ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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ゴビンダ医師のハンスト闘争(16)

5.オリ共産党政権成立とその医学教育政策
(4)政府側反論:民主主義の法と手続きを守れ
オリ内閣や共産党(NCP)の側の反論は,政権側からすれば至極当然ではあるが,民主主義の法と手続きを守れ,の一点張りである。

オリ首相は,プシュパラル追悼記念集会(7月23日)や党本部集会(7月24日)において,こう語った。――野党はゴビンダ医師を政治的に利用し,問題ではないことを問題化し,反動勢力の陰謀に加担しているが,「これは許されざることだ」。ネパールは憲法を最高規範とする連邦民主共和国。すべての問題は,「法の支配([記事ではrule of law,内容的にはrule by law]」を遵守し,民主的議会を通して解決されるべきだ。「民主国では,議会が法律を作るが,コングレス党にはそのような法律を受け入れるつもりがあるのだろうか?」「コングレス党は,われわれに民主主義を教えようなどとすべきではない。政権にあったとき,コングレス党は122人の人民を殺し,何千人もの教員や公務員をクビにしたではないか。」(*1,2,3)

これらの集会には,プラチャンダNCP共同議長も出席していた。彼も,「もし群衆動員ですべてを決めるのなら,議会はいらないではないか。ハンスト要求に政府が応じていたら,秩序なき混乱に陥ってしまうだろう」などと述べ,この件についてはオリ首相を全面的に擁護した。(*4)

閣僚の中では,ラム・B・タパ(バダル)内務大臣が強硬発言を繰り返している。7月3日の代議院において,タパ内相はこう述べた。「民主主義は,[病院,交差点など]いかなる場所でも抗議行動をする権利までも保障してはいない。・・・・われわれはKC医師の意見に敬意を払い,民主的な方法で解決しようとしている。誰も法の上にはいない。KC医師には,民主主義の諸価値を尊重していただきたい。」(*4)

あるいは,Onlinekhabarによれば,タパ内相は,「病院や交差点のような特別の場所での抗議行動は混乱をもたらす。なぜ他の場所を選ばないのか? そんな行動は民主的とは言えない」と述べ,KC医師を「権威主義者」だと批判した。内相の考えは,記事によれば,「民主的政府の行為に対し抗議するのは民主主義それ自体への抗議を意味する,というものであった」。(*4,5)

以上のように,オリ共産党政権は,民主主義の法と手続きの正統性を前面に押し立て,ゴビンダ医師のハンストによる改革諸要求を頭から拒絶しようとしたのである。

■タパ内相(Kantipur TV, 2016/05/25)

*1 “NCP flays NC for siding with Dr KC,” Himalayan, 24 Jul 2018
*2 “Accept democratic procedure, PM Oli urges NC,” Himalayan, 25 Jul 2018
*3 “PM urges main opposition to accept democratic procedure,” Republica, 24 Jul 2018
*4 “Home Minister: Govt hasn’t deprived people of right to protest, but Dr KC is authoritarian,” Onlinekhabar, 4 Jul 2018
*5 “Home Minister vows to address demands of Dr KC through democratic way,” Kathmandu Post, 4 Jul 2018
*6 Bihar Krishna Shrestha, “Saving Nepal’s democracy from its “Democrats,” Telegraphnepal, 22 Jul 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/01/14 at 17:24

キラン=バダルの「新人民戦争」警告

1.新人民戦争
マオイスト反主流派のキラン副議長とバダル書記長が,11月2日付声明において「7項目合意」を全面的に否定し,撤回しなければ,「次の歴史的人民運動の開始」は避けられない,と警告した。一種の最後通牒ともいえる。
  ■和平7項目合意成立,プラチャンダの決断

2.軍統合について
声明は「7項目合意」のほぼ全面否定だが,特に問題にしているのは,第1に,人民解放軍(PLA)の統合方法。

声明は,PLAを個人単位ではなく部隊単位で,また武装解除の丸腰ではなく武装した軍隊として国軍に統合せよと要求している。

統合比率は,国軍65%+PLA35%ではなく,国軍50%+PLA50%とする。

さらに,統合後の任務は,「建設開発,森林警備,産業保安,災害対応」といった建設作業員やガードマンのような仕事ではなく,ちゃんとした軍人としての名誉ある任務とする。

このPLA統合方法については,当初から意見が激しく対立していたが,プラチャンダ=バブラム主流派が国軍要求を呑んだことにより,「7項目合意」として成立した。キラン=バダル反主流派は,その根本のところを全面否定しているのだ。

3.没収財産の返却
第2の問題は,人民戦争中にマオイストが没収した財産の返却。

没収財産がどのくらいあるのか分からないが,人民戦争中,マオイストが地主や高利貸しや他の資産家を襲撃し,土地,建物や他の財産を没収,貧困人民に分配したことは周知の事実だ。(分配と称して,マオイストがピンハネ,横領しているものも多数あるにちがいない。)「7項目合意」では,それらの没収財産を元の所有者に返却し,損害賠償もすることになっている。

「7項目合意」のこの部分を見たとき,これは凄い,「反革命的!」と感動したが,同時に,そんな反革命的に凄いことはできないのではないか,と心配になった。案の定,キラン=バダル反主流派は猛反発し,土地配分を受けている農民らと共に立ち上がる,と警告している。

4.懐柔されるマオイスト主流派?
一方,「反国家的・反人民的合意」(声明)の締結にこぎつけたプラチャンダ=バブラム主流派政府は,帝国主義筋の美味しいご接待で陥落寸前。

PLA統合の重責を担う政府の「軍統合特別委員会(AISC)」の委員5人(過半数)は,米政府のご招待で訪米,「民軍関係訓練」を受けている。カリフォルニアの「陸海軍アカデミー」のプログラムだそうだ。さすがアメリカ,マオイスト統合後のネパール国軍も,ちゃんとリモートコントロールするための手当をしている。

しかも,この米陸海軍「民軍関係訓練」と併行して,プラチャンダ使節団が訪米し,バン国連事務総長と会談,ルンビニ開発支援の言質を取った。オバマ大統領,クリントン国務長官とは,会見したという報道はないので,会えなかったのだろう。しかし,いずれにせよ,大金と巨大利権の大プロジェクトに,マオイスト主流派が,国連=米韓中を引き込んだ,あるいは引き込まれた,ことは確かだ。

ネパールは小国だが,地政学的には,印中の台頭とともにますます重要性が高まってきている。その諸勢力入り乱れての権謀術数の渦中で,ネパール政治がどう動いているのかを見極めるのは至難の業だ。

プラチャンダ議長は,世界を手玉に取っているのか,それとも世界帝国主義勢力に懐柔されているのか? キラン=バダル反主流派とプラチャンダ=バブラム主流派との争いは,譲歩引き出しのための出来レースではないのか? どこまで本気で,どこまでやらせか?
 
いつもながら,摩訶不思議,よく分からない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/18 at 11:50

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