ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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UNMIN撤退はインド外交の勝利

Hindustan Times(15 Jan)によれば,UNMIN撤退はインド国連外交の「大勝利」だという。

「インドはUNMIN延長阻止を国連安保理メンバーに働きかけてきた。国連安保理は昨年9月以降の進展の欠如を理由にUNMIN終結を票決した。」

「危うい状況だ。ネパールの政治家が自分たちで問題を解決すべきだ。」

インドが国連のネパール介入を嫌っていたことは周知の事実だが,安保理でのこのような動きは初耳だ。インドの外交力はたいしたものだ

それともう一つ,興味深いのは,Pakistan Defence(17 Jan)がこの記事を丸ごと転載し,しかも上記引用部分に強調を付していることだ。軍事情報関係メディアらしいが,パキスタンは対インドの観点から,インドのネパール政策に神経をとがらせている。

いやはや,南アジアは難しいところだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/17 at 23:06

カテゴリー: インド, ネパール, 外交

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UNMIN撤退の悲喜劇

UNMINは,何とか形だけ整え,1月15日をもって任務を終了した。いつものことだが,土壇場で三党合意が成立,UNMIN受け皿として「軍統合特別委員会局」が設立されたのだ。(また役所がひとつ増えたが。)

本当に,ネパールの政治家たちは交渉ごとに熟達している。散々けなし悪口を言いたい放題いったあとで,もっとも効果的な最後の最後で,相手の顔を立て,恩を売る。見事だ。

こうして恩を売りつつ,さらにすごいのが,カネのむしり取り。ekantipur(16 Jan)によれば,UNMINはラジャ空港(ネパールガンジ付近?)やポカラ空港の使用料をまだ払っていない。出て行くなら,使用料2千万ルピーを航空局に払えと要求されている。これをみても,UNMINが金蔓であったことがよくわかる。

これも滑稽だが,それ以上に滑稽というか悲喜劇といってよいのが,ランドグレンUNMIN代表のマダブクマール・ネパール首相訪問。代表はおそらくキリスト教徒であろうが,UNMIN離任挨拶に行ったネパール首相から,平和貢献へのお礼として,なんと仏像を贈られたのだ(Rising Nepal, 16 Jan)。

 平和の象徴・仏像の贈呈(Rising Nepal, 16 Jan)

私は仏教徒であり,仏様をイエス・キリストと並ぶ偉大な平和の使徒と信じ,尊敬している。しかし,それとこれは話が違う。先進国と国連は,ネパールに世俗化を押しつけ,それを暫定憲法に書かせた。それなのに,このざまなのだ。

ネパール首相は一私人ではなく,世俗ネパール国家の最高権力者だ。ランドグレン氏もUNMIN代表として首相を訪問している。これは国連とネパール国家との間の公式行事なのだ。それなのに,首相が仏像を贈り,それをランドグレン代表が受け取る。これを悲喜劇といわずして何という。

想像力の欠如,人権無視も甚だしい。国家最高権力者が公式行事で仏像を贈る――それをキリスト教徒,イスラム教徒,共産主義者,無神論者らはどう思うか? いや,ヒンドゥー教徒であっても不快に思う人は少なくあるまい。信仰の自由の明白な侵害ではないか?

結局,先進国や国連がやってきたことは,たとえば国家世俗化についてはこの程度のことなのだ。他の多くの問題についても同じではないか? ネパールは,根本的には何も変わっていない。ネパールにはネパールの強固な文化的伝統があるのだ。 

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/16 at 21:27

UNMIN平和構築支援は失敗,バン国連事務総長

バン国連事務総長は,UNMIN撤退式典メッセージにおいて,「残念ながら進展は不十分だった」と述べ,UNMIN平和構築支援の失敗を事実上認めた(UN News service, 14 Jan)。

ランドグレンUNMIN代表自身が安保理で,ネパール平和プロセスは「座礁状態」にあり,UNMIN撤退後はマオイスト武装蜂起か軍クーデターの可能性がある,と説明したのだから,バン事務総長の失敗メッセージも当然といえよう。(Cf. “Nepal’s Restive Revolutionaries–Unease about a new Maoist revolt flares up as U.N.peace monitors leave,” Newsweek, 13 Jan)

もちろん,バン事務総長もUNMINの功績をたたえてはいる。

「UNMINは,歴史的な2008年制憲議会選挙を支援した。これは,武器監視協定・停戦協定の実施をモニターする任務と並ぶUNMINの主要任務の一つであった」(UN News Service, 14 Jan)。

たしかに,UNMINの停戦監視はある意味では「大成功」(ランドグレン代表,UN Daily News, 10 Jan)であったし,制憲議会選挙も成功裡に実施された。

しかし,その反面,肝心のPLA統合は全くの手つかずだし,また「歴史的」と賞賛された制憲議会選挙にしても,選挙民主主義イデオロギーからすればそういえるだけのことであって,実際には,それは平和実現にはほとんど貢献していない。むしろ,選挙はアイデンティティ政治を激化させ,統治を困難にさせる側面の方がはるかに大きかった。これは制憲議会選挙後の政治の不安定化をみれば一目瞭然である。首相ですら,2010年7月以来,16回の選挙をやってもまだ決められないのだ。

さらに新憲法制定にしても,たとえつじつま合わせのため憲法を作文し各条文を新理論でけばけばしく飾り立ててみても,それでどうなるものでもない。画餅にすぎない。その絵空事新憲法作文ですら,まだ出来ていない。

選挙民主主義イデオロギー,包摂民主主義イデオロギー,連邦制イデオロギー,民族自治イデオロギーなど,様々な新薬をネパールにぶちまけ,いくら副作用が出ても,あとは知らんよ,と出て行く。そりゃ,いくらなんでも無責任ではないか?

バン事務総長は「諸政党には信頼構築努力をひとえにお願いしたい」(UN News service, 14 Jan)といっている。民主主義未成熟で相互不信があまりにも強く,そのため国連は平和構築支援に失敗した,と考えているからであろう。

しかし,M.ウェーバーが言うように,政治は結果責任である。ネパールが途上国で,民主主義未成熟はわかりきったこと。そこに,先進諸国でも実現不可能なような最先端の高尚な政治諸理念を持ち込み,押しつけた。責任は,先進国,国連側にある。

マイノリティの権利は,包摂民主主義でも比例選挙でも守られはしない。たとえ代表されたとしても,人口比(2001年)でラウテは49万分の1(0.003%),シェルパですら147分の1(0.7%)にすぎない。多数決では絶対に勝てないし,さりとて拒否権を認めれば,何も決められない。民主主義では人権は守られない。

マイノリティの権利,弱者の人権を本当に守るつもりなら,真の意味の「法の支配」と,多数派を押さえ込み,法を適用することの出来る強力無比の中央権力が不可欠だ。そんな常識ですら無視して無謀に介入するから,こんなことになるのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/15 at 16:01

瀬戸際政治,首相選とUNMIN延長

ネパール政治はいよいよ切羽詰まってきた。15日でUNMIN任期切れ,とにかく決めねばならない。

首相選挙は,1月12日に第17回投票が予定されていたが,マオイストに加えUMLもポウデル候補に反対投票することを決めたため,NCは結局ポウデル氏擁立をあきらめ,何らかの挙国政権の樹立を目指すことになった。まだどうなるかわからないが,次の第17回選挙で新首相選出の可能性が出てきた。むろん,新首相候補を誰にするかで合意があるわけではなく,またまたどたばたの再現となるかもしれない。

もう一つが,UNMIN撤退問題。これもよくわからない。ランドグレン代表は,「最後の」記者会見で,もし当事者の合意があれば,UNMIN延長もあり得るとか,国連は今後3年間ネパールに関与し続けるとか説明している。安保理は,明日14日の会議で,ネパール情勢をみつつ方針を決定する予定とのこと。まさしく瀬戸際政治,難しいものだ。

いずれにせよ,この数日でなんらかの選択と決定がなされるだろう。目が離せない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/13 at 22:45

カテゴリー: 平和, 政治

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UNMINはマオイストの金蔓だ,ネパール首相

ネパールの非マオイスト政治家・知識人らが,ランドグレンUNMIN代表の安保理発言(1月5日)に対し,烈火のごとく怒っている。たとえば,マダブクマール・ネパール首相は1月7日,こう罵倒した――

「UNMINはマオイストの金蔓になった。・・・・だからマオイストはUNMIN任期延長を願うのだ。・・・・UNMIN撤退で天が落ちるようなことはない。・・・・われらは自らの手で平和と憲法制定を実現できる。」(ekantipur, 7 Jan)

すさまじい怒りだ。一国の首相の言葉とは信じられないくらいだ。国連ネパール代表のギャンチャンドラ・アチャルヤも1月6日,こう非難した――

「[マオイスト人民蜂起や大統領統治あるいは軍クーデターの可能性があるというランドグレン代表の]説明には,何の根拠もない。ネパール政府はそのような分析や評価を全面的に拒否する。」(ekantipur, 7 Jan)

ネパール政府が,自分たちでやれるからUNMINは出て行け,と要求するのに対し,ランドグレン代表は,いやいや,ネパール政治は未熟でまだ自立できない,UNMIN任務は未達成であり,したがって国連関与がまだまだ必要だ,と主張する。

妙なことになってきた。ランドグレン代表は実質的には自らUNMINの失敗を認め,だからUNMIN任期延長か,それが無理なら看板を変えただけの国連監視機関の設置が必要だ,と主張する。彼女は,現状ではUNMIN管理下のPLA資料・武器弾薬・施設や宿営所運営監視権限をネパール政府には引き渡さないと明言しているから,いやでもUNMINか別名の国連機関が居残ることになるわけだ。そう彼女は要求していることになる。

ここに,ランドグレン代表とマオイストとの共闘ないし共犯関係が成立する。UNMINは停戦後平和構築に失敗したから,成功するまで(つまり半永続的に)ネパールに居残りたい,というのが,おそらく本音だろう。一方,マオイストも,ネパール首相が「UNMINはマオイストの金蔓だ」と喝破したことを,内心では,シカリ,その通りと認め,金蔓UNMINにいつまでも居残ってほしいと願っているようだ。ランドグレン代表は安保理でこんなことまで言っている――

「新政府の構築,マオイスト兵の国軍統合・社会復帰,新憲法の制定という最重要課題については,これまでほとんど進展がない。・・・・本日,UNMIN任期終了10日前の今でも,UNMINがその監視任務を引き渡すことのできるメカニズムは存在しない。UNMIN撤退後,何が起こるか分からない。・・・・UNMIN撤退が無法状態を生み出すおそれがある。」(Telegraph, 7 Jan)

正直というか,無責任というか,驚くべき発言だ。むしろ“私は停戦後平和構築に失敗したので,責任をとって辞任します”というべきではなかったか。

ネパールの政治家たちは実にしたたかだ。UNMINは,老練ネパール政治に翻弄され,さんざん搾り取られ,非難罵声を浴び,撤退していく。いや,撤退すら許されず,さらに搾り取られることになるかもしれない。酷な評価だが,テレグラフが次の言葉を記事の結びとしたのもやむをえないかもしれない。

「ランドグレンは,ネパール撤退(ouster)を屈辱の追放(ouster)と感じていると思う。」(Telegraph, 7 Jan)

(Telegraph, 7 Jan)

(注)UNMIN関連記事一覧は,右の「検索」かタグでご覧ください。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/08 at 12:56

PLA無条件引き渡し拒否,UNMIN代表

ランドグレンUNMIN代表が1月6日,政府とマオイストの合意が成立しなければ,停戦監視関係資料・武器弾薬・施設を政府に引き渡すことはしない,と宣言した。

ネパール政府は12月31日,UNMINは「特別委員会」(ネパール政府)に一切合切引き渡し,さっさと出ていけ,といった趣旨の書簡を国連に提出していた。ランドグレン代表発言は,これへの反論であり,UNMINは人民解放軍(PLA)を政府(UML,NC)に無条件引き渡しはしない,と明言したわけだ。

ランドグレン代表は,ネパール政府国連宛書簡について,「この書簡が特別委員会での合意を反映しておらず,暫定憲法からも大きく逸脱するものであることは明白である」と政府を激しく非難し,そして「UNMINは合意に基づく後継メカニズムを全面的に支援する用意がある」と約束している。

さらに,こうも語っている。ネパールには,マオイスト人民蜂起のおそれに加え,「副大統領が最近求めたような大統領統治のおそれや,国軍クーデターのおそれもあった。そうなれば,平和とネパールの虚弱民主主義は危機に陥っていたであろう。」

まるでマオイスト応援団のような感じがする。そうしなければ,いまの停戦が崩壊するからであろうが,ここにもUNMIN(国連)の立場の難しさがよく現れている。

これはUNMIN評価にかかわることでもある。ランドグレン代表は「UNMINは4年の任務を終了しネパールを去るが,その活動は国連の誇りというべきであろう」と自画自賛している。たしかに,国連・UNMINが人民戦争停戦実現に果たした役割は大きく,これは高く評価されるべきだが,その一方,この段階での撤退に追い込まれたことは,停戦後平和構築には失敗したと見ざるを得ないだろう。

安保理では,ネパール政府のギャンチャンドラ・アチャルヤ代表も,UNMINの貢献を讃えた。が,その一方,ネパール政府はUNMINの任務を「特別委員会」に引き継がせる,ときちんと釘を刺している。UNMINは不要だ,と安保理で明言したわけだ。

こうなっては,UNMIN存続はもはや無理であろう。国連はUNMINの後始末をどうつけるか? これは難しい。

* “No arms Handover Sans Accord: Landgren,” Republica, 6 Jan 2011

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/07 at 12:37

UNMIN延長拒否、ネパール首相

ネパール政府のランドグレンUNMIN代表宛書簡(12月31日)の内容が明らかになった。新聞報道によれば、マダブクマール・ネパール首相は、UNMIN延長を拒否し、人民解放軍(PLA)監視は「軍統合特別委員会」が引き継ぐ、と明言している。

国軍については、別のメカニズムをつくり、こちらに監視させる。国軍民主化も、国防省設置「国軍民主化委員会」にゆだねる。

要するに、UNMINは関係書類と施設・設備を引き渡し、さっさと出て行け、ということらしい。UNMINは、PLAの武器調査・保管、PLA戦闘員の資格審査・名簿作成、宿営所の運営監視などを担当しており、もし関係資料や施設をそっくり政府側に引き渡し撤退すれば、PLAは丸裸となる。国軍はめでたく国連監視から解放。反革命的名案だ。ネパール首相は本気だろうか?

マオイストは、ランドグレンUNMIN代表にプラチャンダ議長のUNMIN延長要請書簡を託しており、ネパール首相のこんなえげつないマオイスト攻撃を座視できるはずがない。

マオイストが頼りにするのは、皮肉なことに、今回もまたもっとも非民主的な機関である最高裁である。ネパール首相のUNMIN代表宛書簡を憲法違反として最高裁に訴え、無効判決を出させようというのだ。

ネパールは、いよいよ国家の体をなさなくなってきた。政府とマオイストが、正反対の要請書簡を国連(UNMIN)に送りつけ、国連のお裁きを請う。国内では、議会が解決すべき政治問題を非民主的最高裁に丸投げしてしまう。これが、世界でもっとも民主的な方法で選出された601人巨大議会の体たらくなのだ。

UNMIN任期終了まであと10日。現状では完全撤退は無理であり、政府、マオイスト双方の顔が立つよう、看板を書きかえ、実質的にはUNMINに近い任務を担う国連機関が設置される可能性が高い。

さて、その場合、世界展開を目指すわが中央即応集団派遣陸自隊員はどうなるのだろう。こちらも目が離せない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/04 at 12:09