ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

震災救援の複雑な利害関係(10):単一窓口政策と首相基金(2)

3.「単一窓口政策」再説
ネパール政府の「単一窓口政策」ないし「首相災害救援基金[首相基金]」は,各方面――特に欧米の援助関係機関――から厳しく批判されているが,基本的事実を確認するため一部重複があるが,ここでもう一度,5月2日付政府公文書「ネパール地震緊急事態における救援について」(2枚2頁ないし2文書)に基づき,この政策の内容を紹介しておこう。速読要約のため,脱落や誤りがあるかもしれない。詳しくは公文書原文をご覧ください。

150523

[1枚目要旨]
ネパール地震緊急事態における救援について

2015年5月2日

ナラヤン・ゴパル・マレゴ(首相内閣事務局長・首相基金事務局長)

ネパール政府は,首相災害救援基金[首相基金,PMDRF]を設置した。目的は,自然災害の調査と被災者の救助,救援。

ネパール政府および他の政府や国際機関から受け入れた救援金は,首相基金が保管する。首相基金保管の救援金は,他の目的で使用することも,公務員等の給与や行政諸経費に回すこともない。

首相基金の活動は,国家計画委員会委員長を長とし,関係8省の事務局長を委員とする委員会が監督する。基金からの出金手順は次の通り:
 (1)出金案への全会一致による同意
 (2)内務省を通して郡事務局長あてに出金
  *郡事務局長は,郡救援基金の代表

中央の首相基金と郡救援基金からのすべての出金は,透明性と説明責任を確保するため,毎年,国家会計監査委員長による監査を受ける。

首相基金は,「首相基金運用規則2006」に則り運用される。

首相基金の目的は,自然災害被害者の効果的救助・救援。そのため「迅速処理(fast track)」で対応し,通常の行政手続による遅延を回避する。首相基金は単一窓口サービスを提供する。これにより義援金を統合し,重複を防止し,被災者に必要な救援を公平に配分することができる。

2015年4月25日の大震災後,様々な個人や団体が募金口座を開設した。政府は,被災者救援のための誠実な努力は評価するが,政府には,募金活動や救援金分配を規正する義務もある。善意の寄金の不正使用を防止し,被災者の権利を守るためである。

こうした観点から,政府はネパール中央銀行(Nepal Rastra Bank)に助言し,4月29日付で通知を出してもらった。すなわち,すべての震災救援金は首相基金に入れられるものとし,募金関係口座からの出金はいっさい認められない,とする中央銀行通知である。

ーーーーー

以上がNG・マレゴ事務局長通達の1枚目の要約。当初,報道はもっぱらこの内容の通達をめぐって行われ,批判が殺到したが,しばらくすると2枚目(2頁目)の記載内容が報道されるようになり,批判は少しトーンダウンした。

通達にはページが1,2と打ってあり,2枚目には文書名も日付もないので,当初から2ページの1文書だったのかもしれないが,報道の経緯をみると,どうも不自然。あとで付け足した追加文書(言い訳文書)のような感じがするが,いずれとも断定はできない。

ともあれ,2枚目(2頁目)の文書の内容は以下の通り。

[2枚目要旨]
上記通達は,2015年4月25日以前に開発援助団体,救援団体,その他の社会諸組織が開設していた口座の使用を規制するものではない。

救援金の最善の使用と救援金の被災者への公平な分配を確実なものにするため,救援活動をする諸団体には,中央政府および郡レベル関係諸機関との緊密な協議が要請されている。

-----

[英語版文書タイトル]
Providing Relief in Response to the Nepal Earthquake Emergcncy
   2 May 2015
 Narayan Gopal Malego
   Secretary, Office of the Prime Minister and Council of Ministers, and
   Member-Secretary of the Prime Minister Disaster Relief Fund

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/23 at 22:05

カテゴリー: ネパール, 行政, 国際協力

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震災救援の複雑な利害関係(9):単一窓口政策と首相基金(1)

1.単一窓口政策
ネパール政府は,巨額の震災救援金・復興支援金が,相当長期間にわたり,国際機関,外国政府,INGO,NGO,その他様々な団体や個人からネパールに入ってくることを見越し,それらを主権国家として監視し統制するため,「単一窓口政策(One-door Policy)」を宣言し,救援金を管理するための「首相災害救援基金(Prime Minister Disaster Relief Fund)」(以下「PMDRF」ないし「首相基金」と略記)を設置した。

UK・カトリ首相報道官は,内外の様々な機関や団体がネパール政府を無視し勝手に募金活動をしていることに問題があると指摘し,こう述べた。「個人にせよ団体にせよ,救援金の引き出しは許されない。基金はPMDRFに自動的に移され,収支明細は日ごと配布される。この規則を守らない個人や団体は,法により処罰されることになる。」[a}

ネパール中央銀行(Nepal Rastra Bank)も,各銀行に対し通知を出した。「大地震被災救援募金のため銀行や他の金融機関に開設されたすべての口座は,チェックされ,それらの口座の預金はPMDRFに移される。」[b]

RS・マハト財務大臣は5月1日,これが「内外の救援物資や資金を最も効果的に使うための政策」であるとし,募金関係口座の残高を毎日通知させるようにしたいと述べた。(b&c)

こうした政府の方針に基づき,首相基金のNG・マレゴ事務局長は5月2日,「単一窓口政策」ないし「PMDRF(首相災害救援基金)」の目的について,こう説明した。

「基金は,被災者への一つの窓口サービスの提供を目的とする。これにより,募金を統合し,重複を避け,被災全地域の被災者への必要な救援の公平な配分を確実にすることができる。・・・・政府は,うそ偽りでなければ,あらゆる被災者救援活動を評価するが,その一方,災害救援のための公的基金や募金を調整する義務もある。これにより,善意の募金の悪用を防止し,被災者の権利を保護することになる。」[d]

150522a150522c
 
2.単一窓口政策批判
しかしながら,この「単一窓口政策」は,発表されるとすぐ,内外で激しい反発を呼び,撤回を強く要求された。以下,いくつか紹介する。

Alex Wilks(Avaaz, 独)
「首相救援基金は良策に見えるが,腐敗はどうするつもりか? 私はネパールには行ったことがなく,目にした情報による偏見かもしれないが,募金を政府に渡すと行方不明になりかねないと懸念する人がいることも事実だ。」[c]

国連幹部職員(匿名)
「ネパール政府は,いかなる募金であれ,それと協力する以外に方法はない。PMDRFを強制したくても,援助側は決してそれを許さないだろう。ネパール政府には,そんなことをする能力はない。これが現実だ。」[f]

英国NGO幹部(匿名)
「[PMDRFを強制すれば]救援金が減るか,さもなければ違法な方法で入ってくるだけだろう。・・・・いった何人の人がPMDRFに募金を入れてもよいと思うだろうか。・・・・はっきりするまで,しばらく募金活動の中止を提案するつもりだ。」[f]

Anand Mishra (Operation Relief Nepal)
「もっともっと募金を集められるが,海外の誰もが募金をネパール政府に送ることは望まず,そのため外国の友人たちは一人として援助できないでいる。」[g]

Anuradha Koirala (Maiti Nepal)
政府は「単一窓口政策をとるのではなく,すべての人びとに許可を与える」べきだ。「政府に渡して,それが苦しんでいる人々に届けられるかどうか,信用できない。」[h]

Malvika Subba (Nepal Share; Miss Nepal 2002)
「政府が,われわれNGOなどあらゆる団体に規則や規制を課すのなら,政府自身が透明性と説明責任をもつべきだ。」[h]

Kunda Dixit (Nepali Times)
「第一に,PMDRFは実行不可能だ。第二に,それは無実の人々を犯罪者にさえしてしまう。そして,そもそもそれは必要ですらない。なぜなら,いまは危機緊急時であり,得られる援助はすべて得たいと思っているからだ。」[h] (ただし,同氏の後日の説明によれば,PMDRFへ移されるのは震災救援目的でつくられたNGOへの送金だけであり,震災以前からの登録NGOは従来通り外国からの送金を受けられる。また被災地の地域組織への在外ネパール人や外国人からの送金も規制されないという。[d])

Robin Sitoula (Samriddhi, The Prosperity Foundation)
「政府は繰り返し政府口座への寄金を要請したが,支援者側はこれを拒否し,自分たちで寄金を集め始めた。そこで政府は,新しい法律をつくり,救援金を一本化しようとしているが,これは政府の信用の欠如を覆い隠そうとするものに他ならない。」[c]

150522d ■震災死傷者数(5月21日現在,Earthquake Relief Portal)

[a] “Nepal aid donors may halt fundraising amid fears government will seize donations,” The Telegraph UK, 1 May 2015.
[b] “Govt to take all bank deposits meant for disaster relief,” Ekantipur,1 May 2015.
[c] “‘One-door’ Relief Fund Policy Delays Aid Distribution,” Republica, 1 May 2015.
[d] “Nepal quake fund move is PR fiasco,” 5 May 2015. http://www.irinnews.org/report/101452/nepal-quake-fund-move-is-pr-fiasco

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/22 at 19:48

カテゴリー: ネパール, 行政, 国際協力

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震災救援の複雑な利害関係(8):統治の不安定化

ネパール震災救援を特に難しくしているのが,政治の不安定,統治(ガバナンス)の脆弱さである。

ネパールでは,マオイスト紛争(1996-2006)終結後も統治が安定せず,諸勢力が入り乱れ離合集散,権力闘争,利権争いに明け暮れ,いまだ憲法も暫定的なもの,正式憲法は制定の目途すら立たない。

これは,換言すれば,ネパールがいまだ近代主権国家として未成熟であり,対内的にも対外的にも,国家権力をそれ自体として唯一・絶対・独立の,客観的で中性的な「最高権力」として保持しきれないということ。ネパール政府諸機関は,国内のあれやこれやの勢力によって私物化されがちだし,また外国の様々な介入にも弱い。

そのネパールが4月25日,大地震に見舞われた。地震は瞬時に大被害をもたらすもので,たとえ日本のような先進国においても自国だけでは対応しきれず,「トモダチ作戦」など,諸外国の政府や諸団体の救援をあおいだ。ましてやネパールは途上国,外国の政府や民間諸団体の救援を受けるのは,当然といってよいであろう。

しかし,外国による震災救援は,ネパールのような途上国の方が,政治的には難しい。日本でも,救援隊,特に軍隊が国内で「作戦」を展開することには,法的あるいは感情的に様々な軋轢が生じる。が,近代主権が確立している先進諸国では,たとえそうしたことがあっても,それによって直ちに政権が動揺したり,ましてや統治が崩壊するといったことは考えにくい。

ところが,途上国ネパールでは,そうではない。外国の政府や民間団体による震災救援活動が内政干渉となり,下手をすると政権転覆,統治崩壊といった事態すら引き起こしかねないのだ。ネパール政府や有力諸政党が,外国の救援活動を警戒し,規制しようとするのも,その限りでは,理解できないことはない。

[例]キリスト教会系救援活動に対する批判
 「被災者の皆さん,まもなく救援パックで聖書が届きますよ。」
 150520a(Nepali Journalists@jhyal ツイッター2015-05-20. 画像引用元は米聖書協会HP

こうした観点からネパール政府が打ち出したのが,「単一窓口政策(One-door Policy)」であり,「首相災害救援基金(Prime Minister Disaster Relief Fund)」である。

「首相災害救援基金」への支援アピール:在日ネパール大使館
 150520

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/20 at 13:40

震災救援の複雑な利害関係(7):中国とパキスタン

中国は,自国被災地チベットに大救援隊を送る一方,ネパールにもいち早く中国史上最大の外国救援隊を派遣した。インドや米国の動きをにらみながらであることは,各紙コメントにあるとおりである。概要は以下の通り。(重複や漏れがあるかもしれない。)

▼中国救援隊(Xinhua, 7 May)
 ・人民解放軍・武装警察隊:1,088人 救助犬:6匹
 ・空軍:IL-76 8機,MI-17ヘリ 3機
 ・医療救援隊展開:カトマンズ,シンドパルチョーク,ゴルカ,ダディン
 ・負傷者治療:2387人

中国救援隊は,地震発生の翌日にはカトマンズに入った。ネパール側の評価も高い。たとえば,ラナ国軍統幕長は,こう述べ感謝してる。「中国救援隊は,道路が切断された遠隔地にも行ってくれた。われわれが必要としていたすべてのものを供給してくれた。」(Ibid)

150512■各国の救援機(OCHA, 4 May)

中国と関係の深いパキスタンも,いち早く支援に駆け付けた。ネパールにおけるパキスタンの動きは,特にインドに警戒されている。
 ・パキスタン軍:医療チーム50人,救援隊38人
 ・空軍:C-130 4機
 ・仮設住居30万人分(全必要数の4分の1)
 ・救援金:150万ドル (Telegraph Nepal, 5 May; Dawn, 4 May)

150506k■パキスタンの救援機(Dawn, 4 May)

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2015/05/18 at 20:26

震災救援の複雑な利害関係(6):自衛隊展開の遅れ

前回,米軍「支援の手作戦」の日本への影響について述べたが,そのような素人の思いつくようなことなど,すでに軍事専門家によって,はるかに鋭くラジカルに指摘されていた。たとえば,文谷氏(軍事ライター)の次の記事:

文谷数重「ネパールへの自衛隊展開は、なぜ遅れたのか 長距離輸送機の調達戦略に問題あり」東洋経済ネット版,2015年05月04日

文谷氏によれば,自衛隊のネパール展開の遅れの原因は,C-17輸送機がなかったこと。

「4月25日に発生したネパール大地震を受けて、各国は即座に災害援助を行った。それを実現したのは米国製のC-17輸送機であった。大搭載量と長大な航続距離を兼ね備えた長距離輸送機であり、小型飛行場でも離着陸可能である。米英、オーストラリア、カナダはC-17の特性を活かし、災害現場のネパールに直接展開できた。しかし、自衛隊の展開は遅れた。これは[自衛隊現有]最大の輸送機であるC-130の性能不足が大きく影響している。」
「自衛隊は、[C-17購入ではなく]C-2の国産を選択した結果、長距離空輸能力で不具合を抱えている。長距離輸送機を持たないため、空輸展開によるタイムリーな災害援助、国際貢献、重量物輸送をできない状態にある。」

150516a■嘉手納のC130(嘉手納米空軍HP4月29日)

自衛隊のこの海外展開能力不足は,文谷氏によれば,軍事的にもむろん大問題である。

「2000年以降に自衛隊の海外派遣は量も質も拡大している。国際貢献としては、インド洋やイラク、ソマリア沖海賊対処が始まっている。これは従来以上に大規模であり、長期間継続するものであった。他国戦闘部隊への兵站支援や、日本自身が海外基地を建設するといった意味で本格的な任務である。」
「さらに将来をみれば、輸送力不足はより深刻となる。自衛隊の海外活動は今以上に大規模、本格化する。より大重量・大容積の物資を、より遠方に運ばなければならないためだ。・・・・C-2では戦車を運べない。」

だから,「より大重量・大容積の物資をより遠距離に運べる機材」であるC-17を購入せよ,こう文谷氏は主張されるのである。

150517b■開発中のC-2(日本政府HPより)

文谷氏は,「自衛隊の展開は遅れた」という事実認識では,全くその通りであり,正しい。しかし,その事実認識から,自衛隊の海外展開能力の強化や,戦車すらも積載可能なC-17の購入といった政策が直ちに引き出されてよいわけではない。

そもそも,海外救援活動は,軍事を主目的とする軍隊には,ふさわしくない。文谷氏は,C-17があれば,自衛隊のネパール展開の遅れはなかったと主張されたいのだろうが,本当にそうか?

インドの「ともだち作戦」に対してですら,あれほどの反対があったのだ。日本が,もし戦車も積載可能なC-17などで自衛隊を運び込もうとすれば,ネパールのナショナリスト,あるいは中国やインドを多かれ少なかれバックに持つネパールの諸勢力が,どう反応するか? 自衛隊は,れっきとした日本の軍隊なのだ。

150517a■横田のC-17(米軍横田基地HP2014-11-17)

「自衛隊の展開の遅れ」は,このままでは,積極的平和主義を唱える人々により,絶好の奇貨とされてしまうであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/17 at 14:56

カテゴリー: ネパール, 軍事, 国際協力

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震災救援の複雑な利害関係(5):米国「支援の手作戦」と日本

アメリカは,「支援の手作戦(Operation Sahayogi Haat)」を展開している。いかにも世界超大国アメリカらしく,総合的で効率的な「作戦」だ。ネパールの被災住民にとって,頼りになる力強い救援「作戦」であることはいうまでもない。

150516d■支援の手作戦(海兵隊ツイッター5月11日)

米国のネパール震災救援(2015-05-14現在,在ネ米大使館FB5月14日)
  米国対ネ援助総額:$27,648,399
  国防省:$8,809,856(4万人の医療品,3か月分ほか)
  USAID外国災害救援:$21,000,000(救援物資17万5千ポンドほか)
  USAID平和のための食糧:$2,500,000(17,500人にビニールシート700巻ほか)

150516c■在ネ米大使館FB(5月14日)

その一方,この「支援の手作戦」も米軍中心の「作戦」であり,ネパールへの米軍の緊急展開や中ネ国境付近での米軍の作戦行動は,当然,軍事的意味を持ちうる。しかしながら,ネパールでは今のところ,オスプレイが風圧で民家を壊すといった苦情があるくらいで,インドの「ともだち作戦」に対するような「作戦」そのものへの表立った批判はない。

米軍「支援の手作戦」が大きな意味を持ちそうなのは,むしろ,米軍の軍用機や人員の主な発進基地となっている日本においてである。

米軍は,沖縄の海兵隊中将を指揮官とする「第505統合任務部隊」を編成し,沖縄や横田の米軍基地から軍用機で救援隊や救援物資をネパールに運んだ。

米軍派遣航空機
 オスプレイ 4機;KC-130J 2機; C17 4機
 UH-1Yヘリ 3機(1機墜落,海兵隊6名,ネ兵2名死亡との報道)

150516a 150516e
 ■C-130 Hercules,嘉手納発進(嘉手納空軍基地HP4月29日)/横田発進(在日米軍ツイッター5月7日)

この「支援の手作戦」により,軍が迅速かつ広範な「作戦」展開能力を持つことの有効性が,改めて日本の人々に強く印象づけられた。しかも,「人道支援」「災害派遣」という,誰にも反対しにくい日本人好みの平和的「作戦」によって。積極的(proactive)な平和貢献には,米軍のような積極的な「作戦」展開能力が不可欠だということ(”proactive”は米軍愛用)。

特にオスプレイは,ヘリのような運用に加え,航続距離が長く,速度も速く,大量の人員・物資を輸送できる。災害救援はむろんのこと,尖閣など離島防衛にも有効だ。あるいは,日本の領域を超えた遠方での作戦のことまで考えるなら,なおさら有効性は増すといってよいであろう。

というわけかどうか知らないが,日本政府もオスプレイを17機(3600億円)ばかり購入し,佐賀空港かどこかに配備する計画らしい。

150516b■カトマンズ着オスプレイ(沖縄海兵隊HP5月4日)

大規模災害は,いつ,どこで起こるかわからない。そのための備えは必要不可欠だ。しかし,それを軍にやらせるのは,特に日本にとっては危険だ。軍の場合,どこに派遣されようが,多かれ少なかれ軍事的意図を勘ぐられ,敵視される。

日本は,平和憲法をもつ日本こそは,いついかなる時に,いかなる場所に派遣されようとも,軍事的に警戒されることのない,完全非軍事の有能な,世界で最も信頼される常設救援隊をもつべきであろう。

【参照】野口健ツイッター(5月18日)
「先日、米軍ヘリがネパールで墜落し複数の犠牲者をだしたばかりなのに、米軍オスプレイは救援物資を積み飛び続けている。昨日カトマンズの空港でオスプレイを見ましたが、一緒にいたシェルパ達が涙ぐみながらオスプレイに手を合わせて祈りを捧げていた。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/16 at 11:58

震災救援の複雑な利害関係(4):インド政府「ともだち作戦」(3)

4.「ともだち作戦」とナショナリズム
「ともだち作戦」では,前述のように,インド軍が首都カトマンズとポカラに支援拠点を置き,大規模な「作戦(Operation)」を展開した。ネパールの人々が,感謝しつつも,それを自国の主権への脅威と感じたのも無理はない。

しかも,空軍ヘリや陸軍工兵隊などが活動したのは,カトマンズ近辺だけでなく,北部山村地域においてでもあった。たとえば,ゴルカ郡バルパクには陸空軍が前進基地を設け,工兵隊は道路復旧に当たり,空軍は高所村人や僧侶,あるいはチュムリンにいたトレッカーを救出した。インド軍は,ほかにドウンチェ,ルクラ,ナムチェ,タトパニなどにも出動している。

こうした北部山岳,丘陵地域は,チベット(中国)国境に近く,地政学的な敏感地帯。これまでにも,いくどとなく外国諜報員(スパイ)の活動が問題にされたし,現在も暗躍していることはまずまちがいない。そのようなところでインド軍が大規模な「作戦」を展開する。緊急時の「ともだち」による救援とはいえ,ナショナリスト,特に反政府側ナショナリストが,反発するのは,当否は別として,十分予測できることだ。

あるいはまた,もう一つの敏感地帯,南部インド国境沿いのタライ地方では,インド政府が,「国境警備隊(SSBあるいはBSF)」に印ネ国境の厳戒と被災者救援を命令した。SSBは,国境沿いに救援キャンプを設営する一方,救援物資を東部タライのイタハリなどでネパール側に引き渡した。また,救急車1,給水車3,バスなど34の計38車両をカトマンズまで運んでいる。SSB部隊は「インド国家災害対応部隊(NDRF)」にも参加しているようだが,規模は不明。このSSBの動きも,ネパール側を警戒させている[i,j]。

150514a■SSB・HP

さらにもう一つ付け加えるなら,インド政府は「ともだち作戦」にゴルカ兵を動員した。ゴルカ兵は現在約3万8千人。そのうちネパール帰休中の兵がかなりおり,また退役兵はネパールに約3万人いる。在印ゴルカ将兵の派遣に加え,これら在ネ現役・退役ゴルカ兵をも,インド政府は「ともだち作戦」の先兵として相当数緊急配備したという[k]。これもネパール側としては警戒せざるをえない。

150514b■印軍グルカ兵

このように,インド軍派遣がネパール側に警戒されることは自明のことであったので,インド政府も,「ともだち作戦」は両国の緊密な連携のもとに展開されていることを,公式に繰り返し説明してきた。たとえば――

「ランジト・ラエ大使は,今日,在ネ外交関係者に,ネパール救援活動はネパール政府との完全な連携のもとに行われていることを説明した。・・・・この説明の場には,中国,EUなど在ネ外交団の代表も何人か出席されていた。」[a]

「インド国家災害対応部隊(NDRF),インド空軍,在カトマンズ印諸省合同チーム,そしてインド大使館は,ネパール当局と手を携え(in close tandem)救援作戦を展開している。」[l]

しかし,それにもかかわらず,野党幹部らは,インドによる主権侵害を警戒せよ,とコイララ首相に強硬に申し入れている。たとえば――

プラチャンダUCPN議長
「インド国境警備隊(SSB,BSF)は,ネパール政府と協議することなく勝手に行動している。彼らのどのような支援が必要かを決めるのは,ネパール政府のはずだ。」[m]

モハン・バイダCPN-M議長
「インドは,トリブバン国際空港を占拠し,支援活動をインド北部国境付近に集中させているが,これはきわめて怪しい戦略だ。・・・・それは,ネパールと中国との長年にわたる関係を害することになるだろう。」[m]

ローヒット労農党議長
インド軍のある将校の妻が特定の数家族を救援したいと言ったが,これは認められなかった。すると彼女は,インド大使館員を動かし圧力をかけようとした。「インド軍将校の妻がネパール政府役人や郡役所長を脅す――そんな状況で,どのような救援をするというのか。」[m]

ゴルカ郡役所・所長
「コイララ首相に申し上げたいのですが,インド軍ヘリは私たちに協力してくれません。そのため,私たちが任務を果たすのがきわめて難しくなっています。」[n]

ネパール国軍幹部
インド軍ヘリは,トリブバン空港にネパール国軍が設置した外国救援隊調整委員会の指示を無視し,禁止区域を飛行し,敏感地域の空撮をしている。「インド軍は限度を逸脱している。」[o]

イタハリ抗議デモ
完全武装のインド国境警備隊(SSB)のネパール領内での活動に対し,学生たちが抗議デモを行い,モディ首相の人形を焼いた。[p]

Telegraph NepalやPeople’s Reviewの記事は情報源が必ずしも明確でなく,注意を要するが,それでも,こうしたインド軍批判はあって当然といってよいであろう。純然たる善意の救援活動のためでさえ,軍隊を送れば警戒される。軍隊とはそのようなものなのだ。

そこで,「ともだち作戦」と「トモダチ作戦」。批判し警戒しつつ受け入れる国と,ただただ感涙し抱きしめられる国。独立国として気概があるのは,はたしてどちらなのだろうか?

150514c■微妙な印ネ関係(Unreal Times,2015-04-26より)

[a]”Press Release on briefing by Ambassador Ranjit Rae to the diplomatic community and India’s ongoing relief assistance to Nepal,” http://www.indianembassy.org.np/(在ネ印大使館HP,5月4日)
[i]”SSB sends over 3 dozen vehicles from border posts to Nepal,” Zeenews,2015-04-27.
[j]”Nepal quake aid: SSB Siliguri sends relief material
The SSB Siliguri Frontier has so far treated 210 patients,” Indian Express,2015-05-02.
[k]”Indian Army will work in Nepal till normalcy returns,” Zeenews,2015-04-28.
[l] Ministry of Home Affairs, Gov. of India,”Day 9 of the Earthquake Rescue & Relief Operations,” 2015-05-03.
[m]”India ignoring national sovereignty: Nepal leaders,” Telegraph Nepal,2015-05-02.
[n]”Nepal: India in bad news…again!,” Telegraph Nepal,2015-05-07.
[o]”Nepal Army, oppsition parties unhappy with Indian rescue teams,” People’s Review, 2015-05-06.
[p]”Nepal Students burn effigy of India PM Narendra Modiww,” Telegraph Nepal, 2015-05-05.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/14 at 17:42

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