ネパール評論

ネパール研究会

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文化災害:朝のシェイクアウトで右往左往

今朝,スマホがケタタマシク鳴ったので,何事かと驚き画面を見ると,「シェイクアウト」緊急警報であった。えっ!!, シェイクアウト・・・・⁇

驚いて,手元の電子辞書(十数年前購入)を引いてみると,「大辞林」には,この語は無し。「ウィズダム英和」では―

shakeout = 株価暴落大改変

そうか,株暴落の緊急警報か,これは大変だ,とビックリし,あわててネットを見ると,株など,暴落してはいない。むしろ,バブル以来の高値,絶好調だ。

変だなぁと思って,スマホ画面をよく見ると,この緊急警報は,阪神淡路大震災記念日(1月17日)に合わせた防災訓練の一環であった。

むろん,震災記念日に避難訓練をするのは,効果的だ。が,避難訓練であれば,誰でもスグ,それと判るような,平易な言葉で警報を出すべきではないか? それなのに,少しばかり古いとはいえ,辞書にも載っていないようなカタカナ用語でーー

シェイクアウト! シェイクアウト!

と絶叫する。が,こんな,わけが分からん舶来カタカナ語では,訓練にも何にもならない。このような「人為的な文化劣化による文化災害」を防止しなければ,人為では如何ともしがたい多くの自然災害に効果的に備えることもまた難しくなる。

文化災害を防止し,自然災害に備えよ!

宝塚市総合防災課

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2024/01/17 at 18:40

キリスト教とネパール政治(6)

4.改宗の理由
キリスト教会がネパールで布教し信者を増やしたいと考えるのは当然だが,それではネパールの人々はどうしてキリスト教を受け入れ信者となるのだろうか?

キリスト教改宗の理由ないし動機は,むろん人それぞれだし,また1つだけとは限らない。英国ジャーナリストのピート・パティソンは,その記事「多くのネパール人がキリスト教に改宗するのはなぜか」(2017年8月30日)において,主な改宗理由を4つあげ,次のように説明している(*1)。(*2参照)

<以下,引用>
「これほど多くのネパール人がキリスト教徒になろうと決心するのはなぜなのか? その理由は少なくとも4つある。

第一に,ダリットの人々が,キリスト教を,カースト制から逃れさせてくれるものとみていること。ネパール全国クリスチャン連盟(FNCN)によれば,クリスチャンの65%はダリットである。[マクワンプル郡]マナハリの近くの村のダリット牧師によれば,『村の高位カーストの人々は,われわれダリットを犬以下として扱ってきたし,・・・・いまでもなお,たいていはそう扱っている。・・・・これに対し,クリスチャンの間では差別はない。・・・・われわれはみな平等だ』。

しかしながら,そうはいっても,キリスト教が社会諸集団の垣根を取り払いつつあるわけではない。たとえば,マナハリやその近辺の教会は,チェパンの教会,タマンの教会,ダリットの教会といったように,カーストや民族ごとにそれぞれ別に組織されているとみられるからだ。

第二に,多くの改宗者が,長患いや原因不明の病気が治った後で,クリスチャンになっていること。彼らは,この治癒を奇跡と語る一方,薬(折々教会が配布)も効くと考えている。まだ十分な社会保険制度がないので,シャーマンのところや病院に行くお金がない人々にとって,これは大きな動機である。似非科学的な似非医者が地方だけでなく都市部にもはびこっている現状では,これは驚くべきことではない。

[第三に]お金もまた,大きな動機である。多くの人にとって,キリスト教はヒンドゥー教よりも,要するに安上がりで済む。ある女性によれば,ヒンドゥー僧やシャーマンは,『ヤギとニワトリで太る』といわれるほど多くの贈り物を儀式のために要求する。教会も十分の一税――収入の十分の一を教会に納める――をキリスト教徒に期待してはいるが,私が話を聞いた信者たちによれば,これは強制ではないし,また献金の代わりに食料品を献上することもできる。

といっても,それだけではなく,キリスト教がビッグビジネスともなっている地域もある。ある牧師によれば,『金のためにクリスチャンになっている人が何人かいることは確かだ』。その資金の多くは,海外から,特にアメリカと韓国から持ち込まれる。マナハリのあるシャーマンが私にこう語った――『(キリスト教牧師たちは)強欲だ。・・・・彼らは,四六時中,外国にメールを送り,お金を無心している』。震災後,マナハリのクリスチャン住民や外国人クリスチャンは,物資支援に特に熱心であった。人々の中には,こうした活動を露骨なご都合主義と見る人もいる。たとえば,ある地元ヒンドゥー僧は,こう述べている――『震災後,・・・・聖書が米袋に入れ持ち込まれた。・・・・聖書は,あらゆるものと組み合わせ,持ち込まれた。・・・・彼らは,金を使ってキリスト教を宣伝している』(*1)。

[第四に]重要だが,しばしば見過ごされる理由もある――信仰だ。たしかに,キリスト教改宗ネパール人の多くは,健康,お金,被差別など極めて実用的な理由で改宗するが,一方,そのような改宗が純真な宗教信仰に人々を導くことも少なくない。さらに別の人々にとっては,クリスチャンになることは,それ自体,信仰上の事柄である。あるキリスト教牧師が私にこう語った――『ありとあらゆる宗教の本を読んだが,私の疑問に対する答えが見つかったのは,聖書を読んだ時である』」。
<以上,引用>

さすが,アムネスティ・メディア賞などを受賞したP・パティソン,バランスの取れた改宗理由のリアルな分析だ。

その一方,改宗の歴史的・文化的分析は少し弱いように思われる。キリスト教は,日本では西洋近代文明とともにやってきた。幕末・維新以降,近代化を急ぐ日本の人々は,キリスト教の中に近代化の諸原理や資本主義の精神を求め,学び,そして,そのうちの何人かはキリスト教に改宗した。

これと同じようなことが,今のネパールでも起きているとみて,まず間違いはあるまい。ネパールにおけるキリスト教改宗は,パティソンの改宗4理由をこのような歴史的・文化的理由でもって補足すれば,いっそう理解しやすくなるであろう。

  ■The Record HP(7 Apr 2018)

*1 Pete Pattisson, “Why many Nepalis are converting to Christianity,” The Wire, 30 Aug 2017
*2 Pete Pattisson, “They use money to promote Christianity’: Nepal’s battle for souls,” The Guardian, 15 Aug 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/04/07 at 18:07

ネパール大地震報告会: NGOカトマンドゥ

ネパール大地震(破壊と復興)報告会~水の森は死なず~

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2月28日(日曜日)午後2時00分より  入場料: 無料
穂高交流学習センター「みらい」(安曇野市穂高,電話0263-81-3111)
主催: NGOカトマンドゥ

参照
ネパールの復興支える 安倍泰夫さん(毎日新聞2015年9月14日)
安倍泰夫著『ネパールの山よ緑になれ』春秋社
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会場風景】(3月1日追加)
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【新聞記事】(3月2日追加)
ネパール復興支援活動報告 安曇野でNGO
昨年4月に起きたネパール地震で復興支援活動を続ける安曇野市のNGO「カトマンドゥ」が28日、同市内で初の報告会を開いた。約25年間にわたって植林をしてきた山村の被害の様子や、現在進めている耐震性のモデル住宅建設について紹介した。・・・・・・(朝日新聞デジタル2016年2月29日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/17 at 18:54

カテゴリー: ネパール, 国際協力

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ネパールの屋外広告: アサが来る

ネパールには,原色の赤と濃紺がよく似合う。これはメガ銀行と,その前面道路側の震災復興キャンペーン。

この銀行の建物は,以前はたしか英国文化会館。2階建てだったとおもうが,記憶違いかもしれない。いずれにせよ,なかなか趣がある。向かいは,これまた伝統的な選管の建物。隣は,およそ非文化的なアメリカンクラブ。英米といっても,文化的には大違いだ。

道路側は震災復興を願う「希望(アサ)の壁」。これは,「ベルリンの壁」,「イスラエル分離壁」などとは正反対。ネパールでは,壁には,レンガ造りの建物のように,目標に向け一つ一つ積み重ねていくという,積極的な意味もあるようだ。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/12/09 at 15:09

カテゴリー: ネパール, 文化

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建て替え進むキルティプル

カトマンズ近郊で伝統的景観がまだ奇跡的に残っているキルティプルの丘でも,震災を機に,建て替えが進み始めた。老朽化に地震被害が追い打ちをかけたためである。

地震被害は,当然ながら,古い家屋に多い。しかし,地盤の良いキルティプルの丘では,地震被害はそれほど大きくはなかった。古い家屋でも,多くは破損部分の修理で十分使用し続けられるように見えた。ところが,残念なことに,現実には修繕使用ではなく,取り壊し・建て替えがあちこちで始まった。

キルティプルは,カトマンズ市内からも空港からも40~50分。しかも,カトマンズやパタンは街並みが急速に近現代化し,伝統的文化遺産としての魅力を失いつつある。

この状況は,キルティプルにとっては,またとないチャンスであるはずなのに,気位が高いのか,ここの人々は,自分たちの街を観光地として売り出そうとはしていない。惜しい。

むろん,これは余所者外国人の勝手な感傷に過ぎないが,それにしても,返す返す惜しい。

▼伝統的家屋
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▼崩壊家屋
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▼建て替え現場/新築家屋(古い家屋の両側)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/28 at 19:20

カテゴリー: 経済, 文化, 旅行

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観光客,本当に少ない

地震後3か月たつというのに,観光客は本当に少ない。オフシーズンにはちがいないが,それにしても往きのタイ航空はガラガラだったし,カトマンズやパタンの観光地にも外人観光客はほとんどいなかった。中華街と化しつつあるタメルにも,中国人客はごく少ない。噂では,地震被害のほとんどなかったポカラ方面でも,観光客は激減だそうだ。これでは,観光業者は大打撃をまぬかれないだろう。

これは風評被害。震災復興のためにも,安全なところへの観光はもっともっと宣伝してしかるべきであろう。ネパール激励観光ツアー「ネパールで散財しよう!」。これは正常な経済活動であって,一方的な援助に伴う不愉快な副作用はない。大いに遊んで,そのことが結果的に震災ネパールの復興に寄与することになる。

150802a150802b■スンダラ付近/ジャタ付近

150802c150802d■ジャタ付近/タメル

150802e150802f■旧王宮

150802g■キルティプル近郊

谷川昌幸(C)

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2015/08/03 at 18:44

カテゴリー: 旅行

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中国プレゼンス,震災支援で急拡大

ネパールにおける中国のプレゼンス(存在感)が,急拡大している。小中学校に行くと,以前は「こんにちは!」などと声をかけられたが,いまでは「ニーハオ」だ。街には中国製品があふれ,あちこちで中国企業が工事をしている。

そして,それにダメ押ししたのが,震災救援活動。どこにいっても中国政府援助の青テントや「中国紅十字」の白テントが張られている。公園はむろんのこと,路地にも民家の庭にも中国援助テントはある。(個人購入中国製テントもあるかもしれないが,見ただけでは区別できない。)とにかく,ものすごい数。

援助国,援助団体などの間で援助地域割りがなされているのかどうか知らないが,首都圏を見るかぎり,メッセージは一目瞭然。中国は,目に見える形で,被災したネパールの人々を全力で支援している,ということ。

震災後のテント緊急援助は有効で,中国の支援は高く評価される。と同時に,その中国の震災救援作戦は,政治的にみても実に見事であり,羨望を感じざるをえない。なにはばかることなき大国のおおらかなふるまい――日本にはとうてい真似はできまい。

▼中国援助テント
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 ■トゥンディケル/ラーニポカリ

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 ■パタン

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 ■パタン/キルティプル

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 ■ムルク(バラジュ北西の村)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/08/02 at 18:59

カテゴリー: 国際協力, 中国

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仮設教室で憲法授業,ネパールの生徒たち

震災で校舎が損壊したネパールの学校では,テントや竹製の仮設教室をつくり,急場をしのいでいる。テントにせよ,竹を柱と壁に使用した竹製教室にせよ,寒暑,風雨などに十分対応できず,また音も筒抜けなので,授業はやりにくい。日本では想像もできないほど劣悪な授業環境だ。

そのような学校の一つが,カトマンズのスリョダヤ校。地震で本校舎が全壊,別棟の小さな数教室を除き,全教室を失った。そのため,USAID等のテント提供を受け,校庭にテント仮設教室をつくり,そこで授業を続けている。

そのスリョダヤ校で,先日,憲法制定議会の2議員を招き,いま最終段階にある新憲法をテーマに,特別授業が行われた。私は参加できなかったが,同校FBの写真からは,生徒たちが出席議員や先生たちを前に,盛んに意見を述べている様子がうかがわれる。

 全壊校舎跡のテント教室で,祖国の未来を託す新憲法について存分に議論する――なんと健気なことか!

ひるがえって,日本。冷暖房完備の快適な教室。雨も吹き込まなければ,蚊や蠅に悩まされることもない。ネパールの生徒から見れば,天国のような日本の学校で,いまどのような教育が行われているのか? どのような教育に変えようとされているのか? 日本で,憲法や国家の基本問題について,先生や生徒たちが自由に学び議論する権利は保障されているのか?

スリョダヤ校には,長年にわたって交流のある仲間たちと一緒に,ささやかながら再建支援を行っている。(参照:ネパール 震災支援 ムスムス

▼全壊校舎跡とテント仮設教室(7月15日)
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▼テント仮設教室で憲法特別授業(同校FBより)
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【参照】スリョダヤ校:フェイスブック ホームページ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/07/28 at 16:38

カテゴリー: 国際協力, 憲法, 教育

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マチェガオン付近の震災,散策にさして支障なし

23日午後,暇つぶしにマチェガオン付近をぶらぶらしてきた。下記のコース。

キルティプル⇒⇒バトケパティ⇒⇒ドゥドポカリ⇒⇒マチェガオン⇒⇒タウケル⇒⇒サルヤンスタン⇒⇒キルティプル

ちょっと長いが,特にドゥドポカリ~マチェガオン間は,乾季にはマナスルやランタンの山々が見えるし,カトマンズ市街方面の景色もよい。山麓沿いの,車もバイクも少ない絶好の散歩コース。

数日前から天候が変わり,初秋のような爽やかな風。途中の茶店でお茶を飲んだりしながら,のんびり半日を過ごした。

この小路沿いにも古いレンガ積みの家屋があちこちにあり,山麓の風景とよくマッチしていたが,地震でかなり倒壊してしまった。特に,古い村であるマチェガオンには,レンガ造りの趣のある家が多かったが,地震で相当数が倒壊した。残念だか,自然には手向かえない。

マチェガオンからタウケルに向かって緩やかに下っていく小路からは,両側にレンガ工場が見える。特に情緒があるのが,乾季の花と霧の季節,いつまで見ていても飽きない。

ところが,そのレンガ工場の煙突が,地震で折れてしまった。これでは情緒半減。レンガ工場は,半壊煙突でも震災後復興のためフル操業,周囲にはレンガ山積みだ。この景気なら,煙突など,すぐ直すだろう。

環境上問題もあろうが,霧に霞むレンガ工場の煙突は,菜の花の田園によく似合う。

▼伝統的家屋健在
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150725j■竹製の門

▼被災家屋
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150725e■寺院の塔上部も破損

▼レンガ工場の折れた煙突
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▼キルティプル遠望
150725k■稲田の白点は白鷺(のような鳥)

【参照】
カトマンズ市街の震災「軽微」,観光支障なし(2015-07-16
震災深刻

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/07/26 at 12:45

カテゴリー: 文化, 旅行

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パタン震災,観光にさして支障なし

パタン旧市街は,まだ古い家がたくさん残っているので,地震被害は,カトマンズ市街に比べ,はるかに大きい。いたるところで家屋がツッカイ棒で支えれている。見るからに痛々しいが,しかし,それでも倒壊は思ったより少ない。

寺院はいくつか倒壊したが,すでに瓦礫はきれいに片づけられ,見て歩くに特に大きな支障はない。寺院周辺の趣のある古い店や喫茶食堂の多くも健在。のんびり歩きながら,古き良きネパールを存分に楽しめる。

街では,いつものように山鉾を立て,祭りを楽しんでいた。収穫と雨の神様,マッチェンドラナートの祭らしい。ブンガマティのはずれに大きな山鉾が立っていたが,パタンのこの小ぶりの山鉾はそれを迎えに行くものという。地震被害で巡行は延び延びになっているが,それでも修理し何とか祭りをやろうとする。家々をツッカイ棒で支えつつ,祭りは楽しむ。やぼな自粛はなし。粋だ。

というわけで,パタン観光は,必要な注意さえしておれば,特に危険ということはない。危険性から言えば,バイクや車の方が,何倍も危険だ。傍若無人,凶暴とさえ言ってもよい。ネパール観光は大いに楽しみつつも,バイクと車には,くれぐれもご用心いただきたい。

▼ツッカイ棒で支えられる家屋や寺院
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▼伝統的家屋/寺院修理
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▼パタン・ダーバー広場
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▼1階お土産・2階食堂喫茶/果物屋さん
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▼マッチェンドラナート山鉾
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/07/25 at 15:04