ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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国連を敵に回した靖国参拝

1.国連の靖国参拝批判
国連のパン・ギムン(潘基文,Ban Ki-moon)事務総長が,安倍首相の靖国参拝を批判した。事務総長報道官の「声明」によれば,パン事務総長はこう述べている。
 ・「過去から生じる緊張がいまだに(北東アジア)地域を悩ませていることを非常に遺憾に思う」。
 ・「事務総長は一貫して地域の国々に対し、共有する歴史について共通の認識や理解に至るよう促してきた」。
 ・「他者の感情、特に被害者の記憶に敏感であることや、(各国が)相互信頼の構築や連携強化に尽力すること」が必要。
 ・各国の指導者は「特別な責務」を負う。(共同,12月28日)
これは,まずい。日本は,国連,つまりは国際社会を敵に回してしまったのだ。

2.韓国寄りの国連事務総長
むろん,国連も事務総長のパン・ギムン氏も,必ずしも中立公平ではない。パン氏の経歴は以下の通り: 韓国外交部勤務(1970-),外交部国連課長(1980-),駐米総領事(1987-),駐米公使(1992-),外交通商部長官(2004-),国連事務総長(2006-)。

この経歴から見て,パン事務総長が韓国の国益を考えるのは自然な成り行きだ。国連人事では韓国人や身内の優遇をしばしば批判されてきたし,またネパールに関することでも,たとえばプラチャンダの「ルンビニ開発」など,様々な案件においてパン事務総長の韓国寄りがうかがえる。もちろんアメリカともツーカーの仲のはずだ。

3.稚拙で危険な安倍独善外交
しかし,建前はともあれ,外交では,そのようなこともありうることが当然折り込まれている。この国際政治の常識からすると,準備も根回しもない安倍首相の靖国参拝は,独りよがりの愚策中の愚策といってよい。パン事務総長は,米政府の靖国参拝「失望」声明を受け,絶好のチャンスとばかり,国連としての「遺憾」声明を出したのだろう。

これで,日本は米国ばかりか,世界社会をも敵に回してしまった。繰り返すが,国際機関が中立公平でないのは,自明のこと。それを十分考えた上で,最大限国益に沿うような可能な政策を選択するのが,まともな大人の政治家だ。『美しい国へ』の書評で指摘したように,安倍首相は,精神的に自立した大人の政治家ではない。だから,このような幼稚な失敗外交をやるのだ。

いまの日本は,国際連盟脱退(1933-35年)により国際的に孤立し破滅へと転落していった頃と,構図的には,よく似ている。世界のどこにも通用しない独善を,壮挙と錯覚している。このような世界の非常識をヒステリックに叫ぶのが愛国的ともてはやされ始めたら,集団誇大妄想に囚われ,ふたたび取り返しがつかない事態に陥るであろう。

131228b ■The Korea Times(28 Dec.)

4.中国の対日情報戦略
さらにもう一つ,警戒すべきは,パン国連事務総長の「声明」をいち早く最も詳しく伝えたのは,中国メディアだということ。28日付新華社英語版によれば,パン事務総長は,安倍首相の靖国参拝について,こう発言している。

“It is highly regrettable that tensions from the past are still plaguing the region.”
“The secretary-general is aware of the visit by the Prime Minister of Japan to the Yasukuni shrine, as well as of a strong reaction to it by China and the Republic of Korea.”
“The secretary- general has been consistent in urging the countries in the region to come to a common view and understanding of their shared history.”
The UN chief “stresses the need to be sensitive to the feelings of others, especially memory of victims, and focus on building mutual trust and stronger partnership.”(Xinhua 2013-12-28)

このパン事務総長の公式発言を受け,新華社は,こうコメントした。「安倍首相は木曜日,A級戦犯14人を含む戦死者を祀る神社に参拝した。この神社は,日本の過去の軍国主義のシンボルとみられてきた。」(Ibid)

そして,さらにそれに続けて,中国外務報道官の次のような発言を詳しく伝えた。すなわち,安倍首相の靖国参拝は,日本の植民地支配や侵略戦争を正当化し,日本軍国主義に対する国際社会の審判を否定し,戦後の国際社会秩序を覆そうとするものだ,と。

この中国の靖国参拝批判は,韓国や米国そして国連,つまりは日本をのぞく世界社会の靖国参拝批判と大筋において同じであり,安倍首相の参拝弁解よりもはるかに客観的であり説得力がある。

しかも,中国には日本にはない大国的な戦略的思考がある。中国からは,新華社だけでなく,たとえば中国国際放送など,多くのメディアも同趣旨の靖国参拝批判を世界に向け繰り返し流している。まさしく中国発情報の洪水,日本は到底太刀打ちできない。

世界各地の報道を見ると,多くが新華社記事を転載したり引用したりしている。日本発はあっても,たいてい欧米通信社系のものだ。しかも,多くは英語メディアだから,記事へのコメントは,たいてい外国人のものであり,日本人からのものはほとんど無い。見るも無惨な,安倍ニッポン完敗!

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 ■中国国際放送 英語版/日本語版(12月28日)

5.保守主義者の決起を
安倍首相には,パワーポリティックスへの冷徹な認識もなければ,世界世論を味方につけ国益を図るに必要な戦略的思考もない。保守主義は,本来,成熟した現実主義であるはずだ。自民党の保守本流は,いつまで,このような未熟なアマチュア冒険政治を放任しておくつもりなのだろう。手遅れになる前に,決起すべきではないのか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/12/29 at 03:00

天皇元首化vs王制廃止――対比の妙

谷川昌幸(C)

ネパール王制問題は,よそ事ながら,わがことのように切実に感じられる。というのも,次期首相と目される安倍氏が,8月22日,政権公約の骨子を表明し,憲法と教育基本法の改正を最優先課題と宣言したからだ(朝日新聞,8/23)。

1.憲法改正で日本軍を世界展開
ねらいはもちろん,憲法9条を改正し,自衛隊を国軍(皇軍)に格上げし,アメリカと協力してグローバル資本主義秩序を守ること。つまり,アメリカ軍を補完し日本国益を守るため,世界のどこにでも日本軍を展開できるようにすることである。

2.教育基本法改正で愛国心育成
そして,この目的(日本産軍官政複合体の利益)のための国民動員を可能にするのが,教育基本法改正だ。学校で愛国心が教え込まれ,その奥の院の御簾の奥にはもちろん天皇が鎮座している。いくら否定しても,本質的には「忠君愛国」の再来であることは明白だ。

アナクロと侮ってはならない。これはグローバル化日本の現状と重ね合わせると,極めて現実的な政策だ。

日本軍が本格的に海外展開すれば,必ず死傷者が出る。本人も家族も,そして国民も,「世界平和のため」では納得しない。祖国のために命を捧げ,靖国に祀られ,神となり,天皇陛下に頭を下げてもらう。この神話を生涯教育を通して復活させなければ,飽食のこの時代,誰も紛争地に行きはしない。人は,世界平和といった抽象的理念のために生命を捧げたりはしない。生命を捨てさせるには,自分の家族,郷里といった具体的な守るべき対象がいる。その自然な家族愛,郷土愛をかすめ取り,「国益」のため人々を戦わせ,大量に殺してきたのが,近代国家だ。

国家は家族や郷里と違い,人工的な,不自然な制度である。したがって,それを愛させるには,不自然な教育による教化・洗脳や,天皇,靖国神社といった壮大な「現代の神話」が不可欠なのだ。

安倍次期政権は,この国家神話・国家神道を,グローバル化世界で「生き残る」ために,憲法・教育基本法改正により,再興しようとしている。アナクロに見えて,アナクロではない。そこが怖い。

3.「日本人」意識で労働者分断
それともう一つ,この国家神道復活への企ては,国内のグローバル化対策でもある。グローバル競争に「生き残る」ため,労働条件が引き下げられ,日本は格差社会になった。日本=天皇へ向けた「愛国心」涵養により,まず,この格差の痛みを慰撫し,受容させること。祖国=天皇のためなら,喜んで労苦を引き受けよう。

そして,その労苦は「日本人」であることにより,さらに癒される。つまり,グローバル化により,今後,途上国から日本に大量の労働者が入ってくる。たとえば,フィリピン介護士の受け入れなど。企業も外国人労働者受け入れを声高に要求しており,この流れはもはや不可避だ。

こうした外国人労働者に対し,日本人は「日本人」であるということで優位に立ち,優越感を持ちうる。使用者側にとって,日本人労働者と外国人労働者が連帯し,共闘を始めたら一大事。それを防止するのが,「日本人」アイデンティティなのだ。分割統治せよ,ということ。ここでも国家神道復活は,アナクロであるどころか,極めて現実的な政策なのである。

4.途上国ネパールの共和制化
このように,先進国日本で天皇制(君主制)復活強化が図られているのとは逆に,後発途上国ネパールでは,王制から共和制への流れが加速している。これは興味深いコントラストだ。

ネパールの人々が日本のこの保守「反動」の動きを見たら,どう思うだろうか? 日本の遅れにビックリし,軽蔑するか? それとも,世界で最も国民統合の諸条件が整っている先進国日本が,あえていま天皇制復活を目指す理由を注意深く探ってみようとするのであろうか? 他の諸条件が異なるから単純な比較はできないが,現実政治的にも理論的にも面白い課題だ。(もちろん,日本人がネパール共和制論から君主制の持つ本来的危険性を学ぶことも可能だ。)

5.国王国家機関の宣言を
それにしても,ネパールでは王制存廃の瀬戸際に来ているのに,国王や王党派から何の発言もないのは,なぜだろう? もし彼らがダンマリを決め込み,裏で何かをたくらんでいるとすると,これは愚策だ。

以前から指摘しているように,もし国王が王制存続を望むのであれば,国王は世俗の権力や財産を全部断念し,象徴に徹することを自ら宣言するのが最善の策だ。

換言すれば,国王が自ら政教完全分離を宣言し,自分を儀式に専念する国家機関と宣言するのがよい。天皇機関説のネパール版,「国王機関説」だ。

あるいは,国民のアイドルとしての国王と言い換えてもよい。Idleだから,世俗の権力・財産をすべて放棄し,何もしない(idle)。そんな国家機関としてのアイドル国王になるという宣言。

6.人間の弱さと王制
むろん,そんなにまでして,なぜ王制を残す必要があるのか,という反論はありうる。それには,人間は元来不完全な弱いものであり。伝統的な神や国王を否定しても,新たな代替神,代替国王をでっち上げ,歴史に徴するに,大抵後者の方が前者の何倍も危険であった,とだけ答えておこう。

いずれにせよ,民主化は現代の宿命。ネパール国王も,民主化に適応しなければ,生き残れない。このままでは,王制に未来はない。

Written by Tanigawa

2006/08/24 at 10:39