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パキスタンの対印工作地としてのネパール
ネパールがパキスタンの対印工作基地となっているという非難は,ことあるごとにインド側から繰り返されてきた。地政学的に見れば,誰でもすぐ思いつくことであり,おそらくそうした事実は多かれ少なかれあるのであろう。ダサイン休暇のニュース切れのせいか,そんな記事が目についた。
“Pak Infiltration through Nepal Border Increases,” LINK, 27 Oct.,2012
信憑性は定かではないが,記事によれば,パキスタンは印ネ西部国境を利用し,パキスタン人をインドに移入(潜入)させている。なかには,テロリストも含まれる。
■ネパール経由インド移入パキスタン人
・2007-2010年: 男127人,家族5
・2011年: 男61人,女15人
・2012年(1-10月):男107人,女43人
パキスタン人のインド移入を支援しているのは,パキスタン秘密機関。インド移入者を増やし,内部からインド工作を強化するのが狙いとのこと。
記事によれば,ネパールにはパキスタン軍統合情報局(ISI:Inter-Services Intelligence)やラシュカレトイバ(LeT:Lashkar-e Toiba)のアジト(隠れ家)があり,テロリストや移入者をしばらく匿い,生活に慣れたところで,旅行者としてインドに送り出しているという。
先述のように,こうした情報は秘密機関が関わるものであり,確証はないが,常識的に見て,ありそうな話だ。その限りでは,情報ものの床屋政談の域を出ないが,しかし,ネパールの場合,面白がっているだけでは済まされない。
2001年6月の王族殺害事件には何らかの情報機関が絡んでいたと思われるし,2005年11月の「12項目合意」や2006年春の「人民運動」にも某国情報機関が深く関与していたといわれている。
ネパールには,その地政学的重要さの故に,スパイものであってもフィクションともノンフィクションとも言い切れない,特有の複雑さ,難しさがあるのである。
谷川昌幸(C)
米軍「部隊」ムスタン派遣と「蓮の葉」作戦
1.米軍「部隊」ムスタン派遣の報道
にわかには信じがたい話だが,報道によると,9月中旬,米軍「部隊」がカトマンズに入り,ムスタン方面のチベット国境沿いに展開,活動を始めたという。またゴルカでは,「蓮の葉」作戦開始。事実なら,ネパールは大国介入の泥沼紛争に引き込まれる恐れがある。情報源は,スジャータ・コイララ(コングレス党幹部)とA.シュリバスタバ。
▼ “US Soldiers sneak into Mustang in civilian dress, Sujata reveals,” Telegraph Nepal,n.d.(accessed 2012-10-01).
▼Arun Shrivastava, “US Soldiers in Nepal on China’s Tibet Border, On a Reconnaissance ‘Humanitarian Mission’,” Global Research, September 22, 2012.
以下,詳細なシュリバスタバ記事を中心に,紹介する。ただし,同記事の裏付けはまだとれていない。
2.米軍「人道ミッション」部隊
9月第3週初,65人の米兵がカトマンズに入り,カスキ郡ディクルポカリに移動した。その後,「部隊」はムスタン郡やマナン郡のチベット国境沿いを移動し活動している。65人といえば相当数であり,「部隊」といってよいだろう。(Dhikurpokhari:カスキ郡の千数百戸(約7千人)の町。プラチャンダUCPN-M議長出身地。)
米軍「部隊」の派遣目的は,地域住民の保健衛生の調査であり,「人道ミッション」ということになっている。しかし,もしそうなら,軍人ではなく,文民の保健医療専門家のチームを派遣すべきであろう。
3.先遣偵察隊か?
シュリバスタバによれば「人道ミッション」は偽装であり,米軍「部隊」は,チベット国境沿いの敏感地帯で,地形や補給路,そして住民の動向などを調査することが本当の目的のようである。先遣偵察隊というわけだ。
ネパールのチベット国境沿い付近では,以前から,CIA要員が諜報活動をしているといわれてきた。何人かは,退役後,諜報活動をしたと自ら語っている。
このところ,僧侶の焼身抗議などでチベット情勢が緊張してきている。また,国境付近は,ジャナジャーティ(少数諸民族)運動によりネパール政府の監視も行き届かなくなっている。米軍「部隊」派遣は,そうした状況を捉えての偵察作戦といってよいであろう。
4.欧米の途上国援助の目的
シュリバスタバによれば,もともと欧米の諸機関やNGOなどの途上国援助は,欧米にとって不都合な指導者たちを排除し,混乱を引き起こし,欧米に好都合な体制を作ることを暗黙の目的にしている。
ネパールについても,ジャナジャーティに関するあらゆるデータが,それらの援助機関やNGOあるいはキリスト教会などにより収集され,すべてCIAなどに引き渡されているという。米国は,そうした援助やデータを利用して混乱を引き起こし,介入し,ネパールに地歩を築こうとしているという。
5.「蓮の葉」作戦
この目的のため,米国はゴルカに「蓮の葉」を設置したか,あるいはこれから設置する。はっきりしないが,おそらく,すでに設置されているのだろう。「蓮の葉(lily pad)」とは何か?
▼ David Vine,”Expanding US Empire of Bases: The Lily-Pad Strategy: How the Pentagon Is Quietly Transforming Its Overseas Base Empire and Creating a Dangerous New Way of War,” Frontlines of Revolutionary Struggle, July 15, 2012.
バインのこの記事によれば,「Lily Pad」とは,蛙が獲物を狙って潜んでいる池の水面上にポツリポツリと浮かぶ「蓮の葉」のような,小さな軍事基地のことである。武器・弾薬を備え,ごく限られたスタッフのみが関与する秘密基地。
米軍は,冷戦型大規模基地を縮小し,この21世紀型「蓮の葉」基地の世界ネットワークを拡大している。2000年以降,すでに50カ所に設置されたという。
「蓮の葉」は,秘密裏に展開され,柔軟かつ迅速に事態に対応できる。しかも,単に軍事行動だけでなく,地域の政治や経済に介入し,親米の環境をつくり出していく。
バインによると,このような「蓮の葉」作戦は,特に途上国にとって危険だという。第一に,小規模秘密基地というが,いったん設置されると,ビヒモス(怪獣)となる。第二に,民主化といいつつも,実際には地域の専制や腐敗を助長する。第三に,紛争の平和的解決への意欲をそぎ,世界を軍事化する。
たしかに,バインのいうように,「蓮の葉」作戦は危険である。アメリカが途上国に「蓮の葉」をつくれば,当然,ロシアや中国もそれぞれの「蓮の葉」をつくる。こんなことになれば,草の根からの世界の軍事化は避けられない。
しかも,グローバル化時代の「新しい戦争」に対応するため,「蓮の葉」は地域の政治や経済にも介入する。軍民分離の大原則は否定され,軍民協力による地域の軍事化が止めどもなく進行する。
ネパールにとって,この米軍「蓮の葉」作戦が極めて危険なのは,もし米軍が「蓮の葉」をネパールのあちこちに浮かせるなら,当然,中国も同じことをして対抗するからである。
米国「部隊」が,ムスタン郡やマナン郡で「人道ミッション」として活動し,またゴルカ郡に「蓮の葉」を浮かべたのは,いうまでもなく中国・チベットの動向をにらんでのことである。
そして,もし米国がチベット国境沿いで地域のジャナジャーティ(少数諸民族)に働きかけ親米化しようとするなら,当然,中国も彼らに働きかけ反米・親中としようとするであろう。国内のジャナジャーティ紛争のはずが,そこに米中が介入すると,紛争を激化させ,ついには自分たちでは解決できないほど事態を悪化させ泥沼化させる恐れが多分にある。
ところが,バブラム・バタライ首相は,米国「部隊」の入国・移動・活動を黙認し,また国軍高官を同行させたりしているという。シュリバスタバはこう糾弾する。
「現在の指導者たちや民族連邦主義NGOが安定した民主的政府を実現してくれると期待し黙って待っているのは,ネパール国家国民の自殺だ。欧米諸機関を信用し援助を期待するのは,それ以上に愚かなことだ。」
6.ネパール政治の混乱と外国介入
それにしても,これはいったい全体,どういうことなのであろうか? 偶然の一致というには,できすぎている――
■米国が「蓮の葉」秘密基地を設置したゴルカは,バブラム・バタライ首相の地元。
■米軍「部隊」のカトマンズからの移動先のディクルポカリは,プラチャンダUCPN-M議長の出身地。
谷川昌幸(C)
イスラム協会書記長,暗殺される
26日午後1時半頃,加徳満都で「ネパール・イスラム協会」書記長のファイザル・アフマド氏(35歳,あるいは40ないし41歳)が,バイク2人組に銃殺された。頭,首,胸など全身に十数発の銃弾を受けたとされるから,確実な殺害を意図した白昼の暗殺である。
暗殺現場は,加徳満都のど真ん中,トリチャンドラ校前,ラニポカリ警察署横で,いつも多数の人通りがある。アフマド書記長は,トリチャンドラ校・ラニポカリ署向かいのジャメ・マスジット(イスラム教モスク)での礼拝後,近くの事務所に戻る途中であった。
アフマド書記長は,国際イスラム大学(パキスタン)で経済学,アリガ・イスラム大学(インド)でイスラム学を学び帰国,ネパール・ムスリムの青年リーダーとして頭角を現し,「ネパール・イスラム協会」書記長となり,協会8委員会の一つAl-Hera Associationを担当,イスラム教育に尽力していた。
そのアフマド書記長が,礼拝後,殺害された。これは,常識的に見て,白昼の暗殺であり,「脅し」「見せしめ」と考えざるを得ない。
ジャメ・マスジット。左下が警察署,左上方がトリチャンドラ校(2007.3.26)。
実は,これと瓜二つの事件が,2010年2月7日にもあった。Jamim Shah殺害事件である。ジャミム・シャハ氏は,メディア起業に成功し,スペースタイム・ネットワーク会長,チャンネル・ネパール会長となっていた。そのシャハ氏が2月7日昼過ぎ,車で帰宅途中,ラジンパットの仏大使館近くで,バイク2人組に銃で至近距離から頭や胸を撃たれ,死亡した。確実な殺害を狙った白昼の暗殺といわざるをえない。
ジャミム・シャハ氏は,インド筋から,ISI(パキスタン情報局)の手先と非難されていた。そのため,シャハ氏暗殺にはインドが絡んでいると噂され,事件解明が繰り返し叫ばれてきたが,今のところめどが立っていない。おそらく迷宮入りであろう。
今回のアフマド氏殺害と昨年のシャハ氏殺害は,構図が同じである。加徳満都の人通りの多い表通りで,白昼堂々と,2人組が至近距離から銃を頭や胸に向け発射する。人前で確実に射殺することを意図した政治的・宗教的暗殺であることは明白である。
しかし,ネパールでは,これを明言・公言することはタブーである。誰にも分かっている。しかし,それを明言すれば,大変なことになる。言えないこと,言ってはいけないことなのである。
ここで危惧されるのは,民主化・自由化の別の側面である。以前であれば,タブーへの暗黙の社会的了解があった。むろん非民主的なものだ。ところが,革命成功のおかげで,そうしたタブーが次々と解除され,見聞きしたこと,思ったことをそのまま語ってもよいことになってきた。キリスト教墓地問題もその一つ。革命スローガンの包摂民主主義は,アイデンティティ政治であり,それによれば誰でも自分のアイデンティティを主張してよいし,主張すべきである。もはや暗黙のタブーを恐れ,自分のアイデンティティを曖昧なままにしておく必要はなくなった。
こうした状況の下で,もし力をつけつつあるイスラム社会が,ジャミン・シャハ事件やアフマド事件を政治的・宗教的暗殺と明言し,抗議行動を始めたらどうなるか? 悲惨,凄惨なコミュナル紛争の泥沼にはまりこむことは避けられないだろう。世俗的人民戦争の比ではない。難しい事態だ。
暗殺は昔からあったし,今もある。加徳満都は,各国秘密機関が暗躍する,現代の日本では想像も出来ないほど緊張に満ちた,危険と背中合わせの政治都市なのである。
* Nepalnews.com, Sep.26; eKantipur,Sep.26; Himalayan, Sep.26; republica, Sep.26.
谷川昌幸(C)
マオイスト,パラス元皇太子支持
これだからネパール政治は面白い(少々不謹慎な表現だが)。なんと,われらがネパール共産党毛沢東派(マオイスト)がパラス元皇太子の弁護に回ったのだ。極右=極左共闘!
それも下っ端ではない。マオイスト政治局Kul Prasad K.C.,マオイスト・チトワン代表Anil Sharma,マオイスト・スポークスマンD. Sharmaらが,パラス氏はそんなことはやっていない,と弁護している(Telegraph, Dec 13)。
マオイストによれば,これはインドとNC(コングレス)のでっち上げだという。あるいは,もめ事はあったとしても、他の重要問題を隠すため仕組まれたものであり,パラス氏はむしろネパールの名誉と国益を守ろうとしたのだという。美事な分析だ。プラチャンダ議長のご聖断が待たれる。
こうした王族や国家中枢にかかわる出来事は,なかなか真相が分からない。CIAやRAWの情報がウィキリークスに掲載されるのを待たねばなるまい。あるいは,少なくともPeoples Review報道と比較検証すべきだろう。自衛隊情報なら『朝雲新聞』,共産党情報なら『赤旗』を見るように。
谷川昌幸(C)
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