ネパール評論

ネパール研究会

マオイストの憲法案(20)

4(14)教育権・言語権・文化権

(1)教育権
マオイスト憲法案 第37条 教育権
 (1)基礎教育権の保障
 (2)初等教育は無償義務教育。無償後期中等教育まで受ける権利の保障。
 (3)困窮階層には,法律の定めにより無償高等教育を受ける権利の保障。
 (4)国内各社会共同体は,母語による教育をおこなう学校や学術機関を設置運営する権利を有する。

教育権については,暫定憲法では,第17条(1)(2)で規定されている。ここでは「中等レベルまでの無償教育を受ける権利」の保障であり,「義務教育」は規定されていない。実効性がどこまであるか疑問だが,「義務教育」明記そのものはマオイスト憲法案が始めてであり,注目される。

困窮階層への無償高等教育保障は,現行の大学におけるジャナジャーティ優遇策の拡充と見てよいであろう。

(2)言語権・文化権
マオイスト憲法案 第38条
 (1)母語使用権を各人,各社会共同体に保障
 (2)社会共同体の社会活動への参加権
 (3)各社会共同体の言語,文字,文化,文化遺産を保護・振興する権利
 (4)芸術や文化を創造し発展させる権利,知的財産権の保障

この言語権・文化権規定は,あれもこれも詰め込んだ感じで,整理されていない。内容的には,暫定憲法第17条(2)と同じ。

言語権については,このような権利保障では守りきれない現実がある。少数言語は,たとえ学校で学んだとしても,社会では実際には利用価値が低い。流動性の少ない伝統的村落社会では自分たちの言語を学び保存することは可能であろうが,社会的流動性が拡大し経済活動が活発になってくると,それに反比例して少数言語の利用価値は低下し,結局は,利用価値のより高い言語,つまりネパール語や英語が自主的に選択されることになる。どうしようもない。

本当の言語問題は,ここにある。言語権,文化権の主張は,もちろん正当だが,しかし残念ながら少数言語や少数文化は,多文化主義者やマオイストの提唱するような方法では守りきれない。彼らの主張は的外れ。

少数言語を守るには,個人の言語選択の自由を制限し,社会集団の言語強制に服従させなければならない。そんなことが出来るだろうか? マオイストに出来るのか? 出来るとすれば,その方が,かえって恐ろしいことになるであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/06/30 @ 17:16