ネパール評論 Nepal Review

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入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (5)

6.大村入管センターの対応
このハニーさんハンスト死の責任は,入管庁「調査報告書(*1)」を見る限り,不当で不合理な出入国管理制度を制定し維持してきた日本政府にある。(出先機関職員個々の根源的な抵抗義務の問題については,別の機会に論じることにする。)

大村入管センターの職員は,規定に従い,サニーさんに対し繰り返し摂食と受診を促した。そして,それでも拒食が続き衰弱が激しくなると,何とか説得し所内診療を受けさせた。

サニーさんを診察した診療室医師(非常勤)は,彼に対し,これ以上拒食を続けると生命が危ないと警告し,センター側には彼を説得して点滴を受けさせるよう指示した。

この医師は,同意なき治療(強制治療)は実施すべきでないという立場をとっており,入管センター側には「衰弱して拒絶意思を明示しなくなった時点で直ちに入院治療させることを指示した」(p49)。

この医師の強制治療否認の立場は医学倫理上広く認められており,大村センター診療室医師(非常勤)9名も近隣の医療機関もすべて,この立場をとっていた。そのため,大村センターは,サニーさんに対する強制治療は実施困難と判断し,担当医師の指示に従うことにしたのである。

むろん大村センターも,拒食については,入管局長通達「拒食中の被収容者への対応について」(2001年11月2日*3)があることは十分承知していた。

この通達によれば,拒食3週間を超えると診療室医師と看守が拒食者に強制治療への移行を伝え,22日目から医師が不要と判断しない限りそれを実施することになっている。また,これ以外に,体重減少10%以上の場合および医師が必要と認めた場合は,強制治療を実施する。ただし,拒食21日を超えても,医師が不必要と判断したときは,強制治療は延期する。さらに,医師が強制治療が必要と判断したにもかかわらず拒食者が強制治療を拒否する場合には,「治療行為実施の最終的な決定は入国者収容所長又は地方入国管理局長の指示による」(2(5))。

回りくどく難解な表現だが,要するに「通達」によれば,強制治療は,(1)医師の必要との判断のもとに実施されるが,(2)それでも,その強制治療が拒否される場合には,入国者収容所長または地方入国管理局長がその実施につき最終決定する,という規定になっている。

大村センターは,この入管局長「通達」の存在を十分承知していながら,なぜかそれを診療室医師には知らせていなかった。この医師の強制治療否認の立場が分かっていたからか,あるいは他の理由からか,そこのところは分からない。いずれにせよ,医師は,たとえ「通達」を知らされても,医学倫理上の立場を変えることはなかったであろうから,「通達」を知らせなかったことそれ自体は特に問題とするには当たらないであろう。

しかしながら,大村センターが「衰弱して拒絶意思を明示しなくなった時点で直ちに入院治療させる」という診療室医師の指示に従ったことは,結果的には失敗し,ハニーさんを飢餓死させることになってしまった。

その意味で,大村センターにハンスト死への結果責任があることは明らかである。大村センターは,ハンスト死防止のため,仮放免への努力を尽くすべきだった。しかしながら,地方出先機関にすぎない大村センターには無期限収容の原則から外れることは難しく,たとえ仮放免の努力をしても,結局は,規定通り診療室医師の指示には従わざるを得ないことになっていたであろう。

むろん,ハンスト死防止のためであれば,強制治療是認の医師や医療機関を他に探すべきであったといえなくもないが,本人の同意なき強制治療は,たとえそれを是認する医師や医療機関が見つけられたとしても,それ自体,きわめて残虐な,とうてい許容されざる拷問に等しい措置である。

大村センターには,ハニーさんハンスト死への責任はあるが,それは仮放免のための努力を尽くさなかったからであり,断じて強制治療を実施しなかったからではない。真に責められるべきは,出先機関たる大村センターではなく,最後の手段としてのハンストに訴えざるをえないような出入国管理政策をとり続けている日本国政府である。

■Bobby Sands Trust HPより

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)
*3 入国管理局長「拒食中の被収容者への対応について」(通達),2001年11月2日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/30 at 11:10

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (4)

5.ハニーさんのハンスト:開始から飢餓死まで
ハニーさんが,大村入管センターで最後のハンストを開始し飢餓死するに至った経緯は,入管庁「調査報告書」および関係報道等によれば,おおよそ次の通り。

[2018年06月]4回目の仮放免請求,不許可。
[2019年01月]大村センター診療室での健康診断を拒否。「日本で子どもが生活しており,子どものためにも自ら帰国することを選ぶことはできません」と看守に述べる。
[2019年02月]健康診断拒否。5月の健康診断も拒否。
[2019年05月30日]ハニーさん,看守に,1週間ほど前から摂食していないと述べ,「約10年間自由がありません。仮放免でも強制送還でもいいので,ここから出してください」と訴える。
[2019年05月31日]大村センター診療室での点滴と採血を拒否。外部病院を受診し,脱水のため点滴を受ける。
[2019年06月01-04日]外部病院で診察,拒食による脱水のため点滴を受ける。
[2019年06月05日]所内,外部のいずれでも,治療を受けないと述べる。
[2019年06月14日]経腸栄養剤,一口服用。
[2019年06月17日]拒食を続けると生命が危険と警告されるが,治療拒否。サニーさん「私は自由になりたいだけだ。病気などないから治療は必要ない。」
[2019年06月18日以降]居室内で横臥。拒食,治療拒否続行。体重測定拒否。水分は時折摂取。
[2019年06月24日]《午前8時53分》血圧127(108)/114(82),脈拍54(35)。体重測定拒否。《午前8時54分》点滴,朝食,薬服用のいずれも拒否。水を約20ml飲む。《午後0時54分》息が荒いと看守が報告。《午後1時16分》血圧・体温とも測定不能。その後,心肺蘇生処置実施。《後1時40分》救急車で甲病院搬送。《午後2時11分》甲病院で死亡確認。

体重の変化(身長171cm)
[2018年10月26日]71kg ⇒[2019年5月30日]60.45kg ⇒[6月5日]61.55kg ⇒[6月17日]50.60kg ⇒[6月25日]46.6kg(司法解剖時)

このようにして,サニーさんは,大村センター看守による拒食確認から26日後,実際には拒食はその数日前から始められているとみられるので拒食開始約1か月後に,「飢餓死」してしまった。

この拒食,つまりハンストがいかに過酷なものであったかは,サニーさんの体重が特に大きな持病もないにもかかわらず,ハンスト開始後急減していることだけを見ても明らかである。

サニーさんの身長は171cm,体重は大村センター収容2年余後の2018年10月26日には71kgであった。それがハンストの繰り返しで半年後には60kg余となり,そして2019年6月25日のハンスト死の時には46.6kgに急減していた。

私自身の体験からも,体重急減がつらいことはよくわかる。私は身長162㎝で,体重は長年,約52kgで安定していたが,家族介護の無理がたたって半年ほどで46㎏にまで急減した。わずか10%ほどの減少にしかすぎないのに,体調は著しく悪化,いつ倒れるかわからないような状態になってしまった。

サニーさんの場合,71kgの体重が半年後には46kg余へと,3割以上も激減した。身長171cmだから,ガリガリに痩せてしまっていたのだろう。死が切迫していることは,この外見からだけでも明らかなのに,大村センターは結局,彼の生命を救うことが出来なかったのである。

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)
*26 「ハンストのナイジェリア人男性が飢餓死するまで 調査報告書を読んだ医師が解説」dailyshincho, 2019/10/08
*34 野村昌二「体重71キロが47キロに…入管収容者の餓死 外国人に人権ないのか?」AERA,2019/11/12
*35 大橋毅「「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」の検討」,2019/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/29 at 09:42

カテゴリー: 社会, 労働, 人権

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