ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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インドはネパールの真の友人たれ:SD・ムニ(2)

3.左派連合政権の課題
(1)UMLとMCの統一または連合維持
UMLとMCは,人民戦争で敵として戦った過去を持つだけでなく,政策の違いも多い。
・マデシの要求する憲法改正への対応の違い。[UMLは否定的,MCは肯定的]
・平和移行のための「真実和解委員会」ないし「移行期正義」についての考え方の違い。[UMLは肯定的,MCは消極的]
・大統領制の在り方についての考え方の違い。[UMLは現状維持の儀式的大統領制,MCは大統領直接選挙元首化]
・権力分有に関する考え方の違い。[有力ポスト争奪,状況により流動的]

しかし,これらの違いはあっても,UMLは,結局,MCと組まざるを得ない。それが,平和と安定と開発を実現せよという人民の意思に応えることになるのである。

(2)対印中バランス外交
左派連合が,中国主導によるブディガンダキ・ダム事業の再開を表明したように,これまで親中的であったことは事実だし,また中国も左派連合に大いに期待している。

「一帯一路発足以降,中国はオリやプラチャンダの開発計画への支援をてこに,その対ネ経済政策の拡大を図ってきた。中国は左派連合の勝利を期待していたし,また左派連合が一つの党に統一され,中国の対ネ政策や対ネ戦略を強力に支援してくれることも強く期待している。」

しかし,ネパールとしては,対中関係については,慎重であるべきだ。第一に,スリランカ,ミャンマー,モルディブ,パキスタンなどのように,対中長期債務のワナに陥るような事業は避けるべきだ。

第二に,インドの安全保障にかかわるような危険な事業には手を出さないこと。この点については,オリもプラチャンダも有能な経験豊かな指導者だ。「彼らは,印ネ関係特有の構造的制約や超えるべきではない危険ラインについて,十二分にわきまえている。」

オリもプラチャンダも,南と北の隣国とはバランスの取れた協力関係をつくり上げる,と繰り返し公言してきた。ネパールには,それが期待されるところである。

4.インドの対ネ政策の課題
(1)インドの対ネ政策失敗と左派連合の勝利
インドは,一連の不適切な対ネ政策により,ネパール・ナショナリズムに火をつけ,数十年来親印だったオリを離反させ,結局,反印的な左派連合を勝利させた。
・制憲過程への強引な介入。たとえば2015年9月には,制憲作業を中断させるため外務局長を送ったりした。
・2015年にはスシル・コイララ(NC)を支援してオリと対決させ,2016年にはプラチャンダ(MC)をUMLから引き離してNCと組ませ,オリを降板させた。
・マデシの憲法改正要求に応じないオリ政権に圧力をかけるため経済封鎖を強行した。

インドのこのような対ネ介入に対し,ネパールにはすでに,これに対抗できる「中国オプション」が開けていた。「オリは,インドの圧力に勇敢に立ち向かう強力な指導者というイメージを打ち立てることに成功した。今回の選挙結果は,こうした巧妙な彼の政治行動への報奨である。」

(2)不適切な対ネ政策
左派連合が勝利し「中国オプション」を手にしたネパールに対し,インドはこの新しい状況と折り合いをつけ,何とか巧くやっていくしかない。その現実を無視する次のような政策は,避けるべきだ。

i) 左派連合を崩壊させる策謀
インドの首相官邸,外務省あるいは他の官庁には,ネパール左派連合を崩壊させるのは容易だと考え,それを画策しようとする人々がいる。「これは,近視眼的な動きであり,インドの対ネ政策を破綻させるだろう。」左派連合は崩壊するかもしれないが,それはあくまでも内部対立によって自壊するのであって,外部からそこに介入すべきではない。

ii) ヒンドゥー教君主国への復帰画策
インド政権与党BJPの中には,ネパールをヒンドゥー教君主国に復帰させ,これをもって共産主義や中国に対抗させようとする動きがある。が,これは誤り。「彼らは,ネパールの人々が選挙により封建制やヒンドゥートヴァの諸勢力を粉砕した,その結果を直視し,そこから学ぶべきである。」

(3)真の友人たれ
「インドは,これらの破滅的冒険ではなく,左派連合がネパール人民に安定と良き統治をもたらすことができるよう支援すべきだ。インドは,言葉ではなく行動によって,ネパール人民の真の友人であり,ネパール開発への協力を誠実に望んでいることを自ら積極的に実証していくべきである。」

[補足追加(1月8日):SD・ムニ「もしインドが信頼に足る開発協力国と納得させることができなければ,ネパールにおいて中国の評価が高まることは間違いないであろう。」B. Sharma, R. Bhandari & K. Schltzdec, “Communist Parties’ Victory in Nepal May Signal Closer China Ties,” New York Times, 15 Dec 2017]

—–<以上,ムニ記事要旨>——————————-

ムニのこのネパール選挙分析は,ネパール民主政治の安定化という観点から左派連合の勝利を肯定的に評価するものであり,先に紹介したKM・ディクシトの選挙分析と共通する部分が少なくない。ネパールと印中との関係についても,両者の提言は基本的には一致している。ネパールのこれまでの民主化過程や現在の地政学的条件を踏まえるなら,彼らの選挙分析評価は,新政権への期待・激励の含意が多分にあるものの,基本的には妥当とみてよいであろう。

しかしながら,左派連合による民主政治の安定化は,必ずしも容易ではない。理念やイデオロギーよりもむしろ身内やコネ(アフノマンチェ)に起因する際限なき分派抗争はネパール政界の宿痾であり,選挙大勝といえども,それですんなりオリ政権成立となるかどうか? また,オリ内閣が無事成立しても,安定的に政権を維持できるかどうか? ムニが危惧するように,内部対立抗争の激化で自壊するのではないか? ネパール政界のこれまでの動向を見ると,いささか不安である。

対印中関係も難しい。ネパール史の常識からして,どの政権であれ,親印あるいは親中一辺倒ではありえない。ネパールは,長年にわたり印中二大国の間で巧妙にバランスを取りながら,曲がりなりにも独立を維持してきた。その意味で「バランス外交」はネパールの伝統といってよい。

しかしながら,グローバル化の大波はヒマラヤの小内陸国ネパールにも押し寄せ,ネパールを呑み込もうとしている。北からの「一帯一路」の大波と,南からの「一文化一地域」の大波の間で,ネパールはどうバランスを取り大波にさらわれるのを防ぐか? これも難しい。

この意味では,ムニのこの選挙分析評価も,KM・ディクシトのそれと同様,先述のように勝利した左派連合への期待・激励の意味もあるにせよ,やや楽観的に過ぎるといってよいかもしれない。

■『インドとネパール』表紙

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/01/07 at 14:45

選挙直前の政党再編,ネパール政界大混乱

日本同様ネパールでも,選挙を前に政党の再編が進んでいる。ネパールの場合,与野党を問わず,ほぼ全政党が関与しており,日本以上に大幅で劇的だ。ネパール政界は伝統的に三大勢力からなる三極構造だったが,11月26日/12月7日の連邦議会選挙を転機に,二大勢力からなる二極構造に移行するかもしれない。

そもそもの発端は,10月3日の共産党系諸党による「6項目合意」の突然の発表だ。それによれば,UML(議会第2党)とマオイスト(議会第3党)と「新しい力」(バブラム・バタライ党首)の3党が中心となって選挙のための統一戦線をつくり,他の共産党系諸党にも参加を訴えるという。しかも選挙後には3党が合併し,一つの新たな共産党となる。スローガンは「社会主義志向の繁栄」とナショナリズム。

UMLは現在野党だが,マオイストの方は政府与党。それなのに,なぜこの2党が手を結ぶことになったのか? UMLについては,9月の第2州地方選挙で惨敗したことが最大の理由とされている。マオイストについては,与党でありながら,プラチャンダ党首が連立相手のNCにより冷遇されたからだといわれている。これらがどこまで事実かは定かではないが,いずれにせよこの選挙直前の連携が分かりにくいものであることは確かだ。特にマオイストについては,与党でありながら野党と組むことにし,しかも選挙終了までは政権内にとどまりデウバ首相(NC)を支えるというのだ。ややこしい。

 

この共産党系諸党統一への動きに対し,NCの側も10月5日,「民主連合」の結成を発表した。これには右派のRPPやマデシ系諸党が参加する予定。

このNC中心の「民主連合」が成立すれば,議会多数派となり,マオイスト閣僚を罷免し,「民主連合」の議員と入れ替えることもおそらく可能だろうが,デウバ首相はいまのところマオイスト閣僚の辞任は求めない方針のようだ。1月余で選挙だから仕方ないとはいえ,やはりわかりにくい。

  

一方,多くの中小政党にとっては,ネパール政界の二極化への動きは,踏み絵でもある。年末選挙までに,いずれの側に与するか,態度決定を迫られることになろう。

このような二大政党化への動きは,もしこのまま進行するとすれば,どのような意味を持つことになるのか? 一方には,現在の多党乱立よりも政治が安定し発展に寄与するという見方があるが,他方には,二大政党制になっても高位カースト寡占に変わりはなく,実際の政治は大差ないという見方もある。いずれが妥当かは,いまのところ分からない。

国際的には,もう少しはっきりしている。共産党系諸党連合は親中的,NC中心の「民主連合」は親印的。インド諸紙が,早くも,このような見方に立ち,警鐘を鳴らしている。

ネパール連邦議会選挙は,日本以上にドタバタの合従連衡だが,長い目で見ると,この選挙を機にネパール政治の在り方が大きく変わるかもしれない。経過を注視していたい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/09 at 21:42

カテゴリー: マオイスト, 選挙, 政党

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プラチャンダの愛娘,ごり押し市長当選

ネパール地方選では女性が大躍進,全ポストの40%を占めるに至ったが,その中には,あまり関心しない事例もみられる。その典型が,マオイスト(MC)議長プラチャンダの娘,レヌ・ダハルさんが市長に当選した8月4日のバラトプル市再選挙。

 ■レヌ・ダハル(同FBより)

チトワン郡バラトプル市(28万人)は全29区。ここはプラチャンダ議長の地元だが,もともとコングレス党(NC)の地盤であり,また統一共産党(CPN-UML)も強い。マオイストは人民戦争の悪イメージが残り,はるか引き離された第3勢力。

ここに,当時首相だったプラチャンダ議長が,娘のレヌさんを市長候補として押し込んだ。レヌさんはプラチャンダ議長の第2子で1976年生まれ。マオイスト政治局員であり,第1次制憲議会比例制選出議員だったが,バラトプルでは知名度は低く不人気。
 【市長候補
   MC=レヌ・ダハル
   UML=デビ・ギャワリ
 【副市長候補
   NC=パルバティ・シャハ
   UML=ディビヤ・シャルマ

投票は5月14日。投票終了後,開票作業が行われ,28日深夜には全29区のうち第19,20区の2区を残すのみとなった。この時点で,レヌ候補(MC)はギャワリ候補(UML) に784票負けていた。

この経過を見ていたマオイストは,もはや逆転勝利は不可能と判断,開票所に来ていたマオイスト2人が開票作業中の第19区の投票用紙90枚を奪い破り捨ててしまった。そのため,開票はここでストップ。マオイスト2人は逮捕されたが,1週間後,1人10万ルピーで保釈された。

これに対し,リードしていたUMLは,当然,激怒,開票再開を要求した。ところが,MCとNCは第19区の投票やり直しを主張した。これを受け中央選管は審議した結果,再投票を決定,そして最高裁も7月30日,それを合法と認めた。こうして,バラトプル市第19区は8月4日再投票と決まった。この間,MCやNCが,再投票に向け,与党として様々な影響力を行使したことは想像に難くない。

その一方,レヌ陣営は,再投票を見越し,猛烈な働き掛けを続けた。父のプラチャンダ(MC党首,7月7日まで首相)は,連立相手のNCと手を組んで野党UMLと対抗,市長にはレヌ・ダハル,副市長にはディビヤ・シャルマを当選させるという作戦を一層強化した。また首相や与党党首の地位を利用し,様々な地元支援をも約束したという。

その結果,コングレス支持者の相当数が,再投票ではレヌ候補に投票し,結局,僅少差でレヌさんが勝利を収めた。副市長もコングレス候補が勝利。
 【バラトプル市長選・開票結果】
  ▼市長
   レヌ・ダハル(MC)43,127 当選
   デビ・ギャワィ(UML)42,924
  ▼副市長
   パルバティ・シャハ(NC)47,197 当選
   ディビヤ・シャルマ(UML)39,535

こうして,バラトプル市長選は,政権与党MC=NCの思惑通りとなったが,これはどう見ても選挙の公正に反する。こんなことが前例となれば,開票状況不利な陣営が開票妨害をし,再投票に持ち込むことが許されてしまう。

今回のバラトプル市長選では,伝統的な有力者の身内えこひいき(アフノマンチェआफ्नो मान्छे)が,依然として健在であることを改めて強烈に印象づけられた。イデオロギーや法の取り決めよりも,身内の方がはるかに優先されるということ。

 ■チトワン郡投票用紙(選管HP)

*1 “PM Dahal’s daughter files nomination for Bharatpur mayor,” Kathmandu Post, 2 May 2017
*2 “Re-polling in Ward 19”, Nepali Times, 30 Jul 2017
*3 “Will Renu Dahal be able to turn the tables on Devi Gyawali in Bharatpur?,” Setopati, 4 Aug, 2017
*4 “Renu Dahal wins Bharatpur mayoral race,” Republica, 5 Aug 2017
*5 “Bharatpur re-election: Renu Dahal turns the tables on Devi Gyawali,” Kathmandu Post, 6 Aug 2017
*6 “Renu Dahal elected mayor of Bharatpur metropolis,” Himalayan, 6 Aug 2017
*7 “Renu’s victory fails to impress Maoist leaders,” Kathmandu Post, 7 Aug 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/11 at 17:19

オリ首相の強権化,米が警告

アメリカ国務省のブリンケン副長官が1月22日夕方(ネパール時間),オリ首相に電話し,間接的な表現がら,統治強権化への危惧の念を伝えた。

 160123a

ブリンケン副長官は,具体的な事件を直接名指ししていないが,22日夕方の電話だから,当然,その日のモランでの警官隊銃撃事件を念頭に置いていることは明白だ。(参照:マデシとUMLが衝突,3人死亡

米国務省HP(1月22日)記載の電話会談要旨によれば,ブリンケン国務副長官はオリ首相に対し――
 (1)「ネパール人すべての利益を考えること」
 (2)「一方的な手段をとらないこと」
を要請した。

たしかに,いくらなんでも自分の党(UML)の集会を守るため,反対派マデシのデモ隊に向け警官に実弾を発射させ,3人を殺し,十数人に負傷を負わせるのは,過剰防衛だ。アメリカが警告するのはもっともである。

これは深刻な大事件だが,いまのところネパール・メディアはあまり大きくは報道していない。サッカーチーム帰国報道の方がはるかに大きい。メディアも,変になりかけているのではないか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/23 at 19:41

カテゴリー: 民族, 民主主義

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大統領にも国会議長にも,女性議員選出

世界最新憲法国ネパールが,大統領と連邦議会(立法議会)議長に、いずれも女性議員を選出した。快挙!

1.OG・マガル議長
ネパール立法議会は10月16日,無投票で統一共産党マオイスト(UCPN-M)議員のオンサリ・ガルティ・マガル議員を議長に選出した。ネパール初の女性議長。

マガル議長は,1977年ロルパ生まれ。人民戦争に初期から参加。和平後,ロルパ選出議員。UCPN政治局員。青年スポーツ大臣。前副議長。夫は,UCPNのバルシャマン・プン書記。

議長選挙は,ネパール会議派(NC)が対立候補を出さず,UCPNとRPP-N推薦のマガル氏が無投票で選出された。16日の時点では,まだNC・UML(ネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派)・UCPN三党協調体制の継続が模索されていたからであろう。なお,副議長には,国民民主党(RPP-N)のガンガ・プラサド・ヤダブ議員を選出。

  151029■OG・マガル議長(同氏FB)

2.BD・バンダリ大統領
10月28日の大統領選挙では,UMLのビディヤデビ・バンダリ議員が,第二代大統領に選出された。議長選挙のわずか12日後のことだが,9月20日にマデシやインドの反対を押し切り新憲法が公布されたこともあり,諸政党の関係が流動化してしまっていた[公布日誤記訂正]。NCは下野を再確認し,党幹部のクル・バハドゥル・グルンを対立候補として擁立した。結果は次の通り。

 BD・バンダリ(UML) 327
   UML,UCPN,RPP-N,MJF-D,CPN-MLほか
 KB・グルン(NC) 214
   NCほか
 *議員総数597, 投票総数549,無効8,欠席48(マデシ系ほか)

BD・バンダリ大統領は,1961年ボジプル生まれ。学生運動を経て,GEFONT女性局長など歴任。UMLカトマンズ選出議員。防衛大臣。UML副議長。女性権利実現に努力。夫は,ネパール共産党運動の指導者の一人マダン・バンダリ(1993年没)。党内では,オリ首相(UML議長)に近い。

  151029a■BD・バンダリ大統領(UML HP)

3.UML=UCPN=RPP-N体制
これで,大統領=UML,首相=UML,議長=UCPNとなり,新政府は名実ともにこれら二大政党主導となった。これら2党に比べ,RPP-Nは一歩下がるが,それでも副首相兼外務大臣と副議長,大臣(1)を出しているので,新政府内においてキャスティングボートを握りうる位置にある。

これに対し,マデシのMJF-Dは,副首相と国務大臣(2)を出しているものの,この布陣では,あまり大きな発言権はもてそうにない。中国からの石油輸入にどう対処するか,さっそくその立ち位置が試されることになった。

いまタライ地方では,中国の対ネ石油輸出がマデシ運動への敵対行為とみなされ,反中国感情が高まっている。反中国デモが始まり、中国国旗が焼かれたという報道もある。

この新たな局面に,新政府はどう対処するのか? 真っ先に「踏み絵」を踏まされそうなのはMJF-Dだが,他の3与党とて難しい選択を迫られることに変わりはあるまい。

ネパールにおける中印の代理戦争といった最悪の事態だけは,何としても回避していただきたいものだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/29 at 23:09

カテゴリー: マオイスト, 議会

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憲法骨格案も課題一覧も作成できず,CPDCC

「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC)」(バブラム・バタライ議長=UCPN)は,憲法骨格案を10月16日までに,それができない場合は,投票用課題一覧を17日までに,制憲議会に提出することになっていたが,なんと驚くなかれ,バブラムCPDCC議長は,そのいずれもしなかった,いやできなかった。ネパールでは,紛糾すればするほど,合意形成機関の名前が長~くなり,合意形成期間も長~くなる。(参照:憲法基本合意,また延期

141021 ■バブラム・バラライTwitter

バブラムCPDCC議長は,議会への答申の代わりに,最後の「最後の話し合い」を求め,その結果,今日10月21日と明日22日に,それが行われることになった。コイララ首相と主要3党代表の出席が要請されている。

一方,制憲議会「憲法起草委員会」のクリシュナ・シタウラ議長(NC)は,憲法起草には最低1か月はかかるので,憲法骨格案の答申が11月1日までになければ,1月22日の憲法制定・公布には間に合わない,と警告している。

10月21~22日の最後の「最後の話し合い」がどうなるか予断を許さないが,現在のところ,CPDCC答申が11月1日までまたまた延期される可能性が高い。

それでも答申がない場合はどうするか? NCとUMLは,連邦制,政府形態,司法,選挙制度など,意見の分かれる部分については議会での投票採決を主張している。議会多数を制しているから,当然といえよう。

これに対し,マオイスト(UCPN-M)を中心とする22党連合は,「12項目合意(2005)」などを引き合いに出し猛反対,投票に持ち込めば,街頭に出て実力阻止を図る構えだ。

この点については,すでに指摘したように,合意形成も投票採決も実際には困難な状況だ。(参照:憲法基本合意,また延期

そこで再び注目され始めたのが,10月8日復活した立憲政府の上の政治的「政府」たる「高次政治委員会(HLPC)」(プラチャンダ議長=UCPN)。議会内の正規手続きでは決着をみなければ,結局,議会外の主要諸勢力の手打ちで政治的打開を図る。豪傑プラチャンダならやれそうな気もするが,たとえ成功しても,それは一時的で,民族アイデンティティ政治をいつまでも封じ込めるのは無理だろう。

結局,憲法制定・公布をまたまた延期し現状維持を策すのが,最も現実的な解決策ということになりかねない。厄介なことだ。

* Cf. Kathmandu Post & Nepalnews.com,19 Oct; Ekantipur & Republica,20 Oct.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/10/21 at 11:34

NC=UML連立協議,はや紛糾

コングレス党(NC)と統一共産党(CPN-UML)は,連立を組み,1年以内の新憲法制定を目指すはずだったのに,スシル・コイララNC議長を首相に選出したとたん,内務大臣ポストをめぐって紛糾,いつものことながら,これでは先が思いやられる。

1.内務大臣ポスト「紳士協定」
NC=UML連立については,先述のように「7項目合意」がある。その中の第7項において,両党は制憲議会議長をUMLとすることに合意しているが,内務大臣や他のポストへの言及は,そこにはない。

ところが,UMLは,首相選協力への見返りとして内相はUMLとする「紳士協定」があったとして内相ポストを要求,もしこれが受け入れられなければ,連立協議には応じないと強硬に主張している。

これに対し,NCは,そのような「約束」はないとして,UMLの内相ポスト要求を頭から拒否している。さらに,単に約束がなかったからだけでなく,そもそも議院内閣制では内務大臣職は決定的に重要であり,もし内相が他党だと,首相は指導力を失い「レイム・ダック」に陥ってしまうとも述べ,UMLの内相ポスト要求を批判している(Himalayan, 14 Feb)。

2.「紳士協定」の有無
この内相ポスト「紳士協定」については,文書が出てくれば決着がつくが,そうでなければ,要するに「密約」であり,その有無は水掛け論とならざるをえない。

ただ,状況を考え合わせると,そのような「紳士協定」ないし「密約」があった可能性は否定できない。NCは選挙で大勝したが,単独過半数ではなく,UMLかマオイスト(UCPN-M)の協力を得ざるをえないからだ。

首相選に当たって,NCは,当然ながら,UMLとマオイストを天秤にかけ,できるだけ有利になるよう連立協議を進めた。ただ,マオイストとはイデオロギー的に隔たりが大きすぎ,結局,UMLと組むことにしたのだろう。

その連立協議の中で,大統領については明確な合意ができ,「7項目合意」において大統領はUMLとする,と明記することができた。ところが,内相については,そのような合意にはいたらず,しかしUMLの支持は首相選に不可欠だったので,おそらく何らかの形で“内相はUML”をにおわせ,これによりコイララ候補への投票の約束をとりつけたのであろう。

しかし,もしそうだとすると,これは切羽詰まったときの「玉虫色」合意にすぎず,しょせん弥縫策,すぐ暗礁に乗り上げてしまう。

3.内相の魅力
ネパールにおいて内務大臣がこれほど重視されるのは,その権限が強大だからである。警察(6万6千),武装警察(3万6千),治安部門,入管,刑務所など多くの機関を指揮し,その管轄権は地方の隅々にまで及ぶ。当然,巨額の予算も握る。

特に今回は,コイララ首相が公約しているように,地方選挙が半年以内に実施される可能性が高い。NCは,UMLの内相の下での地方選を忌避しているのだ。

「リパブリカ」によれば,NCは,バンデブ・ゴータムUML副議長が内相になることを強く警戒している。ゴータムは,内相として1997年地方選を実施し,UMLを大勝させた。NC,特に地方活動家は,その再現を恐れ,UML内相に強硬に反対しているという(Republica, 14 Feb)。

4.コイララ政権の前途
コイララ政権の前途は,NC大勝とはいえ,楽観はできない。ポスト争いは内相に限らない。他の大臣,あるいは大使なども,激しい争奪戦の的となる。

もし何とかポスト配分ができ,NCがUMLと組むことになっても,その場合は,おそらくマオイストが主流プラチャンダ派と急進バイダ派との再統一に向かい,議会内外での対立が激化するであろう。一方,もしUMLとの連立協議が決裂すれば,NCはマオイストと組まざるをえないことになる。

さらに,もし三大政党が三すくみとなれば,王党派のRPPが漁夫の利をえ,勢力を拡大することになるだろう。

コイララ首相は,公約通り,1年以内に新憲法を制定できるだろうか? 前回の観念先走りに懲りて,今回は制憲議会任期が2倍の4年となった。まだ先,4年もある。いよいよとなったら,また考えよう,ということにもなりかねない。

140214 ■UML指導体制(UML-HP)
カナール議長(अध्यक्ष),MK・ネパール長老指導者(बरिष्ट नेता),オーリ指導者( नेता),ゴータム副議長(उपाध्यक्ष),バンダリ副議長((उपाध्यक्ष),ポカレル書記長(महासचिव)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/14 at 19:50