ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

マデシ国境封鎖闘争の一時停止とオリ首相の訪印

UDMF(統一民主マデシ戦線)が2月6日,国境封鎖作戦の中心バルサ郡における抗議活動の一時停止を指令した。それと前後して,オリ首相が2月19日訪印し,20日にモディ首相と会談することも発表された。情況が少し変化し始めた。

16日付カトマンズポスト「135日ぶりに60台以上のトラックがビルガンジに入る」によれば,2月5日に友好橋(ビルガンジ・ラクサウル間)付近のピケ・テントや道路バリケードを撤去し焼却したのは,地域の業者や住民らであった。

また,6日付ヒマラヤンタイムズ「座り込みの反政府派,追い払われる」によれば,5日に友好橋付近から反政府派を追い払ったのは「地元民とインド業者」であり,さらに6日午後,再封鎖のためビルガンジ国境付近に集まったUDMF派を追い払ったのも「インド運送業者」であった。このときの両派の投石で,インド人2人,UDMF1人が負傷している。

これら両紙の記事が事実だとすると,国境封鎖解除にあたっているのは,ネパール側業者・住民とインド側業者ということになる。特にインド側が目立ち,6日の衝突でも負傷者2人はインド人だ。警官も大量動員されているが,直接は介入しなかったようだ。

このように,ビルガンジ国境付近の状況はかなり変わってきた,。今後どうなるか,オリ首相の訪印との関係もあり,注目される。

 160207a■ラクサウル・ビルガンジ国境付近

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/07 at 16:36

「友好橋」争奪戦: 封鎖解除へ?

マデシ「国境封鎖」の主戦場たるビルガンジ・ラクサウル間「友好橋(ミテリ橋)」をめぐって,UDMF(統一民主マデシ戦線)と反UDMF派が争奪戦を始めた。

2月5日,反UDMF派商工業者らが友好橋付近のUDMF派テントや交通遮断物を取り壊し,その後,何台かのトラックが国境を通過した。しかし,その後,UDMF側は,再びテントや交通遮断物を設置しなおしたという。

たしかに,国境封鎖(2015年9月24日開始)への反対圧力は,このところ強まっている。庶民の生活苦が長期化する一方,密輸ヤミ商売が繁盛し,健全な経済活動が蝕まれ,しかも肝心の経済封鎖の効果も減殺されているからである。

UDMF自身も,すでに封鎖作戦の見直しを始めており,一部メディアは,2月6日の会議(カトマンズ開催)において正式に封鎖解除を決定するとも伝えている。しかし,UDMF内も分裂しており,封鎖解除が正式に決定されるかどうかも,また決定されても本当に実行されるかどうかも,まだわからない。

結局,しばらく様子見するより仕方ないということであろう。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/06 at 14:06

カテゴリー: インド, 経済, 民族

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苦境のオリ首相

ロイターが「ネパール首相,憲法危機で孤立し降板か」(2月4日)という,いささかセンセーショナルな見出しの記事を配信している。
 * Ross Adkin, “Isolated Nepal PM could be toppled by constitution crisis,” Reuters,4 Feb 2016.

記事によると,オリ内閣は,タライ紛争の解決とインド「非公式封鎖」の解除を約束してきたが,それらは一向に解決されそうにない。タライでは夏以降約50人もの紛争犠牲者を出しているし,カトマンズでは,依然として,ガソリンやガスのため長蛇の列に並ぶか高価な闇取引に走らざるをえない。

そもそも,オリ内閣は,確信的王党派と新憲法署名拒否マデシ党首とを副首相に据える内部分裂的体制だ。しかも,UMLと連立を組み政権を支えているマオイスト(UCPN)の中からも,オリ首相の政治姿勢への批判の声が高まってきた。

現状打開のカギを握るとみられているインドとの関係は,政府高官レベルでは改善に向かいつつあるが,問題は強硬発言を続けるオリ首相。インドでは「オリ降板は近い」と噂されているという。

こうした状況の中,議会第一党の野党コングレス(NC)が3月,党大会を開催し,新体制を発足させる。このNC新執行部が,オリ内閣に対しどのような立場をとるか? オリ内閣が早急に現状を打開できないと,これから先,政権運営はますます厳しくなりそうだ。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/05 at 14:57

カテゴリー: インド, 憲法, 政党, 政治

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英語帝国主義の対ネ猛攻

このところ米英,とくに米国のネパール向け英語(米語)攻勢がすさまじい。大使館が率先してフェイスブック,ツイッターなどで,連日のように,幼児か小学生のような英語の学習を呼び掛けている。「アメリカではそうは言わない。それは,間違いですよ!」とか。

子供ならまだしも,大人だと,つい「余計なお世話だ」「ここはネパールだ,ネパール流の英語を使ってどこが悪い」と反発したくもなるだろう。たしかに,米英がどう思おうが,別文化には英語にも別の使い方があって当然だ。理解できず困るのであれば,ネパールやインドあるいは日本など,別文化を謙虚に学び,そこでの英語の使われ方を学習すればよい。そうすれば,理解できるようになる。

言語民主主義ないし文化民主主義――なによりまずは,これが先決。非英語諸国が,一方的に自ら頭を垂れ,英語帝国主義に卑屈に屈従するいわれはない。

▼英語帝国主義の世界支配
160116■ウィキは英語版断トツ。日本語版2位(在ネ米大使館ツイッター)

▼在ネ大使館ツイッターによる英語宣伝
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■米/米/米/英

【参照】
愛国者必読: 施光恒『英語化は愚民化』
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』
安倍首相の国連演説とカタカナ英語の綾
安倍首相の怪著『美しい国へ』

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/02 at 14:11

ネパール憲法,誉められたり貶されたり

ネパール政治が難しいのは,一つには,当事者でない外国や国際機関がことあるごとに介入し,それらを国内勢力がそれぞれ外圧として便利に利用することにある。たとえば,憲法について,国連事務総長と人権監視(HRW)が1月26~27日,こんなことを言っている。

潘基文国連事務総長(Daily Press Briefing, Jan 26; Himalayan, Jan 27)
  憲法第一次改正は,「憲法問題解決への重要な一歩」,「国境物資補給路の正常化に寄与」。関係者が自制し,平和的な話し合いと「包摂民主主義」に則り解決に取り組むことを願う。

 160128a■ネパール各地の国連機関

人権監視(「ネパール:政情不安が新憲法前進の妨げ」1月27日)
 タライの反憲法闘争により,50人以上が死亡し,生活必需品や医薬品が十分輸入できなくなった。震災復興も滞っている。「ネパール政府は40億ドル以上の震災復興援助金を受け取りながら,犠牲者にはまだ1ドル分すら配分していない」(ブラッド・アダムズHRWアジア局長)。
 憲法は,いくつかの重要な改善はあるものの,とくにタライの諸民族は排除されたと感じ抗議を始めた。9月には約45人が死亡したが,住民側の死亡は治安部隊の「過剰な実力行使」によるものだ。
 「ネパール政府は,反対派と交渉することなく,インド政府が対ネ経済制裁をしている――インド政府は否定――として,インド政府を糾弾した。」(同)
 「人権監視は,新憲法は国内の400万人以上の無国籍住民の問題に十分に対応するものではないばかりか,母がネパール人,父が外国人の子供たちにこれまで以上に不利な諸条件を課すものである,と指摘した。」(同)
 「ネパールは,多くの無国籍住民を含むすべての社会共同体の期待に応えるため,長年にわたって議論し憲法を準備してきた。・・・・ところが,主要諸政党は,人道危機の混乱を利用して憲法を通し,これにより市民の多くを深く傷つけ,人道危機をさらに悪化させてしまった。」(同)

 160128b■HRW「世界報告2016」

潘国連事務総長や人権監視の善意は疑わないし,それぞれの発言にもそれなりの根拠はある。しかし,それはそうとしても,独立主権国家の内政にいちいち外から介入し,絶好の外圧の口実を提供し,紛争の火に油を注ぐようなことをするのは,いかがなものであろうか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/28 at 18:39

カテゴリー: 平和, 憲法

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京都の米軍基地(88): 魅力的職場としての基地

米軍基地は,日本人にとって,経済的にも文化的・社会的にも極めて魅力的な職場だ。京丹後の米軍基地では,何人くらい雇用されることになるのだろう? (参照:京都の米軍基地(87): 米軍・自衛隊・監視カメラ

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160126c■在日米軍従業員募集案内(エルモ)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/26 at 17:33

ネパール憲法,改正

ネパール憲法が1月23日,改正された(第一次憲法改正)。制定・公布・施行が2015年9月20日だから,4か月足らずでの改正。
 ▼立法議会(定員601,現議員総数596)
    賛成461
    反対  7
    欠席128

改正されたのは,第42(1)条,第84(5)(a)条,第286(5)条。改正後の憲法正文がまだないので正確ではないかもしれないが,新聞報道によると,主な改正は次の通り。

第42条 社会的公正への権利
 (1)[国家諸機関への比例的包摂参加の権利を保障。ただし,包摂単位となる帰属社会諸集団から「青年」と「先住民(アディバシ)」を削除し,15集団としたことの意味は不明。]
第84条 代議院の構成
 (1)(a)[「小選挙区は,「地理と人口」によってではなく,「人口」を第一に,「地理」を第二に考慮して,区画する。]
第286条 選挙区区画委員会
 (5)[選挙区は,「人口」を第一に,「地理」を第二に考慮して,区画する。また,各郡に,少なくとも1選挙区を割り当てる。]

この改正の結果,国家諸機関への社会諸集団比例包摂参加が強化され,またタライへの小選挙区議席配分が増加するとみられている。
 ▼タライ20郡=79~80議席
  丘陵・山地55郡=85~86議席

この第一次憲法改正は,比例的包摂をさらに一歩前進させたが,マデシ諸派にとっては不十分なものであり,とくにタライ2州の要求は完全に無視された。そのため,マデシ諸派は,第一次憲法改正文書を焚書にし,反憲法・反政府闘争の継続を宣言した。

他方,マデシ闘争を暗黙裡に支援しているとされるインド政府は,外務省スワラプ報道官が第一次憲法改正を「歓迎すべき前進」と述べ,一定の評価はした。しかし,おそらくこれは,訪中と訪印を天秤にかけているオリ首相への揺さぶりとみるべきだろう。もしそうなら,インドの「暗黙の」マデシ支援は続き,マデシ闘争も終息しないことになる。

ネパール憲法は,改正前でも十分に包摂的であったし,ましてや改正後はさらに包摂的となった。しかし,それでもなお,マデシや他の非主流派諸集団を満足させられない。包摂民主主義は,理念は美しいが,運用は難しい。ネパールは,本当にそれを使いこなせるのだろうか?

いずれにせよ,ほんの4か月前,制憲議会の圧倒的多数の賛成をもって制定した憲法を,その憲法による選挙もせぬまま,同じ議会,同じ議員が改正する。あまりに安易。朝令暮改! 憲法といえば,国家の根本法。それをコロコロ変えていては,憲法の権威が損なわれ,国家統治そのものへの信頼すら失われてしまうであろう。

[参照]
*1 KESHAV P. KOIRALA,”Nepal makes first amendment of its constitution four months after promulgation,” The Himalayan Times, January 23, 2016
*2 “Four months after promulgation, Parliament endorses first amendment to the constitution,” Kathmandu Post Report,Jan 23,2016.
*3 KALLOL BHATTACHERJEE, “India welcomes amendments in Nepal Constitution,” The Hindu,January 24, 2016.
*4 “INDIA SAYS AMENDMENT A POSITIVE DEVELOPMENT,” Republica,24 Jan 2016

 160125■Amit Ranjan,”Diversity and Inclusion in Nepal– Hot from Rubbles,” January 19, 2016 (MADHESI YOUTH,January 25,2016)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/25 at 18:44

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