ネパール評論

ネパール研究会

連邦制,希望から失望へ(1)

ネパールは2008年5月,制憲議会初会議において賛成560,反対4の圧倒的多数をもって王制を廃止し,連邦制の共和国となることを宣言した。「ネパールは,・・・・連邦民主共和国である」(2007年暫定憲法4(1)条[2008年5月29日改正])

この連邦制規定は,現行2015年憲法4(1)条に,そのまま継承されている。連邦制が,現代ネパールの最も基本的な国家理念の一つであることは明白である。

連邦制は,長年にわたる封建的中央集権支配への反発が強かっただけに,ネパールでは期待が極めて大きかった。西洋諸国を中心に国際社会も,民族やカーストあるいは地域,すなわち様々なアイデンティティを持つ社会集団に対する積年の根深い差別を解決できる制度として,連邦制の導入を物心両面で強力に支援した。

こうして,ネパールにおける連邦制は,社会集団の独自性や集団としての権利を特に強調する「アイデンティティ連邦制(identity federalism; identity-based federalism)」の側面が極めて強いものとなった。ネパールの人々は,その連邦制に政治の抜本的改革への希望を託したのである。

ところが,ここにきて,こうした連邦制評価やそれへの期待に対する批判が目に付き始めた。連邦制は,ネパール政治改革の特効薬であるどころか,むしろ逆に,混乱と浪費の根源であり,よくて実現不可能な観念論,悪くするとネパール国家を破滅させかねないというのである。

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■2015年憲法の州区分(Wikimedia Commons) / NEFINポスター(同HPより)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/25 @ 20:32

カテゴリー: 憲法, 民族

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