ネパール評論

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コケにされる大統領、天の声は印から

ヤダブ大統領が、諸党合意による首相候補の選出期限を12月22日(土)まで延期した。11月23日の初回から、これで延期4回目。まるでバナナのたたき売りだ。

ネパールの諸政党には、統治の当事者能力がない。王制の頃も、諸政党は同じようなことを繰り返した。仕方なく、国王が天の声を発し、首相を決めた。

ところが、民主化とともに国王の権威が衰弱すると、そっと耳打ちのような介入では効き目がなくなり、介入はあからさまな強権的なものになった。しかし、国王がやむなく強権的な介入をすると、当の諸政党はそしらぬ顔で責任転嫁し、国王専制を非難した。そして、結局は、王制を廃止し、めでたく「完全(絶対)民主制」を実現したのである。

この完全民主制は、完全だから、他に責任を転嫁することはできない。だが、責任をとれないのに責任を引き受けると、どうなるか? 2010-2011年には、諸政党は多数派を形成できず、首相選17回の堂々たる世界記録を達成した。今後100年は破られない、大記録だ。

政党政治の未熟は、いまも同じだが、以前とは状況がかなり変わってきた。以前は、まだ国連や国際社会がネパール民主化に熱意を持ち、あれこれ介入し、圧力をかけていた。ところが、もはや世界社会は、ネパール民主化へのかつてのような関心を失い、冷たく突き放すようになった。

天の声は、もはや国連からも世界社会からも降されない。そこで、結局は、もっとも頼りになる宗主国インドに、天の声を懇願せざるをえないことになったのである。

これは大統領の訪印を見れは明らかである。大統領は、諸党合意首相候補の提出期限を3回も無視され、面目丸つぶれ、権威は地に落ちた。大統領の言うことなど、どの政党もきかない。そこで、大統領は12月24日の訪印を決め、インドの権威を借りて、第4回目の候補提出期限を12月22日に定めたのである。もし22日までに首相候補を提出しなければ、訪印し天の声を聞いてくる、というわけだ。

ネパールは、民主主義の成熟以前に権威の源泉たる国王を廃止してしまったため、結局、それに代わる権威の源泉をインドに求めざるをえなくなった。ナショナリストを自慢しながら、訪米し天の声を聴く某国首相よりはましだが、それでもみっともないことに変わりはないだろう。

121219
 ■ヤダブ大統領(The Hindu)

[追加]印外相の口先介入(2012-12-22)
インドのクルシド外相が21日、ネパールの挙国一致政府形成問題について、口先介入した。外相は、ヤダブ大統領の努力を評価し、こう述べている(ekantipur, Dec22)。

「ネパール国家元首として、大統領は、すべての党を話し合いのテーブルに着かせるため、最善の努力をしている。」

「ニューデリーにできることは、挙国一致政府を形成し選挙を実施する努力を、精神的・道徳的に(morally)支援することだけだ。」

控え目な表現ながら、24日のヤダブ大統領訪印直前の口先介入であり、これだけでも十分効果がある。天の声は、やはりインド方面から降るのではないか? 大統領訪印後の展開が注目される。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/12/19 at 20:24