ネパール評論

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最高裁長官解任のネパール,首相無答責の日本(2)

2.安倍首相の政治責任,棚上げ
一方,日本ではいま,森友学園への国有地売却をめぐり,行政権の長たる安倍首相の責任を棚上げにしようとする動きがある。無責任きわまる首相無答責への流れ。

日本国民はつい最近まで,正直・誠実を誇りとし,諸外国からもそれを称賛されてきた。会社では社員が勤務に精励し,顧客との約束を果たすため誠実に努力してきた。役所では,公務員たちが,しばしば融通が利かないとイヤミを言われるほど規則を忠実に守り,国民のために誠実に仕事をしてきた。この規則や約束を守り最大限努力する誠実さこそが,国際社会における日本の評価を高め,日本を急速に発展させ,日本をして世界有数の豊かな国とするに至った最も根源的な文化的要因の一つである。

ところが,その日本の生命線といってもよい誠実さが,このところ急速に失われ始めた。しかも,中小諸組織よりもむしろ有名大企業や国家諸機関から。

記憶に新しいところでは,日産自動車の完成車無資格検査不正,三菱自動車の燃費データ改ざん,神戸製鋼所の製品データ改ざん,東芝会計不正など。いずれも日本の代表的企業であり,にわかには信じられないほどの不誠実さだ。

行政諸機関の不誠実も目に余る。いま問題になっている森友学園への国有地売却においては,財務省が不公正な売却手続きを取り,それを隠すため関係書類を改ざんし,国会に提出した。まだ国会審議も検察捜査も終わってはいないが,朝日新聞報道をきっかけに改ざん以前の文書が確認され公表されたことにより,改ざんはもはや疑いえない事実となった。

近現代国家の官僚制にとって,合理的な規則と文書の尊重は原則中の原則。客観的な合理的規則により割り当てられた職務を遂行し(公私分離主義),その経緯を文書に記録して残し(文書主義),他者や後世の検証・評価に供する。官僚制(行政機関・公務員)が,もしこの大原則への誠実さを失えば,統治への信頼は根本から崩れ,国民生活は危機に瀕する。民主的な「良き統治(good governance)」の崩壊だ!

森友学園国有地売却事件は,まさにこの「良き統治」崩壊の危機であり,関係者の責任は免れないが,現状では責任追及は担当部局の財務省理財局や近畿財務局の関係者にとどまりそうな雲行きだ。

そもそも近畿財務局が国有地売却にあたって森友学園を特別扱いしたのは,安倍首相夫人と学園との親密な関係からして首相夫妻がこの案件のバックにいると考えたからに他ならない。したがって,首相夫妻の具体的な土地売却関与があれば無論のこと,たとえ関係部局職員の「忖度」であったとしても,「忖度」せざるをえないような状況をつくり,あげくは文書改ざんにまで手を付けさせた首相の政治責任は免れない。M・ウェーバーが力説したように,政治は結果責任であり,首相こそが責任を取るべき行政権の長に他ならないからである。

しかしながら,それにもかかわらず,日本政界には,いまのところ安倍首相に引責辞任を迫る大きな動きは見られない。日本の統治(governance)は,企業においても国家においても,深刻な危機に陥っている。

■施政方針演説確認中の安倍首相(官邸FB:1月22日)

3.ガバナンス開発援助の危機
日本の途上国支援は,道路,橋,ダム,空港,港湾などのインフラ建設支援から,法令整備や行政改革,司法近代化などのための開発援助に力点を移してきた。ハードからソフトへ。「良き統治」のためのガバナンス開発援助である。

ところが,企業不正がはびこり,官僚制が合理性を失い,首相ら政治家が当然引き受けるべき政治責任を引き受けようとしないのが今の日本。その「良き統治」を失いつつある日本が,途上国に向かって「良き統治」を説く。まるでマンガ!

「合理的な規則をつくり,誠実にそれを守り職務を遂行しなさい。」
「はい,分かりました。そうします! で,お宅ではどうなっていますか?」

谷川昌幸(C)