ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

民主化と兵役義務:ネパール新憲法

ネパールの憲法論議は,いまでは多くの点で日本よりはるか先を行っている。第三の性,女性50%クォータ制など。日本人は,礼を尽くし,謙虚に教えを請うべきだろう。

1.国民の兵役義務
この13日にも,注目すべき決定が下された。憲法問題政治調整委員会(CDCC:Political dialogue and Consensus Committee, バブラム・バッタライ委員長)が,全国民の兵役義務を新憲法に明記する案を全会一致で採択したのだ。

兵役義務については,先の第一次制憲議会でも議論されていた。この議論は,2014年1月発足の第二次制憲議会でも継承され,マオイスト(UCPN-M)のバブラム・バタライ幹部を委員長とするCDCCで審議されてきた。

委員会では,「国家必要時の国家奉仕は全国民の義務である」ということについては異論はなかった。それを認めた上で,国家奉仕義務のあり方で意見は二つに分かれた。
 (A)マオイスト,労農党:18歳以上の全国民に軍事教練を義務づける
 (B)コングレス,統一共産党,マデシ諸派:国家必要時の兵役を全国民に義務づける

よく似ているが,A案は,18歳以上の男女全国民への軍事教練が必要になる。やり方にもよるが,莫大な経費が必要。これに対し,B案は,徴兵制であり,国家が必要なとき,国民に兵役義務を課すということ。これなら,平時には,それほど経費はかからない。

CDCC委員会では,審議の結果,いつものように二案折衷で決着した。すなわち,「国家必要時の国家奉仕は全国民の義務である」,したがって「国家必要時の兵役は全国民の責任である」。

この折衷案が「軍事教練」を含むかどうかは,あえて曖昧なままとされている。が,いずれにせよ,これは国民男女皆兵であり,この案が制憲議会で採択されれば,新憲法の「国民(市民)の義務」の章に記載されることになる。(第二次制憲議会は,2015年1月22日までに新憲法を制定することを公約している。)

140615a ■ネパール国軍(同HP)

2.民主主義と兵役義務
民主主義において,兵役は国民(市民)の第一の権利=義務である。古代民主制アテナイでは,男性自由市民は兵士であったし,近代民主制アメリカでは武器保有は人民の権利(憲法第2修正)である。日本でも,近代化は,武士の武器独占を廃止し,徴兵制による兵役の民主化により促進された。

ネパールでは,兵役は,長らく上位カースト/民族の特権であった。人民多数は,兵役排除により,被支配・被差別の屈辱を甘受させられてきた。

この兵役差別を根底から否定し,男女平等の民主的軍隊「人民解放軍」を組織し,反民主的特権的政府軍を撃破したのが,マオイストである。ネパールにおいて,民主化を促進した最大の功労者は,マオイストである。

したがって,制憲議会において,もっとも急進的な国民兵役義務論を主張したのがマオイスト,それに反対したのが守旧派NC,UML,マデシ諸派であるのは,当然だ。守旧派は,上位カースト/民族の兵役特権を守りたいのである。

140615b ■人民解放軍(Republica, 2009-11-22)

3.近代的民主的兵役義務論の超克
日本の近代化・民主化は擬似的であり,まだ本物の民主的国民軍(人民軍)を持ったことはない。その日本人にとって,ネパールの近代的民主的兵役義務論は,注目し,学ぶに値するものである。

もし近代的民主的兵役義務論との本格的格闘を忌避しつづけると,「積極的平和主義」を唱える人々が,再び「美しい国・日本」の半封建的兵役義務・徴兵制を「取り戻す」ことになるであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/06/15 @ 15:36