ネパール評論 Nepal Review

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制憲議会選挙2013(17):ノーサイドなき選挙

(1)マオイストの選挙ボイコット宣言
開票が始まったばかりだというのに,劣勢のマオイスト(UCPN-M)は21日,早々と選挙ボイコットを決め,開票停止を要求,開票所から党立会人を退去させた。この選挙には「陰謀」が働いており,結果は「人民の期待に反するもの」であり,したがって制憲議会がつくられても参加しないという(Republica, Nov.21)。

これに対し,優勢のコングレス(NC)と共産党統一マルクス・レーニン派(UML)は,マオイストを激しく非難,選挙の公平を唱え,結果の受け入れを強く要求している。

一方,反選挙33党連合を主導してきたバイダ派マオイスト(CPN-M)は,開票直後からのこの大混乱を当然と受け止め,33党連合の反選挙運動の正当性を改めて力説し,今後への自信を示した。

マオイスト劣勢は,図らずも選挙前に分裂したマオイスト2派を急接近させることになった。両派マオイストが再統合し,ジャングルに戻ることになれば,ネパール平和構築は元の木阿弥,振り出しに戻ることになる。もっとも,国内外の圧力は強く,マオイスト幹部がいまや「有産階級」となったこともあり,その危険性は,いまのところ,それほど大きくはない。あれこれ駆け引きをしつつも,結局は,マオイストは選挙結果を受け入れざるをえないのではないであろうか。

131122e ■小選挙区開票速報(22日午前)

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 ■市内要所を他党に制圧されたマオイスト。アサン/イカナラヤン付近/インドラチョーク

(2)コングレスの無規律
一方,予想外の好調に,コングレスは21日朝から大はしゃぎ,車やバイクに旗を立て,大音響でプカプカドンドンやりながら,街中を走り回っている。

特にキルティプルは,コングレスのラジェンドラ・クマール・KCが当選,それにUMLのスレンドラ・マナンダールが続き,マオイスト革命英雄プラチャンダたるプシュパカマル・ダハール議長は,まさかの第3位。コングレスが喜ぶのは当然だが,それにしても少々やり過ぎのような気がする。

惨敗した革命英雄陣営の前で,勝利に浮かれ,これ見よがしに大はしゃぎで行進し,投票結果を受け入れよと叫ぶ。こんなことをされては,敗者側は頭に来て,石の一つでも投げてやりたくなる。そして,もし本当に石でも投げたら,たちまち興奮した両派の大乱闘となり,止めようがなくなる。

それをおそれ,治安部隊が多数出動し,要所を警戒している。まるで戒厳令下のようだが,たとえどのように警戒しても,興奮した群衆に火がつけば,もはや止めようがない。今日のキルティプル外周道路では,そのような恐怖を覚えた。

コングレスは,もっとも由緒ある政党なのだから,もう少し大人の振る舞いを身につけてほしい。といっても,敗者へのいたわりとか惻隠の情といった,日本的なウェットな感情を引き合いに出して批判しているのではない。ネパールの選挙に不足しているのは,それとは全く異質のドライなフェアプレーとノーサイドの精神である。

フェアプレーとノーサイドは,世界に冠たる政治的国民の英米が誇る精神である。他のものは別として,これは文句なしに賞賛すべき精神であり,特にネパールは是が非でもこれを学び取る必要がある。

すなわち,いったんゲームを始めたら,勝利を目指して,共通のルールの下でフェアに,全力で最大限戦うが,ゲームが終われば,敵味方なしのノーサイド。勝敗は厳然としてあり,その結果は誰もが認めなければならないが,ゲーム終了=ノーサイドとなれば,両者とも全力で戦った者として健闘をたたえ合い,尊敬し合う。

選挙は,政治的ゲームの典型であり,いわば政治のスポーツ。要するに「遊び」だ。政治の場で,真剣に全力で戦うゲーム,それが選挙だ。選挙に,フェアプレーとノーサイドの精神が不可欠なのは当然だろう。

このフェアプレーとノーサイドの精神をどう育成するか? 投票箱や投票用紙,選管用コンピュータや四駆車――そんなものの援助より,ラグビー普及支援の方が早道かもしれない。

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 ■キルティプル門前広場のNC集会(21日朝)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/22 at 13:21

制憲議会選挙2013(9):Bullet or Ballot

現在,ネパール政府(国家安全保障会議)は,選挙実施のため,軍隊,武装警察,警察の総動員態勢をとっている。
   軍   隊: 6万2千人
   武装警察: 2万9千人
   警   察: 4万5千人
   臨時警官: 4万5千人
        計 18万1千人

選挙集会や行進に爆弾が投げられ,反対派に棍棒や投石で攻撃され,立候補者や運動員が拉致されたりするのだから,軍隊や警察による厳重警戒はやむをえないとはいえる。国際社会も,それを強く支持している。

しかし,銃下の投票は,やはり異常である。健康な「平和ぼけ」の日本人は,本物の銃など見たこともないので,小銃を構えた兵士や警官に出くわすと,ギョッとし,心臓が止まりそうになる。このような「平和ぼけ」を正常とすると,ネパールの選挙は,どう見ても異常である。

 Ballot or Bullet! 投票か弾丸か!

これは,参政権なき被抑圧人民が唱えるときは,まだしも健全である。しかし,体制側が,危険性に無自覚に,その正義を大上段に唱え始めるときは,警戒を要する。

マオイストは「銃口から革命が生まれる」という毛沢東思想を掲げて人民戦争を戦い,王政旧体制を打倒した。そして,体制側となると,今度は他の体制派諸党と手を組み,西洋選挙民主主義者の積極的支援も得て,体制正統化のため選挙を実施しようとしている。今度は「銃口から投票が生まれる」のだ。

むろん,いかなる体制も何らかの「暴力装置」により最終的には担保されている。日本では,健康な「平和ぼけ」とは全く別の,脳天気な「平和ぼけ」が蔓延していて,自衛隊を「暴力装置」と呼ぼうものなら,「国賊」と罵られ,あげくは銃口さえ向けられかねない。軍隊や警察が国家の「暴力装置」たることは常識なのに,その常識を暴力により封じ込めようとする度し難い自己矛盾,非常識!

西洋諸国も日本も,その選挙は「暴力装置」により安全保障されている。その限りではネパールも全く同じなのだが,それでも,こう露骨だと,肝心の選挙の正統性に疑念が生じざるをえない。「銃口から投票を生み出す」ことの危険性を,とくに西洋の選挙民主主義者は,つねに自覚していなければならない。

さてそこで,反体制33党連合の選挙粉砕バンダだが,第1日目の11月11日は,カトマンズ市内を見た限りでは,8割程度の実施状況であった。バスやタクシー,それにバイクは,かなり少ないものの,どこでも走っていた。店舗は,表通りはほぼ閉じていたが,裏通りで1/3くらい,観光地ではほぼ通常通り営業していた。

いつもなら街角にたむろしてバンダ破りを見張り,攻撃するバンダ実施派の人々も,見て回った限りでは,どこにもいなかった。全体に規制は緩い感じ。政府が公共交通機関のバンダ襲撃被害の補償を宣言しているし,主要政党や経済界,市民社会諸団体もバンダ宣言無視を繰り返し宣言している。この情勢では,バンダ継続は難しいのではないだろうか。(ただし,バンダ中の移動が危険なことは言うまでもない。地域差も大きい。)

選挙との関係については,バンダそのものよりも,むしろ劣勢を伝えられるマオイストが,バイダ派中心の33党連合の反選挙バンダを口実にして選挙延期に回る可能性の方が大きい。マオイストにとって,選挙敗北となれば,失うものが多すぎるからだ。最大限の現状維持こそ,マオイストの党利党略であろう。

投票所入場券配付は投票日直前の17日というドタバタ。バンダ以外にも選挙延期の理由は,いくらでもある。

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■旧王宮入口のバンダ閉店/ヤンガル付近の営業商店と警戒警官

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■小銃武装兵(警官?,郵便局付近)/警察警戒車両(郵便局付近)

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■ニューロード入口/ラトナ公園バス停

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■アサン占拠のNCと警戒警官(車内)/ジャタNC選挙集会

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/12 at 16:00

極左・極右共闘へ:CPN-MとRPP

極左派の共産党毛派(CPN-M)が,極右派のギャネンドラ元国王・国民民主党(RPP)に接近し,主流派(UCPN-M,NC,CPN-MUL)に対する共闘を呼びかけ始めた。日本と同様,極左と極右は,磁石の両極のように引き合うものらしい。

130725b ■「国王」フェイスブック

1.CPN-M,元国王へ共闘呼びかけ
バイダ(キラン)CPN-M議長は,こう述べている。

「この国の主権と国民統合を守るため,元国王をはじめナショナリストと協力することが必要となった。」

「元国王が,われわれのナショナリズム強化闘争に参加するというのであれば,歓迎するが,われわれの共和制・世俗制・連邦制政策については譲歩するつもりはない。」(Telegraph, Access:Jul.24)

この考えは,CPN-Mの他の幹部,たとえばNB.チャンド(ビブラブ)らも表明している。CPN-Mは,すでに元国王側と接触しているという(Ibid)。

バイダCPN-M議長は,つい先日,印外相訪ネにあてつけ,前夜に中国に発ち,中国高官と懇ろに会談してきたばかり。バイダ議長は,ネパール内政については何も言われていない,中国にはネパール内政干渉の意思なし,といっているが,果たしてどうか? もともと中国と歴代国王は仲良しだったのだ。

2.NC内の王制懐旧感情
王制への懐旧感情は,コングレス党(NC)内にも生まれつつある。BP.コイララの息子でNC幹部のシャシャンク・コイララ(Shashank Koirala)は,BBCインタビュー(7月19日)において,こう述べている。

「王制を廃止し共和制にしたのは,大きな誤りであった。2006年,人民が抗議のため街頭に出たとき,事態を統制しうるBPのような指導者は1人もいなかった。世俗制と連邦制をほとんどの政党が考えてはいたが,政策として明確に共和制国家を掲げていたのは,マオイストだけだった。王制廃止は,マオイスト側から出されたものだった。」(Nepali Times, Jul.21)

3.RPPの王制ナショナリズムの訴え
このようなCPN-MのラブコールやNC内の王制懐旧感情の高まりは,王制派にとっては,もちろん大歓迎だ。カマル・タパ国民民主党(RPP)議長は,こう述べている。

「BP.コイララの息子でコングレス党幹部のシャシャンク・コイララは,王制廃止は失敗だったと語り,またCPN-M幹部たちも元国王とナショナリスト諸勢力はネパール・ナショナリズム強化のため協力すべきだと述べたが,これらはいずれも評価されるべき発言である。」(Republica,Jul.23)

4.UCPN-Mの反撃
元国王を担ぎ出そうとするCPN-MやRPPの動きに対し,最も激しく反発しているのは,統一共産党毛派(UCPN-M)である。前首相でUCPN-M序列2位のバブラム・バタライ中央委員(先日,副議長辞任)は,こう述べている。

「CPN-Mは,ギャネンドラの手先にすぎない。革命のためといって王制派と手を組むのは,自殺行為だ。」(Himalayan,Jul.23)

あるいは,ギャネンドラ元国王が極西部諸郡で行っている洪水被害者救援活動についても,バタライ中央委員は,怒りを抑えきれず,「逮捕してしまえ」とまで主張している。

「洪水被害住民へのギャネンドラの救援活動は,扇動であり,選挙を妨害するための策略である。在任中なら,彼を投獄していただろう。(彼の地方歴訪は)1990年憲法を復活させること・・・・(が目的である)。」(Himalayan,Jul.23)

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 ■洪水被害救援をしている王族NGO「Himani Trust」

5.王制復古の可能性
2006年革命後の共和国政党政治の「失敗」により,革命以前の1990年憲法体制の再評価の機運が少しずつ高まりつつある。

しかし,いまのところ,その動きは最左翼のCPN-Mと最右翼のRPPの結託,あるいはより直截的に言うならば「野合」で進められており,その限りでは成功の可能性は少ない。

しかしながら,S.コイララのような考え方がNCやUMLの中に広まっていくなら,王制復古もあり得ないことではない。投票で王制を廃止したのだから,投票で王制復古を決めてもよいわけだ。またまた,世界が,アッと驚くであろうが。

谷川昌幸(C)

バブラム・バタライ,名誉職の不名誉な駆け引き

統一共産党毛派(UCPN-M)の副議長辞任を表明したバブラム・バタライが,党の名誉職(党長老)を引き受けてもよいと言っている。コングレスのSB・デウバとほぼ同様の地位。党序列2位ながら,党運営権限なし。

しかし,その一方,バタライは,議長と中央委員以外の役職・組織は廃止し,これにより党内対立を根絶せよ,とも要求している。もしこの提案通り党組織が改編されれば,副議長のNK・シュレスタや書記長のボガティは役職を失い,中央委員降格となる。自分は名誉職でいいよ,といいつつも,ちゃっかり計算している。ドロドロの党内権力闘争。

他方,マオイスト本家から分家したモハン・バイダ(キラン)CPN-M議長は,クルシード印外相訪ネ前夜に訪中し,親印派に親中を見せつけた。ところが,テレグラフ(7月17日)によれば,親印NCのスシル・コイララ議長は16日,楊厚蘭駐ネ中国大使と会談し,CA選挙に出るようバイダ議長を説得して欲しいと大使に頼んだのだそうだ。コイララ議長自身が,NEFINとの会合でこの話をしたというから,本当なのだろう。

親印のコングレス議長が,印とは犬猿の仲の中国の大使に,親中CPN-MのCA選挙参加説得を依頼する。内政干渉の依頼? 

と,かくもネパール諸政党は,政党政治の理念から遠ざかり,複雑怪奇なズブズブの権力闘争にはまり込んだ。その意味でも,CA選挙は注目される。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/18 at 19:29

プラチャンダ,バイダとの連携も

プラチャンダUCPN議長が,分離独立したバイダCPN-M議長との連携も視野に入れていることを明らかにした。

この興味深い情報を伝えているのが,例の「赤星」。マオイスト急進派の準機関紙だったのに,一転,プラチャンダ議長よりも柔らか~くなった。

この紙面をご覧いただきたい。世俗主義など素知らぬ顔で,クリシュナ神生誕祭の図を大きく掲げ,その右下に上記プラチャンダ議長発言を掲載している。

 The Redstar, 10 Aug.

さすが八百万のヒンズーの神々の国,仏様の国。ここでは,毛沢東主義といえども融通無碍,変幻自在だ。

昨日,CPN-Mは,UCPN(およびNC,UML)と対決するため,他の9政党と連携し「ネパール連邦人民共和国戦線」を結成した。しかし,それはそれ。「赤星」記事のごとく,喧嘩相手のUCPN(プラチャンダ議長)との連携だって,あり得ないことではない。

練達の政治だ。実に興味深い。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/11 at 11:02

カテゴリー: マオイスト, 政党

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