ネパール評論

ネパール研究会

中国首相の訪ネと自由チベット弾圧

さすが中国,外交がうまい。たった5時間足らずの立ち寄り訪ネで,1つの中国確認,自由チベット弾圧,経済権益拡大を一挙に実現してしまう。

1.サプライズ訪ネ
温家宝首相の訪ネは,昨年12月20日に予定されていたが,ネパール側要人らが「オレがオレが」と訪ネ実現の手柄を吹聴し,情報じゃじゃ漏れだったため,怒った中国が突然キャンセルし,ネパール側を震え上がらせた。

これに対し,今日の訪ネは完全なサプライズ。午前11時着(1時間遅延で間もなく到着予定),バブラム首相,ヤダブ大統領,そしてもちろんプラチャンダ議長とも会ってやり,午後5時には,本来の訪問先,湾岸諸国に向かって飛び去る。

イラン危機の最中,湾岸諸国訪問がいかに重要かはいうまでもない。そこに行くついでに,ちょっとカトマンズに立ち寄り,ネパールに中国の偉大を見せつけてやるわけだ。

神にせよ仏にせよ,偉大なものは隠されてある。温家宝首相の訪ネも,今回は完全なマル秘。政府高官も,政党やメディアも,何も知らされていなかった。

政府御用紙ライジングネパールによれば,9日の時点でも,NK.シュレスタ副首相兼外相は,議会委員会で中国首相の訪ネ実現に努力する,と答えている。隠していたのではなく,本当に知らなかったのだろう。

2.自由チベット弾圧
一方,偉大な中国首相の来訪を仰ぐネパールは,最大限の貢ぎ物を差し出す。

第一に,自由チベットの弾圧。1月13日,インドからネパールに戻ったチベット人207人(女性81人)が警察に拘束された。詳細は不明だが,いずれにせよ,これが温首相歓迎のための貢ぎ物であることは明らかである。また,自由チベット弾圧と同時に,ネパール政府が「1つの中国」を繰り返し唱え,中国政府に忠誠を誓っていることはいうまでもない。

暫定憲法に民族自治,包摂参加を高らかに書き込んでいることなど,全く意に介さない。憲法も人権もそっちのけ,自由チベットを弾圧し,「1つの中国」の呪文を唱えなければ,偉大な中国首相にはおいでいただけないのだ。

 拘束されたチベット人(Republica2012-1-14)

3.経済権益の提供
またネパールは,温首相の訪ネを歓迎し,中国の要求する経済権益も,大幅に容認するだろう。
  ・ポカラ空港を国際空港に拡張・・・・1.5億ドル(事業総額,以下同様)
  ・リング道路改良・・・・5千5百万ドル
  ・大規模ダム・水力発電所(3カ所)・・・・37億ドル
  ・パンチカール経済特区設置
  ・ルンビニ開発

どこまで信用できるか分からないが,事業総額80億ドル以上ともいわれている。目もくらむ大金だ。いまや,インフラ整備も教育文化支援も,中国にシフトしつつある。巧みな外交と,有り余る資金の中国。

ネパールは,国際会議においてイザとなれば必ず中国(またはインド)に1票を入れる。決して日本には入れない。これまでもそうだったし,これからはこれまで以上に日本は軽視され無視される。ネパールの友人は中国(またはインド)であって日本ではない。もはや,日本に出番はない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/14 @ 16:05

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

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