ネパール評論

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動物の「人道的」供犠:動物愛護の偽善と倒錯

谷川昌幸(C)
5年に一度のガディマイ祭が始まり,動物供犠が盛大に行われている。初日の24日には,水牛1万6千頭をはじめ,野ねずみ,鳩,雄鶏,アヒル,子羊,豚などが,ガディマイ女神に捧げられた。想像を絶する供犠だ。誰しもその凄まじい情景に慄然とし,畏怖せざるをえないだろう。
 
動物愛護団体は,もちろんカンカンに怒っている。ラビ・タパ氏はこう主張する――「動物は人道的に(humane)に扱うべきだ。殺すのも苦痛なく人道的にできるはずだ。」
 
Humaneの語源がhuman(人間の)だとすると,これは滑稽なまでに倒錯した偽善といわざるをえない。動物を動物らしく扱い,殺すのであれば,動物の尊厳の尊重になる。ところが,動物愛護団体は,動物を「人間的に」,「人道的に」扱い,動物の「人権」を守れ,と主張しているのだ。
 
タパ氏は,人間は動物を殺して食べざるをえないし,キリスト教徒は感謝祭に無数の七面鳥を殺して食べ神に感謝しているということを正当にも認めている。そして,それらを認めた上で,動物を殺す際,「野蛮な(barbaric)」殺し方は止めるべきだ,と主張されるのである。
 
この議論にも,理がまったく無いわけではない。国際人道法は,戦時の人殺しを認めているが,残虐な殺し方は禁止している。敵を殺してもよいが,合理的・能率的で,つまり近代的で清潔な,苦痛の少ない「人道的な」殺し方をせよ,と命じているのだ。とんでもない偽善だが,それでも残虐に殺されるよりはましである。戦争が,近代的,効率的となり,清潔になり,野蛮さが軽減され,「人道的」になるからである。近代文明の本質は死を隠すことにある。
 
しかし,この理屈は,人間文明の外にいる動物にも当てはまるか?
 
動物の側からすれば,どのような殺され方をしようが,トラに喰われようが,人間に喰われようが,同じことである。苦しさからいえば,餓え死や病死の方がはるかに苦しいであろう。しかし,どんなに苦しかろうが,どのような殺され方,死に方をしようが,それは動物自身にとっては自然現象であり,宿命として受け入れざるをえないのである。
 
動物の苦しみや死を見たくないのは,動物自身ではなく(生存本能により仲間の死苦を忌避することはあるが),人間の側である。動物の側からすれば,清潔な処理工場で人知れず機械的に殺され,解体処理され,人間に喰われるよりも,死の苦しみを喰う人間に見つめられながら殺される方が,本望であろう。少なくとも自分たちの死の意味を人間たちに思い知らせることができるからだ。
 
動物を「人道的に」殺すことは,決して動物の生命の尊重にはならない。それは,「動物の人権」といった倒錯した人間の自己欺瞞を助長するだけだ。動物を合理的・機械的に処理し,彼らの死苦を見ることなく,平然とそれを喰う。それこそ冷血であり,卑怯であり,動物にとっては残酷なことである。
 
動物を殺すのであれば,その死苦をしかと見とどけつつ殺し,喰うべきだ。そして,その人間生存の原罪の重さを自分だけで引き受けられないのであれば,女神様に救いを求めるのもやむを得ない。神頼みであれ,動物たちの死を見ないよりは,人間の罪ははるかに軽い。
 
もちろん,他の生命を奪うことなく生きている「バラの仏陀少年」のような聖人なら,ガディマイ女神への動物供犠を正当に非難することができる。彼は,6ヶ月間,食物も水も摂らず,木の根元の祠で瞑想し続けた。彼は,神のために「動物を殺すべきではない」と説いている。彼自身が,6ヶ月間,食物を摂らず,その後もおそらく何も食べずに生きてきたからだ。
 
しかし,「バラの仏陀少年」のように飲み食いせず生きる覚悟のない衆生は,殺される動物のためにも,動物の死をできる限り直視する努力をすべきなのだ。
 
■参照
"Gadhimai fest begins in Bara, thousands of animals sacrificed on first day," eKantipur, Nov24.
Rabi Thapa, "Animal fights: we can make God’s work a little less barbaric," Nepali Times, #477
"Stop the slaughter: Gadhimai attracts international attention," Nepali Times, #475.
Arun Gupto, "Animal symbolism, " Republica, Nov25.
 

 140121 ■Animal Nepal

Written by Tanigawa

2009/11/26 at 11:01

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