ネパール評論 Nepal Review

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首相選挙,オリ有利だが?

10月10日,スシル・コイララ首相が正式に辞表を提出し,今日(10月11日),次期首相選挙が実施される。議会定数601,現議員総数598(欠員3)。次期首相は,299票以上の多数により選出される。

今回の首相選は,NC=UML=UCPN体制が崩れ,NC対UML=UCPN=RPP-Nの構図となった。
 ■NC候補:スシル・コイララ
 ■UML=UCPN=RPP-N候補:KP・シャルマ・オリ(UML)

UMLのオリは,現行「2015年憲法」推進派であり,対マデシ強硬派,反インド派とみられている。そのオリを,マオイスト(UCPN)が王党派の国民民主党(RPP-N)と手を組み,推薦している。左右ナショナリスト共闘ということであろうか。

議会議席は,UML+UCPN+RPP=291。この3党に加え,他の小政党の多くもオリ支持の見込みなので,オリ当選はほぼ間違いないとみられている。

しかし,王党派(RPP-N)とマオイスト(UCPN)との結託は余りにも不自然だし,反インドへの危惧もあり,UML内でもUCPN内でも,党決定への反発が高まっており,首相選では相当数の造反が出るかもしれない。そうなると,オリ落選ということもない訳ではない。

一方,NCのスシル・コイララ候補は,現状では劣勢である。NC内も割れており,NC=UML=UCPN体制の継続を求めたプルナ・カドカ書記長は,コイララ擁立に抗議し,書記長を辞職してしまった。

しかし,コイララ候補にとって有利なのは,マデシ系諸党が支持してくれそうなこと。36議席をもつ「統一民主マデシ戦線」は,すでにコイララ支持を決めた。他のマデシ系諸党派も,コイララ支持に回る可能性が高い。インドとの関係もあり,こうした支持が急速に広まれば,コイララ再選ということもありうる。

今日の首相選挙は,当初の予想以上に,今後のネパールにとって大きな意味を持つことになりそうである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/11 at 06:01

カテゴリー: インド, 選挙, 憲法

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国家元首のダサイン大祭参加

ネパールは世俗国家(धर्मनिरपेक्ष राज्य)になったが,大統領(राष्ट्रपति)は,依然として,国家元首(मुलुकको राष्ट्रध्यक्ष)としてダサイン大祭に参加している。

今年も,大統領はトゥンディケルでのプルパティ(फूलपाती)国軍パレード(11日)に副大統領,レグミ大臣会議議長(暫定首相),政府高官らを従え,参加した。そして,12日のマハアスタミ(महाअष्टमि)には,これまでと同様,ナクサルバガワティ,ショババガワティ,マイティデビ,バドラカリ,サンカタなどを参拝している。

このように大統領のヒンドゥー教儀式への参加は続いているが,それでも王制時代とは雰囲気が異なる。1990年憲法(第27条1)では,国王は「アーリヤ文化とヒンドゥー教の信奉者(an adherent of Aryan Culture and the Hindu Religion)」であり,ダサイン大祭は国家行事でもあったからである。。世俗国家の元首には,もはやそのような宗教的権威はない。

▼メディアのダサイン祝辞:ekantipur(10/13), Himalayan(10/13) गोरखापत्र(10/11)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/13 at 18:32

カテゴリー: 宗教, 憲法

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コケにされる大統領、天の声は印から

ヤダブ大統領が、諸党合意による首相候補の選出期限を12月22日(土)まで延期した。11月23日の初回から、これで延期4回目。まるでバナナのたたき売りだ。

ネパールの諸政党には、統治の当事者能力がない。王制の頃も、諸政党は同じようなことを繰り返した。仕方なく、国王が天の声を発し、首相を決めた。

ところが、民主化とともに国王の権威が衰弱すると、そっと耳打ちのような介入では効き目がなくなり、介入はあからさまな強権的なものになった。しかし、国王がやむなく強権的な介入をすると、当の諸政党はそしらぬ顔で責任転嫁し、国王専制を非難した。そして、結局は、王制を廃止し、めでたく「完全(絶対)民主制」を実現したのである。

この完全民主制は、完全だから、他に責任を転嫁することはできない。だが、責任をとれないのに責任を引き受けると、どうなるか? 2010-2011年には、諸政党は多数派を形成できず、首相選17回の堂々たる世界記録を達成した。今後100年は破られない、大記録だ。

政党政治の未熟は、いまも同じだが、以前とは状況がかなり変わってきた。以前は、まだ国連や国際社会がネパール民主化に熱意を持ち、あれこれ介入し、圧力をかけていた。ところが、もはや世界社会は、ネパール民主化へのかつてのような関心を失い、冷たく突き放すようになった。

天の声は、もはや国連からも世界社会からも降されない。そこで、結局は、もっとも頼りになる宗主国インドに、天の声を懇願せざるをえないことになったのである。

これは大統領の訪印を見れは明らかである。大統領は、諸党合意首相候補の提出期限を3回も無視され、面目丸つぶれ、権威は地に落ちた。大統領の言うことなど、どの政党もきかない。そこで、大統領は12月24日の訪印を決め、インドの権威を借りて、第4回目の候補提出期限を12月22日に定めたのである。もし22日までに首相候補を提出しなければ、訪印し天の声を聞いてくる、というわけだ。

ネパールは、民主主義の成熟以前に権威の源泉たる国王を廃止してしまったため、結局、それに代わる権威の源泉をインドに求めざるをえなくなった。ナショナリストを自慢しながら、訪米し天の声を聴く某国首相よりはましだが、それでもみっともないことに変わりはないだろう。

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 ■ヤダブ大統領(The Hindu)

[追加]印外相の口先介入(2012-12-22)
インドのクルシド外相が21日、ネパールの挙国一致政府形成問題について、口先介入した。外相は、ヤダブ大統領の努力を評価し、こう述べている(ekantipur, Dec22)。

「ネパール国家元首として、大統領は、すべての党を話し合いのテーブルに着かせるため、最善の努力をしている。」

「ニューデリーにできることは、挙国一致政府を形成し選挙を実施する努力を、精神的・道徳的に(morally)支援することだけだ。」

控え目な表現ながら、24日のヤダブ大統領訪印直前の口先介入であり、これだけでも十分効果がある。天の声は、やはりインド方面から降るのではないか? 大統領訪印後の展開が注目される。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/12/19 at 20:24

大統領か首相か?

Yubaraj Ghimire, “President vs Prime Minister”(Indian Express,30 Jun)によれば,ヤダブ大統領とバブラム・バタライ首相の対立が激化し,ネパール政治の先行きがますます怪しくなってきた。

バブラム首相にとって,第一の関門は,まもなく始まる新年度のための予算策定。首相は1年間の本格予算を目論んでいるが,大統領は3ヶ月の暫定予算とせよと要求している。議会はなく,また諸政党の合意もない現状では,これは大統領の方に理がある。予算が組めなければ,首相は窮地に陥る。

第二の関門は,11月22日予定の総選挙。選挙管理委員の任期は10月までだが,議会はないので新委員の選任はできない。現状では,総選挙はできないということらしい。

この体制危機に対し,コングレスは議会の復活を要求し,マオイストのプラチャンダ議長もこれを支持しているが,しかし制憲議会は無能とされまったく人気がない。復活は無理だという。

また大統領は,首相が辞任し挙国政府をつくるべきだとも主張するが,首相は,もしいま辞職すれば,2005年2月1日(ギャネンドラ国王親政開始)に戻ることになる,と反論する。たしかに,ギャネンドラ元国王はこのところあちこちでプジャをするなど,なかなかお元気だ。首相の危惧することも分からないではない。

結局,どうしたらよいのか? 選挙で選ばれた正統性の源泉たる議会が何も決めないまま消えてしまったため,誰にも確たる正統性はなく,ときとともに混迷は深まるばかりだ。とりあえずは,予算がどうなるか,注視していたい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/07/03 at 20:33

カテゴリー: 議会, 政党

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初代大統領はプラチャンダ?

新憲法玉虫合意がさっそく本領を発揮、大統領制か議院内閣制かでもめ始めた。大統領優位がマオイスト、首相優位がNC,UML。

とくにプラチャンダ議長は、確信的大統領制論者で、16日にも、大統領制要求を明言した。選挙となれば、一番人気はプラチャンダであり、初代大統領としてネパールを統治し、偉大な建国の父として歴史に名声を残すことになるからだ。

さきの4党合意によれば、大統領は国民直接選挙であり、この場合、正統性は議会選出の首相よりも大統領の方が上になる。通常は首相が統治していても、例外状況になれば(ネパールでは例外状況が常態だが)、大統領が決断する。イザというときの大統領の独裁。これは理の当然だ。

プラチャンダは、直感的に、この政治の本質を見抜き、「国民選出大統領は首相以上の行政権を行使する」と、はばかることなく公言したのだ(nepalnews.com, May16)。やはり、われらがプラチャンダは偉い。

マオイスト=プラチャンダが要求する大統領権限は、防衛、外交、連邦・州関係調整。ここからは、非常事態権限、軍隊指揮権、大使任免権などが導き出され、また首相任免権や連邦議会解散権にも及ぶかもしれない。「国家元首(大統領)」と「政府元首(首相)」であれば、例外状況では、国家元首上位は当然であろう。

これに対し、NCやUMLは大統領にそのような権限を与えると反民主的な統治になると批判するが、民主主義はもともと「人民の支配」「人民独裁」であり、人民直接選挙大統領の独裁こそが、もっとも民主的な統治なのだ。

しかし、人民直接選挙大統領に専制化のおそれがないかといえば、そんなことはない。プラチャンダがいかに偉大であれ、いかに愛すべきネアカ政治家であれ、プラチャンダ大統領独裁は一夜にして大統領専制と化しうる。民主主義は、原理的に、これを防止できない。

NCやUMLは、民主主義に民主主義の原理で対抗しようとしているが、そんなことは理論的にも政治的にも無理である。彼らが実際に依拠しているのは、非民主主義的な諸原理である。まったく無自覚であるが、彼らの理屈は保守主義であり貴族主義であり、ときには封建主義である。

いや、国政権限の全くない、国家・国民の統合の象徴としての大統領は、限りなく王制に近い。NCやUMLは、実際には、象徴(儀式)君主制主義者なのだ。これは、恥ずべきことではない。非民主主義的諸原理に依拠しながら、民主主義者と錯覚していることこそが、問題なのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/05/17 at 11:54

カテゴリー: 議会, 憲法, 政党, 民主主義

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カナル首相辞任,暫定首相へ

カナル首相が14日夜,ヤダブ大統領に辞表を提出した。首相は,13日までに挙国政府合意が出来なければ辞任すると明言していた。結局,挙国政府合意は出来ず,期限の1日後,辞任することになった。制憲議会での辞任表明は15日の予定。

1.マオイスト票で首相当選
カナル首相は,統一共産党(UML)議長だが,首相選出は,マオイストの支持による。

2月4日の首相選の得票は,カナル365,ポウデル(NC)122,ガチャダル(MJF)67で,カナルの圧勝。しかし,その365票の内訳は,マオイスト237,UML106,他25であり,マオイスト票で首相に当選したことは明白。困難は当初から予想されていたことであり,その割には,よく頑張ったと言ってよい。

2.次期首相とマオイスト
次の首相は,誰か? これは極言すれば,マオイストが誰を次の首相として認めるか,ということである。制憲議会議席の40%弱を握っているのだから,当然だ。

プラチャンダ議長 議会制民主主義の常識から言えば,マオイスト党首が首相となるべきである。しかし,プラチャンダ議長の場合,すでに一度首相(2008.8-2009.5)となっており,しかも宿敵の国軍=インドの強力な介入で挫折し,2009年5月政権を放り投げた前歴がある。

プラチャンダ議長は,抜群のカリスマ性があり,NC,UML,軍,そしてインドも警戒している。したがって,いまはプラチャンダ議長の首相選出は難しいであろう。

バタライ副議長 マオイスト内の最有力首相候補は,バブラム・バタライ副議長である。マオイスト内穏健派であり,反マオイスト派にも受けはよい。

しかし,その反面,マオイスト急進派からは,親インドとか,ブルジョア的とか,批判されている。マオイストの実力部隊は急進派が握っており,急進派を無視してバタライ副議長を首相とすることも難しい。

マオイスト中間派・NC・UML とすると,マオイストは,プラチャンダ議長やバタライ副議長のような大物ではなく,もう少し抵抗のない穏健中間派を首相とするか,さもなければNCかUMLの誰かを首相とすることになる。

マオイストと既得権益 いずれにせよ,制憲議会の4割弱を握るマオイストにとって,焦る必要はない。何もせず,じっとしていても,権益はマオイストに流れ込む。

ただし,あまり露骨にやると,駐屯地(cantonment)で不自由な生活を強いられている人民解放軍や,米帝ネオ・リベによる生活苦にあえぐ農民・労働者の反発を招く。彼らこそが,マオイストの実力部隊であり,急進派の支持基盤だ。したがって,既得権益維持路線も,いつまでも維持しきれない。やはり,首相選出への努力姿勢を見せ,いつかは首相を選ばなければならない。

3.押しつけ暫定憲法
首相選出難航は,現行暫定憲法の欠陥によるところも大きい。現在の2007年暫定憲法体制は,包摂参加民主主義を原則としている。西洋先進諸国の観念理論家たちが,自国でも実現不可能なようなピカピカの最新憲法理論や民主主義理論をネパールに押しつけ,2007年暫定憲法をつくらせた。押しつけ憲法だ。

西洋諸国の観念理論家たちは,国連諸機関とグルになり,ネパールを新理論の実験台として利用している。面白いであろう。しかし,何も決められない観念的包摂参加民主主義を押しつけられた後発開発途上国ネパールは,たまったものではない。

悪いのは,ネパール人民でも政治家でも政党でもない。偉そうにお節介介入し,ネパール国家を生体実験している西洋先進国である。

4.暫定首相
とにかく,現行2007年暫定憲法では,重要なことは超民主主義的な方法で決めることになっており,つまり何も決められない。次期首相も,前回以上にいつまでたっても決められない恐れがある。

前首相のMK・ネパール氏は,2010年6月辞任から2011年2月まで,暫定首相を務めた。その間,新首相選出選挙を17回(世界新記録)もやり,ようやくカナル氏を選出し,暫定首相を辞任したのだ。

同じことが,カナル首相にも起こるかもしれない。最大政党マオイストは,べつに急いで新首相を選出しなくてもかまわないのだから。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/08/15 at 13:29

マオイスト=UML,7項目密約

マオイストが土壇場で首相選挙を降りUMLカナル議長支持に回ったのは,両党(ないしプラチャンダ派とカナル派)の間で政権担当の密約(取引)が成立したからである。秘密協定だから内容ははっきりしないが,どうやら次のような取り決めらしい(ekantipur, Feb7)。

■マオイスト=UML7項目合意
 1.包摂民主主義により社会主義を実現。
 2.新憲法を制定し,共和制・連邦制を実現。
 3.マオイスト戦闘員からなる独立の部隊を設立。
 4.権力分有。諸政党代表からなる高レベル諮問会議の設立。
 5.共同綱領の制定。
 6.マオイストとUMLが交代で政権運営。
 7.以上に合意し,マオイストはUML首相候補に投票する。

この7項目合意が事実だとすると,プラチャンダ議長の圧勝ということになる。

第一に,社会主義ということは,人民民主主義を目指すということ。多党制とは相容れない。それをカナル首相は呑んだ。

第二に,マオイスト戦闘員だけの部隊を設置することは,マオイストが強く要求してきたこと。実質的に国内2軍隊となり,プラチャンダ議長の権力はむしろ強化される。

第三に,マオイストとUMLが交代で政権を運営すること(政権たらい回し)になれば,実際にはマオイスト優位の体制が出来てしまう。

もしこの密約が維持されれば,カナル首相は形だけで,実権はプラチャンダ議長が握り,マオイスト体制になっていく。しかし,もしUML内反カナル派が抵抗し,そこにNCやマデシ諸派が加勢することになれば,アナーキー状態になってしまう。

いずれにせよ,今後の流れを決するのは,マオイスト戦闘員(人民解放軍)だけの,あるいは彼ら主力の国軍部隊を設置できるかどうかである。減員され1万人前後となっても,それだけの精鋭部隊の実質的指揮権を保有することになれば,プラチャンダ議長の実権は揺るぎないものになるであろう。

もう一つ気になるのが,見え隠れする中国の動き。われらが「人民評論」によると,「新政権は中国の贈り物」だという(People’s Review, Feb8)。マオイストやUML幹部が足繁く訪中していたことは周知の事実。もともと同じイデオロギーを持ち,親中・反印も共通の二大共産党の連立政権であり,中国接近は自然な成り行きである。これをインドや国軍がどこまで許容するか? これも難しい問題である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/02/09 at 09:31