ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

良書廃棄へ向かう自治体図書館

近くに中規模の市立図書館分館(蔵書約20万冊)がある。便利なので月2,3回は利用するが,行くたびに相当数の蔵書が廃棄されているのを目にし,驚いている。

蔵書廃棄は,一応,「リサイクル」の名で実施されている。図書館で不要とされた(と思われる)本が,リサイクル棚に並べられ,誰でもタダで持ち帰ることが出来る。「捨てる」のではなく,「リサイクル」であり「再利用」だという名目で,行われているのだろう。

しかし,図書館利用者の側からすれば,たとえ「リサイクル」名目であれ,廃棄されれば,もはやその本は無くなり,利用できなくなる。不便だ。(同じ本の新版買い替え所蔵もあろうが,多いとは思われない。また,複本所蔵で廃棄後何冊か残る場合でも,後述のような問題がある。)

図書館の蔵書廃棄は,書庫不足が最大の理由であろう。限られた収納スペースに,どの本を並べておくか? 悩ましい問題である。

図書廃棄は大学図書館ですら行っているので,自治体図書館だけの問題ではないが,廃棄される本(と残される本)の質という点では,自治体図書館の方がはるかに深刻だと思われる。

図書館が新しい本を買い不要な本を廃棄するときの評価基準は,大学図書館の場合は教育研究にとっての必要性だろうが,自治体図書館の場合は何であろうか?

自治体図書館の選書には,一市民としての推測にすぎないが,選書委員会のようなものがあるにせよ,実際には地元住民からの要望が強く働いているのではないかと思われる。自治体図書館は,身近な施設なので,住民の声をまず第一に聞かざるをえない。その結果,優先的に購入されるのは――
・受賞,映画化などで話題になっている本。
・地元利用者からの購入希望の多い本。
・住民自身は自分の金では買いたくはないが,ちょっと見てみたいハウツー本や実用書。旅行案内,料理本,生活相談,健康本,人生訓,冠婚葬祭解説など。

自治体図書館は,民主的であればあるほど,住民の声を聞けば聞くほど,これらの本を重点的に買う。しかも,ベストセラーなど,話題になり要望が強ければ強いほど,同じ本を10冊,20冊と大量に買い込む(複本購入)。

その結果,書架(書庫)はすぐ満杯になり,利用の少ない本が押し出され,リサイクル(廃棄)に回される。そして,書架は,ベストセラー本(すぐ忘れられ,残されるのは結局1,2冊だが)や「すぐ役に立つが自分では買いたくない」実用書,あるいは一定の政治的傾向をもつ――政治的要望の根強い――時事政界本などに席巻されるということになる。

自治体図書館が,実際に,どのような本を新たに購入し書架に並べているかについては,図書館に行って直にご覧いただくか,あるいは各図書館ホームページの新規購入図書案内でお確かめ下さい。

以下は,最近,近所の上記中規模市立図書館分館に行ったとき,たまたま目にし,タダでもらってきた本のごく一部である。私にとって,図書館は,館内書架よりもリサイクル(廃棄)本棚の方が魅力的になりつつある。

宮原寧子『ヒマラヤン・ブルー』
ヤンツォム・ドマ『チベット・家族の肖像』
重廣恒夫『エベレストから百名山へ』
シュタイニッツァー『日本山岳紀行』
坂田・内藤・臼田・高橋編『都市の顔・インドの旅』
渥美堅持『イスラーム教を知る事典』
梅棹忠夫『二十一世紀の人類像』

太田昌秀『沖縄の民衆意識』
萱野茂『イヨマンテの花火』
野口武彦『江戸のヨブ』
戸沢行夫『江戸がのぞいた<西洋>』
大林太良編『岡正雄論文集 異人その他』
加賀乙彦『ザビエルとその弟子』
ライシャワー『ライシャワーの見た日本』
佐竹靖彦『梁山泊』

吉田洋一『零の発見』
筒井清忠編『新しい教養を拓く』
吉本隆明『世界認識の方法』
小田実『生きとし生けるのものは』
田口裕史『戦後世代の戦争責任』
佐渡龍己『テロリズムとは何か』
中村光男『風俗小説論』
日野啓三『書くことの秘儀』

D・ブアスティン『クレオパトラの鼻』
N・サーダヴィ『イヴの隠された顔』
ユング『タイプ論』
池上俊一『動物裁判』
カリエール『外交談判法』
ヴァイツゼッカー『良心は立ち上がる』
W・J・パーマー『文豪ディケンズと倒錯の館』
M・ブーバ=ノイマン『カフカの恋人 ミレナ』
デカルト『方法序説』
トマス・ペイン「コモン・センス」
J・S・ミル『ミル自伝』
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■最近入手の図書館リサイクル本

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/11/03 at 16:37

カテゴリー: 教育, 文化,

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老化の悲哀

生物にとって老化・老衰は宿命とはいえ,いざそれが自分の身に現れ始めると,当初は「まさか,まだ」と疑い,見て見ぬふりをし,ごまかして安心しようとするが,いつまでもそのようなことは続けられるはずもなく,どうしても否定しきれなくなると,落胆し,あきらめ,結局は認めざるをえなくなる。

■チトワン

私は,小身痩躯(中学以降,2年ほど前まで163cm/52kg前後)だが,幸い,いたって健康で,これといった病気には一度もなったことがなく,健康診断や予防注射も法定義務となっているもの以外は受けたことがなかった。

そんな私にも,70歳を過ぎるころから身体に少しずつ異変が現れ始めた。頭髪が抜け,視力が落ち,眠りが浅くなった。「あれ,変だなぁ・・・・老化が始まったのかな?」とは思ったが,まだ,老化といっても,どこか他人事,自分自身のこととしては見ていなかった。

■ビラトナガル付近

ところが,母の介護で少々無理をし疲労蓄積を感じ始めた2年ほど前のある日,風呂に入り鏡に映った自分の身体を改めて見てみて,愕然とした――肋骨が浮き上がり,まるで骸骨のよう。あわてて小型体重計を買ってきて量ると,わずか45kg。中学生になって以降,もともと痩身ではあったが,こんなに痩せ細ったことは一度もなかった。

これは大変と,以後,栄養のありそうなものを出来るだけたくさん食べるようにしてきたが,いまもって体重は元の52㎏前後までは戻らない。いくら努力しても45kg前後の維持が精一杯。なぜだろう?

当初,体重減は介護疲れによる一時的な現象と頭から思い込んでいたが,いつまでたっても体重が回復しない現実を目の当たりにすると,本当の原因は病気か何か,別のところにあるのではと疑わざるをえなくなった。そこでイヤイヤながらも健康診断を受けてみたが,出た数値はどれも年相応,特に異状なし,ということであった。

あれ,医学的にはどこも悪くないはずなのに変だなぁ,とあれこれ思案していて,ハタと気付いた――これは自然な老化現象の一つにちがいない,他の動植物と同様,私も老化で痩せていき,いずれ骨と皮のようになり,枯れ果てる宿命なのだ,と。こうして,いささか遅ればせながらも,老化・老衰が,直視せざるをえない自分自身の現実の問題として切実に意識されるようになったのである。

■キルティプルより

私の老化は,今年に入り,新型コロナ(コビト19)感染拡大とほぼ同時に始まった鼻と眼の異常な乾燥により,さらに一段と進行したことが明白となった。いわゆるドライノーズ,ドライアイである。

はじめ鼻(鼻腔)が渇き始め,それが徐々に眼にも及んでいった。この時も,当初はまだ,風邪でも引いたのだろうと思い,たいして気にもしていなかったが,症状は,良くなったり悪くなったりを繰り返しながら,全体としては着実に悪化していった。

鼻腔がカラカラに乾き,嗅覚が異常に過敏となり,さらに激痛が始まり,時々出血さえする。これが四六時中。しばらくすると,鼻腔に加え,眼も乾き始めた。眼球を動かすと,ホコリが入っているかのような違和感を感じ,痛む。これも四六時中。

鼻にはドライノーズ用スプレー,眼には涙型点眼剤を使用。さらにマスクを湿らせ,昼も夜も一日中,着けるようにした。

が,それでも眼も鼻も治らない。そのため,夜は頻繁に目が覚め,熟睡できない。そして昼間も,鼻と眼の不快な痛みに加え,重度の不眠のため,イライラしたりボゥーとしたりしていて,集中して何かを考えたり行ったりすることは,およそ出来ない。

このような状態が続き,改善の兆しも見えないので,すっかり参ってしまい,再び怖ごわ健康診断を受けてみたが,またしても特に異状は無し。検査結果で見る限り,74歳にしては,数値的には健康なのだ。

とすれば,これもまた,痩せと同様,自然な老化現象の一つと覚悟せざるをえない。これまで鼻や眼に潤沢に供給され,それらを水みずしく保ってきた鼻水や涙が減り,涸れ始めたのだ。イヤなことだが,これも自然必然,なんとかやり繰りし折り合いをつけつつ,完全に涸渇し枯れ果てるまで生きていく以外に方法はなさそうだ。

■キルティプルより

むろん,こんなことを書くと,何を大げさな,老化など誰にとっても当たり前のことではないか,と呆れられ笑われるかもしれない。が,前述のように,少なくともほとんど病気知らずで生きてきた私自身にとっては,このような体重減や眼鼻の不調は初めての経験であり,したがって,それらにどう対処し,どう折り合いをつけていくべきか,まったく見当もつかなかったのである。

だから,このブログも,2020年6月10日の記事を最後に,これまで長期にわたって投稿してこなかった。関心のある情報を集め,読み,分析し,自分なりに評価して文章化することが出来なかったからである。

それでも,この半年余りの悪戦苦闘の結果,体重減や眼鼻の不調は自然な老化現象なのだと諦め,身体と精神をそれに合わせていくしかないことに気づき始めた。老化は,これから先,確実に,さらに加速度的に進む。それと折り合いをつけつつ,できるだけ平穏に生きていくように心掛けたい。わが愛犬が,痩せ細り骨と皮のようになりながらも,最後まで愛嬌を振りまきつつ,眠り込むように18年の生涯を全うしたように。

諦念は悟りであり救いである――そう願いたい。

■カトマンズ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/11/01 at 16:35

カテゴリー: 健康, 宗教, 文化

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[新刊]現代ネパールを知るための60章

現代ネパールの主要分野につき,それぞれの専門家が新資料に基づき記述した本が出版された。全体の構成は以下の通り。

日本ネパール協会編『現代ネパールを知るための60章』明石書店,2000円
Ⅰ ネパール概観
Ⅱ 現代政治の激動
Ⅲ 経済の変化と海外労働
Ⅳ 開発・農業・インフラ
Ⅴ 保健医療
Ⅵ 教育
Ⅶ ジェンダー,社会的包摂
Ⅷ 時代への対応:少数民族,宗教
Ⅸ 生活の場,文化からの対応
Ⅹ 伝統と信仰
ネパール地図(州名と郡名)/年表/参考文献

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/06/10 at 14:45

カテゴリー: ネパール

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コロナ危機深刻化のネパール

ネパールはいま,コロナ(コビド19)感染拡大と,ロックダウン(封鎖)長期化による生活苦という二重の危機に直面している。

ネパールのコロナ感染は,全国対象の厳しいロックダウンが3月24日に発令され,現在も継承されているにもかかわらず,拡大の一方だ。WHO統計によれば,6月7日現在,累計で感染者3,235人,死者13人。


 ■ネパールのコロナ感染者累計/日毎感染者数(WHO)

このネパールの状況は,国境を接する隣国インドの現状と当然,連動している。インドでもコロナ感染拡大は続き,6月7日現在,累計感染者246,628人,死者6,929人に達している。危機的状況だ。


 ■インドのコロナ感染者累計/日毎感染者数(WHO)

このような状況をみると,ネパールにとって全土ロックダウンはやむを得ない緊急措置といえるが,それが長期化すると,人々の生活に深刻な影響を及ぼす。仕事はなくなり,学校は閉鎖,病気になっても病院は手いっぱいで診てもらえない。生活そのものが危なくなり始めているのだ。

特に深刻なのが,出稼ぎ労働者,日雇い労働者,零細商工業者など,経済基盤の弱い人々。ロックダウンが始まると,彼らはたちまち仕事を失い(コロナ失業),生活苦に陥ってしまった。

地方も大変だ。カトマンズなど都市部で働いていた多くの人々が,仕事を失い,徒歩など四苦八苦して,村へと帰っていった。インドから,そして湾岸諸国など海外からも,失業した出稼ぎの人々が,何とか国境を越え,続々と村に帰ってくる。村に彼らを受け入れる余力はあるのだろうか? 出稼ぎ送金なしで村はやっていけるのだろうか? いや,そもそもネパール国家経済は,国外出稼ぎ送金激減でも,やっていけるのだろうか?

ネパール政府はむろん,ロックダウンによる失業を救済するための対策は考えている。中央政府は困窮家族に食料など支援物資を配布しているし,カトマンズ市も困窮失業者に週2回,公共事業の仕事を割り振り,経済的支援をしている。が,これらの支援事業は焼け石に水,拡大一方の困窮家族の救済には到底足りていない。労働問題専門家のガネシュ・グルン氏(国家計画委員会元委員)は,こう警告している。

「政府は,何ら対策も立てずに,ロックダウンを延長した。これが続けば,コビド19よりも飢えで死ぬ人の方が多くなるだろう。*3」

このような状態でロックダウンが続き,収入が減り生活が苦しくなってくると,店を開けるなど,あちこちでロックダウン無視が増えてきた。商工会議所,私学連盟などもロックダウン緩和の要望を出した。ロックダウン継続は,このままでは困難な状況になってきたのである。

これに対し,政府は,「公衆衛生非常事態」宣言を準備している。これが発令されると,政府は,民間の施設,人員,組織(NGO,INGOを含む)をコロナ対策に動員することが出来る。根拠は,公衆衛生法,感染症法など。強権的とも見える政府への強力な授権措置である。

その一方,政府は,ロックダウンの具体的な緩和策も検討している。I・ポクレル副首相を長とする「コロナ危機対策センター」が準備しているのは,ロックダウンを6段階で緩和していき,70日以内に完全解除する案。生活,健康,教育,経済など,それぞれについて必要性が高く,感染拡大リスクの低い部分から順次規制を解除していく計画であり,それ自体は現実的で合理的なものといえよう。

しかしながら,難しいのは,コロナ感染抑え込みと行動規制緩和が目論見通り両立するか,という問題。上掲のコロナ感染推移図を見ると,ネパールは,インドと同様,まだ感染拡大期にあり,ここで人々の行動規制を緩和することには大きな危険が伴うであろう。

他方,ロックダウン長期化が,ネパール社会全体に深刻な打撃をもたらすこともまた確かである。どうすればよいのか? 日本などより,はるかに難しく困難な状況に,ネパールは置かれていると見ざるをえないであろう。

*1 Aditi Aryal, “Thousands of Nepalis without food or shelter await entrance at the Karnali border,” Kathmandu Post, May 26, 2020
*2 “Feed the hungry”, Editorial, Kathmandu Post, June 5, 2020
*3 Anup Ojha, “Thousands of people are struggling under lockdown but government has offered no real solution,” Kathmandu Post, June 3, 2020
*4 Tika R Pradhan, “Government is considering plans to ease the lockdown but there’s no decision yet,” Kathmandu Post, June 6, 2020
*5 “Nepal’s Covid-19 tally reaches 3,448 with 213 new cases on Sunday,” Kathmandu Post, June 7, 2020
*6 Binod Ghimire, “Private schools to lobby government to resume classes next month,” Kathmandu Post, June 7, 2020
*7Makar Shrestha, “Lockdown forces a family into destitution,” Kathmandu Post, June 7, 2020
*8 KASHI KAFLE/MARIE-CHARLOTTE BUISSON, “Agriculture: Can it provide relief to returnee migrants and vulnerable populations?,” Himalayan Times, June 03, 2020
*8 RAM KUMAR KAMAT, “Health ministry pitches for declaring health emergency,” Himalayan Times, June 06, 2020
*9 “KMC set to launch ‘Cash for Work’ scheme,” Himalayan Times, June 06, 2020
*10 “UNLOCKDOWN: The lockdown has outlived its usefulness, it is time to get a move on,” Editorial, Nepali Times, June 3, 2020
*11 Nasana Bajracharya, “Nepal lockdown continues leaving scores hungry. But, there are a few who feed them,” english.onlinekhabar.com, May 16th, 2020
*12 “India Coronavirus Map and Case Count, New York Times, June 7, 2020

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2020/06/09 at 09:23

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (9)

[参考資料]
*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)
*3 入国管理局長「拒食中の被収容者への対応について」(通達),2001年11月2日
*4 入国管理局「退去強制業務について」平成30年12月
*5 出入国在留管理庁「収容・仮放免に関する現状」令和元年11月25日
*6 出入国在留管理庁「送還忌避者の実態について」2020/03/27
*7 「仮放免に関する主な通達・指示」難民支援協会,2019年11月
*8 「法務大臣閣議後記者会見の概要[ナイジェリア人男性の死亡に関する質疑について]」令和元年7月2日
*9 宮崎岳志「東京入国管理局に収容されている外国人多数がハンガーストライキを行っているとの報道に関する質問主意書」平成29年5月16日提出,質問第318
*10 「衆議院議員宮崎岳志君提出 東京入国管理局に収容されている外国人多数がハンガーストライキを行っているとの報道に関する質問に対する答弁書」内閣衆質193第318号,平成29年5月26日
*11 福岡難民弁護団「大村入国管理センターでのナイジェリア人の死亡事故についての声明」2019/06/27
*12 九州弁護士会連合会「大村入管センターにおけるナイジェリア人死亡事案に関する調査報告書に対する理事長声明」2019/10/29
*13 東京弁護士会「外国人の収容に係る運用を抜本的に改善し、不必要な収容を直ちにやめることを求める会長声明」2019/07/01
*14 日本弁護士連合会「大村入国管理センターにおける長期収容に関する人権救済申立事件(勧告)」2019/11/25
*15 「緊急ステートメントー飢餓死したナイジェリア人男性についてー」FREEUSHIKU,2019/10/03
*16 クルドを知る会,日本クルド文化協会,日本クルド文化協会クルド人難民Mさんを支援する会「大村入管ナイジェリア人飢餓死事件の調査発表を受けての共同声明」2019/10/07
*17 関東弁護士会連合会「入国管理局による外国人収容問題に関する意見書」2019/01/15
*18 「患者の権利に関するWMAリスボン宣言
*19 WMA Declaration of Malta on Hunger Strikers, Medical Assembly, 2017
*20 Ian Miller, A History of Force Feeding: Hunger Strikes, Prisons and Medical Ethics, 1909–1974, Palgrave Macmillan, 2016
*21 Mary A Kenny, Derrick M Silove and Zachary Steel, “Legal and ethical implications of medically enforced feeding of detained asylum seekers on hunger strike,” The Medical journal of Australia 180(5),  April 2004
*22 Hernán Reyes, “Medical and Ethical Aspects of Hunger Strikes in Custodyand the Issue of Torture,” Research in Legal Medicine, Vol 19, 1998.
*23 「サニーさんの死なぜ 大村入管のナイジェリア人 収容3年7ヵ月」西日本新聞,2019/07/18
*24 「柚之原牧師「現在の制度に無理がある」 大村入国管理センターの長期収容問題」長崎新聞,2019/9/29
*25 「仮放免求めハンスト相次ぐ 大村入国管理センターの長期収容問題」長崎新聞,2019/9/29
*26 「ハンストのナイジェリア人男性が飢餓死するまで 調査報告書を読んだ医師が解説」dailyshincho, 2019/10/08
*27 “Nigerian on hunger strike dies in Japanese immigration centre,” guardian, 2019/10/02
*28 レジス・アルノー「男性が不慮の死「外国人収容所」悪化する惨状 今もハンガーストライキが行われている」東洋経済,2019/08/06
*29 「収容外国人ハンストで死亡 入管施設で初、報告書公表」nikkei,2019/10/01
*30 「法務省に入国拒否され長期収容の27人がハンスト 長崎では死者も」newsweekjapan,2019/06/26日
*31 「長崎に収容のナイジェリア人「飢餓死」報告書 入管ハンスト初の死者」東京新聞,2019/10/02
*32 「入管施設での外国人死亡、ハンストでの餓死だった。入管庁「対応問題なし」」朝日新聞デジタル,2019/10/01
*33 「入管施設で餓死 人権軽視ひずみあらわに」信毎・社説,2019/10/03
*34 野村昌二「体重71キロが47キロに…入管収容者の餓死 外国人に人権ないのか?」AERA,2019/11/12
*35 大橋毅「「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」の検討」,2019/12/28
*36 難民支援協会HP
*37 二村伸「急増する長期収容」NHK開設室,2019/08/21
*38 望月優大「追い込まれる長期収容外国人」2018/11/05,gendai,simedia.jp
*39 「『みんなで裸を見たと言われた』・・・・入管収容女性が手紙で訴え」毎日新聞HP,2020/05/18
*40 「「2週間だけ仮放免」 繰り返される外国人長期収容 「一瞬息させ、水に沈めるようだ」」毎日新聞,2019/11/12
*41 織田朝日「入管施設でハンストを続ける被収容者を苦しめる「2週間のみの解放」」ハーバー・ビジネス・オンライン,2019/11/01
*42「衝撃の内部映像、収容者“暴行”入管施設で何が?」TBS news23, 2019/12/24
*43 アムネスティ「入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人」2019/10/ 08
*44 西田昌矢「入管収容者がハンストで半減? 死亡例受け仮放免増加、出所後も困窮」西日本新聞,2020/4/6
*45 「収容外国人の「ハンスト」拡大=仮放免求め、死者も-入管庁調査」jiji.com,2019/10/01
*46 「「入管は自分たちを殺したいのかな?」入管収容所で抗議のハンストが拡大」ハーバービジネスオンライン,2019/08/07
*47 「入管センター「外国人ハンスト」騒動、人権派新聞各紙がほとんど触れない事実」週刊新潮,2019/08/15・22日号
*48 「入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人」アムネスティ,2019/10
*49 志葉玲「法務省は違法な収容をやめて―難民や弁護士らが会見、衰弱したハンスト参加者らが再収容の危機」Yahooニュース,2019/08/13
*50 志葉玲「救急車を二度追い返した!東京入管の非道、医師法や法務省令に違反の指摘~手遅れで死亡した事例も」Yahooニュース,2019/03/14
*51 鬼室黎「絶食ハンストした2人、入管が再収容 仮放免から2週間」朝日新聞デジタル,2019/07/24
*52 鬼室黎「入管にハンスト抗議、イラン人仮放免 体重25キロ減も」朝日新聞デジタル,2019/07/10
*53 「牛久入管 100人ハンスト 5月以降拡大、長期拘束に抗議」東京新聞,2019/07/25
*54 「「死ぬか出るか」入管ハンストの男性2人、会見で語った心境」J-CASTニュース, 2019/08/13
*55 「不法滞在外国人、ハンスト続出で入管苦慮…約4割は元刑事被告人」産経新聞,2019/09/30
*56 樫田秀樹「人権非常事態 死に追いやられる難民申請者」,『世界』2019年12月
*57 樫田秀樹「長期収容、自殺未遂、餓死…問題続出の背景に何がある?18年勤めた元職員が語る「入管」の闇」週プレNEWS, 2020/01/13
*58 西田昌矢「入管収容者がハンストで半減? 死亡例受け仮放免増加、出所後も困窮」西日本新聞,2020/04/06
*59 山田徹也「不法入国者が収容される現場の「壮絶な実態」 収容期間は長い人で4年超、医療面での問題も」東洋経済,2020/01/18 5:00
*60 「民主主義とは何かー5日間、計105時間に及ぶハンガーストライキで元山仁士郎さんが訴えたかったこと」琉球新報 2019年1月21日
*61 「元山さんのハンストに共感、県内外から応援続々 辺野古投票実現へ署名も」沖縄タイムス,2019/01/17
*62 「沖縄県民投票めぐるハンストを中止 医師の指摘で」朝日デジタル, 2019/01/19
*63 「「県民投票の会」元山氏のハンスト、ドクターストップ 105時間で終了」沖縄タイムス,2019/01/19
*64 「沖縄、不屈の歴史 ハンストは権力への意思表示」毎日新聞,2019/01/19
*65 辰濃哲郎「沖縄の世論を動かした若者たちの断固たる行動 分断と歴史、葛藤の島でもがく若者たち(3)」東洋経済ONLINE,2019/02/10
*66 三上智恵「「県民投票潰し」とハンガーストライキ」マガジン9,2019/01/23
*67 「宜野湾市役所前テントについて」宜野湾市ホームケージ
*68 「「ハンストはテロと同質」「さっさと死ね」秘書ツイート 衆院議員が謝罪」沖縄タイムス,2019/01/26
*69 「高須克弥、橋下徹、ネトウヨ、安倍応援団がバカ丸出しのハンスト叩き! 元山氏、ウーマン村本が完全論破」リテラ,2019/01/22
*70 美浦克教「沖縄県民投票と日本本土~元山仁士郎さんの105時間ハンストに思うこと」ニュース・ワーカー2,2019/01/20
*71 中村尚樹「琉球弧に見る非暴力抵抗運動~奄美と沖縄の祖国復帰闘争史~

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2020/06/03 at 09:50

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (8)

9.強制治療・強制栄養の残虐非人道性
日本政府は,「調査報告書」でも明らかなように,入管施設収容のハンスト者(拒食者)に対し強制治療・強制栄養をすることを認めている。

しかしながら,「リスボン宣言」や「マルタ宣言」をみれば明らかのように,それらは極めて残虐で非人道的であり,とうてい許容されるものではない。

このことは,古くから欧米で繰り返されてきた強制治療・強制栄養の多くの記録を見ても明らかである。以下参照。
ゴビンダ医師のハンスト闘争(21)
ゴビンダ医師のハンスト闘争(22)
ゴビンダ医師のハンスト闘争(23)
ゴビンダ医師のハンスト闘争(24)
ゴビンダ医師のハンスト闘争(25)

以上の多くの事例から明らかなように,入管施設被収容者に強制治療・強制栄養を実施し,力づくでハンスト(拒食)を断念させようとするようなことは,なすべきではない。残虐,非人道的であるばかりか,それらを強行しても成功の見込みはない。

したがって,サニーさんに対し強制治療・強制栄養を実施しなかったこと,それをもって出先機関たる大村センターの責任を問うべきでもない。大村センターの責任は,仮放免など他の採りうる方法によりハンスト死を防止するための努力を十分に尽くさなかったことにある。

 
■奴隷用強制摂食器具(National Museum of Denmark)/フォアグラ強制給餌(Stop Force-feeding)

10 見直されるべき入国管理政策
大村センターでハニーさんをハンストに追い込み,死に至らしめたのは,日本政府の入国管理政策そのものである。

外国人労働者を,尊重されるべき人格をもった「人間」としてではなく,安上がりで使い勝手の良い「労働力」としてのみ受け入れ,日本側の都合で不要となれば,一方的に送り返そうとする。もし在留資格が切れ,特別在留資格も得られず強制退去命令を受け収容施設に入れられてしまうと,仮放免はあるにせよ,原則として出国まで「無期限」で拘束される。

また,入管施設被収容者が難民申請をしていても,難民認定は極めて厳しく,やはり長期の「無期限」収容ということになってしまう。

外国人労働者や移民・難民の扱いは,どの国においても難しい課題だが,日本の場合は,とりわけ問題が多い。ただ,はっきりしているのは,このままでは「無期限」収容への抗議ハンストはなくならず,しかもそれを断念させるための強制治療・強制栄養はあまりにも残虐・非人道的なため実施は実際には困難だということである。

入管施設でのハンスト問題は,外国人労働者あるいは移民・難民の処遇を根本的に改める以外に,解決されることはないだろう。


■強制摂食反対ポスター/ICE強制摂食抗議デモ(NYT, 2019/01/31

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/06/02 at 08:51

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (7)

8.入管庁のハンスト死防止策提言
入管庁「調査報告書*1」がハンスト死防止のため提言しているのは,もう少し具体的にいうと,つぎのような方策である。

(1)説得,カウンセリングの強化。精神疾患が疑われる場合は,精神科受診(p13)。
(2)「拒食や治療拒否により・・・・危険が生じている場合には,・・・・強制的治療を行うことが可能となるよう体制を整備」(p14)。
(3)強制治療実施に不可欠の常勤医師の確保(p14-15)。
(4)「強制的治療の体制を確保できた収容施設を拒食対応拠点と定め,・・・・時機を失することなく当該被収容者を当該拠点に移収して処遇する」(p15)。

このように「調査報告書」は,強制治療・強制栄養の実施をハンスト死防止策として提言する一方,送還や仮放免についても,検討を求めてはいる。

しかし,送還については,促進のための方策の検討が必要と述べているにすぎない。

また,仮放免については,弾力的な運用の検討を提言してはいるが,ハンスト(拒食)を理由とする場合には,極めて消極的である。

・「拒食による健康状態の悪化は,拒食を中止して摂食を再開したり点滴治療を受けることなどにより解消されるべきものであり,拒食者の健康状態の悪化を理由として仮放免を行うことについては慎重な検討を要する」(p15-16)。
・「(拒食で生命が危険になり)治療・回復を図るためには一時的に収容を解いて治療に専念させることが不可欠かつ適切であると考えられる場合には仮放免を検討する必要があるところ,こうした仮放免は飽くまでも治療や健康状態の回復を目的とし,この目的に必要な限度で行うべきものである。」(p16)。
・「拒食による健康状態の悪化は,拒食の中止又は収容施設内においても可能な点滴等により改善される性質のものであり,拒食者の健康状態の回復を図るために仮放免が不可欠ということはなく,このような状態における仮放免は,仮放免許可を得ることを目的とした他の被収容者の拒食を誘発するおそれがあることに鑑みると,一般に,拒食により健康状態が悪化したものを仮放免の対象とすること自体,極めて慎重でなければならない」(p13)。

このように見てくれば,「調査報告書」が,送還困難なハンスト者(拒食者)が危険な状態になったときは,(1)医師の判断に基づき強制治療・強制栄養を実施するか,あるいは(2)健康回復のため仮釈放し,健康回復後速やかに再収容する,という立場をとっていることは明らかである。

■収監サフラジェットへの強制摂食(英紙1913年5月24日)

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/06/01 at 15:23

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (6)

7.入管庁と「リスボン宣言」・「マルタ宣言」
日本政府は,入管施設に多数の無資格入国者を収容しており,ハンスト(拒食)も少なくなかったことから,世界医師会の「患者の権利に関するリスボン宣言」(1981/2015 *18)や「ハンガーストライキ実行者に関するマルタ宣言」(1991/2007 *19)については,当然ながら,熟知していた。大村センターのハンスト死に関する「調査報告書」でも,第三者専門医からの聴取としてであるが,両宣言につきこのように言及されている。

リスボン宣言:強制的治療が許されないという考え方は,このこの「宣言」などに示され,国際的に幅広く支持されてコンセンサスがある。この「宣言」は,精神的に判断能力のある成人患者の自己決定の権利などを述べたもの(p6-7)。
マルタ宣言:「リスボン宣言」に準じたもの。医者は個人の自己決定を尊重すべきである。ハンガーストライキを行うものに対して,同意なき強制的治療や強制栄養は行うべきではないなどとしている(p7)。

このように「調査報告書」は,第三者専門医の所見としてではあるが,強制治療や強制栄養の否認には国際的コンセンサスがあると明記している。

しかしながら,ここで注意すべきは,「調査報告書」が他方では,強制治療や強制栄養が許される場合もあることを,幾度も念押し確認している点である。本筋は,むしろこちらの方にある。

「調査報告書」第三者専門医所見によれば,精神保健福祉法,感染症関係法など法が規定する場合には,強制治療は認められる。また,意識喪失の場合は,それ自体は同意と同じではないが,自殺阻止と同様,救命優先の観点から強制治療は認められる。さらに治療拒否や自殺願望は精神疾患に起因する場合が多いので,そうした場合には強制治療は許されるという意見もある。

「拒食について,その原因が,うつ病や統合失調症,ストレス反応などの精神疾患と診断されるのであれば,入院治療を実施することとなる。病院に連れてくれば治療拒否をしなくなる人もいる。本件のような拒食者については,精神疾患を見落とすことがないよう,精神科を受診させた方がよい。」(p7)。

以上のように見てくると,「調査報告書」が,同意なき強制治療・強制栄養の否認を国際的コンセンサスとしつつも,意識喪失を待って,または精神疾患の診断を得て,それらを実施すべきだという立場をとっていると判断して,まず間違いないであろう。

■グアンタナモ基地での強制摂食(Graphic News, 2013/05/01)

*18 「患者の権利に関するWMAリスボン宣言
*19 WMA Declaration of Malta on Hunger Strikers, Medical Assembly, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/31 at 10:55

カテゴリー: 社会, 外交, 人権

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入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (5)

6.大村入管センターの対応
このハニーさんハンスト死の責任は,入管庁「調査報告書(*1)」を見る限り,不当で不合理な出入国管理制度を制定し維持してきた日本政府にある。(出先機関職員個々の根源的な抵抗義務の問題については,別の機会に論じることにする。)

大村入管センターの職員は,規定に従い,サニーさんに対し繰り返し摂食と受診を促した。そして,それでも拒食が続き衰弱が激しくなると,何とか説得し所内診療を受けさせた。

サニーさんを診察した診療室医師(非常勤)は,彼に対し,これ以上拒食を続けると生命が危ないと警告し,センター側には彼を説得して点滴を受けさせるよう指示した。

この医師は,同意なき治療(強制治療)は実施すべきでないという立場をとっており,入管センター側には「衰弱して拒絶意思を明示しなくなった時点で直ちに入院治療させることを指示した」(p49)。

この医師の強制治療否認の立場は医学倫理上広く認められており,大村センター診療室医師(非常勤)9名も近隣の医療機関もすべて,この立場をとっていた。そのため,大村センターは,サニーさんに対する強制治療は実施困難と判断し,担当医師の指示に従うことにしたのである。

むろん大村センターも,拒食については,入管局長通達「拒食中の被収容者への対応について」(2001年11月2日*3)があることは十分承知していた。

この通達によれば,拒食3週間を超えると診療室医師と看守が拒食者に強制治療への移行を伝え,22日目から医師が不要と判断しない限りそれを実施することになっている。また,これ以外に,体重減少10%以上の場合および医師が必要と認めた場合は,強制治療を実施する。ただし,拒食21日を超えても,医師が不必要と判断したときは,強制治療は延期する。さらに,医師が強制治療が必要と判断したにもかかわらず拒食者が強制治療を拒否する場合には,「治療行為実施の最終的な決定は入国者収容所長又は地方入国管理局長の指示による」(2(5))。

回りくどく難解な表現だが,要するに「通達」によれば,強制治療は,(1)医師の必要との判断のもとに実施されるが,(2)それでも,その強制治療が拒否される場合には,入国者収容所長または地方入国管理局長がその実施につき最終決定する,という規定になっている。

大村センターは,この入管局長「通達」の存在を十分承知していながら,なぜかそれを診療室医師には知らせていなかった。この医師の強制治療否認の立場が分かっていたからか,あるいは他の理由からか,そこのところは分からない。いずれにせよ,医師は,たとえ「通達」を知らされても,医学倫理上の立場を変えることはなかったであろうから,「通達」を知らせなかったことそれ自体は特に問題とするには当たらないであろう。

しかしながら,大村センターが「衰弱して拒絶意思を明示しなくなった時点で直ちに入院治療させる」という診療室医師の指示に従ったことは,結果的には失敗し,ハニーさんを飢餓死させることになってしまった。

その意味で,大村センターにハンスト死への結果責任があることは明らかである。大村センターは,ハンスト死防止のため,仮放免への努力を尽くすべきだった。しかしながら,地方出先機関にすぎない大村センターには無期限収容の原則から外れることは難しく,たとえ仮放免の努力をしても,結局は,規定通り診療室医師の指示には従わざるを得ないことになっていたであろう。

むろん,ハンスト死防止のためであれば,強制治療是認の医師や医療機関を他に探すべきであったといえなくもないが,本人の同意なき強制治療は,たとえそれを是認する医師や医療機関が見つけられたとしても,それ自体,きわめて残虐な,とうてい許容されざる拷問に等しい措置である。

大村センターには,ハニーさんハンスト死への責任はあるが,それは仮放免のための努力を尽くさなかったからであり,断じて強制治療を実施しなかったからではない。真に責められるべきは,出先機関たる大村センターではなく,最後の手段としてのハンストに訴えざるをえないような出入国管理政策をとり続けている日本国政府である。

■Bobby Sands Trust HPより

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)
*3 入国管理局長「拒食中の被収容者への対応について」(通達),2001年11月2日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/30 at 11:10

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (4)

5.ハニーさんのハンスト:開始から飢餓死まで
ハニーさんが,大村入管センターで最後のハンストを開始し飢餓死するに至った経緯は,入管庁「調査報告書」および関係報道等によれば,おおよそ次の通り。

[2018年06月]4回目の仮放免請求,不許可。
[2019年01月]大村センター診療室での健康診断を拒否。「日本で子どもが生活しており,子どものためにも自ら帰国することを選ぶことはできません」と看守に述べる。
[2019年02月]健康診断拒否。5月の健康診断も拒否。
[2019年05月30日]ハニーさん,看守に,1週間ほど前から摂食していないと述べ,「約10年間自由がありません。仮放免でも強制送還でもいいので,ここから出してください」と訴える。
[2019年05月31日]大村センター診療室での点滴と採血を拒否。外部病院を受診し,脱水のため点滴を受ける。
[2019年06月01-04日]外部病院で診察,拒食による脱水のため点滴を受ける。
[2019年06月05日]所内,外部のいずれでも,治療を受けないと述べる。
[2019年06月14日]経腸栄養剤,一口服用。
[2019年06月17日]拒食を続けると生命が危険と警告されるが,治療拒否。サニーさん「私は自由になりたいだけだ。病気などないから治療は必要ない。」
[2019年06月18日以降]居室内で横臥。拒食,治療拒否続行。体重測定拒否。水分は時折摂取。
[2019年06月24日]《午前8時53分》血圧127(108)/114(82),脈拍54(35)。体重測定拒否。《午前8時54分》点滴,朝食,薬服用のいずれも拒否。水を約20ml飲む。《午後0時54分》息が荒いと看守が報告。《午後1時16分》血圧・体温とも測定不能。その後,心肺蘇生処置実施。《後1時40分》救急車で甲病院搬送。《午後2時11分》甲病院で死亡確認。

体重の変化(身長171cm)
[2018年10月26日]71kg ⇒[2019年5月30日]60.45kg ⇒[6月5日]61.55kg ⇒[6月17日]50.60kg ⇒[6月25日]46.6kg(司法解剖時)

このようにして,サニーさんは,大村センター看守による拒食確認から26日後,実際には拒食はその数日前から始められているとみられるので拒食開始約1か月後に,「飢餓死」してしまった。

この拒食,つまりハンストがいかに過酷なものであったかは,サニーさんの体重が特に大きな持病もないにもかかわらず,ハンスト開始後急減していることだけを見ても明らかである。

サニーさんの身長は171cm,体重は大村センター収容2年余後の2018年10月26日には71kgであった。それがハンストの繰り返しで半年後には60kg余となり,そして2019年6月25日のハンスト死の時には46.6kgに急減していた。

私自身の体験からも,体重急減がつらいことはよくわかる。私は身長162㎝で,体重は長年,約52kgで安定していたが,家族介護の無理がたたって半年ほどで46㎏にまで急減した。わずか10%ほどの減少にしかすぎないのに,体調は著しく悪化,いつ倒れるかわからないような状態になってしまった。

サニーさんの場合,71kgの体重が半年後には46kg余へと,3割以上も激減した。身長171cmだから,ガリガリに痩せてしまっていたのだろう。死が切迫していることは,この外見からだけでも明らかなのに,大村センターは結局,彼の生命を救うことが出来なかったのである。

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)
*26 「ハンストのナイジェリア人男性が飢餓死するまで 調査報告書を読んだ医師が解説」dailyshincho, 2019/10/08
*34 野村昌二「体重71キロが47キロに…入管収容者の餓死 外国人に人権ないのか?」AERA,2019/11/12
*35 大橋毅「「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」の検討」,2019/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/29 at 09:42

カテゴリー: 社会, 労働, 人権

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