ネパール評論

ネパール研究会

Archive for the ‘民主主義’ Category

ネパール憲法AI探訪(10): 国益違反は違憲で処罰?

1.憲法第5条の国益規定
ネパール憲法第5条は,「国益」を規定している。राष्ट्रियは「国民の」なので,「国民の利益」と訳した方が適切かもしれないが,「国益」の方が一般的なので,ここでは「国益」としておく。

それはともかく,この第5条(1)も長文で難解。以下は,試訳。内容的には,ほぼこのようなものであろう。

第5条 国益(राष्ट्रिय हित) (1)ネパールの自由(स्वतन्त्रता),主権,領土一体性,国民性(राष्ट्रियता),独立および尊厳,ならびにネパール人民の諸権利,国境の安全および経済の繁栄発展を守護することは,ネパールの国益の根幹である。
(2)国益に反する行動や行為は,連邦法により処罰されるものとする。

この第5条で注目すべきは,第2項。国益違反は処罰すると規定されている。

2.国家権力を義務づける近代憲法
近代の民主主義憲法は,原則として,主権者たる国民(人民)が,統治権力行使を信託した国家(政府)の行為を条件付けるための根本法。そのため,国家の義務は詳細に規定されているのに対し,国民の義務は基本的なものに限定されている。

たとえば,日本国憲法は,直接的には,教育(26条),勤労(27条),納税(30条)を国民の義務としているだけだ。他の先進民主主義国も,兵役義務などがあるものの,ほぼ同様だ。

3.「国民の義務」規定の多い憲法
これに対し,インド憲法は,第51A条で国民の義務を詳細に規定している。たとえば,自由インド国民闘争理念の擁護,インドの主権と統一の維持,多面的インド文化の伝統尊重など。

また,中国憲法も,インド憲法ほどではないが,計画出産の義務,国家統一・各民族団結の義務,秩序遵守の義務などを詳細に規定している。

ネパール憲法の「国益」に反する行為の処罰規定は,原理的には,インド憲法や中国憲法の国民の義務規定に近いように思われる。ネパールでも,「国益」遵守は国家・政府だけでなく国民の義務と規定されていると解すべきであろう。

4.国益違反行為処罰の危険性
しかしながら,ネパールのように,国家・政府だけでなく国民をも含め一般に,憲法で「国益に反する行為」の禁止を規定しても大丈夫なのだろうか? あまりにも抽象的で,時の政府にとって都合の悪い勢力や行為が国益違反として処罰される恐れはないのであろうか? いささか心配だ。

そこで,この問題について,AI先生にお伺いしてみた。いや,驚いた。AIは秒速進歩! Bingは参照先表示が無くなったが,回答そのものは革命的に進歩。他の回答も,論拠,論理明快。もはや人間は到底対抗できない。

以下,Bard日本語版回答の要旨。詳細な長文回答なので,回答そのものはBardでご覧ください。

[質問]国益違反を憲法で禁止するのは,危険ですか?
[Bard日本語版回答要旨]
国益違反を憲法で禁止することは危険です。
①国益の定義があいまいで,恣意的に解釈され,自由が制限される恐れがある。
②批判や異論を抑圧し,表現の自由を制限する恐れがある。
③国益違反の政府判断は恣意的となり,権力乱用を招きやすい。
④政府の政策や行為の批判を国益違反として封殺する恐れがある。
⑤政府に批判的な少数派は国益に反するとみなされ,抑圧される恐れがある。
⑥国益を口実にして戦争を招く恐れがある。

【参照】Safeguarding Nepal’s National Interests

230925

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/09/25 at 17:07

ネパール憲法AI探訪(8): ネパールは世俗国家?

1.難解な世俗国家規定
憲法第1編総則の第4条は,「国家(राज्य)」について規定している。(1)(2)の2項に分かれ,(1)はネパール国家の本性規定,(2)は領土の規定である。この第4条も難解。ここでは,まず第(1)項から見ていくことにする。

第4条 ネパール国家(राज्य)
(1)ネパールは,独立の,不可分の,主権的な,世俗的な(धर्मनिरपेक्ष),包摂的な(समावेशी),民主的な,および社会主義志向の(समाजवाद उन्मुख)連邦民主主義共和国である。
注釈(स्पष्टीकरण): 本条において,「世俗的な」は,古来の宗教および文化の保護(संरक्षण)を含む宗教的および文化的自由を意味する。[要旨]

このネパールの国家本性規定の中で最も難しく議論を呼びそうなのが,「世俗的な」の解釈。一般に,「世俗的(secular)」とは,政教分離の原則に立ち,国家ないし政府は宗教には関与しないことを意味する。ネパール語のधर्मनिरपेक्षも,宗教(धर्म)には関与しない(निरपेक्ष)という意味らしいから,secularと同義と見てよいであろう。

ところが,この第4条(1)には「注釈」が付いており,「世俗的」は古来の宗教や文化の保護を含む,と明記されている。この「注釈」は,ネパール国家は古来の宗教や文化を保護してもよい,あるいは保護すべきだ,という意味のように思われるが,この解釈でよいのであろうか? よいとすれば,第4条本文と注釈の関係は,どうなるのか? どのような意味で,ネパールは「世俗国家」なのか? 

2.ネパールは世俗国家か?
これは,単に難しいだけでなく人の内面をも探りかねない微妙な問題でもあり,面と向かって人に尋ねるのは躊躇される。こうしたとき頼りになるのは,やはりAI先生。人情とは無縁のメカニズムなので,そんな心配や遠慮は全く不要だ。さっそく質問してみた。回答は以下の通り。

Bing(日英),Bard(日英),ChatGPT3.5のいずれも,「ネパールは世俗国家です」との紋切り型回答。「注釈」には気づかなかったらしい。

これらに対し,唯一,Perplexityだけが,おそらく「注釈」をも読み込み,次のような一歩踏み込んだ回答を出してくれている。

Perplexity回答: ネパールは「世俗国家」だが,その「世俗的」には「古来の宗教や文化の保護も含まれている」。批判的な立場をとる人々によれば,「ネパールの世俗主義は限定的であり,少数派宗教への偏見や差別など,国際的な人権基準とは相容れないもの」である。

このPerplexity回答は,憲法解釈としてはやや踏み込み過ぎと見えなくもないが,唯一,「注釈」をも読み込んでいる点で,十分評価するに値する。ネパールの世俗主義は,後述の「改宗禁止規定」(第26条)とも考え合わせると,おそらくこのPerplexity回答のようなものであると解釈してよいであろう。

3.世俗国家:狭義か広義か?
ネパールが「世俗国家」か否かは,換言すれば,結局は「世俗国家」の定義如何による。そこで,AI先生に,改めて「世俗国家」の定義について質問してみた。回答は,一部上記と重複するが,以下の通り。

(1)狭義:国家と宗教の分離
①Bard(日英) 「世俗国家とは,国家の法律や公共政策において特定の宗教を基盤としない国家です。世俗国家においては,政府は宗教に干渉せず,特定の宗教を支援しません。世俗国家の基本原則は,宗教の自由と政教分離です。宗教の自由とは,,すべての人が自分の信仰を自由に選択し,信仰に基づいて自由に宗教活動を行うことが出来る権利です。政教分離とは,政府と宗教活動が別々に存在し,政府が宗教に干渉せず,宗教機関が政府に干渉しないことです。世俗国家は,宗教国家と対比されます。宗教国家とは,特定の宗教を基盤とする国家です。宗教国家においては,政府は宗教に干渉し,特定の宗教を支援します。」
②ChatGPT3.5 「世俗国家では,政治機関は宗教については中立である。世俗国家の政府は,特定の宗派や信仰の優遇や助成をすることはしない。」

(2)広義:政教分離の例外容認
①Bing(日英) 「世俗国家は、宗教に関わらずすべての市民を平等に扱い、市民が宗教的信念、所属、またはそれらの欠如に基づいて優遇されることを避けると主張します。しかし、国家が宗教を持たないということは、その国家が完全に世俗的または平等であることを意味するわけではありません。例えば、自身を世俗と称する一部の国家では、国歌や国旗に宗教的な言及があったり、ある宗教を利益する法律が存在したりします。」(英)
「ほとんどの場合に近代民主主義国家は世俗国家であるが、イタリアにおけるカトリックの特殊な地位など世俗化の程度には国家によって差がある。」(日)
②Perplexity 「世俗国家は国家宗教をもたないが,特定の国家宗教がないからといって,その国が完全に世俗的・平等主義的というわけでもない。たとえば,世俗国家と宣言している国の中にも,宗教的意味合いをもつ国旗や国歌,あるいは特定の宗教を優遇する法律を有する国がいくつかある。」

(3)広義の世俗国家としてのネパール
ネパールは,憲法で「世俗国家」と定めているので世俗国家であることはたしかだが,それは,結局,広義での世俗国家ということになる。

では,広義の世俗国家として,ネパールは宗教分野への国家介入をどこまで認めるのであろうか? これは,政教完全分離を原則とする狭義の世俗国家国にとってよりも,むしろ,より錯綜した難しい課題であると見てよいであろう。

なお,宗教については,「第26条 宗教的自由の権利」において詳細に規定されているので,改宗禁止など具体的な問題については,別に改めて検討することにする。

 ■インドラ祭臨席の大統領と首相(2009)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/09/16 at 17:25

生成AI問答(8): 内戦後,ネパールはなぜ単一国家から連邦制国家に変わったのですか? その変更に,反対はなかったのですか?

ネパールにとって,単一国家としての立憲君主制から連邦民主共和国への移行は,歴史を画する大事件。成功してネパールは発展を遂げていくか,それとも「民族州」絡みの地域対立が激化し,再び内戦に向かうのか? まだ,いずれとも言い切れない。

この難問について,今回はマイクロソフトBing(日本語版)に加え,最新のグーグルBard(日本語版)でも質問してみた。Bing回答は,典拠明記は好ましいが,いかにも平板。外務省やWIKIが典拠だからか? Bard回答は,Bingよりは一歩踏み込んでいるものの,やはり表面的・形式的。参照先がBingと同様,日本語資料のみだからかもしれない。

OpenAIのChatGPT(英語版)には,今回はDeepL自動翻訳を介して質問し回答してもらった。翻訳精度では,グーグル翻訳も素晴らしいが,DeepLは,今回試みた限りでは,それ以上にスゴイ。文句なし。そして,ChatGPT回答。これまたスゴイ! 論点を的確にとらえ,過不足なく答えている。どうしてChatGPTには,こんな見事な回答が出来るのだろうか?

推測にすぎないが,日本語版のBingやBardは,政府関係文書やWIKIなどの日本語資料しか参照していないからかもしれない。外国資料翻訳の手間を省いた分,回答が平板で説明不足となる。これに対し,英文ChatGPTは,おそらく世界中の関係資料を渉猟し,回答文を作成している。もしそうであるなら,回答が,より適切にして深くなるのは,当然と言えよう。

このように,BingとBard,そしてChatGPTを比較して見ると,生成AIという点では同じでも,①その回答は様々であり,②参照資料をちょっと変えれば,回答はどうにでも操作できる,ということがよくわかる。生成AIには,その気になれば世論操作など簡単,お茶の子さいさい,朝飯前なのだ。

恐ろしい。が,すでにわれわれは,21世紀の禁断の知恵の木の実を齧ってしまったのだ。もはや,どうにもならない!

*****<以下,生成AI回答>*****

Bing回答(質問回答=日本語)
内戦後、ネパールは2008年に単一国家から連邦制国家に変わりました。この変更は、ネパールの憲法制定議会によって承認され、2007年11月に署名された和平協定に基づいて実施されました。この変更には、反対する人々もいましたが、和平協定の一環として実施されたため、多数決で承認されました12。ソース: (1) 外務省: わかる!国際情勢 ネパールの民主化・平和構築プロセス (2) ネパールの和平プロセスにおける連邦制への移行と和解(高澤)(3) ネパール WIKI

Bard回答(質問回答=日本語)
ネパールは、内戦終結後の2015年に連邦制に移行しました。これは、国の統治をより民主的で包括的なものにし、ネパールのさまざまな民族グループのニーズをよりよく満たすために行われました。

連邦制への移行は、多くの異なる政治勢力間の長い交渉の末に行われました。ネパール共産党(毛沢東主義派)とネパール会議派は、どちらも連邦制の支持者であり、この問題で協力しました。しかし、連邦制に反対する勢力も多く、移行プロセスは困難でした。

連邦制への移行は、ネパールの歴史における大きな変化でした。それは、国の統治方法に大きな影響を与え、ネパールの未来に大きな影響を与える可能性があります。

ChatGPT回答(質問回答=DeepL翻訳)
ネパールが単一国家から連邦国家に移行したのは、主に、周縁化されたコミュニティの包摂と代表性を高めるという長年の要求と、ガバナンスと開発における地域の不均衡に対処する必要性からであった。1996年から2006年まで続いた、政府とマオイストの反政府勢力との間の内戦も、この移行に大きな役割を果たしました。

反政府勢力は、ダリットや少数民族など社会から疎外された人々の代表権を確保し、首都カトマンズへの権力と資源の集中を解決する手段として、連邦制を要求していました。2006年に紛争を終結させた和平プロセスの一環として、政府は連邦制の確立に合意し、2015年に採択された新憲法に明記された。

しかし、この変更には反対もあり、特に連邦制が国のさらなる分断を招き、民族間の緊張を悪化させることを危惧する人たちから反発があった。また、一部の政党、特に歴史的に支配的な地域に拠点を置く政党は、連邦制を自分たちの権力と影響力を脅かすものと考えて反対した。

こうした懸念にもかかわらず、連邦制は実施され、現在、国内は7つの州に分割されている。実施には時間がかかり、資源の分配や州境の画定をめぐる紛争など、いくつかの課題に直面している。しかし、連邦制は社会から疎外された人々により大きな代表性と包摂をもたらし、より参加型で民主的な統治システムを作り上げたと多くの人が主張している。

*****<以上,生成AI回答>*****

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/05/12 at 16:33

生成AI問答(7): ネパールのジェンダー政策が,日本のそれよりも先行しているのは,なぜですか? また,日本は,ネパールのジェンダー政策から何を学ぶべきですか?

ネパールのジェンダー政策は,日本よりはるか先に始まり,いまやはるかに充実している。たしか1990年代末頃だったと記憶しているが,カトマンズの商業ビル内で「第三の性(広義)」の人々の集会が開かれていたらしく,様々ないでたちの大勢の参加者に取り囲まれ,進退窮まったことがあった。すでにその頃から,ジェンダーはマスコミでも街頭でも,盛んに議論されていた。また,いま日本で問題になり始めた「ジェンダーとトイレ」ですら,早くから議論され,あれこれ試行運用されてきた(ほぼ決着済みか?)。

このようにネパールはジェンダー問題で日本よりはるかに先行したが,その理由の一つは,ほんの数十年前までは女性差別がネパールでは耐え難いほど厳しかった,という歴史的事実にあるであろう。性差別の厳しさゆえに,かえって,より根源的に「性」を問い,ジェンダー平等へ向け,一気に前進したということ。

それともう一つ,後発国の兎跳び前進。ネパール,特に村では,従来型の電気や電話がなかったからこそ,一足飛びに,それらを飛び越え,ソーラーやケイタイが普及した。同じことが,ジェンダー問題でも起こっていると見てよいであろう。いまやネパールに飛び越えられ,後進国となったってしまった日本! これから,先進国となったネパールから,どう学ぶべきだろうか?

このように,今回の質問は,ネパールと日本の歴史や文化とも絡むうえに,「学ぶべきか」という「べき」問題も追加されている。また,代名詞「それ」がある上に,2問が一度に問われている。この難問を,AIは,どう処理するか?

Bing回答は,参照先として外務省・JICAの報告を明示しているが,読み比べてみた限りでは,直接引用ではない。回答は,論旨がきちんと展開されており,日本語文章も正確だ。

しかし,その一方,よくできた回答ではあるが,少々形式的・表面的すぎる気がする。主たる参照先が日本の外務省・JICAだからかもしれない。

ChatGPT回答は,グーグル自動翻訳にほんのわずか不自然なところがあるだけで,ほぼ完璧。面白くて深くて,考えさせられる。名回答。

自動翻訳でこんなことができるのなら,学校の実用第一の英語授業はもはや不要,廃止した方がよい。

また,内容的にも,こんな高度なレポートを一斉に出されたら,高校や大学の先生は採点に困る。いや,小学生にだって,これなら簡単に作成し提出できる。社会科・社会科学の授業も,今のままでは続けられないだろう。さぁ困った。どうすべきか?

*****<以下,生成AI回答>*****

[1] Bingの回答(質問&回答=日本語)
ネパールのジェンダー政策が日本よりも先行している理由については、ネパールが2006年に民主化されたことが大きな要因の一つです。その後、ネパールは、国連の女性の地位委員会(CSW)において、ジェンダー平等に関する国家報告書を提出し、ジェンダー平等に関する法律を制定しました。また、ネパールは、女性の政治参加を促進するために、選挙制度を改革し、女性の立候補者数を増やすなどの取り組みを行っています1。

一方で、日本は、2019年に「ジェンダー平等基本法」を制定しましたが、その前後には、「女性活躍推進法」や「男女共同参画社会基本法」などの法律が制定されています。しかし、日本では、女性が政治や経済の世界で活躍することがまだまだ少なく、ジェンダー平等に関する意識も低いとされています2。

ネパールのジェンダー政策から学ぶべきことは多くあります。例えば、ネパールでは、女性の政治参加を促進するために選挙制度を改革したり、女性の立候補者数を増やすなどの取り組みが行われています。また、ネパールでは、女性が自立して生きるための支援も行われており、日本でも同様の取り組みが必要だと考えられます1。

1: ネパール:ジェンダー平等政策  2: 日本とネパールのジェンダー政策比較 詳細情報: 1. mofa.go.jp 2. jica.go.jp 3. mofa.go.jp 

[2] ChatGPTの回答(質問&回答=Google翻訳使用)
ネパールと日本のジェンダー政策を明確に比較することは困難です。両国には、政策を形成する独自の文化的、歴史的、社会的背景があるからです。しかし、ネパールは近年、ジェンダーの平等と女性のエンパワーメントに向けて大きな進歩を遂げました。これは、政治的コミットメント、草の根活動、国際的な支援など、いくつかの要因に起因する可能性があります.

ネパールのジェンダー政策の枠組みには、ジェンダーに基づく暴力に対する法的保護、女性の政治的代表を増やすためのアファーマティブ アクション プログラム、教育、医療、経済的機会への女性のアクセスを改善する取り組みが含まれています。 特に、ネパールの 2015 年憲法は、女性の平等な権利を保証し、性別、民族、宗教に基づく差別を禁止しています。

一方、日本は、女性の政治参加率の低さ、根強い男女賃金格差、女性に偏って影響を与える長時間労働の文化など、男女平等への取り組みが比較的遅いという批判に直面しています。 日本は、育児へのアクセスの拡大や女性のリーダーシップの促進など、これらの問題に対処するためのいくつかの政策を実施してきましたが、批評家は、ジェンダーの平等を促進するためにさらに多くのことを行う必要があると主張しています.

ネパールのジェンダー政策から、日本はジェンダー平等を推進する上での政治的コミットメントと草の根活動の重要性について学ぶことができました。日本はまた、ジェンダーに基づく暴力に対する法的保護を実施するだけでなく、政治や指導的地位における女性の代表を増やすためのアファーマティブ アクション プログラムを採用することからも利益を得ることができます。さらに、日本は、ワーク・ライフ・バランスをサポートし、男女間の固定観念や職場での差別など、男女間の賃金格差の根本原因に対処する政策を検討することができます。

*****<以上,生成AI回答>*****

【参照】
「包摂トイレ,ネパール国連ビルに設置」ほか,ジェンダー関係投稿一覧
「第三の性パスポート,ネパール発行開始」ほか,第三の性関係投稿一覧

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/05/09 at 22:42

生成AIで世論操作?

生成AIは,一般向けBingとChatGPTを一昨日,初めて,ほんのちょっと使ってみただけ。全くの素人だ。が,それにもかかわらず,生成AIのあまりの有能さにビックリ仰天,これは大変なことになった,と寒気を覚えた。

 ■朝日新聞2023/04/30

このような革命的な新技術が現れたとき,人がまず思いつくのは,金儲けと世論操作。実業家であれば,革命的経費削減(とりわけ人件費)・事業拡大で大儲けができるとほくそ笑むにちがいない。また政治家なら,生成AIにひそかに細工し,都合の良い方向に世論を誘導しようと考えるはずだ。これは自然な人情,止めようがない。

 ■朝日新聞2023/04/30

いずれも心配だが,いまの私にとって,より気がかりなのは,生成AIの政治利用の方。BingやChatGPTは親米の,「文心一言」は親中の,世論形成のために利用されるのではないか? たとえば,「文心一言」の「契約特記事項」では,こう明記されている(Google自動翻訳)。

3. 利用規則
1.・・・・以下の行為を含むがこれらに限定されない違法または不適切な活動を行わないことに同意するものとします。・・・・
2)国家安全保障を危険にさらし、国家機密を漏らし、国家権力を転覆させ、国家の統一を損なう。
3)国家の名誉と利益を害する。・・・・
11)国家主権および領土保全の侵害、地図の作成および公開に関する関連する国内規制の違反を伴う可能性のあるコンテンツ。・・・・
6)風説を流布し、社会秩序を乱し、社会の安定を損なうもの。・・・・
5. ・・・・以下のインターネットの収益を遵守します。1)法規制のボトムライン 2)社会主義システムのボトムライン 3)国益のボトムライン ・・・・

自動翻訳からの一部抜粋で少々分かりにくいが,この警告だけを見ても,AIの政治利用が決して単なる杞憂でないことは明白だ。むろん,BingやChatGPTにしても,「文心一言」ほどあからさまではないとしても,政治的に操作しようと思えば出来ないわけがない,と見るべきだろう。

 ■朝日新聞2023/04/30

といっても,今の私は生成AI超初心者,このような大問題は,取り組むには荷があまりにも重すぎる。そこで,とりあえず「ネパール」について,いくつか生成AIに質問し,どのような回答が得られるか,検討してい行くことにしたい。

なお,「文心一言」は最も興味深くはあるが,まだ試用が始まったばかりなので,今回は割愛する。

【参照】AIは既存のデータ(存在,である)を分析するものだが,そこに何らかの理由で当為判断(べき)が組み込まれるなら,AIは強力無比の存在正当化装置となる。この記事はその一例。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/04/30 at 12:58

セピア色のネパール(16):「古き良き」国会議事堂

1990年代のネパール議会は,それ以前と同様,シンハダルバール(सिंहदरवार 獅子宮殿)のガディ[ギャラリー]バイタク(गद्दीबैठक 聖殿/会所)で開催されていた。ネパールは,1990年民主化運動の成功により民主化されたとはいえ,まだ王国であり,ガディバイタク国会議事堂にも「古き良き王国」の雰囲気が色濃く残されていた。

1 シンハダルバールのガディバイタク
ガディバイタクのあるシンハダルバールは,ラナ将軍家統治時代の首相チャンドラ・シャムシェル・JBR(在位1901-29)が,首相就任後に建設に着手し,1908年に完成させた豪華絢爛たる大宮殿。ラナ家の権威と権力を象徴する宮殿として代々ラナ家が使用してきたが,王政復古(1951)でラナ家が失権すると,宮殿は王国政府が国家諸機関の官庁として使用することになった。

そのシンハダルバールの敷地内に,ジュッダ・シャムシェル・JBR首相(在位1932-45)が,首相就任後,建設に着手し,1937年に完成させたのが,ガディバイタク。西洋新古典主義とネワールの様式を採り入れた,これまた豪華な建物であり,主に外国要人接遇のために使われていた。

このガディバイタクも,王政復古後,王国政府のものとなり,議会発足の1959年から内戦終息・国王失権の2006年まで,王国議会下院(代議院)が議場として使用してきた。

 ■シンハダルバール正面(1992)
 ■ガディバイタク前。陳情団か?(1993)
 ■ガディバイタク玄関
 ■ガディバイタク正面屋上看板「代議院」(1993)

2 ガディバイタク見学
そのガディバイタク国会議事堂の見学に行ったのは,1993年のこと。本会議場に入ると,正面上方に国王肖像画,その下方に豪華な玉座があり,議場を権威づけていた。

議員の席は,当初,109席程度だったようだが,議員数が120~134(1980年代国家パンチャーヤト),205(1990年憲法下院定数)と増えていくと,足りなくなったはずなので,おそらくそれに合わせて増設されていったのだろう。が,1993年見学時撮影の写真を見ると,150席前後しか写っていない。本会議のとき,どのように着席していたのだろう? 英国議会に習い,ベンチ式となっていたのだろうか?

それはともかく,ガディバイタクの議場は,豪華だが,議員相互の息吹・表情が直に感じ取れるほど稠密な空間であり,側面の傍聴席から見学していると,与野党の議論は丁々発止,なかなか迫力があった。王制下で権限が限定されていたとはいえ,そこには確かに討議・討論があった。

 ■下院議場
 ■玉座と議長席
 ■傍聴席(議場左右両側)(1993)

補足」ちなみに,上院の方は,1990年憲法体制以前にはどこで会議を開いていたのか,はっきりしない。1993年見学時には,上院棟は下院棟とは別にあり,議場もまるで教室のようで,極めて質素。これはこれはと,拍子抜けした記憶がある。

 ■上院棟(1993)
 ■上院議場

 ■上院議長席

3 マオイスト紛争終結・議会解散・連邦共和制成立
しかしながら,1990年立憲君主制憲法下の議会は,権限が弱く,議論はしても実行力が十分には伴わなかった。そのため,1996年勃発のマオイスト紛争(内戦)も解決できず,2006年にマオイスト優位で停戦,翌2007年には議会は暫定憲法制定後,結局,解散となってしまった。

そして2008年には,暫定憲法に基づき,新たな国家体制を決めるための制憲議会選挙が実施され,そこで選出された制憲議会が王制を廃止し,ネパールを連邦民主共和制とすることを宣言するに至ったのである。

4 議場移転:ガディバイタクから国際催事場へ
さて,そこで,ここでの問題は議場。ガディバイタク国会議事堂は,議場それ自体に権威が感じられ,そこでの議論も活発であったが,いかんせん議会には十分な法的権限がなかった。これに対し,王制廃止後のネパールの国権の最高機関は,国会(制憲議会2007-15/連邦議会2015-)となった。これは明白。では,この最高機関たる国会は,これまで,どの議場で開催されてきたのか?

2007年暫定憲法では,諸勢力の要求を最大限飲まざるをえなかったため,制憲議会の議員定数も膨らみ,結局601となった。議員数601ともなると,ガディバイタクには到底入りきれない。そこで,制憲議会は,ニューバネスワルの「国際催事場(International Convention Centre)」で開催されることになった。

この「国際催事場」は,中国援助で1993年に建設された威圧されるほど巨大な催事場。私は,2010年9月,そこで行われた首相選出本会議を見学に行ったことがある。制憲議会は,全員出席すれば,議員だけでも601人いるので,本会議場は巨大なスリ鉢状ホールで開催されていた。【参照】首相選挙、見学

議長,各党幹部,役職者らは,壇上か前方の席,陣笠議員や傍聴者はスリ鉢状後方の席。質疑は拡声器を通して聞こえてくるが,演壇ははるか彼方,表情など到底読み取れない。“これは観衆向けの一方的演説の応酬であって,質疑応答を通して合意を見出そうとする民主主義的議論の場ではないなぁ”と,いたく失望したことを覚えている。

それでも,ともかくも制憲議会で2015年,連邦民主共和制の「ネパール憲法」が成立,国会の議員定数は下院(代議院)275,上院(国民院)59となった。

ところが,国会の議場は,依然として,あの国際催事場。たしかに議員定数は,制憲議会の601から,下院275へと約半数になった。また,各種委員会は,それぞれ適切な広さの会議室で,それぞれ会議を開いているのであろう。たしかに,それはそうであろうが,もし本会議が今もあの大ホールで開かれているとするなら,たとえ民主的に選出された議員からなる国会といえども,そこで本当に実のある民主的な議論ができているかどうかは,大いに疑問である。

 ■国際催事場

5 新議事堂建設へ
これはネパール政府も当初から危惧していたことであろう。といっても,ガディバイタクには数百もの議員席はつくれない。そこで,結局,ネパール政府は,別に新たな国会議事堂をシンハダルバールに建設し,ガディバイタクは観光用として一般公開することにした。

このネパールの新議事堂は,中国・ネパール共同企業体が受注し,定礎式が2019年9月に行われた。数年で完成の予定。下院(代議院)400席,上院(国民院)100席の議場に加え,議員ロビー,VIPルーム,図書館,博物館,政党控室,レストランなども整備される予定。

この建設中の新議事堂は,国際催事場ほども巨大ではないが,いかにもネパールらしく,やはり結局は相当豪華・壮大なものとなりそうだ。

むろん,国会議事堂の建物で国家の威厳を示すことは,どの国でも多かれ少なかれ行われている。が,議事堂に本当に必要なのは,実りある建設的な議論醸成のための場であること。これはいうまでもない。

ネパールの新議事堂には,ガディバイタクのような絢爛豪華さは不要だが,ガディバイタクが醸し出していた熟議討論の場としての雰囲気だけは,ぜひとも継承してほしいと切に願っている。

*1 PR Pradhan, “Who built Gallery Baithak?,” Peoplesreview,2019/12/18

*2 Gyan P Neupane, “NRA to retrofit Gallery Baithak,” Republica,2017/02/22

*3 “New building for federal parliament to cost Rs5 billion rupees: Country’s first-ever parliamentary building is expected to be ready in three years,” Kathmandu Post, 2019/09/18

*4 “Prime Minister Oli lays foundation stone of Parliament building,” Himalayan News Service, 2019/09/19

*5 “Inventory of 19th and 20th Century Architectural and Industrial Heritage of Nepal,” Vol.I,1st Ed.,ICOMOS Nepal,April 2020

谷川昌幸(C)

ネパール憲法,「未来政策賞」受賞(3)

3.ネパール憲法の受賞理由
世界未来会議は,ネパール憲法に未来政策賞を授与した理由を,次のように説明している(*3)。

南アジアの内陸国ネパールは,世界最貧国の一つ。長らく鎖国状態だったが,1950年代から民主化への闘いが始まった。最近になってようやく多党議会制となり王制は廃止された。内戦は2006年,包括和平協定締結をもって終息した。青年たちも,この内戦・民主化闘争に積極的に参加した。

包括和平協定(2006年)と暫定憲法(2007年)は,中央集権国家から連邦制国家への移行を義務づけていた。そして,注目すべきことに,暫定憲法には「国家開発への青年参加政策採用」が規定されていた。

最初の制憲議会選挙では,有権者の51%が35歳以下であった。

2015年成立の現行憲法は,青年をして経済,社会,文化,政治の各分野に参加せしめるための諸規定を置き,また青年の能力開発のための教育,健康,雇用を拡充することを求めている。第51条j(7)は,青年の参加と能力開発のための政策を国家に義務づけ,第18条(3)は平等への権利を定めている。

2015年憲法施行後,青年政策が促進され,制度化もされた。たとえば「国家青年会議(2015)」の設立や,「国家青年政策(2015)」,「青年ビジョン2025」,「戦略的10か年計画(2015)」の制定など。

「ネパール憲法は,歴史的につくり上げられてきた不平等の問題の解決に取り組み,持続可能で豊かな未来をつくりだしていくための包摂的憲法の一つの範例である。これは,健康な環境への権利を定め,青年の能力開発を重視する憲法である。」(*3)

■憲法受賞(世界未来会議HP

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/11/06 at 14:05

AI化社会の近未来(4)

(3)議会のAI化
議会制民主主義は,主権者たる国民がその代表として議員を選び,彼らをして議会を構成させ,その議会を通して国民自身の利益のため国を統治させる制度。それゆえ議会は,国民の様々な意見を聞き,慎重に審議し,最も妥当と思われる政策をつくり上げ,それを行政府をして忠実に実行させなければならない。

この議会制民主主義の仕組みは,それ自体複雑であり,現在のように社会が高度に複雑化し変化も速くなると,それへの対応が困難となり,様々な問題が生じてくる。そうしたとき,もし自動学習AIが議会制民主主義の中に組み込まれていったらどうなるか?

自動学習AIは,国民の変動常なき多種多様な意見を網羅的に収集し,関連する他のおびただしい情報をも次々と取り込み,それらを比較・分析・評価し,その時々の最適の政策を導き出してくれるだろう。

このAI提示政策については,AIがなぜその政策を示したのかは分からなくても,国民自身も議員たちもすでに十分な判断能力を失いつつあるので,AI提示政策をそのまま受け入れざるをえないであろう。

いや,それにとどまらず,自動学習AIは,様々な情報提供を通して国民や議員がそれぞれの意見(意思)を形成する過程に働きかけ,彼らの意見(意思)を事実上つくり上げてしまうであろう。

もしこのような事態になれば,議会制民主主義は,形は残っても,事実上,AI統治となってしまう。AI提示政策に「可」印を押すだけの議会。現代における議会制民主主義は,自動学習AIと相性が良いのだ。

*横尾俊成「「AI議員」という思考実験」HUFFPOST, 2018年01月09日

“SoftBank robot Pepper appears before U.K. Parliament, sparking lively debate,” The Japan Times, 2018/10/17

(4)裁判のAI化
議会よりも,もっと自動学習AIと相性が良さそうなのが,裁判である。裁判は,刑事にせよ民事にせよ,まず争われている諸事実を証拠により確定し,過去の類似事件の判例をも考慮しつつ,法の規定を適用し,判決を下す。

この裁判過程は,事実認定の正確さ,比較衡量の妥当性,法適用の厳正さなど,公正を求められれば求められるほど,自動学習AIの作動に近づく。このところ日本よりはるかに先駆的な中国では,すでに「AI裁判官」が裁判に関与し始めているそうだ。

いずれ裁判所は,訴えが出されれば,それを「司法AI」に回し,AIが導き出した結果を裁判官が判決として読み上げるだけとなるだろう。

■Briony Harris, “Could an AI ever replace a judge in court?,” World Government Summit, July 11, 2018

■Thomas McMullanm, “A.I. Judges: The Future of Justice Hangs in the Balance,” Medium, Feb 14, 2019

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/08/21 at 14:03

カテゴリー: 社会, 議会, 司法, 情報 IT, 民主主義

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ゴビンダ医師のハンスト闘争(39)

10 参考資料
 (1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」
 (2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」

(3)D・カイネー「無為無策の5か月」リパブリカ,2018年8月7日

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デイビッド・カイネーは極西部出身,トリブバン大学卒。Revival Ministry Nepal ( RMN )代表。人身売買防止,貧困救済等の社会活動に尽力。「リパブリカ」,「カトマンズ・ポスト」等への寄稿多数。この「無為無策の5か月」では,オリ政府の強権化・利権化を阻止し人民の利益を実現するには,市民社会自身が立ち上がるべきだと訴えている。
*David Kainee, “Five months of inaction,” Republica, August 7, 2018
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KP・シャルマ・オリ政府は,発足後5か月を経過した。その業績は,どう評価されるべきか? 昨年の地方,州,連邦の3選挙において,人民は共産党連合(現在は統合されネパール共産党)に未曽有の大勝利を与え,これによりオリは,近年のネパールにおいて最強の政府を率いることになった。首相は,「ネパール人の幸福,ネパールの繁栄」を約束したのであり,人民は,その約束の実現に向けての確かな前進を期待した。

ところが,オリ政府は次々と問題を引き起こした。政府は権威主義だという批判もあれば,議会で三分の二を握ったため傲慢になっているという声もある。[……]

先月[2018年㋆],政府は,医学教育改革の旗手ゴビンダ・KC医師に対し,この上ない傲慢さと無神経さを示した。政府は,ケダル・バクタ・マテマ委員会勧告無視の国民保健教育法案[医学教育法案]を通そうとした。[これを阻止するための]サティアグラハを行うためKC医師がジュムラに向かうと,ジュムラ郡当局は,連邦政府の要請を受け,抗議行動禁止場所を指定した。そのため,KC医師は,地域病院の暗い部屋で抗議行動を始めざるをえなかった。

オリは,KC医師の品位を汚すようなことを言った。人民の守護者として働くのではなく,自国の高貴な魂と敵対する権力者としての立場を,オリは自ら選び取った。KC医師が意識を失ったときですら,政府はそれを無視した。市民社会やメディアからの圧力が大きくなり始めてようやく,政府は交渉に転じ,結局は彼の諸要求を受け入れることに同意した。このときまでに,以前は愛国的指導者と見られていたオリの評価は,大きく損なわれてしまった。いまや彼は,コネ資本家どもの守護者と見られるようになった。

[オリ政府は公共交通や開発基金など他の諸課題についても,当初は改革を掲げたものの,実際には実行しなかった。……]

ウジャン・シュレスタ殺害事件で]有罪判決を受けたバル・クリシュナ・ドゥンゲルに対する大統領恩赦についても,政府は,多くの人々が指摘してきたように,マオイスト幹部と結託して,これを承認した。司法は政治化されてしまった。首相をはじめ大臣たちは,言葉でも行動においても,傲慢であり不寛容である。2006年人民蜂起において中心的な役割を果たしたわれわれ市民社会は,身内第一の諸政党とは距離を取り,自らを復活させる必要がある。[……]

■RMNフェイスブック

■Jeremy Snell, “David of Nepal,” (Video)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/15 at 18:44

ゴビンダ医師のハンスト闘争(38)

10 参考資料
(1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」

(2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」カトマンズ・ポスト,2018年7月7日

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鋭い風刺に満ちた興味深い論評。グファディはペンネーム。自称「偏屈老人」。カトマンズ・ポストに時評等多数寄稿。著者ブログhttp://guffadi.blogspot.com/
Guffadi, “The crazy authoritarian doctor,” Kathmandu Post, Jul 7, 2018
http://guffadi.blogspot.com/2018/07/the-crazy-authoritarian-doctor.html
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われわれは皆,KC医師にはうんざりしていると思う。われらのこの偉大な国において,保健医療制度や医学教育の質について,KC医師だけがなぜ心配しなければならないのか? 彼を除けば,われわれはすべて,途方もない高額料金の医療で十分満足しているし,またバヤパリ[商売人]どもが医大を開設し,低水準の教育を行い無能な医者を送り出すことにより巨万の富を手にしていても,まったく気にもしない。要するに,医大投資家は,よい医者の育成よりも儲けの方を優先させているのだ!

われわれは,世界最高水準の公立病院をいくつか持っている。そこには高価な医療機器があるが,医者たちはそれを使わず,自分のクリニックを患者に紹介しそこで治療するので,病院の医療機器は無用の長物と化している。われわれはまた,世界最高水準の私立病院もいくつか持っている。そこでは,患者は,必要もない検査のため毎日何千ルピーも請求され,治療費総額は何十万ルピーにもなり,患者家族はその支払いのため土地を売るか,さもなければ完済まで患者を病院に人質として留め置かれることになる。

そう,これこそが,社会主義者[コングレス党]と共産主義者[共産党]が次々と政権を握り,あらゆる分野において一般庶民よりもバヤパリ[商売人]を優遇してきた国なのだ。いったいいつになったら,人民に小便をひっかけるのではなく,本当に人民のことを考えてくれる政府を,われわれはもつことになるのだろう? 腐敗した指導者[ネタ]たちがインドやタイやシンガポール,いやアメリカ[Amrika]にさえ治療を受けに行くのではなく,国内にとどまり公立病院で治療を受ける日は,いつになったら来るのであろうか?

わが国の前大統領[RB・ヤダブ]の前立腺ガン治療には,アメリカから医者を招かねばならない(引用者注)。わが国の政治家たちはまた,われわれ自身の国の医師よりインドの医師の方が優秀とも信じている。わが国の首領[チョラ・ネタ]たちは,この国に世界水準の公立病院を開設するためではなく,外国での治療のため何百万ルピーも費やす。にもかかわらず,われわれ人民は不平も言わず,街頭に出て抗議することもせず,腐敗した首領どもに過ちの責任を取らせもしない。われわれは,われらが小マハラジャたちが武装警官のお供を引き連れ豪華高級車でカトマンズを動き回るのを見て,せいぜい,恨みがましく不平を漏らすだけだ。
 [引用者注:ラム・バラン・ヤダブ氏は前大統領(在職2008年7月~2015年10月)。2013年,健康診断のため来日。2016年8月,前立腺ガン治療のため政府が600万ルピー支給を決定,翌9月にアメリカで手術。]

しかし,お医者様[Dr Saheb]はちがう。金も,権力も,特待特権も求めはしない。この国に良い医者が生まれることを願うのみ。貧しい人々でもよい保健医療が受けられること,それがお医者様の願いだ。彼は,この国にとって最善のものを医療の分野で求めているのだ。が,われらが政治屋たちは,彼が好きではない。というのも,彼らの多くが私立病院に投資しているか,あるいは医科大学を開設しお金をもっと儲けようと考えているからだ。

われらが偉大な共産主義者たちは,お医者様を狂気,権威主義,全身痛のようなものとみている。たしかに,体制に一人で立ち向かう改革者は狂気だ。いま,市民社会の人々は,いったいどこにいるのだろう? いわゆるフェイスブック活動家は,どこにいるのか? われわれが求めるのは,財布からいつも盗み取っている常習スリたちではなく,この国を導いてくれるお医者様,そう,まさにそのような人なのだ。

要するに,わが国では,いわゆる共産主義者のほとんどが大学や病院,いやNGOにすら投資しているということだ。お医者様は,この国の医学マフィアと闘っている。政府には,商売人たちが私立医大でしこたまゼニ儲けするのを許すのではなく,各州に医大を開設することが,なぜできないのか?

この人には,体制と闘うのではなく,何の心配もなく自分の仕事に邁進していただくべきだと思う。そうでしょう,お医者様,ハンストを幾度も繰り返すことにお疲れではないですか? 狂気のお医者様はジュムラに行き,いまはカルナリ健康科学アカデミー[KAHS]の救急室に収容されている。われらが偉大なオリ政府は,この国の医科大学の質は気にしていない。政府の面々は,身近のお気に入りの人々が医者を目指す医学生から大金をとりお金儲けできるようにしたいだけなのだ。

われらが無能政府は,KC医師の死を願っている。そう,これが真実であり,もしKC医師が天国に行けば,われらがミニ・マハラジャたちに対し抗議し,ハンストを行い,闘う者は一人もいなくなる! KC医師も死は恐れていない。カルナリで死ぬ覚悟はできている,と彼は言っているのだ!

お医者様は,要求が入れられるまでジュムラに留まると誓った。この狂気の医者は,この国のために最善の保健医療と医学教育を求めているにすぎない。われわれは,なぜ立ち上がり彼を支持できないのか? この孤独の改革者が医学マフィアとたった一人で闘っているのに,われわれはほとんどそれを気にも留めていない。恥ずかしくないのか!

われらが無能政府は,KC医師を投獄すべきだ。この人物は既成政治体制の疫病神だ。彼は,医学分野のあぶく銭をねらっている商売人や政治家たちにとって,脅威だ。この男は,青年たちの悪しきお手本だ。われらが首相は大きなことを考えている。われわれは,カトマンズで列車にちょいっと乗ればケルン[吉隆鎮]に行けるようになるだろう。コルカタへは,カトマンズから船で行く。われわれは,われらが商売人や首領たちには国内にたくさん医大をつくることを認め,これにより授業料を払える者が医者になり,ここから首領たちも利益をえられるようにしなければならないのだ。

神よ,オリに祝福を。神よ,われらが偉大な同志たちに祝福を。劣悪医大の国となるのを阻止しようとするKC医師を,打倒せよ! この世の最後の日に,お医者様は,その医学分野での業績と,医学分野改革のためハンストを行ったことをもって思い起こされるだろう。オリとその廷臣たちは,何をもって思い起こされるのか? 彼らには,思い起こされるべきものなど何もない。KC医師は明日死ぬかもしれないが,腐敗した体制と力の限り闘ったと考え,幸せに死んでいくだろう。一人でも,体制を揺るがすには十分だ。ましてや,われわれ何百万人もが街頭に出て,それぞれ自らハンストを始めたら,どうなるか。そうなのだ,もしわれわれが協力して腐敗した首領どもと闘うなら,われらの腐敗した体制を破壊することは可能なのだ。政党をつくるまでもない。勇気さえあれば!

■ヤダブ前大統領手術後ワシントンで会見(Republica, 31 Oct 2016)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/14 at 11:01