの息子に赤旗を持たせ,やはりローテク人力でエベレストを征服させようとした。
しかし,本家マオイストは,そんな前近代的な,せこいことはしない。世界最高峰エベレストを中国のカネと技術でぶち抜き,五星紅旗列車を走らせれば,中国こそが,世界最高,最先進,最強国家であることが,明白な具体的事実をもって,日々実証される。
21世紀のエベレスト征服は,まさしくこれをおいて他にはない。中国が,長大トンネル掘削でエベレストを征服すれば,魂も肝も抜かれたエベレストになど,あほらしくて誰もローテク人力で登ったりしなくなるだろう。
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このチベット鉄道エベレスト路線は,つくりごとでも何でもない。以前から,シガツェから先は,吉隆路線だけでなくエベレスト路線も検討されていた。エベレストの真下ではないまでも,その近辺を通り,おそらくは何本かトンネルも掘り,カトマンズにいたる。
このエベレスト路線は,観光面から見て有利な上に,やはり中国にとって魅力的なのは,上述のような政治的価値である。中国政府が,エベレスト(の近く)にトンネルを掘り,五星紅旗列車を走らせるとなれば,中国の威信はいやが上にも上がる。だから,政治的に判断するなら,エベレスト路線優先となるわけだ。むろん,中国の国力からして,吉隆路線とエベレスト路線の両方をつくることも,決して無理ではない。長期的には,そうなる可能性大だ。北京,上海からチベット鉄道でエベレストへ行こう!!
■エベレスト・トンネル線(Dailymail,9 April 2015)/シガツェ-吉隆&Yatung線(Global Times,2014-7-24) )
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このように見るならば,AFP等の記事は,必ずしも全くの誤りという訳ではない。というよりもむしろ,資本主義国ジャーナリズムが,センセーショナルに騒げば騒ぐほど,中国政府は,してやったりと,ほくそ笑むことになる。「新シルクロード経済圏」や「アジアインフラ投資銀行」の願ってもない絶好の宣伝になるからである。
【中国大使館発表】
Qinghai-Tibet railway to reach Nepal in 2020
2015/04/10
China has announced that it will extend the Qinghai-Tibet railway to the border areas with Nepal within the next five years. The railway will stretch out for another 540 kilometers from Xigaze to Jilong county which sits on the border of China and Nepal.
The announcement was made earlier this month during Neapalese President Ram Baran Yadav’s visit to China.
President Yadav applauded the announcement, saying that it fitted into the main aim of his visit which was to promote road and air traffic between Nepal and China.
Nepal has long been expecting that a new Tibetan railway which would extend to the border areas to boost bilateral trade and tourism between the two countries.
Nepal is an important transit point between China and South Asia, and a major chunk of the two countries’ expanding trade has been conducted through Tibet. With this newly announced Xigaze-to-Jilong section of the railway in five years, better road and rail connections could be expected between Nepal and China.
Earlier in March when Chinese President Xi Jinping met with Nepalese President Ram Baran Yadav at the 2015 Boao Forum for Asia in south China’s Hainan province, the Nepalese President said that Nepal will support China’s initiatives of jointly building the Silk Road Economic Belt and 21st-Century Maritime Silk Road as well as the Asian Infrastructure Investment Bank, or AIIB, saying that these are great measures to promote regional connectivity.
Moreover, Nepal also calls for strengthened cooperation between the South Asian Association of Regional Cooperation, or SAARC, and China, in a bid to promote regional interconnectivity and economic development.
(http://www.fmprc.gov.cn/ce/cenp/eng/News/t1253828.htm)
【参照】
ラサ-カトマンズ,道路も鉄道も
青蔵鉄道:シガツェ10月開通,ネパール延伸へ
初夢は鉄路カトマンズ延伸?
青蔵鉄道のルンビニ延伸計画
中国の「シルクロード経済圏」,ネパールも参加
* Zhao Lei,”Rail line aims for Nepal and beyond,” China Daily,2015-04-09
*”TIBET-NEPAL RAILWAY, China may build tunnel under Everest,” AGENCE FRANCE PRESSE,2015-04-09
* “China plans rail tunnel UNDERNEATH Mount Everest,” Dailymail,9 April 2015
* “China-Nepal railway with tunnel under Mount Everest ‘being considered’,” The Telegraph, 09 Apr 2015
*”China may build tunnel under Everest,” Himalayan,2015-04-09
*”China Plans Strategic High-Speed Rail to Nepal Through Mount Everest,” sputniknews.com,2015-04-10
*「「チベット・ネパール鉄道」中国が計画、エベレストにトンネル?」,時事=AFP,2015/04/10
【追補(2021/06/27)】”China-Nepal rail link may go through protected Himalayan park,” South China Morning, Post, 2021/06/26
谷川昌幸(C)
ラサ-カトマンズ,道路も鉄道も
報道によると,中国政府は「ラサ-シガツェ-カトマンズ-ルンビニ」を道路と鉄道で結び,ギロング(Gyirong, Kyirong)の中ネ国境付近に「国際貿易センター(陸港)」ないし「中ネ経済協力ゾーン」を建設する計画のようだ(ekantipur,9 Aug;Republica,31 Jul)。
道路は,カトマンズ-トリスリバザール-ラスワガディ-ギロングであり,ラスワガディーギロング間は10月中にも開通。鉄道は,シガツェ-ギロング間が2020年までに完成予定。中国側の税関,入国管理事務所,警察署等はすでに完成しており,国際貿易センターも秋には開設予定という。
■計画鉄道路線(Global Times,2014-7-24) /計画道路(Nepali Times,2010-2-12)
この方面には行ったことがないので地図で見るだけだが,それでもトリスリ川沿いの道路はかなり出来ており,中国援助による立派な橋も架けられている。中国の勢いなら,道路,鉄道とも実現は難しくなさそうだ。
そこで心配になるのが,一つは,国境問題。グーグル地図を信用するなら,この付近の道路――たぶん中国建設――は,国境線を縫うように走っている。なぜか国境は川ではない。大丈夫かな?
■ラスワガディ水力発電HP / 国境を縫う道路(Google)
それともう一つ。道路や鉄道が開通し,国際貿易センターが開設されると,ギロングは中国進出の前進基地になるのではないか? ネパールの対中輸出はほとんど増えていないのに,中国の対ネ輸出は年10%以上の急増中。中国人入国者の激増は,前述の通りだ。このような経済的・文化的激変が,インドをも巻き込んだ新たな紛争の種になりはしないか?
日本のような島国ではなく,陸続きの国々では,国境をまたぐ道路や鉄道はありふれたものとはいえ,ネパールは激変であり,少々心配である。
谷川昌幸(C)
中国の周辺外交
中央公論8月号に,川島真「ネパールから見た中国の『周辺外交』」が掲載されている。それによると,中国の対ネパール政策は,「相対的に慎重で控え目」であり,「影響力は限定的」だという。
たしかにそうだが,問題は,近年の変化の量と質にあるのではないか? 中国の近年の経済進出はすさまじい。日用雑貨以外にも,たとえば,24日付ロイターによれば,中国は2020年までに,ネパール国境と,ブータン/インド国境まで,青蔵鉄道(チベット鉄道)を延伸する計画だ。
また,ネパール水資源でも,中国はインドと激突しそうだ。近年のこのような激変をどう評価すべきか?
ネパールはインド勢力圏であり,チベット問題への介入さえ防止されれば,それ以上は関与しないという伝統的対ネパール政策を,中国は継続しているのかどうか? ここが,よくわからない。
【追加2014-7-25】(Republica, 2014-7-24)
(1)青蔵鉄道シガツェ線,8月営業開始。
(2)シガツェ~Kuti/Kerung(ネパール国境),シガツェ~Yadung(インド/ブータン国境),2020年延伸予定
谷川昌幸(C)
軽い日本,重い中国
ネパールにとって,日本はますます軽く,中国はますます重くなってきた。たとえば,先日の,ほぼ同時期の木原誠二外務副大臣(Vice-Minister,外務大臣政務官)の訪ネと,バブラム・バタライUCPN-M幹部の訪中の扱い。
1.木原外務副大臣の訪ネ報道
木原外務副大臣の訪ネ(5月7-8日)は,2012年4月の玄葉外務大臣訪ネ以来の日本要人の訪ネであったが,ネパール各紙の扱いはごく控え目であり,ほとんど注目されなかった。
木原副大臣は,大統領,首相,外務大臣などネパール側要人と会談した。また,日本援助事業を視察し,社会・経済開発支援,民主化支援などの継続も確認した。ところが,新聞は,こう報道している。
「(日本大使館の)浜田氏によれば,副大臣は,今回の訪ネにおいて,いかなる二国間援助の約束も,いかなる事業計画への署名もしないという。」(Himalayan, 6 May)
冷めている。あまり期待はされていない。しかも,各紙は,木原副大臣が,ネパールに対し,次期国連安保理非常任理事国選挙において日本を支持することを要請したとも伝えている。つまり,木原副大臣の訪ネは安保理選挙運動のためだ,と見透かされているのだ。
この情況では,ネパールの1票は期待できないのではないか? かつて(2000年8月),日本の安保理入りへの支持を得るため森首相がわざわざ訪ネしたにもかかわらず,ネパールは日本に1票を入れず,中国に恩を売った。ましてや今回は,中国がちょっと動けば,日本への1票は期待薄であろう。
ネパールは,もはや日本をそれほど必要とはしていない。
2.バブラム・バタライUCPN-M幹部の訪中
対照的に,中ネ関係はますます重要となりつつある。両国要人の相互訪問も日常化している。たとえば,木原副大臣訪ネと前後して,バブラム・バタライUCPN-M幹部が訪中した。
バタライ氏は,今回の党大会(5月7日閉会)で中央委員会から離脱し,現在は無役。ところが,その無役のバタライ氏が一私人として家族を連れ訪中すると,中国政府は,要人の公式訪問と同等以上の処遇をもって応えた。
バタライ氏の今回の訪中は,実に興味深いものだ。5月7日,ラサ経由で成都着。成都には,数名の中国共産党要人がわざわざ北京からやってきて,バタライ氏と会談した。共産党四川省書記や成都市長も彼と会談した。
翌8日,バタライ氏はラサに戻り,中国政府要人と会談し,シガツェに移り,そこで1泊。さらに次は,中国政府の手配により,チベット最西部のマナサロワールに行っている(詳細不明)。
この間の一連の会談において,中国側はバタライ氏に対し,チベット問題での協力を要請した。これに対し,バタライ氏は中国側にこう請した。
「ネパールは,中印間の強靱な架け橋となりうる。チベット鉄道をインドにまで延伸し,南北道路をコシ川,ガンダキ川,カルナリ川沿いに建設すべきだ。また,中国はインドと協力してネパールの水力発電事業を推進すべきだ。」(Republica, 8 May)
バタライ氏の発言は,中国に対する要請ではあるが,これは中国側のネパールに対する要請でもある。ネ中両国の利害は,大きく見ると,いまのところ多くの点で一致している。
この観点から,今回のバタライ氏の旅程は実に興味深い。これはどう見ても,単なる私的旅行ではない。政治臭プンプンの,生臭い政治目的旅行といってよいであろう。
■●=カトマンズ,A=ラサ,B=成都,C=シガツェ,D=マナサロワール(Google)
*Republica,7-8 May; Ekantipur,8 May,; Himalayan, 6-7 May; Nepalnews.com, 8 May
谷川昌幸(C)
青蔵鉄道:シガツェ10月開通,ネパール延伸へ
1.新華社の報道
中国は青蔵鉄道の建設を進め,2006年7月,上海-ラサ間(1956km)を開通させた。さらにラサから先,シガツェまでの延伸が,この10月までに完成し,営業を開始するという(新華社3月6日)。
ラサ-シガツェ間は253km,高所で難工事であったはずなのに,2010年着工からわずか4年で完成,中国の強い意思と,圧倒的な底力を見せつけた。ラサ-シガツェ間の列車は120km/hで運行され,2時間で着く。
シガツェは,パンチェン・ラマが住むタシルンポ寺があり,チベット仏教の聖地の一つ。そこに青蔵鉄道が乗り入れる。新華社記事によれば,タシルンポ寺のあるラマ僧はこう語っている。「信心深いチベット人すべての願いは,ラサとシガツェの仏様に礼拝することだ。この鉄道は,その巡礼の旅を安全で快適なものにしてくれる。」
中国は,すでにラサ博物館に次ぐ規模の「シガツェ博物館」を開館(2010年6月)し,また「シガツェ平和空港」も開港(2010年10月)している。さらにそれらに加え,青蔵鉄道が10月までに完成する。新華社記事は,チベットの発展に寄与するとして,それらを高く評価している。
■上海-チベット鉄道/タシルンポ寺(中国チベット鉄道旅行HP)
2.インド・メディアの報道
この青蔵鉄道延伸は,インドでも主要メディアが大きく報道した。むろん,新華社とは対照的に,中国進出への警戒が記事の基調となっている。
「中国は,シッキムのインド国境近くのシガツェまでチベット鉄道路線を延伸したが,これは,兵員と武器を遠隔ヒマラヤ地域で容易に移動させる戦略的能力を,中国軍に与えることになるであろう。」(The Times of India, 6 Mar)
「中国新華社ニュースは,上海-チベット鉄道がチベット・シガツェのパンチェン・ラマの本拠に達することを,その政治的意義を力説しつつ,報道した。」(The Times of India, 6 Mar)
「中国は,チベットで交通インフラの拡充を進めてきたが,これは,中国軍の国境への移動を容易とし,北京を戦略的に有利にするものではないかという懸念が,インドでは高まっている。」(The Times of India, 6 Mar)
「鉄道延伸発表は,中国政府支援の第11代パンチェン・ラマたるギェンツェン・ノルブが全人代開会式に出席しているとき,行われた。・・・・ノルブの選出には疑義が出された。・・・・ダライ・ラマが承認し選出された[先代の]ゲンドゥン・チューキ・ニマは,選出後,行方不明となった。中国政府が拘束しているとみられている。」(The Hindu, 6 Mar)
「中国は,鉄道をシガツェからネパール国境まで延伸する予定。さらに中国側は,建設費を援助し鉄道をネパール国内にまで延伸しようと考えているが,これまでのところ,カトマンズ[ネパール政府]は,インドに配慮し,中国提案には慎重な態度をとっている。」(The Hindu, 6 Mar)
このようにインド側は中国の鉄路南下を警戒しているのだが,しかし,インド側はインド側で鉄路を南方からネパール国内に着々と伸ばしている。インドからすれば,それとこれは話が別らしい。というのも,インドはネパールを勢力圏内と考えており,そこへの中国の進出は侵出であり,インドの脅威に他ならないと感じているからである。
▼中国は軍事援助,インドは鉄道建設
▼青蔵鉄道のルンビニ延伸計画
3.ヤムイモは生き残れるか
ネパールは,建国以来,「二巨石間のヤムイモ(Yam between Two Boulders)」と呼ばれてきた。印中二大国に挟まれ,それを宿命として引き受け,生存を図らざるをえない。
一方におけるグローバル化と他方における中国超大国化。この地政学的激変の中,ネパールは二つの巨石に押しつぶされ,磨り潰されて吸収されてしまうことなく,一つの独立国家として生き残ることが出来るのであろうか?
谷川昌幸(C)
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