ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

包摂民主主義の訴え,米大使(2)

テプリッツ米国大使は,国交70周年メッセージにおいて,「市民社会(civil society)」につき,こう述べている。

市民社会で重要な役割を担うのは,NGO(非政府組織),専門職団体,地域社会組織,シンクタンク,労働者組織,学術団体,メディアなどである。それらは,包摂参加を促進し,また統治を公的に監視する。市民社会は,人民の,人民による,人民のための政府の理念の実現に不可欠である。

「市民社会は,メディアも含め,ときとして政府にとって都合の悪い目障りな存在となるが,だからこそ民主主義には市民社会の様々な組織が必要であり,またわれわれが他国の民主政府と協力して市民社会の強化を図るのもそのためである。」

これは,ネパール政府よりもむしろ本国のトランプ大統領にこそ向けられた諫言であるかのようだ。赴任先で米国政府を代表すべき大使が,いまこんなことを公言して,大丈夫だろうか?

170220■テプリッツ大使(在ネ米大使館HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/22 at 08:57

包摂民主主義の訴え,駐ネ米大使(1)

A.B.テプリッツ駐ネ米大使が,ネパール・メディアに長文の米ネ国交70周年記念メッセージ「包摂的市民参加:民主主義のために」を寄せている。
 ▼ALAINA B. TEPLITZ, “Inclusive civic participation: Where democracies thrive,” The Himalayan Times, February 20, 2017

テプリッツ大使は1969年生まれで,2児の母。オバマ大統領により2015年3月,駐ネ大使に任命された。初の大使就任。

テプリッツ大使は,オバマ大統領任命ということもあってか,社会諸集団の包摂参加やマスコミなど「市民社会(civil society)」の自由と権利の重要性を力説している。この国交70周年記念メッセージも,そうした立場から書かれており,トランプ現政権との関係という観点からも,またネパール内政との関係(内政干渉ではないか)という観点からも,興味深い。

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 ■米大使FB(2月21日)/クンダ・デグジト氏ツイッター(2月21日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/21 at 11:55

ルピー札国産化計画

ネパール政府がルピー札を国内で印刷することを検討し始めた(Republica, 14 Feb)。

ネパールは,1990年自由化以降,猛烈なインフレに見舞われ,通貨価値は急落,いまやほぼ1ルピー=1円。まもなく1円以下になるだろう。このままでは,札束をリュックに詰め買い物に行くことになりかねない。

これは不便だから,5千ルピー札,1万ルピー札が出され,これを機にルピー札がすべてネパール国産となるのだろうか? ちなみに,ベトナム中央銀行はすでに50万ドン紙幣を印刷発行している。

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■ホッチキス止めの500ルピー札/同1000ルピー札/ベトナムの50万ドン札

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/19 at 18:41

カテゴリー: 経済

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ブータン難民受入れ,米国が85%

「幸福の国」ブータンで迫害され,ネパールに逃れてきたブータン難民を受け入れてきたのは,次の諸国:

第三国定住ブータン難民:108,513人(2017年2月9日以前)
 アメリカ: 92,323* 
 カナダ: 6,773
 オーストラリア: 6,204 
 ニュージーランド: 1,075
 デンマーク: 875
 ノルウェー: 570
 イギリス: 358
 オランダ: 329
  *「入国禁止令」執行停止以降の2017年2月10~14日,96人受け入れ。

米国が,圧倒的多数(全体の85%)のブータン難民を受け入れている。また,デンマーク,ノルウェー,オランダも,小さな国でありながら,相当数を受け入れている。日本で難民問題を議論する場合,こうした基本的事実は十分踏まえておくべきであろう。

ネパールにはブータン難民がまだ1万1千人ほど残っているし,またUNHCRに把握されていないブータン難民も数千人がネパールとインドに居住しているという。

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 ■広大なベルダンギ難民キャンプ(Google)

*1 KESHAV P. KOIRALA, “Where in US, elsewhere Bhutanese refugees from Nepal resettled to,” Himalayan Times, 06 Feb, 2017
*2 KESHAV P. KOIRALA, “Scores of Bhutanese refugees fly to US from Nepal,” Himalayan Times, 15 Feb, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/18 at 00:55

カテゴリー: 人権

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ルピー札,中国製に

ネパール国立中央銀行(NRB)が,震災復興で大量に必要となっている紙幣の印刷製造を,中国企業に委託し始めた。

NRBは,これまで紙幣製造をインドネシア,フランス,オーストラリアの会社に委託してきた。ところが,このところ製造技術の点でもコストの点でも,中国企業が優勢となってきた。B・カデルNRB執行役員によれば,「品質は,以前他国で印刷したものと同様高品質でありながら,コストは以前の半分以下だ」(新華社,2017年2月14日)。そこで,NRBはルピー紙幣の印刷製造を中国企業に切り替え始めたのである。

170215c■CBPM社HPより

中国企業は,これまでネパールの硬貨は受託製造したことがあるが,紙幣については,2016年6月に中国国営CBPM社(中国印钞造币总公司)が100ルピー札を2億1千万枚製造したのが初めてだという。

その後,CBPM社は,競争入札において欧米企業やインドネシア企業に競り勝ち,5ルピー札(2億枚)や1000ルピー札(2億6千万枚)の製造をも受注した。これで,5ルピー札,100ルピー札,1000ルピー札が中国製に切り替わっていく。

このネパール紙幣受託製造について,中国メディアは,誇らしげに,その意義を力説している。

「ネパール中央銀行幹部が最近,中国企業印刷の紙幣はデザイン,色彩,偽造防止の点で改善されている,と称賛した。・・・・CBPM社印刷の色鮮やかな紙幣は,高品質でありながら,低コストである。」(人民日報,2016年6月21日)

「リ・ツェンCBPM事業所長は,こう語った。『わが社は中国製の印刷機,製版プレート,インク,紙,スレッドを使用し,ネパールのルピー紙幣を印刷した。これは,わが社の技術ばかりか総合的な能力をも示すものである』。」(中国ラジオ,2017年1月18日)

中国が,紙幣製造のための高度な製紙技術や印刷技術を持つに至ったことは,よくわかった。だが,それはそれとして,自国の貨幣を他国に製造委託するなどといったことは,日本ではおよそ想像もできないことだ。外国製の自国貨幣を日々使うのは,どのような感じがするのだろう。機会があれば,尋ねてみたい。

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 ■ネパール国立中央銀行HPより

*1 “Nepal saves millions by printing banknotes in China,” Xinhua English, 2017-02-14
*2 “1st shipment of Nepal’s 1,000-rupee banknotes delivered from China,” China Radio International’s English Service, 2017-01-18
*3 “Nepalese official hails China-printed banknotes,” People’s Daily, June 21, 2016
*4 “Nepal’s currency notes printed by Chinese company for 1st time,” Xinhua, 2016-06-17
*4 “10 firms get NRB nod to print banknotes,” Kathmandu Post, Apr 12, 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/15 at 18:39

カテゴリー: ネパール, 経済, 中国

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真実和解委員会任期,最高裁判決無視し1年延長

プラチャンダ内閣は2月9日,「真実和解委員会(TRC: Truth and Reconciliation Commission)」と「失踪者調査委員会(COID: Commission on Investigation of Disappeared Persons)」の任期を1年延長し,2018年2月10日までとした。

TRCとCOIDは,マオイスト人民戦争(1996-2006)終結のため締結された包括和平協定(2006年11月)に基づき制定された「TRC法(強制失踪者調査および真実和解委員会法)2014年」(2014年5月11日公布施行)の規定に従い,2015年2月10日に設置された。当初の任期は,2017年2月10日まで。

ところが,TRC(とCOID)は,任期満了のこの2月10日までに,その任務を果たすことが出来なかった。幾度か指摘したように(参照:真実和解委員会),人民戦争期には,重大な人権侵害が多数行われ,加害者は政府側にもマオイスト側にもいた。しかも,包括和平協定後の現体制は,人民戦争を戦った主要諸勢力がすべて参加して構築し,維持してきたものだ。したがって,人民戦争期の人権侵害を追及していけば,必然的に主要政党政治家や政府高官など,現体制下の有力者の責任が問われることになるのは避けられない。調査を担うTRCそれ自体ですら,有力諸政党代表により構成されているといっても過言ではないのである。

そのため,TRCとCOIDは設置されたものの,調査は遅々として進まなかった。被害の受付こそ2016年2月から始められ,約6万件を受け付けたものの,2017年2月10日の任期切れまでに調査を完了したものは1件もない。重大事件であればあるほど,加害者は現体制下の有力者だからである。

この状況に被害者たちは不満を募らせ,国際人権諸団体の支援も得て,政府に対し実効的な正義の実現を強く迫っていった。プラチャンダ内閣は,この要求に押され,TRC任期を1年延長し,調査の継続を図ることにしたわけである。

しかし,この泥縄のTRC任期延長には,人民戦争被害者やその支援諸団体が,厳しい批判を加えている。たとえば,サム・ザリフィ国際法律家委員会アジア局長は,次のように指摘する。

「被害者らは正義を求め10年以上待ち続けており,もはや移行期正義の手法への希望を失いつつある。・・・・ネパール政府が,TRC法を最高裁判決と国際法に沿うよう改正し,かつ両委員会の任務遂行を2年間にわたり阻害してきた根本的諸要因を除去する具体的な対策をとらなければ,両委員会の任期延長は無意味となるであろう。」(IJC「ネパール:実効的権限付与なしの移行期正義委員会任期延長は犠牲者の信頼への裏切りである」IJC, 10 Feb. 2017)

【参照1】TRC法,2014年
第26条 アムネスティ(要旨) 委員会は,十分に合理的な理由があると認めた場合,重大な人権侵害についてもアムネスティ(赦免)を政府に勧告することが出来る。

【参照2】最高裁判決(2015年2月26日)要旨
(1)重大な人権侵害を赦免するTRC法のアムネスティ条項は不当。
(2)同意なき和解は認められない。
(3)法廷係争中の事件をTRCに移送してはならない。
(4)TRC法,特に上記(1)は,ネパール国家の国際法上の義務に違反。

また,ネパール立法議会でも,「社会正義・人権委員会」が2017年2月9日,政府に対し,TRC法を最高裁判決に沿うよう改正し,委員会には必要な予算と人員を配分せよ,と勧告している。

しかし,それでもなお,プラチャンダ内閣は,そうした要請をことごとく無視し,TRC任期の1年延長だけにとどめた。これでは,移行期正義の手続きを進め,人民戦争被害者を救済し,和解を実現していくことは,困難であろう。

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*1 ICJ, “Nepal: extending transitional justice commissions without granting real powers betrays trust of victims,” International Commission of Jurists, February 10, 2017
*2 Alexandra Farone, “Nepal extends deadlines for war crimes investigations,” jurist.org, Friday 10 February 2017
*3 “Nepal extends term of war crimes probes by one year,” Himalayan Times, February 10, 2017
*4 “AI, HRW call to extend mandates of TRC, CIEDP,” Himalayan Times, February 05, 2017
*5 LEKHANATH PANDEY, “Conflict victims question TRC’s efficacy,” Himalayan Times, February 07, 2017
*6 “House panel tells govt to amend TRC and CIEDP Act,” Republica, February 11, 2017
*7 “Nepal: Supreme Court Strikes Down Amnesty Provision in Truth and Reconciliation Law,” The Library of Congress (USA), Mar. 17, 2015
*8 Wendy Zeldin, “Nepal: Supreme Court Rules Government Ordinance on Truth and Reconciliation Commission to Be Unconstitutional,” The Library of Congress (USA), Jan. 8, 2014
*9 Monica Moyo, “Nepali Supreme Court Rejects Amnesty for War Crimes,” The American Society of International Law, March 6, 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/14 at 19:52

トランプ「入国禁止令」とネパールのブータン難民

トランプ大統領による難民等入国禁止令(1月27日)は,連邦地裁が執行停止命令を出し(ニューヨーク地裁1月28日,ワシントン地裁2月3日),連邦控訴裁でもその執行停止命令は認められた(2月9日)が,世界各地の難民たちの不安は募るばかりだ。ネパールでも,国内難民キャンプ収容のネパール系ブータン難民たちが,渡米手続きを停止されている。

AFP(Himalayan, 7 Feb)記事によれば,ブータンでは1990年代に入ると,ネパール系住民がネパール語使用を禁止され,ブータン民族衣装着用を強制されるなど,迫害を受け始めた。そのため,彼らはネパールへのがれ,各地の難民キャンプに収容され,定住受入国を探すことになった。

これまで,彼らブータン難民を受け入れてきたのは,米国,ヨーロッパ諸国,オーストラリア,カナダなど。特に米国は最大の受け入れ国であり,2007年以降,9万人以上が渡米した。それでも,ネパールの難民キャンプには,現在もなお,1万人以上のブータン難民が残っているという。

そこに,トランプ大統領の難民受け入れ停止命令に基づく通達が届けられた。「2月3日以降,次の指示があるまで,渡米手続きは中止する。」これにより,あるマガール女性難民は,20年間待ち続け,やっと数日後出発することになっていたのに,突然,中止を告げられた。また,別のタマン女性難民は,在米家族のもとに向け出発する,その前日に,渡米保留の通知を受けた。彼女ら難民の落胆と不安は,想像を絶するものに違いない。

難民問題は難しい。2月11日の朝日新聞によれば,昨年の日本への難民申請1万901人に対し,認定はわずか28人(在留許可97人)。そのうちネパール人は,申請1451人,認定人数は記事では不明。難民受け入れは,日本人自身の問題でもある。

170211■根本かおる著,河出書房新社,2012

*1 “US-bound Bhutanese refugees left in limbo in Nepal,” AFP=Himalayan Times, February 07, 2017
*2 「UNHCRによるブータン難民の第三国定住が10万人超えを記録」国連UNHCR協会
*3 ダルマ・アディカリ「帰国求めるネパール系難民 ブータンの「民族浄化」 桃源郷のもうひとつの顔」『日刊ベリタ』2006年07月09日
*4 「2015年ネパール ブータン難民キャンプ報告」毎日新聞大阪社会事業団

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/11 at 12:22

カテゴリー: 民族, 人権

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