ネパール評論

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UNMINはマオイストの金蔓だ,ネパール首相

ネパールの非マオイスト政治家・知識人らが,ランドグレンUNMIN代表の安保理発言(1月5日)に対し,烈火のごとく怒っている。たとえば,マダブクマール・ネパール首相は1月7日,こう罵倒した――

「UNMINはマオイストの金蔓になった。・・・・だからマオイストはUNMIN任期延長を願うのだ。・・・・UNMIN撤退で天が落ちるようなことはない。・・・・われらは自らの手で平和と憲法制定を実現できる。」(ekantipur, 7 Jan)

すさまじい怒りだ。一国の首相の言葉とは信じられないくらいだ。国連ネパール代表のギャンチャンドラ・アチャルヤも1月6日,こう非難した――

「[マオイスト人民蜂起や大統領統治あるいは軍クーデターの可能性があるというランドグレン代表の]説明には,何の根拠もない。ネパール政府はそのような分析や評価を全面的に拒否する。」(ekantipur, 7 Jan)

ネパール政府が,自分たちでやれるからUNMINは出て行け,と要求するのに対し,ランドグレン代表は,いやいや,ネパール政治は未熟でまだ自立できない,UNMIN任務は未達成であり,したがって国連関与がまだまだ必要だ,と主張する。

妙なことになってきた。ランドグレン代表は実質的には自らUNMINの失敗を認め,だからUNMIN任期延長か,それが無理なら看板を変えただけの国連監視機関の設置が必要だ,と主張する。彼女は,現状ではUNMIN管理下のPLA資料・武器弾薬・施設や宿営所運営監視権限をネパール政府には引き渡さないと明言しているから,いやでもUNMINか別名の国連機関が居残ることになるわけだ。そう彼女は要求していることになる。

ここに,ランドグレン代表とマオイストとの共闘ないし共犯関係が成立する。UNMINは停戦後平和構築に失敗したから,成功するまで(つまり半永続的に)ネパールに居残りたい,というのが,おそらく本音だろう。一方,マオイストも,ネパール首相が「UNMINはマオイストの金蔓だ」と喝破したことを,内心では,シカリ,その通りと認め,金蔓UNMINにいつまでも居残ってほしいと願っているようだ。ランドグレン代表は安保理でこんなことまで言っている――

「新政府の構築,マオイスト兵の国軍統合・社会復帰,新憲法の制定という最重要課題については,これまでほとんど進展がない。・・・・本日,UNMIN任期終了10日前の今でも,UNMINがその監視任務を引き渡すことのできるメカニズムは存在しない。UNMIN撤退後,何が起こるか分からない。・・・・UNMIN撤退が無法状態を生み出すおそれがある。」(Telegraph, 7 Jan)

正直というか,無責任というか,驚くべき発言だ。むしろ“私は停戦後平和構築に失敗したので,責任をとって辞任します”というべきではなかったか。

ネパールの政治家たちは実にしたたかだ。UNMINは,老練ネパール政治に翻弄され,さんざん搾り取られ,非難罵声を浴び,撤退していく。いや,撤退すら許されず,さらに搾り取られることになるかもしれない。酷な評価だが,テレグラフが次の言葉を記事の結びとしたのもやむをえないかもしれない。

「ランドグレンは,ネパール撤退(ouster)を屈辱の追放(ouster)と感じていると思う。」(Telegraph, 7 Jan)

(Telegraph, 7 Jan)

(注)UNMIN関連記事一覧は,右の「検索」かタグでご覧ください。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/08 at 12:56

PLA無条件引き渡し拒否,UNMIN代表

ランドグレンUNMIN代表が1月6日,政府とマオイストの合意が成立しなければ,停戦監視関係資料・武器弾薬・施設を政府に引き渡すことはしない,と宣言した。

ネパール政府は12月31日,UNMINは「特別委員会」(ネパール政府)に一切合切引き渡し,さっさと出ていけ,といった趣旨の書簡を国連に提出していた。ランドグレン代表発言は,これへの反論であり,UNMINは人民解放軍(PLA)を政府(UML,NC)に無条件引き渡しはしない,と明言したわけだ。

ランドグレン代表は,ネパール政府国連宛書簡について,「この書簡が特別委員会での合意を反映しておらず,暫定憲法からも大きく逸脱するものであることは明白である」と政府を激しく非難し,そして「UNMINは合意に基づく後継メカニズムを全面的に支援する用意がある」と約束している。

さらに,こうも語っている。ネパールには,マオイスト人民蜂起のおそれに加え,「副大統領が最近求めたような大統領統治のおそれや,国軍クーデターのおそれもあった。そうなれば,平和とネパールの虚弱民主主義は危機に陥っていたであろう。」

まるでマオイスト応援団のような感じがする。そうしなければ,いまの停戦が崩壊するからであろうが,ここにもUNMIN(国連)の立場の難しさがよく現れている。

これはUNMIN評価にかかわることでもある。ランドグレン代表は「UNMINは4年の任務を終了しネパールを去るが,その活動は国連の誇りというべきであろう」と自画自賛している。たしかに,国連・UNMINが人民戦争停戦実現に果たした役割は大きく,これは高く評価されるべきだが,その一方,この段階での撤退に追い込まれたことは,停戦後平和構築には失敗したと見ざるを得ないだろう。

安保理では,ネパール政府のギャンチャンドラ・アチャルヤ代表も,UNMINの貢献を讃えた。が,その一方,ネパール政府はUNMINの任務を「特別委員会」に引き継がせる,ときちんと釘を刺している。UNMINは不要だ,と安保理で明言したわけだ。

こうなっては,UNMIN存続はもはや無理であろう。国連はUNMINの後始末をどうつけるか? これは難しい。

* “No arms Handover Sans Accord: Landgren,” Republica, 6 Jan 2011

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/07 at 12:37

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