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TwitterからXへ:改称の「神」秘への不安

「Twitter」が「X」に名称変更されたのは,2023年7月24日。この改称には当初から違和感があり,それが時とともに減少するどころか,逆にますます拡大してきた。「なぜだろう?」と不思議に思っていたのだが,クリスマスが近づいてきて,「あぁ,そうだったのか!」と,自分なりにその理由を得心させられるに到った。

■TwitterからX

「Twitter」は,「さえずる/さえずり」という意味で,140字の自由投稿アプリに相応しい命名であり,楽しく有意義に利用させていただいていた。ところが,これが「X」へと改称されると,もはや,そうはいかなくなった。

「Twitter」を買収したE・マスク氏は「X」への改称を,あらゆる情報のためのスーパーアプリ(everything app)とするため,と説明した。ドメイン「x.com」を所有し,「スペースX」を創設したマスク氏らしい。

が,小心臆病の私には,そのような万能スーパーアプリをめざす「X」は,当初から,どことなく薄気味悪く,怖気づかざるをえないようなものだった。「ニッポニカ」百科は,文字 “X” について,こう説明している―

「Xはキリストを表し,クリスマスはX’masと書くことがある。化学ではキセノンの元素記号であり,数学ではXは第一未知数(量)を表し,そこから転じて未知の人間や事物を示すのに用いられる」(斎藤公一)。

X」は,始原であり無限であり未知,そして(キリスト)である。

■ツイッター開始画面:暗黒=無から神の如く出現する「X」。[背景が白⇒黒と変化することもある]

マスク氏自身は,「X」アプリが宗教的意味を持つとは言っていないが,それが “あらゆる情報のためのアプリ” を目指すとすれば,そこに宗教的な意味が生じてくるのは自然であり必然ともいえよう。「X」が,アクセスのたびに,多かれ少なかれ「怖れ」を感じさせるのは,そのためなのだ。

クリスマスが近づき,巷にあふれる “mas” を目にするようになってはじめて,「あぁ,そうだったのか!」と気付かされた次第。いまさらながら。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/12/17 at 09:32

カテゴリー: 言語, 宗教, 情報, 文化

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生成AI問答(4): ネパールの人々は,彼ら自身の国家の世俗化について,どう考えていますか?

宗教は,国歌以上に難しい。取り扱いを誤れば,内乱,戦争で国家破滅となりかねない。要注意の最たるものだ。そんな難問中の難問について,生成AIは,どのような回答を示してくれるだろうか?

この問いを尋ねるのに最も適した国の一つが,ネパール。ネパールは,古来,ヒンドゥー教や仏教と密接な関係にあり,またイスラム教も一定の確たる勢力を――特に南部で――保持してきた。

そこに,1990年以降の自由化・資本主義化の進行とともに,とりわけヒンドゥー教を国教とする憲法規定の廃止以降,キリスト教がツナミの如くどっと押し寄せてきた。ネパールはいま,一方でのヒンドゥー教vs仏教vsイスラム教vsキリスト教という宗教競合に加え,他方での全般的な世俗化・脱宗教化の進行という,宗教政策的に見て非常に難しい状況にあると言わざるをえない。この難問に関する生成AIへの今回の具体的な質問文は,表題の通り。

Bing回答①は,情報不足の上に,マオイスト運動高揚を1990年とし,またヒンドゥー教を「国家宗教」としており,まったくの誤り。マオイスト運動開始は1996年だし,宗教については,ネパール憲法(2007年暫定憲法/2015年現行憲法)が「世俗国家」」と明確に規定している。文章作成が優先し,適正な情報の抽出・結合を誤ったのであろう。

Bing回答②は,①と全く同じ質問文を,数時間後に投稿してみて得られたもの。驚くなかれ,上記①とは全くの別物。情報不足は如何ともしがたいが,誤りではない。AIは同じ問でも異なった回答を出すことがある――要注意だ!

ChatGPT回答(質問&回答=Google翻訳使用)は,懇切丁寧で,見事。AIによる回答と自動翻訳のあまりのスゴさに,思わす寒気さえ感じるほどだ。

*****<以下,生成AI回答>*****
[1a] Bingの回答①(質問&回答=日本語)
ネパールの人々は、国家の世俗化について、様々な意見を持っています。1990年には、大規模な人民運動が起こり、王制の廃止と世俗国家の実現を目指すマオイストの活動が高まりを見せました。しかし、2015年には、ネパールは世界で最も多様な宗教を持つ国家の一つであり、国民の約80%がヒンドゥー教徒であるため、政府は国家宗教としてヒンドゥー教を認めることにしました。

[1b] Bingの回答②(上記①の数時間後の回答,質問&回答=日本語)
現在のウェブページによると、ネパールの憲法は、世俗的であることを明記しています。ネパールの憲法は、国家が宗教的に中立であることを保証するために、世俗主義を採用しています。

[2] ChatGPTの回答(質問&回答=Google翻訳使用)
ネパールの世俗化は国内で物議をかもしている問題であり、それについての意見はネパール人の間でさまざまです。

一部のネパール人は世俗主義を支持しており、世俗主義が異なる宗教や民族グループ間の平等と寛容を促進すると信じています。 彼らは、国が宗教に関して中立を保ち、個人が自由に宗教を実践する権利を有することを保証する必要があると主張している.

しかし、世俗主義に反対するネパール人、特にヒンズー教徒を自認する人々も多い。 彼らは、ネパールはヒンズー教の国であり、世俗主義が彼らの宗教的信念と伝統を弱体化させていると信じています。 彼らは、ネパールのアイデンティティと文化はヒンズー教と結びついており、世俗主義がこれらの価値観を侵食する恐れがあると主張している.

全体として、ネパールにおける世俗主義の問題は依然として論争の的で複雑なものであり、意見は宗教的、文化的、政治的信念の影響を受けることが多い.
*****<以上,生成AI回答>*****

230505 ■連日AI報道(朝日新聞2023/05/05)

【参照】
*  宗教関係投稿一覧
*1 キリスト教牧師に有罪判決(1)-(5)
*2 キリスト教攻撃激化と規制強化(1)-(6)
*3 キリスト教とネパール政治(1)-(10)
*4 改宗勧誘・宗教感情棄損を禁止する改正刑法,成立
*5 「宗教の自由」とキリスト教:ネパール憲法の改宗勧誘禁止規定について
*6 キリスト教政党の台頭
*7 キリスト教会,連続攻撃される
*8 クリスマスを国民祭日に戻せ,キリスト者連盟
*9 キリスト教絵本配布事件,無罪判決
*10 改宗の自由の憲法保障,米大使館が働きかけ
*11 改宗勧誘は禁錮5年,刑法改正案
*12 世俗国家大統領の寺院「公式」参拝
*13 震災救援の複雑な利害関係(12):支援食品「牛肉マサラ」
*14 ヒンドゥー教王国復古運動,RPP-N
*15 宗教問題への「不介入」,独大使
*16 改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント
*17 国家元首のダサイン大祭参加
*18 世俗国家のダサイン
*19 国家世俗化とキリスト教墓地問題
*20 信仰の自由と強者の権利
*21 民族紛争、宗教紛争へ転化か?
*22 宗教と「表現の自由」:ヒンドゥー教冒涜事件
*23 民族州と「イスラム全国闘争同盟」結成
*24 世俗国家ネパールのクリスマス祭日
*25 仏教の政治的利用:ガルトゥング批判
*26 国家世俗化とネパール・ムスリムのジレンマ
*27 イスラム協会書記長,暗殺される
*28 ブッダ平和賞における政治と宗教
*29 毛沢東主義vsキリスト教vsヒンズー教
*30 コミュナリズムの予兆(1)-(7)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/05/05 at 13:42

キリスト教牧師に有罪判決(5)

4.ケシャブ牧師訴追批判
ケシャブ・アチャルヤ牧師の逮捕・訴追については,ネパール内外のキリスト教関係諸機関が厳しい批判を繰り広げてきたことはいうまでもない。たとえば――

▼宗教の自由国際ラウンドテーブル(IRFR)公開書簡(2021年7月19日付)
「[当局の行為は]ネパール憲法の保障する法の支配を無視し,言論信仰の自由を不法に制限するものだ。このままであれば,アチャルヤ牧師の逮捕・再逮捕が悪しき前例となって,憲法26(1)条の定める安全保障がさらに掘り崩され,キリスト教徒や他の少数派諸宗教の人々は,自分たちの宗教信仰の自由を制限され,信仰の大原則を単に表明することさえ困難になってしまうだろう。」(*8)

▼メルヴィン・トマス(Christian Solidrity Worldwide 代表)
「ケシャブ牧師への嫌疑には全く根拠がない。彼の扱いは,正義に反する重大な過ちである。・・・・ネパールには,宗教信仰の自由への権利の保護促進を図っている国際社会の努力を尊重していただきたい。」(*8)

▼タンカ・スベディ(Religious Liberty Forum Nepal 議長)
「アチャルヤ裁判では,民主的世俗的ネパール憲法のもとでの最初の判決が下された。その判決は,ネパール憲法の精神を掘り崩すものであり,不当である。言論の自由や信仰告白の自由を台無しにし,少数派を抑圧するものだ。」(*14)

▼B.P.カナル(Nepal for the International Panel of Parliamentarians for Freedom of Religion or Belief ネパール代表)
「アチャルヤ逮捕の経緯だけをみても,その逮捕が不当なもので,キリスト教に対する計画的な行為であったことは明らかである。」(*14)

ここでB.P.カナルが指摘しているように,ケシャブ・アチャルヤ牧師の逮捕・訴追は,おそらく「計画的な(pre-planned)」権力行使であろう。妻ジュヌ牧師もこう指摘している。

▼ジュヌ・アチャルヤ牧師
「ケシャブ牧師の逮捕・有罪判決は,キリスト教社会全体に対する警告です。彼らは,ケシャブを処罰すれば,その有罪判決を見てキリスト教徒たちが学ぶだろう,と考えています。」(*14)

5.宗教と構造的暴力
ケシャブ牧師の逮捕・訴追につき,キリスト教会側が,内外声をそろえて,信仰の自由への権利を根拠に,ネパール政府当局を厳しく批判するのは,もっともである。信仰の自由は,もっとも重要な万人に保障されるべき基本的人権の一つである。

が,一方,その信仰の自由といえども,社会の中で行使されるのであり,社会の在り方と無関係ではありえない。

とりわけネパールのように,世界的にはむろんのこと,国内社会に限定しても,経済,教育,健康など多くの領域において構造的暴力の犠牲になっている人々がまだまだ多い場合には,たとえ信仰の自由といえども,その現状を十分踏まえ行使されなければならない。

たとえば,次のような報告。善意に疑いはないが,非キリスト教徒のネパールの人々がこれを読んだら,どう感じるか? いわずもがな,であろう。

「世界クリスチャンデータベースの数字によると,ネパールは世界で最もキリスト教人口が増加している国の一つだ。・・・・

改宗は違法のままだが,ほとんど実効性はない。キリスト教団体は社会的支援などのために入国し,その多くは活動とともに福音を伝えた。・・・・

C4Cの提携宣教団体『救い主だけがアジアの人々を贖う(SARA)』のテジュ・ロッカ牧師は,『彼らは病気の人や壊れた家族を見つけては話し掛けて祈りました。すると奇跡的にその人たちが確信を持ち,キリストに従い始めたのです』と述べた。『彼らは人々に,幾らかの食料と衣服を寄付しました。そのため,人々は彼らに耳を傾け始めたのです』」(*3)

【参照1】
*3 なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, christiantoday.co.jp,翻訳:木下優紀, 2016/02/09
https://www.christiantoday.co.jp/articles/19022/20160209/nepal.htm
*8 Religious freedom groups call for dropping of charges against pastor in Nepal, LiCAS, 2020/07/28
https://www.licas.news/2020/07/28/religious-freedom-groups-call-for-dropping-of-charges-against-pastor-in-nepal/
*14 Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28
https://www.licas.news/2020/07/28/religious-freedom-groups-call-for-dropping-of-charges-against-pastor-in-nepal/

【参照2(2022/01/28追加】
「それでも、明治政府が天皇を「万世一系」「神聖不可侵」と定義したことには歴史的必然性があることは僕も認めます。幕末にアジア諸国を次々と植民地化してきた欧米帝国主義列強の圧倒的な経済力・軍事力の背景には白人種を人類の頂点とみなすキリスト教的コスモロジーがありました。だから、日本が列強に対抗するには、黒船だけではなくキリスト教にも対抗しなければならなかった。・・・・僕は神仏分離による日本の伝統的な宗教文化の破壊を悲しむものですけれども、「一神教文化に対抗する霊的な物語を創造しないと列強に対抗できない」という政治判断自体にはそれなりの合理性があったと思います。」内田樹「天皇制についてのインタビュー」『月刊日本』2022年2月号

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/15 at 17:58

キリスト教牧師に有罪判決(4)

3.事件の経過:2020年3月~2021年12月
ケシャブ牧師は,2020年3月の最初の逮捕から現在まで2年近くにわたり裁判を闘ってきた。その経過の大要は,以下の通り。

2020年3月23日
ポカラのカスキ郡警察が3月23日,コロナに関するデマ(虚偽情報)拡散の容疑でケシャブ牧師を逮捕(1回目)。根拠法は報じられていないが,刑法の虚偽情報拡散禁止(84条)などの規定に依拠しているものと思われる。

警察によれば,ケシャブ牧師は,2月22日にユーチューブに投稿し,そこで,神にお祈りすれば,コロナは治る,神がコロナを死滅させてくれる,と説教したという。

牧師自身は,この2月22日のユーチューブ投稿それ自体は全面的に否定しているが,同趣旨に近い発言であれば,牧師は繰り返し行っている。たとえば―

「コロナよ,退散し死滅せよ。主イエスの御力で,お前らの行いがすべて根絶されんことを。主イエス・キリストの御名により,汝,コロナよ,お前を叱責する。その創造の御力,その統治者によりて,汝を叱責する・・・・。主イエス・キリストの御名により,その御力で,コロナよ,立ち去り死滅せよ。」(*8,9,11)

2020年2~3月頃は,ネパールのコロナ感染はまだ始まったばかりであったが,世論はこの未知のウィルスに過敏に反応し緊張が高まっていた。そうした情況で,たとえユーチューブ投稿ではなくても,かりにそうした趣旨の発言が集会か何かにおいてなされていたとするなら,それがかなり危険な発言であったことは,おそらく否定できないであろう。

この3月23日のケシャブ牧師逮捕時の状況について,妻のジュヌ牧師は,こう説明している。彼女によると,その日,一人の男がポカラの牧師宅に来て,コロナに感染した妻のために祈ってほしい,とケシャブ牧師に頼んだ。そして,(お祈りが済んで?)男が出ていくと,すぐ警官が入ってきて,コロナに関するデマを流したという嫌疑でケシャブ牧師を警察署に連行していったという。この説明は,ユーチューブ投稿との関係は不明だが,説明そのものとしては具体的だ。牧師逮捕時の状況は,おそらくそのようなものであったのであろう。

2020年4月8日
ケシャブ牧師は,ポカラのカスキ郡拘置所から保釈金5千ルピーで保釈されたが,その直後,再逮捕(2回目)。今回の容疑は,宗教感情の毀損(刑法156条)と改宗教唆(刑法158条)。

2020年4月19日
カスキ郡裁判所が,保釈金50万ルピーでの保釈を決定するが,牧師は保釈金を納付できず,拘置継続。

2020年5月13日
ケシャブ牧師は保釈請求が認められ保釈されるが,直ちに警察により別の容疑で逮捕され(3回目),そのまま身柄を遠隔地のドルパ郡警察に送られてしまった。

ドルパ郡は,ヒマラヤ奥地の高地で人口3万人余。そのうち「ドルポ」が面積の大半,人口の約半数を占めている。車道はまだ通じておらず,徒歩,馬などで3日間は移動しないと,ここには行くことが出来ない。ケシャブ牧師も,両手を後ろ手に縛られ,3日間かけてドルパに連行された。

ドルパ郡警察によると,ケシャブ牧師の逮捕理由は,牧師がドルパで住民にキリスト教パンフレットを配布し改宗を勧めた容疑。これに対し,牧師は,パンフレット配布は認めたが,改宗を勧めたことは否定した。警察側は,改宗を勧められた証人がいると主張したが,法廷には,結局,その証人は現れなかった。

2020年6月30日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師の保釈決定。保釈金30万ルピーで牧師保釈。

2021年11月22日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師に対し,宗教感情毀損と改宗教唆の罪で有罪判決。牧師は直ちに収監。

2021年11月30日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師に対し,禁錮2年,罰金2万ルピーの判決を言い渡す。

2021年12月19日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師の保釈を決定。

カスキ郡裁判所
ドルパ郡裁判所

【参照】
*1 ネパールの改宗禁止法、信教の自由を侵害する恐れ 専門家が警告, christiantoday.co.jp, 翻訳:木下優紀,2015/07/22
*2 ネパール:昨年の大地震後、教会の数が著しく増加 聖公会の執事区が近況報告,christiantoday.co.jp, 記者:行本尚史, 2016/02/05
*3 なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, christiantoday.co.jp,翻訳:木下優紀, 2016/02/09
*4 ネパール、国の祝日からクリスマスを除外 キリスト者側が反発, christiantoday.co.jp, 2016/04/11
*5 ネパールで「改宗禁止法」成立、大統領が署名 キリスト教団体が懸念,christiantoday.co.jp,翻訳:野田欣一,2017/10/29
*6 Police arrest pastor who said those believing in Christ are safe from coronavirus, Onlinekhabar, 2020/03/24
*7 Pastor in Nepal Re-Arrested, Morning Star News, 2020/05/15
*8 Religious freedom groups call for dropping of charges against pastor in Nepal, LiCAS, 2020/07/28
*9 Nepal sentences pastor to two years for conversion, UCA News, 2021/12/01
*10 Pastor Sentenced to Prison for Evangelism, Christian Solidarity Worldwide, 2021/12/02
*11 Pastor in Nepal sentenced to 2 years in prison for saying prayer can heal COVID-19, by Anugrah Kumar, Christian Post, 2021/12/05
*12 ネパールの牧師、新型コロナ感染症のために祈ったことで禁錮2年, Christian Today, 2021/12/10
*13 KESHAV RAJ ACHARYA,Church in Chains,2021/12/15
*14 Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/06 at 17:23

カテゴリー: ネパール, 司法, 宗教, 人権

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キリスト教牧師に有罪判決(3)

2.牧師夫妻とその教会
ケシャブ・ラジ・アチャルヤ(33歳)さんとその妻ジュヌ・アチャルヤさんは,ともに,アバンダント・ハーベスト教会(प्रशस्त कटनी मण्डलि)の牧師。子供は,2歳と7か月の男子二人。

このアバンダント・ハーベスト教会はプロテスタント系のようだが,そのどの教派に属するかまでは,ネット情報からだけでは不明。それでも,フェイスブックなどを見ると,夫妻の教会が活発に活動し,多くの人々を集めていることは確かなようだ。

夫のケシャブ牧師はまだ33歳。妻も同年代であろう。にもかかわらず,5年前,ポカラから十数キロ東のレクナートに「アバンダント・ハーベスト教会」を開き,メンバーは400人にもなっているという。そして,ほんの数か月前にはポカラに別の教会をつくり,これもメンバーは80人に達しているという。(ケシャブ牧師投獄のためポカラの教会を閉鎖したとされるが,詳細不明。)

フェイスブックやユーチューブでみると,ケシャブ牧師はたしかに情熱的で雄弁,その魅力で多くの人々を引きつけ,夫妻の教会を急成長させてきたのであろう。

なお,ポカラ付近にも,キリスト教会は,驚くほどたくさんある。下掲地図はレクナートを含む広域だが,地図を拡大すれば表示教会数はまだ増えるし,またグーグル登録されていない小さな教会も相当数あるに違いない。ケシャブ牧師逮捕事件の背景には,こうした地域の宗教状況の大きな変化もあるとみてよいであろう。

ケシャブ・アチャルヤ牧師(FB)
ジュヌ・アチャルヤ牧師(FB)
ポカラ付近の教会(グーグル検索church+in+Kaski)

【参照】
ネパール:昨年の大地震後、教会の数が著しく増加 聖公会の執事区が近況報告, 記者: 行本尚史, christiantoday.co.jp, 2016/02/05
なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, 翻訳: 木下優紀, christiantoday.co.jp, 2016/02/09
Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/04 at 14:45

カテゴリー: ネパール, 宗教, 憲法, 人権

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キリスト教牧師に有罪判決(1)

年末はクリスマスの季節,ネパールでも聖俗関連行事が年々盛んになってきたが,その一方,それに危機感を募らせる勢力によるキリスト教攻撃も半ば年中行事化してきた。

今年も,いくつかキリスト教攻撃事件があったが,ネパール国内にとどまらず世界的なニュースとなったのが,ケシャブ・ラジ・アチャルヤ牧師の裁判。

ケシャブさんは,ポカラの「アバンダント・ハーベスト教会」の牧師だが,その教会活動を通して人びとをキリスト教に改宗させたり,人びとの宗教感情を毀損したとして逮捕され,裁判にかけられ,この11月30日,ドルパ郡裁判所で禁錮2年,罰金2万ルピーの有罪判決を言い渡された。

この判決が出ると,欧米のキリスト教会が直ちに厳しい抗議声明を出したし,またネパールでも抗議の声が高まりつつある。

ネパールは,いまや世界で最もキリスト教徒の増加率の高い国の一つ。そのネパールにおいて,情熱的な説教で人気の高いケシャブ牧師が,その教会活動を違法とされ,有罪判決を下された。牧師側は上訴するであろうが,その上級審での裁判や,裁判の進行とともに展開されるであろう抗議活動は,今後どうなっていくのであろうか? 争点が宗教だけに,成り行きが心配される。

【参照】キリスト教攻撃激化と規制強化 キリスト教関連記事 

▼クリスマス満載の新聞

■ゴルカパトラ(2021/12/25)
■ヒマラヤン(2021/12/25)

▼アバンダント・ハーベスト教会/ ケシャブ牧師

■アバンダント・ハーベスト教会(Google)
■ケシャブ牧師(FB)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2021/12/27 at 17:22

京都の米軍基地(119):現場に切り込まない朝日「現場へ!」(4)

5.宗教活動としての「良き隣人」
「良き隣人」としての駐留米軍が,もう一つ熱心に取り組んでいるのが,宗教活動。そもそも「良き隣人」とは,換言すれば「隣人愛」のことであり,これはもともとキリスト教の最も大切な教えの一つだ。

「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」(マタイ 22:39)

「良き隣人」や「隣人愛」が一般的な意味を持つことはいうまでもないが,キリスト教文化圏で使用された場合,それが多かれ少なかれキリスト教的含意を持つことは,まず否定できないであろう。

したがって,「良き隣人」たれと教えられ,また地元からもお願いされた米軍が,これ幸いと自ら積極的にクリスマス,イースターなどのキリスト教関係イベントをしばしば開催し,地元住民,とりわけ子供たちを招き,ご馳走し,ゲームをし,聖歌を歌い,楽しく交流するのは当然といえよう。こうして駐留米軍は,キリスト教を利用して米国文化を地域住民に刷り込み,親米感情・親米軍感情を育んでいくのだ。

むろん,キリスト教それ自体は最も尊敬すべき宗教の一つだし,米軍人・軍属の中には他宗教や無宗教の人もいることは,言うまでもない。米軍人・軍属の宗教は,無宗教も含め,私人としては,その自由を尊重されなければならない。問題は,彼ら軍隊による宗教の政治利用。これは極めて危険であり,断じて許されてはならない。


■クリスマス会ポスター/米軍サンタがプレゼント(14MDB:FB2019/12/15一部修正)

6.お願いではなく権利の主張を
このように見てくれば,治外法権的米軍基地を受け入れ,米軍人・軍属に様々な特権を認めたうえで,その彼らに地域住民の「良き隣人」であってほしいとお願いするのは,自尊心なき植民地根性,あまりにも卑屈と見られても致し方あるまい。

地域住民は,最高法規たる日本国憲法により人および国民としての諸権利が保障されている。それらの権利は,「お願い」ではなく,法的な「権利」として主張されるべきだ。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」(憲法12条)

■災害復旧支援も米語会話教室も軍服(朝日夕刊2020/4/30,一部修正)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/11 at 11:02

奄美の自然とその破壊(3)

3.カトリック信仰の村々
予備学習なしだったので全く知らなかったのだが,奄美にはカトリック教会がたくさんある。カトリックは,ある意味,柔軟であり,伝統文化をうまく取り入れ,地方ごとの特色ある教会をあちこちにつくっている。奄美でも,そうした趣が見て取れる。

奄美のキリスト教は,1891年にパリ外国宣教会フェリエ神父の来島に始まり,以後,各地に教会が建てられ信者も増えていったが,国粋化・軍国化につれ信者迫害が激しくなり,教会施設も破壊されたり事実上没収されたりした。また戦争末期には,空襲を受け,名瀬聖心教会などが破壊された。奄美の教会は,そうした苦難を乗り越え,今日に至っているのである。現在の信者数は人口の6%ほど。ちなみに長崎は4%余。

今回は,それら奄美の教会のうち,通りすがりに目にした大笠利教会,瀬留教会,知名瀬教会の3教会を見学してきた。

いずれも南国奄美らしい趣のある教会で,たまたま来られていた信者さんが教会の由来や現状について親切に説明して下さった。

▼大笠利教会
■礼拝堂
■歴代司祭
■ガスボンベ利用募金箱

▼瀬留教会
 

▼知名瀬教会
■全景
■玄関
■マリア像

▼奄美の教会(名瀬聖心教会HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/09/14 at 11:09

カテゴリー: 自然, 宗教, 文化, 旅行

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ゴビンダ医師のハンスト闘争(39)

10 参考資料
 (1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」
 (2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」

(3)D・カイネー「無為無策の5か月」リパブリカ,2018年8月7日

—————————————
デイビッド・カイネーは極西部出身,トリブバン大学卒。Revival Ministry Nepal ( RMN )代表。人身売買防止,貧困救済等の社会活動に尽力。「リパブリカ」,「カトマンズ・ポスト」等への寄稿多数。この「無為無策の5か月」では,オリ政府の強権化・利権化を阻止し人民の利益を実現するには,市民社会自身が立ち上がるべきだと訴えている。
*David Kainee, “Five months of inaction,” Republica, August 7, 2018
—————————————

KP・シャルマ・オリ政府は,発足後5か月を経過した。その業績は,どう評価されるべきか? 昨年の地方,州,連邦の3選挙において,人民は共産党連合(現在は統合されネパール共産党)に未曽有の大勝利を与え,これによりオリは,近年のネパールにおいて最強の政府を率いることになった。首相は,「ネパール人の幸福,ネパールの繁栄」を約束したのであり,人民は,その約束の実現に向けての確かな前進を期待した。

ところが,オリ政府は次々と問題を引き起こした。政府は権威主義だという批判もあれば,議会で三分の二を握ったため傲慢になっているという声もある。[……]

先月[2018年㋆],政府は,医学教育改革の旗手ゴビンダ・KC医師に対し,この上ない傲慢さと無神経さを示した。政府は,ケダル・バクタ・マテマ委員会勧告無視の国民保健教育法案[医学教育法案]を通そうとした。[これを阻止するための]サティアグラハを行うためKC医師がジュムラに向かうと,ジュムラ郡当局は,連邦政府の要請を受け,抗議行動禁止場所を指定した。そのため,KC医師は,地域病院の暗い部屋で抗議行動を始めざるをえなかった。

オリは,KC医師の品位を汚すようなことを言った。人民の守護者として働くのではなく,自国の高貴な魂と敵対する権力者としての立場を,オリは自ら選び取った。KC医師が意識を失ったときですら,政府はそれを無視した。市民社会やメディアからの圧力が大きくなり始めてようやく,政府は交渉に転じ,結局は彼の諸要求を受け入れることに同意した。このときまでに,以前は愛国的指導者と見られていたオリの評価は,大きく損なわれてしまった。いまや彼は,コネ資本家どもの守護者と見られるようになった。

[オリ政府は公共交通や開発基金など他の諸課題についても,当初は改革を掲げたものの,実際には実行しなかった。……]

ウジャン・シュレスタ殺害事件で]有罪判決を受けたバル・クリシュナ・ドゥンゲルに対する大統領恩赦についても,政府は,多くの人々が指摘してきたように,マオイスト幹部と結託して,これを承認した。司法は政治化されてしまった。首相をはじめ大臣たちは,言葉でも行動においても,傲慢であり不寛容である。2006年人民蜂起において中心的な役割を果たしたわれわれ市民社会は,身内第一の諸政党とは距離を取り,自らを復活させる必要がある。[……]

■RMNフェイスブック

■Jeremy Snell, “David of Nepal,” (Video)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/15 at 18:44

キリスト教攻撃激化と規制強化(6)

5.二つの自由の難しさ
ネパールのこうしたキリスト教布教問題は,理念的には「二つの自由(権利)」の問題であり,単純明快な解決は難しい。
 【参照】信仰の自由と強者の権利(2013/04/15)

すでにふれたように,自由や権利には,形式的なものと実質的なものの二種類がある。一つは,国家や社会からの干渉を受けず個々人の意思で行為できる形式的自由ないし「消極的自由(negative freedom)」。もう一つは,人々の置かれている経済的・社会的・政治的状況を考慮し,積極的格差是正措置などにより実質的に自由を実現していく実質的自由ないし「積極的自由(positive freedom)」。

最もわかりやすいのが「契約の自由」。自由意思による契約は,われわれの最も基本的な自由ないし権利の一つだが,もし当事者の置かれている諸状況を度外視し,契約を当事者の意思だけにまかせたら,どうなるか?

いうまでもなく「契約の自由」は,そこでは「強者の自由」となる。たとえば,企業には労働者を徹底的に搾取する自由が,労働者には非人間的雇用に甘んじるか,さもなければ餓死するかの自由が保障される。弱者の労働者にとって,それは名だけの形式的な自由にすぎない。このことは,他のあらゆる自由についても多かれ少なかれ妥当する。

ネパールのキリスト教は,先述のように欧米やアジアの先進富裕諸国に支援されているとみられている。これは相当程度,事実である。もしそうだとすると,ネパールにおいて,その実質的不平等の状況を無視し万人の「宗教の自由」を唱えると,それはネパール国内では少数派弱者であっても先進富裕諸国に支援されている強者たるキリスト教にとって圧倒的に有利な,強者の自由ということになる。ネパールのキリスト教反対派は,それを問題にしているのである。

「宗教の自由」は最も根源的な自由であり,万人に保障されなければならない。では,それをどう保障するか? 形式的に平等な自由保障と,実質的に平等な自由保障をどう関係づけ,宗教の自由を公平に保障するにはどうすればよいか? ネパールはいま,宗教の自由をめぐる問題でも,世界で最も注目すべき国の一つなのである。

 

*1 Devendra Basnet, “Targets of ‘zealous’ Christian missionaries speak up,” Republica, 7 May 2018
*2 “Four more churches attacked in Nepal,” Sight(World Watch Monitor), 17 May 2018
*3 “6 Christians Arrested, 4 Churches Attacked, Bombed in Nepal,” Christian Today, 7 June 2018
*4 Alex Anhalt, “New pressure faces Nepalese Christians,” Mission Network News, 12 June 2018
*5 Gary Lane, “Christians Forced Out of Nepal; Persecution Intensifies,” CBNNEWS.COM, 07-17-2018
*6 “Foreign Christian Couple Deported from Nepal on Conversion Charges,” Persecution.org, 2018/07/12
*7 “Pressure on Christians Heats Up in Nepal,” Morning Star News, 13 July 2018
*8 “Assault on Christian Leader in Nepal Reflects Growing Threat,” Morning Star News, 31 July 2018
*9 Pete Pattisson, “ ‘They use money to promote Christianity’: Nepal’s battle for souls,” The Guardian, 15 Aug 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/08/12 at 15:05