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カルキCIAA委員長,任命違憲判決により失職

「職権乱用調査委員会(CIAA)」のロックマン・シン・カルキ委員長が1月8日,最高裁の任命違憲判決により,失職した。
【参照】カルキCIAA委員長,瀬戸際(1) (2) (3) (4)

カルキ委員長については,これまで議会での弾劾裁判と最高裁での任命違憲裁判がほぼ並行して進められてきた。議会では,代議院議員157人が2016年10月19日,カルキ委員長弾劾動議を提出し,これが受理されたため,カルキ委員長は職権行使を停止され,翌20日,最年長委員が委員長代行に選任された。しかし,その後,議会での弾劾手続きは進まず,棚上げ状態となっていた。

最高裁の方には,オム・プラカシ・アルヤル弁護士が2015年5月16日,カルキ委員長は憲法238(6)条に規定の資格要件を満たしていないとして,任命取り消しの訴えを出した。最高裁はこの訴えを棄却したが,その後,最高裁長官がスシル・カルキ氏に交代すると,一転,2016年9月,アルヤル弁護士の再審請求を受理して審理を開始,この2017年1月8日,ロックマン・シン氏のCIAA委員長任命を無効とする判決を言い渡したのである。

こうしてロックマン・シン・カルキ氏は,CIAA委員長の職を解かれ,1月15日,トリブバン空港から,息子の住むカナダに向け出国した。

今回,CIAA委員長を解任したのは,議会ではなく,最高裁である。解任それ自体は,ロックマン・シン氏が「職権乱用調査委員会(CIAA)」の委員長職権を繰り返し乱用したと見ざるをえず,妥当であろう。しかし,最高による任命違憲判決という形での解職(失職)には,疑問を禁じ得ない。CIAA委員長は,首相を議長とする「憲法会議」の推薦に基づき,大統領が任命する。CIAA委員長人事は,高度に政治的な事柄であり,したがってその解任は議会の意思(決議,弾劾など)によるのが本来の在り方であろう。

ネパールでは,議会が本来の役割を果たさないため,最高裁が介入する場合が少なくない。日本のように,最高裁が「統治行為」認定を乱発し憲法判断を安易に回避するのも問題だが,ネパールのように最高裁が過度に政治化することにもまた別の危険があると言わざるを得ないであろう。

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*1 “The end of Karkistocracy,” Nepali Times, 13-19 Jan, 2017
*2 “Lokman ineligible to head CIAA, rules SC,” Kathmandu Post, 8 Jun. 2017
*3 “Lokman disqualified,” Nepali Times, 8 Jan. 2017
*4 “Nepal Supreme Couort removes Lok Man Singh Karki from CIAA,” South Asian Monitor, 9 Jan. 2017

谷川昌幸(C)

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2017/01/21 at 16:08

カテゴリー: 行政, 議会, 憲法

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ゴビンダ医師,10回目ハンスト開始

トリブバン大学医学部(IoM, TU)教育病院のゴビンダ・KC医師が11月13日,ハンストを開始した。9月26日開始の前回ハンストは,ダサイン入りとともに終了。今回はその再開であり,通算10回目となる。

1.ゴビンダ医師の要求
ゴビンダ医師の要求は,医療制度と医学教育の改革であり,一貫している。現在の具体的な要求は,次の通り。
・医科教育法を速やかに制定せよ。
・医科教育不当介入のカルキCIAA委員長の弾劾。
・トリブバン大学学長へのTR・カニヤ教授の任命に反対。
・トリブバン大学医学部長は年功により選任せよ。

2.医学部利権
医学部は大組織であり,関係利権も巨大である。たとえば,TU医学部は現在,医学教育をする連携カレッジを8校承認(affiliate)している(下掲リスト参照)。これらのカレッジは,入学定員増を図るため,有力者に関係機関への口利きを頼む。あるいは,利権を狙う有力者が,新たな医科カレッジを承認させようとしてTUに圧力をかける。TUの学長や医学部長は,そうした働きかけの最大のターゲットであり,事実,CIAAを含む様々な政治勢力により,これまでに幾度も医学部長が任期途中で交代させられたという。

3.年功人事の「合理性」
ネパールでは,いまもってアフノマンチェやチャッカリが蔓延し,利権が構造化されている。そうしたところでは,能力主義・評価主義といっても,実際には人事への外部介入やコネ人事の口実とされてしまう危険性が高い。いまのネパールでは,近代的な能力主義,業績主義よりも,むしろ年功制の方が実際には「公平」であり「合理的」であるといわざるをえない。ゴビンダ医師が医学部長の年功選任を要求するのも,おそらくそのような考えからであろう。

今回のハンストでは,ゴビンダ医師は,医学部長へのKP・シン教授の選任に反対し,年功どおりJP・アグラワル教授を選任すべきだと主張している。年功どおりでないと,結局,医学マフィアに踊らされる利権的政治任命となってしまうからだという。

[参照]Tribhuvan University (T.U) affiliated
Institute of Medicine (IOM); Universal Medical College (UCMS); National Medical College (NMC); Janaki Medical College (JMC); KIST Medical College (KISTMCTH); Chitwan Medical College (CMC); Gandaki Medical College (GMCTHRC); Nepalese Army Institute of Health Sciences ( NAIHS). (Source List of Medical Colleges Of Nepal, MEDCHROME)

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*1 “Dr KC warns of another fast,” Kathmandu Post,” Sep 4, 2016
*2 “Dr KC begins 9th fast-unto-death,” Kathmandu Post, Sep 26, 2016-
*3 “Cabinet fails to dwell on Dr KC’s demands,” Kathmandu Post, Sep 28, 2016
*4 “Dr KC begins his 10th hunger strike,” Kathmandu Post, Nov 13, 2016
*5 “What does the IoM dean issue mean? Orthopedic surgeon Govinda KC’s protracted fight against ‘political hand-picking’ continues,” Kathmandu Post, Nov 16, 2016
*6 “Dr KC in frail health on 6th day of fast-unto-death,” Kathmandu Post, Nov 18, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/11/20 at 16:45

カルキCIAA委員長,瀬戸際(4)

3.議会の弾劾裁判
(1)弾劾動議提出
議会では,カルキCIAA委員長に対する弾劾動議が受理され,弾劾裁判が始まった。弾劾(महाभियोग)につき,憲法はこう定めている(要旨)。

第101条(2) 憲法設置機関[CIAAなど]の長または構成員に対する弾劾動議は,代議院の全議員の四分の一以上の多数をもって提出できる。提出された弾劾動議は両院[代議院(下院)と国務院(上院)]の全議員の三分の二の多数をもって可決され,弾劾決議された者は解任される。
(3)&(4) 11委員から構成される弾劾委員会を代議院に設置する。
(6)弾劾手続きの開始をもって,弾劾裁判を受ける者の職務は停止される。 

この憲法規定に従い,代議院議員157人(UML107+マオイスト50)が2016年10月19日,カルキ委員長弾劾動議を議会に提出し,受理された。これにより,カルキ委員長による職務執行はただちに停止され,翌20日,最年長のディープ・バスニャット委員が委員長代行に選任された。

議会には,11委員から構成される弾劾委員会が設置された。委員の過半数はUMLとマオイスト。議会における弾劾動議審議は,45日間が予定されている。

(2)弾劾動議の先行き
カルキ委員長弾劾動議について,提案者のUMLとマオイストは当然賛成の立場だが,最大政党のコングレスはまだ賛否いずれとも決めかねている。

そもそもカルキのCIAA委員長任命は,制憲議会が解散し,最高裁のレグミ長官が暫定内閣首相であった2013年5月に強行された。任期は6年。

当時,このカルキ任命には多くの反対があったが,主要政党たるコングレス,UML,マオイスト,マデシ戦線はすべて賛成した,あるいは少なくとも表立った反対はしなかった。しかも,議会は解散していたから,この人事については議会における審議も承認も,当然,なかったことになる。

こうした場合,いつものことながらインドの圧力(陰謀)がささやかれる。インド陰謀説によれば,インドがネパールの内政混乱に付けこみ,レグミ最高裁長官の暫定首相就任とカルキのCIAA委員長任命をセットでネパールに押し付け,そして今また,カルキ委員長が最高裁再審と議会弾劾で窮地に陥ると,在ネ大使館やRAWあるいは印ネパール学の権威M教授などを動員して,インド国益のためにカルキ委員長を守ろうとしているとされる。真偽のほどは,むろん分からないが,これまでのカルキ委員長によるあまりにも強引な権限行使を見ると,あるいはそのような裏もあるのかな,という疑念をぬぐい切れない。

いずれにせよ,議会におけるカルキ委員長弾劾が,かなり難しいことに変わりはない。弾劾動議可決には議会の三分の二,397議員の賛成票が必要だ。マデシ系,RPP,RPP-Nは反対だし,NCは割れている。結局,NCが弾劾の成否を決めることになるだろう。

161112

*1 “Karki’s impeachment process,” Nepali Times, October 20th, 2016
*2 “Dr KC welcomes impeachment motion against CIAA chief Karki,” Kathmandu Post, Oct 20, 2016
*3 TIKA R PRADHAN, “Impeachment axe falls on Lokman Singh Karki, CIAA chief faces automatic suspension after 157 UML, Maoist MPs register proposal,” Kathmandu Post, Oct 20, 2016
*4 Akhilesh Tripathi. “Forces that led to Lokman’s downfall,” Republica, October 20, 2016
*5 “Deuba hints at backing impeachment,” Republica, October 21, 2016
*6 “REVEALED: Nepal’s beleaguered anti-corruption chief’s three-pronged strategy to stay in power,” OnlineKhabar, October 25th, 2016
*7 “Impeach Lokman motion: With his Guru SD Muni in tow, Amresh Singh warns Nepal PM Prachanda not to seek enmity with India,” OnlineKhabar, October 27th, 2016
*8 “Karki can’t dodge punishment if he is guilty: Mahat,” Kathmandu Post, Oct 28, 2016
*9 Yubaraj Ghimire, “Simly put: Why Nepal’s anti-graft chief Lokman Singh Karki faces the axe,” Indian Express, October 28, 2016
*10 “Impeachment motion against chief of constitutional body a bad precedent: PM Dahal; Says the outcome will be positive,” Kathmandu Post, Oct 28, 2016
*11 “Karki preparing to challenge impeachment motion,” Republica, November 7, 2016
*12 Kul Chandra Gautam, “Impeachment and impunity,” Republica, November 9, 2016
*13 “Karki impeachment debate to resume Friday,” The Himalayan Times, November 09, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/11/12 at 19:40

カテゴリー: インド, 行政, 議会, 憲法

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カルキCIAA委員長,瀬戸際(3)

(2)異議申し立て裁判再審
異議申し立てを棄却されたアルヤル弁護士は,翌2015年11月24日,最高裁に再審を請求した。

再審請求を受けた最高裁は2016年8月26日,政府関係諸機関に対し,カルキ任命関係書類の提出を命令した。その中には,国王親政政府書記官長としてのカルキの行為に関する総務省の聞き取り調査記録も含まれていた。

この最高裁命令に対し,政府は当初,震災で文書はすべて失われたと説明していたが,最高裁が2016年9月17日再審開始を決定し,政府に対し関係文書を提出しなければ法的措置をとると警告すると,結局,政府は9月23日,すべての関係書類を最高裁に提出した。こうして,カルキ委員長任命異議申し立て裁判の再審が始まったのである。

再審開始決定後,最高裁はカルキを法廷に呼び出すため,召喚状を配達しようとした。規定によれば,召喚状は次のようにして配達される。
A: 本人に直接手渡しする。
B: Aが不可能な場合,本人宅居住者に手渡す。
C: AおよびBが不可能な場合,地区役所係官と証人2人の立会いの下,本人宅に召喚状を貼付する。
D: 上記方法による召喚状配達後15日以内(事情により15日延期可能)に出廷。

ところが,カルキは休暇(9月19日~10月19日)を取りカナダに行ってしまったため,本人には召喚状を手渡すことが出来なかった。また,本人宅居住者への配達や本人宅への貼付も,召喚状配達人が行方不明となったり,貼付立会人が来なかったり,あるいは何者かに妨害されるといった不可解な理由により,予定通り実施できなかった。召喚状が本人宅に貼付できたのは,3回目,10月17日のことであったという。

こうしてカルキは最高裁法廷に出廷することになった。カルキ裁判再審は,司法妨害など他の関連する4件の告訴もあわせ,5件まとめて12月1日から開始される予定である。

*1 “SC seeks documents on Karki’s appointment as CIAA chief,” Himalayan Times, August 26, 2016
*2 “SC warns of action if Karki’s appointment file not submitted,” Kathmandu Post, Sep 16, 2016
*3 Nabin Khatiwada, “SC to review verdict on CIAA Chief Karki’s appointment,” Republica, September 17, 2016
*4 DEWAN RAI, “Apex court dangles the sword of Damocles over CIAA chief Karki To review his appointment,” Kathmandu Post, Sep 17, 2016
*5 “PMO sends Karki appointment minutes to SC,” Kathmandu Post, Sep 24, 2016
*6 “SC given original documents related to appointment of CIAA Chief,” 24 Sept 2016, (http: //nepaliheadlines.com)
*7 “SC official carrying court summons for CIAA Chief Karki ‘missing’,” Kathmandu Post, Oct 6, 2016
*8 DEWAN RAI, “Notice to CIAA chief: Court attempt to serve summons fails again,” Kathmandu Post, Oct 7, 2016
*9 DEWAN RAI, “SC set to hear all cases against Karki on Dec 1,” Kathmandu Post, Nov 11, 2016
*10 “Lok Man the New Superman of NEPAL,” By weaker41, May 8, 2013 ( http: //ireport.cnn.com/docs/DOC)
*11 “Recommendation For Appointing Lokman Singh Karki To CIAA,” By KTM Metro Reporter, Issue 13, March 31, 2013 (http: //104.237.150.195/news/recommendation-for-appointing-lokman-singh-karki-to-ciaa)

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 ■CIAA/最高裁

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/11/11 at 16:32

カテゴリー: 行政, 司法

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カルキCIAA委員長,瀬戸際(2)

2.カルキ任命異議申し立て裁判
(1)異議申し立て棄却
ロックマン・シン・カルキのCIAA委員長任命については,2014年5月16日,プラカシ・アルヤル弁護士が違憲の訴えを最高裁判所に提出した。

▼2007年暫定憲法の規定(現行2015年憲法もそのまま継承)
第119条(5) CIAA委員長の資格要件(要旨)
 a 学士号の保有。
 b 任命直近において政党に所属していないこと。
 c 会計,歳入,工学,法律,開発または調査のいずれかの分野において20年以上の経験を有する卓越した人物。
 d 高潔な道徳的資質(उच्च नैतिक चरित्र)を有する人物。

アルヤル弁護士は,憲法規定のこの委員長資格要件をカルキは満たしていない,と訴えた。

▼原告側の主張
1)経験年数と専門知識の不足
カルキは,憲法規定の高度な専門知識を持っていない。また,パンチャヤト期王室雇用の6年間は在職年数に算入するべきではなく,それを差し引くと,20年の経験年数には達しない。
2)「高潔な道徳的資質」の欠如
カルキは,国王親政の書記官長(Chief-Secretary)として2006年人民運動の弾圧に加担した。この事実は,ラヤマジ委員会も認定している。また,トリブバン空港事務所など多くの役所において,管理職高官として様々な汚職に関与した。

このアルヤル弁護士のカルキ任命異議申し立てに対し,最高裁は2014年9月24日,棄却を言い渡した。棄却理由の詳細は不明。

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谷川昌幸(C)

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2016/11/10 at 09:05

カテゴリー: 行政, 司法, 憲法

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カルキCIAA委員長,瀬戸際(1)

ロックマン・シン・カルキ職権乱用調査委員会(CIAA)委員長が,失職の瀬戸際に立たされている。つい先日まで,有力者や著名人を次々と告発,向かうところ敵なし,その剛腕が恐れられていたのに,今や様変わり,最高裁では委員長任命違憲訴訟再審が決定し,議会では委員長弾劾動議が受理され,委員長職務停止とされてしまった。いったいどうして,このようなことになったのだろうか?

1.カルキ委員長の略歴
1956年4月5日:ロックマン・シン・カルキ(लोकमान सिंह कार्की),カトマンズに生まれる。チェットリ。
1981年:経済学修士(トリブバン大学)
1984年:国王政府Under-Secretary就任
1989年:経済学・社会科学修士(英国ビクトリア大学)
1990年:王国政府Under-Secretary移行
1993年:王国政府Joint-Secretary就任
2001年:王国政府Secretary就任
2006年4月:王国政府Chief-Secretary就任(2009年4月まで在職)
2013年5月8日:共和国政府CIAA委員長就任(任期6年)

カルキ氏の経歴は,経済学を中心とする学歴の点でも,政府高官としての各分野における豊富な職歴の点でも,申し分ないものだ。2006年からのChief-Secretaryは行政職トップ。では,彼のCIAA委員長任命や,委員長就任後の彼の行為の何が問題とされているのだろうか?

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谷川昌幸(C)

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2016/11/07 at 18:56

カテゴリー: 行政

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SSBを告発,CIAA(6)

6.インド謀略説
ネパールで紛争や権力闘争が激しくなると,ほぼ例外なく,黒幕インドの謀略や介入が取りざたされる。今回も,カルキCIAA委員長の背後にはインドがいて,彼を通してインドがネパール政治をインド国益に沿うように動かしている,と見る人が少なくない。たとえば,M・パウダャルは次のように述べている(以下,要旨)。

▼マハビル・パウダャル「ネパールの大乱戦」,リパブリカ,2016年10月8日(*1)
CIAAは,カナク・マニ・デグジト,ゴビンダ・KC医師,SSBなどに圧力をかけたり「調査」をしたりしているが,これはカルキ委員長個人というよりは,むしろ彼の背後に控えているインドの意向を受けたものだ。

そもそもロックマン・シン・カルキのCIAA委員長任命(2013年5月)は,インドの提案だった。カルキは,2006年人民運動の弾圧に関与したとしてラヤマジ委員会に告発されていた。そのため,ネパールではカルキのCIAA委員長任命には反対が強く,ヤダブ大統領も反対の立場だったが,それをインド側がムカルジー大統領や在ネ印大使館さらには情報機関をも動員して強引に押し切り,任命させたのだ。

そのインドをバックにするカルキ委員長に歯向かうと,どうなるか? カルキ委員長任命に真っ向から反対し,またインドによる経済封鎖をも厳しく批判したカナク・マニ・デグジトは,CIAAに逮捕・勾留されてしまった。

政党や議員も面と向かって抵抗することはできない。なぜなら,どの政党や議員も,ほぼ例外なく汚職・腐敗まみれであり,関係資料をCIAAに握られているからである。CIAAに歯向かえば,告発され,仕返しされてしまう。

CIAAとの闘いは,結局はインドとの闘いなのだ。「潔癖に行動し,他国にへつらったことのない人々のみが,CIAA委員長を批判することが出来る。」

161012■CIAA FBより

*1 Mahabir Paudyal, “Battle royal in Nepal,” Republica, October 8, 2016

谷川昌幸(C)

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2016/10/12 at 19:32

カテゴリー: インド, 政党, 政治

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SSBを告発,CIAA(5)

5.カンチプル社説「学界恐喝」
CIAAによるSSB告発については,カンチプルも9月27日付社説「学界恐喝」において,厳しく批判した。この社説は,9月28日付ネパリタイムズに英訳転載されている。要旨は以下のとおり。

▼「学界恐喝」(ネパリタイムズ9月28日*1)
CIAAが,またもや権限を逸脱した。今回は,「社会科学バハ(SSB)」と「社会的対話アソシエーション(ASD)」に対する,根拠なき「不正」告発だ。

それは,CIAAが他の組織や個人を狩り立ててきたやり方と同じだ。今回の告発目的は,あたかも彼らが学界において獲得してきた信用や尊敬を傷つけること,それ自体であるかのようだ。

CIAAには,私的機関や非政府組織を調査する権限は与えられていない。憲法がCIAAに認めているのは,官憲の腐敗を調査する権限だけだ。NGOの調査が必要なら,それを行う機関は「社会福祉委員会(SWC)」である。

ところが,CIAAは,憲法を平然と無視し,NGOや銀行や他の私的機関の活動を調査してきた。それは,SSBやASDに対する糾弾に見られるように,偏見に満ちたものである。CIAAには,援助を得て学術振興を図る学術機関の活動に介入する権限は,ない。

CIAAは,ASDやSSBの文書を恣意的に解釈し,告発した。重要な国家機関たるCIAAが,このような民主主義に反する行為をしていることは問題だ。CIAAは謝罪し,そうした行為を繰り返さないことを約束すべきである。

161011■CIAA・FB

*1 “Blackmailing academia(Editorial in Kantipur, 27 September),” Nepali Times, September 28th, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/10/11 at 19:37

カテゴリー: 政治, 文化, 民主主義

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SSBを告発,CIAA(4)

4.英国ネパール学術会議の抗議声明
CIAAによるSSB告発については,「英国ネパール学術会議(Britain-Nepal Academic Council: BNAC)」も,これを厳しく批判する抗議声明(*1)を出している。

BNACは,2000年5月2日,ロンドンで設立された。歴代議長は,Surya Subedi(2000-2009), Michael Hutt(2009-2014),David Gellner(2014-現在)。比較的新しい組織だが,会員には著名なネパール・南アジア研究者が多数名を連ね,講演会,ワークショップ,出版など活発に活動しており,この4月にも「CIAAによるジャーナリスト,カナク・マニ・デグジト逮捕に関する声明」(2016年4月27日)を出している(*2)。そのBNACが今回発表した抗議声明の概要は,以下の通り。

▼「CIAAと,そのSSBおよびASD調査報告に関する声明」2016年10月1日(*1)
CIAAが,社会福祉委員会(Social Welfare Council)に対し,SSBとASDの調査を要請したこと(Himalayan Times, 25 Sep. 2016)につき,BNACは,世界各地のネパール研究者とともに,深い憂慮の念を表明する。

(1)SSBは,学術交流をはじめとするその優れた諸活動によりネパールの社会科学の発展に大きく寄与してきた。国際的研究諸機関も,SSBとの連携を求めてきた。
(2)SSBの活動目的は,内外の研究者の連携・協力関係の促進であり,貧困救済など具体的な事業実施を目的とする他のNGOとは異なる。支出の多くが研究費や会議費となるのは,当然。しかも,SSB収入の多くは,参加者や連携組織からの寄付金である。
(3)ASDは,SSBの活動の一つであり,別個のNGOではない。
(4)CIAAは,カンチプル社説(9月28日)などでも,管轄権逸脱を批判されている。
(5)SSBと協力し様々なプログラムを実施してきたが,SSBの経費支出には何の不正もなかった。SSB会計は,十分に信頼できるものである。

[署名/賛同]
Executive Committee members of the Britain-Nepal Academic Council:
David Gellner (Chair), Michael Huttほか12名
Other members of the BNAC, and non-members based in the UK:
Louise Brown, Lionel Caplan ほか15名
Other academics, not members of the BNAC and not based in the UK, who wish to have
their names associated with this statement:

Tatsuro Fujikura, Katsuo Nawa ほか64名

161010

*1 “Statement on the CIAA and reports on investigation of Social Science Baha (SSB) and Alliance for Social Dialogue (ASD),” The Britain-Nepal Academic Council (BNAC), 1st October 2016, http://bnac.ac.uk/statements/
*2 “Statement on the arrest by Nepal’s Commission for the Investigation of the Abuse of
Authority of Journalist Kanak Mani Dixit,” The Britain-Nepal Academic Council (BNAC), 27th April 2016, http://bnac.ac.uk/statements/

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/10/10 at 19:18

カテゴリー: 教育, 文化, 民主主義

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SSBを告発,CIAA(3)

3.SSBの反論
CIAAによる告発報道発表に対し,SSBは全面否定の反論声明を発表した。「職権乱用調査委員会の報道発表に関する社会科学バハの声明」(日付なし,2016年10月8日閲覧 *1)。要旨は以下の通り。

(1)正規のNGO登録
 ・SSBは,2007年1月15日ラリトプル郡役所登録,以後,毎年更新。また,社会福祉委員会にも登録し,毎年更新。国税局には2007年1月28日登録。
 ・ASDは独立組織ではなく,SSBが2007年以降運営してきたSSBの事業。これについても,あらかじめ法令に基づき認可を得ており,それを証明する社会福祉委員会の諸文書も取得している。

(2)裏付けなしの曲解発表
 ・CIAAは,一度もSSBから聴取していない。もっぱら社会福祉委員会提出のSSB文書を利用し,支出等について誤った解釈をして,これを発表した。

(3)管轄権の逸脱
 ・CIAAは,あたかも裁判所であるかのように裁決し,報道発表をした。これは,憲法や他の法令に違反する。こうしたCIAAの悪意と偏見による行為は,管轄権の逸脱である。

(4)SSB事業の合法性と正当性
 ・SSBは法に基づき設置・運営されており,法に基づく調査であれば,協力を惜しまない。
 ・SSBの事業目的:1)内外の諸機関と協力しネパール人研究者の能力向上を図ること,2)整備された社会科学図書館の設置・運営,3)シンクタンクとして社会科学の調査・研究・教育や学術交流を促進,4)討論,対話,交流を通して政策立案・分析に寄与。
 ・SSBは,学術機関として,多元社会における法の支配,立憲主義,民主主義,良い統治,包摂,説明責任の向上を図っている。

161009

*1 “Statement by Social Science Baha on the press release issued by the Commission for Investigation of Abuse of Authority,” http://www.soscbaha.org/news/news-blog/878-statement.html

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/10/09 at 19:24

カテゴリー: 教育, 文化, 民主主義

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