ネパール評論

ネパール研究会

トランプ「世界ギャグ規則」への危惧,ネパールNGOも

トランプ大統領が1月23日,「世界ギャグ規則(Global Gag Rule)」に署名した。これに対し,世界中の多くの女性支援NGOが事業活動への深刻な悪影響を危惧している。

「ギャグ規則」については,これまでほとんど知らなかった。便利なWIKIによれば,「ギャグ規則」とは,特定の問題や政策につき議論を禁止する規則(緘口令)のことで,この種のものは多くの国にあるという。

米国では,奴隷制支持派が1835~37年,奴隷制の議会審議を禁止する「ギャグ規則」を成立させた。この規則は1844年12月,J.B.アダムズらにより廃止された。

トランプ大統領が署名した「世界ギャグ規則」は,奴隷制ではなく,妊娠中絶に直接的または間接的に関与することを禁止する規則。それによれば,米政府の援助を受けているNGOは,中絶(強姦等の場合を除く)や家族計画を推進する事業をしてはならない。もし関与すれば,たとえその事業が他の資金によるものであれ,そのNGOに対する米政府援助は停止される。

この「世界ギャグ規則」は,レーガン大統領により1984年に制定され,以後,共和党の重要政策の一つとなった。トランプ大統領は,オバマ前大統領により廃止されていたその規則を,就任早々,復活させたわけである。

これに対し,多くの関係団体が直ちに抗議声明を発表した。たとえば,CHANGE(Center for Health and Gender Equity)のS. シッペル会長の声明要旨は,以下の通り(同HP, 1月23日)。

「トランプの世界ギャグは,世界の女性に対する裏切りだ。・・・・この政策は女性の健康と権利に対する真っ向からの攻撃である。・・・・1984年以降,世界社会は,女性の福祉向上の重要性を認め,前進してきた。・・・・40か国以上で中絶関係法が改正され,家族計画が広まり,妊婦や新生児の死亡が減少した。・・・・トランプの世界ギャグは,米国援助の効果を向上させることにはならない。それは,危険な中絶を増やし,女性の生命を奪うことになるだろう。」

ネパールでも,たとえば「ネパール家族計画協会」のAS.シジャパティ会長が,次のように危惧の念を表明している(The Gurdian, 23 Jan)。

「米援助停止により,われわれは,女性の健康と権利を改善するためのネパール政府の事業を・・・・支援できなくなる。また,地域診療所や移動診療サービスの継続も保健衛生師の訓練もできなくなるだろう。看護師,医師,保健衛生師といった医療専門家を失うことにもなるだろう。」

シジャパティ会長のいう通りだとすると,トランプ大統領の署名した「世界ギャグ規則」は,ネパールにおいて,いわゆる「性と生殖に関する健康と権利」だけでなく,広く医療全般に対して,大きなダメージを与えることになるだろう。

ネパールのように国民の基本的な保健衛生を外国援助に大きく依存し続けるのは問題だが,それはそれとして,そうした現実が途上国にはあることもまた,米国のような先進大国は無視すべきではあるまい。

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 ■CHANGE HP/FPAN HP

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/05 @ 22:15

カテゴリー: 国際協力, 人権

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