ネパール評論

ネパール研究会

プラチャンダの愛娘,ごり押し市長当選

ネパール地方選では女性が大躍進,全ポストの40%を占めるに至ったが,その中には,あまり関心しない事例もみられる。その典型が,マオイスト(MC)議長プラチャンダの娘,レヌ・ダハルさんが市長に当選した8月4日のバラトプル市再選挙。

 ■レヌ・ダハル(同FBより)

チトワン郡バラトプル市(28万人)は全29区。ここはプラチャンダ議長の地元だが,もともとコングレス党(NC)の地盤であり,また統一共産党(CPN-UML)も強い。マオイストは人民戦争の悪イメージが残り,はるか引き離された第3勢力。

ここに,当時首相だったプラチャンダ議長が,娘のレヌさんを市長候補として押し込んだ。レヌさんはプラチャンダ議長の第2子で1976年生まれ。マオイスト政治局員であり,第1次制憲議会比例制選出議員だったが,バラトプルでは知名度は低く不人気。
 【市長候補
   MC=レヌ・ダハル
   UML=デビ・ギャワリ
 【副市長候補
   NC=パルバティ・シャハ
   UML=ディビヤ・シャルマ

投票は5月14日。投票終了後,開票作業が行われ,28日深夜には全29区のうち第19,20区の2区を残すのみとなった。この時点で,レヌ候補(MC)はギャワリ候補(UML) に784票負けていた。

この経過を見ていたマオイストは,もはや逆転勝利は不可能と判断,開票所に来ていたマオイスト2人が開票作業中の第19区の投票用紙90枚を奪い破り捨ててしまった。そのため,開票はここでストップ。マオイスト2人は逮捕されたが,1週間後,1人10万ルピーで保釈された。

これに対し,リードしていたUMLは,当然,激怒,開票再開を要求した。ところが,MCとNCは第19区の投票やり直しを主張した。これを受け中央選管は審議した結果,再投票を決定,そして最高裁も7月30日,それを合法と認めた。こうして,バラトプル市第19区は8月4日再投票と決まった。この間,MCやNCが,再投票に向け,与党として様々な影響力を行使したことは想像に難くない。

その一方,レヌ陣営は,再投票を見越し,猛烈な働き掛けを続けた。父のプラチャンダ(MC党首,7月7日まで首相)は,連立相手のNCと手を組んで野党UMLと対抗,市長にはレヌ・ダハル,副市長にはディビヤ・シャルマを当選させるという作戦を一層強化した。また首相や与党党首の地位を利用し,様々な地元支援をも約束したという。

その結果,コングレス支持者の相当数が,再投票ではレヌ候補に投票し,結局,僅少差でレヌさんが勝利を収めた。副市長もコングレス候補が勝利。
 【バラトプル市長選・開票結果】
  ▼市長
   レヌ・ダハル(MC)43,127 当選
   デビ・ギャワィ(UML)42,924
  ▼副市長
   パルバティ・シャハ(NC)47,197 当選
   ディビヤ・シャルマ(UML)39,535

こうして,バラトプル市長選は,政権与党MC=NCの思惑通りとなったが,これはどう見ても選挙の公正に反する。こんなことが前例となれば,開票状況不利な陣営が開票妨害をし,再投票に持ち込むことが許されてしまう。

今回のバラトプル市長選では,伝統的な有力者の身内えこひいき(アフノマンチェआफ्नो मान्छे)が,依然として健在であることを改めて強烈に印象づけられた。イデオロギーや法の取り決めよりも,身内の方がはるかに優先されるということ。

 ■チトワン郡投票用紙(選管HP)

*1 “PM Dahal’s daughter files nomination for Bharatpur mayor,” Kathmandu Post, 2 May 2017
*2 “Re-polling in Ward 19”, Nepali Times, 30 Jul 2017
*3 “Will Renu Dahal be able to turn the tables on Devi Gyawali in Bharatpur?,” Setopati, 4 Aug, 2017
*4 “Renu Dahal wins Bharatpur mayoral race,” Republica, 5 Aug 2017
*5 “Bharatpur re-election: Renu Dahal turns the tables on Devi Gyawali,” Kathmandu Post, 6 Aug 2017
*6 “Renu Dahal elected mayor of Bharatpur metropolis,” Himalayan, 6 Aug 2017
*7 “Renu’s victory fails to impress Maoist leaders,” Kathmandu Post, 7 Aug 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/11 @ 17:19