ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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ネパール憲法,「未来政策賞」受賞(4)

4.ネパールの青年政策
世界未来会議がネパールの憲法に基づく青年政策として特記し高く評価しているのが,「国家青年会議(National Youth Council)」設置であり,また政策としての「国家青年政策(National Youth Policy)2015」,「青年ビジョン2025(2015)」および「戦略的10か年計画(2015)」の作成である。これらは2008年設置の「青年・スポーツ省(Ministry of Youth and Sports)」の管轄下にある(*6,7)。

ネパールの青年の境遇は,いまでも,たしかに厳しい。「国家青年会議法(2015)」の定義によれば,「青年」は16~40歳。この「青年」がネパール人口の40.35%を占めているが,彼らの失業率は高く,開発指数は世界第145位に低迷している。そこでネパール政府は,「国家青年政策2015」や「青年ビジョン2025」を定め,次のような目標の実現に向け努力することになったのである(*5,6,7)。

■政策目標
・青年の担う役割を高め,国家建設・開発に寄与せしめる。
・青年の社会・政治参加の促進。
・青年の教育・雇用等の向上支援。
・周縁諸集団の青年の積極的格差是正措置による社会・政治参加の促進。
■具体的政策
・中等教育の無償義務化。各種奨学金・教育ローンの拡充。人権・平和・民主主義のための教育。外国語教育。職業教育。オープンユニバーシティ開設。
・青年のための保健政策拡充,薬物規制強化。
・青年の能力開発と雇用拡充。
・青年の社会・政治参加。平和構築・紛争解決への青年参加。
・芸術・文学・文化・スポーツ・演芸への青年参加。
・犯罪・暴力の防止。人身売買取締り。
・環境保護,持続的開発。
・開発における周縁諸集団の平等。

以上は,「国家青年政策2015」や「青年ビジョン2025」に掲げられている政策のほんの一部にすぎない。あまりに抽象的にして網羅的という印象は否めないが,「世界未来政策賞」受賞を励みに,理念列挙にとどめず,それらの具体化へ向けての着実な前進を期待したい。


  ■青年・スポーツ省(HP)/UNDPネパール青年未来構想

*1 “Future Policy Award 2019 crowns eight best policies empowering youth at global summit of parliaments,” The World Future Council
*2 “An Inspiring Future Policy Award Ceremony 2019 Celebrated the World’s Most Impactful Policies Empowering Youth,” The World Future Council, October 21, 2019
*3 “EMPOWERING YOUTH DECENT AND SUSTAINABLE JOBS AND CIVIC AND POLITICAL PARTICIPATION,” FUTURE POLICY AWARD 2019, The World Future Council
*4 “Future Policy Award 2019 crowns eight best policies empowering youth,” UNDP, October 11, 2019
*5 “UNDP NEPAL YOUTH STRATEGY 2018-2022,” UNDP, 2018
*6 “National Youth Policy 2072(2015),” Ministry of Youth and Sports, Nepal Government (Council of Ministers), 2072/6/19 (October 6, 2015)
*7 “Youth Vision – 2025 And Ten-Year Strategic Plan, Ministry of Youth and Sports, Nepal Government (Council of Ministers), 2072/6/19 (October 6, 2015)
*8 “Nepal‘s constitution gets international award,” Republica, October 24, 2019

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/11/07 at 18:59

ネパール憲法,「未来政策賞」受賞(2)

2.2019年度未来政策賞の選考過程と結果
2019年度の未来政策賞は,春に推薦が始まり,予選の結果,36か国の67政策がノミネートされた。それらにつき最終選考が行われ,8月27日,次の8政策が未来政策賞に選ばれた(*3,5)。

(1)青年の経済的能力向上に寄与する持続可能な職
 金賞=ルワンダ,銀賞=スコットランド(UK),銅賞=南アフリカ
(2)持続可能な開発と平和のための青年の社会・政治参加
 金賞=エストニア,銀賞=ネパール,銅賞=欧州連合
(3)未来構想賞(Vision Awards)
 ロスアンゼルス(USA),セネガル

この選考結果について,A・ワンデル世界未来会議事務局長は,こう述べている。
「今年の未来政策賞は,青年大量失業や青年政治不参加をこれ以上容認できないとして行動することを決断した政治指導者たちにより採択された特に優れた政策に授与された。2019年度未来政策賞受賞政策の担当者たちは,その目標実現の可能性とその方法を示してくれた。世界各地の政策担当の皆さんには,これらの先例を見習い,それぞれの政策を同様の範例たりうるような政策へと高めていっていただきたい!」(*2,3,4)

2019年度未来政策賞の表彰式は10月16日,ベオグラード(セルビア)開催のIPU総会において挙行された。ネパールからはGP・ティミルシナ上院(国民院)議長が出席し,賞を授与された。議長は帰国後の10月23日,首相官邸においてオリ首相に受賞を報告した(*8)。


 ■持続可能な開発目標(UNDP*5)/表彰状授与される上院議長(世界未来会議HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/11/05 at 11:41

カテゴリー: 社会, 経済, 憲法, 政治

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「一帯一路」喧伝のUNDPネパール

このところ「UNDPネパール(国連開発計画ネパール)」が,中国主導の「一帯一路」を連日,ツイッターなどで大々的に宣伝している。ネパール・メディアを見る限り,中国本国より国連の方が熱心にさえ見える。

UNDPは2016年9月19日,「一帯一路」を中国と協力して推進する了解覚書に署名した。そのための「行動計画」にも合意している。了解覚書に署名したヘレン・クラークUNDP総裁(元ニュージーランド首相)は,署名後,こう述べている。

「一帯一路計画(BRI=Belt and Road Initiative)」は,経済成長と地域協力のための強力な基盤(platform)であり,途上国を主とする40億人以上の人々を対象としている。・・・・それは,持続的発展のための重要な触媒となり,また加速装置ともなりうるものである。」(UNDP HP, 2016-09-19)

手放しの賞賛といってもよいであろう。権威あるクラーク総裁(在職:2009~2017年)が,こう号令をかけているのだから,「UNDP中国」はむろんのこと,「UNDPネパール」も「一帯一路,万歳!」となるのはごく自然な成り行きである。

これはやはり中国外交の勝利とみてよいであろう。UNDP拠出金(2016年)は,第1位=日本,第2位=EU,第3位=米国であり,中国は上位30位以内には入っていない。それなのに,米国は「アメリカ・ファースト」で国内向きとなり,米追従の日本も中国のような壮大な世界構想は示せない。

古来,世界の新たな秩序をつくり平和と繁栄を実現しようとするのは,新たな覇者。世界秩序の中心は,西洋から中国へと,いま大きく転換しはじめたのではないだろうか?


 ■UNDP in China HP/UNDP in Nepal Twitter(2017-05-14)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/05/16 at 20:34

無視される日本国憲法

ネパール制憲議会(CA)が2015年初春の制定・公布に向け,新憲法の起草をしているが,その過程において,日本国憲法はほぼ完全に無視されている。

1990年憲法制定過程においては,日本国憲法は最も重要な外国憲法の一つとされ,憲法調査団さえ,日本に派遣された。1990年憲法には,日本国憲法を参考にしたと思われる条文も,いくつかある。

ところが,今回の新憲法制定では,日本国憲法は全くお呼びではない。たとえば,国連開発計画(UNDP)の「ネパール参加型憲法制定支援(SPCBN)」の参照用外国憲法は,下記の通り。

140921a Support to Participatory Constitution Building in Nepal (SPCBN)
Constitutions of Other Countries
 1) The Constitution of France (नेपाली English)
 2) The Constitution of Socialist Republic of Cuba (नेपाली)
 3) The Constitution of the People’s Republic of China (नेपाली)
 4) The Constitution of Austria (नेपाली English)
 5) The Constitution of South Africa (नेपाली)
 6) The Constitution of Ethiopia (नेपाली)
 7) German Basic Law (नेपाली)
 8) The Constitution of Canada 1982 (नेपाली)
 9) The Constitution of United States of America (नेपाली English)
 10) Indian Constitution (English)
 11) Federal Constitution of the Swiss Confederation (नेपाली)
 12) The Draft Constitution of Kenya (English)

理由は,いくつか考えられる。第一に,今回は,世俗共和制,連邦制が前提であり,象徴天皇制単一国家の日本国憲法は,原理的になじまないということ。第二に,ネパールは武装独立,国軍堅持だが,日本国憲法は非戦非武装(第2章第9条)だということ。そして,第三に,日本の国力が減退し,存在感ないし影響力が小さくなっているということ。

むろん,先進諸国のネパール憲法制定支援は,実際には支援にとどまりえず,事実上,国政の根幹への広範な介入,赤裸々な内政干渉になっている。もし私がネパール人なら,愛国心を奮い立たせ,外国介入阻止,排外闘争に走っていたかもしれない。日本とならび,有史以来,独立を維持し続けてきた誇り高きネパールにとって,外国の憲法制定支援介入は政治的屈辱であり,最良の友好国・日本としては,そのようなポストモダン型ネオ植民地主義への加担は警戒すべきであろう。

が,それはそれとして,UNDPの参照憲法資料リストから日本国憲法が外されているのは,愛国者の一人として,無性に腹が立ってならない。UNDPの最大スポンサーは日本(下記グラフ赤線)。米仏独ばかりか社会主義の中国ですらあるのに,なぜ日本の憲法はないのか? (英国は不文憲法。)

140921 ■UNDP拠出金。※その他の資金はコスト・シェアリングと信託基金の合計。出典:UNDP, Annual Review of the Financial Situation(UNDP駐日代表事務所)

たしかに日本国憲法は古い。しかし,少なくとも第2章第9条の戦争放棄は,世界最先端であり,たとえネパールが最終的には武装独立を採るにせよ,もう一つの選択肢として十二分に検討されるに値する規定だ。これを参照憲法資料にすら掲載しないのは,明らかにUNDPの政治的意思であり,その見識を疑う。

ネパールの友人・知人には,日本国憲法,少なくとも第2章第9条は,参照憲法資料に追加されるべきではないか,と問題提起してみたいと思っている。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/09/21 at 11:54

憲法情報センター報告書に見る理念と現実

ネパールでは憲法制定に向け様々な準備が進められている。たとえば,制憲議会は「制憲議会法2008」により「市民関係委員会」と「世論集約調査委員会」を設置し,憲法知識の普及と一般市民からの意見の聴取・集約のための各種事業を行っている。

しかし,これらだけでは不十分なため,「ネパール法協会(Nepal Law Society)」,「民主主義・選挙支援国際機構(International Institute for Democracy and Electoral Assistance=IDEA)」,「国連開発計画-参加型ネパール憲法制定支援プログラム(Support to Participatory Constitution Building in Nepal-UNDP)」が,上記 2委員会と協力し,特に地方住民のために「憲法情報センター(Constitution Information Center=CIC)を設置することになり,2010年8月から設置に着手,12月現在,すでに全国8地区に設置している。ビラトナガル,バラトプル,ポカラ,ネパールガンジ,ダンガディ,イラム,ジャナクプル,ジュムラである。

その報告書(要約版)が出された。
Nepal Law Society / International IDEA / SPCBN, Summary Report of the Constitution Information Centers, 2010/2011

この報告書によると,2010年9-11月に76のプログラムが各地で実施され,約5千人が参加した。なかなか頑張っており,その熱意には感心する。“セミナー産業”の傾きがなきにしもあらずとはいえ,地方でのこうした啓蒙活動がまったく無意味というわけでもあるまい。時間を見つけ,明治初期の日本各地の憲法制定運動との比較をやって見たいと思っている。

しかし,ここで気になるのは,やはり憲法制定作業の実際の進捗状況である。制憲議会は,課題別に次の11委員会を設置し,議論を進めている。

(1)Committee on Protection of National Interest
(2)Committee on Protection of Fundamental Rights of Minorities and Marginalized Communities
(3)Committee on Determination of Forms of Constitutional Bodies
(4)Committee on Determination of Forms of Legislative Organs
(5)Committee on Determination of Bases of Culural and Social Solidality
(6)Committee on Judicial System
(7)Constitutional Committee
(8)Committee on Fundamental Rights and Directive Principles
(9)Committee on Natural Resources, Economic Rights and Distribution of Revenue
(10)Committee on Restructuring of State and Distribution of State Powers
(11)Committee on Determination of Forms of Governance

これは,まさしくゼロからの国家再構築である。その崇高な理念,壮大な意気込みは涼としたいが,一方,本当にこんなことができるのか,やってよいのか,と心配にもなる。

こんな大風呂敷の憲法論は,大学法学部の講義でも4年間やそこらでは到底展開できないであろう。それを,識字さえ心許ないネパールで,国民総参加・総動員で討論し熟議により決めていくのだそうだ。理念としては美しい。が,こんなことは西洋先進国でも難しいのではないかな? 本当に大丈夫かなぁ? 画餅ではないのか?

「報告書」は,最後に結論として,こう述べている。
 ・サウン月20日の第102回会議以降,制憲議会は開かれていない。
 ・制憲議会延長後6ヶ月経過したが,期待したほどの進展はない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/11 at 10:09

カテゴリー: 憲法, 民主主義

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