ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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包摂民主主義の訴え,米大使(3)

テプリッツ駐ネ米大使が,こうした観点から,国交70周年メッセージにおいて厳しく批判しているのが,起草中の新しい「社会福祉開発法」。それは,民主主義に不可欠の市民社会諸組織(CSOs: Civil Society Organizations)の活動を不当に拘束するものであり,ネパール憲法にも国際法(結社の自由を保障する国際人権規約)にも違反するというのである。

テプリッツ大使は,国際法については違反するとだけしか述べていないが,憲法との関係についてはかなり詳しく説明し批判している。すなわち,ネパール憲法51(j)条は,社会的公正と包摂のための政策を政府に義務づけたうえで,それに不可欠のCSOsの透明で効率的な運営のための「単一窓口制(single door system)」の採用を規定している。ところが,起草中の新しい「社会福祉開発法」には,この「単一窓口制」に反する規定がある。もしこのまま制定されれば,CSOsは,設立・運営のため様々な役所の認可を得なければならないし,また外国援助事業には社会福祉委員会のややこしい認可が必要になる。

「単一窓口制は,適切に運用されるなら,CSO関係政府諸機関の間の軋轢や混乱を防止し,CSOsをしてその本来の役割を果たさせ,そして市民社会と国家の間の健全な関係を促進することになるだろう。ところが,起草中の新しい社会福祉開発法は,CSOsの活動に対し様々な機関から様々な認可を取得することを義務づけるものであり,これは憲法の定める『単一窓口制』に反する規定である。」

たしかに,ネパールの行政手続きは,「単一窓口制」が不可欠と思わせるに十分なほど不効率で,汚職腐敗も少なくないが,他方,ネパールにおけるCSOsの乱立,不正も目に余る。ネパール政府がCSOs,とりわけ外国支援CSOsの活動を把握し規制したいと考えるのは,独立国家の政府としては,当然のことだともいえる。圧倒的な超大国アメリカの駐ネ大使,テプリッツ氏のメッセージからは,独立国ネパールへのそのような配慮は全く感じ取れない。

テプリッツ大使は,国交70年メッセージをこう結んでいるが,この趣旨のことは,ネパール政府というよりはむしろ,本国アメリカのトランプ大統領にこそ向けて,まずは訴えられるべきではあるまいか。

「合衆国は,ネパールが人民の,人民による,人民のための民主国家として進歩することを支援するため,ネパールに関与し続ける。われわれは,すべてのネパール人が性,民族,宗教,カースト,居住地,そして経歴にかかわりなく,学習や健康や繁栄への平等な機会を共有するという国家理念を共有しているが,これは,米国のネパール支援継続により,単なる願望や夢ではなく,すべての人のために実現されるべき約束となるであろう。」

170224■在ネ米国大使館HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/24 at 21:45

包摂民主主義の訴え,米大使(2)

テプリッツ米国大使は,国交70周年メッセージにおいて,「市民社会(civil society)」につき,こう述べている。

市民社会で重要な役割を担うのは,NGO(非政府組織),専門職団体,地域社会組織,シンクタンク,労働者組織,学術団体,メディアなどである。それらは,包摂参加を促進し,また統治を公的に監視する。市民社会は,人民の,人民による,人民のための政府の理念の実現に不可欠である。

「市民社会は,メディアも含め,ときとして政府にとって都合の悪い目障りな存在となるが,だからこそ民主主義には市民社会の様々な組織が必要であり,またわれわれが他国の民主政府と協力して市民社会の強化を図るのもそのためである。」

これは,ネパール政府よりもむしろ本国のトランプ大統領にこそ向けられた諫言であるかのようだ。赴任先で米国政府を代表すべき大使が,いまこんなことを公言して,大丈夫だろうか?

170220■テプリッツ大使(在ネ米大使館HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/22 at 08:57

包摂民主主義の訴え,駐ネ米大使(1)

A.B.テプリッツ駐ネ米大使が,ネパール・メディアに長文の米ネ国交70周年記念メッセージ「包摂的市民参加:民主主義のために」を寄せている。
 ▼ALAINA B. TEPLITZ, “Inclusive civic participation: Where democracies thrive,” The Himalayan Times, February 20, 2017

テプリッツ大使は1969年生まれで,2児の母。オバマ大統領により2015年3月,駐ネ大使に任命された。初の大使就任。

テプリッツ大使は,オバマ大統領任命ということもあってか,社会諸集団の包摂参加やマスコミなど「市民社会(civil society)」の自由と権利の重要性を力説している。この国交70周年記念メッセージも,そうした立場から書かれており,トランプ現政権との関係という観点からも,またネパール内政との関係(内政干渉ではないか)という観点からも,興味深い。

170220a170220b
 ■米大使FB(2月21日)/クンダ・デグジト氏ツイッター(2月21日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/21 at 11:55

SSBを告発,CIAA(6)

6.インド謀略説
ネパールで紛争や権力闘争が激しくなると,ほぼ例外なく,黒幕インドの謀略や介入が取りざたされる。今回も,カルキCIAA委員長の背後にはインドがいて,彼を通してインドがネパール政治をインド国益に沿うように動かしている,と見る人が少なくない。たとえば,M・パウダャルは次のように述べている(以下,要旨)。

▼マハビル・パウダャル「ネパールの大乱戦」,リパブリカ,2016年10月8日(*1)
CIAAは,カナク・マニ・デグジト,ゴビンダ・KC医師,SSBなどに圧力をかけたり「調査」をしたりしているが,これはカルキ委員長個人というよりは,むしろ彼の背後に控えているインドの意向を受けたものだ。

そもそもロックマン・シン・カルキのCIAA委員長任命(2013年5月)は,インドの提案だった。カルキは,2006年人民運動の弾圧に関与したとしてラヤマジ委員会に告発されていた。そのため,ネパールではカルキのCIAA委員長任命には反対が強く,ヤダブ大統領も反対の立場だったが,それをインド側がムカルジー大統領や在ネ印大使館さらには情報機関をも動員して強引に押し切り,任命させたのだ。

そのインドをバックにするカルキ委員長に歯向かうと,どうなるか? カルキ委員長任命に真っ向から反対し,またインドによる経済封鎖をも厳しく批判したカナク・マニ・デグジトは,CIAAに逮捕・勾留されてしまった。

政党や議員も面と向かって抵抗することはできない。なぜなら,どの政党や議員も,ほぼ例外なく汚職・腐敗まみれであり,関係資料をCIAAに握られているからである。CIAAに歯向かえば,告発され,仕返しされてしまう。

CIAAとの闘いは,結局はインドとの闘いなのだ。「潔癖に行動し,他国にへつらったことのない人々のみが,CIAA委員長を批判することが出来る。」

161012■CIAA FBより

*1 Mahabir Paudyal, “Battle royal in Nepal,” Republica, October 8, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/10/12 at 19:32

カテゴリー: インド, 政党, 政治

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SSBを告発,CIAA(5)

5.カンチプル社説「学界恐喝」
CIAAによるSSB告発については,カンチプルも9月27日付社説「学界恐喝」において,厳しく批判した。この社説は,9月28日付ネパリタイムズに英訳転載されている。要旨は以下のとおり。

▼「学界恐喝」(ネパリタイムズ9月28日*1)
CIAAが,またもや権限を逸脱した。今回は,「社会科学バハ(SSB)」と「社会的対話アソシエーション(ASD)」に対する,根拠なき「不正」告発だ。

それは,CIAAが他の組織や個人を狩り立ててきたやり方と同じだ。今回の告発目的は,あたかも彼らが学界において獲得してきた信用や尊敬を傷つけること,それ自体であるかのようだ。

CIAAには,私的機関や非政府組織を調査する権限は与えられていない。憲法がCIAAに認めているのは,官憲の腐敗を調査する権限だけだ。NGOの調査が必要なら,それを行う機関は「社会福祉委員会(SWC)」である。

ところが,CIAAは,憲法を平然と無視し,NGOや銀行や他の私的機関の活動を調査してきた。それは,SSBやASDに対する糾弾に見られるように,偏見に満ちたものである。CIAAには,援助を得て学術振興を図る学術機関の活動に介入する権限は,ない。

CIAAは,ASDやSSBの文書を恣意的に解釈し,告発した。重要な国家機関たるCIAAが,このような民主主義に反する行為をしていることは問題だ。CIAAは謝罪し,そうした行為を繰り返さないことを約束すべきである。

161011■CIAA・FB

*1 “Blackmailing academia(Editorial in Kantipur, 27 September),” Nepali Times, September 28th, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/10/11 at 19:37

カテゴリー: 政治, 文化, 民主主義

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SSBを告発,CIAA(4)

4.英国ネパール学術会議の抗議声明
CIAAによるSSB告発については,「英国ネパール学術会議(Britain-Nepal Academic Council: BNAC)」も,これを厳しく批判する抗議声明(*1)を出している。

BNACは,2000年5月2日,ロンドンで設立された。歴代議長は,Surya Subedi(2000-2009), Michael Hutt(2009-2014),David Gellner(2014-現在)。比較的新しい組織だが,会員には著名なネパール・南アジア研究者が多数名を連ね,講演会,ワークショップ,出版など活発に活動しており,この4月にも「CIAAによるジャーナリスト,カナク・マニ・デグジト逮捕に関する声明」(2016年4月27日)を出している(*2)。そのBNACが今回発表した抗議声明の概要は,以下の通り。

▼「CIAAと,そのSSBおよびASD調査報告に関する声明」2016年10月1日(*1)
CIAAが,社会福祉委員会(Social Welfare Council)に対し,SSBとASDの調査を要請したこと(Himalayan Times, 25 Sep. 2016)につき,BNACは,世界各地のネパール研究者とともに,深い憂慮の念を表明する。

(1)SSBは,学術交流をはじめとするその優れた諸活動によりネパールの社会科学の発展に大きく寄与してきた。国際的研究諸機関も,SSBとの連携を求めてきた。
(2)SSBの活動目的は,内外の研究者の連携・協力関係の促進であり,貧困救済など具体的な事業実施を目的とする他のNGOとは異なる。支出の多くが研究費や会議費となるのは,当然。しかも,SSB収入の多くは,参加者や連携組織からの寄付金である。
(3)ASDは,SSBの活動の一つであり,別個のNGOではない。
(4)CIAAは,カンチプル社説(9月28日)などでも,管轄権逸脱を批判されている。
(5)SSBと協力し様々なプログラムを実施してきたが,SSBの経費支出には何の不正もなかった。SSB会計は,十分に信頼できるものである。

[署名/賛同]
Executive Committee members of the Britain-Nepal Academic Council:
David Gellner (Chair), Michael Huttほか12名
Other members of the BNAC, and non-members based in the UK:
Louise Brown, Lionel Caplan ほか15名
Other academics, not members of the BNAC and not based in the UK, who wish to have
their names associated with this statement:

Tatsuro Fujikura, Katsuo Nawa ほか64名

161010

*1 “Statement on the CIAA and reports on investigation of Social Science Baha (SSB) and Alliance for Social Dialogue (ASD),” The Britain-Nepal Academic Council (BNAC), 1st October 2016, http://bnac.ac.uk/statements/
*2 “Statement on the arrest by Nepal’s Commission for the Investigation of the Abuse of
Authority of Journalist Kanak Mani Dixit,” The Britain-Nepal Academic Council (BNAC), 27th April 2016, http://bnac.ac.uk/statements/

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/10/10 at 19:18

カテゴリー: 教育, 文化, 民主主義

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SSBを告発,CIAA(1)

CIAA(職権乱用調査委員会)が,今度は「社会科学バハ(Social Science Baha: SSB)」と,その傘下組織とされる「社会対話アライアンス(Alliance for Social Dialogue: ASD)」の調査・告発に着手した。

161007a■SSB(同FBより)

1.社会科学バハ(SSB)
SSB(社会科学バハ)は,バハHPによると,2002年1月1日,社会科学図書館の開設を主目的として,ヒマール・アソシエーションの支援の下に設置された。その後,事業を以下の分野にも拡大した。
 ・SSB図書館:蔵書約2万冊,オンラインデータベース提供
 ・現代社会問題集中研究コース(大学院レベル)開設:2009年で終了
 ・講義,討論会,ワークショップ等の開催:「MCレグミ・レクチャー」,「バハ・レクチャー」など
 ・社会科学関係書籍の刊行
 ・調査研究の実施

SSBは2007年1月15日,独立の組織(NGO)として政府(ラリトプル郡役所)に登録し,「社会福祉委員会(Social Welfare Council)がそれを認可した。以後,毎年,登録は更新されている。

[SSB役員](SSB HP)
General Members: Ajaya Dixit, Dr Bandita Sijapati, Basanta Thapa, Deepak Thapa, Dipak Gyawali, Dyuti Baral, Dr George Varughese, Hari Sharma, Kanak Mani Dixit, Mohan Mainali, Prof Nirmal Man Tuladhar, Prakriti KC, Dr Pratyoush Onta, Dr Rajendra Pradhan, Dr Sudhindra Sharma,
Executive Committee: Prof Nirmal Man Tuladhar(Chair), Basanta Thapa(Vice-Chair), Dr Sudhindra Sharma(General Secretary), Mohan Mainali(Treasurer), Dipak Gyawali (Member), Kanak Mani Dixit(Member)

以上が,SSBの概要。CIAAは,このSSBに多数の不正があるとして告発したことを,9月25日発表した。この告発発表は,内外に波紋を広げ,特に学術研究やNGO活動の分野で危惧の念が高まっている。

161007■最近警告が付けられたSSBのHP

*1 “CIAA seeks action against Social Science Baha, Alliance for Social Dialogue,” The Himalayan Times, September 25, 2016
*2 “Social Science Baha accuses CIAA of breaching jurisdiction,” The Himalayan Times, September 30, 2016
*3 “Social Science Baha refutes CIAA charges,” Kathmandu Post, Sep 30, 2016
*4 “Social Science Baha claims CIAA misinterpreted facts,” Republica, October 1, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/10/07 at 18:27

カテゴリー: 政治, 教育, 文化, 民主主義

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