ネパール評論

ネパール研究会

Posts Tagged ‘監視社会

グローバル情報化とアルジュンさん死亡事件報道

先述のように,アルジュンさん死亡事件の報道,とりわけユーチューブ動画は「衝撃的」であった。十数年前,いやおそらく数年前ですら,こんな動画がネット上に掲載され,世界中に配布され見られることは,まずなかったであろう。
▼小島寛明「【衝撃映像入手】16人で1人取り押さえ手足拘束した警察。検察取り調べ中にネパール人男性死亡」Business Insider Japan, Mar. 29, 2019

関心をもち検索すれば,事件を報じた英文記事も世界中で読むことが出来る。
▼SAKURA MURAKAMI, “Wife of Nepalese man who died during interrogation sues state,” Japan Times, Jul 27, 2018

世界はいまや万人監視社会になった。わがアパートですら,玄関,駐車場,駐輪場,ごみ置場などに監視カメラが設置され,四六時中,監視・録画している。アパートに出入りする人はむろんのこと,前を通るだけの人や車,犬や猫やタヌキなど,すべて見られ記録されている。

わがアパートが特殊なのではない。近くの駅や道路,ビルや駐車場はおろか,一般の民家にも,いや走り回る車にすら監視カメラが設置され,常時監視・記録している。他の地域でも,状況は似たり寄ったりであろう。

しかも驚くべきことに,これら監視カメラの映像は,革命的技術進歩により個々人の識別にすら利用可能だ。われわれは,つねに監視され,個人として識別され,記録されているのだ。しかも,それらの情報は,可能的にはネットを介して世界中に配布され利用されうる。いやそればかりか,いったんネット上に掲載されれば,その情報は無数に拡散し,ほぼ制御不能となり,半永久的に残り利用されうる。まさにグローバル監視社会! ネット情報化社会は,いわば「神の目」をもつに至ったのだ。

この情報化社会では,ネットにつながりさえすれば,世界中,どこからでも世界に向け,映像・音声・文字などの情報を送受信できる。ネパールの地方からでも,つい数年前までは想像もつかないような生の情報がネット上に多数送られ,だれでも閲覧可能となっている。神秘の国,秘境など,もはやどこにもない。

日本の留置場や拘置所も,このグローバル情報化から免れることは,もはやできないであろう。監視カメラが設置されておれば,その映像は,どこかから流出し,ネット上に掲載され,世界中に拡散される可能性がある。そして,いったん拡散すれば,もはや取り消しは不可能!

アルジュンさん死亡事件の「衝撃映像」がどこから入手されたのか,私には全くわからないが,すでに「Business Insider Japan」や「ユーチューブ」などに掲載され,世界中に拡散している。可能的には,世界中の人々が,いつでも,どこでも見ることが出来る。もちろん,アルジュンさんの郷里,ネパールの人々にも!

アルジュンさん死亡事件の裁判は,世界中から,とりわけネパールの人々により,見られている。

【参照1】Kanak Mani Dixit : In Nepal, 91% of individuals now own at least one mobile device, almost half of them smartphones.


■Nepali Telecom, 12 Mar 2019 / Nepali Times, 12 Apr 2019

【参照2】「公共訴訟を支援するCALL4が初の試みとして「はじめての裁判傍聴ツアー」の募集を開始」JIJI.COM, 2022/04/09 「ネパール人取調べ中死亡国賠訴訟事件」の証人尋問期日(5月10日予定)を傍聴するためのツアー。

【参照3】アルジュンさんはなぜ、取り調べ中に突然死したのか?ーー警察による制圧行為の責任を問う,SYNODOS, 2022.06.14

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/04/15 at 15:28

監視カメラの警察使用,朝日が肯定的に報道(2)

朝日新聞は,大阪版夕刊に前述の記事を掲載した3日後の2月19日,今度は総合ページに大野博人編集委員のコラム「日曜に想う」を掲載した。タイトルは「『安全のため』奪われる自由」。これは,夕刊記事とは全く対照的な内容であり,その意味では,朝日新聞はバランスがとれている。

大野委員はこのコラムにおいて,オリバー・ストーン監督映画「スノーデン」や思想家ツベタン・トドロフ著『屈服しない者たち』を引照しつつ,「安全のため」という口実を認めることが,特に現代において,いかに危険かを鋭く指摘している。

≪[映画「スノーデン」において]「たいていの米国人は自由より安全を望んでいる」と米情報機関の幹部が話す。・・・・自分も監視されている,どこで何を見られているか分からない,丸裸にされている――。・・・・テロ対策という当初の目的からはみ出して,政治権力の監視活動はどこまでも暴走する。「安全のため」という口実を人々が受け入れ続ける限り。≫

≪トドロフ氏によると,政治権力が市民監視にのめり込むのは「すべてを知ることは,すべての権力を握ることにつながる」と考えるから。また,だれかが自分を監視しているとつねに意識する社会では,人と人との間の信頼が消滅するとも指摘する。人々が連帯しない社会。それこそ権力が思いどおりにしやすい社会である。」≫

≪政治家が声高に「安全のため」を語るとき,本当は自らの権力強化のためではないのか。「安全のため」なら仕方がないと思ったとたん,からめ取られているのかもしれない。なぜなら,あなたも私も普通の市民の大半は監視する側ではなく,監視される側になるのだから。≫

ここで大野委員は,権力による監視への警戒を訴えている。たしかに,それはそのとおりであり,その重要性はいくら強調しても強調のし過ぎではない。しかし,現代における行動監視の恐ろしさは,権力による監視が万人による監視とあい手を携えて進行し始めたところにあるのではないか? 

いまでは,情報技術の革命的進歩により,行動監視は一般市民でも容易に実行できるようになった。小学生程度の知識と技術があれば,お小遣い程度の費用で,いつでも,どこでも他人の行動を簡単に監視できる。万人による万人の監視社会――その夢が今まさに実現しつつあるのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/08 at 15:40

カテゴリー: 社会, 情報 IT, 人権

Tagged with , , ,

監視カメラの警察使用,朝日が肯定的に報道(1)

朝日新聞(大阪版夕刊2月16日)が,監視カメラ記録映像の警察捜査利用に好意的な記事を1面に大きく掲載している。見出しは次の通り。
 防犯カメラ 捜査の目に
 大阪府警,自治体と異例の協定
 映像入手 事前連絡は不要
 夜間の初動に効果的

これらの見出しだけで,記事の趣旨は明確だ。記事によれば,大阪府内の自治体設置または設置補助の監視カメラは1万9944台(2016年3月末)。その記録映像を,大阪府警は,必要な時には事前連絡なしに自由に引き出し,見ることが出来るのだそうだ。

この記事には,専門家2氏のコメントも付されているが,いずれもごく短く,検証の仕組みや法整備を求めてはいても,警察による自治体設置・補助監視カメラの使用そのものを否定するものではない。朝日お得意の,公平のみせかけためのエクスキューズのようにみえる。

大阪圏の街頭監視カメラは,これまで幾度か指摘してきたように,急速に増大している。その記録映像を警察が,事実上,自由に使えるとなれば,市民は可能的には常に警察に監視されていることになる。しかも,顔(身体)自動識別技術の革命的進歩により,映像の個々人を瞬時に特定し,その行動を記録し追跡できるのだ。

むろん大部分の人は「善良な市民」であり,警察が彼らすべてを常時監視することはない。しかし,問題はむしろ,この「可能的監視」そのものにある。警察が事前連絡すらなく監視カメラ映像を利用できるとなれば,市民すべてが,警察により,いつ,どこで見られ,記録され,追跡されているか分からない,という状況に置かれる。

ここには,もはやプライバシーはなく,プライバシーを前提とする個人の自由も権利もない。われわれは,自分たちの自由や権利を守るため国家をつくり,個々人の安全保障のための権力行使を国家諸機関に信託した。ところが,いまや国家諸機関が「国民の安全」のために個々人のプライバシーを奪い,自由や権利を否定しようとしているのだ。

ブラックユーモアのようだが,いまや大朝日ですら,大真面目に,万人監視カメラの効用を一面トップで大々的に報道するに至った。もはや「隠れて生きる自由」は取り戻せないのではないか?

 170304■朝日大阪版夕刊2月16日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/04 at 12:07

免許証暗証番号,百害あって一利なし

運転免許証の暗証番号は,百害あって一利なし,いや正確には今では「百害」もないほど無用。「無用」こそが最大の害。巨額の導入費用無駄遣いには目をつむるから,直ちに廃止すべきだ。

この件については,5年前の免許証更新時に詳述した。(参照: 危険なIC免許証,暗証番号の無効化を) その時は,たしか暗証番号を「0110 0110」と登録し,免許証交付後ただちに「1100 1100」と3回入力し,無効化した。

その後5年間,暗証番号無効化免許証を使用してきたが,同乗高齢者のシートベルト着用義務違反のときも,先日の免許証更新のときも,何の問題もなかった。というわけで,今回の更新免許証も,交付後ただちに誤番号を3回入力し無効化した。

【補足】 暗証番号の設定は不要:大阪府警
警察は,つい先日まで暗証番号本人認証をあれほど熱心に積極的に推進してきたのに,いまや様変わり,“暗証番号は設定しなくてもよい”と説明し,さらに設定のメリットは事実上“ほとんどない”と開き直っている。以下,何事も本音で知られる大阪府警の公式説明。

▼大阪府警 ICカード運転免許証に関すること
Q4 運転免許証をICカード化するメリットは何ですか。
A4 主なメリットとしては、2つあります。
1つは、運転免許証の偽造・変造の防止です。・・・・ もう1つは、運転免許証の券面に本籍を記載しないことで、国民のプライバシー保護に配慮します。本籍は、ICチップに記録され、申請時に設定した暗証番号をICチップを読み取る機器に入力しなければ読み取ることはできません。[引用者注:「本籍」自体には何の意味もない。移転自由。]
Q7 暗証番号は必ず設定しなければならないのですか。また、暗証番号を設定しない場合は、どうなるのですか。
A7 暗証番号は、必ず設定しなければならないというものではありません。しかし、設定しない場合は、ICチップの中の個人情報を他人に読み取られるおそれがありますので、できるだけ設定するようにしてください。[引用者注:担当者以外は読み取れないよう設定すれば済むこと。]
Q8 暗証番号を忘れた場合に、何か不都合はありますか。
A8 運転免許の更新、再交付等の手続きに支障はありません。・・・・

161109

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/11/09 at 11:20

カテゴリー: 社会, 人権

Tagged with , ,

英語帝国主義による英米文化の刷り込み

いやはや,在ネ英米大使館による英米語攻勢はすさまじい。連日連夜,英米語を宣伝しまくっている。

言語は,文化的・政治的に無色透明ではない。英米語宣伝には,英米が世界普及を目指す文化的・政治的価値観が仕組まれていることは,当然だ。言葉を支配する者こそが,結局は世界を支配する。

160224a160224c

これは,「英国の価値観と利益を推進すること」(BカウンシルHP)を目的とするブリティシュカウンシル・ネパールの2月24日付フェイスブック&ツイッター記事。「クジラ愛護」が内陸国ネパールの子供たちにすら刷り込まれてしまうわけだ。日本漁民に勝ち目なし。

160224b160224d

これは,在ネ米大使館の2月22日付ツイッター。とくにイラストが意味深。レーダーないし監視カメラの普及・日常化は当然,というアメリカ的価値観をそれとなく刷り込もうとしている。

牽強付会? そうかもしれないが,すでにネパールの首都カトマンズは世界有数のカメラ監視社会だ。とくに米国関係施設付近は異常に厳重。そうした情況では,このイラスト付き米語宣伝には特有のリアリティがある。それは米国好みの途上国カメラ監視体制を暗に追認し助長するのでは,と危惧しても,あながち全くの杞憂ではあるまい。(参照:前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会へ監視カメラ設置,先進国ネパールから学ぶな

英米お得意の超長期的戦略的観点からの言語宣伝には,それくらいの警戒はあってしかるべきであろう。

【参照】英語による授業への賛否(3月4日追加)
高野敦志@lebleudeciel38 ツイッター3月3日
今後は大学授業の多くが英語でされるようになるでしょう。会社の中も楽天のように英語が公用語に。放送の多くも英語になります。英語がうまく使えない国民は、単純労働しか出来なくなります。日本語は将来、フィリピンのタガログ語、中国のチベット語のように、家庭で使うだけの言語になるでしょう。

<高野敦志を大野英士がリツイート,それを内田樹がリツイート>
大野英士 ‏@floressas1405 ツイッター3月3日
だいたい大学レベルの授業で「母国語」で授業が行える利点を捨てることにどれだけの意味があるのか? 慶応SFC、早稲田国際教養、教師の英語力が不足して日本語の授業なら伝えられる内容すら教えられずいずれも失敗しているというのに。

<内田樹ツイート>ツイッター3月18日
英国の大学の研究者のインタビュー。日本の翻訳事情について。日本の翻訳文化は大学教育からは消えつつあります。「英文和訳に時間を割いたのが英語教育の失敗の原因」と言う人がたくさんいます。外国語を質の高い日本語に訳すという仕事はほんとうに知的にスリリングな経験なんですけどね。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/24 at 11:39

京都の米軍基地(86): 沖縄の今日は京丹後の明日

沖縄を2日ほど見てきた。初の沖縄であり,数カ所を外から眺めたにすぎないが,それでもやはり大変な情況だった。

移動はレンタカー。一般道を走ると,Yナンバー(米軍関係者車両)と頻繁に出会い,高速道では前後をタンクらしき装甲車に挟まれてしまった。上空には飛び交うヘリ。初めての経験で,ビビってしまった。

「道の駅かでな」に立ち寄ると,眼前に空軍基地。輸送機や戦闘機が頻繁に発着し,上空では戦闘機が轟音を響かせ曲芸飛行訓練をしている。恐ろしい。

160115g 160115h
■「道の駅かでな」からみる嘉手納基地

逃れるように「海洋博公園」に行くと,至る所に監視カメラがあり,一挙手一投足を監視されている。そして場内のあちこち,園内バスや復元古民家や飲料自販機にすら,「テロ警戒中」「不審者通報を」の警告が掲示されている。背筋がゾォーとした。

160115d 160115f
■海洋博公園の監視カメラ

160115b 160115a 160115c 160115e
■海洋博公園のテロ警戒掲示:美ら海水族館前・園内バス・自販機・古民家

この沖縄に比べ,京丹後では米軍基地はいまのところはるかに小さいし,駐留しているのもXバンドレーダー要員が中心だ。しかし,基地周辺は土地が狭いし,地域住民も少ない。そのため丹後町やその周辺における米軍の存在は,相対的には沖縄と大差ないほど大きいとみざるをえない。京丹後はいずれ沖縄のようになる。今日の沖縄は京丹後の明日なのだ。

そうしたなか,特に気になるのが,住民監視体制。すでに幾度か指摘したように,基地交付金で住民監視カメラが市内要所に設置され,米軍参加の「テロ対策ネットワーク」も発足している。(参照:基地補助金で住民監視カメラ

ここで注意すべきは,こうした住民監視体制は,住民自身の要望という形をとり,推進されているということ。たとえば,「米軍基地建設を憂う宇川有志の会」フェイスブック(1月10日)では,こう指摘されている。「島津のシェネガ宿舎は変化なしですが,入り口そばの三叉路の一角に全方位型の防犯カメラが設置されました。これは地域の要求を受けてということでしょう。」

もし本当に「地域の要求を受けて」監視カメラが設置されたとするなら,これは恐ろしい。「防犯カメラ」は詐称であり,実名は「監視カメラ」。監視されるのは,米軍人・軍属というよりは,むしろ地域住民自身だ。「テロリスト」や反基地派から米軍(軍人・軍属とその家族および軍施設)を守るための24時間常時監視カメラ。

このことは,京丹後市が基地交付金により「防犯カメラ」を設置した事実をみれば明白。「広報きょうたんご」(2015年5月号)は,こう説明している。「日本で第一級の安全で安心なまちづくりに取り組む本市では、犯罪抑止力を高めるとともに、犯罪発生時に迅速かつ的確に対応するため、防衛省の交付金を活用し、駅の駐輪場や幹線道路、漁港など17カ所に22基の防犯カメラを設置しました。」

京丹後の住民監視社会化の危険性は,基地建設当初から,すでに指摘されていた。たとえば,島田けい子府議会議員(共産党)は2014年10月,こう質問している。

—————
【島田】現実には、テロリストも含めまして既に自衛隊と警察との間で、この地域では訓練等もされているのです。テロリストが市民を装って攻撃してくることも考えて警備を要請しているということになりますと、市民がいつも監視されることになるわけです。現に、海水浴で訪れた家族に対して「身分証明書を見せろ」とか、そういうように質問をしてくる。基地が出来上がったら、基地周辺には投光器で照らされて、監視カメラがつけられ、常時、市民が監視されるような事になりはしないかと、住民は大変危惧を抱いておられます。府は当初、レーダー配備に伴いテロの攻撃の標的になるのではないかとの懸念を表明されました。防衛省の回答でその当時の懸念が解決されたのかどうか、具体的な根拠も含めてお答えください。
【総務部副部長】テロの話とか、全然そういうことは聞いておりませんので、防犯カメラも当然、基地の周辺はカメラを付けますけれども、市民を監視するようなカメラを米軍の方が設置するというようには聞いておりません。[島田委員:米軍レーダー基地についての質問と答弁(大要),2013年度決算特別委員会総務部書面審査(2014 年 10 月 07 日)]
————–

文脈が少し不明瞭な部分もあるが,もし「この地域」が京丹後を指すのなら,すでに観光客・海水浴客ですら監視されていることになる。そして,その監視体制が,住民自身の要求で増設される「防犯カメラ」により,今後さらに強化され,蟻一匹見逃さない完璧な万人監視体制となっていくことは避けられないであろう。

ここで忘れてはならないのは,監視にはすぐ慣れるということ。私が沖縄「海洋博公園」にいたのは2時間ほどだった。入場当初は,監視カメラにドキッとして身構え,恐怖を煽る「テロ警戒中」や「不審者通報を」に不快を禁じえなかったが,しばらくすると監視カメラにも「テロ警戒中」看板にも慣れてしまい,あまり意識しなくなった。

真に恐ろしいのは,まさにこれ。監視の極意は,監視に慣れさせ,「見られている」ことを意識させないこと。私自身がそうだったように,人は監視にすぐ慣れる。日本政府(防衛省)=京丹後市当局の狙いもここにある,とみてよいだろう。

日本一の安全安心を目指す基地の町=京丹後は,間違いなくモデル監視社会になる。京丹後観光には,写真付きマイナンバーカード必携!!

【参考】子供利用への慣れ: 海兵隊と保育園(名護市)
160115i■海兵隊FB(1月16日,子供の顔引用者削除)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/15 at 20:51

京都の米軍基地(71):基地補助金で住民監視カメラ

1.監視カメラ予算と設置場所
京丹後市は,基地補助金(米軍基地配置に伴う再編交付金)による監視カメラの設置を進めている。

▼平成26年度経ヶ岬関連補助金等執行状況・再編交付金(平成27年2月27日現在)
 住民の生活の安全の向上に関する事業:
   駅舎駐輪場防犯カメラ設置事業   防犯カメラ設置工 8基
   宇川地区防犯カメラ設置事業    防犯カメラ設置工 7基
   幹線道路等防犯カメラ設置     防犯カメラ設置工 7基
▼平成26年追加補正予算・再編交付金活用事業
   漁港防犯カメラ設置事業      3カ所(詳細不明)
   防犯カメラ設置事業        駅駐輪場(詳細不明)

▼設置場所
 駅駐輪場:京丹後大宮駅(1),峰山駅(2),網野駅(1),夕日ヶ浦木津温泉駅(1),小天橋駅(1),かぶと山駅(1),久美浜駅(1)
 道路:消防本部入口(1),大宮織物ホール(1),木津防災資機材備蓄倉庫付近(1),丹後市民局(1),宇川小学校正門(1),黒部駐在所付近(1),消防久美浜分署入口(1)
 漁港:袖志漁港(3),尾和港(1),中浜漁港(3)

150616■防犯カメラ・派出所増設(広報・きょうたんご,2015年5月号)

2.住民監視
これらの監視カメラは,すでに設置済みの他の多くのカメラとも連携し,京丹後全域を常時監視するために使用される。

監視対象は,こそ泥や痴漢なども含まれはするが,最も重要なのは,いうまでもなく反基地活動家であり,そしていわゆる「テロリスト」や「過激派」である。

「ぼくは,こそ泥や痴漢ではなく,ましてやテロリストでも過激派でも絶対にないから,監視カメラがあっても平気だ」と,多くの人は思うかもしれないが,実際には決してそうではない。

監視カメラは,過激派やテロリストを識別するため,住民全員をことごとく記録しデータベース化する。今すぐではなくとも,イザとなれば,必ずそうする。そうしなければ,過激派やテロリストは識別できないからだ。

3.テロリスト監視に無力
ところが,プロのテロリストや過激派は,監視カメラの存在を当然の前提として行動する。監視カメラで捕まるようなマヌケなテロリストや過激派は,アマチュアだ。

このことは,監視カメラ設置者の側にもよく分かっている。それなのに,なぜ大量に設置するのか?

4.良識的多数派住民の監視
監視カメラ設置の本当のねらいは,基地に不安を感じている良識的多数派住民だ。

民主主義総本家のアメリカが最も恐れているのが,基地周辺の住民。住民多数が反対したら,民主主義防衛を錦の御旗にする米軍は,基地設置の倫理的・政治的正統性を失い,基地の維持運営が困難になってしまう。米軍は,良識的多数派住民の「左傾化」を恐れている。

そこで米軍は,忠犬ハチ公の日本政府に良識的多数派住民を監視させ,彼らの「左傾化」を防止させるわけだ。自分の手は汚さない,高潔な民主主義国アメリカ!

プロのテロリストや過激派には,監視カメラなど屁の突っ張りにもならない。他方,「国益」第一の市長やその同調者らにも,監視は苦にならない。なぜなら,彼らは「見る権力の側」であり,その意味では「見られて困る」ところがどこにもないからだ。

監視カメラによる監視の対象は,したがって米軍基地に不安を感じている良識的多数派住民,あるいは基地反対署名に応じたり反対集会に参加したりする基地に批判的な一般市民ということにならざるをえない。

監視カメラは,こうした人々に見せるためにある。見ていることを見せるための監視カメラ。そして,ときには,ちょっと目立つ活動家の「事情聴取」や「逮捕」のためのネタ提供。

たぶん,「監視カメラは規則に則り厳正に運用し,目的外の使用は絶対に行わない」,「映像保存は2週間,期限後は完全消去する」などと言っているであろうが,こんな口約束は全く信用できない。すでに世間では監視カメラ映像の流用は日常茶飯事だし,そもそも最高法規の憲法ですら守らない人物が首相をやっているお国柄だ。信用せよというほうが,どだい無理な注文なのだ。

5.米軍の「安心・安全」のための監視カメラ
京丹後における警察や監視カメラの大増強は,米軍とその下働きたる日本政府の「安心・安全」のため。

そもそも米軍基地さえなければ,このような警察や監視カメラの大増強は全く必要なかった。監視カメラが基地補助金で設置されていることが,何よりの証拠だ。

【参考】
大江山(国道176号線)の監視カメラ。これらは福知山市域にあり,基地補助金事業ではない。気象ないし交通監視が表向きの目的だろうが,人や車もむろん写る。
150616b150616c150616a

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/06/16 at 18:17

監視カメラ設置,先進国ネパールから学ぶな

伊丹市が,監視カメラ1000台の設置を決めた。24時間稼働で,映像は記録し,警察に提供される(運用基準は同市「ガイドライン」等参照)。1平方キロあたり40台の集中設置とのこと(朝日2月14日)。

これは,恐るべき密度で,住民は市内どこにいても,いや場合によっては,自宅敷地内や窓際にいても,その挙動をカメラ監視される恐れがある。伊丹市民は,こんな監視を苦痛とは感じないのだろうか? もし感じないとすれば,世も末,もはや何も申し上げることはない。

監視カメラについては,ネパールが猛烈な勢いで設置を進めていることを,最近,何回か紹介した。前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会への一足飛びの飛躍である。そのネパールを,伊丹市は,そして政府音頭取りで他の多くの自治体も,いま後追いしようとしているのだ。(参照「前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会へ」)

たしかに,現在のネパールは,最新の理論や制度や機器の実験国であり,そこから学ぶべきものは少なくない。先に紹介したジェンダー平等などがそうだ。

しかし,いくらなんでも,プライバシー無視のカメラ監視社会化まで,学ぶ必要はない。日本は,曲がりなりにも天賦人権の不可侵を原則とする近代市民社会を成熟させてきたのではなかったのか?

▼カトマンズの監視カメラ

150215a150215b
 ■ネパール国旗・監視カメラ・太陽光発電/Study in Nepal?

150215e150215f
 ■信号機死すともカメラ死せず(マイティガル)

150215c150215d
 ■カトマンズ郡裁判所前/官庁街南入口前

150215g ■シンハダルバール(中央官庁)正面入口前

150215h150215i
 ■ラトナ公園東側/バドラプル(ジャパ郡)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/17 at 15:57

前近代的共同体監視社会から超近代的カメラ監視社会へ

通俗憲法論によれば,近代憲法は国家権力を縛るものだそうだが,近代超克国家ネパールでは,そんな通俗近代憲法論など,全く気にもかけていない。制憲議会では憲法制定の目途さえ立たないのに,現実社会ではSF的超近代的万人監視体制づくりが着々と進んでいる。前近代的な共同体監視社会から,ハイテク・カメラによる超近代的万人監視社会への一足飛びの跳躍だ。

カトマンズに来てビックリ仰天したのは,いたるところに監視カメラが設置され,しかも驚くべきことに,多くがちゃんと稼働していること。数日前の新聞によれば,監視カメラは今後さらに増設される予定だ。

これらの監視カメラは,表向きは,交通管制が目的だが,カメラには車だけでなく人間も牛も犬も写る。交通管制が名目でも,その気になれば,いつでも犬や牛や人間の行動の監視に活用できる。犬が人にかみついていないか? 牛が路上に寝そべっていないか? そして,不逞の輩がデモや挙動不審の行動をしていないか? こんなことが,すべて監視カメラで常時監視できる。超近代国家の指導者なら,誰しも,喉から手が出るほど欲しがる統治の必須アイテムだ。その監視カメラが,いまやカトマンズの街中,いたるところに設置されており,しかも今後さらに増設されるというのだ。

たとえば,インドラチョークの近くの人通りの多い狭い十字路。その交差点とは到底呼べないほどの狭い十字路の上にも,監視カメラがあり,レンズの方向を不気味に動かしつつ,四方八方を監視している。

こんなところで,いったい何を監視しているのか! 監視カメラをしつこく激写していた私も,当然,監視カメラで監視され,一挙手一投足を記録され,おそらく不審者リストに掲載されているであろう。無事,出国できるだろうか? ちょっと,心配になってきた。

150207a■上:ソーラー照明,右:信号機,下:監視カメラ

150207b■消灯信号機と稼働監視カメラ

150207c■二種の監視カメラで厳重監視中

150207d■「仏陀の目」より強力な「監視カメラの目」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/07 at 12:23

秘密法のためのパノプチコン社会に向けて

特定秘密保護法(秘密法)が施行(2014年12月10日)されて1か月,指定「特定秘密」ははや382件に達した(2015年1月9日現在,朝日新聞1月9日)。⇒各行政機関における特定秘密の指定状況一覧表(平成26年末現在)

いうまでもないことだが,「秘密」は「監視」の対概念であり,秘密を守ろうとすればするほど,監視は厳しくなる。秘密法を施行するには,万人の常時監視は不可欠だ。監視により怪しい気配をいち早く察知し,秘密漏洩を防止する。それでも万が一,漏洩してしまったら,犯人を可及的速やかに捕らえ,白状させ,漏洩被害を最小限にとどめる。これは必須。国民監視なしの秘密法は張り子の虎,実用にはならない。

おそらく,こうした要請からであろう,このところ政府は,あの手この手を駆使し,日本国中に「防犯カメラ」という名の「監視カメラ」を設置させようと,躍起になっている。

すでに平々凡々たるわが住宅地にも,路上監視の「防犯カメラ」が,はっきりそれと分かるものだけでも,約300mおきに設置されている。私も毎日,無断撮影されているが,その映像がどう利用されているか,皆目,見当もつかない。いまですらそうなのに,元旦の市広報を開くと,なんと,次のような公告が出ている。ギョとし,お目出たさも吹っ飛び,背筋が寒くなった。

—————————
防犯カメラの設置を支援します  受け付け中
安全・安心なまちづくりを進めるため、犯罪の予防を目的とした防犯カメラを設置する地域団体に対し、設置費用の一部を補助します
対象団体=次のすべての要件を満たす自治会やまちづくり協議会などの地域団体。 ▽一定の地域を基盤とし、地域に根ざした活動をしている▽活動を行う地域の多数の世帯住民で構成されている▽活動を行う地域の世帯・住民が自由に加入できる▽規約や代表者を決めている―団体
補助要件= ▽防犯カメラを設置する地域の合意が形成されている▽設置場所の所有者などの承諾・許可を得る▽市の定める「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」に適合する管理運用規程を定める▽設置に対し、他の法令等により国・県などから同種の補助金を受けていない。
対象経費=公道等(不特定多数の人が通行する私道等を含む)に常設する防犯カメラの購入および取り付け工事に要する費用。
補助額=防犯カメラ1台につき上限8万円
申し込み=防犯交通安全課、市民相談課
—————————–
150109b 150109a 150109c 150109d ■住民監視中の「防犯カメラ」

これは,わが市が独自にやっているのではない。日本に地方自治はない。号令をかけ,補助金を付け,各自治体にやらせているのは,むろん中央政府だ。たとえば―

——————————-
▼平成26年度G空間関連政府予算(GIS) 警察庁 予算額39百万円
犯罪情勢の時間的・空間的変化の分析手法及び犯罪抑止対策の評価手法の開発
犯罪情勢や地域環境の変化を的確に把握する時空間分析手法と、街頭防犯カメラの設置など地区単位で実施される犯罪抑止対策の評価手法を開発する。
▼経済産業省 まちづくり補助金
以下のような、地域商店街の積極的な取組に使える補助金です
①安心・安全な街をつくりたい
例)夜間も安全で安心に利用できる商店街を実現するため、街路灯や防犯カメラを設置したい。
——————————

補助金は取らねば損が,自治体の習い性。かくて,全国津々浦々,「防犯カメラ」が普及しつつある。そして,設置された「防犯カメラ」の使用方法も,おそらく国家指導に基づき,各自治体が同じような規則を定めている。たとえば,大阪市―

——————————
▼防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン 大阪市
画像の利用制限
 (1)画像の利用は、犯罪の抑制及び防止目的の範囲で行い、画像から知り得た情報は、外部に漏らさない。
 (2)画像は、次のいずれかに該当する場合を除き、外部に提供しない。
  ア 法令に基づく請求があった場合
  イ 捜査機関から犯罪捜査の目的により要請を受けた場合(ただし、捜査機関が画像の提出を求める場合は文書によるものとする。)
  ウ 個人の生命・身体又は財産の安全を守るため、緊急かつ止むを得ないと認められる場合
  エ 本人の同意がある場合又は本人に提供する場合
——————————

この大阪市のガイドラインは厳格な方だが,それでも,捜査機関による利用は当然の前提とされ,それ以外でも,必要とあらば使用は可能だ。

しかも,巧妙なのは,中央政府が「防犯カメラ」を上から押しつけるのではなく,地域の自治会や他の団体等が自発的に「防犯カメラ」を設置するのを補助金により助成する,という形を取っていること。つまり,住民の自発的相互監視であり,しかし同時に,その映像記録は国家が事実上自由に使える,という形をとっている。実に巧い。

わが地域の「防犯カメラ」は,まだ300mおきだが,補助金の魅力により追加設置は必定。もし100mおきに「防犯カメラ」ともなると,もはや生活はあらかた権力の監視下におかれることになってしまう。蟻の這い出る隙間もない。

これこそ,近現代の理想としてのパノプチコン社会,すなわち万人監視社会の到来である。秘密法は,そのような社会の完成を要請している。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/01/09 at 20:17