ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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震災救援の複雑な利害関係(11):インド「首相国民救援基金」

インドは関係の最も深い隣国ということもあり,ネパール地震への対応はきわめて早かった。モディ首相は,地震発生直後から関係閣僚らと対応を検討し,積極的に「インド国民だけでなく,あらゆる被災者に最大限の救いの手をさしのべるべきだ」と指示した。直接,ヤダブ大統領とコイララ首相にも電話して救援を申し出,その結果,5時間後にはインドからの救援機がカトマンズに到着した。[a]

そして,4月27日には,モディ首相は率先して「震災被災者救援のため」給与一ヶ月分を「首相国民救援基金(PMNRF: Prime Minister’s National Relief Fund)」に寄付すると発表した。この首相発表は大きく報道され,PMNRFには国会議員や様々な団体,個人が,続々と寄付を申し出た。こうして集まったPMNRFへの救援金は,「国家災害対応部隊(NDRF)」などを通してネパール救援に役立てられている。[b]

インドのネパール地震へのこの迅速な対応は,モディ首相の時機に鋭敏な政治的センスによるところが大きい。

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 ■首相府HP/PMNRF(同HP)

1.首相国民救済基金(PMNRF)
モディ首相が月給を寄付したPMNRFは,ネルー首相が1948年,パキスタンからの避難民救援のために設立した基金だ。現在は,自然災害以外にも,大事故,暴動,特定の疾病などの被災者・患者の救済・救援に使用されている。PMNRFは,所得税法の規定に基づく信託基金(trust)であり,管轄は首相府,基金議長は首相。運営の基本原則は以下の通り(5月28日現在)。[c]

(1)PMNRFは,任意の寄付金のみで運営され,公金は受け入れない。寄付相当額は,所得税法第80G条により全額控除。
(2)使途指定の寄付金は受け入れない。
(3)「PMNRFによる救援はインド国民にのみ与えられる。したがって,外国の国民や外国の災害の救援を対象とする寄付金は,PMNRFでは受け入れない。」

2.PMNRFネパール救援批判
ここで,“あれ?”と不審に思われるのは,当然である。PMNRFが「インド国民」のみを対象としているのであれば,どうしてそれでネパール人被災者の救援ができるのか,と。この問題は,インド各紙もむろん指摘し,批判した。たとえば――

「もしPMNRFが法の規定によりインド国民被災者の救援だけを目的とするのなら,われわれの寄付でネパール国民を救済することはできるのだろうか? ネパールで精力的に活動している国家災害対応部隊(NDRF)は,PMNRFの資金援助を受けている。法的には,これはPMNRFの正規の活動目的からは外れている。救援それ自体を問題にしているのではない。政府がいまなさねばならないのは,PMNRFの活動目的を正式に変更するか,説明をきちんとすることである。」[d]

モディ首相はPMNRF議長だから,PMNRF救援対象がインド国民に限定されていることは十分承知しているはずだ。それにもかかわらず,モディ首相は4月27日,ネパール震災被害者救援のため給与一ヶ月分をPMNRFに寄付した。そして,5月1,2日には,担当者がPMNRFによる救援方針をネパール側に伝えた。[b]

PMNRFの公式HPには,一方で外国救援は対象外とする従来の規定(上記参照)を残したまま,他方ではこう案内されている(5月27日現在)。

「先日の地震で大きな被害が出ている。ネパールへも救助・復興支援の手をさしのべるため,PMNRFに特別口座を開設することが決定された。この寄付申込書による寄付は,ネパール救援・復興に使用される。PMNRFは,個人,団体,財団,企業,協会等からの寄付を受け付けている。寄付金は,第80G条により所得税対象額から全額控除される。」[c]

150529dGrouponによる募金アピール(同HP)

3.二つの説明
いったい,どうしてこのようなことが可能なのか? 一つの説明は,PMNRFは首相府管轄の「信託基金(trust)」であり,首相の裁量で運用方法を変えることができる,というもの[e]。しかし,これはいかにも苦しい。外国は対象外と,はっきり明文規定し,HPにも掲載しているのだから。

もう一つは,根拠を1950年の「インド・ネパール平和友好条約」の以下の規定に求めるもの[b]。

第6条 両国政府は,インドとネパールの近隣友好に鑑み,自国内の相手国国民に対し,自国の産業・経済開発への参加およびそのような開発に関する許可ならびに契約に関し,自国民と同等の処遇(ntional treatment)をする。
 第7条 インド政府とネパール政府は,自国内の相手国国民に対し,居住,財産所有,通商交易,移動に関する権利および同種の他の権利を認めることに同意する。」

要するに,印ネ両国は両国民を自国民と居住,移動,経済活動等において原則同等に扱うということ。しかも印ネ間はパスポート・ビザなしで自由に移動できるオープンボーダーとなっている。

この条約には,印ネ両国が完全な主権と独立を相互に認めるという規定(第1条)もあり,両国は平等のように見える。しかし,実際には,インドは強大国,ネパールは弱小国。インドは,共通の伝統文化を持つ後見国として,ネパール国民を自国民と同じく優しく保護しなければならない。したがって,震災においても,ネパール国民を自国民と同じく救済すべきだということになるわけだ。

150529a■BJP/VHPネパール救援募金(WorldHinduNews,4 May)

4.インド・ナショナリズムとネパール救援
モディ首相も,インドのこの伝統的な対ネ保護政策の立場に立ち,PMNRFによるネパール救援を決め,率先してそれを推進してきたのではないかと思われる。

このことは,モディ首相与党BJPが,地震直後の25日,集会でPMNRFへの寄付を呼びかけ,その後も盛んにネパール救援を訴えていることからも傍証される[e]。「メディアの報道をみると,インドのネパール救援はBJP宣伝の一部のようだ。」[g] また,VHPやシヴ・セーナーなどヒンドゥー保守派も,積極的にネパール救援活動を繰り広げている。[b,h]

インドのヒンドゥー・ナショナリストは,中国をにらみつつ,政治的にネパールを保護下に置き続けようとし,また西洋のキリスト教や世俗主義をにらみつつ,宗教的にネパールのヒンドゥー教を支援しようとしている。

モディ首相が,PMNRFによるネパール救援にいち早く踏み切ったのは,おそらくこのようなインド世論の有り様を直感的に感じ取ったからであろう。モディ首相は,たしかに政治家としてのセンスがよい。

しかしながら,救援を受ける側のネパールとしては,PMNRFにせよ他の形によるにせよ,インドからの救援は感謝しつつも,警戒せざるをえない。「ネパールは,インドの尊大な『ビッグブラザー』のような態度を特に警戒している」[i]。腐れ縁ともいえる印ネ関係だけに,複雑にして難解である。

150514c■微妙な印ネ関係(Unreal Times,2015-04-26より)

【参照資料】
[a]”PM Modi leads from the front in India’s response to Nepal quake,” Hindustan Times,28 Apr 2015.
[b]”PM’s relief fund may extend to Nepal,” The Hindu, 3 May 2015.
[c] Prime Minister’s National Relief Fund (PMNRF)ホームページ,https://pmnrf.gov.in/またはhttp://pmindia.gov.in/en/pms-funds/
[d]Ashish Kumar, “PM’s National Relief Fund Is Meant For Indian Citizens Only. So How Can It Help Nepal?,” http://topyaps.com/donate-but-know-the-clause [2015-05-27]
[e]”HIMALAYAN TRAGEDY,Amid calls to donate to PM’s relief fund, donors uncertain about money going to Nepalis; Donors have been confused by site which says fund is for providing relief only to the citizens of India,” Scroll,30 Apr 2015.
[f]”Delhi BJP Donates Rupees 5 Lakh to the PM Relief Fund for the People of Nepal in This Hour of Grief,” Delhi BJP,25 Apr 2015. http://bjpdelhi.org/articles/press-release/384/press-release-25-04-2015-delhi-state
[g]”Journalists need to be trained to effectively report on disasters,” Ekantipur, 2015/05/05
[h]”Mangaluru: BJP,VHP raise funds for quake victims in Nepal,” 4 May 2015.http://worldhindunews.com/2015050443378/mangaluru-bjp-vhp-raise-funds-for-quake-victims-in-nepal/
[i] Vishal Arora,”Geopolitics Enters Nepal’s Earthquake Relief Efforts: What was behind Nepal’s call this week for foreign teams to leave the country?,” 6 May 2015. http://thediplomat.com/2015/05/geopolitics-enters-nepals-earthquake-relief-efforts/

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/29 at 14:13

カテゴリー: インド, ネパール, 宗教, 中国

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ネパール毛派称賛の目算,モディ首相演説

1.独立記念日演説の雄弁
インドのモディ首相が,8月15日,独立記念日演説をした。さすが神々の超大国,演説は長大で,拾い読みしか出来なかったが,それでもその雄大雄弁には圧倒された。

140820b ■首相演説(官邸HP)

2.大国首相の大国的率直
モディ演説のスゴさは,そのアッケラカンとした率直さに,よく現れている。

まず,自分は主席大臣(Prime Minister)としてではなく,人民の第一の僕(Prime Servant)として話していると語りかけ,人々に本当の「国益」を考え,それぞれが「自分の持ち場で誠実に努力する」ことを訴えかける。「そんなことは知らないよ」「私には関係ないね」といった,広く蔓延している無責任な態度を,国民一人一人が改めなければならない,と。

たとえば,若い娘をもつ親は,強姦(レイプ)を心配し,どこに行く,いつ帰ってくる,着いたらすぐ連絡せよ,などと細々と注意する。ところが,息子については,そんな注意などしはしない。いつ強姦犯になるかもしれないのに,無責任だ。

また,インドでは,男子1000人に対し女子940人しか生まれない。なぜか? 神のせいでは,断じてない! 医者や父母は,生まれるはずの女児を殺すべきではない。あるいは,農民はなぜ自殺するのか? 娘の結婚持参金のための借金が返せないからだ。

さらには,村では,母や姉妹たちは,苦しくても,暗くなるまで用便できない。野外でしか,出来ないからだ。なぜ便所くらい,つくれないのか? 学校でも,女生徒は,便所がないため授業を抜け出さざるをえず,勉強ができない。すべての学校に男女別便所をつくるべきだ。

3.マオイストよ,銃を鋤に!
マオイストになるのも同じこと。無実の人々を殺すマオイストも,人の子だ。親には,息子をテロリストにしてしまった責任がある。マオイストに言いたい。銃ではなく鋤を担え。そうすれば,このインドは血塗られることなく,美しい大地となろう。

140820d140820c ■演説下敷きの国連モニュメント(もとはイザヤ書)

4.ネパール毛派に学べ
「兄弟姉妹たちよ,先日,私はネパールに行った。そこで,私は世界中の人々に向け,こう語った。かつてアショーカ王は戦いの道を選んだが,暴力を目にし,心を入れ替え,仏の道を歩むことにした。ネパールの青年たちも,かつて暴力の道を選んだときがあったが,いまでは,その同じ青年たちが憲法制定を待ち望んでいるのを目にする。いま憲法をつくっているのは,かつて青年たちと行動を共にした人々だ。

また,私はこうも語った。もしネパールが武器から交渉への最善のお手本を示してくれるなら,それは世界中の青年たちを励まし暴力の道の放棄へと導いてくれるだろう,と。

兄弟姉妹たちよ,もし仏陀の国,ネパールが,世界に向けこのようなメッセージを発しているとするなら,なぜ同じことがインドに出来ないのだろうか? われわれは,いまこそ,暴力の道を放棄し,友愛の道をとるべきではないか。」

5.モディ演説の迫力
あまりにも大国的長大さのため,走り読み,飛ばし読みにすぎないが,それでもその迫力には圧倒される。

一国首相たるものが,レッドフォートの晴れがましい独立記念日演説(写真参照)で,強姦(レイプ)や、女児間引きや,結婚持参金自殺や,便所なしの惨めさを告発する!

その一方,モディ首相は,マオイストには高尚にも「銃を鋤に!」と訴えかけ,また経済界に向けては「インドに来て,インドで作れ」,そして世界中で売れ,と繰り返し訴えかける。

見事なコントラストだ。そして,それは,もちろん計算されたものだ。

「兄弟姉妹たちよ,大きなことについて語り,訴えるのは大切なことだが,訴えかけは希望をもたらすものでなければならない。もし希望が実現されないと,社会は落胆と絶望の淵に沈んでしまう。だからこそ,私たち誰にでも実現できる身近なことについて,私は訴えてきたのだ。

兄弟姉妹たちよ,首相がレッドフォートから便所をつくれ,清潔にせよ,と訴えかけるのを聞き,ショックを受けられたにちがいない。私の演説は,物議を醸し,非難されるだろう。が,私には確信がある。私の家は貧しかった。私は貧困を見てきた。貧しい人々も尊敬されるべきだとするなら,それには清潔からこそ始められるべきだからだ。・・・・」

これはレトリックであり,政治家の演説はかくあるべきだ。そこで,ネパール毛派称賛。狙いは何か?

一つは,もちろんインド国内のマオイストら反政府武装闘争派への「ネパール毛派を見習え」という訴え。そして,もう一つは,ネパール和平を称賛することにより,和平過程にお墨付きを与え,まもなく成立するはずの新憲法体制の公然たる後見人となること。

ネパール各紙が,モディ演説に狂喜しているのを見ると,モディ首相の目算どおり,ことは進んでいるようだ。やはり,インドは偉大だ。

140820a ■首相官邸HP

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/08/20 at 14:48

カテゴリー: インド, マオイスト

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印首相訪ネと中国

1.印ネ共同声明
モディ首相が訪ネ(8月3-4日)し,共同声明(8月4日)が発表された。35項目に及ぶ包括的な声明であり,両国の特別の密接な関係がよく見て取れる。国家間というよりは,あえていうならば,むしろ中央政府と地方政府の交渉のような印象さえ受ける。主なものは以下の通り。

[11]1950年平和友好条約の見直し合意。
[12]国境問題解決の重要性の確認。
[14]解放国境悪用や第三国による国土悪用の防止。
[15]インフラ・エネルギー開発のため10億ドルのソフト・クレジット供与。
[16]印首相が,パシュパティ寺院を参拝,白檀2500kg寄進。印政府によるパシュパテ寺院ダルマサラ建設およびパシュパテ地区保存の支援。
[17]ジャナクプル,ルンビニ等の開発支援。
[18]ネパール人学生,専門家のインド留学支援。
[19]パンチェシュワル開発局関係文書署名,甲状腺腫対策事業了解覚書および印ネ放送協力事業了解覚書署名。
[20]上カルナリ水力発電,上マルシャンディ,タマコシ3などの事業促進合意。
[21]マヘンドラナガルのマハカリ川橋梁建設支援合意。
[22]中部丘陵道路建設の検討。
[23]防衛協力の継続。
[26]両国間5鉄道建設等の交通網整備促進。
[28]印・カトマンズ間石油パイプライン建設の検討。
[29]対印貿易赤字解消のための輸入規制緩和の検討。
[30]印経由通行規制緩和合意。
[31]空路規制緩和の検討。
[33]水路の改修検討。

140808■BJP-HP

2.約束は守ると約束
これらの約束について,モディ首相は,帰国後の談話(8月4日)で,「約束は全力で実行し,一つとして反故にしない」と語った。

また,インド人民党(BJP)も,党声明(8月5日)において,「モディ首相の基本姿勢――『ネパール内政不干渉と,要請されたときのみの援助』――は,すべての人びとに受け入れられた」,「モディ首相は,ネパールの大きな期待に応え,二国間関係の新たな出発を成し遂げた」と,手放しで自画自賛した。

140808c

3.ネパール側の冷めた評価
ネパール側でも,表向きモディ首相訪ネへの評価は高いが,その一方,懐疑的な見方も少なくない。

▼大臣が1人も同行しない(Ekantipur,1 Aug)。
▼目玉であった電力取引協定(PTA)と事業開発協定(PDA)の2協定に調印できなかった(Ekantipur, 4 Aug)。
▼10億ドルのソフト・クレジットが,いつ,どのように実施されるか不明(Himalayan,4 Aug)。
▼UML幹部との会談において,モディ首相は,水資源開発協力についてネパールが早く決定しなければ,ネパール側がさらに不利になる,と語った(Ibid)。
▼インドは,首相らが約束しても,官僚が反故にすることが多い。今回はどうか?(Republica,4 Aug)。

印ネ関係は,いわば日常的近所付き合いのようなものであり,そのぶん見方が厳しくなるのはやむをえまい。メディア報道も,モディ首相訪ネ直前と訪ネ中を除けば,ごく控え目。2,3日すぎると,もうほとんど見られず,中国関係の方が大きくハデになった。現金なものだ。

4.中国の勢いと外交力
その中国だが,この間も,ネパールでの動きは華々しかった。7月31日には,カトマンズの中国大使館において,防衛担当官主催の「人民解放軍創設87周年式典」が開催され,ラナ国軍総監ら多数が出席,両国軍の協力関係の促進がうたわれた(新華社8月1日)。

翌8月1日には,中国・ネパール国交樹立59周年式典(ネパール中国協会主催)が開催された。式典では,呉春太大使が,数年で訪ネ中国人は年25万人に達すると語った。ちなみに2010年46,360人,2012年71,861人,2013年89,509人。フライトも,中ネ航空協定により週14便から週56便に大幅増便されている。直接投資額では,周知のように,中国はすでにインドをぬき最大投資国になっている(ekantipur,2 Aug)。

呉春太大使はまた,孔子学院の拡充やタライ方面への事業展開も進めたいと語った。「中国の医療ボランティアは,チトワンのBPコイララ癌病院で働き,ネパール人だけでなく国境を越えて来た人々[つまりインド人]をも治療してきた。」(Telegraph,2 Aug)

140808d ■BPコイララ癌病院

これに応え,ネパール側出席者,たとえばバブラム・バタライ元首相(UCPN)も,経済協力関係の強化を訴え,特にチベット鉄道のシガツェからカトマンズへの延伸を強く要請した。また,この式典でも,出席者が口々に「一つの中国」支持を表明したことはいうまでもない(ekantipur,2 Aug)。

驚いたのは,モディ首相帰国の翌日(8月5日),シンドパルチョーク地滑り被害への李克強首相のお見舞いの言葉が,記事として大きく掲載されたこと(ekantipur,5 Aug)。他の国々も同様のお見舞いをしているはずなのに,メディアでの中国の扱いは別格。

中国の勢い,あるいは外交力は,やはりスゴイといわざるをえない。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/08/08 at 13:54

インド総選挙とネパールと中国

インド総選挙(開票5月16日)で,BJP(人民党)が282議席を獲得し大勝した。インド会議派(INC)は44議席にとどまり,惨敗。

140518a■印総選挙結果(http://www.cnbc.com/id/101678624)

この隣国の総選挙の経過を,ネパールの大手メディア(英語)はほとんど報道してこなかった。開票によりBJPの大勝が判明しても,メディアの扱いはそれほど大きくはない。少し詳しい記事は,AFPや新華社など外国通信社の配信を使って済ませている。まるで,遠い外国の出来事の一つのような,淡泊な扱いだ。

確実視されているBJPモディ政権成立についても,ネパール側の報道は,少ない。各紙は,コイララ首相がモディ氏との協力について語ったとか,パンディ外相が印ネ関係は変わらないだろうと語ったとか,短く伝えるだけ。また,元駐印大使で知印派のLR・バラ―ル氏やBB・タパ氏も,対ネ政策の基本に変化はないだろう,と簡潔に語るにとどめている。大喜びしそうなカマル・タパ氏ですら,これを王政復古のチャンスに利用するそぶりは,今のところまったく見せていない。どの勢力も,「シカト」とまではいわないまでも,そのように見える態度だ。

140518b ■カナルUML議長(UML HP)

これと対照的なのが,中国に関すること。印総選挙のさなか,統一共産党(CPN-UML)のカナル議長が訪中した。20名の大訪中団で,5月6-16日の10日間。この様子は,インドのことなどまったく眼中にないかのように,各紙とも遠慮なく,大胆に報道した。(ほぼ同時期のバブラム・バタライUCPN-M幹部の訪中については,「軽い日本,重い中国」参照)

報道によれば,カナル議長は,李源潮副主席との1時間以上に及ぶ会談において,「一つの中国」を確認した上で,ラサ―シガツェ鉄道のカトマンズ延伸を強く要請した。そして,テレグラフ記事(5月18日)によれば,カナル議長は,こうもいったという。

「中国の鉄道がカトマンズまで延伸されれば,ネパールはこれまでの内陸封鎖(landlocked status)の束縛から解放されるであろう。」

さらにまた,カナル議長によれば李副主席がこういった,とテレグラフは書いている。

「中国は,ネパールの内政に干渉はしないが,しかし,もしネパールの主権が外国勢力により脅かされるようなことがあれば,中国はネパールの側に立つであろう。」

この前か後か分からないが,李副主席は「中国は,ネ印関係の強化を願っている」とも語ったそうだから,李副主席の発言の意図は必ずしもはっきりしないし,またこれはカナル議長からの又聞きだから,この通りの発言があったのかもはっきりしない。

しかし,そうした留保をした上で,もしテレグラフ記事が大筋では間違いないとするなら,カナル議長やテレグラフ,あるいは同趣旨の記事を書いた他紙は,ずいぶん大胆だといってよいだろう。これは,インド総選挙にたいする「シカト」のような態度とは大きく異なる。

インドに対しては,ネパールには,何をしても大丈夫だという,子供のような依存と甘えがまだあるのではないか? しかし,たとえそうだとしても,最近は少々やり過ぎではないか。チベット鉄道延伸にせよ,中国援助のダムや南北道路や国際空港の建設にせよ,慎重に進めないと,BJP中心の強力モディ政権が成立するインドが,堪忍袋の緒を切り,ネパールへの直接介入に踏み切る恐れは十分にある。そして,それを,もし中国が座視しないとするなら・・・・。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/05/18 at 21:05