ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ゴビンダ医師のハンスト闘争(38)

10 参考資料
(1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」

(2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」カトマンズ・ポスト,2018年7月7日

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鋭い風刺に満ちた興味深い論評。グファディはペンネーム。自称「偏屈老人」。カトマンズ・ポストに時評等多数寄稿。著者ブログhttp://guffadi.blogspot.com/
Guffadi, “The crazy authoritarian doctor,” Kathmandu Post, Jul 7, 2018
http://guffadi.blogspot.com/2018/07/the-crazy-authoritarian-doctor.html
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われわれは皆,KC医師にはうんざりしていると思う。われらのこの偉大な国において,保健医療制度や医学教育の質について,KC医師だけがなぜ心配しなければならないのか? 彼を除けば,われわれはすべて,途方もない高額料金の医療で十分満足しているし,またバヤパリ[商売人]どもが医大を開設し,低水準の教育を行い無能な医者を送り出すことにより巨万の富を手にしていても,まったく気にもしない。要するに,医大投資家は,よい医者の育成よりも儲けの方を優先させているのだ!

われわれは,世界最高水準の公立病院をいくつか持っている。そこには高価な医療機器があるが,医者たちはそれを使わず,自分のクリニックを患者に紹介しそこで治療するので,病院の医療機器は無用の長物と化している。われわれはまた,世界最高水準の私立病院もいくつか持っている。そこでは,患者は,必要もない検査のため毎日何千ルピーも請求され,治療費総額は何十万ルピーにもなり,患者家族はその支払いのため土地を売るか,さもなければ完済まで患者を病院に人質として留め置かれることになる。

そう,これこそが,社会主義者[コングレス党]と共産主義者[共産党]が次々と政権を握り,あらゆる分野において一般庶民よりもバヤパリ[商売人]を優遇してきた国なのだ。いったいいつになったら,人民に小便をひっかけるのではなく,本当に人民のことを考えてくれる政府を,われわれはもつことになるのだろう? 腐敗した指導者[ネタ]たちがインドやタイやシンガポール,いやアメリカ[Amrika]にさえ治療を受けに行くのではなく,国内にとどまり公立病院で治療を受ける日は,いつになったら来るのであろうか?

わが国の前大統領[RB・ヤダブ]の前立腺ガン治療には,アメリカから医者を招かねばならない(引用者注)。わが国の政治家たちはまた,われわれ自身の国の医師よりインドの医師の方が優秀とも信じている。わが国の首領[チョラ・ネタ]たちは,この国に世界水準の公立病院を開設するためではなく,外国での治療のため何百万ルピーも費やす。にもかかわらず,われわれ人民は不平も言わず,街頭に出て抗議することもせず,腐敗した首領どもに過ちの責任を取らせもしない。われわれは,われらが小マハラジャたちが武装警官のお供を引き連れ豪華高級車でカトマンズを動き回るのを見て,せいぜい,恨みがましく不平を漏らすだけだ。
 [引用者注:ラム・バラン・ヤダブ氏は前大統領(在職2008年7月~2015年10月)。2013年,健康診断のため来日。2016年8月,前立腺ガン治療のため政府が600万ルピー支給を決定,翌9月にアメリカで手術。]

しかし,お医者様[Dr Saheb]はちがう。金も,権力も,特待特権も求めはしない。この国に良い医者が生まれることを願うのみ。貧しい人々でもよい保健医療が受けられること,それがお医者様の願いだ。彼は,この国にとって最善のものを医療の分野で求めているのだ。が,われらが政治屋たちは,彼が好きではない。というのも,彼らの多くが私立病院に投資しているか,あるいは医科大学を開設しお金をもっと儲けようと考えているからだ。

われらが偉大な共産主義者たちは,お医者様を狂気,権威主義,全身痛のようなものとみている。たしかに,体制に一人で立ち向かう改革者は狂気だ。いま,市民社会の人々は,いったいどこにいるのだろう? いわゆるフェイスブック活動家は,どこにいるのか? われわれが求めるのは,財布からいつも盗み取っている常習スリたちではなく,この国を導いてくれるお医者様,そう,まさにそのような人なのだ。

要するに,わが国では,いわゆる共産主義者のほとんどが大学や病院,いやNGOにすら投資しているということだ。お医者様は,この国の医学マフィアと闘っている。政府には,商売人たちが私立医大でしこたまゼニ儲けするのを許すのではなく,各州に医大を開設することが,なぜできないのか?

この人には,体制と闘うのではなく,何の心配もなく自分の仕事に邁進していただくべきだと思う。そうでしょう,お医者様,ハンストを幾度も繰り返すことにお疲れではないですか? 狂気のお医者様はジュムラに行き,いまはカルナリ健康科学アカデミー[KAHS]の救急室に収容されている。われらが偉大なオリ政府は,この国の医科大学の質は気にしていない。政府の面々は,身近のお気に入りの人々が医者を目指す医学生から大金をとりお金儲けできるようにしたいだけなのだ。

われらが無能政府は,KC医師の死を願っている。そう,これが真実であり,もしKC医師が天国に行けば,われらがミニ・マハラジャたちに対し抗議し,ハンストを行い,闘う者は一人もいなくなる! KC医師も死は恐れていない。カルナリで死ぬ覚悟はできている,と彼は言っているのだ!

お医者様は,要求が入れられるまでジュムラに留まると誓った。この狂気の医者は,この国のために最善の保健医療と医学教育を求めているにすぎない。われわれは,なぜ立ち上がり彼を支持できないのか? この孤独の改革者が医学マフィアとたった一人で闘っているのに,われわれはほとんどそれを気にも留めていない。恥ずかしくないのか!

われらが無能政府は,KC医師を投獄すべきだ。この人物は既成政治体制の疫病神だ。彼は,医学分野のあぶく銭をねらっている商売人や政治家たちにとって,脅威だ。この男は,青年たちの悪しきお手本だ。われらが首相は大きなことを考えている。われわれは,カトマンズで列車にちょいっと乗ればケルン[吉隆鎮]に行けるようになるだろう。コルカタへは,カトマンズから船で行く。われわれは,われらが商売人や首領たちには国内にたくさん医大をつくることを認め,これにより授業料を払える者が医者になり,ここから首領たちも利益をえられるようにしなければならないのだ。

神よ,オリに祝福を。神よ,われらが偉大な同志たちに祝福を。劣悪医大の国となるのを阻止しようとするKC医師を,打倒せよ! この世の最後の日に,お医者様は,その医学分野での業績と,医学分野改革のためハンストを行ったことをもって思い起こされるだろう。オリとその廷臣たちは,何をもって思い起こされるのか? 彼らには,思い起こされるべきものなど何もない。KC医師は明日死ぬかもしれないが,腐敗した体制と力の限り闘ったと考え,幸せに死んでいくだろう。一人でも,体制を揺るがすには十分だ。ましてや,われわれ何百万人もが街頭に出て,それぞれ自らハンストを始めたら,どうなるか。そうなのだ,もしわれわれが協力して腐敗した首領どもと闘うなら,われらの腐敗した体制を破壊することは可能なのだ。政党をつくるまでもない。勇気さえあれば!

■ヤダブ前大統領手術後ワシントンで会見(Republica, 31 Oct 2016)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/14 @ 11:01