ネパール評論 Nepal Review

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制憲議会選挙2013(25):NHKのネパール選挙「偏向」報道

グローバル化時代であり,ネパール制憲議会選挙も,日本の政治に利用されることはある。それは自明のことだが,たとえばNHKニュース「ネパール議会 連立協議行われる見通し」(12月4日)のように「大胆・露骨」かつ「巧妙」にやられると,よほど用心していないと,ヤバイことになる。

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 ネパールで先月投票が行われた制憲議会選挙は、中道路線の「ネパール会議派」が第1党になりましたが、過半数には届かず、主な政党による連立協議が行われる見通しになりました。
 ネパールの選挙管理委員会によりますと、先月19日に投票が行われた制憲議会選挙は、中道路線の「ネパール会議派」が196議席を獲得して第1党になりましたが、過半数の301議席には届きませんでした。
 第2党は、175議席を獲得した「統一共産党」で、今後この2つの党を軸に連立協議が行われる見通しになりました。
 武装闘争を放棄して前回5年前の選挙で第1党になった「ネパール共産党毛沢東主義派」は、80議席しか獲得できずに第3党に転落し、この5年間、憲法の制定ができずに政治が混乱したことに対する国民の批判が集中した形になりました。
 「毛沢東主義派」は、選挙に不正があったとして結果を認めない姿勢を示していて、連立政権の成立までには混乱も予想されます。
 日本は2007年から4年間、ネパールに自衛隊の隊員を派遣して国連の代表団の要員として停戦の監視に当たるなど内戦からの復興を支援していて、今回の選挙を受けて新たな国づくりが軌道に乗るか注目されています。
 (http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131204/k10013567321000.html 強調引用者)
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この記事が「大胆」であることは,ネパール事情を多少とも知っている少数の人々には,すぐ分かる。陸自隊員がネパールに行った最大の目的は,海外派兵の訓練兼広報宣伝のためであり,平和貢献は口実にすぎない。たった数名(事務要員をのぞく)で行き,くるくる交代し,いったい何ができるというのか? この点については,陸自ネパール派遣参照。

しかし,ネパール事情をほとんど知らない人――大多数の日本人――がこの記事を読めば,ネパール派遣陸自隊員が大活躍し,今回の制憲議会選挙の「成功」をもたらしたと誇らしく思い,今後は日本も積極的に海外派兵すべきだと考えるようになるのは,ごく自然な成り行きだ。実に巧妙。世論操作のモデルケース教材として大学で使えそうだ。

131205 ■ネパールの自衛隊

では,皆様のNHKが,なぜこのような「大胆・露骨」にして「巧妙」な世論操作をするのか? それは,いうまでもなく安倍政権に操作されているからである。松田浩氏は,「政権のNHK支配監視を――露骨な人事 情報統制の発想」において,こう警告している。

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 公共放送NHKが,安倍政権の“政治的人事”で,危機に立たされている。さきの経営委員人事で,安倍首相が新任の4委員を自らに極めて近い,“安倍一族”で固めたためだ。
 半世紀以上,NHKと政府の関係をウォッチしてきたが,このような露骨きわまる人事は見たことがない。・・・・
 伝統的に権力の意向を“忖度”することにたけたNHKの体質を考えれば,原発,教育,歴史問題,集団的自衛権などを報じる際の現場への萎縮効果は計り知れない。・・・・
 安倍首相は経営委員人事をテコに,NHKの直接支配に乗り出したのである。
 時あたかも特定秘密保護法案が衆院で強行採決された。共通して底流にあるのは,国民に与える情報をコントロールしようという安倍政権の発想である。・・・・
 ただでさえ,日頃から政権よりの報道が目につくNHKである。「みなさまの公共放送」が戦前と同じ「国家の公共放送」に変貌することがないよう,視聴者・国民による厳しい監視の目が必要だろう。(朝日新聞,2013年12月4日)
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日本は,ネパール平和構築のため,官民とも非軍事の分野で様々な多くの貢献をしてきた。これに対し,派遣自衛隊の活動など,全くといってよいほど現地ネパールの人々には知られていなかった。それなのに,他分野の大きな貢献をさしおき,NHKは派遣自衛隊の貢献を特記した。

これは,たまたまそう書いたのではない。安倍政権の「直接支配」か,それとも「権力の意向の“忖度”」か,それは分からないが,この記事に一定の政治的意図が隠されていることは否定すべくもあるまい。

追加](12月6日22時半)
特定秘密保護法案が参院強行採決目前,世論は沸き立ち,国会も国会の外も極度に緊迫している。

その最中,皆様のNHKは,看板番組ニュースウオッチ9(21:00-22:00)において,長々と自衛隊の宣伝番組を流した。「“被災地に勇気を”自衛隊歌姫の『祈り』」。違和感を通り越し,番組放送の裏を“忖度”せざるを得なかった。

自衛隊は「特定秘密」の巣窟。番組は,その自衛隊の演奏活動を,被災地支援活動という誰にも異を唱えにくい形で,情緒たっぷりに伝え,視聴者を涙させた。

特定秘密保護法体制は,強面だけで成立し維持されるわけではない。

12月6日午後11時半,自公強行採決により,特定秘密保護法成立!

谷川昌幸(C)

「八重の桜」と「同期の桜」

日本放送協会(Japan Broadcasting Corporation, NHK)がハデな大宣伝をしているので、「八重の桜」を観てみた。なんたる空騒ぎ、無惨な失敗作となる悪い予感がする。

まず冒頭の「つかみ」、「驚き」がない。どんな作品でも、最初に「あれ! これは何かな?」と興味を引きつけなければ、まず失敗である。小説、随筆などでも、傑作は「書き出し」がよい。これは、作品の鉄則。

ところが、「八重の桜」の冒頭は、南北戦争。時代背景を説明するためなのだろうが、最初から逃げであり、しかもド派手な戦闘場面の連続。こんな劇画のノリで描くと、米国民から抗議されかねない。まったくもって稚拙。

同じことが、メインテーマの「幕末のジャンヌ・ダルク」についても、いえる。女が鉄砲を持つ――つまり人を殺す――には、相当の内面的葛藤があってしかるべきだが、そんな気配は寸毫もない。そんな面倒なことはスゥーと素通りし、いたいけない少女が人形をほしがるように鉄砲をねだり鉄砲にほおずりする。そりゃ、ないだろう。あんまりだ。

子供だって、鉄砲の弾が当たればどうなるか位は想像する。子供時代を思い起こしてほしい。子供は大人以上に繊細であり、人や動物が傷つき、苦しみ、死ぬことの悲惨を直感的に知っている。子供をバカにしてはいけない。それなのに、脳天気に子供を描くから、リアリティがまるでない。絵空事だ。

他の場面にしても、映像表現に自信がないらしく、やたら「語り」が出てくる。場面、場面をいちいちナレーションで説明しなければ、その意味がわからないのだ。無惨といわざるを得ない。

さらにまた、スローモーションも多用されている。スローは、ここぞというときに使用してはじめて効果を発揮する。それなのに、いたるところスローだらけ、まるで安物劇画だ。

そして、これは坂本龍一/中島ノブユキの責任ではないであろうが、音楽がやたら多用されている。といっても、音楽そのものはよく出来ている。出来すぎといってもよいくらいだ。しかし、いくらなんでも使いすぎであり、これでは背景音楽ではなく、音楽のための背景映像だ。「八重の桜」ではなく、「坂本/中島音楽の桜吹雪」と言ったところ。

むろん、これはまだ初回。先は長い。くれぐれも、右傾化時代迎合の「同期の桜」女性版とならないことを願っている。それゆけどんどんの「幕末ジャンヌ・ダルク」や戦意高揚「篤志看護婦」など、みたくもない。

130107 ■ リアリティなき樹上の八重(NHK・HPより)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/01/07 at 15:19

NHK「ムスタン王国」の真実・再説

1.「ムスタン王国」ヤラセ事件
かつてNHKの辣腕プロデューサーが「禁断の王国・ムスタン」(1992)を制作し放映した。傑作ドキュメンタリーで,日本中が感動した。(ユーチューブではまだ未公開)
 
ところが,誰かにねたまれたのか,このドキュメンタリーはヤラセであり,ネパール王国と日本視聴者を愚弄するものだと,攻撃の火の手が上がった。問題にされたのは主に次の点:
  ・ムスタンは「王国」ではない。
  ・流砂はスタッフが流したもので,ヤラセ。
  ・高山病は仮病で,ヤラセ。
 
この他にも,多くのヤラセや誤りが糾弾され,やむなくNHKも調査委員会を設置し,制作過程を調査した。その結果,問題にされたことの多くが事実と認定され,特別番組でそれが詳しく説明された。そして,NHK会長らが,皆様のNHKが善良な視聴者を騙したとして,平身低頭,沈痛な面持ちで平謝りを繰り返した。このとき辣腕プロデューサー氏らがどのような弁明機会を与えられたのか,またヤラセ判定・懲戒処分後,どうなったのかは分からない。
 
この経緯を見て,私は唖然とした。そして,断固,番組を擁護すべく授業で何回も取り上げ,「ムスタン王国」の「真実」を力説した。
 
2.「事実」は語らない
写真にせよドキュメンタリーにせよ,生の「事実」をあるがままに写すものではない。撮影者,制作者の意図に従い,生の現実のある部分を切り取り,写真やドキュメンタリーとして表現する。学術論文にしても絵画,文学作品にしても同じこと。
 
「事実をして語らしめる」という客観主義の常套句があるが,これは真っ赤な嘘であり,生の事実は何も語りはしない。撮影者・制作者が,一定の意図に従い「語らしめる」ことによって,つまり事実を「加工」することによって,事実は何事かを語り始める。
 
3.ドキュメンタリーと演出
この制作者の意図(意思)による事実の加工が,「演出」である。写真にせよドキュメンタリーにせよ,いや学術論文ですら,およそ作品は「演出」なしには,ありえない。
 
4.「真実」を伝えた「ムスタン王国」
では,「ムスタン王国」の場合はどうか? ムスタンが高山の厳しい自然環境の中にあり,そこへの経路が険しく,流砂があり,ときには高山病になることは,事実だ。制作者は,そのムスタンの「真実」を伝えることを目標に,番組を制作した。
 
ところが,取材中には,あいにく流砂も高山病も発生しなかった。もっと手間暇をかければ,いずれそれらは発生するだろうが,取材班にはその余裕はなかった。そこで,流砂を人為的に流し,高山病の振りをし,撮影した。
 
「流砂」も「高山病」も,そのとき,そこで起こった「生の事実」ではない。しかし,そこでは,それらはしばしば発生することであり,番組がその「真実」を伝えることを目標とするのであれば,「ムスタン王国」は大筋では視聴者を騙したことにはならない。(いくつか事実誤認や誤りがあったことはたしかだが,こうした海外取材ではある程度はやむを得ない。)
 
むしろ,あえていうならば,ドキュメンタリーは「生の事実」を伝えるものだという誤った情報をセンセーショナルに流し,善良な人民をヒステリックな制作者糾弾に誘導したことの方が,ヤラセとして批判されるべきである。
 
5.演出の許容範囲
しかし,そうはいっても,演出が無制限に許されるわけではない。演出がすぎると,文字通り「絵空事」となり,「事実」が何か分からなくなってしまう。演出がどこまで許されるかは,一方における「真実」を伝えようとする制作者の誠意と表現能力,他方における「真実」を見ようとする視聴者の成熟度により,つまり制作者と視聴者の「真実」をめぐる格闘を通して,自ずと妥当な範囲に収まっていくだろう。それが表現の自由の醍醐味だ。
 
「ムスタン王国」の場合,過剰演出かどうか,たしかに微妙なところではある。安全第一であるべきなら,番組最後の字幕部分に,「王国は通称,流砂と高山病は再現映像」と一筆入れておけば,よかった。そうすれば,この番組がこれほど糾弾されることはなかったであろう。
 
6.「事実」はつくられる
実は,このことは,大学が新入生に,まず第一に教える,ごく初歩的な事柄だ。新入生は,教科書の記述を「事実」そのものと信じて疑わない。小中高校で,文科省やその支配下の教員に,そう洗脳されているからだ。
 
そんな新入生に対し,大学はまずガツンと一発,すべての「事実」は誰かにより「つくられた事実」だ,とぶちかまし,新入生どもの心地よい独断の眠りを覚ましてやる。大学教育は,国家への反逆から始まる。それをしない大学は「大学」の名に値しない。
 
だから,写真やドキュメンタリーを見て「生の事実」だなどと脳天気なことをいう大学卒業生は,日本には1人もいないはずだ。それは基本中の基本で,口にするのも恥ずかしいくらいのことだ。
 
6.解釈と「事実の堅い芯」
しかし,「事実」はすべて解釈によりつくられるかというと,決してそうではない。もし「事実」はすべてつくられるものなら,ノンフィクションとフィクション,歴史と歴史小説の区別がつかなくなってしまう。「事実」はつくられるが,しかしすべてがつくられるわけではない。ここに,科学(学問)や文学・芸術の難しさがある。
 
この問題を鮮やかに分析し,大学生にもよく分かるように易しく面白く叙述したのが,E.H.カー『歴史とは何か』(岩波新書)だ。大学新入生の必読文献であり,日本の大学生はみな読んでいる。ここに書いてあることの概略でも理解していないと,独断の微睡みから目覚めない大人子供と見られ,大学を卒業させてもらえない。
 
しかし,碩学カー先生の本は,完全に理解しようとすると,これは難しい。本当に「事実の堅い芯」など,あるのか? あるとすれば,どのようにしてそれを認識するのか?
 
カー先生は,「歴史は現在と過去との対話である」と力説される。それは,「真実」をめぐる制作者と視聴者,作者と読者の間の対話と言い換えてもよい。難しいことだが,こうした大人の対話を続けていくしか,「事実=真実」へは接近できないのだろう。

【参照】

■やらせ 
■池田信夫「やらせ」
■虚偽報道
■ムスタンの真実―「やらせ」現場からの証言  
■NHKスペシャル「ムスタン」の真実
■秋山久 第45回 「やらせ」番組考(2000・12・25転記)  ネットジャーナル「Q」  (秋山氏の略歴)NHK報道局社会部(ニュースデスク、ニュースキャスタ),東京経済大学非常勤講師を経て,現在,フリージャーナリスト。(追加2014.2.8)

140208 ■ローマンタン(Google)。いまや秘境も丸見え(2014.2.8)

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2009/01/15 at 10:56